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0から始めよう! 7話

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  • 7.散歩しよう!


 初めてこの体で過ごした一夜は、あまり良いものではなかった。
 あの後あの馬鹿天使がオオサンショウウオの不気味な人形を弄ってなぎ倒すし。
 その物音であの子も目を覚ますし。
 もっかい追い出されるし……結局また屋根の上で一晩過ごしたってわけ。
 まぁ私自身は熱い寒いとかってのは感じないけど、やっぱ気持ち的には寒いわよね。
 天使から衣装もぎ取って布団代わりにしたから少しはマシだったけど。
 とりあえず浮いたまま寝るのは意外と心地良かったかな。
「おはようございます」
「ん、おはよ」
 体を伸ばし、自分の体の感覚を確かめる。
 まぁ、体がないのに変な話だけど。
「よく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまでね」
 布団代わりにしていた布切れを投げ返す。
「うぅ、相変わらず敬ってませんね」
 渋り顔でそれを受け取る。
 まぁそうね、少しくらいはまぁ……感謝してるわよ。
 絶対言ってやらないけど、調子に乗りそうだから。
「あの子は?」
「まだ寝てるみたいですね、いつも昼ぐらいまで寝てるそうです」
 はぁ……自堕落なヤツ。
 じゃあどうしようかな、ヘタに起こしてまた機嫌悪いと面倒よね。
「少し散歩でもしましょうか?」
「でも、あんまりあの子から離れたらいけないんでしょ?」
「ええと、ちょっと待ってくださいね」
 と、また『子供用天使入門初級編(イラスト付き)』をパラパラとめくり出す。
 ……これがなきゃなぁ。
「『宿主から5m以上離れる場合、24時間以内に戻ってこなければいけません』」
 距離で制約があるわけか。
 あの子を中心に5mだから、すっぽりこの家ぐらいかな。
「24時間か、結構あるじゃない」
「ええ、どこか行きたい場所はありますか?」
 行きたい場所ね……。
 病院に行ってまた、皆の顔でも見ようかな。
 でも、機材に繋がれた自分を見るのはちょっと気が引ける。
 そうね、じゃあ……。


 キーンコーン、と間の抜けた音が耳に届く。
 今のは予鈴かな、ホームルームが始まる前ぐらいには到着できたみたい。
 ここは学校。
 陵桜学園高等部……まぁ所謂、私の母校ね。
 そこの2年の校舎の、E組。
 所謂そう、つかさとあの子のクラス。
「ほな、HR始めるで~」
 中では担任の黒井先生がいつもの調子で教壇に立っていた。
 そこから視線を滑らし、クラスを見渡す。
「……来てませんね」
「まぁ、予想はしてたわ」
 つかさの席は、空席だった。
 もう一つ見える誰も居ない席が多分、あの子の席なのだろう。
「さすがに昨日の今日じゃ、出てこないわよね」
 分かってたけど、確認して落ち込む。
 大丈夫かな、つかさ……泣いてそう、あの子。
「あ、か、かがみのクラスにも行ってみましょうよ」
 そこで慌てて天使が思い立ったように声を漏らす。
 ……また気を遣わせちゃったみたい。
「そう、ね」
 私のクラスか。
 そういやあのコンビは元気にしてっかな……って昨日別れたばっかりだけど。
「こっちよ」
 そう言って、壁から壁に抜けた先のことだった。
 そこは私のクラス。
 教壇に立つのは、私の良く知る担任。
 クラスの皆も、覚えのある位置にそのままだ……私の空白の席を覗いて。
 本当に丁度。
 丁度私がそこに辿り着いた時……私の事故が、担任から宣告された。
 ざわつくクラスメイトたちを咳払いで黙らせると、またHRを続ける。
 少しその雑踏が……煩わしかった。
「あ、あのっ。かがみ」
「……大丈夫よ、いちいち気を回さなくていいわ」
 ちょっと、きつい言い方だった。
 だってそりゃ自分のことだもん……ショックじゃないわけない。
 皆が席につく中で、その間を縦断するのは不思議な気分。
 丁度私の席についた頃には、ホームルームは終わっていた。
 さっきの私の一括を気にしてか、天使は黙ったままだった。
 はぁ……駄目だな、私って。
「柊ちゃん、大丈夫かな?」
 その席に二人ほど、近づいてくる。
 聞き覚えのある声に顔を上げると、見覚えのある顔が二つ。
 まぁ、予想はしていたコンビがそこには居た。
「……お友達ですか?」
「まぁね、峰岸と日下部」
 対照的だけど、幼馴染なんだっけ二人とも。
 ああ、峰岸の心配そうな表情は見ていて辛い。
 こんな時「気にしないでいいわ」ぐらい、笑って肩を叩けたら……。
「おいおいあやの、暗い顔すんなってば!」
 その時だ。
 今にも泣きそうな峰岸の肩を、思いっきり日下部が叩く。
「あの柊だぜぇ~? 象が踏んだって死なねーよぅ」
「みさちゃん……」
 その日下部の笑いに、峰岸も少し笑顔が戻る。
「そうね、柊ちゃんのためにノートとっててあげなくちゃ!」
「うんうん、あっ後で私にも見せてなー」
「みさちゃんは自分でやらなきゃ駄ー目っ」
 日下部の笑い声がしめやかだったクラスにも溢れ、少し空気が和らぐ。
 私も、同じ。
 ありがとね……日下部。
「良い、友人ですね」
「ふふっ……でしょ?」
「さぁー体育だ体育だ、遊ぶぞぉー!」
 ……人がかっこよく不敵に笑ってるんだから、水を差さないで欲しいな。
 ってこらこら、まだ教室に男子が居るのに体操着に着替え始めるな。ハ○ヒかお前は。
 ええと。あのひきこもりが起きるのはいつも昼、って言ってたっけ?
 じゃあそれまでもう少し居ようかな。
 24時間もあるわけだし、のんびりしましょ。
 たまには日下部でも観察してみるのも、いいかもしれない。
 ……ちなみに今回の主役は私でも今しがた活躍した日下部でも、もちろん間抜けな天使でもない。
 そこで急いで男子を外に追い出してる……峰岸だ。

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