アットウィキロゴ
kairakunoza @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

kairakunoza @ ウィキ

いま、輝くとき(前編)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
“あ、あの二人ほら、チアでセンターだった人達じゃない?”
“きゃ~、青い髪の子、やっぱりちっちゃくてかわいー。お人形さんみたい”
“ばっか、あれ三年の泉先輩だぜ。あれで滅茶苦茶脚早いんだよ”
“あの二人仲良さそうだね、なんかいいな~”
“ああ、あいつらなんかいつも一緒にいるんだよな”

「う……なんかわたしたち、滅茶苦茶注目されてない?」
 こなたはかがみと一緒に歩きながら、どことなく居心地の悪さを感じていた。
 オープニングで踊った『もってけ! セーラー服』は大好評で、本人たちも驚くことに体育館を揺るがすほどの大喝采で迎えられた。
 こなたは舞台の上で弾む心臓を押さえながらも、嬉しくて高鳴る胸を抑えることはできなかった。
 最初はゆーちゃんの付き合いで始めたようなものだったけど、やってよかったな。こなたはそう思った。

 ――でもまさか、それがこんな事態を引き起こすなんてね。

“あたしあの紫の髪の人、好きかも……。お姉様って感じする~”
“あー、そりゃ諦めた方がいいよ、あの二人できてるって噂だぜ”
“え~、ショック~。私も狙ってたのにー”

「って、んなわけないでしょ! 聞こえてるんだからね!」
 かがみがうわさ話をした男子生徒にがなり立てる。顔は真っ赤で、いまにも口から火を吹きだしそうな有様だった。男子生徒は尻に帆をかけて慌てて逃げていく。
 そんなかがみをみて、こなたはニマニマと笑いながらいった。
「あ~、かがみんや~。この世界でやってくなら、ファンは大事にしないとダメだよ?」
「だれがファンか! ってか私は売り出し中のアイドル声優かなんかかよ!」
 頬を染めたまま、かがみは怒鳴った勢いでこなたに詰め寄る。
「ど、どうどう、かがみん。まずは落ち着け」
「私は馬か!」
「……あー、まあ、どっちかっていうとじゃじゃ馬かもね。さながらわたしがやってるのがじゃじゃ馬ならしって感じ?」
「シェイクスピアかよ!」
「い、いや、昔のドラマの方のつもりだったんだけどー。ほら、93年にやってた観月ありさ主演のやつ」
「そっちのが知らないってば。あんたほんといくつだよ!」
「……むう。っていうか、なんか今のかがみってさ、とりあえず突っ込めればなんでもいいって感じだよね。……よし、これからこれを男子中学生モードと名付けよう!」
 人差し指をびしっと立てて宣言するこなた。かがみは一瞬きょとんとしたあと、言葉の意味に気づいたのか、湯気がでそうなほど顔を赤くした。
「な……きゅ、急に生々しい話するな……。……っていうか……男の子ってやっぱりそうなの……?」
「こんな下ネタで顔真っ赤にするウブなかがみん萌えー」
 と、会話が途切れたところでこなたは周囲の状況に気づいた。
 そこかしこからくすくすと笑う声が聞こえてくる。

“ぷっ、あははっ。なんか夫婦漫才みたいー”
“息ぴったりだろ、クラスでもいつもああなんだぜ。柊は別クラスなのにな”
 そういった男子生徒は文化祭の実行委員長だった。確か同じクラスだったはずだが、こなたは彼の名前を思い出すことができなかった。
 改めて周囲を見渡すと、先ほどに倍する人だかりができていた。そのみんなが二人の方をみて笑っている。中には文化祭の演し物と勘違いしたのか、拍手を始める生徒までいた。
 さすがにこなたも恥ずかしくなって、「ど、ど~も~」などといながら手を振ると、かがみと一緒に脱兎のごとくその場を逃げだしたのだった。

   ☆   ☆   ☆

「あなたは五分三十三秒後に黒猫に襲われ、九分十九秒にカラスにつつかれる。十六分五十六秒後に右の靴紐が切れ、二十一分三十四秒後に左の靴紐が切れる。……だいじょうぶ。今日のあなたの運勢は最高」
「……全然そんな風に思えないんですが……」
 こなたは適当に思いついたことをまくしたてていく。
“かがみは『そんな適当でいいのかよ』なんていってたけど、そもそも占いなんてそんなもんだよね。占星術だろうが四柱推命だろうが、ただ古くて歴史あるだけで全部根拠ない思いつきじゃん”こなたはそんな風に思う。
 そんな適当な占いでも、占いの館は盛況だった。
 チアの影響もあったのだろうか、引きも切らず押し寄せる占い客たちを、こなたはてきぱきと裁いていった。中には“悪い魔法使い長門”のコスプレをしたこなたの写真を撮ろうとするものもいたが、そういうときはバイトで学んだ接客口調で、やんわりと角が立たないように断るのだった。

 一息ついたところで、こなたは辺りを見回してみる。
 近くの席では、みゆきがなにやら女性客と真剣な顔をして話し込んでいた。
“あれ、なんかみゆきさんずっとあの人と話してないっけ”
 そう思って時計をみると、かれこれ三十分以上はその客と話し込んでいるようだった。
“あれじゃ、占いっていうより人生相談だよ。でもすっごいみゆきさんらしいよそれ! 相手の真剣な悩みを、オカルトで無責任かつ適当に受け流せなかったんだね。うんうん。ほんとみゆきさんは優しいねー。萌えだねー”

 こなたが頭のなかで感涙にむせんでいると、入口からつかさがやってきた。
「やっほー、こなちゃん。どう? お客さんきてるかな?」
「盛況。七十九人がこのクラスを覗き、四十五人が占いを求めた。そのうち二十二人を私が占った。私は疲労から情報処理能力が落ちている。柊つかさに該当当番の交替を申請する」
 こなたは無表情でつかさをじっとみつめ、低い声でぼそぼそと返事をした。
「あははー、こなちゃん、長門から戻ってきてないよ?」
 つかさが笑いながらこなたのほっぺたをつつく。
「あれ? あれー?」
 こなたは無表情で首をかしげたまま、頭をぽかぽかと叩く。
「んー、こなちゃんスイッチ、どこだろう? あ、これじゃない?」
 つかさがこなたの被っていた魔法使い帽子を脱がすと、寝ていたアホ毛がピコンと立った。と、こなたの目尻が見る間に垂れ下がっていった。
「ほえ~。ちかれた~」
「わーい、こなちゃんだー」

「じゃ、つかさに任せちゃっていい?」
「うん、任せてよこなちゃん。適当に口からでまかせいえばいいんだよね!」
「うん……そうだけど、あんまり大きな声でいわないでね……。お客さんに聞こえてるし……」
「ほえ? なんで?」
 つかさは目を点にさせている。こなたにはつかさの頭に浮かぶ大きな疑問符がみえるようだった。
“わかってない! 何いわれてるかわかってないんだつかさー!”
「ま、いっか」
 つかさの目が元に戻った。どうやら処理できなかった概念を丸ごとゴミ箱に放り込んだらしい。
 こういうところがつかさは可愛いんだよねー。と、こなたは思う。
“わかんないことを気に病まないっていうか。わかんない自分をそのまま受け入れられて、ゆがまないんだよね、つかさって”
 だからこなたはつかさと一緒にいると気が休まるのだった。自分の駄目なところ、気にしている部分も、つかさといるとまるでどうでもいいことに思えてしまう。そんな不思議なチカラがつかさにはあるのだった。
 お互いに手を振って、つかさとわかれる。

 クラスからでるときに振り返ってみると、みゆきと例の女性客が滂沱の涙を流しながら抱き合っていた。どうやらなんらかの境地に達したらしい。
“みゆきさん――グッジョッ!”

   ☆   ☆   ☆

 またさっきみたいなことになったら面倒くさいからと、長門の格好のまま他のクラスをひやかしていった。これだけでも、ぱっとみたときに特徴的な髪は隠れてみえるだろう。
 小麦粉ばかりで具が少ないお好み焼きを食べ、カラオケ喫茶でゴッドマーズを歌ってはどん引きされ、クラブを冷やかしたら『もってけ!』を踊らされそうになって逃げだした。ミニゲーム大会では少し本気をだして、中古のゲームボーイアドバンスとSFC版海腹川背のカセットをせしめたりもした。
“んー、このチープさ、まさに高校の文化祭って感じだよねー”

 ──でもやっぱり……一人じゃつまんないな……。

 こなたは文化祭の雰囲気を充分楽しみながらも、どこか物足りない気持ちを感じていた。
“みゆきさんはわたしとずれて入ったからまだ休めないし、つかさは始めたばっかだし……かがみの休憩はまだかなー?”
 朝方こなたがからかいにいったとき、かがみはお昼から休憩だといっていた。

 ──ちょっと早いけど…いってみようかな。

   ☆   ☆   ☆

「おー、ちびっこー、またきたかー」
 そこには、丑の刻参りの扮装をしてさわやかな笑みを浮かべながら、人形にがしがしと元気よく釘を打ち込むみさおの姿があった。
 健康的に灼けた小麦色の肌と、筋力に裏打ちされたしなやかな体の動きにはみるものを惹きつける魅力があって、こなたは何かのスポーツかダンスを見物している気持ちになった。
 端的にいってまったく恐くない。
“ここにもいたよ、なんか色々勘違いしてるひとー!”

 そんなみさおに、こなたは尋ねる。
「って、あれー? なんでみさきち? かがみはもう終わったの?」
「へーへー、どうせ柊目当てだと思ってたぜ。でも、あいつならどっかいったぞー? なんか早めに代わってくれってさ。……てっきりちびっこのとこだと思ってたけどな?」
「え……そなんだ……」
“かがみどこいったんだろう……わたしと文化祭みて回るつもりじゃなかったのかな?”
 考えてみたら、かがみにどうしたいかを尋ねてはいなかった。いつも一緒にいるのが当たり前だったから、ついそれにあぐらをかいていたのかもしれない。
 こなたはそう思って、普段自分がどれだけかがみに甘えていたかに気づくのだった。

「ねー、峰岸さんはかがみどこいったか、しんない?」
 近くの井戸を覗き込んで、こなたは尋ねる。そこには襦袢をはだけさせたあやのが、お皿をもって隠れていた。首筋にまとわりついたほつれ髪が妖艶で、こなたは少しどきっとした。
 あやのをみていると、こなたは“自分もいつかはこういうふうにならないといけないのかな”と思うのだった。男っ気のない周囲の友だちのなかで、あやのだけは唯一彼氏持ちで、正面から性に向きあっている。
 可愛い女の子として振る舞うことを早くから放棄してきたこなたにとって、それは凄く勇気がいることに思えるのだ。

 あやのは、そんなこなたの思いも知らずに“もー、せっかく隠れて待ってたのに、台無しじゃない”などと呟いている。乱していた服装を整えて、こなたに答えた。
「柊ちゃんなら、なんか屋上に向かっていったわよ。……あ、でも…」
「でも?」
「……うん、ごめんなさい、いわないほうがよかった。……えっと、今は邪魔しない方がいいと思うな……特に泉さんは」
「……え? どして?」
 こなたがきょとんとした顔で尋ねと、あやのは答えにくそうにこういった。

「ん……なんか男の子からの呼びだしだったから……ね」

   ☆   ☆   ☆

「はあ……」
 こなたは何度目かのため息をつく。
 あのときあやのがいったことはショックだった。一瞬目の前が真っ暗になったのを覚えている。
 けれどこなたはそんな心情を悟られないように、ニンマリと笑っておどけてみせた。
“んふー、かがみんにもついにオトコができたか! ナイスたれこみだよ、あやのん!”と、心にもないセリフもすらすらということができた。
 気取られない自信はあった。内面を隠して演技をするのは得意だったから。
 今までずっと、そうやって過ごしてきたのだ――陵桜に入って、かがみたちと会うまでは。
 案の定、あやのは“あれ?”とでもいうように小首をかしげていた。むしろみさおのほうが目を白黒させていたくらいだった。

「はあ……」
 またため息。
 さっきまでは活気にみちて楽しげに思えた文化祭の雰囲気も、今となっては色あせて感じられた。
 ――なんでわたし、素直に喜んであげられないんだろう。
 こなたは思う。
“友達にカレシができるかもしれないなんて、いいことじゃん。あんなに食べたいものも我慢してダイエット続けて、ファッション誌もちゃんとチェックしてて。かがみはわたしなんかとちがって、自分をよく見せるためにずっと頑張ってきたんじゃん”

 ――なのに、なんで……。
 わかってる。そんな風に頑張ってきたかがみだから、いざオトコができたときにわたしたちから離れていくんじゃないかって、怖いんだ……。

「あーもう、やめたー!」

 中庭で突然叫びだした魔法使いに驚いて、近くを歩いていた人があわてて飛び上がる。
“どうせ結論なんかでっこないさ! こんな考え、つかさみたいにまとめてポイだー!”
 こなたは頭のなかをctrl+aで全選択し、ジャンクファイルをゴミ箱に捨てた。
“よし、今のわたしは悠長戦隊ダラレンジャー! ぅおのれビジョフラディーヌめ!”
 気合いを入れ直すように、こなたは自分の両頬を勢いよく叩く。
「お…おおぉぉおぉ……」
 強すぎた。
 おもわず顔を押さえてうずくまる。

 そのとき、誰かがこなたに声をかけた。
「あ、いたいた! やっとみつけたっスよ先輩!……って、なにやってるっスか? みくるビームのカラコンでも落ちてましたか?」
「おお、ひよりん、その格好は!」
 現れたひよりはヴィクトリア調風の装いだった。フリルまみれのコットン製ワークドレスは純白で、胸元と袖口にはふんだんにレースをあつらえている。白いパラソルとレースグローブもそろえていて、さながら植物採集に出かける貴婦人のようだった。。
「い、いかほど~……。んー、すっごい可愛いけど、なんかヅカっていうより微妙に甘ロリ?」
 こなたは顎に手をあてて、批評家モードで論評する。
「うっ、さすが先輩……。これ、ロリィタな友達から借りてきたんっスよね」
“いやー、一回着てみたかったんっスよー”
 ひよりはそういってクルクルと回りだす。パニエで膨らんだスカートがふわりと円を描いた。こなたの方をむいて止まると、肩にパラソルをかけ、小首を傾げて微笑んだ。
「おお~! 可愛いよひよりん! コスプレもいけるじゃん!」
「いや~…私程度じゃとてもとても……。やっぱコスプレはみる方専門っスね~」
 ひよりはそういったが、頬をかきながらはにかむその様子は満更でもなさそうだった。

 しばらく二人で夏コミの萌えたレイヤーの話をしたあと、こなたは思いだしたように尋ねる。
「ってか、わたしのこと探してたみたいだったよね? なんか用事あったの? それとも、コスプレみせにきてくれたのかな~」
「あ、そうだった。すっかり忘れてたっス!」
 ひよりはコツンと自分の頭を叩いて、こういった。

「実は、先輩たちにヅカコンテストにでて欲しいんっス!」

   ☆   ☆   ☆

 中庭のステージで演奏が始まった。アンプは音割れしていて、エフェクトもかかりすぎ、手元をみながら弾くヘタクソなギターに乗せて、音程のとれていない歌が流れる。

♪熱がでたりすると 気づくんだ 僕には体があるって事
♪鼻がつまったりすると わかるんだ 今まで呼吸をしていたこと

「え、えーー! なんでわたしたちがひよりんのクラスの展示に参加しないといけないのさ!」
「い、いや、うちの展示っていうかですね、そこのステージ借りてコンテストやることになったんス。それで先輩たちにもでていただけないかなって。実はもう衣装も選んであるっスよ~。カップリングはかが×こなとつか×みゆとみさ×あやでいいっスよね?」
「えぇー、やんないよー。ただでさえチアで目立ったのに、これ以上目立ちたくないよ。つかその記号やめれってー」
 こなたは慌ててまくしたてる。
「そこっスよ! チアの記憶も新しい今、ここで追い討ちかけとけば、もうこの文化祭は先輩たちのものっスよ! 今輝くときっス! チアとヅカと百合と腐りきった姫君っス! そして伝説へっス!」
「なってたまるかー! わたしはのんびり目立たないように暮らしたいんだよ。アニメみたりゲームやったりして、そう、植物のように平穏にさー」

♪君の存在だって 何度も確かめはするけど
♪本当の大事さは 居なくなってから知るんだ

「だいたいさ、そっちにはもう理想的なヅカップルがいるじゃん。みな×ゆたでいいんじゃないの?」
「いやー、ゆた×みなもいいっスけど、ちょっと余りにも凄すぎて逆に引くと思うんスよー。他とクオリティに差がありすぎてコンテストがなりたたないんっス」
「むう、さすが同人作家はそういうの敏感よのー。ってかゆた×みな?」
「人気のエロパロばっかやってる大手と違って、うちみたいな微妙な中堅は生き残りに必死なんスよ。好きなこと描くのは当然として、それがどんだけ捌けるか読めてないと在庫の山抱えて破産っス! あ、それが意外と積極的に声かけてくのはゆーちゃんなんっスよね」
「ほう、あのゆーちゃんが実は攻めか……。成長したモノよ。お姉さんは嬉しいぞ、うむうむ」

♪君の存在だって もうずっと抱きしめてきたけど
♪本当に恐いから 離れられないだけなんだ ラララ……

「…それで、だ、ダメっすかね……?」
 ひよりが人差し指同士をくっつけながら、上目遣いで尋ねる。
「……うむむ~、仕方ないなぁ。でも、他のみんなもやってくれるかな?」
「おおおー、やったー! さすが先輩っス! これで我が軍は十年は戦えるっ!」
 そういってひよりは、くるくる回りながらパラソルを放り投げた。
「これでこな×かがは確定っスね! それだけでも万々歳っス! あとの方々にも自分が責任持って声かけるっスよ!」

「……あ。かがみは……ダメかも……」

「え?」
 その口調にただならないモノを感じて、ひよりはパラソルを捕るのも忘れてふりむいた。誰にも受け取られなかったパラソルはそのまま地面にぶつかり、ころころと転がっていった。
“なんか、今のわたしの気持ちみたいだね”そんな風にこなたは思う。
「……なんか喧嘩でもしたっスか?」
「んー。そういうわけじゃないんだけどね……」

♪歳を数えてみると 気づくんだ 些細でも歴史を持っていたこと
♪それとほぼ同時に解るんだ それにも終わりがくるってこと

 ──そう、もうすぐ終わりがくるんだね。こんな日常にも。
 高校生活の三年間、少し思いだしてみるだけでもそのほとんどにかがみが顔をだしていて、自分でも思わず笑ってしまうくらいだった。

 そんな日々ももう終わる。
 卒業まであと四ヶ月。
 その日を迎えてしまえば、変化の大小はどうあれ今の関係は確実に終わりを告げるだろう。

 ──その前に終わっちゃうのかもしれないけどね。

 そう思ってこなたは苦笑する。
“なんだわたし、全然切り替えられてないな。もう頭ごとフォーマットしないとダメなのかな”

「あの……先輩?」
 ひよりが心配そうな顔で、うつむいたこなたを覗き込んで尋ねる。
「あ……ごめんごめん、ちょっと考え事してたよ」
 そういってこなたは無理矢理笑った。
 ひよりはそんなこなたをみて、しばらく逡巡するように目を泳がせたあと、こういった。
「……あの、先輩たちって、付き合ってるんスよね?」
「つ、付き合うって……んなああぁぁぁ! そんなわけないでしょ!」
 顔中を真っ赤に染めて、こなたは叫んだ。
「あれ? そうだったんスか……」
「そうだよ、わたしリアルで同性趣味ないもん」
「えぇ? そ、そっスか…? あの、そういう気持ちの前に、同性とか異性とかって、あんま関係ないと思うんスが……」
 ひよりは困ったように眉を寄せていう。手持ち無沙汰なのか、パラソルをくるくると回している。
「先輩ほどのオタクイーンがそんな性別二元論にとらわれてるなんてもったいないっスよ。萌えの沃野は広大っス。ロボだろうがけものだろうが人は萌えることができるっス。……生物学的な性別なんて、些細なことだと思うんスけど……」
 こなたはひよりの肩を叩いていった。
「ひよりん……そのオタクイーンの称号は謹んでキミに進呈するよ」
「ええっ、私っスか!」

♪君の存在だって 何度も確かめはするけど
♪本当の存在は いなくなっても ここにいる

   ☆   ☆   ☆

 ――結局、押し切られてしまった。

 “それじゃ、かがみ先輩のことはおまかせするっスね”
 ひよりはそういった。
 こなたが“とりあえずいってはみるけど、多分無理だよ”というと、ひよりはふわりと笑って“ありえないっス。絶対大丈夫っス”といったのだった。

 こなたがひとり思案して佇んでいたそのとき、ケータイが振動した。
 みると、アイコンが瞬いてメールの着信をしらせている。
「あ……かがみ」

『おーい、こなたー?どこだー?
 休憩入ったから一緒に回ろうよ!』

♪僕らの時計は 止まらないで 動くんだ
♪ラララ……

   ☆   ☆   ☆

 かがみはまるでいつもと変わらない様子だった。
「ん? どしたー? 鳩が豆鉄砲くらったような顔して」
「……ん。なんでもない」
 こなたは拍子抜けした思いでそういった。
“あれ? なんだろう。考え過ぎだったのかな?”
 ――考えてみれば、男子に屋上に呼ばれたからって、別に告白とは限らない…のかな?
「そう? ならいいけど……。ね、どこいこっか。あんた三階の方はもう回ったのよね?」
 そういって歩きだそうとしたかがみのツインテールを、こなたは思わず確かめるように引っ張った。
「あがっ!」
 首をのけぞらせてかがみがうめく。
「な、なにをするだァー! いい加減子どもみたいな悪戯やめろよ!」

 ――かがみだ。

「……な、なによ、ニヤニヤしちゃって。……そんなに今の面白かったか?」
「……あ、あははっ、あははは!『なにをするだァー』だって、あははは! 咄嗟にジョジョネタがでてくるなんて、かがみもすっかりオタクだね!」
 満面の笑みを浮かべて。
 両手を頭の上でぱたぱたと振って、こなたはいう。
「う、うるさいな。あんたが散々使うから、つい口からでちゃっただけよ」
 照れながらいうかがみの手をおもむろに掴んで、こなたは走りだす。
「いいから早くいこ! 今のこのときは、もう二度と戻ってこないのだよ!」
「あ、ちょ、こら! 廊下走るなって! 危ないだろ、もー!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いま、輝くとき(後編)



作中歌

supernova
作詞 藤原基央
作曲 藤原基央
歌  BUMP OF CHICKEN







コメントフォーム

名前:
コメント:
  • >チアとヅカと百合と腐りきった姫君っス!
    ↑クソワロタwww -- 名無しさん (2008-05-05 04:48:22)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー