kairakunoza @ ウィキ

Birthday 2

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列車が到着する。扉が開き、十数人の乗客がいっせいに降りる。
昨年設置されたばかりの自動改札機は、たった2台で乗客の切符の回収とICカードの処理作業に追われている。
当然のことながら、改札口付近は大渋滞。

『またねー』『うん、バイバイ』
『今日は一杯やりますかぁ』
『それじゃ、また明日』
『お疲れ~、あとで電話するわ』

がらんとした駅前広場は少しだけ賑やかになる。
お勤め帰りのサラリーマン、部活で遅くなった高校生、買い物帰りの主婦……。

しばらくすると、再び静寂が駅を支配する。




「………まだかな」

そんな地元の小さな駅で、私は人を待っていた。
午後7時。約束はとうに過ぎた。『彼』はまだ来ない。
改札口は1箇所しか無いので、ここで待っていれば確実に彼に会えるはず。
しかし、まだ、来ない。

遅れる事は分かっていた。約束の時間の30分前、彼から「少し遅れます」というメールが届いていた。
彼は今日も仕事で忙しいのだろう。

仕事でトラブルでもあったのかしら?
電話が繋がらないので、おそらく『彼』はまだ会社に居るに違いない。

次の電車は19時27分。
昨日までとは打って変わって冷蔵庫のような寒さの中、私はただただ待ち続ける。
今日の夜は特に冷える。立っているのは正直しんどい。
でも、私たちは約束した。ここで会う、と。
だから、私は待つ。彼が来るまで。




午後7時。仕事はまだ終わらない。
今日は人と会う約束をしている。おれの大切なあの人に。
それなのに、天はどうもおれに深夜残業をさせたいようだ。

「日下部さん、どう?」
「こりゃ重傷だ。まさか回路が完全にイカれてるわ」
「まさかこんな時にトラブル起こすとは……。とんだ誕生日プレゼントだね」
「ああ………最高のプレゼントだな…………おれ、帰っていいかな…」
今日だけは今すぐ帰りたい。
「そうすると、月曜日の実験には間に合わなくなるよな」
「……そうなんだよなぁ。」

おれは同僚と共に、いきなり故障した実験装置の原因を調べていた。
いきなりトラブルを起こした装置は、吹っ飛んだバルブだけ交換すれば何とかなるかと思っていた。
しかし、バルブが吹っ飛んだせいで、破片が装置の心臓部にまで吹っ飛び、あらゆるモノを部品交換送りにしてくれた。
中でもおれが設計した制御機は中の回路が損傷しており、事態は深刻となった。



今日は定時で帰るつもりだった。
17時30分までに自分の抱えている仕事を全て終わらせ、
5分後のチャイムと同時におれは退社するつもりだった。

17時34分。
「よし、あと1分だ」と思ったところで同僚から嫌~な連絡が入ったのだ。


暖房の効かない現場で過ごす11月16日。
おれにとって目出度いこの日は、思わぬ所からのプレゼントを強制的に受け取るハメになった。



『もしもし?』
「もしもし?あやの?」
『うん、そうよ』
「ん~どした?元気ねぇな?」
『うん………何でもないよ』
「そ、それならいーんだけど。あのさ、兄貴とはもう会った?」
『それが……』
あのアホ兄貴、帰りにエロ本でも立ち読みしてやがるな。
『それは流石にないと思うけど…』
「冗談、冗談、マイケルジョーダン」
『もうっ、みさちゃんってば!』
「はっははー。少しは元気出たか?
 なんだったら一緒についていてやろうか?」
『うん……ありがと。でも、大丈夫』
「そ…そっか。大丈夫か。寒ぃから風邪引くなよ?」
『うん。有り難う』
「兄貴のせいであやのが風邪引いたら、こっちまで心配になるんだぜ。にはは」
『ふふふ、みさちゃんらしいわね。明日の方はどうなの?』
「ん~?準備万端だぜ。兄貴、喜ぶかな?」
『絶対喜ぶよ。可愛い妹さんからプレゼント貰えるんだから』
「か…可愛いって////て、照れるな…。と、とにかく寒ぃから気を付けろよ、じゃあな」
『うん、じゃあね、また明日』
「ばいにー」



はっくしゅんっ!!あー寒ぃ~。私は家(団地)の前で兄貴の帰りを待っていた。
時計は……20時40分。うぉっ、こんなところで2時間も待ってたんだ、私。
それにしても兄貴は帰ってくる気配がない。とっくに兄貴があやのと一緒に姿を見せてもおかしくない時間だ。


あー、またあやのに迷惑かけやがって。
ちっと様子見に行ってみっか。兄貴、自転車借りるぞー。

11月16日。木枯らし舞う鉛色の夜空の下、私は兄貴から拝借したスポーツバイクで駅へと向かった。


北埼玉の夜は特に冷える。
20時50分発の上り列車が走り去っていく。次は21時20分。30分待ちだ。
寒さで体はすっかり冷えてしまい、手は氷のように冷たくなっている。

携帯電話を取り出す。着信は……無い。
そろそろ帰らないと、父親に怒られる。
アルバイトでもしていない限り、流石に高校生がうろうろしていい時間ではない。
「姉ちゃん、こないなとこで何してん。風邪引いてまうで」
「わ、私は大丈夫です。有り難う御座います」
駅の前でずっと立っていたのを心配していたのか、改札口の駅員さんが私に声を掛けてくれた。
「人、待ってん?」
「…はい」
「寒いやろ、ほな、これ飲んで温み」
「あ、有り難う御座います」
「ほな、おっちゃんそろそろ帰るさかい。変な人多いから気ぃ付けや」
「は、はい」

この駅は、夜になると無人駅となる。田舎の駅なので仕方がないが、何だか心細い。
この駅を出る路線バスも、
みさちゃんの住んでる団地行きを数本残すだけとなった。
田舎の夜は、寂しい。

手には駅員さんから貰った缶コーヒー。
相当手が冷えていたのだろう。ハンカチでくるんでも熱い。


21時20分発が去る。
もう、帰ろうかな。明日、みさちゃん家で会えるし。



──あら?誰かしら?



「はぁ、やっと終わった。後は月曜にやるとしよう」
「これで、何とか実験には間に合いそうだな。宿題出来ちまったけど」
「おれはもう帰るよ。人待たせてるから」
「お、彼女ですか~?今日、日下部さんの誕生日だもんな。勢いで襲っちゃったりして」
「アホ、せんわ。美水、先帰るぞ。お先~」
「お疲れさん~」

取り敢えず、最低限の処置を済ませ、何とか月曜日の実験には間に合うようにしておいた。
例の回路はもっぺん設計し直さないとダメだな。あーあ。

さて、おれは大急ぎで帰らなければならない。
そう、待っている人がいる、いつもの駅で。
あやのの事だ。多分ずっとその場を動かずに待っているハズだ。

この時間になると、いつも乗っている列車の本数がガクンと減る。
時間は…21時30分。次の列車は21時40分。間に合うかな。いや、間に合わせねば。

「お疲れ様ですっ!!」

おれは作業着の上に上着を羽織ったまま、会社を飛び出し、駅へと向かった。
あやの、待ってろよ。今、そっちに向かうからな。

この時、相当焦っていたのですっかり忘れてしまっていたが、
あやのにメールを入れておけば良かったと思った。おれ、空気読め。

21時50分
ふう、何とか駅に着いた。
何でパンクなんかするんだ、この自転車は。
兄貴から拝借したカーボンフレームのロードバイクは、
あろうことか走り出して数百メートルで先のとがった石を乗り上げ、あっけなくパンクしてしまった。
お陰様で私は駅までの数kmを押していくハメになった。

畜生、寒い。
陸上では真冬の大会でハーフトップのユニフォームを着ていたりはするが、
夏生まれの私にとってこの寒さは地獄に等しい。特にあのユニフォームは地獄に等しい。
まぁ、私のことはいい。
あやのはアホ兄貴のせいでもっと寒い思いをしているに違いない。
きっとえらく心配しているだろう。妹の私だって心配だ。

お、あやのいたいた。うわっ…あの格好じゃ寒そうだな。
まさかこんな時間まで突っ立ってるとは思わなかっただろうしな。



「よう、あやの」
「み、みさちゃん…!!ど、どうしたの?」

何でそんなに驚くんだよ。私の顔に何か付いてるか?

「ち…ちょっと気になってさ。こんな寒ぃ中あやのを立たせたままにするとは、酷い兄貴だぜ。
 悪ぃな、あやの」
本当だ。全く。
「み、みさちゃんが謝らなくても…。それに私は全然怒ってないし。
 ………で、でも、心配だな…。何処かで倒れてないかしら」
「心配すんなって。ああ見えても兄貴はちょっとやそっとじゃ倒れたりしねーよ。喧嘩も私で鍛えているし」
「うん、まぁ」
「うおっ、あやの、手、冷てーじゃねーか!!ほら、これ着ろよ」

さっきまで着ていた上着を、さり気なくあやの背に羽織らせる。

「有り難う。でも、みさちゃん寒くないの?」
「いいっていいって、私はこのポンコツ押して走って来たから、むしろ暑いくらいだ……へ、へっくしゅん!!」
「もう、無理しちゃって。ほら」
「いいって、あやのの方が寒そうだぞ」
薄手で胸元の開いた、デートモード全開の格好だからな。
「それなら、ほら」
「おうわっ」
あやのは私の体を引き寄せ、私の上着の半分を羽織らせる。
一人用の上着を二人で羽織っているので、見事に寸法足らずだ。
駅が無人状態だからいいけど、これ、ハタから見たらどう見えるんだろうな。

「あやのだけ辛い思いするのもアレだからな。私も待つよ」
「あ…有り難う。いつもごめんね、みさちゃん」
「なんで謝んだよ」
「だ、だって、みさちゃん、私は大切なお兄さんを…」
「それは言わねー約束だろ?それにこっちは毎日嫌でも顔合わせられるし。
 そりゃ、確かに兄貴は好きだけどさ……、」
正直、あの時はキツかった。兄貴が取られるんじゃないかって思ってさ。でも、それは1年前の話だ。
「ほら、そろそろ次の列車が来るぞ」


22時13分、最終から3番目の列車が最寄り駅に到着する。
降りた客はたった1人。
某ブレーキメーカの作業着姿の疲れ果てた技術者っぽい人が、無人の改札口を通る。
間違いない。あれは兄貴だ。
この後、私は一歩離れて、2人のやりとりを、ただ見ていた。
いやー、いいもん見ちまったなぁ。


「ごめん、あやの。こんな遅くまで待たせて」
「………………」
「あや…の?」
「………………」

「ほ……本当に……ごめん……なさい。お、怒ってるよ…な。
 と、当然だよな。こんなに寒いのに何時間も待たせちゃってさ」

「………………………。くすっ」
「??」

「ばぁ!!」
「ほわっ!!!!」げほっげほっ、


「ふふ、驚いた?」

「はぁ、心臓停まるかと思った」
「待たせた罰よ。はい、これ。お誕生日おめでとう!」

「え?おれに」
「ええ、開けてみて?」
「どれどれ……………おおおおおおおお!!!!!!!」
「ど……どうかな/////」
「あ、有り難う!!どれどれ、早速………おお、あったかい。本当に有り難う」
「どういたしまして。私も、ほら」
「あ……付けてくれてたんだ」
「ええ、だって、お兄さんがプレゼントしてくれたから」
「そ、そういやあれから2週間しか経ってないんだったな」
「そ、そうね。同じ11月生まれだからね」


「あの……お兄さん//////」
「ん?」
「もうちょっと顔寄せて」
「へ?………………あ。//////」

ちゅっ


甘~~~~~~~~~~~~~~~~~い!!

ってこれ、誰かのネタだったな。
いやいや、いいもん見ちまったぜ。あやの、すげー。
てか、ちょっと羨ましい……くなんかないぞ、兄貴とはいつも一緒だし。
流石に兄貴と「ちゅー」はしたことねーからな。風呂ならこの前一緒に入ったけど。
てか、2人とも空気読め。ほら、あそこで誰か見てるぞ。

「あの、お二人さん、仲が宜しいのは分かったが、そろそろ行かねーか」
「あ…みさお、来てたんだ」
「みゅ~~~~あやの~~~~兄貴がいじめる~~~><」
「よしよし、お兄さんは悪気があってやったんじゃないんだから」
「私は兄貴の前でも背景ですぜ…。うぅ~~~~」
「す、すまないみさお。まさか迎えに来てくれてたなんて知らなくて」
「もういいもん。明日のプレゼントは父ちゃんにあげちゃおっ…「ちょっと、みさちゃん!!」
「あ、やべ………」
「え?明日が何だって?」
「「え?いえいえ、何でもないです。はい」」

「……うーん、まぁいいか。さて、そろそろ行くか。
 ところで、みさお、何でそこにおれのロードバイクがあるのかな?かな?」
「あ、えっと、それはみさちゃんが…」
「あ、兄貴とあやのの事が気になったから急いで駅に来たんだよ!
 兄貴がまたアホなことやらかしたらあやのが可哀相だかんな」
「なっ、だからっておれのを乗らなくてもいいだろ!
 お前、自転車持ってるだろ、おれがあげたやつ」
「いーじゃん、たまにはこっちに乗ってみたかったんだよ」
「まさかお前、またぶっ壊したとか言うんじゃないんだろうな」
「………バレた?」
「アホ!!みさお~、許さんぞ、コラ、待て、逃げるな!!」
「へっへ~こっこま~でお~いで~♪」
「コラ~~~~~」
「きゃははははあはは」

「もう、相変わらずね。やっぱりみさちゃんには敵わないわ。
 私も負けないよ。みさちゃんよりも仲良くなってみせるんだから!!」

「待て~~~~」
「いやだ~~~~」
「待って~~~~~」
「うげ~!!あやのまで追ってきた~~~」


11月16日。おれは24回目の誕生日を迎えた。
生意気だけど可愛い妹、それにいつも優しい小さな恋人に祝福され、ちょっと恥ずかしいかも。
でも、嬉しかった。誕生日、ありがとう。

fin.//













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