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二輪の花 第10話

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【第10話:kind】

 9月21日、日曜日。
 泉こなたは、布団に被ってうなだれていた。
「あー……なんていうかー、誠氏ねじゃないけど、バッドエンド一直線というか」
 昨日のことをこなたは思う。
 ゆたかに、パソコンにこのファイルを入れて、とメールがあったので、ゆたかの家にでかけた。合図があったら来てねと言ったまま30分ほどこなたは待たされた。
 やっとのことでパチンと音がして、ゆたかの部屋に入った。
 そしてあの光景。

「やっぱしかがみんはゆーちゃんなのかなあ…」
 実際この目で見るまでは信じられなかった。いくらゆたかがそうといっても、それはゆたかの虚言とも取れる。
 百聞は一見にしかず、こなた自身の目で見た以上、否定できるだけの論理展開を頭の中で構築することなどこなたにはできなかった。
 先週にゆたかに言われたこと、それがこれであり、こなたはある程度予測はできていた。
 言われたファイルのセキュリティは甘く、こなたはその中身を調べた後、何の変哲もない学校の体育祭で使うファイルだったので、興味もすぐに失せて侵入した痕跡を残さないように注意を払ってパスワード保護をかけた。
 ちょっとしたいたずらも仕込みながら――あの光景を目の当たりにするまでは、こなたは必死に否定していた。それも今はできる自信がなかった。

 そんなことを思いながら、脳内にまざまざと焼き付けられた、生のかがみの裸体を想像する。想像すると、体がうずく。
「いや、自重しないと……」
 そういって、火照ったからだを諫めようとしたが、手は自分の意識とは関係なしにあそこに向かう。自分が一番気持ちいいところを正確に刺激する。
 あう、ああん、あう………
 布団を頭にかぶせたまま、指で愛撫。すぐにとまらなくなり、素っ裸になって続きを楽しむ。
 かがみ……かがみい!
 呟いた言葉、かがみならなんていうのかな、と思うと、一層、こなたの体は刺激を求める。

 びくん、びくんっ!
 ほとんどない胸をまさぐりながら、左手をいじる。
 あ、いく……っ!
 何度も何度もあそこをいじると、体が小刻みに激しく揺れる。そして最高のオーガズム。
「……はあはあ」
 指にまとまりついたものを見つめると鬱になる。目に見える位置にスタンバイしてあるティッシュペーパーで拭き取る。
「……欝だ」
 何もやる気が出ないし、体を動かしたくない。
 もういいや。寝ようと思い、枕をベッドにセットし、横になる。ごろんと体を反転させた。

 ばさっ。

 落下音に驚いて顔をあげると、通学用鞄から中身が床にばら撒かれていた。
 体の向きを変えた拍子に、ぶつかってしまったらしい。ベッドに鞄を置きっぱなしだった。あーあと、閉口する。
 眠いからもうこのままでいいかなと思ったが、このままでいるのも気持ち悪いと思い、面倒ながらもこなたは立ち上がり片付け始める。
 ゆたかから渡された超限定フィギュア――以前に熱心にその造形美をかがみに説こうとした――が転がる。
 こなたはそれを片手でつまんで、ぎゅっ拳を握り締め、ごめんと言いながらゴミ箱に捨てた。
 オタクのこなたとしては胸が張り裂けるくらい、大変な決断だったが、こなたはゴミ箱を一瞥し、拝した。
 また片付け始めた。

「あれ、これ」

 一輪の花があった。
 白いカーネーションの造花。

 手に取る。きちんとそれを見るのは初めてだった。
 幾重にも重なった花弁。純白の白。造花であるから、花瓶に飾っていなくても、変わらない煌々さを保ち続けている。
 カーネーションなどこなたは買ったことがない。かがみ達はあげているのかな、そう思ったときはやっぱり寂しかった。
 かなたがいなくても、こなた自身は今を生きようと努めている。それでも母の日、母を連想するときは悲しくなる。

「お母さん? 私、どうすればいいのかなあ?」

 漫画では耐え切れなくなったヒロインが、優しい言葉をかけたヒーローもしくは母に泣きつくなんてことも多い。ベッドの上に広がっている白い波状の天井、電球をこなたは見つめる。
 誰も返事なんてしてくれないけれど、こなたはしばしの間ちかちかと光る白熱灯に見入っていた。カーネーションの花を頼りに、かなたがすぐ近くまで来ているような気がした。
「やっぱり、意味があるのかな」
 みゆきの説明でもいまいちピンときなかったこなたは、物は試しとカーネーションについて調べてみることに決めた。
 ふとゆたかが嬉しそうにこなたに、カーネーションを見せていたことをこなたは記憶の片隅から拾い出す。色違いのカーネーションの花。
 お互いが同じカーネーションを渦中のかがみから贈られたことに疑問がわいたから。


 作家だけあり、そうじろうの部屋には参考になる資料がたくさん揃っている。
 今日のインターネットの情報量はすさまじいものがあるが、だからといって本の価値が薄れるわけで、そうじろうも多くの参考図書や小説を集めていた。
 そうじろうに了承を得、花の辞典を借りる。仏間にかざられている、かなたの写真が、ちらりとこなたの目に入った。変わらない笑顔をこなたに向けている。

「そういえばな、こなた」
「なに?」
「先週か? あの桶川市の事件をこなたに話したの」
「あー」
 書斎で執筆作業を行いながら――というわけではなく、こなたがいるのも気にせずパソコンを開いて某パソコンゲーを自動スクロール機能に設定したまま、振り向いてこなたに話しかけた。
 こなたがドア付近で立ちどまり、振り返る。

「嘘だ!」
 画面の少女が叫ぶ。そうじろうがあわててヘッドフォンをつけて、音を人為的に小さくする。
 今更ひぐらしですか……とかこなたが思いつつも、続きを聞こうと素直に立ち止まっていた。
「あの事件、解決したそうだぞ」
「捕まったの?」
「有力な証拠がでてきたらしくてな、本日中にも逮捕状をだして逮捕する見込みらしい」
「よかったね」
「それにしてもひどい事件だったよなあ。ありがちといっちゃありがちだけど、被害者の少女を写真を取って、それをネタにゆするなんて。
 口で言うのは簡単だが、想像するだけで、その犯人に公憤を感じるよ」」
「それを考えると単純所持を犯罪にするのも、頷けるよね」
「まあ二次元規制には断固反対だけどな!」
「そこは同意しとくよ」
「あと、こなた。前に話した、メイドウィルスなんだけど、間違って持っていかなかったか?」
「うん? そんなことは、ない、けど」
「そうか?――どうもパソコンを誰かが使った後がある気がしたんだけど――まあ、こなたじゃなければいいや。
 サンプルはちゃんとあるし、そもそももう使う必要もないし、お互いパソコンには不干渉、が泉家の遵守すべき不文律だしな」
「そうだね。じゃあ、借りてくね」
 こなたはそういって、書斎から降りて自分の部屋に戻った。
 部屋をでるとき、ヘッドフォンを装着してパソコンゲームに興じているそうじろうの背中を眺めながら、こなたは口元に指を立て、「ごめんね」とかすかな声で言った。

 別にインターネットで調べてもよかったわけだが、どういうわけかこなたはパソコンを点ける気にはなれなかった。
 起動音の「いらっしゃいませご主人様☆」とか「メールあけたからって、嬉しくともなんともないんだから、勘違いしないでよ!」とか、平時癒されているwindows起動音が、今に限っては耳障りだからだ。
「どれどれ……」
 資料として活用しているのか、ところどころに手垢が付いた図鑑は、とても分厚い。
 ぺらぺらとめくり続けた。


 大宮の喫茶店。ベデストリアンデッキを通り、スターバックスにゆたかと、みなみ。パティとひよりが集まっていた。呼び出し主はゆたかとみなみ
 正確に言えばゆたかが提案し、みなみが二人に知らせた。
 時刻は日曜日の午後3時。みなみがメールで2人に知らせたのが、午前10時程。二人から返答があったのが午後1時。
 ひよりのほうは原稿の締め切りがどうとかで、徹夜で朝になってやっと就寝し、午後に目が覚めたという。
「できればここは嫌だったっスけどね」
「店員サンの視線がコワイデスヨ」
 二人が人騒動起こした喫茶店である。もう1週間はたっているが、トラウマとして残っている。
 別段ひよりとパティに視線が集まるということはないが、あの時と同じ店員がいればまず間違いなく、あの二人だということがわかるだろう。
 その奇異の目に耐えながら堂々と利用できるほど図太い神経をしていない。

「……なにかやったの?」
 みなみの顔が少しだけ疑問の表情をしてきいた。
「うーん、ちょっと、ね、パティ」
「まあ、イツモノワタシタチデス」
「そ、そっか」
 わかったよぅな、よくわからないような。みなみはとりあえず頷いておいた。
 先を聞くのは、ちょっと怖いかもしれない。

「それはそうと、何の用っスか?」
「イキナリ呼び出すからには理由がアルハズデス」
「うん」
 ゆたかは答える。
 もったいぶるように、間を区切る。
「協力、してもらいたいんだ」
「協力?」
「私と、かがみ先輩の仲を取り合うのに、二人にも協力してもらいたいの」
「よくわからないっスけど……」
 ひよりは横目でみなみの表情を盗み見た。無表情にかわりない。
「ちょっと手伝って」
 ゆたかは経緯を説明する。
 ゆたかがかがみと付き合っていること。
 それをこなたはまだ認めきれていないということ。
「それで、こなたお姉ちゃんが諦めるように手伝ってほしいんだ」

あくまでゆたかによって歪曲された一部始終を聞いたひよりは渋る。
 パティにどうする? と聞くと、
「……ワカリマセン。ヒヨリにマカセマスヨ」
 それ、一番ずるいよ……とひよりはため息をつく。
「つまり、泉先輩を裏切れってこと?」
 オタク仲間として、頼れる先輩であり、同人誌の愛読者でもある。
 こなたにはよくからかわれてはいるが、ひよりは慕っていたし、普通の意味で好きだった。
 ゆたかは婉曲気味に離していたけど、要約すればそういうことだった。
「……そう、なるかな」
「ごめん、小早川さん。いくら私でも、それはできないっス」
 ゆたかとかがみのアバンチュールの妄想は楽しい。ゆたかのことが事実ならば、それはそれでひよりに害があるわけではない。
 漫画のねたにも使えるし。
 しかし、やっぱり間違っていると思った。
「そう?」
 不思議だ。その言葉に落胆するどころか、悪魔じみた笑みをゆたかは見せた。

「ねえ、田村さん」
――誰の声だろう。ひよりは思った。
 声優が別キャラクターを演じるかのように、その口調に違和感があった。
 明らかに違うイントネーション、抑揚。

「これ、何?」
 まるで棒読み。それからがさがさとバックから一冊の本を取り出す。
 見覚えのある題名。絵柄――
「それは……その、ごめんなさい!」
 口にでてきたのは謝罪の言葉だった。
 ひよりが書いた同人誌だった。クールなキャラクターと、ロリーな女の子の濃厚えっち。
 書いているひより本人がアンダー18じゃないかという質問は今のところでていない。
 そう、二人をモデルにしたものだ。ひよりが内緒のまま、夏コミ新刊としてだしたもの。
 もちろん名前は変えてあるし、細かいところで現実のみなみとゆたかとは異なっている。
 しかし見る人が見ればモデルがわかるのも事実だった。少なくても本人が見れば、一目瞭然だった。

「田村さんって、そういうことするんだ」
「う……」
 短く言葉を切り、詰問する。ひよりには返す言葉もでない。
「そういうのって、いけないことだよね?」
「……はい」
「なんていうか、最低……だよね」
「……」
 何もいえない。
 恐れていた事態が起きてしまい、ぐっとい息を呑む。だから嫌だといったのにと、責任転嫁をしようにもする相手がいない。
 ゆたかの視線がひよりの目を捉えては話さない。そこから目をそむける勇気など、ひよりにはなかった。
 ゆたかは笑顔だ。それなのに鋭い眼光を放っている。

「ヒヨリ……?」
 パティの心配そうな声にも、振り向けない。
 ふと、みなみはどんな表情をしているのだろうと思ったが、あい狂しいゆたかにひよりは貼り付けられたままだった。
「本当に、ごめんなさい」
 ひたすらに謝りたおそうとする。
「ううん、いいんだよ」
 まるで天使のような微笑に、悪魔のようなしたたかさをたたえて、ゆたかは囁いた。
「……協力、してくれるよね」
 ひよりはただ、うなづくだけだった。
「別に特別なことをしなくてもいいよ。ただこなたお姉ちゃんに与さないで、それと後からネットで渡すファイルを保存しておいてくれればいいの――保健用に、あ、見ちゃ嫌だよ」
 もちろんパスワードはかけているじけど、とゆたかはひよりに笑い駆ける。ひよりは力なく頷いた。








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  • 黒い、、、黒すぎる、、、、、、 -- チャムチロ (2012-10-15 22:13:20)

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