Escape 第5話に戻る
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
6. (かがみ視点)
私は、額に浮かぶ汗を拭いながら、小高い丘の頂上にそびえ立つ別荘を仰ぎ見た。
白亜の外壁が、初夏の陽光を受けて眩い輝きを放っている。
「みなみさんの、別荘におじゃまするのは久しぶりです」
白を基調としたワンピースに、大きな麦藁帽子と、一昔前の令嬢を思わせる少女が感慨深げに呟いた。
誰もが美人と見とめる顔立ちだが、やや野暮ったい丸い眼鏡が、親しみを他者に与えている。
白亜の外壁が、初夏の陽光を受けて眩い輝きを放っている。
「みなみさんの、別荘におじゃまするのは久しぶりです」
白を基調としたワンピースに、大きな麦藁帽子と、一昔前の令嬢を思わせる少女が感慨深げに呟いた。
誰もが美人と見とめる顔立ちだが、やや野暮ったい丸い眼鏡が、親しみを他者に与えている。
「みゆき。買出しに付き合ってくれてありがと」
「みゆきさん。ありがとうございます」
私と、隣を歩いている2つ年下の少女は、礼を述べた。
昨晩は、眠れるゆたかちゃんを別荘に運び、今朝は買い出しの為に運転している。
流石に負担が重すぎるから、買い物は夕方にしようと言ったのだけど。
「みゆきさん。ありがとうございます」
私と、隣を歩いている2つ年下の少女は、礼を述べた。
昨晩は、眠れるゆたかちゃんを別荘に運び、今朝は買い出しの為に運転している。
流石に負担が重すぎるから、買い物は夕方にしようと言ったのだけど。
「久しぶりに、泉さんにお会いできるのですから、多少の手間など惜しんでいられませんよ」
「あんたも相変わらずね」
「お褒めにあずかり光栄です」
やれやれ……
私は、肩を竦めてみせた。
みゆきの暗躍が、ふたりの駆け落ちの主な原因だということを知ったのは、
追跡を諦めてから程ない頃だった。
結果としては、みゆきの工作が思い切り裏目に出たということだけど、恨むつもりは毛頭ない。
みゆきも、私やみなみちゃんと同様に、自分の欲望の赴くままに二人の仲を引き裂こうとして、
惨めに失敗しただけで、いわゆる同じ穴のムジナに過ぎないからだ。
「あんたも相変わらずね」
「お褒めにあずかり光栄です」
やれやれ……
私は、肩を竦めてみせた。
みゆきの暗躍が、ふたりの駆け落ちの主な原因だということを知ったのは、
追跡を諦めてから程ない頃だった。
結果としては、みゆきの工作が思い切り裏目に出たということだけど、恨むつもりは毛頭ない。
みゆきも、私やみなみちゃんと同様に、自分の欲望の赴くままに二人の仲を引き裂こうとして、
惨めに失敗しただけで、いわゆる同じ穴のムジナに過ぎないからだ。
「みゆきは、今もこなたの事を想っているの? 」
別荘の玄関の鍵を空けながら、敢えて尋ねてみる。
「さあ、どうでしょう」
しかし、みゆきは普段と変わらぬ微笑を浮かべながら、首を横に振った。
「もう、あきらめたのかしら」
「そういう訳ではありませんが…… 」
私のあからさまな挑発を軽く受け流し、買い物袋をテーブルに置いた。
別荘の玄関の鍵を空けながら、敢えて尋ねてみる。
「さあ、どうでしょう」
しかし、みゆきは普段と変わらぬ微笑を浮かべながら、首を横に振った。
「もう、あきらめたのかしら」
「そういう訳ではありませんが…… 」
私のあからさまな挑発を軽く受け流し、買い物袋をテーブルに置いた。
「泉さんのお尻を追い掛け回しても、あまり、いい結果が得られませんでしたから」
皮肉めいた言い方が、多少癇に障る。
「私のやり方が間違いだっていいたいの? 」
「いいえ。そんな事はありませんよ」
買い入れた食材を仕分けながら、みゆきは苦笑した。
皮肉めいた言い方が、多少癇に障る。
「私のやり方が間違いだっていいたいの? 」
「いいえ。そんな事はありませんよ」
買い入れた食材を仕分けながら、みゆきは苦笑した。
「私は、今回はのんびりと鑑賞する側に回らせてもらいます」
「本当かしら? 」
私は疑わしげな視線を向けた。みゆきの言葉は額面通りに受け取ってはいけない。
「傍観者として、みなさんの動きを見守るだけで十分だと思っておりますので」
「ふうん」
私は、曖昧な相槌を打った。相変わらず腹の底がしれない女だ。
「それに、もっとも激しく躍る者が、もっとも疲れるといいますからね」
「本当かしら? 」
私は疑わしげな視線を向けた。みゆきの言葉は額面通りに受け取ってはいけない。
「傍観者として、みなさんの動きを見守るだけで十分だと思っておりますので」
「ふうん」
私は、曖昧な相槌を打った。相変わらず腹の底がしれない女だ。
「それに、もっとも激しく躍る者が、もっとも疲れるといいますからね」
みゆきの物言いには、皮肉と言うスパイスがたっぷりと振りかけられていたのだが、
敢えて追求をするのは愚かというものだ。
とりあえずは、現時点で味方になってくれていることに満足すべきだろう。
敢えて追求をするのは愚かというものだ。
とりあえずは、現時点で味方になってくれていることに満足すべきだろう。
「そういえば、つかささんはどうしたのでしょう? 」
野菜を冷蔵庫に入れながら、みゆきが首をかしげた。
「玄関でチャイムは鳴らしたのですが…… 」
みゆきを手伝っていたみなみちゃんも、首を横に振っている。
野菜を冷蔵庫に入れながら、みゆきが首をかしげた。
「玄関でチャイムは鳴らしたのですが…… 」
みゆきを手伝っていたみなみちゃんも、首を横に振っている。
「たぶん部屋で寝ていると思うわ」
私は、荷物を整理する手を止めて言った。つかさはとてもよく寝る子だから。
しかし、みゆきは怪訝な顔をしている。
「でも、小早川さんが一緒にいるんでしょう? 」
忌わしい名前が飛び出し、私は、身体をぴくりと震わせた。
私は、荷物を整理する手を止めて言った。つかさはとてもよく寝る子だから。
しかし、みゆきは怪訝な顔をしている。
「でも、小早川さんが一緒にいるんでしょう? 」
忌わしい名前が飛び出し、私は、身体をぴくりと震わせた。
脳裏に、名古屋の大須で大立ち回りを演じた時の、苦い記憶が蘇る。
正直なところ、こなたさえ何とかすれば、体力の無いゆたかちゃんを、
捕らえることなど造作もないと考えていた。
しかし、私達の動きを読まれた上に、強く抵抗されて一度は逃走を許してしまった。
幸いなことに、二人が居住しているアパートの最寄駅に張りこませたつかさが、
首尾良く仕事をしてくれたから良かったものの、一歩間違えれば、半年前と同じ醜態を晒すところだった。
正直なところ、こなたさえ何とかすれば、体力の無いゆたかちゃんを、
捕らえることなど造作もないと考えていた。
しかし、私達の動きを読まれた上に、強く抵抗されて一度は逃走を許してしまった。
幸いなことに、二人が居住しているアパートの最寄駅に張りこませたつかさが、
首尾良く仕事をしてくれたから良かったものの、一歩間違えれば、半年前と同じ醜態を晒すところだった。
「どうしました? かがみさん 」
「なんでもないわ」
心配そうに見つめている視線に対して首を横に振りながら、私は立ちあがった。
「つかさを起こしてくる」
「私も、行きます」
今まで黙っていたみなみちゃんが、後に続いた。
「なんでもないわ」
心配そうに見つめている視線に対して首を横に振りながら、私は立ちあがった。
「つかさを起こしてくる」
「私も、行きます」
今まで黙っていたみなみちゃんが、後に続いた。
軋んだ音を立てながら階段を昇って、つかさに割り当てられた部屋に入ると、予想通り眠っていた。
「つかさ…… 起きなさい」
身体を何度か揺り動かすと、瞼がうっすらと開かれる。
「うーん」
猫のように手の甲をぺろりと舐めながら、何度も瞬きを繰り返した後、のんびりとした声をあげた。
「おはよ― お姉ちゃん」
「おはよ。つかさ。早速で悪いけれど、ゆたかちゃんはどうしたの? 」
「つかさ…… 起きなさい」
身体を何度か揺り動かすと、瞼がうっすらと開かれる。
「うーん」
猫のように手の甲をぺろりと舐めながら、何度も瞬きを繰り返した後、のんびりとした声をあげた。
「おはよ― お姉ちゃん」
「おはよ。つかさ。早速で悪いけれど、ゆたかちゃんはどうしたの? 」
「うーん。わかんない」
「先輩! ゆたかはどこです! 」
みなみちゃんの表情がたちまち変わる。
「たぶん、逃げたと思うよ」
「どうして逃がしてしまうんですか! 」
取り乱しながら、つかさの胸倉を掴んで、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「まあまあ、落ちついてよ。みなみちゃん」
「先輩! ゆたかはどこです! 」
みなみちゃんの表情がたちまち変わる。
「たぶん、逃げたと思うよ」
「どうして逃がしてしまうんですか! 」
取り乱しながら、つかさの胸倉を掴んで、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「まあまあ、落ちついてよ。みなみちゃん」
つかさは、ひどく興奮している後輩をなだめてから、誰もが吸いこまれそうな笑顔をみせて言った。
「ゆたかちゃんが『ココ』から逃げられると思う? 」
「あ…… 」
みなみちゃんはようやく気がついて、つかさを掴んでいた手を離した。
「でも、私、ゆたかを捕まえてきます」
みなみちゃんは宣言すると、忙しなく立ちあがって、部屋から出ていこうとする。
いくら逃げられないと分かっていても、一刻でも早く、ゆたかちゃんの身柄を確保したいのだろう。
「ゆたかちゃんが『ココ』から逃げられると思う? 」
「あ…… 」
みなみちゃんはようやく気がついて、つかさを掴んでいた手を離した。
「でも、私、ゆたかを捕まえてきます」
みなみちゃんは宣言すると、忙しなく立ちあがって、部屋から出ていこうとする。
いくら逃げられないと分かっていても、一刻でも早く、ゆたかちゃんの身柄を確保したいのだろう。
「みなみちゃん」
つかさは、ドアを開けたみなみちゃんの背中に声をかけた。
「チェリーちゃんを連れて行った方がいいよ」
「チェリー? 」
振り返ったみなみちゃんは、一瞬、怪訝そうな顔つきを浮かべたが、直ぐに納得したようだ。
「チェリーに警察犬の役目を果させるのですね 」
「うん。ゆたかちゃんの下着が洗濯かごに入っているから使ってね」
「あ、ありがとうございます」
つかさに頭をさげると、みなみちゃんは、小さい女の子を捕獲する為に外に出ていった。
つかさは、ドアを開けたみなみちゃんの背中に声をかけた。
「チェリーちゃんを連れて行った方がいいよ」
「チェリー? 」
振り返ったみなみちゃんは、一瞬、怪訝そうな顔つきを浮かべたが、直ぐに納得したようだ。
「チェリーに警察犬の役目を果させるのですね 」
「うん。ゆたかちゃんの下着が洗濯かごに入っているから使ってね」
「あ、ありがとうございます」
つかさに頭をさげると、みなみちゃんは、小さい女の子を捕獲する為に外に出ていった。
「つかさ…… アンタ何を考えているの? 」
私は、飼い犬を連れて駆け足で、別荘から遠ざかる少女を見下ろしながら尋ねる。
「私、単純な話は好きじゃないんだ 」
「何、それ? 」
つかさの言いたいことが全く分からない。
私は、飼い犬を連れて駆け足で、別荘から遠ざかる少女を見下ろしながら尋ねる。
「私、単純な話は好きじゃないんだ 」
「何、それ? 」
つかさの言いたいことが全く分からない。
「えっとね。 ゆたかちゃんは囚われの身のお姫様だと思うの」
「はあ…… 」
お姫様という言葉に引っ掛かりを覚えるが、指摘するほどではない。
「私達に捕まってからは、ゆたかちゃんは大人しく待つこと以外に、何もすることがないよね」
「それが、何か問題なの? 」
「ゆたかちゃんには、もしかしたら脱出できるかもしれない、という希望をもって欲しいの。
例え、儚い望みでもね」
「あ…… 」
何となく、つかさの言いたい事が分かって…… 慄然とする。
「はあ…… 」
お姫様という言葉に引っ掛かりを覚えるが、指摘するほどではない。
「私達に捕まってからは、ゆたかちゃんは大人しく待つこと以外に、何もすることがないよね」
「それが、何か問題なの? 」
「ゆたかちゃんには、もしかしたら脱出できるかもしれない、という希望をもって欲しいの。
例え、儚い望みでもね」
「あ…… 」
何となく、つかさの言いたい事が分かって…… 慄然とする。
「あんた。本当に恐ろしい子ね」
つかさは、ゆたかちゃんに脱出という希望を与えてから、再び絶望に陥れようとしている。
つまり、少しでも長く愉しむために、ゆたかちゃんを『わざと』逃がした。
「でもね。こころの一部では、ゆたかちゃんが見事に逃げおおせることも願っているんだ」
つかさは、天使のように無垢な微笑を浮かべたが、笑う気にはとてもならなかった。
つかさは、ゆたかちゃんに脱出という希望を与えてから、再び絶望に陥れようとしている。
つまり、少しでも長く愉しむために、ゆたかちゃんを『わざと』逃がした。
「でもね。こころの一部では、ゆたかちゃんが見事に逃げおおせることも願っているんだ」
つかさは、天使のように無垢な微笑を浮かべたが、笑う気にはとてもならなかった。
こなたとゆたかちゃんが、遠い土地に逃げたことによる悪影響は、やはり深刻だ。
私はこなた、みなみちゃんはゆたかちゃんに対する妄執を抑えることができないし、
つかさは心の奥底にとんでもない闇を抱えてしまった。
私はこなた、みなみちゃんはゆたかちゃんに対する妄執を抑えることができないし、
つかさは心の奥底にとんでもない闇を抱えてしまった。
「お姉ちゃん。こなちゃんに電話しないの? 」
背中を這い上るうそ寒さに震えている私に、つかさが尋ねた。
「あ、ああ、そうだったわね」
我に返ってポケットから携帯を取り出し、ボタンを押して耳に当てると1コールでこなたが出る。
背中を這い上るうそ寒さに震えている私に、つかさが尋ねた。
「あ、ああ、そうだったわね」
我に返ってポケットから携帯を取り出し、ボタンを押して耳に当てると1コールでこなたが出る。
『ゆーちゃんをどこにやったの? ゆーちゃんを返してよ! 』
切羽詰った怒鳴り声がいきなり聞こえる。
「こなたと話が出来てとても嬉しいわ」
今まで、何百回と電話をかけたにも関わらず、全て着信を拒否されていたのに、
ゆたかちゃんが攫われたらあっさりと繋がるとは、とても分かりやすい。
こなたの愛を一身に受けるゆたかちゃんに、改めて嫉妬してしまう。
切羽詰った怒鳴り声がいきなり聞こえる。
「こなたと話が出来てとても嬉しいわ」
今まで、何百回と電話をかけたにも関わらず、全て着信を拒否されていたのに、
ゆたかちゃんが攫われたらあっさりと繋がるとは、とても分かりやすい。
こなたの愛を一身に受けるゆたかちゃんに、改めて嫉妬してしまう。
『何、笑っているの! 』
一方、追い詰められたこなたは、余裕が全くない。
「あははっ、ごめんね。でもね…… 」
この瞬間、私はとても邪悪な笑みを浮かべているに違いない。
「ゆたかちゃんは逃げてしまったから。行方はわからないわよ」
一方、追い詰められたこなたは、余裕が全くない。
「あははっ、ごめんね。でもね…… 」
この瞬間、私はとても邪悪な笑みを浮かべているに違いない。
「ゆたかちゃんは逃げてしまったから。行方はわからないわよ」
『嘘だっ! 』
こなたが叫んだ。昔、彼女に強引に見せられたアニメに出ていた、女の子と同じ台詞だ。
「本当よ」
『嘘に決まっている。だって、ゆーちゃんが逃げたのなら、かがみは慌てているはずだよ』
やっぱりこなたは大好きだ。
受験の為の勉強はしなかったけれど、頭の回転はとても速い。
「ゆたかちゃんに逃げられたのは本当よ。でもね 」
こなたにみなみちゃんの別荘の場所を教えてあげる。
こなたが叫んだ。昔、彼女に強引に見せられたアニメに出ていた、女の子と同じ台詞だ。
「本当よ」
『嘘に決まっている。だって、ゆーちゃんが逃げたのなら、かがみは慌てているはずだよ』
やっぱりこなたは大好きだ。
受験の為の勉強はしなかったけれど、頭の回転はとても速い。
「ゆたかちゃんに逃げられたのは本当よ。でもね 」
こなたにみなみちゃんの別荘の場所を教えてあげる。
『そんな…… ひどいよ 』
予想通りこなたは絶句した。
憔悴する想い人の姿を想像すると胸が痛むが、心を鬼にしなくてはいけない。
予想通りこなたは絶句した。
憔悴する想い人の姿を想像すると胸が痛むが、心を鬼にしなくてはいけない。
「こなた…… 来てくれるわよね。勿論、駅まで迎えに行ってあげるわよ」
私は、敢えて勝ち誇った笑みを浮かべて、最愛の少女に対して念を押す。
『ゆーちゃんに何かしたら絶対に許さないから! 』
永遠ともいえる沈黙の後、呻くような低い声が耳朶に届いた。
私は、敢えて勝ち誇った笑みを浮かべて、最愛の少女に対して念を押す。
『ゆーちゃんに何かしたら絶対に許さないから! 』
永遠ともいえる沈黙の後、呻くような低い声が耳朶に届いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Escape 第7話へ続く
Escape 第7話へ続く
コメントフォーム
- …つかさ、本当に何を考えているんだ? -- 名無しさん (2008-05-28 01:29:54)
- うおおつかさが黒くなっている。しかし、みなみの別荘は一体
ドコにあるのかとても気になるЩ(゜д゜)Щ次回に期待(=ω=、)
-- 九龍(九重龍太)くーろん (2008-05-24 22:11:36)