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憧憬が好意に変わる瞬間

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匿名ユーザー

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「はぁ・・・」
 思わず、溜息が出る。
 私、柊つかさはあることで悩んでいた。
 それは、同級生である高良君についてのことだった。
 初めて会ったのは、入学式でのことだった。



―――



「ほーい、ほんじゃ、センセの自己紹介も終わったことやし、次は、みんなに自己紹介してもらおか」
 黒井先生の言葉は、私にとって重いプレッシャーとなって私に乗りかかっていた。
 うう、緊張するよう・・・。
 天性の人見知りである私は、昔から人付き合いがどうにも苦手だった。だから、昔から私はかがみお姉ちゃんに付きっ切りだった。
 でも、お姉ちゃんは隣のクラス。自分は、今、一人だった―――。まさに孤立無援。
 不安に打ち震えていて、私は混乱していた。
 そんな時に―――。
「大丈夫ですか? 震えていらっしゃいますが」
 話しかけてきたのは、隣の席にいたメガネをかけた男の子だった。
 うう、男の子と話すことなんてめったにないから、余計に緊張するよう・・・。
 でも、向こうは善意で話しかけてくれたんだよね? そうだよね?
「う、うん。き、緊張しちゃって・・・」
「そういう時は、深呼吸するとよろしいですよ」
 その男の子は、そう言ってにこっと笑ってくれた。
「う、うん。やってみるね」
 言われたとおりに深呼吸をしてみる。
 ・・・何だか、落ち着いた。考えてみると、さっきまで慌てていたことがまるで嘘のよう。
「もう、大丈夫なようですね」
 私の様子を見て判断したのか、その男の子がそう言って、もう一度微笑した。
「うん。ありがとう。
 あ、あの、自己紹介・・・聞いてなかったから、名前、教えてくれるかな?」
 一体、どうしたんだろう。自分でこんなこと言ってから、そう思ってしまった。
 あうー。いつもは、臆病なのに、どうして大胆になっちゃったんだろう?
 これって・・・昔、お姉ちゃんが言っていた「つり橋効果」なのかな?
 案の定、隣の男の子はきょとんとした顔をしていた。ますます、恥ずかしい。
「ご、ごめん! 変なこと聞いちゃって・・・」
「い、いや、別に変なことではないと思いますよ」
 そんな事を言っているけど、彼はかなり慌てた様子だった。
 うう、私のせいだ・・・。
「ほーい、次は、柊つかさー。柊つかさやでー」
 しかも、いつの間にやら自己紹介は私の番になっていたようだった。
 さっき、せっかく落ち着いたのに、また動揺してしまう。
「あうぅ!
 ひ、柊つかさです。出身中学は―――」
 慌てて、立ち上がって自己紹介する。
 心なしか、隣の男の子がじっと見ているような気がした。
 顔が真っ赤になっているのが、自分でも分かる。うう、入学式から大失敗・・・。


―――


 その後、委員決めをするところで、ようやく、隣の子が「高良みゆき」という名前だと分かった。
 そして、高良君は学級委員長となったのだった。
 本当に凄い人だと思った。私には出来そうにもないもん・・・。
 とはいえ、それから私は高良君と話す機会もなく、ホームルームは終わり、下校の時間となる。
 恥ずかしい話かもしれないけれど、私はずっとお姉ちゃんと登下校を一緒にしていた。
 滅多な事でない限り、私たちはいつも一緒だった。そう、そして今日も。
「どう、高校初日は? 友達、出来そう?」
「うーん・・・。ちょっと微妙、かな」
「そう。まあ、まだ初日だしね。
 私たちの高校生活はこれからよね」
「そうそう。お姉ちゃんも、彼氏が出来ると良いね」
「ばっ、つかさっ! 余計なこといわないの!」
 お姉ちゃんは顔を真っ赤にして、言った。
 でも、口ではそう言っていても、満更でもなさそうだった。
「私も・・・彼氏が出来るのかなあ・・・」
「え?」
 お姉ちゃんはきょとんとした顔を見せた。
「つかさがそんなこというなんて意外ね」
「えへへ。そかなあ」
「そうよ。まあ、つかさはいい子だからきっと出来るわよ」
「うん、ありがとう」




―――


 それからのことだけれど、はっきり言ってしまうと、高良君と接する機会はほとんどなかった。
 黒井先生の気まぐれで、入学式翌日のホームルームに席替えがされて、席が離れてしまったことが主な原因だった。
 高良君は、いつも人気で、休み時間に彼の周りに人がいないことはなかったし、彼の周りで笑いが絶える事もなかった。
 人見知りの私では、到底行き着けそうもないところに彼はいたので、話しかけることなんて怖くて出来なかった。
 でも、それからの毎日を彼と同じクラスで過ごしたことで、高良君は凄い人だということは良く分かった。
 成績は優秀だし、人付き合いは良好。それから、それから・・・うう、多すぎて話せない。とにかく、非の打ち所がない、と言ってよかった。
 でも、私と彼の接点なんて、元々、自己紹介のアドバイスだけだったし、これだけだったら単なる尊敬と憧れだったに違いない。
 お姉ちゃんもいたし、こなちゃんこと泉こなたちゃんという親友が出来たこともあって、日に日に彼のことを意識することもなくなっていた。
 でも、そんな私にも転機が訪れたんだ。それは、桜藤祭の準備のとき―――。


「あうぅ、テープがたりないよぅ・・・。
 こなちゃーん、テープあるぅ?」
「うーん、こっちにもないや・・・。どこか探せばあると思うけど・・・」
 といって、こなちゃんが教室中をぐるりと見回したけど、目に見える場所にはテープはなかった。
 誰かに聞こうと思っても、クラス全員が忙しそうで、話しかけるのが気後れした。
「ちょい、探しに行ってくるねー」
「うん、行ってらっしゃーい」
 こなちゃんを見送って、一人残される。
 うう、何か視線が痛いような・・・。大抵は気のせいなんだけれども・・・。
 誰も私を見ているわけじゃないのに、何だか誰かに見られているような・・・。うぅ、これって言葉じゃ伝えられないかな・・・?
「つかささん、どうされました?」
「え?」
 その声に振り向くと、高良君がいた。
 相変わらず、穏やかな笑みをたたえている。
「う、うん。テープが足りなくてね。
 それでね、こなちゃんに取りに行ってもらってるの」
「ああ、そうでしたか。
 僕は、今、クラス全体での進捗状況を調べておりまして。テープの件を除いては、順調ですか?」
「う、ううん。それがそうもいかなくて・・・」
 正直に言った。もっと言うと、うまくいかないことばかりで泣きたくなってくる。
「そうでしたか。では、お手伝いいたしましょうか?」
「え? いいの?」
 パーッと自分の顔が明るくなっていくのが分かった。
「ええ。クラスの代表たる学級委員長として、作業の遅れと困っている人は見過ごせません」
 高良君は、胸を張って言った。
 私にとって、それはとても頼もしい言葉だった。それに何だか・・・かっこいい。
「あ、ありがとう。ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「いえ、こういうのはみんなでやったほうが楽しいですし。
 それに、僕の方は大体片付きましたので」
 高良君は当たり前のように言った。そんな風にいえるのが羨ましい。
 そして、高良君は制服のポケットからテープを取り出した。
「あ、あれ?」
「すみません。泉さんには悪いのですが、いつも持ち合わせておりまして・・・」
 高良君は、申し訳なさそうに話す。
「ううん、でも凄いね。用意充当・・・だっけ?」
「ふふ、それを言うなら、用意周到ですよ」
「あ、そだっけ。と、とにかく、用意周到で凄いね。
 それに、委員長ってこんなに話しやすくて優しくて凄くいい人だし・・・」
「そ、そんなことは・・・ありませんよ」
 高良君はそう言って、照れくさそうに笑った。
「いや、あるよー?」
「い、いえいえ、僕なんてちょっと要領がいいだけで・・・。
 たいしたことではありませんよ・・・」
「ううん、そんなことないよー」
 その後も、私は高良君と話しながら、文化祭の準備を進めた。
 何というか・・・楽しかった。お祭りは準備しているときが一番楽しいと言うけど・・・。
「・・・これで一段落しましたね」
 高良君の言葉で我に返る。
 楽しく喋りながら作業をしているうちに、私に割り当てられた作業は終わってしまっていた。
 終わるのはうれしいけど、それは高良君との会話も終わってしまうことを意味していて・・・ううん、何だか寂しい。
「丁度、作業時間も終わる頃です。頃合が良かったですね」
「そうだね。
 今日はとにかく、助かったよー。高良君に手伝ってもらって、本当に良かった」
「いえいえ、僕は人として当然のことをしたまでですよ」
 穏やかに笑いながら、高良君が言う。
 私にとって、その何気ない一言は、心にぐさりと刺さった。何でだろう?
 どうしたんだろう、今日の私はおかしいかもしれない。
「どうかされましたか?」
「えっ?」
「また、ぼうっとされておりましたが」
 いけない、またぼうっとしてたみたい。うう、また、高良君に迷惑をかけちゃった・・・。
 私ってどうしてこうなんだろう。本当に、高良君とは大違い。ああ、本当に高良君がうらやましい。
「う、ううん。なんでもないの。
 ゴメンね、心配かけさせちゃって」
「そうですか? 何かあったら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
 本当に高良君は優しい。私なんて、足元に及ばなくて。本当に・・・。
 ああ、やっぱり今の私っておかしいかも。
「うん、ありがとね」
「いえいえ、では」
 高良君はそういうと、私の目の前から去った。
「つーかーさー?」
「ひゃうっ!」
 その声にびっくりして、振り返ると、こなちゃんがいた。
 うー、びっくりさせないでよー。
「私が見ない間に、委員長とのフラグを立てちゃうとは、つかさもなかなかやるねー」
「え、えっ?」
 こなちゃんの唐突の言葉に戸惑ってしまう。フラグって何?
「だって、かがみのクラスからテープを取ってきて戻ってみたら、委員長と仲良く話してるんだもん。
 これは近づけないよねー。何か、仲もよさそうだったしさー。つかさって、委員長の事好きなの?」
「そ、そんなんじゃないよー。手伝ってもらっただけだし・・・」
「いやー、でも、それだけじゃないって感じがしてたよ?
 私なんか近づいたらダメそうな雰囲気がさ・・・」
 こなちゃんはそう言ってから、親指を立てて、
「ま、頑張りたまえ!
 私は、つかさを応援しているから!」
「だ、だから、こなちゃん・・・。
 そんなんじゃないって・・・」
 こなちゃんはそれに対して、何か言おうとしてたみたいだけど、
「うーっす! 準備時間も終了やー!
 全員ちゅうもーく!」
 という黒井先生の言葉で、
「おっと、いけない、いけない」
 こなちゃんは、黒井先生の方に身体を向けて、黒井先生の話を聞く。
 私も、一応黒井先生の方を向いて、話を聞こうとしたけど、全然、頭に入らなかった。何故なら・・・

 「私は、高良君のことが好きなの?」

 何故なら、その疑問だけが、頭に渦巻いていたから・・・。



 そして、話は冒頭に戻る・・・。












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