つかさには頼れる兄がいた。
勉強も、スポーツもできるしっかり者の双子の兄、かがみだ。
彼にとってかがみは文字通り頼れる存在であり、同時に敵わない相手でもあった。
勉強でも、スポーツでも敵わない。
コンプレックス、という程ではない。好きか嫌いかと言われれば好きだし、尊敬している。
また自分にだって、料理や家事などの得意な分野もある。
そしてなにより、敵わない現状に満足している自分が、つかさの中にいた。
お兄ちゃんだからしょうがないか。
お兄ちゃんだから負けてもいいよ。
そんな争いを避ける感情が常に心の中にあった。
けれど……ついに見つけてしまった。
たとえ争ったとしても兄に――かがみにであっても負けたくないものを。
勉強も、スポーツもできるしっかり者の双子の兄、かがみだ。
彼にとってかがみは文字通り頼れる存在であり、同時に敵わない相手でもあった。
勉強でも、スポーツでも敵わない。
コンプレックス、という程ではない。好きか嫌いかと言われれば好きだし、尊敬している。
また自分にだって、料理や家事などの得意な分野もある。
そしてなにより、敵わない現状に満足している自分が、つかさの中にいた。
お兄ちゃんだからしょうがないか。
お兄ちゃんだから負けてもいいよ。
そんな争いを避ける感情が常に心の中にあった。
けれど……ついに見つけてしまった。
たとえ争ったとしても兄に――かがみにであっても負けたくないものを。
風がなく、地面に対して垂直に下りて傘にぶつかる雨音が心地いい。
つかさは買い物バックを手にして歩いていた。夜の雨の中だが機嫌は上々だ。
「たこわさ安かったな~」
理由はそれ。
買いに行ったのはケーキの材料だったが、偶然に見たナマモノコーナーで安売りしていた。
鼻歌でも歌いそうな風に歩いていると、バス停に見慣れた影を見つけた。
自分が通う学校のセーラー服をきたその姿を見間違えるはずがなかった。
「こなちゃん?」
「ん?あ、つかさだ」
ひさしが付いたバス停の待合に座っていたのはこなただった。
今日はバイトがあるからとみゆきと一緒の電車で帰ったはずだが…
「バイト帰り?」
「うん、それで雨宿り。けど…本降りになってきちゃってさ」
バスがなかなか来ないなぁ、とぼやくこなた。
いつもの余裕があるというかやる気のないとうか、そんな自然体のように見えるが…
「…なにか、あったの?」
つかさは買い物袋を置いて、隣に座る。
「何のこと?」
「隠しても分かるよ」
雨垂れを見つめたままのこなたの横顔に、つかさは笑いかける。
入学したての頃からずっと、こなたのことを見てきた。みゆきや、そしてかがみよりも。だからこそ、確信を持って言える。
「……ちょっとさ」
観念したかのように、こなたは口を開く。
「少し気になること言われてね」
「……傷つくようなこと、じゃないよね?」
「うん、そんなんじゃなくて……よくわからないこと」
表情に嘘は見えない。きっと本当に分からないのだろう。言われたことの内容―――というよりその言葉が自分に対してどんな意味を持つのかが。
「ま、多分冗談だと思うんだけどね!」
言いながら、こなたは伸びをする。どうやら彼女の中で一つの結論が付いたらしい。
「ありがと、つかさ。相談乗ってくれて」
「僕は何もしてないよ」
謙遜抜きでつかさはいう。実際、ただ気になることを聞いただけなのだから。
「けどさ、実際誰かに聞いてもらえなかったらずっと同じ所をグルグル回ってただけだと思うから。だから…ありがとう」
「そっか…」
よくわからなかったが、こなたが救われたのならそれでいいのかもしれないと、つかさは思い、自然と顔がほころぶ。
「さって、じゃあ、そろそろ私、帰るよ」
「え、けど…」
つかさは空を見る。雨粒が直接見えるわけでもないが、トタン屋根を打つ雨音は変わらない。
「ずっとここで待ってるわけにもいかないし、走って帰るよ」
諦めた感じでこなたは言う。
確かにこのまま待っていても、雨が上がる気配はないのだが…
「ま、まってよ!」
「ん?」
今にも飛び出して行きそうなこなたをつかさが止める。
「よかったら一緒に入ってかない?」
「そりゃありがたいけど、方向逆じゃん。買い物帰りでしょ?」
こなたの指摘は正しかった。泉家と柊家ではここから見て真逆の方向だ。しかも結構距離がある。
だからつかさは折衷案を出した。
「家は遠いけど…この近くにうちの神社があるから、そこによって傘を借りればいいよ」
今の時間なら、まだ父か祖父がいるはずだ。
「あ、そっか。その手があったか、ナイスつかさ!」
「えへへ…」
ウィンクして親指を立てるこなた。
つかさは照れ臭そうに笑いながら、自分が来ていたジャンパーを脱いで
「はい」
「何?」
「着てよ」
と、こなたに渡す。不思議そうにしているこなたに
「2人だと濡れちゃうから、こなちゃんが着なよ」
「え、悪いよそんなの…」
遠慮するこなたに、つかさは珍しく強引に押し付ける。
「いいからいいから。僕だって男なんだから女の子を雨で濡らしちゃうわけにもいかないでしょ?
それに……」
「それに?」
つかさは、少し言いにくそうにしてから……
「…下着、ちょっと透けてるよ?」
つかさは買い物バックを手にして歩いていた。夜の雨の中だが機嫌は上々だ。
「たこわさ安かったな~」
理由はそれ。
買いに行ったのはケーキの材料だったが、偶然に見たナマモノコーナーで安売りしていた。
鼻歌でも歌いそうな風に歩いていると、バス停に見慣れた影を見つけた。
自分が通う学校のセーラー服をきたその姿を見間違えるはずがなかった。
「こなちゃん?」
「ん?あ、つかさだ」
ひさしが付いたバス停の待合に座っていたのはこなただった。
今日はバイトがあるからとみゆきと一緒の電車で帰ったはずだが…
「バイト帰り?」
「うん、それで雨宿り。けど…本降りになってきちゃってさ」
バスがなかなか来ないなぁ、とぼやくこなた。
いつもの余裕があるというかやる気のないとうか、そんな自然体のように見えるが…
「…なにか、あったの?」
つかさは買い物袋を置いて、隣に座る。
「何のこと?」
「隠しても分かるよ」
雨垂れを見つめたままのこなたの横顔に、つかさは笑いかける。
入学したての頃からずっと、こなたのことを見てきた。みゆきや、そしてかがみよりも。だからこそ、確信を持って言える。
「……ちょっとさ」
観念したかのように、こなたは口を開く。
「少し気になること言われてね」
「……傷つくようなこと、じゃないよね?」
「うん、そんなんじゃなくて……よくわからないこと」
表情に嘘は見えない。きっと本当に分からないのだろう。言われたことの内容―――というよりその言葉が自分に対してどんな意味を持つのかが。
「ま、多分冗談だと思うんだけどね!」
言いながら、こなたは伸びをする。どうやら彼女の中で一つの結論が付いたらしい。
「ありがと、つかさ。相談乗ってくれて」
「僕は何もしてないよ」
謙遜抜きでつかさはいう。実際、ただ気になることを聞いただけなのだから。
「けどさ、実際誰かに聞いてもらえなかったらずっと同じ所をグルグル回ってただけだと思うから。だから…ありがとう」
「そっか…」
よくわからなかったが、こなたが救われたのならそれでいいのかもしれないと、つかさは思い、自然と顔がほころぶ。
「さって、じゃあ、そろそろ私、帰るよ」
「え、けど…」
つかさは空を見る。雨粒が直接見えるわけでもないが、トタン屋根を打つ雨音は変わらない。
「ずっとここで待ってるわけにもいかないし、走って帰るよ」
諦めた感じでこなたは言う。
確かにこのまま待っていても、雨が上がる気配はないのだが…
「ま、まってよ!」
「ん?」
今にも飛び出して行きそうなこなたをつかさが止める。
「よかったら一緒に入ってかない?」
「そりゃありがたいけど、方向逆じゃん。買い物帰りでしょ?」
こなたの指摘は正しかった。泉家と柊家ではここから見て真逆の方向だ。しかも結構距離がある。
だからつかさは折衷案を出した。
「家は遠いけど…この近くにうちの神社があるから、そこによって傘を借りればいいよ」
今の時間なら、まだ父か祖父がいるはずだ。
「あ、そっか。その手があったか、ナイスつかさ!」
「えへへ…」
ウィンクして親指を立てるこなた。
つかさは照れ臭そうに笑いながら、自分が来ていたジャンパーを脱いで
「はい」
「何?」
「着てよ」
と、こなたに渡す。不思議そうにしているこなたに
「2人だと濡れちゃうから、こなちゃんが着なよ」
「え、悪いよそんなの…」
遠慮するこなたに、つかさは珍しく強引に押し付ける。
「いいからいいから。僕だって男なんだから女の子を雨で濡らしちゃうわけにもいかないでしょ?
それに……」
「それに?」
つかさは、少し言いにくそうにしてから……
「…下着、ちょっと透けてるよ?」
結局、こなたはつかさの言葉に従い、セーラー服の上からジャンパーを着込んだ。
「うへぇ…べしゃべしゃだぁ…」
「ううう…ついてないよぉ」
10分ほど後、濡れネズミになった2人が神社の裏にある事務所にいた。
つかさは胸から下、こなたに至っては頭からずぶぬれだ。
「二人とも運が悪かったね。水をはねられるなんて」
柊の父が苦笑いをしながらタオルを貸してくれた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
2人は乾いたタオルに顔をうずめて一息つく。
2人が濡れネズミな理由はトラックだ。
一撃必殺、見事なまでの水はねだった。
「奥にシャワーがあるから使いなさい。それじゃあ、私は仕事がまだあるから」
そう言って父親は事務所の方に戻って行った。
二人は奥に入り、出してもらったお茶を飲みながらこなたは言う。
「ううう…ジャンパーがなければ即死だった。下着的な意味で」
「あはは、貸しといて良かった」
苦笑するつかさ。ちなみに彼の方は下着までアウトだった。
「それじゃ、こなちゃんから先にシャワーもらってきなよ?」
「ん?いいの?じゃ、遠慮なく~」
そう言うと、こなたは奥の方に歩いて行った。
そするうと、妙につかさの所在がなくなる。
雨の音は相変わらず外から聞こえてくるのに、感じるのは静けさだった。
「ふぅ…」
お茶をもう一口飲んでから、ソファの背もたれに体を預けて天井を見上げる。
胃から広がる温かさが心地いい……
「おぉうい、つかさ~」
突然に、つかさは意識を呼び戻される。
「なに、こなちゃ……!ぅわたぁっ!」
顔をこなたの方を向け―――目に飛び込んできた光景に、つかさはバランスを崩す。
扉の陰から、こなたが首だけを出してこちらを見ていた。
けれど当然体が全部隠れているわけではなくて、そのほっそりとした肩口のあたりまで見えていて…
……その肩は布で覆われていなかった。
つまり扉の向こうのこなたは何も身に付けていないということで…
「だだだ!ダメだよこなちゃん!」
「何が?」
「み、見えちゃう!服着てよ!」
「いいじゃん、このくらい。大事な所は見えてないっしょ?それより、バスタオル貸してくれない?」
「ええ、えっと…た、多分脱衣所にあると思うよ!」
「ん?そう……?」
こなたの頭が扉の向こうに引っ込む。しばらく音がして…
『おお!あったあった!サンキュー』
声が返ってきて、しばらくしてから雨音とは違うまとまった水音、シャワー音が聞こえてくる。
それを確認してから、つかさは大きく息を吐いた。
「こなちゃんったら……」
脱力。その後、頬杖をついて物思いにふける。
「…からかわれたのかな?」
自称キツネのこなたはイタズラ好きだ。そしてその対象は大抵、兄のかがみだが、今回は自分にお鉢が回ってきたのかもしれない。
だがあるいは…
「それとも……男として見られてないのかな?」
だとしたら、少しショックかもしれない。
かがみとつかさの上には二人の姉がいる。その影響のせいか、つかさは頼りない――どちらかと言えば女の子に近い性格だ。
「そう言えば初めてこなちゃんと会った時も……」
やけに体格のいい外国人さんに話しかけられて困っているときに、こなたが助けに入ってくれた―――武力介入で。
「やっぱり、そうなのかもな」
男として見られていないのかもしれない。だとしたら
「結構傷つくかもな…」
自分が男らしくないというのは自覚しているし、別に治そうとは思わない。自分の趣味や性格は、それなりに気に入っている。
けれど、流石にこなたに男として見られていないって言うのは…、とそこで疑問が生じる。
「―――どうして、こなちゃんだけにそう思ってもらいたくないんだろう?」
自分の思考に対する疑問。なぜ、こなたに自分を異性として認識されて欲しいのか?
答えなど、すぐに出る。
「こなちゃんのこと……」
「つ~かさ!あがったよぉ」
「!そ、そう」
出かけた結論を、慌てて飲み込む。
いけない。何を考えていたんだ。
振り払うようにつかさは身を起して―――こんどはこなたの姿に固まった。
「じゃーん!ハ~ダ~カ~ティ~シャ~ツ~」
ドラえもん風な口調で言ったそれは、言葉のままの姿だった。
小柄な彼女の体を包んでいるのは、男物のTシャツだけ。
ほっそりとした足が、Tシャツの下から生えている。
襟口からは鎖骨が浮き出た肩が見える。
「いやあ、本当はYシャツがあったらよかったんだけどさ~」
「だ、駄目だよ…服、着て…」
本当は見るべきじゃない。目をそむけるべき。
理性ではそう言っているのに、つかさはこなたから目を背けることができなかった。
その様子を見て、こなたはいつもとは違う、どこか媚びるような誘うような笑顔を作ってみせる。
駄目だ…来ちゃ…
「どう?この男のロマン?似合う?襲っちゃう?」
言いながら近づいてくる。そして…すぐ近く、手の届くところにまで近づいて…
「なーんちゃって☆びっくりした?」
「――え?」
表情が普段の寝ぼけた猫の様なものに変わる。
「裸じゃなくて着てるよ、下に下着。ま、それでも恥ずかしいけど…ワンピースと思えばそうでもないかな?」
飄々とした態度で笑うこなたは、茫然とした風なつかさを見て…
「ん?意識してるの?―――つかさのくせに」
瞬間、つかさの頭を占める色が変わった。
気恥しさのピンクから……怒りの赤に。
つかさのくせに?僕のくせにってどういうこと?
僕がこんなことされてどうにも思わないと思ってるの?
僕がこんなことをされて何もしないと思ってるの?
一方、不意に動揺を感じなくなったつかさをみて、こなたは安堵を覚えた。
そう、冗談。冗談なのだ。冗談の一つでも、人はこんな風にドキドキする。だからきっとみゆき君の言った言葉だって…
「こなちゃん」
何、と聞く前に、視界が意図しない動きを見せた。
手を掴まれて引っ張られた。
体が覚えさせられた格闘技の経験は、即座に体を痛めないような転倒をする。
けれど、立ち上がることはできなかった。覆いかぶさられたからだ。上から?
誰に?
「つか…さ?」
こなたが、カの鳴くような声で名前を呼ぶ。
名前を呼ばれたつかさは、けれど聞いていない。
茫然とした、何が起こったか分かっていないこなたを汲み伏せたまま、まっすぐとその目を見つめて…
「僕だって、男なんだよ?こなちゃん」
遠雷。
雨はいつの間にか激しさを増し、静けさはより深まっていく。
数秒とも数分ともつかない、時間感覚を忘れさせる沈黙。
先に動いたのは、つかさだった。
彼は何事もなかったかのように立ち上がると、脱衣場に向かう。
「僕もシャワー貰うから。早く服着ないと風邪、ひくよ?」
振りかえらずにつかさは言って、脱衣場に入った。
残ったのは、床の上にへたり込んだ、下着の上にワイシャツを着込んだだけの姿のこなただけだった。
「ううう…ついてないよぉ」
10分ほど後、濡れネズミになった2人が神社の裏にある事務所にいた。
つかさは胸から下、こなたに至っては頭からずぶぬれだ。
「二人とも運が悪かったね。水をはねられるなんて」
柊の父が苦笑いをしながらタオルを貸してくれた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
2人は乾いたタオルに顔をうずめて一息つく。
2人が濡れネズミな理由はトラックだ。
一撃必殺、見事なまでの水はねだった。
「奥にシャワーがあるから使いなさい。それじゃあ、私は仕事がまだあるから」
そう言って父親は事務所の方に戻って行った。
二人は奥に入り、出してもらったお茶を飲みながらこなたは言う。
「ううう…ジャンパーがなければ即死だった。下着的な意味で」
「あはは、貸しといて良かった」
苦笑するつかさ。ちなみに彼の方は下着までアウトだった。
「それじゃ、こなちゃんから先にシャワーもらってきなよ?」
「ん?いいの?じゃ、遠慮なく~」
そう言うと、こなたは奥の方に歩いて行った。
そするうと、妙につかさの所在がなくなる。
雨の音は相変わらず外から聞こえてくるのに、感じるのは静けさだった。
「ふぅ…」
お茶をもう一口飲んでから、ソファの背もたれに体を預けて天井を見上げる。
胃から広がる温かさが心地いい……
「おぉうい、つかさ~」
突然に、つかさは意識を呼び戻される。
「なに、こなちゃ……!ぅわたぁっ!」
顔をこなたの方を向け―――目に飛び込んできた光景に、つかさはバランスを崩す。
扉の陰から、こなたが首だけを出してこちらを見ていた。
けれど当然体が全部隠れているわけではなくて、そのほっそりとした肩口のあたりまで見えていて…
……その肩は布で覆われていなかった。
つまり扉の向こうのこなたは何も身に付けていないということで…
「だだだ!ダメだよこなちゃん!」
「何が?」
「み、見えちゃう!服着てよ!」
「いいじゃん、このくらい。大事な所は見えてないっしょ?それより、バスタオル貸してくれない?」
「ええ、えっと…た、多分脱衣所にあると思うよ!」
「ん?そう……?」
こなたの頭が扉の向こうに引っ込む。しばらく音がして…
『おお!あったあった!サンキュー』
声が返ってきて、しばらくしてから雨音とは違うまとまった水音、シャワー音が聞こえてくる。
それを確認してから、つかさは大きく息を吐いた。
「こなちゃんったら……」
脱力。その後、頬杖をついて物思いにふける。
「…からかわれたのかな?」
自称キツネのこなたはイタズラ好きだ。そしてその対象は大抵、兄のかがみだが、今回は自分にお鉢が回ってきたのかもしれない。
だがあるいは…
「それとも……男として見られてないのかな?」
だとしたら、少しショックかもしれない。
かがみとつかさの上には二人の姉がいる。その影響のせいか、つかさは頼りない――どちらかと言えば女の子に近い性格だ。
「そう言えば初めてこなちゃんと会った時も……」
やけに体格のいい外国人さんに話しかけられて困っているときに、こなたが助けに入ってくれた―――武力介入で。
「やっぱり、そうなのかもな」
男として見られていないのかもしれない。だとしたら
「結構傷つくかもな…」
自分が男らしくないというのは自覚しているし、別に治そうとは思わない。自分の趣味や性格は、それなりに気に入っている。
けれど、流石にこなたに男として見られていないって言うのは…、とそこで疑問が生じる。
「―――どうして、こなちゃんだけにそう思ってもらいたくないんだろう?」
自分の思考に対する疑問。なぜ、こなたに自分を異性として認識されて欲しいのか?
答えなど、すぐに出る。
「こなちゃんのこと……」
「つ~かさ!あがったよぉ」
「!そ、そう」
出かけた結論を、慌てて飲み込む。
いけない。何を考えていたんだ。
振り払うようにつかさは身を起して―――こんどはこなたの姿に固まった。
「じゃーん!ハ~ダ~カ~ティ~シャ~ツ~」
ドラえもん風な口調で言ったそれは、言葉のままの姿だった。
小柄な彼女の体を包んでいるのは、男物のTシャツだけ。
ほっそりとした足が、Tシャツの下から生えている。
襟口からは鎖骨が浮き出た肩が見える。
「いやあ、本当はYシャツがあったらよかったんだけどさ~」
「だ、駄目だよ…服、着て…」
本当は見るべきじゃない。目をそむけるべき。
理性ではそう言っているのに、つかさはこなたから目を背けることができなかった。
その様子を見て、こなたはいつもとは違う、どこか媚びるような誘うような笑顔を作ってみせる。
駄目だ…来ちゃ…
「どう?この男のロマン?似合う?襲っちゃう?」
言いながら近づいてくる。そして…すぐ近く、手の届くところにまで近づいて…
「なーんちゃって☆びっくりした?」
「――え?」
表情が普段の寝ぼけた猫の様なものに変わる。
「裸じゃなくて着てるよ、下に下着。ま、それでも恥ずかしいけど…ワンピースと思えばそうでもないかな?」
飄々とした態度で笑うこなたは、茫然とした風なつかさを見て…
「ん?意識してるの?―――つかさのくせに」
瞬間、つかさの頭を占める色が変わった。
気恥しさのピンクから……怒りの赤に。
つかさのくせに?僕のくせにってどういうこと?
僕がこんなことされてどうにも思わないと思ってるの?
僕がこんなことをされて何もしないと思ってるの?
一方、不意に動揺を感じなくなったつかさをみて、こなたは安堵を覚えた。
そう、冗談。冗談なのだ。冗談の一つでも、人はこんな風にドキドキする。だからきっとみゆき君の言った言葉だって…
「こなちゃん」
何、と聞く前に、視界が意図しない動きを見せた。
手を掴まれて引っ張られた。
体が覚えさせられた格闘技の経験は、即座に体を痛めないような転倒をする。
けれど、立ち上がることはできなかった。覆いかぶさられたからだ。上から?
誰に?
「つか…さ?」
こなたが、カの鳴くような声で名前を呼ぶ。
名前を呼ばれたつかさは、けれど聞いていない。
茫然とした、何が起こったか分かっていないこなたを汲み伏せたまま、まっすぐとその目を見つめて…
「僕だって、男なんだよ?こなちゃん」
遠雷。
雨はいつの間にか激しさを増し、静けさはより深まっていく。
数秒とも数分ともつかない、時間感覚を忘れさせる沈黙。
先に動いたのは、つかさだった。
彼は何事もなかったかのように立ち上がると、脱衣場に向かう。
「僕もシャワー貰うから。早く服着ないと風邪、ひくよ?」
振りかえらずにつかさは言って、脱衣場に入った。
残ったのは、床の上にへたり込んだ、下着の上にワイシャツを着込んだだけの姿のこなただけだった。
「僕は…っ!」
シャワーの音が満ちる浴室で、つかさは壁にもたれかかり、そのまま崩れ落ちた。
こなたを押し倒した。
ひどい裏切りをしてしまったと思う。
彼女がからかってくるのは、こちらが赦してくれるという確信があるから――つまり、信じてくれているからだ。
けれど自分は、それに対して最悪の形で裏切りを行ってしまった。
座りこむつかさ。その時、彼は股間のふくらみを改めて自覚する。。
「……最低だよ、僕」
健全なオスなら当たり前の、卑賎な欲求の証。
ウジウジしている自分に対して、この一部だけは雄々しくて、それがあまりに惨めで滑稽だ。
けれど……
「これが…事実なんだよね」
全てが事実だ。
情けない自分も、自分を異性として見てくれてなかったこなたも、そして……
「僕は、こなちゃんが好きだ」
もしも、こなた以外の女性にああやってからかわれても、たぶん怒るか気分を害するだけだったはずだ。
けれど自分はこなたを押し倒した。
それは、こなたに自分が男であると思われてなかったのが耐えきれなかったからであり…それはつまり…
「こなちゃんが好きなんだ」
呟く。
おそらく声を上げれば、扉の向こうにいるこなたに届くだろう。けど、それができないのも、また自分だ。
力尽きたように座り込むつかさ。その耳が、脱衣場の扉が開かれた音を聞く。
『つかさ』
脱衣所から、薄いアクリルの扉越しにこなたの声が聞こえる。
『私…帰るから。からかったりして……ごめん』
返事も待たず、足音が聞こえた。遠のいていく、逃げるような足音。
追いかけようかとも思ったが、思いとどまる。
今のぐちゃぐちゃな自分じゃ、何を言っても後悔しそうだから。
けれども…たった一つ、揺るがないものが胸の中にできていた。
女性を人として扱ってないようで、こんな言い方は嫌いだが、あえて言う。
「自分のものにしたい…」
顔をあげる。目の前には鏡。そこには自分の姿が映る。けれどそこにつかさが見たのは自分の姿だけじゃない。
それは時に物知りなクラスメートだったり、自分の血の分けた双子の兄だったり…
「譲りたくない…」
そう、譲りたくない。みゆきにもかがみにも、こなたを、こなちゃんを渡したくない。
「こなちゃんが、好きだよ」
静かに、もう一度言う。
すると、不思議なほどに心が静かになった。
ああそうだ。
つかさは思う。
ずっとふらついていたパズルのピースが一つになった感覚。
一年生の春、彼女と会った時からずっとふらつき続けたピースが…
泉こなたと言うピースが、柊つかさの中で、正しい位置に収まった。
親友ではない。けれど恋人でもない。それは…まだ片想いの、初恋の相手という位置。
顔を上げる。鏡がある。けれどそこにはみゆきの姿もかがみの姿もない。あるのは、何かを決意した、自分でも驚くほどに、男らしい顔だった。
「ちょっと…似合わないかな?」
思わず笑うと、鏡の中の自分もわらう。
そう、これでいい。自分らしく、けれど少しだけ積極的に彼女に迫ってみよう。
自分らしくといえば―――
シャワーの音が満ちる浴室で、つかさは壁にもたれかかり、そのまま崩れ落ちた。
こなたを押し倒した。
ひどい裏切りをしてしまったと思う。
彼女がからかってくるのは、こちらが赦してくれるという確信があるから――つまり、信じてくれているからだ。
けれど自分は、それに対して最悪の形で裏切りを行ってしまった。
座りこむつかさ。その時、彼は股間のふくらみを改めて自覚する。。
「……最低だよ、僕」
健全なオスなら当たり前の、卑賎な欲求の証。
ウジウジしている自分に対して、この一部だけは雄々しくて、それがあまりに惨めで滑稽だ。
けれど……
「これが…事実なんだよね」
全てが事実だ。
情けない自分も、自分を異性として見てくれてなかったこなたも、そして……
「僕は、こなちゃんが好きだ」
もしも、こなた以外の女性にああやってからかわれても、たぶん怒るか気分を害するだけだったはずだ。
けれど自分はこなたを押し倒した。
それは、こなたに自分が男であると思われてなかったのが耐えきれなかったからであり…それはつまり…
「こなちゃんが好きなんだ」
呟く。
おそらく声を上げれば、扉の向こうにいるこなたに届くだろう。けど、それができないのも、また自分だ。
力尽きたように座り込むつかさ。その耳が、脱衣場の扉が開かれた音を聞く。
『つかさ』
脱衣所から、薄いアクリルの扉越しにこなたの声が聞こえる。
『私…帰るから。からかったりして……ごめん』
返事も待たず、足音が聞こえた。遠のいていく、逃げるような足音。
追いかけようかとも思ったが、思いとどまる。
今のぐちゃぐちゃな自分じゃ、何を言っても後悔しそうだから。
けれども…たった一つ、揺るがないものが胸の中にできていた。
女性を人として扱ってないようで、こんな言い方は嫌いだが、あえて言う。
「自分のものにしたい…」
顔をあげる。目の前には鏡。そこには自分の姿が映る。けれどそこにつかさが見たのは自分の姿だけじゃない。
それは時に物知りなクラスメートだったり、自分の血の分けた双子の兄だったり…
「譲りたくない…」
そう、譲りたくない。みゆきにもかがみにも、こなたを、こなちゃんを渡したくない。
「こなちゃんが、好きだよ」
静かに、もう一度言う。
すると、不思議なほどに心が静かになった。
ああそうだ。
つかさは思う。
ずっとふらついていたパズルのピースが一つになった感覚。
一年生の春、彼女と会った時からずっとふらつき続けたピースが…
泉こなたと言うピースが、柊つかさの中で、正しい位置に収まった。
親友ではない。けれど恋人でもない。それは…まだ片想いの、初恋の相手という位置。
顔を上げる。鏡がある。けれどそこにはみゆきの姿もかがみの姿もない。あるのは、何かを決意した、自分でも驚くほどに、男らしい顔だった。
「ちょっと…似合わないかな?」
思わず笑うと、鏡の中の自分もわらう。
そう、これでいい。自分らしく、けれど少しだけ積極的に彼女に迫ってみよう。
自分らしくといえば―――
「お詫びって理由で、明日はクッキーでも焼いていってあげようかな」
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- こっちは挿絵ないの? -- 名無しさん (2008-05-21 10:54:22)