【第7話:hope】
「おはよ、こなちゃん」
待ち合わせ場所にいくと、柊つかさが笑顔で出迎えてきた。こなたは挨拶を返し、すぐに異変に気づく。
「……かがみは?」
「なんだかお姉ちゃん、今日は早く出る用事があるんだって」
「そっか」
そういいながら、安堵している自分に嫌悪感をこなたは覚えた。
かといって合わせる顔がないのも事実だったし、陵桜学園への最寄り駅に近づくたびに大きくなる心臓の鼓動が急速に収束していたことには嘘をつきようのなかった。
待ち合わせ場所にいくと、柊つかさが笑顔で出迎えてきた。こなたは挨拶を返し、すぐに異変に気づく。
「……かがみは?」
「なんだかお姉ちゃん、今日は早く出る用事があるんだって」
「そっか」
そういいながら、安堵している自分に嫌悪感をこなたは覚えた。
かといって合わせる顔がないのも事実だったし、陵桜学園への最寄り駅に近づくたびに大きくなる心臓の鼓動が急速に収束していたことには嘘をつきようのなかった。
「風邪治ったんだ」
「うん、でも休日中ずっと家に居たんだ。暇で暇で~」
「元気でなによりだよ」
というより、つかさが普通の風邪で安心した。
9月も中盤に差し掛かり、周りの景色もほのかに秋めいてきた。広葉樹の花はもみじ色にかわり、ひらひらと落ち葉を降らす。
落ち葉の上を歩くとくしゃっ、とこ気味いい音を奏でて踏み分ける。
この音ってかわいいよね、とつかさが話しかけるので、こなたは肯いた。
まだまだクーラーやら扇風機やらが欠かせない季節で、青を基調としたセーラー服を着ている二人にも額や脇にうっすらと汗で湿らせる。
「うん、でも休日中ずっと家に居たんだ。暇で暇で~」
「元気でなによりだよ」
というより、つかさが普通の風邪で安心した。
9月も中盤に差し掛かり、周りの景色もほのかに秋めいてきた。広葉樹の花はもみじ色にかわり、ひらひらと落ち葉を降らす。
落ち葉の上を歩くとくしゃっ、とこ気味いい音を奏でて踏み分ける。
この音ってかわいいよね、とつかさが話しかけるので、こなたは肯いた。
まだまだクーラーやら扇風機やらが欠かせない季節で、青を基調としたセーラー服を着ている二人にも額や脇にうっすらと汗で湿らせる。
道中無言では退屈なので、二人は共通の話題である中間テストについて議論する。
「こなちゃんは大丈夫? 私、どうしよ~。また50点とか取るとさすがにお父さんも呆れちゃうかなあって」
「まあつかさんところはかがみが優秀だから、比較していろいろ大変だね」
「でもそれは単に、お姉ちゃんが頭いいだけなんだよね。私も良ければいいんだけど、なかなかうまくいかないや」
「…まあ、こればっかりはねえ」
二人してため息。二人とも進級に響くほど点が悪いわけでは決しないのだが。
「こなちゃんは大丈夫? 私、どうしよ~。また50点とか取るとさすがにお父さんも呆れちゃうかなあって」
「まあつかさんところはかがみが優秀だから、比較していろいろ大変だね」
「でもそれは単に、お姉ちゃんが頭いいだけなんだよね。私も良ければいいんだけど、なかなかうまくいかないや」
「…まあ、こればっかりはねえ」
二人してため息。二人とも進級に響くほど点が悪いわけでは決しないのだが。
横断歩道にはいつもこなたは苦言を呈す。
「この信号機明らかに空気読めないよね。私在学中にこの交差点に車がよぎったのみたことないよ」
「わたしも~、それでいて赤でいる時間が長いんだから困っちゃうよね」
「てゆーか学校のアクセス悪杉」
「あはは」
「――だから車多杉」
「特にここって、青の時間が短いんだよね」
「だよね。登校時間帯だと人が多くて、渡り終える前に点滅するから少しびびっちゃうよ」
「私、昔それで転んじゃってね、ほんとどうしようか焦っちゃった~」
「かがみんも大変だね」
「えへへ、お姉ちゃんはいつも助けてくれるの」
「そっか」
かがみ、どうしたんだろうとつかさに聞いてみようと思ってやめた。
もうすぐで学校だ。心配しなくてもかがみとあう機会はあるとこなたは思った。いくら拒否しようと否応なしに。そして胸が痛む。
赤から黄色へと色彩が変化する。そこでつかさが一歩歩こうとする。こなたはセーラー服をつかんでそれを静止した。
もういちど黄色から赤。その後青に変わった。
「ごめーん、こなちゃんありがとう~」
「つかさ、いい加減覚えなよ」
そこからすぐ先にバス停がある。
バス停に乗って、陵桜学園へ。
「この信号機明らかに空気読めないよね。私在学中にこの交差点に車がよぎったのみたことないよ」
「わたしも~、それでいて赤でいる時間が長いんだから困っちゃうよね」
「てゆーか学校のアクセス悪杉」
「あはは」
「――だから車多杉」
「特にここって、青の時間が短いんだよね」
「だよね。登校時間帯だと人が多くて、渡り終える前に点滅するから少しびびっちゃうよ」
「私、昔それで転んじゃってね、ほんとどうしようか焦っちゃった~」
「かがみんも大変だね」
「えへへ、お姉ちゃんはいつも助けてくれるの」
「そっか」
かがみ、どうしたんだろうとつかさに聞いてみようと思ってやめた。
もうすぐで学校だ。心配しなくてもかがみとあう機会はあるとこなたは思った。いくら拒否しようと否応なしに。そして胸が痛む。
赤から黄色へと色彩が変化する。そこでつかさが一歩歩こうとする。こなたはセーラー服をつかんでそれを静止した。
もういちど黄色から赤。その後青に変わった。
「ごめーん、こなちゃんありがとう~」
「つかさ、いい加減覚えなよ」
そこからすぐ先にバス停がある。
バス停に乗って、陵桜学園へ。
☆
「やほ」
お昼休み。いつものようにかがみはC組にやってきた。こなたの顔に緊張が走る。
かがみはなんでもなしに挨拶をした。
お昼休み。いつものようにかがみはC組にやってきた。こなたの顔に緊張が走る。
かがみはなんでもなしに挨拶をした。
「うん、おはよ、かがみ」
「……もう昼だろ」
「でも今日初めてあったんだから、やっぱりおはよ」
「……もう昼だろ」
「でも今日初めてあったんだから、やっぱりおはよ」
ぎくしゃくとした会話に、みゆきとつかさが加わり、賑やかさを増す。
「かがみさん、お元気そうでなによりです」
「みゆき――この前はありがとね」
「本当にありがとうゆきちゃん~ 私ひとりじゃ不安だったよ」
「ええ、お力になれたのであればなによりです」
みゆきは貴婦人のように優雅に笑う。育ちのよさが見て取れる。
かがみが弁当箱を広げると、鳥の唐揚げ、きんぴらごぼう、ハンバーグ、三色ごはんがきれいに型崩れせず盛られていた。
「おお、さすが豪華だね」
こなたが感心する。
「まあつかさが当番だからね」
「いや、かがみんの弁当もいいと思うよ? ダイエットに最適だし」
「うるさいな」
「かがみさん、お元気そうでなによりです」
「みゆき――この前はありがとね」
「本当にありがとうゆきちゃん~ 私ひとりじゃ不安だったよ」
「ええ、お力になれたのであればなによりです」
みゆきは貴婦人のように優雅に笑う。育ちのよさが見て取れる。
かがみが弁当箱を広げると、鳥の唐揚げ、きんぴらごぼう、ハンバーグ、三色ごはんがきれいに型崩れせず盛られていた。
「おお、さすが豪華だね」
こなたが感心する。
「まあつかさが当番だからね」
「いや、かがみんの弁当もいいと思うよ? ダイエットに最適だし」
「うるさいな」
……かがみはかがみのままだ。
それなら今は、あの時のことなんて忘れておこう。せめてこんな時間は、いつもの時間を切り取っていてもいいんじゃないか。
こなたはそう、それでいいんだと自分を鼓舞して景気よく朗らかな声で、
「黄金生活にでられるようなレシピだよね、かがみんは~♪」
「どーせ私は消費専門だよっ!」
「いや~じゃあ私のも食べてみる?」
「え、いいの?」
「今度作った挙げるよ。どーせ二人分作ったって大して時間は変わらないし」
「そ、そっか。その、楽しみにしているわよ」
顔を赤くしながら、嬉しそうにかがみは笑った。こなたはその顔をほとんど見ていなかった。
それなら今は、あの時のことなんて忘れておこう。せめてこんな時間は、いつもの時間を切り取っていてもいいんじゃないか。
こなたはそう、それでいいんだと自分を鼓舞して景気よく朗らかな声で、
「黄金生活にでられるようなレシピだよね、かがみんは~♪」
「どーせ私は消費専門だよっ!」
「いや~じゃあ私のも食べてみる?」
「え、いいの?」
「今度作った挙げるよ。どーせ二人分作ったって大して時間は変わらないし」
「そ、そっか。その、楽しみにしているわよ」
顔を赤くしながら、嬉しそうにかがみは笑った。こなたはその顔をほとんど見ていなかった。
そんな日常すら長続きしない。当たり前は脆弱で、ぼろぼろになってしまっていたから。
おどおどしている(そう見えなくもない)女生徒が廊下付近でうろうろしていることににクラスメートの誰かが気づく。
あまりの小ささにそのクラスメートは曖昧な笑みを浮かべながら「誰かをまっているの?」とあやすようにいった。
その少女は「はい……、泉先輩を呼んできてもらえますか」
クラスメートが賑やかに弁当をつまむこなたたちに机に赴く。あまり仲の良くないクラスメートの来訪に一同が疑問符を浮かべていると、その理由を述べる。
こなたとかがみが同時に息を呑んだ。
みゆきははっと目をせわしなく動かし、つかさはみゆきの顔を不安そうにちらりと見つめた。
おどおどしている(そう見えなくもない)女生徒が廊下付近でうろうろしていることににクラスメートの誰かが気づく。
あまりの小ささにそのクラスメートは曖昧な笑みを浮かべながら「誰かをまっているの?」とあやすようにいった。
その少女は「はい……、泉先輩を呼んできてもらえますか」
クラスメートが賑やかに弁当をつまむこなたたちに机に赴く。あまり仲の良くないクラスメートの来訪に一同が疑問符を浮かべていると、その理由を述べる。
こなたとかがみが同時に息を呑んだ。
みゆきははっと目をせわしなく動かし、つかさはみゆきの顔を不安そうにちらりと見つめた。
☆
「ゆーちゃん、何か用」
もう普通に接することなどできない。こなたは敵対心を隠せずにぶっきらぼうにいう。
「この前の写真、どう?」
ゆたかはいの一番に切り出す。
「……それがなに?」
「わかった? 私とかがみ先輩の関係。だから邪魔しないでくれる?」
「――本当に?」
「……どういう、意味かなあ?」
ゆたかの顔を直視できない。
もしかしたら、少なくても今日はいつもの生活をすごせると思っていたのに、あっという間に現実に引き戻されて苦痛のあまり呻吟する。
こんなどろどろな関係、ゲームや漫画だけでいい。そりゃ何度か剣と魔法の世界なんてものにこなたはあこがれもしたが、それでいてこうした生活も、好きだった。
かがみとふざけあって、つかさとみゆきさんと一緒に、いやいやながらも勉強する毎日は、今になって確かに楽しかったと、こなたは思う。
もう普通に接することなどできない。こなたは敵対心を隠せずにぶっきらぼうにいう。
「この前の写真、どう?」
ゆたかはいの一番に切り出す。
「……それがなに?」
「わかった? 私とかがみ先輩の関係。だから邪魔しないでくれる?」
「――本当に?」
「……どういう、意味かなあ?」
ゆたかの顔を直視できない。
もしかしたら、少なくても今日はいつもの生活をすごせると思っていたのに、あっという間に現実に引き戻されて苦痛のあまり呻吟する。
こんなどろどろな関係、ゲームや漫画だけでいい。そりゃ何度か剣と魔法の世界なんてものにこなたはあこがれもしたが、それでいてこうした生活も、好きだった。
かがみとふざけあって、つかさとみゆきさんと一緒に、いやいやながらも勉強する毎日は、今になって確かに楽しかったと、こなたは思う。
「本当に、かがみと付き合っているの?」
「写真、みたでしょ」
「……それは」
「だから、かがみ先輩のことを考えてあげて。もしここでこなたお姉ちゃんがしゃしゃりでたら、かがみ先輩はきっと困る」
「そう、なのかな……」
「前も言わなかった? かがみ先輩は――」
「や、やめて!」
思わず大声を発する。たとえそれが事実でもききたくない。
目の前に居る少女は、もはやかわいらしく何事にも純粋なゆたかなんかではなかった。
「もちろん、対価はあるよ。ほら」
「……」
半ば呆然と差し出されたものをこなたは見つめていた。
「写真、みたでしょ」
「……それは」
「だから、かがみ先輩のことを考えてあげて。もしここでこなたお姉ちゃんがしゃしゃりでたら、かがみ先輩はきっと困る」
「そう、なのかな……」
「前も言わなかった? かがみ先輩は――」
「や、やめて!」
思わず大声を発する。たとえそれが事実でもききたくない。
目の前に居る少女は、もはやかわいらしく何事にも純粋なゆたかなんかではなかった。
「もちろん、対価はあるよ。ほら」
「……」
半ば呆然と差し出されたものをこなたは見つめていた。
「なんだったの」
とぼとぼと歩いて戻ってきたこなたに、真っ先にかがみが聞いた。こなたは虚ろにかがみの顔を見てどおう告げればいいかなやむ。
「――私に最低の役を演じろだってさ」
「なによ、それ」
「さあ」
それっきりこなたは黙った。
とぼとぼと歩いて戻ってきたこなたに、真っ先にかがみが聞いた。こなたは虚ろにかがみの顔を見てどおう告げればいいかなやむ。
「――私に最低の役を演じろだってさ」
「なによ、それ」
「さあ」
それっきりこなたは黙った。
「ねえ、こなた」
かがみはお昼休みが終わる前にもう一度はなしかける。生返事が返ってくる。
「これ、もってて」
そういって一輪の花を渡す。真っ白な造花だった。
どっかで見たような気がする。それでいて全然思い出せない。
「何これ?」
「カーネーション」
「母の日は5月でしょ? てゆーか、かがみんのお母さんでもないけど。頭狂った?」
「なぐったろか」
「……じゃあなにさ」
やっと生気を取り戻したこなたはすねたように言う。何がしたいんだかがみんは。
「女の子の、あんたにね」
「わけわかんないよ」
「とにかくもらっとけ、あと覚えとけ。じゃあ私いくから」
むりやりこなたに造花を押し付けると、図ったようにチャイムの音が鳴り響く。ちょっとまってよ、との呼びかけは鐘の音にかき消される。
かがみはツインテールを左右にゆらしながら教室をでていった。
かがみはお昼休みが終わる前にもう一度はなしかける。生返事が返ってくる。
「これ、もってて」
そういって一輪の花を渡す。真っ白な造花だった。
どっかで見たような気がする。それでいて全然思い出せない。
「何これ?」
「カーネーション」
「母の日は5月でしょ? てゆーか、かがみんのお母さんでもないけど。頭狂った?」
「なぐったろか」
「……じゃあなにさ」
やっと生気を取り戻したこなたはすねたように言う。何がしたいんだかがみんは。
「女の子の、あんたにね」
「わけわかんないよ」
「とにかくもらっとけ、あと覚えとけ。じゃあ私いくから」
むりやりこなたに造花を押し付けると、図ったようにチャイムの音が鳴り響く。ちょっとまってよ、との呼びかけは鐘の音にかき消される。
かがみはツインテールを左右にゆらしながら教室をでていった。
「なんなんだいったい」
こなたは呆然としながら机に置かれた一輪の、白い花を見つめた。
しかたなしに鞄にしまった時、いつものように黒井が遅れてやってきて、肩で息をしながら教壇にたつ。
これって私へのプレゼントか?――いつものように聞いたふり、ノートを書いた真似だけしてこなたは差し出されたカーネーションの花を頭の中で描写した。
こなたは呆然としながら机に置かれた一輪の、白い花を見つめた。
しかたなしに鞄にしまった時、いつものように黒井が遅れてやってきて、肩で息をしながら教壇にたつ。
これって私へのプレゼントか?――いつものように聞いたふり、ノートを書いた真似だけしてこなたは差し出されたカーネーションの花を頭の中で描写した。
五時間目が終わった休み時間、こなたは疲れているのか、うつらうつらと頭を左右にかくんかくんさせているみゆきに話しかける。
ちらりとこなたがつかさの机を見たとき、つかさも頬杖を付いて目を閉じていた。
「みゆきさん」
「むにゃむにゃ……だめですよう、こなたさん。そんなことされましたらあ、私の胸がさらに大きく……」
「ど、どんな夢?」
「どんな夢とおっしゃりますとお、そうですね……こなたさんのかわいい御手が、私の――え、ええ!!
い、泉さん! 私何か変なこと言いましたか?」
「変なことというか、続ききぼんぬというか……まあ、それはいいや。ねえみゆきさん、カーネーションについて何か知ってる? 暗示とか」
ちらりとこなたがつかさの机を見たとき、つかさも頬杖を付いて目を閉じていた。
「みゆきさん」
「むにゃむにゃ……だめですよう、こなたさん。そんなことされましたらあ、私の胸がさらに大きく……」
「ど、どんな夢?」
「どんな夢とおっしゃりますとお、そうですね……こなたさんのかわいい御手が、私の――え、ええ!!
い、泉さん! 私何か変なこと言いましたか?」
「変なことというか、続ききぼんぬというか……まあ、それはいいや。ねえみゆきさん、カーネーションについて何か知ってる? 暗示とか」
みゆきはいつものように考えるような仕草をして、頭の中から情報を的確に選び出す。
「……母の日に送るものですね。赤のカーネーションなどは、よくテレビでも耳にしますし、私も贈りました」
「いや、私でもそれくらいは知ってるけど」
なんとなく馬鹿にされた気がしてこなたは不満を、きわめて明るく、嫌味にならないように述べる。
「申し訳ありません、別に泉さんを馬鹿にしているわけではっ!」
「わかってるよー、それで教えてくれない」
「そうですね――女性参政権運動家ジュリア・ウォード・ハウという方が提唱したと言われているそうです。
花言葉としては『女性愛・感覚・感動・純粋な愛情・真実の愛』が一般的です。
私が図書館で調べたときに書いてありました。ただし、バラなんかは色によっても、つぼみなのかなどにも変わりますから一義的なものではありませんが」
「花言葉か……うーん」
「あ、そういえば」
みゆきはぽんと手をたたいて、
「小早川さんもカーネーションを持っていらっしゃるそうですよ」
みなみさんが話してくださいましただけで、小早川さんから見せて貰ったわけではないのですが、と付け加える。
そうだ。こなたはゆたかと秋葉原であっていたことを思い出す。あの時、確かにゆたかは一輪の造花をこなたに見せていた。
鮮やかな黄色の造花を、こなたと同じように。
「……母の日に送るものですね。赤のカーネーションなどは、よくテレビでも耳にしますし、私も贈りました」
「いや、私でもそれくらいは知ってるけど」
なんとなく馬鹿にされた気がしてこなたは不満を、きわめて明るく、嫌味にならないように述べる。
「申し訳ありません、別に泉さんを馬鹿にしているわけではっ!」
「わかってるよー、それで教えてくれない」
「そうですね――女性参政権運動家ジュリア・ウォード・ハウという方が提唱したと言われているそうです。
花言葉としては『女性愛・感覚・感動・純粋な愛情・真実の愛』が一般的です。
私が図書館で調べたときに書いてありました。ただし、バラなんかは色によっても、つぼみなのかなどにも変わりますから一義的なものではありませんが」
「花言葉か……うーん」
「あ、そういえば」
みゆきはぽんと手をたたいて、
「小早川さんもカーネーションを持っていらっしゃるそうですよ」
みなみさんが話してくださいましただけで、小早川さんから見せて貰ったわけではないのですが、と付け加える。
そうだ。こなたはゆたかと秋葉原であっていたことを思い出す。あの時、確かにゆたかは一輪の造花をこなたに見せていた。
鮮やかな黄色の造花を、こなたと同じように。
謎が謎をよぶなあ、とこなたはバッグに入っている白いカーネーションの造花を一瞥しながら思う。
常識的に考えれば、母の日に贈るものだ。
もちろんそれ以外の用途もあるとは思うけれど、カーネーションといって思い浮かべるのは優しく微笑む母、母の日だろう。
――母の日。
お母さんならこの意味もわかったのだろうか、と天井の虚空をぼんやりと眺めながら、こなたは写真でしか知らないかなたの顔を思い浮かべる。
ほくろとあほ毛がない以外は瓜二つのかなたが、若き日のそうじろうと一緒に微笑んでいる。
いつまでも色あせない、切り取られた世界で永遠に微笑をたたえる。
かなたはそうじろうのことを「そうくん」と呼んでいた、とそうじろうは言う。
こなたの知らない両親の若き日、それを想像すると背徳と形而上的な罪悪が胸につっかえて残った。
常識的に考えれば、母の日に贈るものだ。
もちろんそれ以外の用途もあるとは思うけれど、カーネーションといって思い浮かべるのは優しく微笑む母、母の日だろう。
――母の日。
お母さんならこの意味もわかったのだろうか、と天井の虚空をぼんやりと眺めながら、こなたは写真でしか知らないかなたの顔を思い浮かべる。
ほくろとあほ毛がない以外は瓜二つのかなたが、若き日のそうじろうと一緒に微笑んでいる。
いつまでも色あせない、切り取られた世界で永遠に微笑をたたえる。
かなたはそうじろうのことを「そうくん」と呼んでいた、とそうじろうは言う。
こなたの知らない両親の若き日、それを想像すると背徳と形而上的な罪悪が胸につっかえて残った。
(そういえば)
ひぐらしのカナカナと鳴く声が響き渡るいつしかの夏の日に、どこかで見た気がする。
誰かと一緒に、誰かのために。それがどこで、何かは、霧がかかったようにぼんやりとしていて思い出せない。
誰かと一緒に、誰かのために。それがどこで、何かは、霧がかかったようにぼんやりとしていて思い出せない。
あんなお父さんのどこがいいんだろうか、なんて苦笑する。
お父さんのことを「そうくん」と呼んで微笑むかなた。とはいえ最近、こなたがそうじろうを見直した「俺が世界で一番、かなたを愛している」との言葉。
あのときのそうじろうは、確かにかっこよかった、とこなたは思う。少なくてもお母さんはいい相手を見つけた、と。
照れくさそうに、幼馴染で、永遠の憧れだったかなたをデートに誘ったり、プロポーズするそうじろうを想像する――まるでリアルギャルゲーみたいだ。
お父さんのことを「そうくん」と呼んで微笑むかなた。とはいえ最近、こなたがそうじろうを見直した「俺が世界で一番、かなたを愛している」との言葉。
あのときのそうじろうは、確かにかっこよかった、とこなたは思う。少なくてもお母さんはいい相手を見つけた、と。
照れくさそうに、幼馴染で、永遠の憧れだったかなたをデートに誘ったり、プロポーズするそうじろうを想像する――まるでリアルギャルゲーみたいだ。
「あの、泉さん」
そうしたノスタルジックな回想に浸っていたとき、みゆきの声で現実に引き戻される。
「あ、ごめん、話しているときにぼーとしてて」
「いえいえ、私もお恥ずかしながら同じことをしましたので……」
「それで、何かな?」
「泉さん、最近悩んでいらっしゃいませんか?」
そうしたノスタルジックな回想に浸っていたとき、みゆきの声で現実に引き戻される。
「あ、ごめん、話しているときにぼーとしてて」
「いえいえ、私もお恥ずかしながら同じことをしましたので……」
「それで、何かな?」
「泉さん、最近悩んでいらっしゃいませんか?」
…………息を呑んだ。
こなたは落ち着きを払おうと努力する。
みゆきは心配そうな顔で、こなたを見つめている。
ゆるいウェーブのみゆきの髪がなびいた。まばたきをした後のみゆきの瞳は強い決心で満ちているようだった。
「――大丈夫だよみゆきさん。昨日私徹夜でネトゲーでさあ! もう眠くて眠くて」
こなたは落ち着きを払おうと努力する。
みゆきは心配そうな顔で、こなたを見つめている。
ゆるいウェーブのみゆきの髪がなびいた。まばたきをした後のみゆきの瞳は強い決心で満ちているようだった。
「――大丈夫だよみゆきさん。昨日私徹夜でネトゲーでさあ! もう眠くて眠くて」
「本当に、本当にそうなのですか?」
みゆきは訴えるような目で、繰り返した。同じことをかがみに聞いた。そのときは――。
「大丈夫大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから。だからさ、次の時間たぶん寝ちゃうと思うからノートよろ~」
「そう、ですか」
チャイムの音が鳴り響く。それに感謝するようにこなたは、みゆきの瞳から逃れ、席に戻る。
罪悪感に後ろ髪を引かれる思いもあったが、こなたは頬杖をついてぼんやりと教科担当の教師が来るまで物思いにふけっていた。
みゆきは訴えるような目で、繰り返した。同じことをかがみに聞いた。そのときは――。
「大丈夫大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから。だからさ、次の時間たぶん寝ちゃうと思うからノートよろ~」
「そう、ですか」
チャイムの音が鳴り響く。それに感謝するようにこなたは、みゆきの瞳から逃れ、席に戻る。
罪悪感に後ろ髪を引かれる思いもあったが、こなたは頬杖をついてぼんやりと教科担当の教師が来るまで物思いにふけっていた。