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人として袖が触れている -神曲-

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  • 神曲


 少女は嘆きます。
―嗚呼、どうして私は私なんだろう。
―私が私じゃなかったら、きっと私の願いが叶うのに。
―私の体を絡めとる鎖は、決して外れることはない。
―それは、私が私であることの証明。
―この鎖がなければ、どんなにいいだろう。
―私が私でなかったらどんなにいいだろう。
―嗚呼、憎い。
―この体が憎い。
―この鎖が憎い。
―この世界が……憎い。
 少女は恨みます。
 自分を含む全てを恨みます。
 その時です。
 神が降臨なされたのです。


 神は仰られます。
―恨んではいけません。
―嘆いてはいけません。
 愚かにも少女は反抗します。
 神の啓示は絶対だというのに。
 神の力は絶対だというのに。
 神は、絶対だというのに。
―どうして恨んではいけないのですか?
―どうして嘆いてはいけないのですか?
―世界は私を嫌っているのに。
―世界は私を見放しているのに。
 少女から涙が零れます。
 その涙の雫が海を作り、辺りを青に染めていきます。
 神はもう一度仰られます。
―世界は貴方を嫌っていません。
―世界は貴方を見放してもいません。
―ごらんなさい、貴方にも見えるでしょう?
 神の手が、涙の海の水面を指差します。
 そこに映し出された光景を見て、少女は言葉を失いました。


 神が次々と言葉を綴っていきます。
 少女はそれを受け止め、どう感じたのでしょうか。
 涙の海に映る光景をみて、何を感じたのでしょうか。
 それはその、少女にしか分かりません。
 神が言葉を終えた時、少女の心には炎が芽生えました。
 それを神は知ることは出来ません。
 その炎がいくら悲しみに狂い、青く燃えていても。
 その炎がいくら嫉妬に狂い、紫に燃えていても。
 その炎がいくら憎しみに狂い、黒く燃えていても。
 神の力は、心には及ばないのです。


 少女はもう一度嘆きます。
―どうして私は私なんだろう。
―どうして『彼女』は、『彼女』なんだろう。
―嗚呼、憎い。
―私が憎い。
―世界が憎い。
―『彼女』が、憎い。
 炎が涙の海を沸騰させ、蒸発させていきます。
 いつしか涙の海は枯れてしまいました。
 残ったのは炎だけ。
 その炎が少女の身を焦がし、傷つけていきます。
 彼女の世界はもう、黒に染まってしまったのです。
 その時でした。
 彼女の黒い想いが、人の力を超えたのです。


 神は嘆きます。
―嗚呼、どうしてこんな事をしてしまったんだろう。
―嗚呼、どうしてこんな事になってしまったんだろう。
 神は謝ります。
 どんなに謝っても、少女には届きません。
 どんなに頭を垂れても、『彼女』には届きません。
 だから神は決意します。
―『彼女』を助け出そう。この世界から。
―少女を救い出そう。その悲しみの渦から。
 神は『彼女』の前に現れる事は出来ません。
 それは許されません。
 少女がそれを許しません。
 それが出来るのが、『彼女』自身が神に気がつくしかないのです。
 だから神は届けます。
 小さい手紙にその想いをこめて。
 それが『彼女』の助けになることを信じて。
―どうか、心折れぬように。
―どうか、心挫けぬように。
 それだけを、切に願いながら。













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