高良三行(みゆき)は如才ない少年だった。
勉学にも、運動神経にも、容姿にも、そして性格にも恵まれていた。
友人関係も彼は良好だった。クラスメートの誰とも適度に親しく――そして適度に距離があった。
だれとも近しいとは、つまりは誰からも遠いとうことだ。
広く浅く。知人友人は多いがいつも行動を共にする、親友というべきものはいない。
だが、その事を問題視する者はいなかった。本人も含めてだ。
孤立しているわけでも、孤独なわけでもない。
寂しくはない。こんなものだと思っていた。
つい最近までは…。
勉学にも、運動神経にも、容姿にも、そして性格にも恵まれていた。
友人関係も彼は良好だった。クラスメートの誰とも適度に親しく――そして適度に距離があった。
だれとも近しいとは、つまりは誰からも遠いとうことだ。
広く浅く。知人友人は多いがいつも行動を共にする、親友というべきものはいない。
だが、その事を問題視する者はいなかった。本人も含めてだ。
孤立しているわけでも、孤独なわけでもない。
寂しくはない。こんなものだと思っていた。
つい最近までは…。
「みゆっき君、今日はごはん一緒にどう?」
昼休みに、いつもの声がかかる。こなただ。隣にはつかさもいる。いつものチョココロネの袋を手にしている。
毎回昼休みごとにかかる声を、みゆきは待っていた。
「ええ、ご一緒させていただきます」
「やりぃ!」
こなたは近くにあった無人の机を動かして場所を作る。
「結構久しぶりだね、ゆき君と一緒に御飯食べるのも」
「そうでしょうか?」
つかさに言われて、みゆきは最近の昼休みのことを思い出す。
言われてみれば、確かに最近はクラス委員の仕事が多くて一緒に食事を取れなかった気がする。
「最近ずっと振られっぱなしだったからなぁ…まいったよ」
「すみません」
毎日の昼休み、こなたはみゆきに声をかけていた。
ありがたいことだ、とみゆきは思う。
いくら用事があったとはいえ、長い間をはさんでしまえば、その輪に戻るのが気まずくなっていたかもしれない。
普通はそんなことはないのだろうが、色々と考えすぎてしまう癖があるみゆきは、そう感じていたことだろう。
だから、昼休みごとにかけてくれるこなたの言葉は
『いつ戻ってきてもいいよ』
と言ってくれているようで、彼はうれしかったのだ。
「おまたせ…ってもう食ってるのかよ!」
「あむ?かがみ、遅かったね」
いつの間にか、チョココロネにかじりついていたこなたが、やってきた少年に言う。かがみだ。
かがみは不機嫌半分あきれ半分と言った風にため息をついて、近くの椅子を引っ張り座る。
「少しぐらい待てっつーの」
「もう、かがみんってば一人残されるのが寂しいんだ~」
「お前の中だと俺はどういう位置づけのキャラなんだよ!」
「そりゃ勿論、狼の皮をかぶった寂しがりやのウサギさん」
「二重の意味で失礼だなお前は」
「あはは、けどあってるかも」
「つかさ、お前まで…!」
かがみが輪に加わったことで、会話が一気に弾む。
こなたが話題を振り、かがみが答え、つかさが相槌を打つ。
そのテンポが心地いい。
「三人とも、本当に仲がいいですね」
思った言葉が、口から出た。
いってから、しまったと思う。なんだか改まって言うのも気恥しい言葉だと。
けれど、返ってきたのはからかいの言葉じゃなかった。
「ん?そりゃ違うよ、みゆき君」
「って、えっ!?」
「どんだけぇ?」
こなたの言葉にかがみとつかさが驚く。
そしてそれはみゆきも同じだった。
こなたは、自分達と近しいと思っていなかったのか?
もしそうだとしたら―――
「三人じゃなくて、四人、だよ。みゆき君も入れてね」
「――ぁ」
言われて、はっとする。
目の前で回っていた親友の輪。素晴らしく、そして羨ましいと思っていた絆の連なり。
無意識にみゆきは自分を仲の良い者達の勘定の外に置いていたが…言われて気付いた。
自分も、その素晴らしい輪の中に入っているのだと。
「なんだぁ?こなた、恥ずかしいセリフだな」
「おやぁ?そういうかがみこそ、さっきすごく切なそうな声を上げてなかったかなぁ?」
「―っ、そ、れはだな!」
再び、こなたとかがみの掛け合いが始まる。
気づかせてくれてありがとうと、言うための時機は既に逃してしまった。
その様子を笑顔で見つめながら、みゆきはこなたの事を考える。
やはり、彼女は凄い、と。
こなたがいなければ、自分はこんな風に親しい友人を……親友を得ることは叶わなかったろう。
この三人と過ごす時間があれば、ひょっとしたら何人もの友人を作ることは出来たかもしれない。
けれどそれによって出来るのはOne of friends ―――多くの友人のうちの一人だ。
かけがえのない友人―――かがみや、つかさや、そしてこなたのような親友を作ることはできなかったと思う。
入学のときに差し出されたこなたの手を掴んでよかったと思う。
それは自分を、自分の知らない価値、自分の知らない世界へと導いてくれる手だったのだ。
みゆきは、こなたという少女と友人になれたことをうれしく思い―――
昼休みに、いつもの声がかかる。こなただ。隣にはつかさもいる。いつものチョココロネの袋を手にしている。
毎回昼休みごとにかかる声を、みゆきは待っていた。
「ええ、ご一緒させていただきます」
「やりぃ!」
こなたは近くにあった無人の机を動かして場所を作る。
「結構久しぶりだね、ゆき君と一緒に御飯食べるのも」
「そうでしょうか?」
つかさに言われて、みゆきは最近の昼休みのことを思い出す。
言われてみれば、確かに最近はクラス委員の仕事が多くて一緒に食事を取れなかった気がする。
「最近ずっと振られっぱなしだったからなぁ…まいったよ」
「すみません」
毎日の昼休み、こなたはみゆきに声をかけていた。
ありがたいことだ、とみゆきは思う。
いくら用事があったとはいえ、長い間をはさんでしまえば、その輪に戻るのが気まずくなっていたかもしれない。
普通はそんなことはないのだろうが、色々と考えすぎてしまう癖があるみゆきは、そう感じていたことだろう。
だから、昼休みごとにかけてくれるこなたの言葉は
『いつ戻ってきてもいいよ』
と言ってくれているようで、彼はうれしかったのだ。
「おまたせ…ってもう食ってるのかよ!」
「あむ?かがみ、遅かったね」
いつの間にか、チョココロネにかじりついていたこなたが、やってきた少年に言う。かがみだ。
かがみは不機嫌半分あきれ半分と言った風にため息をついて、近くの椅子を引っ張り座る。
「少しぐらい待てっつーの」
「もう、かがみんってば一人残されるのが寂しいんだ~」
「お前の中だと俺はどういう位置づけのキャラなんだよ!」
「そりゃ勿論、狼の皮をかぶった寂しがりやのウサギさん」
「二重の意味で失礼だなお前は」
「あはは、けどあってるかも」
「つかさ、お前まで…!」
かがみが輪に加わったことで、会話が一気に弾む。
こなたが話題を振り、かがみが答え、つかさが相槌を打つ。
そのテンポが心地いい。
「三人とも、本当に仲がいいですね」
思った言葉が、口から出た。
いってから、しまったと思う。なんだか改まって言うのも気恥しい言葉だと。
けれど、返ってきたのはからかいの言葉じゃなかった。
「ん?そりゃ違うよ、みゆき君」
「って、えっ!?」
「どんだけぇ?」
こなたの言葉にかがみとつかさが驚く。
そしてそれはみゆきも同じだった。
こなたは、自分達と近しいと思っていなかったのか?
もしそうだとしたら―――
「三人じゃなくて、四人、だよ。みゆき君も入れてね」
「――ぁ」
言われて、はっとする。
目の前で回っていた親友の輪。素晴らしく、そして羨ましいと思っていた絆の連なり。
無意識にみゆきは自分を仲の良い者達の勘定の外に置いていたが…言われて気付いた。
自分も、その素晴らしい輪の中に入っているのだと。
「なんだぁ?こなた、恥ずかしいセリフだな」
「おやぁ?そういうかがみこそ、さっきすごく切なそうな声を上げてなかったかなぁ?」
「―っ、そ、れはだな!」
再び、こなたとかがみの掛け合いが始まる。
気づかせてくれてありがとうと、言うための時機は既に逃してしまった。
その様子を笑顔で見つめながら、みゆきはこなたの事を考える。
やはり、彼女は凄い、と。
こなたがいなければ、自分はこんな風に親しい友人を……親友を得ることは叶わなかったろう。
この三人と過ごす時間があれば、ひょっとしたら何人もの友人を作ることは出来たかもしれない。
けれどそれによって出来るのはOne of friends ―――多くの友人のうちの一人だ。
かけがえのない友人―――かがみや、つかさや、そしてこなたのような親友を作ることはできなかったと思う。
入学のときに差し出されたこなたの手を掴んでよかったと思う。
それは自分を、自分の知らない価値、自分の知らない世界へと導いてくれる手だったのだ。
みゆきは、こなたという少女と友人になれたことをうれしく思い―――
―――同時に僅かに感じた違和感と空虚感が混ざったような感情を、気のせいだと思って無視をした。
「みゆき君と二人きりで帰るのって、ひょっとしたら初めて?」
「そうですね。いつもは方向も違いますし」
放課後、みゆきとこなたは二人で電車に乗っていた。かがみとつかさの姿はない。
みゆきの家は上り方面、こなたと柊兄弟の家は上り方面。
だから一緒に変えるとしても、普段はみゆきとは駅で別れることになるのだが…
「アルバイト、大変ですね」
今日のこなたは、アルバイト先であるコスプレ喫茶に学校から直接行くため、こうしてみゆきと同じ電車に乗っている。
「いやいや、最初はコンプ祭りのためだったけど、最近はバイト自体も楽しくてさ。
しかも結構古株になっちゃったから頼られちゃって」
「ふふふ…僕も一度やってみたいかもしれません」
「いいね!近所の執事喫茶に知り合いがいるから紹介してあげようか?」
などと、とりとめない会話をつづけていて、二人は、自分たちの乗る電車が、乗り換えの激しい駅に止まったことを失念した。
ドアが開き、人が流れ始める。
群としての人間の動きは、個体を簡単に押し流す。まして、小柄なこなたの体はなおさらだった。
「わとぉっ…!」
「こなたさん!」
ホームに押し出されそうになるこなたの体を、みゆきが捕まえる。
手を取り、引っ張り、抱き寄せた。
「あ…」
「そうですね。いつもは方向も違いますし」
放課後、みゆきとこなたは二人で電車に乗っていた。かがみとつかさの姿はない。
みゆきの家は上り方面、こなたと柊兄弟の家は上り方面。
だから一緒に変えるとしても、普段はみゆきとは駅で別れることになるのだが…
「アルバイト、大変ですね」
今日のこなたは、アルバイト先であるコスプレ喫茶に学校から直接行くため、こうしてみゆきと同じ電車に乗っている。
「いやいや、最初はコンプ祭りのためだったけど、最近はバイト自体も楽しくてさ。
しかも結構古株になっちゃったから頼られちゃって」
「ふふふ…僕も一度やってみたいかもしれません」
「いいね!近所の執事喫茶に知り合いがいるから紹介してあげようか?」
などと、とりとめない会話をつづけていて、二人は、自分たちの乗る電車が、乗り換えの激しい駅に止まったことを失念した。
ドアが開き、人が流れ始める。
群としての人間の動きは、個体を簡単に押し流す。まして、小柄なこなたの体はなおさらだった。
「わとぉっ…!」
「こなたさん!」
ホームに押し出されそうになるこなたの体を、みゆきが捕まえる。
手を取り、引っ張り、抱き寄せた。
「あ…」

みゆきは胸の下側――鳩尾の辺りで声を感じた。
その内に社内の陣以降密度は下がり、人の流れは流出から流入へと方向を変える。
空いた座席や吊り輪がどんどん埋まり、電車の中の密度は元に戻る。
アラームが鳴り、列車が出た。
「座り損ねましたね」
その段になって、みゆきは一息をつく。
自分は次の駅で降りるからいいが、こなたはもう少し乗っていなくてはならない。
先ほどの乗り換えの時に空いた席に、彼女を座らせれれば良かったのだが…
「あ、あのさ、みゆき君?」
「なんですか?」
みゆきは自分の腕の中に収まったこなたを見ながら答え―――その状況の意味を認識した。
「す、すみません!」
腕の中のこなたを放し、自分でも分かるほどうろたえた声を上げて半歩下がる。
もしもここが電車ではなく人がいなければ、そのまま何メートルか飛び下がっていたかもしれない。
「いや、謝んなくていいけどさ。助けられたわけだし…」
照れくさそうにこなたは頬をかく。
どう答えようかとみゆきは考えるが、彼の優秀な頭脳は別の作業で容量いっぱいだった。
学生服の厚い布地越しに感じた、こなたのほっそりとした骨格。
わずかに感じた、つつましやかなふくらみ。
香水とは異なる、女性特有の甘い香り。
みゆきの、思春期の少年としての感覚は、忘れていた――忘れかけていた事実を想いださせた。
泉こなたは―――目の前にいるのは―――
「――みゆき君?」
「な、なんですか?」
「なんですかじゃないよ。そっちこそどしたの?急にボーっとして」
「いえ…その…」
言葉を濁すみゆき。
けれども気づいてしまった事実はいかんともしがたい。
目の前にいるの親友は―――女性なのだ。
必死で、みゆきはそんな心の迷いを打ち消そうとする。
いけない。彼女は友人だ。親友であり、そんな対象ではない!こんな思いを抱くのは、ある種の裏切りじゃないか。
その内に社内の陣以降密度は下がり、人の流れは流出から流入へと方向を変える。
空いた座席や吊り輪がどんどん埋まり、電車の中の密度は元に戻る。
アラームが鳴り、列車が出た。
「座り損ねましたね」
その段になって、みゆきは一息をつく。
自分は次の駅で降りるからいいが、こなたはもう少し乗っていなくてはならない。
先ほどの乗り換えの時に空いた席に、彼女を座らせれれば良かったのだが…
「あ、あのさ、みゆき君?」
「なんですか?」
みゆきは自分の腕の中に収まったこなたを見ながら答え―――その状況の意味を認識した。
「す、すみません!」
腕の中のこなたを放し、自分でも分かるほどうろたえた声を上げて半歩下がる。
もしもここが電車ではなく人がいなければ、そのまま何メートルか飛び下がっていたかもしれない。
「いや、謝んなくていいけどさ。助けられたわけだし…」
照れくさそうにこなたは頬をかく。
どう答えようかとみゆきは考えるが、彼の優秀な頭脳は別の作業で容量いっぱいだった。
学生服の厚い布地越しに感じた、こなたのほっそりとした骨格。
わずかに感じた、つつましやかなふくらみ。
香水とは異なる、女性特有の甘い香り。
みゆきの、思春期の少年としての感覚は、忘れていた――忘れかけていた事実を想いださせた。
泉こなたは―――目の前にいるのは―――
「――みゆき君?」
「な、なんですか?」
「なんですかじゃないよ。そっちこそどしたの?急にボーっとして」
「いえ…その…」
言葉を濁すみゆき。
けれども気づいてしまった事実はいかんともしがたい。
目の前にいるの親友は―――女性なのだ。
必死で、みゆきはそんな心の迷いを打ち消そうとする。
いけない。彼女は友人だ。親友であり、そんな対象ではない!こんな思いを抱くのは、ある種の裏切りじゃないか。
それは潔癖な少年らしい心の動き。けれども、彼の心を惑乱させた少女は、無意識にして無慈悲な追撃を加えた。
「あ、ひょっとして―――私に女の子を感じてドキドキしちゃったり?」
「―――」
ああ、駄目だ。
みゆきは自覚する。
想っただけなら、ただの気の迷いで済む。
けれども想いは言葉と言う形にされてしまった。
生じてしまった言霊は、強制力を持って彼を変える。
認識とは、対象物と観測者の関係によって変化する。観測者が変われば認識は変わる。
見慣れたはずの眠たげなこなたの瞳が、長く艶やかな髪が、首をかしげる仕草が、全てが別物に見えてくる。
その全てに―――異性を感じる。
電車が駅に着く。みゆきが降りる駅だ。
ドアが開いた。彼は降りない。
「みゆき君?」
こなたが、うつむいたみゆきの顔を覗き込んできた。
不審さと若干の不安が見える。
自分がからかったせいで、みゆきが傷ついたのではと思ったのかもしれない。
もちろんそれは間違えで、またみゆきにとってはどうでも良いことだ。
今の彼に重要なのは、そんなこなたの表情もまた、魅力的だということだ。
そろそろ、ドアが閉まる頃、みゆきは顔を上げてこなたを見て―――
「だとしたら…」
みゆき自身でもびっくりするようなしっかりとした声音で――
「もし、本当に僕がこなたさんにドキドキしたのだとしたら、どうします?」
言い残して、電車から降りる。
「――――」
こなたが何か言ったような気がしたが、それは扉が閉まる音でかき消えた。
みゆきが振り向けば、こなたが覗く窓はだいぶ離れたところまで行っていた。
こなたの表情は見えない。
「はぁ……」
溜息。
脱力感を感じる。頬が熱く、動悸がする。
けれど後悔はない。むしろ快い開放感があった。
「ああ―――そうか」
少しずつ冷えていく頭が状況の分析を済ませてゆく。
昼間に感じた僅かな違和感。あれは、四人という単語によるものだ。
かがみやつかさを含めた三人と親友でありたいと思う気持ちと同じように、自分の心の中にはもう一つの隠れた想いがあったのだ。
こなたさんと親しくありたい。
あの時の違和感は、無意識の庭で静かに芽吹き育っていた、この欲求の叫びだったのだ。
恋心と言う、欲求。
「そっか…好きなのか」
我知らず、みゆきの口元に笑みが浮かんだ。
やはり、こなたは自分を知らない世界に導く手なのだろう。
まずは今までなかった親友を与え、知らなかった話題を提供し、そして今―――自分を初恋へと誘った。
みゆきは、歩きだした。
まずは帰ろう。
家に帰って、今日の授業の復習をして、明日の授業の予習をして、それから―――
「あ、ひょっとして―――私に女の子を感じてドキドキしちゃったり?」
「―――」
ああ、駄目だ。
みゆきは自覚する。
想っただけなら、ただの気の迷いで済む。
けれども想いは言葉と言う形にされてしまった。
生じてしまった言霊は、強制力を持って彼を変える。
認識とは、対象物と観測者の関係によって変化する。観測者が変われば認識は変わる。
見慣れたはずの眠たげなこなたの瞳が、長く艶やかな髪が、首をかしげる仕草が、全てが別物に見えてくる。
その全てに―――異性を感じる。
電車が駅に着く。みゆきが降りる駅だ。
ドアが開いた。彼は降りない。
「みゆき君?」
こなたが、うつむいたみゆきの顔を覗き込んできた。
不審さと若干の不安が見える。
自分がからかったせいで、みゆきが傷ついたのではと思ったのかもしれない。
もちろんそれは間違えで、またみゆきにとってはどうでも良いことだ。
今の彼に重要なのは、そんなこなたの表情もまた、魅力的だということだ。
そろそろ、ドアが閉まる頃、みゆきは顔を上げてこなたを見て―――
「だとしたら…」
みゆき自身でもびっくりするようなしっかりとした声音で――
「もし、本当に僕がこなたさんにドキドキしたのだとしたら、どうします?」
言い残して、電車から降りる。
「――――」
こなたが何か言ったような気がしたが、それは扉が閉まる音でかき消えた。
みゆきが振り向けば、こなたが覗く窓はだいぶ離れたところまで行っていた。
こなたの表情は見えない。
「はぁ……」
溜息。
脱力感を感じる。頬が熱く、動悸がする。
けれど後悔はない。むしろ快い開放感があった。
「ああ―――そうか」
少しずつ冷えていく頭が状況の分析を済ませてゆく。
昼間に感じた僅かな違和感。あれは、四人という単語によるものだ。
かがみやつかさを含めた三人と親友でありたいと思う気持ちと同じように、自分の心の中にはもう一つの隠れた想いがあったのだ。
こなたさんと親しくありたい。
あの時の違和感は、無意識の庭で静かに芽吹き育っていた、この欲求の叫びだったのだ。
恋心と言う、欲求。
「そっか…好きなのか」
我知らず、みゆきの口元に笑みが浮かんだ。
やはり、こなたは自分を知らない世界に導く手なのだろう。
まずは今までなかった親友を与え、知らなかった話題を提供し、そして今―――自分を初恋へと誘った。
みゆきは、歩きだした。
まずは帰ろう。
家に帰って、今日の授業の復習をして、明日の授業の予習をして、それから―――
―――恋を成就するにはどうすればいいか、少し調べてみよう。
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