kairakunoza @ ウィキ

夜、旅館、浴場にて。

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どさり、と、敷かれた布団に倒れこむ。
長いブロンドの髪がふわりと虚空に揺らめいた。

「・・・疲れた。」

自分以外の誰もいない部屋で、ぼそりと黒井ななこは呟いた。
修学旅行もあと一日で終わり。最終日を控えた前日、夜、旅館、自室にて。

「まさか・・・こないに・・・。」

疲れるとは、思ってもみなかった。いや、そう言うと語弊が生じる。
修学旅行というイベントに先駆け、疲れるのは元より覚悟の上であった。
ただ、自らの体力がここまで落ち込んでいるとは思っていなかったのだ。
新米の頃、教え子達を追い掛け回していた自分の姿は、完全に過去の幻影となっていた。

「・・・はぁ。」

腰が痛い。その痛みに伴い自分が確実に老け込んでいることを痛感する。

「・・・風呂、入らな。」

時刻は22時30分をちょうど回ったところ。
各部屋の消灯の確認、明日の日程についての確認。
いろいろと面倒事(こういう解釈は教師として少し不味いかもしれないが)が続き、入浴もしないままこんな時間になっていた。
さすがに自分も女性の端くれであり、日中汗をかいた体を流さずに寝るのはどうにも忍びない。
むくりと起き上がる。腰から下半身にかけてびりびりと痛む。疲れがたまったのか、老けたのか。
さすがに大浴場まで歩いて行くのは面倒になり、室内に備え付けのシャワーで我慢することに決めた。
さっさと汗を流してさっさと寝よう。そう考えつつ、入浴の用意をしていた、そのとき

―――ピンポーン

部屋のチャイムが鳴った。
こんな時間に人が来るのは、予想外だった。
何かトラブルがあったのだろうか。怪訝な表情をしつつ、カチャリとドアを開けた。
・・・誰もいない、と、一瞬思った。小さすぎて。

「どもー、こんばわー・・・。」
「い、泉・・・?」

そろりとドアの陰から顔を出した人物に、完全に意表を突かれた。

「なんや、なんかあったんか?」
「い、いやー・・・そのですね・・・。」

こなたが口ごもる。
器物損壊?他校生への猥褻?窃盗?盗撮?
気分が気分なだけに、妙に嫌な想像が浮かんだ。


「その、かがみとかみんなもう寝ちゃってですねー。知ってのとおり私夜型なもんで・・・寝付けなくて、それでですねー・・・。」
「・・・まさか、遊びに来たとか言うわけやないやろな?」
「・・・アハハー。ダメ・・・ですかね?」
「お、ま、え、はぁぁぁ・・・。」

刹那、ごつんと一発裏拳を振り下ろした。疲れのせいか、いつもより音に張りがなかった。

「あでー!」
「寝れへんからって教師の部屋に遊びに来る生徒がおるかい!」
「わ、私はただ旅行を通じてのスキンシップを・・・」
「えーい、やかましわ!」

駄目だ、声を張るだけで疲れる。本気でこのまま寝てしまいたい、と思った。

「アレ?先生お風呂まだなんですか?」

スーツ姿のななこを見て、こなたが言う。

「ん、ああ・・・。色々忙しくてな・・・。もうとっととシャワー浴びて寝てまうとこやった。」
「シャワー!?大浴場は?露天風呂は行かないんですか!?」
「もうええよ・・・今日は疲れたし、腰も痛いし・・・。」
「先生、それはいけません!!」
「な、なんや、腰の痛みは死のサインなんか?」
「そっちじゃなくて!お風呂!お風呂です!」
「・・・はぁ。」
「せっかく旅行に来たんですから、きっちり満喫せねばないでしょう!
 それに、現代人がストレスを溜め込む兆候にある一端に、
 湯船に浸からずシャワーだけで行水を済ますということが挙げられます!
 かの有名な美人指揮官も申しております!『風呂は命の洗濯よ』と!」

体を振るわせつつ長々と説明する。相変わらず変な所で饒舌になるな、と思った。

「・・・要するに、暇だから大浴場行きましょー、って言いたいんやろ?」
「・・・そうともいいます。」
「・・・はぁ。」

自分の生徒に諌められるのは、何だか少し悔しい気もしたが。

「ええよ。準備してこい。」
「え、ほんとですか!?行ってくれるんですか!?」
「何や、嫌ならええんやで。」
「いえいえ、是非ともお供させてくださいまし!」

では!と言い残しさっと自分の部屋の方向へ走り出した。
消灯時間が過ぎているのに、生徒と風呂へ行くなど、本来許されることではないが・・・たまにはのんびりしていってもいいだろう。
用意されている浴衣に手をかける。パリッとした肌触りが心地良い。

「せんせー!早くー!」

気づけばすでにこなたが部屋の前に戻ってきていた。その若さと溢れんばかりの元気さが恨めしい。

「おう、ほな、行くか。」


やっとこ気分を落ち着かせ、着込んでいるスーツをするすると脱ぎ始める。

「おお・・・」
「・・・なんや。」
「なんていうか・・・エロいですね。」
「お、女同士なんやから別にええやろ・・・。」

服を脱ぎながらこちらをまじまじと見つめてくる。柄にも無く少し気恥ずかしくなっていた。

「のおっ!」
「ど、どないしたんや。」

ななこがズボンを下ろすと同時にこなたが妙な声を上げた。

「いや~、たまりませんなぁ~。」
「な、何の話や。」
「やっぱり金髪美人には黒下着がよく似合いますよね~。なんか某ツインテ鎌持ち魔法少女を彷彿させますよ。
今度一緒にコスプレでもしません?」
「お、お前は何をまた・・・それに、美人て、ウチはそないに・・・。」
「あ、私はそっちのケはないですからね、念のため。」

いつの間にかこなたは一糸纏わぬ姿となり、タオル片手に風呂の方へすたすたと歩いている。
完全に相手のペースに乗せられているのがさらに気恥ずかしい。
自分もさっさと服を脱ぎ、こなたの後を追った。

「おー、結構広いんやなー。」
「ほれほれ、さっさと入りましょうよ。」
「いや、風呂に入る前に体を流さな・・・。」
「そんな固いこと言わないで、どうせ私達しかいないんですし。ほら、ざぶーんと!」

やいなや、こなたはざぼんと風呂に入ってしまう。
続いて自分も湯船に浸かる。少し熱い。


「ふぃー。やっぱでかい風呂はええもんやなー。」
「いやーほんとに。でっかいのはひじょーにいい眺めですなー。」
「・・・さっきからお前の発言はあからさまにおっさんやぞ。」

体がじわりと解れていく感覚。切羽詰った修学旅行中に、こんなに気が休まることなどはなかった。
背中を流そうとふと立ち上がる。

「お背中流しましょうか?」
「そんなに気ぃ使わんでもええって。」
「いやいや、せっかくなのでやらせてくださいよ。」
「ん・・・ほんなら頼もうかな。」
「お任せあれ~♪」

もこもことタオルを泡立てた後、背中をゴシゴシとこすり始めた。見かけによらず結構力の入ったストロークであった。

きもちいーですか?」
「おう。ええ感じやで。」
「ほんとですか?」
「なんで嘘言わなあかんのや。」
「そですか・・・えへへー・・・。」

いつもの不敵な笑いではない、素直な感情が伝わってきたことに、ちょっとした違和感を覚えた。

「・・・なんかあったんか?」
「え、いや、別に何も無いんです、けど・・・。」
「なんや、言うてみい。」
「なんかその・・・お母さんみたいでですね・・・ちょっと楽しくて。」

そういえばこなたの母親は若くして他界したのだった。
身体ちっこくても、格闘技できても、料理ができても、いくらしっかりしてても。
やっぱりこなたも思春期の女の子であり、母親がいないのは寂しいものなのである。
杞憂かもしれないが、背中をこすられつつそのような気持ちが察しられた。


「す、すいません、なんか私らしくないですよね、あははー。」
「別にええやん。」
「え?」
「いっつもきばってばっかりやと疲れるで。周りには友達だっておるんやし、ウチだっておるし。
 たまには空気抜いて、吐き出すもん吐き出しさへんと。それを受け取ってやるぐらい、ウチにだってできるで?」

裸の付き合いとはよく言ったものだと感じた。背中をこするこなたの動きが止まる。


「あ、えと、その・・・わ、私にフラグは立ちませんからね、ね、念のため。」

風呂のせいかそうでないのか、顔を赤くしてうろたえている姿が、何気なく新鮮であって、かわいい。思わずクスリと笑ってしまう。

「ちょっと!な、何笑ってるんですか、もう!」
「いーずみぃー。」
「へ、あ、はい?」
「腰、揉んでくれ。」

ぺたりと、浴場の床にうつ伏せに寝そべり、下半身にばさりとバスタオルをかける。

「えっ、いや、でも・・・。」
「はよせんか。教師命令やで。」

ぺたぺたとこちらに近寄り、ななこの尻の上に座り込む。そこまで重さは感じなかった。

「せんせー・・・。」

腰に手をあてたこなたが、ぼそりと呟き、

「どないした。」
「・・・。」
「なんや。」
「・・・髪、綺麗です。」
「おおきに。」

ぐっと、両手に力を込めた。



―――翌日
「ふぁ~。つかさも寝ちゃったし、私もちょっとだけ寝ようかなー。」

横に座っているつかさは、新幹線に乗るとすぐに寝てしまった。みゆきは持参した時代劇小説を読んでいる。

「乗り物って変に眠くなるのよねー。まぁ、東京まではあと2時間はかかるんだし、寝ちゃってもいいんじゃないの?
 ・・・そういえば、あんた昨日結局何時に寝たのよ?」
「あー・・・1時、ちょっと前くらいかな・・・?」
「はぁ!?あんたそんな時間までどこで何してたのよ!?」
「いや、黒井先生を誘ってちょっとお風呂に行っててね。そしたらお風呂場で先生がいきなり私に揉んでくれってせがんできてさ。
 教師の特権、とか言っちゃってね。そしたら先生『上手やで』とか『きもちえーよ、泉』とか、言っちゃってさー。
 んで部屋に戻ったらこんどは私の体も揉んでくれて、それがまた上手で上手で、また気持ちいいんだなぁこれが~。
 体中揉まれて、『ココがええんやろ?』とか言っちゃって、まったく流石大人って感じだったねぇ~。」

まぁそうなんですか、と、みゆきは微笑む。天然モノ同士の意思疎通が成立していた。
が、やはりもう一人には正しく伝わってはいなかった。
顔を赤くしつつ話を聞いていたと思いきや、すっくと立ち上がり歩き始めた。

「あ、あの、かがみさん、どこへ・・・?」

すでにこなたは眠りに落ちそうな状態であった。

「問い詰めてくるわ。」

誰を、とは聞けなかった。
なぜなら、歩き始めた少女の背中と眼には、
さながらみゆきが旅行前に京都のガイドブックで見た大文字焼きのような炎がメラメラと燃えていたから。













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  • 大文字焼きの「大」……かと思いきや、てっぺんに横棒が一本余計についてるわけですねw
    -- 名無しさん (2010-06-11 23:51:37)
  • かがみをばかにするな。
    しねお前ら。 -- 名無しさん (2010-06-11 17:14:24)
  • かがみのくせになまいきだ。 -- 名無しさん (2010-06-11 00:42:14)
  • 続き!続きが気になります! -- 無垢無垢 (2008-08-28 17:53:14)
  • かがみんがwwwww
    せんせー逃げて~!! -- まじかる☆あんばー (2008-06-19 13:56:46)
  • かがみんwww -- 名無しさん (2008-05-22 21:04:53)
  • かがみんカタルシス(心理的浄化)wwこの勘違い吹いたww -- 九重龍太∀ (2008-05-20 23:54:42)
  • かがみんwww -- 名無しさん (2008-03-18 09:40:49)
  • 心が浄化www -- 名無しさん (2008-03-18 06:52:53)

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