むかしむかしあるところ、元ネタの設定としては中世フランスあたりに、ひよりという名の可愛らしい女の子がいました。
ひよりは良いとこの生まれで、幼い頃から何不自由なく暮らしていました。
そんなひよりが思春期に差し掛かる頃、年上の友達から「これ面白いよ」と、ある漫画を勧められました。
801系同人誌でした。内容としては比較的ソフトな方でしたが、朱に交われば赤くなる。それをきっかけにして、ひよりは瞬く間に腐女子としての下地を作り上げてしまいました。
ノートへのイラスト描きを手始めとして、本格的な漫画創作に至るまでそう時間は掛かりませんでした。よく読みよく描くひよりは、視力が落ちたため眼鏡っ子になりました。
そんなある日のこと。ひよりのお母さんが病で亡くなってしまいました。お父さんもひよりも、深く嘆き悲しみました。
しばらく経ってから、お父さんは母のいないひよりを不憫に思い、とある未亡人と再婚をすることにしました。
お父さんの再婚相手、そしてひよりの継母となる人は、みゆきといいました。え? ええ、はい。確かに言いたいことは色々有ると思いますけどね、他に適当な人が……いえ、決してみゆきさんが老けて見えるとかそのようn
ひよりは良いとこの生まれで、幼い頃から何不自由なく暮らしていました。
そんなひよりが思春期に差し掛かる頃、年上の友達から「これ面白いよ」と、ある漫画を勧められました。
801系同人誌でした。内容としては比較的ソフトな方でしたが、朱に交われば赤くなる。それをきっかけにして、ひよりは瞬く間に腐女子としての下地を作り上げてしまいました。
ノートへのイラスト描きを手始めとして、本格的な漫画創作に至るまでそう時間は掛かりませんでした。よく読みよく描くひよりは、視力が落ちたため眼鏡っ子になりました。
そんなある日のこと。ひよりのお母さんが病で亡くなってしまいました。お父さんもひよりも、深く嘆き悲しみました。
しばらく経ってから、お父さんは母のいないひよりを不憫に思い、とある未亡人と再婚をすることにしました。
お父さんの再婚相手、そしてひよりの継母となる人は、みゆきといいました。え? ええ、はい。確かに言いたいことは色々有ると思いますけどね、他に適当な人が……いえ、決してみゆきさんが老けて見えるとかそのようn
前任者が失踪したため、ここからナレーターを交代します。
継母のみゆきには三人の連れ子がいました。上からかがみ、つかさ、こなたといいます。三人ともひよりより年上でしたので、義理の姉ということになりました。
家族も増えて賑やかになれば、ひよりが母を失った悲しみも次第に癒されていくだろう。お父さんはそんな風に考えていたのでしょう。
ところがみゆきが再婚した目的は、ひよりのお父さんが持つ財産目当てだったのです。
再婚から間もなく、お父さんも急な病で亡くなってしまいました。泣きっ面に蜂とはこのことです。
お父さんが死んでしまうや、意地悪な継母とその連れ子達は本領を発揮しました。ひよりを屋根裏部屋に追いやり、召使いの服を着せて、来る日も来る日もこき使い始めたのです。
逆境は人を強くします。
実の両親の死。突如みじめな境遇に落ちた自分。このような環境の中で、ひよりは飽くことなく同人作家としての技術と妄想力に磨きを掛け続けました。
休む暇もなく命じられる家事の合間に、思いついたネタをメモし、僅かに与えられた食事と睡眠の時間を削って漫画の執筆に当てました。
強烈なバイタリティと創作意欲が、ひよりを支えていました。
ただ一つ困ったのは、画材のことでした。漫画を描くのに最低限必要なのは紙とペンです。召使いとなったひよりでは、その二つを揃えることもままなりません。
買い貯めていた原稿用紙とインクが底をついた時、どうしようかと思案しました。
ひよりは小枝を削って尖らせ、それにかまどの灰を付けてペン代わりにしました。それからチラシの裏を原稿用紙の代わりにしました。涙ぐましい努力です。
(いつか本格的な画材と、パソコンとタブレットと複合機とフォトショップが欲しいなぁ……)
そんなことを思いながら、ひよりは小枝と灰のペンで毎日せっせと漫画を描きます。
しょっちゅうかまどの灰を拾って汚れているひよりは、いつしかシンデレラ(灰かぶり)と呼ばれるようになりました。
継母のみゆきには三人の連れ子がいました。上からかがみ、つかさ、こなたといいます。三人ともひよりより年上でしたので、義理の姉ということになりました。
家族も増えて賑やかになれば、ひよりが母を失った悲しみも次第に癒されていくだろう。お父さんはそんな風に考えていたのでしょう。
ところがみゆきが再婚した目的は、ひよりのお父さんが持つ財産目当てだったのです。
再婚から間もなく、お父さんも急な病で亡くなってしまいました。泣きっ面に蜂とはこのことです。
お父さんが死んでしまうや、意地悪な継母とその連れ子達は本領を発揮しました。ひよりを屋根裏部屋に追いやり、召使いの服を着せて、来る日も来る日もこき使い始めたのです。
逆境は人を強くします。
実の両親の死。突如みじめな境遇に落ちた自分。このような環境の中で、ひよりは飽くことなく同人作家としての技術と妄想力に磨きを掛け続けました。
休む暇もなく命じられる家事の合間に、思いついたネタをメモし、僅かに与えられた食事と睡眠の時間を削って漫画の執筆に当てました。
強烈なバイタリティと創作意欲が、ひよりを支えていました。
ただ一つ困ったのは、画材のことでした。漫画を描くのに最低限必要なのは紙とペンです。召使いとなったひよりでは、その二つを揃えることもままなりません。
買い貯めていた原稿用紙とインクが底をついた時、どうしようかと思案しました。
ひよりは小枝を削って尖らせ、それにかまどの灰を付けてペン代わりにしました。それからチラシの裏を原稿用紙の代わりにしました。涙ぐましい努力です。
(いつか本格的な画材と、パソコンとタブレットと複合機とフォトショップが欲しいなぁ……)
そんなことを思いながら、ひよりは小枝と灰のペンで毎日せっせと漫画を描きます。
しょっちゅうかまどの灰を拾って汚れているひよりは、いつしかシンデレラ(灰かぶり)と呼ばれるようになりました。
「お~い、シンデレラ~!」
義姉のこなたが呼ぶ声に、シンデレラは窓掃除をしている手を止めて振り向きました。見ればこなただけでなく継母のみゆき、かがみ、つかさと、意地の悪い家族みんなが揃っていました。
「何でしょうかお姉様?」
「今日は夕飯の支度しなくていいから。今夜は私達みんな、お城の舞踏会に行くからね」
えっへんと自慢げに胸を張るこなたですが、シンデレラとしては、継母と義姉がいなければ思う存分漫画を描いていられるので万々歳でした。舞踏会? 何それ食えんの?
「そうスか。分かりました」
「……シンデレラ。羨ましくないの?」
淡々としたシンデレラの反応に、長女のかがみが訝しげに尋ねます。
「ええ。私は分相応ってものを弁えてますから」
実際には、舞踏会への興味<漫画、というだけなのですが、こう言っておけばいじわるな継母と義姉達は満足するだろう。そう思ってシンデレラは答えました。
「ふーん……ま、確かにね。あんたみたいに地味なのが舞踏会なんか行っても、誰にも相手――」
「そろそろいいスか? 仕事途中なんで」
「え? あ、うん……」
嫌みったらしい台詞を中断されたかがみは、鼻白んで口を噤みました。いじわるな義姉としては、どうにも締まらないキャラです。
「シンデレラ。今日の舞踏会は国中の若い娘が集められて、王子様が花嫁選びをする場でもあるのですよ」
窓掃除を再開するシンデレラの背中に、継母のみゆきがそう告げます。
シンデレラは振り向きもせずに一言。
「異性同士の恋愛とか意味が分かりません」
「意味が!? どんだけ重症なんだひよりん!」
つい本名の方を出してしまったこなたです。
「まあ、いいでしょう……とにかく今夜はあなたはお留守番です」
「了解っス」
「我々三人は玉の輿を狙って美少年と噂の王子様とフラグを立てまくってくるよ!」
こなたは握り拳を振り上げて気合い十分です。
「そういえば王子様だけじゃなくて、そのお付きの従者さんも格好いいんだよね」
それまで空気だった次女のつかさがそう言った時、シンデレラの動きがピタリと止まりました。
「あ~そうらしいね。いつでもどこでも王子様と一緒だから、ちょっとあやしい関係なんじゃないかって噂もあるそうだよ」
「アホくさ……そんなのありえないでしょ」
「分かってないなぁかがみは。実際にどうとかじゃなくて妄想の材料になるだけで一部の人種には十分なのだよ」
義姉達の会話を耳ダンボにして聞いているシンデレラは、まさしくその「一部の人種」でした。
(迂闊……このような美味しい材料を見逃していたとは……! い、行きたい! 舞踏会に行ってその二人を見てみたい~!)
妄想にも限度があります。実際に見聞きすることで、新たな創作の地平が開けることも大いにあるのです。
「それじゃあシンデレラ、お仕事ガンバ~」
「あ、ちょっ、まっ……お母様! お姉様~っ!」
悲痛な叫びも空しく、シンデレラはその夜、屋敷に置いてけぼりになったのでした。
義姉のこなたが呼ぶ声に、シンデレラは窓掃除をしている手を止めて振り向きました。見ればこなただけでなく継母のみゆき、かがみ、つかさと、意地の悪い家族みんなが揃っていました。
「何でしょうかお姉様?」
「今日は夕飯の支度しなくていいから。今夜は私達みんな、お城の舞踏会に行くからね」
えっへんと自慢げに胸を張るこなたですが、シンデレラとしては、継母と義姉がいなければ思う存分漫画を描いていられるので万々歳でした。舞踏会? 何それ食えんの?
「そうスか。分かりました」
「……シンデレラ。羨ましくないの?」
淡々としたシンデレラの反応に、長女のかがみが訝しげに尋ねます。
「ええ。私は分相応ってものを弁えてますから」
実際には、舞踏会への興味<漫画、というだけなのですが、こう言っておけばいじわるな継母と義姉達は満足するだろう。そう思ってシンデレラは答えました。
「ふーん……ま、確かにね。あんたみたいに地味なのが舞踏会なんか行っても、誰にも相手――」
「そろそろいいスか? 仕事途中なんで」
「え? あ、うん……」
嫌みったらしい台詞を中断されたかがみは、鼻白んで口を噤みました。いじわるな義姉としては、どうにも締まらないキャラです。
「シンデレラ。今日の舞踏会は国中の若い娘が集められて、王子様が花嫁選びをする場でもあるのですよ」
窓掃除を再開するシンデレラの背中に、継母のみゆきがそう告げます。
シンデレラは振り向きもせずに一言。
「異性同士の恋愛とか意味が分かりません」
「意味が!? どんだけ重症なんだひよりん!」
つい本名の方を出してしまったこなたです。
「まあ、いいでしょう……とにかく今夜はあなたはお留守番です」
「了解っス」
「我々三人は玉の輿を狙って美少年と噂の王子様とフラグを立てまくってくるよ!」
こなたは握り拳を振り上げて気合い十分です。
「そういえば王子様だけじゃなくて、そのお付きの従者さんも格好いいんだよね」
それまで空気だった次女のつかさがそう言った時、シンデレラの動きがピタリと止まりました。
「あ~そうらしいね。いつでもどこでも王子様と一緒だから、ちょっとあやしい関係なんじゃないかって噂もあるそうだよ」
「アホくさ……そんなのありえないでしょ」
「分かってないなぁかがみは。実際にどうとかじゃなくて妄想の材料になるだけで一部の人種には十分なのだよ」
義姉達の会話を耳ダンボにして聞いているシンデレラは、まさしくその「一部の人種」でした。
(迂闊……このような美味しい材料を見逃していたとは……! い、行きたい! 舞踏会に行ってその二人を見てみたい~!)
妄想にも限度があります。実際に見聞きすることで、新たな創作の地平が開けることも大いにあるのです。
「それじゃあシンデレラ、お仕事ガンバ~」
「あ、ちょっ、まっ……お母様! お姉様~っ!」
悲痛な叫びも空しく、シンデレラはその夜、屋敷に置いてけぼりになったのでした。
「はぁ~……王子様と従者さん……見てみたかったなぁ……」
屋根裏部屋で机に突っ伏しながら、シンデレラはため息をつきます。今夜はがっつり漫画を描こうと思っていたのに、その気力も湧いてきません。
こんな時にこそ、机の引き出しからドラえもんの一つや二つ出てきてくれればいいのですが、残念なことにシンデレラの机に引き出しは付いていませんでした。
「いや、付いてても出ないだろうけどさ」
「そんなことないですヨ」
「え?」
まさか本当にドラえもんが!? 不意に聞こえた声に一瞬そう思ったシンデレラですが、どう考えても大山のぶ代の声ではありませんでした。
「Good evening!」
振り向いたシンデレラの目の前にいたのは、黒いローブを着たハイテンションな少女でした。
「だ、誰!?」
「私は魔法使いのパトリシアでス。パティと呼んで下さイ」
「はぁ……」
「今夜はシンデレラ、あなたを魔法の力で助けようと思って来たのでス。お城の舞踏会に行きたいですカ?」
「そりゃ、行けるものなら行きたいけど……私には舞踏会に着ていけるドレスも無いし……」
「ですから私が来たのでス! ドロ船に乗ったつもりで安心してくださイ!」
「安心できないだろそれは!」
「間違えましタ。タイタニック号に乗ったつもりでいて下さイ」
「それもダメだろ!」
「ま、細かいことはNo problemでス。では早速準備に取りかかりましょウ。まずはドレスや乗り物なド……」
パティは不意に言葉を止め、所在なさげに立つシンデレラをじーっと見つめました。
「あの……?」
何をしているのかシンデレラが疑問に思った頃、パティは口を再び開きました。
「そのためにはシンデレラの体に私の魔力を馴染ませる必要がありまス」
「ふーん」
「というわけデ……」
「ひぁっ!?」
いきなり小ぶりな胸にタッチされて、シンデレラは驚き固まります。その隙に、パティはシンデレラの体を抱き竦めました。
「なななな何を……!?」
慌てふためくシンデレラに構わず、パティは服の下にまで手を潜り込ませます。
「ですかラ、シンデレラの体に私の魔力を馴染ませるんでス。こうやるのが一番手っ取り早いんですヨ」
「いやそんなっ、だからっていきなりこんなこと……ちょっ、やめ……アッー!」
屋根裏部屋で机に突っ伏しながら、シンデレラはため息をつきます。今夜はがっつり漫画を描こうと思っていたのに、その気力も湧いてきません。
こんな時にこそ、机の引き出しからドラえもんの一つや二つ出てきてくれればいいのですが、残念なことにシンデレラの机に引き出しは付いていませんでした。
「いや、付いてても出ないだろうけどさ」
「そんなことないですヨ」
「え?」
まさか本当にドラえもんが!? 不意に聞こえた声に一瞬そう思ったシンデレラですが、どう考えても大山のぶ代の声ではありませんでした。
「Good evening!」
振り向いたシンデレラの目の前にいたのは、黒いローブを着たハイテンションな少女でした。
「だ、誰!?」
「私は魔法使いのパトリシアでス。パティと呼んで下さイ」
「はぁ……」
「今夜はシンデレラ、あなたを魔法の力で助けようと思って来たのでス。お城の舞踏会に行きたいですカ?」
「そりゃ、行けるものなら行きたいけど……私には舞踏会に着ていけるドレスも無いし……」
「ですから私が来たのでス! ドロ船に乗ったつもりで安心してくださイ!」
「安心できないだろそれは!」
「間違えましタ。タイタニック号に乗ったつもりでいて下さイ」
「それもダメだろ!」
「ま、細かいことはNo problemでス。では早速準備に取りかかりましょウ。まずはドレスや乗り物なド……」
パティは不意に言葉を止め、所在なさげに立つシンデレラをじーっと見つめました。
「あの……?」
何をしているのかシンデレラが疑問に思った頃、パティは口を再び開きました。
「そのためにはシンデレラの体に私の魔力を馴染ませる必要がありまス」
「ふーん」
「というわけデ……」
「ひぁっ!?」
いきなり小ぶりな胸にタッチされて、シンデレラは驚き固まります。その隙に、パティはシンデレラの体を抱き竦めました。
「なななな何を……!?」
慌てふためくシンデレラに構わず、パティは服の下にまで手を潜り込ませます。
「ですかラ、シンデレラの体に私の魔力を馴染ませるんでス。こうやるのが一番手っ取り早いんですヨ」
「いやそんなっ、だからっていきなりこんなこと……ちょっ、やめ……アッー!」
――数分後。
解放されたシンデレラはペタリと床に腰を落としました。顔は赤く火照り、呼吸は微かに荒くなっています。乱れた衣服を取り繕いながら、
「もうお嫁に行けない……」
と、擦れた声で呟きました。どうやらR指定くらいのことを色々とされてしまったようです。
ショックの大きいシンデレラとは対照的に、パティは非常に満足げな表情でツヤツヤしていました。
「これくらいは役得でス♪」
「ホントにこんなことする必要あったの!?」
「もちろン! ……ほとんどありませんヨ」
最後の一言はもの凄い小声だったのでシンデレラには聞こえませんでした。
「もうお嫁に行けない……」
と、擦れた声で呟きました。どうやらR指定くらいのことを色々とされてしまったようです。
ショックの大きいシンデレラとは対照的に、パティは非常に満足げな表情でツヤツヤしていました。
「これくらいは役得でス♪」
「ホントにこんなことする必要あったの!?」
「もちろン! ……ほとんどありませんヨ」
最後の一言はもの凄い小声だったのでシンデレラには聞こえませんでした。
大人の階段を多少歪んだ方向に半歩上ったシンデレラですが、これも舞踏会へ行くためと気を取り直しました。
「じゃあ頼むよパティ。魔法の力で」
「Yes ma'am!」
パティはうなずき、黄色く輝く玉をいくつか取り出しました。全部で七つあり、それぞれ数の違う星の印が描かれています。
パティはそれを屋根裏部屋の床に並べると、深呼吸をしてから呪文を唱えました。
「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえーッ!」
「それ魔法違うーっ!?」
シンデレラの突っ込みなど意に介さず、狭い屋根裏部屋に巨大な神龍が現れました。狭苦しいことこの上ありません。
「さあ願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう……」
「こちらのシンデレラがお城の舞踏会に行けるだけの用意をしてもらえますカ?」
「よかろう……」
神龍が頷くと、次の瞬間シンデレラは眩い光に包まれました。
光が消えた時、灰で薄汚れていたシンデレラは、どこのお姫様かと思うほど美しい姿に変身していました。純白のドレスにガラスの靴。加えて一流アーティストによるメイクが施されています。
「屋敷の外に馬車と馭者を用意してある。舞踏会の招待状もな。願いは叶えた。ではさらばだ……」
そう言って神龍は消えていきました。
いきなり高そうなドレスを着せられたシンデレラは、どうにも居心地が悪そうです。
「ン~、ビューティフルですネ~」
「ドレスの方はね。何というか、ドレスに着られてる感じがひしひしと……」
「まあいいじゃないですカ。これで舞踏会にいけるんですかラ」
「それもそっか」
踊りに行くのではなく、漫画のネタとして王子様×従者を取材するのが目的なのですから。格好など二の次です。
「あ、でも眼鏡は外しておいた方がいいかな」
シンデレラがそう言って眼鏡に手を掛けた時、
「それをはずすなんてとんでもなイ!」
突然パティが大声を上げました。シンデレラはびっくりして目を白黒させます。
「そんなの絶対ダメですヨ! 眼鏡っ子が眼鏡を外すなんテ、バナナパフェからバナナを抜くようなものでス!」
「いや、そんなこと言われても……」
「それに眼鏡が無いと王子様の姿もよく見えませんヨ」
「確かに」
あっさり思い直したシンデレラは、きちんと眼鏡を掛け直します。
「じゃあ早速行ってくるね」
「その前に一つ注意ヲ。魔法の効果は今夜十二時までです。日付が変わったら魔法のドレスや馬車は全て消えてしまいまス」
「え? だってこれドラゴンボールで……」
「あれはパチモノのマジックアイテムなのデ、願い事の効果が長続きしないのでス」
「あーそうなんだ。一応、魔法だったのね……」
中途半端に納得しながら、シンデレラは馬車に揺られてお城に向かいました。
「じゃあ頼むよパティ。魔法の力で」
「Yes ma'am!」
パティはうなずき、黄色く輝く玉をいくつか取り出しました。全部で七つあり、それぞれ数の違う星の印が描かれています。
パティはそれを屋根裏部屋の床に並べると、深呼吸をしてから呪文を唱えました。
「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえーッ!」
「それ魔法違うーっ!?」
シンデレラの突っ込みなど意に介さず、狭い屋根裏部屋に巨大な神龍が現れました。狭苦しいことこの上ありません。
「さあ願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう……」
「こちらのシンデレラがお城の舞踏会に行けるだけの用意をしてもらえますカ?」
「よかろう……」
神龍が頷くと、次の瞬間シンデレラは眩い光に包まれました。
光が消えた時、灰で薄汚れていたシンデレラは、どこのお姫様かと思うほど美しい姿に変身していました。純白のドレスにガラスの靴。加えて一流アーティストによるメイクが施されています。
「屋敷の外に馬車と馭者を用意してある。舞踏会の招待状もな。願いは叶えた。ではさらばだ……」
そう言って神龍は消えていきました。
いきなり高そうなドレスを着せられたシンデレラは、どうにも居心地が悪そうです。
「ン~、ビューティフルですネ~」
「ドレスの方はね。何というか、ドレスに着られてる感じがひしひしと……」
「まあいいじゃないですカ。これで舞踏会にいけるんですかラ」
「それもそっか」
踊りに行くのではなく、漫画のネタとして王子様×従者を取材するのが目的なのですから。格好など二の次です。
「あ、でも眼鏡は外しておいた方がいいかな」
シンデレラがそう言って眼鏡に手を掛けた時、
「それをはずすなんてとんでもなイ!」
突然パティが大声を上げました。シンデレラはびっくりして目を白黒させます。
「そんなの絶対ダメですヨ! 眼鏡っ子が眼鏡を外すなんテ、バナナパフェからバナナを抜くようなものでス!」
「いや、そんなこと言われても……」
「それに眼鏡が無いと王子様の姿もよく見えませんヨ」
「確かに」
あっさり思い直したシンデレラは、きちんと眼鏡を掛け直します。
「じゃあ早速行ってくるね」
「その前に一つ注意ヲ。魔法の効果は今夜十二時までです。日付が変わったら魔法のドレスや馬車は全て消えてしまいまス」
「え? だってこれドラゴンボールで……」
「あれはパチモノのマジックアイテムなのデ、願い事の効果が長続きしないのでス」
「あーそうなんだ。一応、魔法だったのね……」
中途半端に納得しながら、シンデレラは馬車に揺られてお城に向かいました。
舞踏会の会場であるお城の大ホールには、国中から若い娘達が集まっています。どいつもこいつも玉の輿を狙おうと虎視眈々……のはずでしたが。
「あれが、王子様ですの……?」
「確かに美少年だけど……」
「何というか……」
「あれが、王子様ですの……?」
「確かに美少年だけど……」
「何というか……」
ざわ・・・
ざわ・・・
ざわ・・・
「うわ王子様、背ちっちゃ!」
誰もが言うのを我慢していたことを、ストレートにぶちかましたのはこなたです。慌ててかがみが口を塞ぎます。
「ちょっ、おまっ……何を……!」
「いやだって本当にちっちゃいし」
「だからってそんな大声で……うわあ、何か偉い人から睨まれてる」
そう、この国の王子様であるゆたかは、非常に背が小さかったのです。百四十センチもありませんでした。顔立ちも小さな子供みたいです。
玉の輿は惜しいけど、さすがにあれはちょっと……という女性が少なくありませんでした。しかしごく一部のショタ好きはよだれをたらさんばかりでした。
当の王子様は、ホール上座の椅子に座りながら、不安げに周囲を見渡しています。やがてその視線が、すぐ傍らに立つ従者に留まります。
この人こそ、色々噂の種になったりしている従者でした。名前はみなみ。スラリと背が高い美男子で、評判が立つのもうなずけます。
「あの……」
それだけ声をかけると、みなみはゆたかの顔を見てすぐにうなずき、その手を取ります。
「休憩室の方へお連れします」
傍輩にそう言って、みなみはゆたかを連れて大ホールを出ました。赤い絨毯の敷かれた廊下をしばらく歩き、王子専用の休憩室としてある部屋へ入ります。
「ねえ、みなみちゃん……どうしても、あの人達の中から私の、その……結婚相手を選ばなきゃいけないの?」
ソファに座り込むと、ゆたかは沈んだ声でそう問いました。
「はい……王様のお言い付けですので……」
みなみは静かな口調でゆたかの質問に答えました。途端に、ゆたかの表情が曇ります。
「どうしよう……私は結婚なんて……」
「すぐに結婚するというわけではないでしょう。今夜王子が選んだ方が、許嫁ということになると思われます……」
「どの道、選ばなくちゃいけないんだね……」
「はい……」
「……みなみちゃんは、何とも思わないの?」
「この国に仕える者として、王のご命令は絶対です……」
みなみは表情を動かさず、淡々と答える。
「ただ――王子の友人としての発言が許されるのならば……」
「うん、いいよ。言って」
「……強引な話だと……思います……」
「……それだけ?」
「……はい」
「そう……」
ゆたかは俯き、口を噤みます。そんなゆたかを見つめるみなみの瞳には、どうにもならない悲痛のようなものが、微かに浮かんでいました。
(うおおおぉぉおおおぉぉぉおぉ!! あくまで噂だと思ってたら何スかこのモノホンな雰囲気全開なお二人は――っ!!)
シンデレラ自重しろ。
じゃなくて、ゆたかとみなみのいる休憩室で、何故か隠れて様子を窺っているシンデレラです。
誰もが言うのを我慢していたことを、ストレートにぶちかましたのはこなたです。慌ててかがみが口を塞ぎます。
「ちょっ、おまっ……何を……!」
「いやだって本当にちっちゃいし」
「だからってそんな大声で……うわあ、何か偉い人から睨まれてる」
そう、この国の王子様であるゆたかは、非常に背が小さかったのです。百四十センチもありませんでした。顔立ちも小さな子供みたいです。
玉の輿は惜しいけど、さすがにあれはちょっと……という女性が少なくありませんでした。しかしごく一部のショタ好きはよだれをたらさんばかりでした。
当の王子様は、ホール上座の椅子に座りながら、不安げに周囲を見渡しています。やがてその視線が、すぐ傍らに立つ従者に留まります。
この人こそ、色々噂の種になったりしている従者でした。名前はみなみ。スラリと背が高い美男子で、評判が立つのもうなずけます。
「あの……」
それだけ声をかけると、みなみはゆたかの顔を見てすぐにうなずき、その手を取ります。
「休憩室の方へお連れします」
傍輩にそう言って、みなみはゆたかを連れて大ホールを出ました。赤い絨毯の敷かれた廊下をしばらく歩き、王子専用の休憩室としてある部屋へ入ります。
「ねえ、みなみちゃん……どうしても、あの人達の中から私の、その……結婚相手を選ばなきゃいけないの?」
ソファに座り込むと、ゆたかは沈んだ声でそう問いました。
「はい……王様のお言い付けですので……」
みなみは静かな口調でゆたかの質問に答えました。途端に、ゆたかの表情が曇ります。
「どうしよう……私は結婚なんて……」
「すぐに結婚するというわけではないでしょう。今夜王子が選んだ方が、許嫁ということになると思われます……」
「どの道、選ばなくちゃいけないんだね……」
「はい……」
「……みなみちゃんは、何とも思わないの?」
「この国に仕える者として、王のご命令は絶対です……」
みなみは表情を動かさず、淡々と答える。
「ただ――王子の友人としての発言が許されるのならば……」
「うん、いいよ。言って」
「……強引な話だと……思います……」
「……それだけ?」
「……はい」
「そう……」
ゆたかは俯き、口を噤みます。そんなゆたかを見つめるみなみの瞳には、どうにもならない悲痛のようなものが、微かに浮かんでいました。
(うおおおぉぉおおおぉぉぉおぉ!! あくまで噂だと思ってたら何スかこのモノホンな雰囲気全開なお二人は――っ!!)
シンデレラ自重しろ。
じゃなくて、ゆたかとみなみのいる休憩室で、何故か隠れて様子を窺っているシンデレラです。
少し時間を遡りましょう。
魔法使いパティに見送られて舞踏会に繰り出したシンデレラは、招待状を見せて城門をくぐった後、ふと思いました。
(普通に舞踏会に出席したって、王子様と従者を直接観察できるチャンスは限られている……それならいっそ――)
シンデレラは舞踏会の行われている大ホールへは行かず、城の中で情報収集をすることにしました。
そうと決まれば善は急げです。単独でのスニーキングミッション。性欲をもてあます。
《無茶をしてますネ、シンデレラ》
不意にシンデレラの頭の中で、パティの声が響きました。
《パティ? どうしてパティの声が?》
《いわゆる一つのテレパシーでス。これも魔法の力ですヨ。それよりシンデレラ、舞踏会に行かないんですカ?》
《うん。せっかくだからネタになりそうな情報集めるのに集中しようと思って》
《そんなことじゃないかと思いましタ。でも素人がお城の中をうろうろしていたラ、すぐに捕まっちゃいますヨ》
《それじゃあ、どうすれば……》
《私が魔法の力でバックアップしてあげまス。こちらで見張りの動きや状況を随時モニターして伝えますのデ、いざという時はこちらの指示に従って下さイ》
《分かった》
《それからもう一人サポートがいまス》
《サポート?》
《はじめましてシンデレラ。本名はひよりだっけ》
《シンデレラでいいっスよ。どちらさまで?》
《私はこう。パティと同じく魔法使いだよ。親しみを込めてこうちゃん先輩と呼んでくれたまえ。このミッションでは潜入データの記録を担当することになった。よろしく》
《こちらこそ、よろしくお願いします》
《私もあなたの得る情報を楽しみにしているよ。頑張ってね》
パティ、こうとのテレパシーを終え、シンデレラはミッションを開始しました。
魔法使い二人のバックアップを得たシンデレラは、城中を嗅ぎ回り、あの手この手でゆたかとみなみに関する情報を掻き集めました。
しばらくして、疲れたので一休みしようと、空き部屋へ忍び込みました。
その部屋が、ゆたかとみなみが入ってきた休憩室だったのです。パティが二人の接近を知らせた時には、既に脱出のタイミングを逃していました。
しかしこれはシンデレラにとって僥倖でした。
ゆたかが王子様だというのは会話からすぐに分かりました。付き添っているのが噂の従者だというのも。
そしてその二人は、息を潜めているシンデレラの目の前で、まさにど真ん中ストライクなワンシーンを演じているのです。
(望まぬ結婚を迫られる王子と、苦渋の思いでそれを見守る従者……そんな二人の間には熱く激しい絆が……ああ~! イイッ! 凄くイイッ! 今すぐこの猛る想いを純白の原稿用紙にぶちまけたいッ!)
《シンデレラ。聞こえてる?》
妄想大暴走なシンデレラに、こうからテレパシーが入りました。
《何スかこうちゃん先輩? 今いいとこなのに》
《一つ気になってね。そちらの様子はこちらでも見えているんだけど……その二人が王子と従者なんだよね?》
《そうっスよ。それが何か?》
《二人とも、女だよ》
《……へ?》
こうが言うことの意味が分からず、シンデレラの目が点になります。
《間違いない。私ヅカとか好きでよく見てるからさ。上手く変装してるけど、私には分かる》
《なっ、何で……!?》
《多分だけど、跡継ぎの問題かな? ゆたか王子は女に生まれながら、王子として育てられたんでしょう。王が早く結婚させようとしてるのもその辺りに理由があるのかね……》
呆然としているシンデレラは、こうの台詞などほとんど聞こえていません。
(ゆたか王子が女の子……? それじゃあ従者さんとの関係も普通の純愛……? いや待て)
《二人とも女って言いましたよね?》
《うん。従者の方は、ゆたか王子のために用意されたのかな? あれだけ親しそうなら、お互いの本当の性別を知らないってのはないだろね》
(つまり……薔薇ではなく、百合?)
その瞬間、シンデレラの脳内でピーナッツのような物体が弾けました。
(百合!! 上等っ!! いいじゃないか百合ネタも!! こちとらあのカタコト魔法使いに青年誌レベルまでやられた身だ! 今さら気後れなどするもんか!!)
何かが吹っ切れたシンデレラは、今まで薔薇系成人向けとして考えていたネタを全て脳内から取っ払い、百合ネタを再構築しはじめます。
「王子、そろそろ……」
「うん……」
隠れた所で妄想を爆発させているシンデレラを尻目に、ゆたかとみなみは部屋を出て行きます。
「あっ、追わなきゃ」
すぐさま二人を追いかけようとしたシンデレラに、パティからテレパシーが入ります。
《王子達はどうやら大ホールに戻るようでス。潜入任務はそこまでにしテ、舞踏会に参加した方がいいのでハ?》
《う~ん……出来れば間近で観察したいんだけど、ステルス迷彩とか無い?》
《今は持ち合わせてないですネ》
《そっか……仕方ないね》
シンデレラは名残惜しそうに潜入任務(というか違法な探索)を終え、大ホールへ向かいました。
魔法使いパティに見送られて舞踏会に繰り出したシンデレラは、招待状を見せて城門をくぐった後、ふと思いました。
(普通に舞踏会に出席したって、王子様と従者を直接観察できるチャンスは限られている……それならいっそ――)
シンデレラは舞踏会の行われている大ホールへは行かず、城の中で情報収集をすることにしました。
そうと決まれば善は急げです。単独でのスニーキングミッション。性欲をもてあます。
《無茶をしてますネ、シンデレラ》
不意にシンデレラの頭の中で、パティの声が響きました。
《パティ? どうしてパティの声が?》
《いわゆる一つのテレパシーでス。これも魔法の力ですヨ。それよりシンデレラ、舞踏会に行かないんですカ?》
《うん。せっかくだからネタになりそうな情報集めるのに集中しようと思って》
《そんなことじゃないかと思いましタ。でも素人がお城の中をうろうろしていたラ、すぐに捕まっちゃいますヨ》
《それじゃあ、どうすれば……》
《私が魔法の力でバックアップしてあげまス。こちらで見張りの動きや状況を随時モニターして伝えますのデ、いざという時はこちらの指示に従って下さイ》
《分かった》
《それからもう一人サポートがいまス》
《サポート?》
《はじめましてシンデレラ。本名はひよりだっけ》
《シンデレラでいいっスよ。どちらさまで?》
《私はこう。パティと同じく魔法使いだよ。親しみを込めてこうちゃん先輩と呼んでくれたまえ。このミッションでは潜入データの記録を担当することになった。よろしく》
《こちらこそ、よろしくお願いします》
《私もあなたの得る情報を楽しみにしているよ。頑張ってね》
パティ、こうとのテレパシーを終え、シンデレラはミッションを開始しました。
魔法使い二人のバックアップを得たシンデレラは、城中を嗅ぎ回り、あの手この手でゆたかとみなみに関する情報を掻き集めました。
しばらくして、疲れたので一休みしようと、空き部屋へ忍び込みました。
その部屋が、ゆたかとみなみが入ってきた休憩室だったのです。パティが二人の接近を知らせた時には、既に脱出のタイミングを逃していました。
しかしこれはシンデレラにとって僥倖でした。
ゆたかが王子様だというのは会話からすぐに分かりました。付き添っているのが噂の従者だというのも。
そしてその二人は、息を潜めているシンデレラの目の前で、まさにど真ん中ストライクなワンシーンを演じているのです。
(望まぬ結婚を迫られる王子と、苦渋の思いでそれを見守る従者……そんな二人の間には熱く激しい絆が……ああ~! イイッ! 凄くイイッ! 今すぐこの猛る想いを純白の原稿用紙にぶちまけたいッ!)
《シンデレラ。聞こえてる?》
妄想大暴走なシンデレラに、こうからテレパシーが入りました。
《何スかこうちゃん先輩? 今いいとこなのに》
《一つ気になってね。そちらの様子はこちらでも見えているんだけど……その二人が王子と従者なんだよね?》
《そうっスよ。それが何か?》
《二人とも、女だよ》
《……へ?》
こうが言うことの意味が分からず、シンデレラの目が点になります。
《間違いない。私ヅカとか好きでよく見てるからさ。上手く変装してるけど、私には分かる》
《なっ、何で……!?》
《多分だけど、跡継ぎの問題かな? ゆたか王子は女に生まれながら、王子として育てられたんでしょう。王が早く結婚させようとしてるのもその辺りに理由があるのかね……》
呆然としているシンデレラは、こうの台詞などほとんど聞こえていません。
(ゆたか王子が女の子……? それじゃあ従者さんとの関係も普通の純愛……? いや待て)
《二人とも女って言いましたよね?》
《うん。従者の方は、ゆたか王子のために用意されたのかな? あれだけ親しそうなら、お互いの本当の性別を知らないってのはないだろね》
(つまり……薔薇ではなく、百合?)
その瞬間、シンデレラの脳内でピーナッツのような物体が弾けました。
(百合!! 上等っ!! いいじゃないか百合ネタも!! こちとらあのカタコト魔法使いに青年誌レベルまでやられた身だ! 今さら気後れなどするもんか!!)
何かが吹っ切れたシンデレラは、今まで薔薇系成人向けとして考えていたネタを全て脳内から取っ払い、百合ネタを再構築しはじめます。
「王子、そろそろ……」
「うん……」
隠れた所で妄想を爆発させているシンデレラを尻目に、ゆたかとみなみは部屋を出て行きます。
「あっ、追わなきゃ」
すぐさま二人を追いかけようとしたシンデレラに、パティからテレパシーが入ります。
《王子達はどうやら大ホールに戻るようでス。潜入任務はそこまでにしテ、舞踏会に参加した方がいいのでハ?》
《う~ん……出来れば間近で観察したいんだけど、ステルス迷彩とか無い?》
《今は持ち合わせてないですネ》
《そっか……仕方ないね》
シンデレラは名残惜しそうに潜入任務(というか違法な探索)を終え、大ホールへ向かいました。
シンデレラが大ホールへ足を踏み入れると、舞踏会に集まっていた人々の間に、一際大きなざわめきが広がりました。
(何? 何かあったの?)
シンデレラは状況が分からず周囲を見渡しましたが、何を隠そうシンデレラ自身がそのざわめきの原因でした。
自覚していませんが、元々の素材が悪くない上、魔法で用意された極上のドレスとメイクにより、シンデレラはそんじょそこらの幼なじみやメイドさんなど及ばないほどの萌えキャラと化していたのです。あとはケモノ耳さえあればパーフェクトだウォルター。
「何者だあれは……?」
「どこのご令嬢かしら?」
「もしやどこかのお姫様なのでは……」
(何? 何かあったの?)
シンデレラは状況が分からず周囲を見渡しましたが、何を隠そうシンデレラ自身がそのざわめきの原因でした。
自覚していませんが、元々の素材が悪くない上、魔法で用意された極上のドレスとメイクにより、シンデレラはそんじょそこらの幼なじみやメイドさんなど及ばないほどの萌えキャラと化していたのです。あとはケモノ耳さえあればパーフェクトだウォルター。
「何者だあれは……?」
「どこのご令嬢かしら?」
「もしやどこかのお姫様なのでは……」
ざわ・・・
ざわ・・・
ざわ・・・
「あ。シンデレラじゃん」
あっけらかんと言ってのけたのはやはりこなたでした。横のかがみはすぐに否定します。
「何言ってんのよ? シンデレラがこんなところにいるわけないでしょ。ドレスも招待状も持ってないんだから」
「でもあの眼鏡とおでこは間違いないと思うけど」
「ただのそっくりさんじゃないの?」
「うーん、そうなのかな……?」
言われてみれば、シンデレラにしてはあり得ないほどの萌えオーラ。そう思い、さすがのこなたもつい半信半疑になってしまいました。
シンデレラの持つ萌え度のキャパシティを見誤っていたのは、こなたにとって一世一代の不覚というべきでしょう。
それはさておき、シンデレラはホールの上座にゆたか王子と従者みなみの姿を見つけるや、蜜に吸い寄せられる蜂のようにそちらへと歩を進めます。
端から見れば、麗しき乙女が臆することなく王子の元へ向かっていくという、大変絵になる光景でした。
気が付いたら、シンデレラは王子様のすぐ目の前に立っていました。
(し、しまった! 無意識のうちにこんなところまで……!)
ゆたかは少し戸惑ったような目でシンデレラを見つめています。何か言わなければいけない雰囲気です。
《シンデレラ! もうこうなったら当たって砕けろでス! 粉砕・玉砕・大喝采!》
パティの言葉に後押しされて、シンデレラは腹を決めました。女は度胸です。
「王子様。私と一曲踊っていただけますか?」
こうなると人間不思議と肝が据わるもので、シンデレラは表面落ち着いて台詞を出すことが出来ました。
ゆたかは戸惑いを露わにしてみなみに目をやりました。みなみはシンデレラの顔をしばらく見つめてから、ゆたかに向けて優しく微笑み頷きました。
(何という旦那っぷり……私は人畜無害と判断されたのかな?)
そんなことを考えているシンデレラに、ゆたかから手が差し出されました。ダンスの申し出を受けてもらえたのです。
誰かが楽団へ指示を出しました。軽やかなワルツがホールに流れ始めます。
ダンスなどやったことのないシンデレラですが、そこは気合いと根性でカバーです。元気があれば何でもできると昔の人も言っていました。
《ほう、なかなか独創的なダンスだねぇ。上手いもんだ》
《いっぱいいっぱいなんで茶々入れないで下さいこうちゃん先輩!》
どうにかリズムに乗ってステップを踏みながら、シンデレラは裾を踏んでずっこけるなどのお約束はしないかと冷や汗ものです。
ゆたかの方は、さすがにしっかりダンスの練習をしてあるようで、落ち着いてシンデレラをリードしています。ただ背丈の差があるせいで、シンデレラがリードしているように見える場面が多々ありましたが。
しばらくして動きに慣れてきたシンデレラは、ゆたかの顔を見る余裕が出来てきました。
(確かに……女の子だ)
職業柄(?)人の顔を観察するのには慣れているので、これだけ間近で見ればシンデレラにも分かりました。
確信したところで、既に百合ネタウェルカムなシンデレラは何のショックも受けませんでしたが。
シンデレラの思惑はさておき、ゆたかは緊張しているのか、華麗にステップを踏みながらその表情は硬いです。
(初対面の私が相手だからかな……もし相手があの従者さんだったらそれはもうさぞかし――)
シンデレラはダンスをしながら妄想に浸っています。いついかなる時でも妄想が可能なのは、同人作家として必須のスキルです。
「あの、どうかされましたか……?」
「はうあっ!?」
ステップを踏みながらトリップ状態になっていたシンデレラは、ゆたかに呼びかけられ慌てて正常な意識を取り戻しました。
「す、すみません王子様……緊張していたもので」
「気にしないで……私も、結構緊張してるから。実は本番でダンスを踊るのは、これが初めてで」
「そうだったんスか?」
「ええ……練習はよくしてたんだけど」
「……あの従者さんを相手に?」
「え? どうして分かるの?」
「……勘ですよ」
曲が終わりを迎えました。無難に踊り終えた王子とシンデレラに、周囲から拍手が送られます。
シンデレラは見様見真似でなるべく上品にお辞儀をしました。
「ありがとうございました、王子様」
「こちらこそ。ところであなたのお名前は?」
「ひよりです。人からはシンデレラと呼ばれています」
「シンデレラ……?」
「私も王子様に聞きたいことがあります」
シンデレラは不意に声のトーンを落としました。
「王子様……あなたは、女性ですね?」
「!!」
ゆたかの目が驚愕に見開かれました。
「な、何を……!」
「間近で見て確信が持てました。そしてあの従者さんも同じです」
ゆたかは怯えたような目で周囲を見渡しました。ダンスの直後なので、二人の会話が聞こえる場所に人はいません。
「誤解しないで下さい。私は決して、王子様達に危害を加えようとは思っていません」
シンデレラは真剣な目でゆたかの目を見据えます。
「王子様、よろしければお話をさせてもらえませんか? 私のような者が、僭越なことだと承知してはいますが……」
「……」
ゆたかはしばらく黙って考え込んだ後、軽く頷いてからシンデレラの手を引きました。壁際に控えていたみなみの所へ行き、耳打ちをします。その途端、みなみも驚いた様子でシンデレラに視線を向けました。
シンデレラはゆたかとみなみに先導され、大ホールを出て廊下を歩いていきます。
シンデレラがゆたかと話をしたがったのは、漫画のための取材というのもありますが、二人をこのまま放っておけないような気がしたからです。
あっけらかんと言ってのけたのはやはりこなたでした。横のかがみはすぐに否定します。
「何言ってんのよ? シンデレラがこんなところにいるわけないでしょ。ドレスも招待状も持ってないんだから」
「でもあの眼鏡とおでこは間違いないと思うけど」
「ただのそっくりさんじゃないの?」
「うーん、そうなのかな……?」
言われてみれば、シンデレラにしてはあり得ないほどの萌えオーラ。そう思い、さすがのこなたもつい半信半疑になってしまいました。
シンデレラの持つ萌え度のキャパシティを見誤っていたのは、こなたにとって一世一代の不覚というべきでしょう。
それはさておき、シンデレラはホールの上座にゆたか王子と従者みなみの姿を見つけるや、蜜に吸い寄せられる蜂のようにそちらへと歩を進めます。
端から見れば、麗しき乙女が臆することなく王子の元へ向かっていくという、大変絵になる光景でした。
気が付いたら、シンデレラは王子様のすぐ目の前に立っていました。
(し、しまった! 無意識のうちにこんなところまで……!)
ゆたかは少し戸惑ったような目でシンデレラを見つめています。何か言わなければいけない雰囲気です。
《シンデレラ! もうこうなったら当たって砕けろでス! 粉砕・玉砕・大喝采!》
パティの言葉に後押しされて、シンデレラは腹を決めました。女は度胸です。
「王子様。私と一曲踊っていただけますか?」
こうなると人間不思議と肝が据わるもので、シンデレラは表面落ち着いて台詞を出すことが出来ました。
ゆたかは戸惑いを露わにしてみなみに目をやりました。みなみはシンデレラの顔をしばらく見つめてから、ゆたかに向けて優しく微笑み頷きました。
(何という旦那っぷり……私は人畜無害と判断されたのかな?)
そんなことを考えているシンデレラに、ゆたかから手が差し出されました。ダンスの申し出を受けてもらえたのです。
誰かが楽団へ指示を出しました。軽やかなワルツがホールに流れ始めます。
ダンスなどやったことのないシンデレラですが、そこは気合いと根性でカバーです。元気があれば何でもできると昔の人も言っていました。
《ほう、なかなか独創的なダンスだねぇ。上手いもんだ》
《いっぱいいっぱいなんで茶々入れないで下さいこうちゃん先輩!》
どうにかリズムに乗ってステップを踏みながら、シンデレラは裾を踏んでずっこけるなどのお約束はしないかと冷や汗ものです。
ゆたかの方は、さすがにしっかりダンスの練習をしてあるようで、落ち着いてシンデレラをリードしています。ただ背丈の差があるせいで、シンデレラがリードしているように見える場面が多々ありましたが。
しばらくして動きに慣れてきたシンデレラは、ゆたかの顔を見る余裕が出来てきました。
(確かに……女の子だ)
職業柄(?)人の顔を観察するのには慣れているので、これだけ間近で見ればシンデレラにも分かりました。
確信したところで、既に百合ネタウェルカムなシンデレラは何のショックも受けませんでしたが。
シンデレラの思惑はさておき、ゆたかは緊張しているのか、華麗にステップを踏みながらその表情は硬いです。
(初対面の私が相手だからかな……もし相手があの従者さんだったらそれはもうさぞかし――)
シンデレラはダンスをしながら妄想に浸っています。いついかなる時でも妄想が可能なのは、同人作家として必須のスキルです。
「あの、どうかされましたか……?」
「はうあっ!?」
ステップを踏みながらトリップ状態になっていたシンデレラは、ゆたかに呼びかけられ慌てて正常な意識を取り戻しました。
「す、すみません王子様……緊張していたもので」
「気にしないで……私も、結構緊張してるから。実は本番でダンスを踊るのは、これが初めてで」
「そうだったんスか?」
「ええ……練習はよくしてたんだけど」
「……あの従者さんを相手に?」
「え? どうして分かるの?」
「……勘ですよ」
曲が終わりを迎えました。無難に踊り終えた王子とシンデレラに、周囲から拍手が送られます。
シンデレラは見様見真似でなるべく上品にお辞儀をしました。
「ありがとうございました、王子様」
「こちらこそ。ところであなたのお名前は?」
「ひよりです。人からはシンデレラと呼ばれています」
「シンデレラ……?」
「私も王子様に聞きたいことがあります」
シンデレラは不意に声のトーンを落としました。
「王子様……あなたは、女性ですね?」
「!!」
ゆたかの目が驚愕に見開かれました。
「な、何を……!」
「間近で見て確信が持てました。そしてあの従者さんも同じです」
ゆたかは怯えたような目で周囲を見渡しました。ダンスの直後なので、二人の会話が聞こえる場所に人はいません。
「誤解しないで下さい。私は決して、王子様達に危害を加えようとは思っていません」
シンデレラは真剣な目でゆたかの目を見据えます。
「王子様、よろしければお話をさせてもらえませんか? 私のような者が、僭越なことだと承知してはいますが……」
「……」
ゆたかはしばらく黙って考え込んだ後、軽く頷いてからシンデレラの手を引きました。壁際に控えていたみなみの所へ行き、耳打ちをします。その途端、みなみも驚いた様子でシンデレラに視線を向けました。
シンデレラはゆたかとみなみに先導され、大ホールを出て廊下を歩いていきます。
シンデレラがゆたかと話をしたがったのは、漫画のための取材というのもありますが、二人をこのまま放っておけないような気がしたからです。
やがて、先ほどシンデレラも隠れていた休憩室にやってきました。
ドアを閉めると、まずみなみが口を開きました。
「シンデレラと言いましたね」
「はい」
「言いたいことが二つあります。まず一つ。私達の性別について、決して他言をしないように」
「分かってます」
「それからもう一つ。出来ればこのまま城を去っていただきたい。話せることはありませんし、話す必要もありません。むしろこれはあなたのために言っています。シンデレラ」
その言葉は、忠告というより警告の響きを持っていました。
「だが断る」
しかし意外に頑固一徹なシンデレラはそれしきで引き下がりはしませんでした。
「私には事情は分かりません。でも、このままじゃ誰も良い結果にならないのだけは分かります」
「あなたが首を突っ込むようなことではありません……」
「だから言ったでしょう。事情なんて分かりません。私が言いたいのは……あなた達二人は大馬鹿ってことっス」
「なっ……!?」
みなみは怒るよりも呆れてしまいます。
一国の王子とその従者を馬鹿呼ばわり。場合によっては首が飛んでもおかしくない発言です。しかしシンデレラは言わずにいられませんでした。
「今夜の舞踏会は王様の言いつけで、無理矢理に結婚相手を決めさせられるのでしょう? このままじゃ王子様は望んでもいないのに結婚させられるんスよ。しかも同性と!
こちとらネタとしては大歓げ――いや何でもありません。とにかく! 王子様の一生を台無しにしかねない瀬戸際でしょう!」
シンデレラは口角泡を飛ばして捲し立てます。
「いい加減に――」
「待ってみなみちゃん」
身を乗り出しかけたみなみを、ゆたかが留めました。
「この人と少しお話をさせて」
「しかし……!」
「お願い」
真剣な眼差しのゆたかに、みなみは渋々その場を譲りました。
「シンデレラさん。どうして私のために、そこまで必死になってくれるの?」
王子様の質問に、シンデレラはしばらく逡巡してから、口を開きました。
「私は……人が生きたいように生きられないのが嫌なんです。自分でも、他人でも。お節介なことだと自覚はしてますけど……どんな境遇であっても人は、そうなりたい、そうありたいためにあがくことは出来ます」
シンデレラは一旦言葉を句切りました。改めてゆたかの目を見据え、軽く深呼吸してから話を続けます。
「でも王子様。あなたは、自分がやりたいこと以前に、自分自身の正体を偽らされている。そしてあがくことすら許されていない。違いますか?」
「……」
ゆたかは悄然と肩を落とし、シンデレラの言葉を無言で肯定しました。
「王子様。私には王室やお城の世界でのことなど、難しいことは分かりません。でも、どんなに厳しく辛い場所でだって、自分が変わろうと努力すれば、少しずつでも何かが変わるはずです」
シンデレラはゆたかの手を取り、熱っぽく語り続けます。
「どうか勇気を出して下さい。ずっと秘密にしていられることなどありません。今夜私が気付いたように、誰かに気付かれる日がいずれまた来ます」
「でも……私は……」
「一人では不安かもしれません。しかしあなたには、いついかなる時も支えてくれる人がいる。そうでしょう?」
シンデレラはそう言って、ゆたかの傍らに寄り添うみなみへ視線を送りました。しかしみなみが少々厳しい目をしていることに気付き、ハッとします。
シンデレラはゆたかの手を取り、かなり近い位置まで顔を寄せていました。なかなか際どい構図です。
「すっ、すみませんつい! 興奮して……」
すぐさま手を離し、しどろもどろになって謝ります。
(漫画のネタ探しに来たのに、私が漫画みたいなことしてどーする!)
心の中でセルフ突っ込みを言えるシンデレラです。
シンデレラがゆたかから手を離すと、みなみの表情が柔らいでいました。
(……つまりアレ? ジェラシー? 「私のゆたかに近寄るな」ってこと? うおおおおっ、意外に焼き餅焼きなみなみさん萌え~!)
やはり舞踏会に来てよかった。シンデレラはしみじみそう思いました。
「シンデレラさん」
「はひっ!?」
またしても妄想世界へダイブしかけていたシンデレラは、ゆたかに対してつい素っ頓狂な返事をしてしまいました。幸いそれは気にされなかったようです。
「勇気を出して行動すれば、今より良い方向へ向かえるかもしれない……確かにあなたの言うとおりだね」
「王子、それは……」
何か言おうとしたみなみを目で制して、ゆたかは噛みしめるように言葉を継いでいきます。
「私も、このままではいけないと感じていたから。今夜あなたに会えて良かった……今すぐに変わるのは無理だけど、私もこれから、少しずつあがいてみるよ」
そう言うと、今度はゆたかからシンデレラの手を取りました。
「ありがとう、シンデレラさん……」
澄んだ瞳で見つめられたシンデレラは、不覚にも胸を高鳴らせてしまいました。
(ぐはぁっ……何という破壊力……この人が真っ当にお姫様として育っていたら、確実に我が国の男達の士気を変えていた……!)
アゴに良いパンチを貰ったようにフラフラしているシンデレラを、ゆたかとみなみは訝しげに見ていました。
(あ、そうだ)
ふと思い出したことがあり、シンデレラは頭の中でパティへ呼びかけます。
《パティ、今の時間は?》
《十一時四十五分でス。あと十五分ほどで魔法が解けてしまいますヨ》
《分かった》
時間にある程度の余裕を持って行動するのは、社会人として、また同人作家としての心得です。分かっていても出来ないことが多々ありますが。たとえば〆切とか〆切とか〆切とか。
「王子様。私はもう帰らなければいけません」
「そうなの?」
「はい。名残惜しいですが、これで……」
「待って! その前に一つ聞かせて欲しいの」
踵を返したシンデレラを、ゆたかが呼び止めました。
「あなたはどうしてシンデレラ(灰かぶり)なんて呼び名を?」
「……私は漫画を描いています。私の趣味で、生き甲斐です」
「?」
「今はチート使ってこんな格好してますけど、本当は召使い同然の身なので画材を買うお金が無いんです。だからかまどの灰を拾ってインク代わりにしてるんです。それでシンデレラ」
そこまで聞いたゆたかは、同情の色を目に浮かべました。しかし、
「私にとって、誇らしい呼び名です」
シンデレラはそう言うと、底抜けに明るい笑みを浮かべて、去っていきました。
ドアを閉めると、まずみなみが口を開きました。
「シンデレラと言いましたね」
「はい」
「言いたいことが二つあります。まず一つ。私達の性別について、決して他言をしないように」
「分かってます」
「それからもう一つ。出来ればこのまま城を去っていただきたい。話せることはありませんし、話す必要もありません。むしろこれはあなたのために言っています。シンデレラ」
その言葉は、忠告というより警告の響きを持っていました。
「だが断る」
しかし意外に頑固一徹なシンデレラはそれしきで引き下がりはしませんでした。
「私には事情は分かりません。でも、このままじゃ誰も良い結果にならないのだけは分かります」
「あなたが首を突っ込むようなことではありません……」
「だから言ったでしょう。事情なんて分かりません。私が言いたいのは……あなた達二人は大馬鹿ってことっス」
「なっ……!?」
みなみは怒るよりも呆れてしまいます。
一国の王子とその従者を馬鹿呼ばわり。場合によっては首が飛んでもおかしくない発言です。しかしシンデレラは言わずにいられませんでした。
「今夜の舞踏会は王様の言いつけで、無理矢理に結婚相手を決めさせられるのでしょう? このままじゃ王子様は望んでもいないのに結婚させられるんスよ。しかも同性と!
こちとらネタとしては大歓げ――いや何でもありません。とにかく! 王子様の一生を台無しにしかねない瀬戸際でしょう!」
シンデレラは口角泡を飛ばして捲し立てます。
「いい加減に――」
「待ってみなみちゃん」
身を乗り出しかけたみなみを、ゆたかが留めました。
「この人と少しお話をさせて」
「しかし……!」
「お願い」
真剣な眼差しのゆたかに、みなみは渋々その場を譲りました。
「シンデレラさん。どうして私のために、そこまで必死になってくれるの?」
王子様の質問に、シンデレラはしばらく逡巡してから、口を開きました。
「私は……人が生きたいように生きられないのが嫌なんです。自分でも、他人でも。お節介なことだと自覚はしてますけど……どんな境遇であっても人は、そうなりたい、そうありたいためにあがくことは出来ます」
シンデレラは一旦言葉を句切りました。改めてゆたかの目を見据え、軽く深呼吸してから話を続けます。
「でも王子様。あなたは、自分がやりたいこと以前に、自分自身の正体を偽らされている。そしてあがくことすら許されていない。違いますか?」
「……」
ゆたかは悄然と肩を落とし、シンデレラの言葉を無言で肯定しました。
「王子様。私には王室やお城の世界でのことなど、難しいことは分かりません。でも、どんなに厳しく辛い場所でだって、自分が変わろうと努力すれば、少しずつでも何かが変わるはずです」
シンデレラはゆたかの手を取り、熱っぽく語り続けます。
「どうか勇気を出して下さい。ずっと秘密にしていられることなどありません。今夜私が気付いたように、誰かに気付かれる日がいずれまた来ます」
「でも……私は……」
「一人では不安かもしれません。しかしあなたには、いついかなる時も支えてくれる人がいる。そうでしょう?」
シンデレラはそう言って、ゆたかの傍らに寄り添うみなみへ視線を送りました。しかしみなみが少々厳しい目をしていることに気付き、ハッとします。
シンデレラはゆたかの手を取り、かなり近い位置まで顔を寄せていました。なかなか際どい構図です。
「すっ、すみませんつい! 興奮して……」
すぐさま手を離し、しどろもどろになって謝ります。
(漫画のネタ探しに来たのに、私が漫画みたいなことしてどーする!)
心の中でセルフ突っ込みを言えるシンデレラです。
シンデレラがゆたかから手を離すと、みなみの表情が柔らいでいました。
(……つまりアレ? ジェラシー? 「私のゆたかに近寄るな」ってこと? うおおおおっ、意外に焼き餅焼きなみなみさん萌え~!)
やはり舞踏会に来てよかった。シンデレラはしみじみそう思いました。
「シンデレラさん」
「はひっ!?」
またしても妄想世界へダイブしかけていたシンデレラは、ゆたかに対してつい素っ頓狂な返事をしてしまいました。幸いそれは気にされなかったようです。
「勇気を出して行動すれば、今より良い方向へ向かえるかもしれない……確かにあなたの言うとおりだね」
「王子、それは……」
何か言おうとしたみなみを目で制して、ゆたかは噛みしめるように言葉を継いでいきます。
「私も、このままではいけないと感じていたから。今夜あなたに会えて良かった……今すぐに変わるのは無理だけど、私もこれから、少しずつあがいてみるよ」
そう言うと、今度はゆたかからシンデレラの手を取りました。
「ありがとう、シンデレラさん……」
澄んだ瞳で見つめられたシンデレラは、不覚にも胸を高鳴らせてしまいました。
(ぐはぁっ……何という破壊力……この人が真っ当にお姫様として育っていたら、確実に我が国の男達の士気を変えていた……!)
アゴに良いパンチを貰ったようにフラフラしているシンデレラを、ゆたかとみなみは訝しげに見ていました。
(あ、そうだ)
ふと思い出したことがあり、シンデレラは頭の中でパティへ呼びかけます。
《パティ、今の時間は?》
《十一時四十五分でス。あと十五分ほどで魔法が解けてしまいますヨ》
《分かった》
時間にある程度の余裕を持って行動するのは、社会人として、また同人作家としての心得です。分かっていても出来ないことが多々ありますが。たとえば〆切とか〆切とか〆切とか。
「王子様。私はもう帰らなければいけません」
「そうなの?」
「はい。名残惜しいですが、これで……」
「待って! その前に一つ聞かせて欲しいの」
踵を返したシンデレラを、ゆたかが呼び止めました。
「あなたはどうしてシンデレラ(灰かぶり)なんて呼び名を?」
「……私は漫画を描いています。私の趣味で、生き甲斐です」
「?」
「今はチート使ってこんな格好してますけど、本当は召使い同然の身なので画材を買うお金が無いんです。だからかまどの灰を拾ってインク代わりにしてるんです。それでシンデレラ」
そこまで聞いたゆたかは、同情の色を目に浮かべました。しかし、
「私にとって、誇らしい呼び名です」
シンデレラはそう言うと、底抜けに明るい笑みを浮かべて、去っていきました。
お城を出てしばらくした所で、魔法が解けてシンデレラは元の召使い姿に戻り、馬車も馭者も消えて無くなりました。
「これでおしまい、か……」
「シンデレラー、お疲れ様でしタ」
夜闇の中から、パティの黒いローブ姿がにょっきり湧いて出てきました。その横に立っている同じくローブ姿のこうが、気さくな笑顔で手を振ります。
「改めて、はじめましてシンデレラ。ネタ探しで行った舞踏会が、色々と大変だったね」
「あはは……何と言いますか、キャラに合わないお説教みたいなことまでしちゃって」
「いいんじゃないの? 向こうは前向きに受け止めてくれたみたいだしさ」
話をしながら、こうは懐から名詞を取り出し、シンデレラに差し出しました。
そこに書かれた文字を見て、シンデレラの目が点になります。
「アニケン出版……?」
「魔法使い業の傍ら、出版社に勤めててね。気が向いたら原稿持ってきな。私の評価は辛口だけど」
「で、でも、私、まともな原稿用紙も持ってなくて……」
「それは自分で何とかしなよ。どんな境遇でもあがくことは出来る。誰かさんが言ってたよね?」
「あ……」
ぐうの音も出ないシンデレラでした。
「これでおしまい、か……」
「シンデレラー、お疲れ様でしタ」
夜闇の中から、パティの黒いローブ姿がにょっきり湧いて出てきました。その横に立っている同じくローブ姿のこうが、気さくな笑顔で手を振ります。
「改めて、はじめましてシンデレラ。ネタ探しで行った舞踏会が、色々と大変だったね」
「あはは……何と言いますか、キャラに合わないお説教みたいなことまでしちゃって」
「いいんじゃないの? 向こうは前向きに受け止めてくれたみたいだしさ」
話をしながら、こうは懐から名詞を取り出し、シンデレラに差し出しました。
そこに書かれた文字を見て、シンデレラの目が点になります。
「アニケン出版……?」
「魔法使い業の傍ら、出版社に勤めててね。気が向いたら原稿持ってきな。私の評価は辛口だけど」
「で、でも、私、まともな原稿用紙も持ってなくて……」
「それは自分で何とかしなよ。どんな境遇でもあがくことは出来る。誰かさんが言ってたよね?」
「あ……」
ぐうの音も出ないシンデレラでした。
その後、シンデレラは召使いをしながら寝る時間をさらに削って内職でお金を稼いで原稿用紙と画材を買い揃えました。
何度も漫画を描いてはこうの所へ持ち込みますが、そのたびにボツを食らいます。
しかし諦めずに何度も何度も漫画を描き続けたシンデレラは、ようやく会心の一作が認められ、ある漫画雑誌に読み切りデビューすることになりましたとさ。
何度も漫画を描いてはこうの所へ持ち込みますが、そのたびにボツを食らいます。
しかし諦めずに何度も何度も漫画を描き続けたシンデレラは、ようやく会心の一作が認められ、ある漫画雑誌に読み切りデビューすることになりましたとさ。
めでたしめでたし
読み切りデビューが決まってしばらくした頃。昼間は家事に忙しいシンデレラの元へ、何とお城から使いがやってきました。
何事かと驚いている継母や義姉を尻目に、使いの白石卿は召使い姿のシンデレラに恭しくお辞儀をしました。
「シンデレラさん。あなたを王子様の婚約者としてお迎えに上がりました」
「………………はい?」
言われたことが理解できず、ハタキを手に持ったままシンデレラは固まっていました。
「では、早速お連れいたします」
白石卿が合図をすると、屋敷の外から複数の男達が入ってきます。石のように固まっているシンデレラを、立木文彦ボイスの男達が直接担いで運んで行きました。
何事かと驚いている継母や義姉を尻目に、使いの白石卿は召使い姿のシンデレラに恭しくお辞儀をしました。
「シンデレラさん。あなたを王子様の婚約者としてお迎えに上がりました」
「………………はい?」
言われたことが理解できず、ハタキを手に持ったままシンデレラは固まっていました。
「では、早速お連れいたします」
白石卿が合図をすると、屋敷の外から複数の男達が入ってきます。石のように固まっているシンデレラを、立木文彦ボイスの男達が直接担いで運んで行きました。
「シンデレラさん、怒ってるかな?」
お城の一室で、ゆたかは不安そうな声で呟きました。
「そうかもしれません。けど、話せばきっと分かってくれます……」
みなみはゆたかを安心させるため、静かな口調でそう答えます。
お城の一室で、ゆたかは不安そうな声で呟きました。
「そうかもしれません。けど、話せばきっと分かってくれます……」
みなみはゆたかを安心させるため、静かな口調でそう答えます。
実はあの舞踏会の後、王様の言いつけでどうしても許嫁を決めなければいけなかったゆたかは、シンデレラを指名していました。本気で結婚するつもりではなく、あくまで一時的な方便として。欲を言うなら協力者としてです。
ただ、名前以外何も分からなかったので、今までずっと国中を探していたのでした。
ただ、名前以外何も分からなかったので、今までずっと国中を探していたのでした。
「ちょっ、ちょっと待って下さい! 私はお后なんてなりたくないっスよ! 頼むから、おっ、おろして~っ!」
叫び声も空しく、シンデレラはおみこしよろしくワッショイワッショイとお城に運ばれていきます。
その後、シンデレラは早く解放されて漫画を描きたい一心で、陰謀渦巻くお城の中で八面六臂の大活躍をしましたとさ。
叫び声も空しく、シンデレラはおみこしよろしくワッショイワッショイとお城に運ばれていきます。
その後、シンデレラは早く解放されて漫画を描きたい一心で、陰謀渦巻くお城の中で八面六臂の大活躍をしましたとさ。
おわり
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- 無限バンダナあればインク切れないんじゃない? -- 名無しさん (2010-06-12 22:45:55)
- シンデレラの八面六臂の大活躍を続編として希望したい。
でないと終わった気がしない。 -- 名無しさん (2009-05-31 11:49:03) - 2828が止まらね~wwGJ! -- 名無しさん (2009-05-30 21:31:44)
- 上手いな〜…読みやすいし、場面が簡単に想像出来るし、面白い
激しくGJ!を贈らせていただきます -- にゃあ (2008-09-16 02:45:14) - コレ、まじでヨカッタとおもう。 -- 名無しさん (2008-03-16 01:27:18)
- ↓同感w 力作乙。 -- 名無しさん (2008-03-16 00:27:48)
- 元のシンデレラよりいい話だw -- 名無しさん (2008-03-15 02:37:36)