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褐色キューピッドは哲学する

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匿名ユーザー

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  • 褐色キューピッドは哲学する


 少女に出会った。
 普通の少女。
 不可思議な少女。
 それから、私の世界観が変わった気がした。
 尤も、この時点ではまだ感覚所与命題の域を出ない。
 では存在の意味を解明するためにあたってこの場合、この少女を存在一般に置き換えて普遍性を持たせよう。
 んが、その前に基礎存在論として唯一存在了解を持つ人間存在の解明が鍵となるわけで。
 ……上三行は飛ばしていいや。
 ひかるセンセが忘れていった哲学書から言葉を借りると、そんな感じになるらしい。
 意味は分かる? へぇ分かるんだ、優秀だねっ。
 ちなみに私は小五時間(正確には五分)向き合ったけど全然だったよ。
 じゃあそこで問題。
 その少女が『ここ』に「いる」のはどういうことでしょう?
 んー、ちょっち難しかったかな?
 まぁ私にも分かってないしね、
 じゃあ一緒に考えよっか。
 駄目だぞっ、思考をやめたら。
 思考を惜しむと馬鹿になっちゃうんだからねっ。
 ヒントはそうだなぁ……ああ、うん。
 『ここ』は何処でしょう?


「ふぅん……」
 狭い部室の中で、一人の少女と向かい合って座る。
 その私の手には原稿の束。
 そこに書かれているのはあられもない女体の裸体……いつか捕まるかな、こりゃ。
 でも学校でこんなものを読むのもなんか背徳感があっていいよね。
「ま、いいのじゃないの?」
「本当ッスか! こうちゃん先輩っ」
 その言葉に目の前の少女……というか後輩が跳ねて喜ぶ。
 そこまで喜ばれるとこっちも気分がいいなぁ。
「よっしじゃあ、早速ペン入れッス!」
 と、ドタバタと机の上を片付けてから原稿を広げる。
「おいおい、今から書くの?」
「もちろんッスよ! 一秒でも無駄には出来ませんからっ」
 後輩のペンを走らす音だけが、アニ研の部室に響く。
 彼女の他に部屋に居るのは私ぐらい。
 まぁ特に活動も決まってないお遊びクラブなんてそんなものかな。
「にしてもまた百合かー、好きだねーひよりん」
「へっ? そうでしたっけ?」
 走らせていたペンが止まる。
 田村ひより、アニ研の後輩。
 エロ同人誌家、と高校一年生にしては大層な職業を背負ってる変わりもの。
 それを毎回添削する私も、十分変わり者か。
「ってかいつも同じ子がメインじゃないっけ? ほらこのツインテールの子……」
「ふぬぉおお!」
 んおっ、突然の奇声。
 なんか顔を真っ赤にしてるし。
「やっ、ち、違うッスよ? たまたま、っていうか何ていうか、そのっ!」
 ……。
 なんかえらい言い訳されてる。
 さて、この不可思議な状況は何だろう。
 ひかるセンセの哲学書読んだ所為かな、ちょっと使う単語が哲学的だねっ。
 ふむ、一人の女の子の話をしたら後輩が慌てだした……と。
 ふぅん、なるほどなるほど。
「ひ・よ・りぃ~ん?」
「な、何スか先輩っ? 顔近いッスよ!?」
 後ろから首を羽交い絞めして、逃げ場を塞ぐ。
 いやいや、結構可愛い子だとは思ってたけどまさかねー。
 彼氏の一人も作らないのは腐ってる所為だけじゃなかったわけだ。
「確かこの子ってぇ、モデルが居るんだっけ?」
「ふんぬらばぁ!」
 ボキッとGペンが折れる音がした。
 おいおい、原稿インクだらけになってるって。
「ななな、なんでそれをぉっ!?」
「いや、カマかけてみただけ」
「……」
 あ、真っ赤になったまま硬直した。
 さて、じゃあもういっちょカマかけてみよう。
「なるほどなるほど、ひよりんはその子にお熱なわけかぁー」
「な、何言ってるんすか? こ、小早川さんはおおお女の子ッスよ!?」
「ほほぅ、小早川さんねぇ」
「んがぁっ……!」
 名前まで漏らすとはおいしいよね。
 ……んん? でもなんだろう。
 なーんか、おもしろくないなぁ。
「最近は緑髪の子とも絡まなくなったしねぇ、あれかな? 嫉妬とか?」
「むっ……」
 その言葉に、ひよりんが少し顔を強張らせる。
 なんかちょっと、棘のある言葉で言っちゃったかな? 私らしくもない。
「せ、先輩には……関係、ないッスから」
 そのままふいっと顔を背ける。
 ……。
 今のは、カチンと来たなぁ。
 理由? そんなの知らないけどさ。
 なんか……スイッチ入っちゃった気分。
「そーいう言い方は、嫌いだなぁ」
「……? せ、先……輩?」
 首に回していた手を、彼女の両手に回す。
 右手には右手に、左手には左手に……彼女の後ろからそれぞれの手を強く握る。
「今回の百合本、大分鬼畜だったねー。しかもロリ責め」
 ツインテールの子が責めで、受けが確か……。
「ロングのメガネっ子が虐められてたっけ。あれってまさか……」
「な、べ、別に何も深い意味はないですからっ」
「顔真っ赤にしながらだと、説得力ないにゃー」
「!? せ、せんぱっ……!」
 ひよりんの制服からリボンを引き抜き、それで両腕を縛る。
 見覚えがあるのは、さっきの原稿で見たからかな?
 そうそう、ひよりんの原稿と同じシチュ。
「や、やめっ!」
「ほーら、暴れないの」
 そのまま地面に押し倒す。
 後ろ手を縛られ、マウントされる姿は淫靡だねー。
 うんうん、お姉さん興奮しちゃうなー。
 スイッチ連打してる気分だよ。
「最初はえっと……そうそう」
「せ、先輩。何を……んむぅっ!」
 両手で顔を掴み、その唇に舌を押し込む。
 最初は戸惑いと拒絶で暴れていたひよりんの舌も、今は私のそれで蹂躙されている。
 ふふ、可愛いなぁ。
 あ、そういや私ファーストキスだ。いやぁ、うっかり忘れてた。
「ぷはぁ……はぁ」
「えへへ、ひよりんの顔、やーらしぃ」
 唇から糸を引いて、唇が離れる。
 紅潮した頬と、呆けた顔が何処か妖艶だった。
 まぁいっか、始めてのキスぐらいひよりんにあげよっかな。
「まーだ、休んじゃ駄目だぞ?」
「ひぅっ!」
 服の下から手を這わせ、下着の中に侵食する。
 あれ、駄目だなぁひよりん。学校だからってこんな色気のないのつけてきたら。
「おやおやぁ~? 乳首立ってるね、もしかしてひよりんてM?」
「だっ……ふぁっ、やぁ……」
 指で突起を刺激すると、声が漏れた。
 それがまた可愛くて、虐めたくなる。
 もしかして私ってSなのかなぁ、興奮してきた。
「どれ、じゃあ」
「ひぅっ!」
 スカートの下に伸ばした手に気が付いたのか、ひよりんがまた暴れだす。
 仕方ないなぁ、と唇を唇で塞ぎ口の中と舌を虐める。
 大人しくなったその隙に、手は彼女の下着に触れる。
「む……ぅっ!」
 重なった唇からひよりんの喘ぎが漏れる。
 触れた下着に力を入れると、湿った感触が指先に纏わり付く。
 ほら、ひよりんだって濡れてるじゃん。
「こうやって小早川ちゃん? に虐められるのを想像してたわけだねー」
「ち、違……やぅっ!」
 片手で胸を弄る。
 余った左手が彼女の下着を強く押し付ける。
 その上から蕾を弄るたびにひよりんから涎と喘ぎが漏れて、私の被虐に火をつける。
 暴れるたびにキスで、彼女の自由を奪う。
 右の手で虐める。
 左の指で弄ぶ。
 あとはそれを繰り返すだけ。
 彼女が、果てるまで。
「ん、む……んんぅうっ!」
 私と重なった唇から、激しく喘ぐ声が漏れる。
 そんなに長い間でもなかった。
 責め始めてからすぐに、彼女の体がビクンッと大きく反応した。
 っと、先にイッちゃったか。
 私まだなんだけどな……ん?
「……ひっ、ぅ」
 耳に声が……届いた。
 そっからかな、血の気が引いたのは。
「ひ、ひよりん?」
「うっ、ぅ……ふぇぇぇ」
 聞こえたのは泣き声。
 それが嗚咽に変わっていく。
 ちょ、ちょっと待って。
 あ、あれ?
 血の気が引いて頭が冷静になっていく。
 な……何してんだろ、私。
 今の状況を考える。
 後輩を縛って、押し倒して……?
「あ、ひっ、ひよりんっ。ちょ、」
 慌てて体を起こしてやり、両手の拘束を解く。
 涙で一杯の顔が、私を睨んだ。
「……っぱい、ひっく……の」
 涙で掠れた声が、耳に届く。
 な、泣いてるよ。
 私の所為で、ひよりんが……何か、痛い。
 何処が? ……心が。
「先輩の……馬鹿ァッ!」
 その涙のまま、ひよりんは部屋を走って出て行った。
 出て行く際にぶつかった机から原稿が舞って……私の周りに降り注ぐ。
 それは少し、不思議な光景。
 白と黒と、モザイクの世界が視界に埋まる。
 それで、かは分かんない。
 二進法の記号が脳みそに強制的にルシファーズハンマーしたのかも。
――人間とは、Da sein。
 その所為でそんな、哲学書の一文が頭を過ぎた。
 彼女がもし人間であるなら、彼女もそれと同じのはず。
 人間はDa sein。
 彼女も、Da sein。
 ……。
 Da seinって、何だっけ?
 後でひかるセンセの本、読み直そう。
 ……しかし、不明だ。
 自分でもよく分からない。
 とりあえず、一息つこう。
 火照ってた体もどこか、萎えちゃた。
 購買で買ってきた炭酸が脳に染み込んで気持ちいいや。
 ……もしかして、結構酷い事した?
 所謂あれか……強姦パウダー? パウダーって何さ!
「そりゃ、泣くわな」
 あははっ、と笑いながら床に散らばったひよりんの原稿を片付ける。
 もちろん自嘲。
 むなしい笑い声が、自己嫌悪になって自分の胸に突き刺さる。
 この原稿読んで、ムラムラした?
 うーん、そういうのは結構自制出来るほうなんだけどな。
 一人でやったりもするし……まぁ思春期の女子ならよくあるよくある。
 ムラムラというよりは何ていうんだろうなぁ……こう、表現しがたい感情なわけで。
 むむむむむ……。
 いやいや、今はそういう問題じゃないわけで。
 怒ったよなぁひよりん……謝るべきか。いや、そりゃ謝るべきだろう。
 押し倒して両手縛って無理矢理……とは、ひよりんの同人誌まんまだなぁ。
 違いは責め手の違い、かな。
 えっと、小早川さんだっけ?
 うんうん、ああいうロリっ子が案外鬼畜責めだったりするギャップ萌えなわけだ。
 ひよりんめ……存外アブノーマルだなぁ、Mだし。
 いやいや、今回は全面的にこっちが悪いわけだから批判はやめとこう。
 っていうか普通するかなぁ、後輩を……なんて。
 ううん、やっぱり分かんない。
 頭の中ゴチャゴチャしてきた。
 はぁ……親愛なるハイデガー様、お助けください。


「ひよりん……田村って、まだ居るかな?」
 放課後、彼女の教室まで足を運ぶ。
 ホームルームが終わって急いだから、まだ帰ってはないはず。
 案の定まだクラスにはほとんど生徒が残ってる……その中の一人。
 これがまた偶然なんだけど、見覚えのあるツインテールに話しかける。
「田村さんですか?」
 ピョコンと動いたピンクのツインテールに感じるデジャビュは……あれか。
 よくひよりんの同人誌で見るのと、同じ。
 ってことは、噂のお姫様ってことかな。
 うんうん、可愛い子可愛い子。
「昼休み終わってからずっと、保健室に行ってます」
 んがくくっ。
 昼休み……『あれ』以来か。
 ……いや、そうだよなぁ。
 それしかないかぁ……はぅ。
「保健室、ね。オッケーあんがと」
「あ、私丁度荷物持って行くところだったんです」
 よく見ると鞄を二つ大層に抱えてる。
 可愛い癖に優しいときたか、そりゃひよりんもメロメロなわけだ。
「うん、じゃあ一緒に行くかー」
「はいっ。あ、みなみちゃんも行く?」
 すると奥に居たもう一人に声をかける。
 ふむ、この長身にも見覚えが……いつもお世話になってます。
「……うん」
「あー、駄目駄目。こっちの子だけでいいよっ」
「へっ?」
 と昨日のオカズ……じゃなかった緑髪の子を制す。
「あ、ほら。あんまり一杯で乗り込んだら、ひよりんも困っちゃうしさー」
「……」
 無表情のままなんか睨まれた気がした。
 まーでも連れてったらひよりんが可哀想じゃん? 眼の前でいちゃいちゃさせられたらさ。
「さっほらほら行こー行こー」
 ツインテールの子の小さい肩を抱き、教室を出る。
 長身の子に睨まれてるのも怖いしねっ、逃げるが勝ちってやつさ。
「えっと、八坂先輩……ですよね」
「おっ、私も有名になったねー」
 これでも部長だよブチョー。
 ……アニ研だけど。
「こうちゃん先輩でいいよ、小早川ちゃんだっけ?」
「へっ?」
 名前を呼ばれたことに気がつき、目が点になる。
 うんうん、可愛い可愛い。
「ひよりんがいつも話してたよー、可愛い子が居るって」
「そ、そんな……可愛いだなんて」
 褒められなれてないのか、照れる。
 なんと初々しい事か、こりゃひよりんゾッコンなのも納得だね。
 お、ピンときた。
 しょうがないなぁ、ひよりんのために人肌脱いであげっかな。
「あのさ、ちょいと耳かしてっ」
「はい?」
 今丁度思いついた事を、彼女に吹き込む。
 まったくとんだキューピッド役だよね。
 とりあえず強姦パウダーのお礼ってことで。
 ……。
 しかしまたなんかモヤモヤしてるが……今はいいや!
「おーッスひよりーん、元気してるかぁー?」
 保健室の扉を騒がしく開ける。
 大声出してふゆきちゃんに怒られるかな? と思ったけど居ないや、うん好都合好都合。
 さてさて……うん、予定通り布団にもぐってら。
 声が届いたから隠れると思ったよ。
 これでこっちは見えてないわな、よしよし。
「よっと」
 そのベッドの隣りの椅子に腰掛ける。
 う……ちょっと緊張してるかも、私が。
 さすがにバツが悪いよね……襲った後じゃ。
「や、やっほー。こーちゃん先輩だぞー?」
 こっちに気がついてるみたいだけど、返事もしない。
 さすがに怒ってるか……はぁ。
「それでえっと……とにかく、ゴメン」
 一度咳払いした後に、ポンッと丸くなった布団を撫でる。
 それに反応してビクッと、体が揺れる。
 やっぱ起きてるな、無視してるだけみたい。
「ちょっちやりすぎちゃった、本当ゴメンッ!」
「……」
 返事はやっぱり返ってこない。
 まぁ、予定通りなわけですが。
 さてここからが一世一代の大勝負。
 ひよりん相手なのにひよりんのためだってのが笑えるね! 笑えねぇ!
「……でもひよりんさー、いいの?」
 わざと焦らすように、質問する。
「……何が、ッスか?」
 そして布団の塊から、不機嫌そうな声が返ってくる。
 うんうん、堪えきれずそう返すと思ったよ。
「だってこのままじゃ『あの子』さー、あの緑髪の子にとられちゃうよ?」
「……っ」
 あの原稿から考察するに、最初は多分二人の仲で妄想ぐらいが関の山だったんだろうね。
 だけど二人が親密になるにつれ……絡みを描くのが辛くなった、ってとこかな?
 だから後は脳内保管で妄想マシーンって感じ?
「そんなの……分かってるッスよ」
 お、釣れた釣れた。私に釣られてみる?
「じゃあひよりんから仕掛ければ?」
「……」
 少し返事に時間がかかる。
 さて、やることはやったかな私は。
 あとはひよりん次第。
「駄目ッスよ、だって……いくら好きだからって、困らせるだけ、だし」
 語尾が下がっていく。
 うーん、どうかな?
 私が見る限りでは、なかなかどうしてお似合いだと……。
「いくら『小早川さん』の事好きだからって、そんなのっ!」
「へっ?」
 その時だ。
 保健室に間の抜けた声が響く。
 私の声じゃない。ひよりんの声じゃない。
 保健室に他に誰も居なくて良かったねひよりん、その後の奇声は聞かなかった事にするよ。
「なっ……えっ?」
 ゆっくりと、布団からひよりんが顔を出す。
 その眼には映ってるかな?
 私のニヤニヤ顔と、その隣りのピンクのツインテールが。
「た、田村……さん?」
「えっ、なっ……なんっ、で」
 と、戸惑いの眼で私を見る。
 ふひひっ、私は一言も言ってないかんね? この子の名前なんて。
 いやしかし、思い通りに行くもんだ。
 まぁ何とかなったってのが本音かな?
 この子には「保健室に入ったら、黙っといて」としか言ってないしね。
 こういうのもなんか哲学書に乗ってたなー、世界はなんちゃら~って。
 まぁそれも今度調べよっかな。
 さぁてじゃあ、お邪魔虫は退散だ。
「んじゃ、頑張れっひよりん」
「ちょ、せ、先輩!」
 顔を真っ赤にするひよりんを尻目に、席を立つ。
 もちろんその隣りの子の顔も、真っ赤。
 そのピンクな雰囲気を背に、静かに扉を閉めた。
 うんうん、青春だにぃー。
 ……。
 まぁまだ私の中は……変な感情で埋まってるわけだけど、ね。


「なぁーひよりーん」
「……なんスか? エロちゃん先輩」
「ぐはぁ!」
 放課後の部室に、二人。
 椅子を連結させて哲学書を枕にする私と、原稿に向かうひよりん。
 そんな彼女から、棘のある言葉が返ってくる。
 うう、まだ怒ってるのか。
 今のは効いたよボディーに。
「どうよそれでー、あの後どうなったん?」
「どうって、別に」
「キスぐらいしたー?」
「んなぁっ!」
 丸ペンが音を立てて原稿を引き裂く。
 ……分かりやすい。
「ゆ、ゆたかはそんなフシダラじゃ……」
「ほーぅほぅ、ゆたか。ねぇ」
「うっ……」
 呼び捨てときたもんだ。
 おうおう、耳まで真っ赤にしちゃって。
 でも進展はあったみたいだね、良かった良かった。
 ……。
 でもなんだろうなー、またなんか妙な感情が沸いて来た気がする。
 なんかこう……モヤモヤ。モヤモヤ?
 ええと、そういう時は哲学書を思い出せ。
 頭の中を冷静にしないと……えっと。
 人間とはDa sein。彼女がもし人間であるなら、彼女もそれと同じのはず。
 ……Da seinって、何だっけ。ってまたそれかい!
 ひかるセンセの本はっと……あったあった。枕にしてたんだっけ。
 Da seinは……現存在? 現存在は、実存?
 実存。
 それは私。それは……ひよりん?
 ……。
 ガタン、と思わず椅子から落ちそうになった体を支える。
 ああ……そうか、分かった。
 どうやらこれは私の根本的なミスみたい。
 今分かりました……Lieber,Herr Heidegger。素直に謝罪いたしましょう。
 私が何でモヤモヤしてたのかも。何であんな事しちゃったのかも。
 何で彼女が……ひよりんが『ここ』に居るのかも。
 さぁ、最初の問題が解けたかな?
『ここ』は何処?
 あははっ、もう分かるよね。
 ここはそう、私の……中。
 そこにひよりんが『居る』理由……君には解けたかにゃ?
「ひーよりんっ」
「うわっ、な、なんスか先輩!」
 後ろからまたくっ付き、頬擦り。
 そっかぁ、そーだったんだ。あはは、分かってみれば簡単だね!
 私、ひよりんのこと……。
「お、犯されるぅー! ゆたかぁー!」
 って逃げられたよ。
 むぅ、しまったなぁ。
 もしかして私は、余計な事をしてしまったんでないかい?
 所謂あれ……敵に塩を送っちまったわけだ!

 ……。
 その後の事を、いちいち説明するのは面倒だしいいよね。
 ひよりんはあの子と上手くいったかな?
 ひよりんは私の気持ちに何て言うかな?
 あははっ、そんなの分かんないって。
 世界はどうなるかなんて分かんない。
 右にも行くし、左にも行く。
 右手で責めれば左手で責める……ん? 何か違うか。
 あははっいーのいーの、こういうのはノリが大事ってこと。
 ほら、この本にも載ってるよ。


 なんてったって世界は、不透明なんだからねっ。


(了)

参考:『空の食欲魔人/川原泉』














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  • ひよゆたに目覚めそうになったのは俺だけだろうか?

    ぜひ次はひよゆたメインでお願いします -- 名無しさん (2008-01-30 03:17:04)

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