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らき☆すた SEXCHANGE 相対編

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 なるべく何気ない風を装うつもりで、かがみはつかさの部屋の扉を叩いた。
つかさ、ちょっといい?」
「いいよ」
 あっさりと、返事が来た。
 かがみは肩の力が抜けるのを感じた。
 よく考えれば今のところ、つかさがこちらに対して態度を変える理由はない。
 つかさは自分がこなたを好き―――だったことを知らないのだ。
 そう、好き『だった』
(俺はこなたの『親友』)
 かがみは自分に言い聞かせる。
 自分はこなたの親友として、こなたを悩ませている元であるこの恋愛沙汰を終わらせる。
 そのために、まずはつかさをあきらめさせる。
「入るぞ」
 わざわざ言ったのは、なぜか扉が重く感じたからだ。


 らき☆すた SEXCHANGE 相対編


 部屋に入ってかがみが驚いたことに、つかさが勉強机の椅子に座ってこちらを見ていた。
 そして机の上には、広げられたノートと教科書。
 勉強をしていたようだ。
 かがみは失礼とは思いながら信じられん、という感想を持った。
「どうしたの?」
「う、うん、なんでもない」
 つかさが不思議そうに尋ねてきて、かがみは我を取り戻した。
「す、座るぞ?」
「いいよ?どうしたのお兄ちゃん。何か変だよ?」
 笑うつかさに、かがみは少々カチンとくる。
 こっちの気持ちも知らないで!それならこちらだって考えがある。
 かがみはベッドに腰をかけ、つかさに厳しい視線を向ける。
 いつもつかさがだらしなかったりした時に叱るための、兄としての顔で、
「つかさ。こなたから大体の事情を聞いた」
 前ぶりもなく言う。つかさが驚きの表情になり、次に納得したような顔になる。
「ああ、だからか。それで?」
 余裕の表情。見慣れた、のほほんとした顔。
 それが今のかがみには気に入らない。
 その感情を助走にして、かがみは核心を言いきった。
「こなたに言い寄るのはもう止めろ。こなたが――迷惑がっている」
「…」
 かがみは続ける。意思が萎えないように、意識してきつい言葉を選びながら
「放課後、こなたに相談されたんだ。
 あいつ、お前かみゆきを選ぶことで、今のグループが散り散りになることを怖がってたんだ。
 あいつ、中学の頃、友達だった男子に告白されたんだって。
 それを断って疎遠になってってのがトラウマになってるらしくてさ。
 泣いてたんだぞ。あのいつも余裕たっぷりのこなたが。
 お前達のせいで」
「…そう、なんだ…」
 俯くつかさ。
 つかさを傷つけてしまったか?
 その事に後悔を覚えるが、けれどもここで止めるわけにもいかない。
 つかさから目を逸らし、自分の元を凝視しながらかがみは言う。

「……もう、こなたを困らせるのは止めろ。
 お前もみゆきも、本意じゃないだろ?好きなら身を引くってのも選択肢じゃないか?
 撤回して、ただの友達に戻れよ。どうせあんなチビで色気のない奴への思いなんて、すぐに忘れて元通りになれるって。
 な?」
 これで役目は果たした。
 安堵を感じながらかがみはつかさの方を見て―――息を呑んだ。
 つかさが、かがみを見ていた。
「な、何だよ?」
 真剣な、つかさの表情。
 料理を作る時に時たま見せる真剣なそれを、遙かに鋭く硬い表情、視線。
 初めてだった。こんなつかさを見るのも、こんな風につかさに見つめられるのも。こんな風に、つかさに気圧されるのも。
「お兄ちゃん、聞かせてくれる?」
「だから、なんだよ」
 かがみは負けじと、睨み返す。
 けれども、つかさはかがみの視線を気にしていないようだった。
 つかさが関心があるのは、かがみの反応だけ。
「お兄ちゃんは…こなちゃんのことをどう思ってるの?」
「っ…」
 痛いところを突かれたと思って、けれど顔に出さないようにする。
 わずかに奥歯を噛みしめてから
「親友だよ。大切な」
 嘘ではない。嘘じゃない。自分に言い聞かせながら、
「それ以外なんだって言うんだよ?」
「そう…」
 つかさは頷いて


「悪いけど、それはできないよ」



 つかさが放ったのが、拒絶の言葉だと理解した後、感じたのは怒りだった。
「…なんでだよ」
 なぜ、つかさはこなたを傷つける選択をするのか?
 なぜ、つかさが自分の言うことを聞かないのか?
 なぜ、つかさも諦めてくれないのか?自分は想いを―――封じ込めたというのに!
「お前、こなたが迷惑がってるって…」
「うん、聞いたよ。…僕だって、ゆき君だって、こなちゃんを悲しませたくないよ」
「だったら…!」
「だから今日、帰る時にゆき君と約束したんだ。
 この恋の結果がどうなっても、振られても、僕たちはこなちゃんの友達でいよう、って」
「それはお前らの都合だろ!?」
 かがみは声を荒げる。
「それでお前達は納得するかもしれない!けれどこなたの気持ちはどうなるんだよ!
 どちらかを選んで、どちらかを傷つけなきゃいけないこなたの気持ちを!
 お前達は納得するかもしれないけれど、こなたは傷つけた奴と顔を合わせ続けなきゃならないんだぞ!」
「だから―――両方とも振られろ、っていうの?」
 かがみの言葉が詰まる。
 つかさが突いた所。それは矛盾。
「どちらかを選べば傷つけるのは一人で済むのに、二人を傷つけろっていうの?おかしいよ、それ」
「……どっちか選んだら、振った相手の前で見せつけることになるだろうが。
 お前がもし振られたら、好きだった奴と友達が…こなたとみゆきがいちゃつくのを見てなきゃならないんだぞ?」
「うん、辛いだろうね。…けど、大丈夫。きっと祝福する」
「お前はそうかもしれないけど、その時のこなたの…!」
「いい加減にしなよ!」

「――っ」
 驚きが先だった。つかさに怒鳴られたという事実に思い当たったのは、その一拍後だった。
 つかが、いつも自分を頼ってきた、自分の後ろをついてきた、自分が守ってきた弟が…
 怒りではない。悲しみでも、まして恐怖でもない。
 純粋な衝撃と、そしてつかさの厳しい視線が、かがみを貫いて動きを止めていた。
「こなちゃん、こなちゃん、こなちゃん……。
 こなちゃんが悲しむから、こなちゃんが辛いから…。何を言ってもこなちゃんの事ばかり。
 ――お兄ちゃんの意見はどこにあるの?」
「俺…俺はこなたのことを考えて…!」
「嘘だよ」
 正面から否定される。いや、看破される。
「お兄ちゃんはこなちゃんのことを考えてるんじゃない。
 こなちゃんの為と言って―――こなちゃんを言い訳にして逃げてるだけだよ 」
 かがみは、目の前が真っ赤になった気がした。
 そして気がついたら立ち上がって、つかさの胸ぐらをつかんでいた。
「つかさぁっ!」
「僕は逃げないよ」
 至近距離で交わされる視線。
 怒りに燃えたかがみの視線と、静かな白熱を帯びたつかさの視線。
 勝ったのは…
「僕は逃げない」
「くっ…」
 勝ったのはつかさだった。
 突発的な怒りにまかせた行動など、明確な意思と決意の前に立ち向かうには、あまりにももろく卑小だった。
 胸ぐらを掴んで、自分の方に引っ張りつけているはずなのに、かがみは自分が追い詰められているのを感じる。
「こなちゃんを傷つけるかもしれない。こなちゃんを悲しませるかもしれない。
 それは怖いし、そんなことしたくないけど、それでも僕は自分の気持ちに嘘はつかない。
 傷つけた分、癒せるように、悲しませた分、喜ばせてあげらるように、僕はがんばる。
 こなちゃんと真っ直ぐ向かい合うよ。嘘は…自分に嘘はつかない。ゆき君もね。
 お兄ちゃんとは――――自分の気持ちに嘘をついて、こなちゃんを言い訳にして僕たちの邪魔をするようなことはしない!」
 かがみの中で、怒りが再び燃え上がって、つかさを突き飛ばした。
 背中から、つかさは本棚にぶつかる。本が何冊か零れ落ちる。
「―――勝手にしろ!」
 そう捨て台詞を残して、かがみは部屋を出た。
 いや、出たと言うより逃げ出したのだ。背中に向けられるつかさの視線に、返せるものが何もなかったから。



「畜生…」
 部屋に戻って、かがみは絞り出すように呟いた。
 思えば、最初から勝負は決まっていたようなものだったのだ。
 つかさは心の底からの想いの上に立っている。
 それに対して、かがみの論理は逃げと、自己欺瞞の継ぎ接ぎにしがみ付いているだけだ。
「全部その通りだよ…」
 つかさとみゆき。どちらかを応援すると言う選択肢もかがみにはあった。
 けれど、それをしなかった。耐えられなかったからだ。二人のどちらかがこなたと付き合い、それを親友と言う位置で見続けるのが。
 つかさの言う通り、こなたを言い訳にして邪魔をしていたのだ。
「くそぉ……」
 夕日の差し込む教室でこなたを支えようと―――自分の想いを殺してまで支えようとした決意を、自分で汚したようなものだ。
 情けない自分。それに比べてつかさはどうだ?

 真っ直ぐに勇敢にこなたと、そして自分の想いと向かい合おうとしている。
 一緒だと思っていた。常につかさの一歩前を歩いていたと思っていた。手を引いてやってると思っていた。
 けれど今は―――その背中が遠い。
「―――っ!!」
 怒りにまかせて、机の上のブックラックを凪払う。
 辞書とノートが散らばって、床に落ちる。
 ただそれだけ。胸の中に澱のように溜まった気持ち悪い感触は消えないし、爽快感もない。
 残ったのは散らかった部屋と、ブックラックの角にぶつけて付いた手の甲の傷。
 ジクジクと言う痛みが、惨めだった。



 隣の部屋から、何かが散らばる音がした。
 随分荒れてるようだ。
 かがみとつかさを隔てている、一枚の薄い壁。
 それに目を向け、その向こうにかがみの姿を思いながら、つかさは呟いた。
「僕は、逃げないよ。お兄ちゃん。ゆき君も。だから……」
 その先は、言わなかった。
 言えるほど、つかさも聖人君主でもなければ、こなたへの思慕は浅くなかった。




 新たに得た後悔と、再確認した決意。
 正反対な物を得た二人は、次の朝、同じ驚きを得た。
 朝のバス停で会ったこなたの髪が、短くなっていた。

【相対編・了】












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