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鳴り響く雷鳴

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匿名ユーザー

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「お姉ちゃん」

聞き慣れた声が私の背中の方から聞こえた。
ヘッドフォンをしてたのにその声が聞こえたってことは結構大きな声で私を呼んだんだろう。
途中からほぼ無意識でクリックしてたらしく画面には見覚えのない選択肢が映っていて、あとからロードしなおさなきゃ、なんて考えながら私は足を少し捻ってイスごと後ろを向く。
誰だろうなんて思考はなかった。
この家には私を除いて2人しかいないし、私をお姉ちゃんと呼ぶ人は1人しかいないんだし。
「どったの?ゆーちゃん」
さっきチラッと見た時計は真夜中を少し過ぎていて、いつもこの時間にはゆーちゃんは寝てるはずだから少し驚いた。
ヘッドフォンが音漏れしててうるさかったかな、なんて考えてが頭を掠めたけどそんなに音量を上げてたわけじゃないし。
「ゆーちゃ…」
気分でも悪い?と聞こうとして呼んだ名前が不完全に止められた。
いや、正確には私が続けられなかった。
目の前のゆーちゃんが肩を震わせて俯くように立っていたから。
落ちてる前髪で表情は見えないけど小さく震えるピンク色の髪の間から確かに透明な液体が見えた。
「ど、どうしたの?」
ホントに気分が悪くなったのかもしれない、というかそれしか考えられなくて慌ててゆーちゃんに駆け寄る。
震えてる肩に手を置くとゆーちゃんがビクッと反応した。
「どっか痛い?」
とりあえず立たせたままじゃダメだとゆーちゃんの手をとってゆっくりとベッドに座らせる。
ひっく、と泣いてるせいで上手く呼吸ができないのか肩を上下に動かしながら涙を手で拭いているゆーちゃん。
お父さんに言った方がいいかな、と背中を擦っていた手を止めて立ち上がろうとするとクイッと袖を引っ張られた。
力はそんなに強くなかったけど、予想外の行動に左足に全体重がかかって倒れそうになる。
「ゆ、ゆーちゃん?」
「私、お姉ちゃんが好きなの」
へ……?
早口で言われたその言葉にセレクトボタンを押したみたいに時間が止まった。
「えっ…ゆ、ゆーちゃん?」
そういえばさっきから私はゆーちゃんとしか言ってない気がする。
いや、そんなことはどうでもいいんだけど。


状況が飲み込めてない頭の中には『これなんてギャルゲ?』とか『急展開!』とかいう文字が左から右に流れている。
こんな時でもネタに走る私は冷静なのかそれとも混乱しているのか。
ともかく落ち着かなきゃと小さく唾を飲み込むと、さっきよりも強い力で袖を引っ張られた。
左足にますます負荷がかかっていく。
「…………」
なんて言ったらいいのか分からなくて、まだ整理されてない頭では「どうしよう」という言葉がブラクラを踏んだみたいに大量発生している。
何か言わなきゃって思ってるのに声が出ない。
ギャルゲだとどんな選択肢あるんだっけ。『俺も好きだった』とか『ごめん、他に気になる子がいるんだ』とか?
って、どれもこの状況で言える言葉じゃない。
というか、ゆーちゃんはどんな意味で言ったんだろう。
姉として、従姉妹としての好意――な訳はないか。
だったらもっと私の知ってる可愛い笑顔で言うだろうし、なにより泣きながら言うことじゃない。
「お姉、ちゃんは…」
立ち位置が立ち位置なだけにゆーちゃんの顔を見えないけど少し落ち着ついたのかゆっくりと口を開いた。
「かがみ先輩が、好きなの?」
「…………っ!!!」
なんで。
どうしてここでかがみがでてくるの?
そう言おうと反射的に後ろを向くと、ゆーちゃんが俯いていた顔を上げた。
哀しそうな、でもなぜか嬉しそうな笑顔を私に向けて。
もう涙は出てないみたいだけど、明るいブラウンの瞳に映っている私の表情は見えない。
「なん、で…」
混乱と疑問のせいで声がうまく出せない。
結局出たのはこの3文字。それだってなんとか声帯を震わせた程度の小さな疑問。
「やっぱり」
と、いつも私やみなみちゃんに向ける笑顔を浮かべてゆーちゃんが楽しそう言う。
「お姉ちゃんはかがみ先輩が好きなんでしょ?」
「ちがっ…」
だからなんで?なんで今かがみが出てくるのさ。
明らかに動揺しているのに、それを気付かれまいとグッと掴まれていない方の指に力を入れる。
爪が食い込んで痛いけど、少し頭が冷えてきた気がした。
「か、かがみは関係ないじゃん」
「うそ」
間髪入れずに某アニメの鉈少女のように言い張るゆーちゃんにグッと息がつまる。
今日のゆーちゃんはおかしい。
いや、今の私もおかしい。
これでもないってくらい緊張している。こんなに緊張したこと今まであったっけ。テストだって受験だって緊張しないことが売りだったのになぁ、私。


「…嘘じゃ、ないよ」
「じゃあ嫌い?」
「き、嫌いなわけないじゃん!!」
思った以上に大きな声が出てしまって、慌てて口を塞ぐ。
お父さんに聞こえてしまっただろうか。

え、なんで?
なんでお父さんに聞かれたくないの?
明らかにピンチなのに、誰かここに来て空気を変えて欲しいのに。
なんで私は口を塞いだんだろう。
「私お姉ちゃんが好き」
さっきと同じ言葉を綴られて思わず息を飲む。
さっきと違うのは、ゆーちゃんが泣いていないこととその瞳から逃げられない私。
袖を掴んでいたゆーちゃんの左手がゆっくり離されて、私の指に触れてくる。
冷たい。
ゆーちゃんから伝わる指の冷たさが私の体温を奪うように指を絡めてくる。
冷たいのに、こんなこと絶対有り得ないのに、体が動かない。
「お姉ちゃんが、好き」
噛み締めるように震えるゆーちゃんがどこか遠くに感じた。
「私は……」
何か言いたいのに、全く言葉が見つからない。
かがみならこういう時なんて言うのかな。
かがみならこういう時どんな風に…
さっきからゆーちゃんに言われてるせいなのか、目の前にはゆーちゃんしかいないのに、何故か私の脳裏にはかがみが映っていた。


どうしよう、とか。言うことはいっぱいあるのに。
助けてとかがみに助けを求めている自分に苦笑する。
『かがみ先輩は関係ないんでしょ』
現実ではないゆーちゃんの声が聞こえる。
そうだよ、かがみは関係ない。
これは私とゆーちゃんの問題で、かがみは関係ない。
『ホントにそうなの?』
私はどうすればいい?
私はなにをすればいい?
『かがみ先輩の事好きじゃないの?』
好きだよ、だけど…ゆーちゃんが私に寄せる好意じゃない!!初めてできた大事な親友だから。
『柊かがみ』
いつの間にかゆーちゃんの声が私の声に重なっていた。
あぁ、これはきっと私の理性なんだ。
理性と話が出来るなんて人生で1回あるかないかくらいだね、きっと。
『かがみ』
うるさい。
『かがみ』
かがみがなんなんだ。
『かがみ』
もう私の声しか聞こえない頭の中でこの言葉がエフェクトがかかったみたいに反芻してる。
うるさい。自分の声なのに酷く耳障りで、なのに心臓が掴まれたように痛い。
「こなたお姉ちゃん」
着ていたロンTの胸ぐらを自分で掴む。
ゆーちゃんが呼んでる。
「かがみ先輩はね」
かがみは?


「つかさ先輩が好きなんだよ」


その言葉が何故かナイフを突き刺さされたように胸をついて。
私の思考はそこで途切れた。





















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  • えええええ
    続きあるよね? -- 名無しさん (2008-05-19 13:19:20)

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