kairakunoza @ ウィキ

誰も知らない話

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匿名ユーザー

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「ねえねえ、みゆきさんみゆきさん」
「な、なんでしょうか」
 こなたの勢いにやや気圧されているみゆき。
「ちょっと珍しいものがあるんだ」
 そう言って取り出して見せたのは、何の変哲もない千円札。
「番号が『LK000777S』ってなってるんだ。これってプレミアつくかな?
なんとなくいい番号だと思わない?」
「ええと……何かのテレビでやっていたのですが、番号に関する希少価値というのは
数字が若いほどいいのですが、いい値段がつくのはせいぜい100以内の番号だけだそうです。
それと、前のアルファベットも若いほうからAA、AB、ACとなっていまして、LKとなると
かなり後の方になってしまいます。ぞろ目というのもプレミアの対象ですが、全部なら
ともかく、三桁ではあまり……」
「プレミアはつかない?」
「はい、おそらく……」
 目に見えて落胆するこなたと自分が悪いわけでもないのに申し訳なさそうにするみゆき。
「プレミアものが簡単に手に入るわけないよねー。番号といえば、魔法を使った願い事で
『大金が欲しい』って願ったときにもらったお札って、どんな番号になるんだろ?
どっかから持ってくるのでも、新しい番号のお札を作っても犯罪だよね?」
 それから少しずつ話が逸れてゆく。件のお札への興味はとっくに失せていた。

   *

 オタクの街、秋葉原。オタクたる泉こなたがここにいるのはごく自然なことだった。
 そこにあるのはオタクな品々を売るオタクのための店。そこでこなたはオタクな本を買う。
「680円になりますぅ……1000円お預かり致しますぅ……320円のお返しですぅ」
 店員、宮河ひなたはそつなく仕事をこなす。もっとも、ミスをするほうが難しい作業であるが。

 ひなたは自分のシフトが終わったあと、こなたと同じ本を手に取り、レジへ持っていった。
この後妹が怒ることは明白だが、気にしない。
「680円になります。5080円お預かり致します。4400円のお返しです」
 店員同士でも仕事は仕事。勘違いする人が多いが、店員割引などしている店はほとんどない。

   *

 年末に行われる日本最大規模の同人即売会。日本中のオタクが集まる一大イベント。
 当然、オタクたる宮河ひなたもこのイベントに参加していた。まずは人気があってすぐに
売り切れそうなサークルを回ったあと、ゆっくりと自分好みの本を探す。
 絵柄とジャンルで良さそうなところに目をつけ、立ち読みさせてもらって中身を吟味して、
気に入ったものがあれば購入する。ひなたの場合、ちょっとでも気に入れば購入する。
「これとこれ、一部ずつお願いしますねぇ」
 ひなたのお眼鏡にかなった本が二冊。
「千円になります」
 渡された千円札を、売り子の田村ひよりが受け取った。
「ありがとうございました」
 ひなたはいい本が見つかって嬉しい。ひよりは自分の本が売れて嬉しい。即売会は売り手と
買い手の交流の場でもある。時間さえ許せば、ちょっとした世間話をすることもある。
 ただし、今回は時間が許さなかった。すぐ後ろに別の客がいたからだ。
「読ませてもらっていいですか?」
「どうぞ、お手にとってご覧ください」
 立ち読みの前に、こうやって挨拶することが即売会のマナー。
「これとこれ、ください」
「千円になります」
「あー……えっとすいません……一万円札でもいいですか?」
 40歳くらいの男性客――泉そうじろうは罰が悪そうに尋ねる。こういった場では万札を
使うのはあまり好ましくない。
「いいですよ」
 ひよりは売上金の中から千円札を九枚取り出して、そうじろうに返す。
「ありがとうございました」
 ひよりは頭を下げ、そうじろうは笑顔で次のサークルへと向かう。
(今の人、どこかで見たことあるような……?)
 しかし、自分の知り合いに中年男性はいない。ひよりはすぐに考えるのをやめた。

   *

 日本人には信仰がないと言われるものの、神道と仏教は日本の生活に根ざしたもので、
そういった関係から年末年始は神社にとっては書き入れ時である。
 日本人たる泉そうじろうとその娘、こなたも神社に来ていた。ここはこの近辺では最大規模の
神社であって、参拝客の数も並みではない。混雑具合は先ほどの即売会といい勝負だった。
 この神社の娘である友達との挨拶とからかいもそこそこに、お賽銭の順番が来た。
 そうじろうはお札を二枚と、硬貨をいくつか投げ入れた。
「うわ、お父さん奮発してるね。いくら入れたの?」
「2951円だよ。福来い(ふくこい)っていう験かつぎになるんだ」
「ふーん」
(そんなことするより私にくれればいいのになぁ)
 そうすればいくらか親孝行してやってもいいのに――あまり可愛くない考え事であった。

   *

「今年も順調かな」
 参拝客がいなくなってもこの神社の主である柊ただおの仕事は終わらない。柊家にとっては
この時期の収入が非常に重要なのだ。まさしく『一年の計は元旦にあり』。
 俗っぽいと言われようと、人間なのだから仕方ない。
 売上金や賽銭箱の中身を整理する。集計の結果、今年は例年よりいい収入になった。
 神主としての仕事は終わったが、まだ父親の仕事が残っている。仕事を手伝ってくれた
娘たちに、お年玉という名のバイト代をあげなければならない。
「これがいのりの分、これがまつりの分、これが――」
 今年は値段を上げようか否か。いのりとまつりはともかく、あとの二人をどうしようか、
父親として大いに悩むのであった。

   *

「まったく、あんたのせいでひどい目にあったわよ」
 かがみが愚痴る相手はこなた、ひどい目とは同人即売会のことである。
「つかさはともかくかがみは行ったことあったじゃん。また行きたかったんでしょ?」
「ち、違うわよ! 私はつかさが心配だっただけで……」
「まあまあ、隠さなくてもいいって。何か買った?」
「買うわけないでしょ! ……そういえば、こなたから預かった軍資金、まだ返して
なかったわよね。ほら、つかさも」
「うまく話を逸らしたな」
 こなたのことを無視して、かがみは即売会の前に預かったお金に自分の財布から
取り出した千円をプラスしてこなたに返した。
「なんで?」
 なんでそんなことするの? という意味である。
「あっちでジュース買ったとき、間違って預かったお金の中から使っちゃったのよ。
だからその分返したわけ」
「うっそだー。使っちゃったのって、同人誌買ったからじゃないの?」
 ニヤニヤニヤニヤ。
「バカ言わないでよ! なんでそんな嘘つかなきゃいけないの」
「いちいち詳しく説明するところが怪しい」
「なんでよ!? 本当のこと言っただけじゃない!」
 かがみをからかうのに夢中で――というより、初めから関心がなかったので、
こなたは気づかなかった。
 その千円札の番号が『LK000777S』であるということに。

――誰も知ることのない、そんな話。












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  • こなた→日向→ひより→そうじろう→ただお→かがみですね GJです -- オビ下チェックは基本 (2009-05-17 23:26:07)
  • なるほどっ!感服いたしました! -- 名無しさん (2009-03-09 18:39:08)
  • 出会いかぁ・・・ -- 名無しさん (2008-03-23 23:21:21)
  • なるほど…
    -- 名無しさん (2008-03-23 23:12:53)
  • 読み終わって思わず「上手い!」と叫んでしまったww
    GJ! -- 名無しさん (2008-03-23 20:38:20)
  • こういう変わった視点で物語作れるのってなんか素敵だなあ -- 名無しさん (2008-02-20 00:39:06)
  • 一枚の千円札が繋ぐ、それぞれのストーリー・・・
    GJ!! -- 名無しさん (2008-02-19 18:45:02)
  • まさに、金は天下の回り物ですなw -- 名無しさん (2007-10-28 23:06:52)

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