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冷えた身体に温もりを

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だれでも歓迎! 編集
 運命という都合が良い言葉、一体何処の誰が考え出したのだろう。
 どんなに辛い事でも、どんなに悲しい事でも運命という一言で説明がつくのだから。
 無力な私は与えられた運命に抗らえず、恨みを積み重ねるしかなかった。





 冷えた身体に温もりを





 時刻は世界が美しい紅色で一色に染まる黄昏時。涼しげな、だが少ずつ寒くなり始めてきた夕風を受けながら私達は帰り道を辿っていた。
「こなた、寒くない?」
「平気だよ」
 こんな遅い時間まで付き合わせてしまった上に風邪でも引かれて貰っては面目ない事にも程がある。気遣いの言葉を掛けると、こなたはウィンクしつつ右手の親指を立てて応えた。
「かがみは平気なの?」
「うん、大丈夫」
 返された質問に出来る限りの明るさで答える。
 ついさっき教室でこなたを求めたからだろうか、こなたの仕草が、言葉が、反応が、全てが愛しく感じられる。
 私の隣にいるのは一人の友達ではなく、愛している人。
 最愛の人との下校というシチュエーションは私に幸せな時間を与えてくれると共に、胸が締め付けられるような不安を募らせていった。
 確かに今の私は幸せだ。こなたと話せる、こなたを見られる、こなたの傍に居られる。
 今はこれで私の心は満たされている。
 だがそれはあくまでも今の事でしかないのだ。
 これからもこなたは私と一緒に登下校してくれるだろう。お昼ご飯だって同じ机で食べてくれるだろう。電話を掛ければ出てくれるし笑い掛ければ笑い返してくれるだろう。
 そうして私は心の渇きを潤し―――
 またすぐにこなたを求める。
 私達の関係に変化が現れない限り、私はこの循環を悲痛な別れが訪れるまで延々とくり返す事になるのではないだろうか。
 気持ちを打ち明けなければいけないと頭では分かっているが、臆病な私には実行に移す勇気がなかった。
 私達を分かつのは無慈悲なる運命か、冷酷に流れ決して止まる事のない時間か。
「かがみ、どうかしたの?難しい顔して」
 マイナス思考のスパイラルに陥っていた私を心配が入り混じったこなたの声が抜け出させる。
「いや、ちょとね……」
 私は語尾を濁して答えた。まさか考えていた事を話すわけにはいかない。
「はっはーん、さては……あれかね」
 漫画だと『にへらぁ』みたいな効果音が付けられるだろうか、口を思いっきりにやけさせて私の考えを読み取ったかのようなこなた。
「どれだよ」
「老若男女問わず掛かってしまう重度の病気……」
 こなたの台詞には続きがありそうだったので、私は変に感情を込めるこなたを見守る事にした。こなたは一瞬空を見上げると、すぐに視線を私の方に戻して人差し指を突き立てた。
「そう、恋の病だよっ」
 核心を突き止められた私の心はどきりと反応する。
「そ、そんなわけないでしょー!」
 全く言われた通りだったのだが、はいそうですと頷くわけにもいかないので私は全力で否定した。意外と焦っているのか顔が火照ってしまう。
「そんなに大きな声で否定するなんて怪しいねぇ。顔も赤いですよかがみ様」
 その所為ですっかりからかわれてしまった。少しは予測してたけどね。
 伝えたいけど伝えられない想い。口には出せないけど言葉を探してしまう。
「ま、私はかがみの事応援するよ」
「え?」
 何の前触れもなく聞こえたこなたの偉く真面目な声に私は目を丸くした。
 私を真っ直ぐ見つめるこなたには普段の軽い調子は何処にもなく、新作のゲームや珍しいグッズを目の当たりにしたかのように真剣な目をしていた。
 それでも優しく微笑んでいるこなた。
「中途半端な気持ちじゃないんでしょ?だったら応援したいじゃん」
 こなたの友人としての優しさが痛い。
「こなた……」
 私の胸の内を知らないこなたはこう言った。
「私で良かったら相談に乗るよ?」
 私の心が悲鳴を上げる。

 中途半端な気持ちなんかでは、絶対にない。そうでなければ同性を好きになったりなんかしないから。
 だが―――
「ねぇかがみ、好きな人いるの?」
 ―――罪深き私の片想いの相手は、まるで自分のことみたいに真剣な表情で私に問うのだった。
「……いるわよ」
 私の目の前に……
 そう繋げる事が出来たら……
 逃げてばかりの臆病者には到底不可能な可能性を切実に願った。
「そっか。どんな人?」
「い、言えるわけないじゃない」
 私はまたからかわれるかもしれないと思いながらも顔を赤くしてそう言った。話題を変えないとそろそろぼろが出そうな気がする。
「それに、エロゲで培ったあんたの恋愛感覚は役立ちそうにもないしね」
「うわっ!酷いなぁ」
 意地悪く言ってやるとこなたは心外だとでも言うかのようにショックを受けていた。
「じゃあ何か?リアルで恋愛した事でもあるのかしら?」
 ここぞとばかりに攻める私。
「むむむ……それを言われちゃお終いだ」
 反論出来ずお手上げといった感じのこなた。
「そう言うあんたはどうなの?」
「へ?何が?」
 本当にとぼけているのか分かってて私に言わせようとしているのか。こなたはすっかり元の調子に戻っていた。
 ちょっとくらいは聞いておいた方が良いかもしれない。
「ほら……好きな人とかいるの?」
 私は少し躊躇いながら質問した。
「いないよ」
 こなたは即答した。私は気付かれないようにホッと胸を撫で下ろす。
 何だか神妙な空気になっちゃったわね。
「リアルでは?」
「……かがみ、私がネット上で何とかは俺の嫁とか言ってると思ってるの?」
「言った事ないの?」
「ないよ!」
 ちょっと声を荒げてこなたが否定する。さっきまでのしんみりとした空気は何処かへ消えてしまった。
「……ふふっ」
「……ははっ」
 私達は立ち止まって笑い合っていた。
「……もうこの話題は止めようか」
「ではかがみんや、ギャルゲの主人公が無条件にモテる理由について語ろうっ」
「一人でやってろ」
 前にゲームが成り立たないからとか悟ってなかったか?と妙にハイテンションなこなたを軽くいなして私は歩き出した。こなたが急いで私の後姿を追いかけているのが足音で分かる。

 こんな関係が続くのも、後少し。
 この関係で満足出来る期間はもっと短いかもしれない。
 こなたが私の後ろに位置している今考える。
 私は神様に今の関係が続くよう願うべきか、私に勇気をくれるよう願うべきか。
 ……こんなにも残酷なジレンマを与えた神様に頼るなんて馬鹿馬鹿しい。いるかどうかすら分からないのならいないと考える方が良い。私は神頼みをする自分が情けなくなって首を振り思考回路を組替えた。
 その動作とほぼ同時期に空から大きな雨粒が降ってくる。
「ん?」
 こなたもそれに気付いたらしく、私の少し後方でいつの間にか雲行きが怪しくなっている夕方の空を見上げていた。
 瞬く間に雨は激しくなり、私達の身体を濡らしていった。
「わわっ!雨だ!」
「取り敢えず木の下にでもっ!」
 私はこなたの手を引いて並木の下に駆け込んだ。

 突然降り出した雨はその内雷雨に変化するのではないかと危惧してしまうほどで、バケツを引っ繰り返したようという表現がまさに適切そのものだった。なるだけ素早く避難したものの、私達の身体は既にびしょ濡れになっていた。
「天気予報では雨の心配なかったのに……通り雨かな?」
「さっさと止んで欲しいわね」
 分厚く黒い雲に覆われ数多の水滴を落下させる空を見上げる私達。一時的な避難所となった木の下だが、雨は相当酷く樹木も全てを受けきれずにその役割を大して果たさなかった。
「エロゲとかだとおいしいシチュなんだけどなぁ」
「こんな時でもそういう思考かよ」
 全く違う方向に嘆きの矛先を向けるこなたに私は光の速さで突っ込む。
 確認したところこなたも雨具等を持っていなかったので、私達は通り雨である事を信じて止むのを待つ事にした。
「ごめんねこなた」
「ん?」
 そう言ってから恥ずかしくなって、私は濡れた髪を指で梳くこなたから目線を逸らした。
「私に付き合わせちゃったからこんな事になっちゃって」
 羞恥心からか申し訳なさからか、私の声は尻すぼみに小さくなっていった。
「かがみの所為じゃないよ。私が付き合いたいから付き合ったんだし」
 そんな私の言葉を最後まで聞き取ってくれたようだ。私は寝てただけだけどね、とこなたは苦笑しながら付け加える。
 確かにこなたが待っててくれなかったら一人で帰宅していただろうし雨にも鬱陶しさしか感じなかっただろう。
 それがこなたがいるだけでつまらないものであろう帰り道は楽しい会話の花が咲き、雨に打たれるのもちょっとは良いかなと思える。
 謝るより先に感謝するべきだったわね。
「それにしてもちょっと寒くなってきたね」
 心の中で反省する私にこなたが身を寄せてきた。いきなりの事に胸が高鳴る。
「かがみ、温かい」
「こなたも温かいわ」
 こちらからもこなたに身体を近付ける。服が濡れているからだろう、体温がより温かく感じられる。私は心臓が脈打つ速度が速くなるのを認識しながらこなたの体温を直接感じていた。
「早く帰って暖かい飲み物でも飲みたーい」
 こなたが誰にともなく呟いた。私はもう少しこうしていたいけどなぁ、と本音が出そうになって慌てて口をつぐむ。
 そんなこなたの願いが天に通じたのか、今まで土砂降りだった雨は嘘のように姿を消して雲が晴れていった。数分後、晴天とまではいかなかったが雨は小降りになり十分帰れそうな天気になる。
「災難だったわね」
 こなたに同意を求め視線と言葉を送ると、こなたは空を見上げてニヤニヤしていた。私の呼び掛けに気付いて視線を向けても表情は変わらなかった。
「な、何よ」
「いやぁ、さっきの雨もかがみんと同じくツンデレだなぁと実感していたのだよ」
「はぁ!?」
 最初は意味が分からなかったが、こなたはそんな私に説明してくれようと芝居掛かった声で言った。
「べ、別にあんたの為に止んだんじゃないんだからねっ!」
 妙に感情込めるわね。少し理解できたような気がする。

 そんなこなたを見ていると、こなたは制服のリボンに手を掛け解き始めた。思わず心が反応してしまう。
「な、何でリボン解くの?」
「何か気持ち悪いじゃん濡れたままだと」
 こなたはそう答えて解いたリボン、次に制服と絞り始める。薄い生地に含まれた水分が地に滴り落ちた。
 私はそんなこなたの仕草や透けて見える肌の色に釘付けになっていた。
 リボンが解かれた事で更にはっきりと分かる、濡れた制服の上から透けてブラが見えた。私はその光景にこなたの雨はエロゲだとおいしいシチュという言葉を思い出す。その通りだわこなた。
「……どうかした?」
 きょとんとした顔のこなたの質問に答える事すら忘れて私はこなたの姿に見入っていた。
 触りたい。欲望がふつふつと私の身体の奥から湧き上がってくる。
 もう気持ちを抑えられない。告白するしかない。私はこなたに―――
 ―――告白するの?もっと良く考えろ、安直な答えを出すなと自分に問い掛ける。
 断られるだけならまだ良いだろうが、告白してしまうともう二度とこの関係には戻れないかもしれない。同性愛というのはそれほどまでに障害多きものなのだ。
 欲望で形成された私の人格は言う。
 もう少ししたら今の関係で満足出来なくなるのだと。
 不安で形成された私の人格は言う。
 こなたは私を受け入れてくれるとは限らないのだと。
 貪欲な私の人格は問う。
 告白しないまま別れを迎えて辛くないのかと。
 臆病な私の人格は問う。
 こなたの将来を壊さないと保障出来るのかと。
「かがみ……今日のかがみ何か変だよ」
 小首を傾げて私の顔を覗き込むこなた。とても愛しくて、私の頭の中は真っ白になった。
 ただ目の前にいる人を求める事しか出来なくなって―――
「こなた……好き」
 自分の気持ちを伝えた。
「私もかがみの事好きだよ?」
「そうじゃなくてっ!」
 伝わらないもどかしさや悲しさが私の声の調子を荒ぶらせる。
 私はもう何も考えられなくなり―――
「かが―――」
 困惑して自分の名を呼ぼうとしていた人の唇を塞いだ。
 そして自分がしでかしてしまった事の重大さに気付き、念願だったこなた本人を感じる事なくすぐに開放した。
「かがみ……」
 目を見開いたこなたは私から目線を逸らさない。私に余裕がないからなのかこなたの表情からは何も読み取れない。
 大波となり一気に押し寄せてくる背徳感や罪悪感といった感情。
「ごめん」
 私はそう呟いて雨上がりの道を駆け出した。
 ただひたすらに、意味がないと分かっているのに、心の中でこなたに謝り続けながら。





 届いたとしてもに続く














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コメント:
  • (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-06 00:06:42)
  • 良いです、凄く良いです!!! -- チャムチロ (2012-10-16 22:05:25)
  • 文章が巧いですね。どんどん読んでします -- 39108 (2008-01-08 23:39:59)

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