「ん~1時間以上は経ってるかねぇ~」
時間が気になりイマイチゲームに入り込めない。
「ふぅ~……やっぱり居間で待ってるか?」
誰に言うでもなく自分に言ってみる。
「ん~~いやいや、お風呂から出てきたら声くらい掛けてくれるだろうし……別に居間にいる必要もないじゃん…」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、再びゲームを再開する。
「……………んああああぁぁぁ~~!!だ~~めだぁぁ~~!!」
頭をわしゃわしゃとかきむしる。
「……はぁ~もぅ!!…気分転換に何か冷たいものでも飲むか」
ただ、ジュース類を取りに行く、もしくは飲みに行くだけならばわざわざゲームを中断してPCを終了する必要も
ないのだが、なんとなくPCを終了して、自分の部屋を後にする。
「気にならないって言えばやっぱ嘘になるよね……好き合ってる…んにゃ、愛し合っているもの同士がお風呂だもんね、
しかもお母さんは当時のままだときてるし、何も起こらないと考える方が無理があるというもの。そしてこの経過時間、
いやーもう、間違いなく18禁な世界なんだろうけど…お父さんはともかくお母さんはちょーっと想像がし難いな…
まぁ、わたしが産まれてる訳だし、想像がし難いってだけで実際には…ん~~なんだけどさ」
ゲームやらネットやらで仕入れた知識画像動画を元にして何気にそうじろうとかなたのそんなシーンの脳内再生を
試みてみるのだが、アブノーマルな方向に暴走するそうじろう単体は簡単に再生されるのだが、かなたとセットで
となると、途端に想像がつかなくなるというか、モザイクがかかるというか、脳内再生を脳みそが拒否しだすというか。
自分に瓜二つな母親のそんな姿を想像したくもないといったところなのか、理由はよくは判らないが
脳内再生および脳内妄想が機能しなくなってしまった。
「だ、ダメだ。お母さんだけはどーにも…」
一度、脳内思考をリセットして違うことを考えてみる。
「…わたしもいつかは好きな人が出来て、そして、お母さんみたいにお母さんになるのかな…」
ちょっと想像してみる。
「んん~……お母さんか…わたしが、お母さんになる……」
軽く妄想してみたが、すぐに脳内より妄想不可の答えが帰ってきた。
「…はぁ~~、ダメ、全然ダメ。そーれこそ想像もつかないよ」
はぁ~っとため息をつく。
「こっそり覗きにでも…あぁ~だめだめ、何考えてんだわたしは。それは、だめだってば。
ん~やっぱり、やってるのかな?…だよね、そら、ま、当然か………ん?」
向うから腕組みしながら歩いてくるのが見えた。
そのまま、二人に吸い寄せられるように近づいていく。
「もう上がっていいの?まだまだ時間はあるよ?」
とりあえずは当たり障りの無いことを聞いてみる。
「いやーこれ以上入ってるとのぼせちまうよ」
そうじろうが団扇でパタパタ扇ぎながら答える。
確かに二人とも結構赤く、軽くゆでだ状態に見える。
「確かに二人とも結構赤いね」
ほんとに湯船に浸かり過ぎで赤くのぼせてるだけなのか、どうなのか…気になる所である。
「はははは、だろ?ちょ~~~っとばかし、昔話に花が咲いちまってな。20年近く溜まってたから、話すこといっぱい
あってな。そしたら時間があっという間に過ぎちまってな、湯当たり寸前になっちまった」
そういえば、そうじろうが答えるばかりでかなたの声が聞こえない。
目線をそうじろうからかなたへと降ろして良く観察してみる。
なんとも言えない満ち足りた表情で、そうじろうを見上げながらその腕に抱きついている。
(う~む、こりゃ、ま、あれですな。黒ですな。やってますな)
「ふぅ~~~ん」
にや~っと目を細めて疑いのまなこで二人を見つめる。
「あははは……ん?なんだ?どうした?」
ニマニマとしつつ
「ほんとは激しく運動しすぎて?」
ほぼ確信したこなたが、からかい気味に探りをいれる。
「いやいや~そんなには激しく運動はして無…ってこら!こなた!」
思わず答えてしまい、苦笑いのそうじろう。
「へへへ、いやいや別にいいじゃん。夫婦なんだしさ」
なんとはなしに嬉しげなこなた。
苦笑いで誤摩化すそうじろう。
そして、恥ずかしげにうつむいてしまうかなた。
三者三様な反応を示す。
「ちょうどなんか飲みに行く所だったんだよ。居間で待っててよ、なんか冷たいもの持ってくから」
そのまま台所の方へと消えて行く。
投げっ放しのまま放置されてしまった二人。
「…はは…さて、いこうか」
「はい、おまち~」
こなたがコップをテーブルの上に置いて麦茶を注いで行く。
「お父さんはビールの方が良かった?」
なんとはなしに聞いてみる。
「あ~いやいや、麦茶で十分さ」
と言いつつ一気に飲み干す。
「くはぁ~、おかわり!!」
トンッとコップを置く。
こなたが空になったコップに麦茶を再度注ぐ。
「あ~はいはい。しかし速いね。1杯飲むのに1秒かかってないんじゃない?」
「んぐんぐ…………ふぅ~~……まぁ~喉カラカラだったしな」
2杯目も速攻で飲み干し、コップを目の前に置く。
「どんだけ喉乾いてたんだか……あ~はいはいっと」
コップに再び麦茶が注がれて行く。
「ふふふっ、親子って言うよりもまるで夫婦みたいね」
二人のやり取りを見ていたかなたが可笑しそうに言う。
「んむ~~そうかな?」
困惑した表情のこなた。
「ええ」
笑顔で答えるかなた。
「おぅぅ……そんなん言われたのは初めてだね…」
こなたにとってはあまりうれしくはないような感じである。
「いや~お父さんは嬉しかったりするぞ?こなたも、もっと喜べ~」
「ちょっっっお父さん。何を言うかな?わたしは娘だよ?」
「娘が嫁!いいじゃないか。愛しの娘が嫁だなんて…嗚呼想像しただけで…イイ!!最高じゃないか!!」
ちょっと違う世界にトリップしてしまったのか暴走しだす。
そんなそうじろうが可笑しくてたまらないかなたが、笑いを噛み殺しながらちょっと突っ込みをいれてみる。
「あらあら、そう君ってば。ちょっとこなたに嫉妬しちゃったりして」
かなたの声に、異世界から即座に現実世界へと引き戻される。
「あ!いや、ち、違うぞ?かなたは別格というか、当然、俺の嫁はかなた只一人な訳だが、
そうじゃなくて、そうじゃなくてだな、この……なんていうか、その、だな……あの、その、えと……」
しどろもどろにメロメロに溶けて行くそうじろう。
「まったくも~~、どんな想像をしていたんだか…おバカさんなんだから」
あたふたと焦っているそうじろうとは対照的に楽しそうに笑っているかなた。
(夫婦みたい…か。でも、二人の夫婦そのものに比べたら、全然だと思うんだけどねぇ~
しかし、お母さん楽しそうだなぁ~お父さんの弄り方が上手いというか扱い心得てるというか)
見てて飽きない二人のやり取りを微笑ましく見守っているうちに、
あぁ~こういうのもいいなぁと、なんとはなしに思ってしまう。
「お母さん?」
「ん~?なぁに?」
「んん~~なんて言うか…お母さん見てると、お母さんみたいになるのもいいかなぁ~ってさ…
わたしも、いつか、お母さんみたいなお母さんになれるのかな?」
「ど、どうしたの?突然にそんなこと聞いてきたりして」
「あ~ん~…その、なんて言うかさ、お母さん達見ててさ、なんかね、いつか自分もそうなりたいなってね。
でも自分がお母さん達みたいにしてるとこ全然イメージ湧かなくて」
こまったこまった、とばかりに麦茶片手に額に手をあてる。
まるで、ビール片手に悩み事を吐き出す酔っぱらいかのように。
「んも~どこのおやぢですか!!……て、まぁ、こなたなら大丈夫ね、家事も問題なく出来てるし、
オタクではあるけれど人としてダメなことはダメって教えて上げることが出来るちゃんとしたお母さんになれるわ。
お母さんが保証しちゃう」
笑顔で答える。
まるで天使のような笑顔で。
その笑顔から、理由はわからないが、ものすごい安心感を与えられる。
今は想像すらつかないけど、きっと……
そんな気にさせてくれる不思議な笑顔の力に、こなたの顔も自然と緩んで行く。
そうじろうが胸を張って
「はははは…そうだな、かなたの言う通りだな。お父さんも人としての道は踏み外さないようにしっかり育てて
来たつもりだし、実際、しっかり育ってるしな」
歯がキラーンと意味も無く光りそうな感じで、爽やかな笑顔でサムズアップをする。
「ん、んん~、そ、そう?なんか照れるな…ま、お父さんは人として、なーにか間違えてる所があるような気が…
っていうか、思いっきり踏み外してるときがあるとは思うけど、それも良い反面教師だしね」
「そうね、身近にダメの典型がいるから、こういう風になってはいけませんって判り易いものね」
「そうそう」
ふたりが意気投合して、うむうむと頷き合う。
「あっ、ちょっ、まっ……ふたりして、きっついなぁ~~……。確かに否定はできんが
ちょっとはフォローもしてくれても良いんでないかい?」
予想通りというか、お約束の答えにわかっちゃいるが、やはり凹み気味になる。
「否定できないんだ」
追い討ちをかけるかのように突っ込みが入る。
「ま、まぁな。お父さんこんなんだけどそれは自覚してるさ、世間様からズレてることぐらいな」
ふぅ~とため息一つ。微妙に切なげな表情にも見えなくもない。
「嘘ついちゃいけないとかさ、人様に迷惑かけちゃいけないとかさ、いいところもいっぱいあるんだけどね」
なんとはなしにフォローっぽいのがこなたより入る。
「ははは、最低限、人としてやってはイケナイこととかはさ、ちゃんと守らんとな」
「お父さんにそんな事言われてもなぁ~…いまいち説得力がないというか…お父さんの場合、ほんと、微妙…
いや、なんていうかさ、古風というかお堅いというか妙にしっかりしてる部分もあるし、甘やかすだけじゃなくて
しっかり叱れる、そんな良いお父さんなんだけどさ……ねぇ、お母さん」
猫口のまま、やれやれという目でかなたに向き直す。
「あらあら、褒めてるのかけなしてるのか、それじゃわからないわね」
クスリと微笑む。
「そんなそう君でも…って語弊があるけれど、ちゃんといいお父さん出来てる…ううん、出来てるって言い方、
変よね。もともとそう君はちゃんと出来る人なのよ。ただ、普段があんなだから、ぼやけて見えないだけ。
誤解を受け易い人なのよね」
微笑みながらこなたに優しい目線を送る。
「ちょっと話がずれちゃったけど、今はイメージとかが見えなくても気にしなくていいと思うの。
こなたはこなたのまんまで…今のままで。難しいことなんて何も考えなくても大丈夫よ。
ちゃんとお母さんになれるから。お母さんだって、こなた位の時に自分がお母さんになるなんて想像できなかったわ。
……そう君のお嫁さんになるのかなぁ~くらいで、そんなに深くなんて考えてもいなかったのよ?
家事だって、今のこなたほど出来なかったし。まぁ、なんていうのかしら、人間、なるようにしかならない訳だから、
なっちゃった時に考えればいいんじゃないかしら?なぁーんて言ったら、ちょっと無責任かしらね?
でも、さっきも言ったけど、こなたならきっと大丈夫。素敵なお母さんになれるわよ。
だって、わたしの娘なんですもの。わたしが出来ることはこなたにも出来るわ」
笑顔のまま、ペロッと舌を出してみせる。
「お母さんにそう言われるとなんか納得できちゃうから、お母さんは不思議だよね」
えへへへっと笑顔を返す。
なんてことは無い雑談をしつつ、時間が過ぎて行く。
だんだんと時計の針が24時に近づいてくる。
そうじろうがおもむろに立ち上がりる。
「ちょっと…二人ともこっちに来てくれないか?」
そうじろうが二人を呼ぶ。
「ん~お父さん、どしたの?確かにもうすぐ時間だけどさ」
「なぁに?そう君?」
二人が、言われるがままにそうじろうの隣りへとやってくる。
かなたとこなたの後ろから二人の間に入り、二人の肩に腕を回し自分の方へ抱き寄せる。
「かなた……こんな俺と一緒になってくれてありがとうな…
そして、こなたもありがとな…こんなお父さんと居てくれて…」
大まじめな表情で語る。
「ちょっ、どうしたの?お父さん。らしくないよ?」
困惑したこなたがそうじろうを見つめる。
「まぁな。らしくないかもな。でも、こうやって親子3人揃うなんてこの先あるのかどうか…
いや…先ず無いって考えるのが妥当だろうしな…だから、今のうちに俺の素直な想いを伝えたかったんだ」
微妙に目が潤んでいるように見えた。
「お父さん……」
言葉に詰まるこなた。
いろいろと言いたいことがあるのだが、言葉として出てこない。
「……ありがとうだなんて……わたしこそありがとうだよ…お父さん…」
どうにかして紡いだ言葉。
もっと伝えたいことが、想いがあるのだが、どうにも言葉にならない。
この想いはいつかきっと伝えるからと、もどかしさを心にしまって。
「そう君…わたしも…わたしからもありがとう…わたしを選んでくれて。
わたしの良い所も悪い所も、全て認めてくれて包み込んでくれた…そう君と出会えてよかった…
いろいろあったけど、わたし、幸せだった…そして、今でも幸せ。
それに…今日は、こなたの思い出として残る事もできた…短いようで長い2日間だったけど…あっという間ね」
「ああ…あっと言う間だったな。時間がこんなにも短く感じるとはな」
そうじろうがかなたを見つめる。
「そだね…ホントにあっと言う間だったよね。でもね、今日のことは絶対に忘れないからさ。
だからさ、また、来てよね。別に幽霊状態で実体化出来なくても構わないからさ」
こなたもかなたを見つめる。
「二人の思い出の中で生き続けてきてたから、今回みたいな事が起きたのかな?ってわたしは思うの。
もうじき、もとの幽霊に戻って、そして意識も消えて行く…そして次に意識が戻るのはいつかさえわからない。
そもそも、意識が戻った所で実体化出来る保証もない…次に逢えるのは何時になることやら…
それでも、わたしは忘れない…静かに見守ってる。そして、待ち続ける…必ず巡り合う時を信じて。
…逢いたいって想い続けてれば、きっとまた逢えるから…」
二人を微笑みつつ見つめる。
「そろそろ時間…かしら…ね」
そうじろうとこなたから、かなたが一歩、二歩と前にでる。
バサッ!!
翼が羽ばたくような、そんな音が聞こえた。
かなたの背中から背丈ほどもある大きな白い翼が伸びていた。
静かに大きく広がっていく翼。
かなたが振り返る。
と同時に、かなたが徐々に浮き上がり、少しづつその身体が透けて行く。
「お母さん!!お別れは寂しいけど、でも、もう泣かないよ。昨日、今日とさんざん泣いたからね。
それに涙で別れると、なんか、もう逢えなくなるような感じがするしね。だから、笑顔でお別れ!!」
かなたに向け親指を立ててサムズアップする。
「……………」
かなたが何かを言っているのが、口元を見てて判るのだが
なにを言っているのか、こなたには声が届かなくなってしまったようだ。
それでも笑顔で手を振っているのだけははっきりと判る。
こなたも負けじとはち切れんばかりの笑顔でブンブンと手を振る。
バサバサバサバサッ!!
翼が大きく羽ばたく。
その大きな翼でかなた自身を覆い隠すように羽ばたき、白い羽が辺りに舞う。
「さ よ う な ら !! ま た ね !!」
声として聞こえた訳じゃなく、頭に、そう直接響いたような気がした。
「うん!!またね!!!!」
大きな声で返事をする。
かなたの姿が完全に視界から消えて無くなった。
上空をひらひらと舞いながら落ちてくる白い羽達を残して。
その内の一つがこなたの前にひらりひらりとやってきた。
ほぼ無意識に、はしっと掴む。
その他の羽も、ひらひら舞い落ちながらこなたの目の前を次々と通過して行く。
膝辺りまで落ちてきた羽がすーっと薄くなり消えて行く。
そして、大量に舞っていた白い羽は全て消えて無くなってしまった。
こなたが手にした羽を除いて。
じーっと羽を見つめる。
(お母さん………か………)
羽を持つ手に、不意に水滴が落ちてくる。
(ん?……あ…れ…?……いつの間に?)
すーーっといつの間にやら滲み出していた涙が静かに流れ落ちてきていた。
それ以上流れ落ちてこないように静かに上を見上げる。
見上げた先に見えるのは先程かなたが消えて行った天井付近。
(もう泣かないって決めたのに……なんで…どうして…そんなに悲しいとか寂しいか…思ってないのに…)
そのまま、ぼーーっと天井を見上げる。
(…違うな…悲しくない寂しくないって思い込んでるだけ、悲しいことを…寂しいことを認めたくなかった、
認めないようにしてた、認めたら何かが壊れそうで…昨日、お母さんにどうしようもないこと言っちゃった
ように、きっとお父さんを困らしちゃうから……だから…多分…無意識にそうやって…封じ込めてたんだろうな…)
「こなた…んん~~…その…どうした?」
ふいに後ろから声がかかる。
「ん~~~いや…別に…」
振り向かずに上を向いたまま答える。
「…そか……」
「ねぇ、お父さん…」
「ん~~?」
「お別れって、悲しいね……こんなにも悲しくて、寂しくて、辛いことだったんだね…」
「…ああ…だな…」
「もう泣かないって決めてたのにお母さんがいなくなっちゃったら、やっぱり涙がでちゃったよ」
「……そか……」
会話が途絶える。
数分程度なはずが随分長くにも感じられる。
「…なぁ…こなた…悲しい時には泣いてもイイと思うぞ?」
そうじろうがぽつりとつぶやく。
「……んん…大丈夫」
つぶやき返す。
「…………あのね…お父さん…お母さんに逢って気がついたんだけどね…お母さん居なくて寂しくないって
前に言ってたけど…やっぱ、寂しかったのかなぁ~って…別にお父さんがどうとかって訳じゃないんだけどさ…」
相変わらず、振り返らずに上を見上げたまま答える。
「…ほんとは、お母さんに逢いたかった、居なくて寂しかった…でも、そんなことお父さんに言ったって
どうにもならないし、そんなこと言って困らせたくなかった…なんかそんなこと言うとお父さんに嫌われそうで
怖かったのかなって…だから、居なくても寂しくなんか無いって自分に言い聞かせて、そう思い込んでたんだと
思う。自分にうそ付いてて、それをいつの間にか本当のこととしてたんだなって」
見上げることをやめ、振り返る。
涙がこぼれているが吹っ切れたような笑顔をみせる。
「…やっぱり、片親で無理させてたんだな…すまなかったな…」
「ううん、お父さんが謝ることなんてないよ。むしろ、いままでありがと。お父さんのおかげで寂しさに
気がつかなかったっていうかまぎれてたというか…寂しくなかったってのはうそだけどホントでもあるんだよ?」
そうじろうがこなたの傍らへと行き頭をわしゃっとひと撫でする。
「ははは、そうか、ありがとな」
キリッとした普段は見せないまじめな笑顔を見せる。
初めて見たかもしれないその表情に、素直にカッコいいと思ってしまった。
(もしかして、お母さんにはこういうとこも見せてたのかな?確かにカッコいいかもね)
「ふふん…お父さん…普段はロリコンでスケベでオタクなダメ人間なくせに…カッコいい顔しちゃって」
あたまの後ろで腕を組み、まだ涙の乾いていない顔で照れ隠しに突っ込みを入れる。
「なにおぅ~こいつぅ~」
あっという間にいつもの間の抜けた顔に戻り、こなたの頭をぴんっと軽く指でつっつく。
「へへ♪」
涙を拭い、はなさきを指でぐしぐしとする。
「さて、来週にはゆーちゃんも戻ってくるし、後片付けでもしますか!!写真も整理しないとね」
いつもの元気な姿に戻ったのを見て一安心するそうじろう。
時間が気になりイマイチゲームに入り込めない。
「ふぅ~……やっぱり居間で待ってるか?」
誰に言うでもなく自分に言ってみる。
「ん~~いやいや、お風呂から出てきたら声くらい掛けてくれるだろうし……別に居間にいる必要もないじゃん…」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、再びゲームを再開する。
「……………んああああぁぁぁ~~!!だ~~めだぁぁ~~!!」
頭をわしゃわしゃとかきむしる。
「……はぁ~もぅ!!…気分転換に何か冷たいものでも飲むか」
ただ、ジュース類を取りに行く、もしくは飲みに行くだけならばわざわざゲームを中断してPCを終了する必要も
ないのだが、なんとなくPCを終了して、自分の部屋を後にする。
「気にならないって言えばやっぱ嘘になるよね……好き合ってる…んにゃ、愛し合っているもの同士がお風呂だもんね、
しかもお母さんは当時のままだときてるし、何も起こらないと考える方が無理があるというもの。そしてこの経過時間、
いやーもう、間違いなく18禁な世界なんだろうけど…お父さんはともかくお母さんはちょーっと想像がし難いな…
まぁ、わたしが産まれてる訳だし、想像がし難いってだけで実際には…ん~~なんだけどさ」
ゲームやらネットやらで仕入れた知識画像動画を元にして何気にそうじろうとかなたのそんなシーンの脳内再生を
試みてみるのだが、アブノーマルな方向に暴走するそうじろう単体は簡単に再生されるのだが、かなたとセットで
となると、途端に想像がつかなくなるというか、モザイクがかかるというか、脳内再生を脳みそが拒否しだすというか。
自分に瓜二つな母親のそんな姿を想像したくもないといったところなのか、理由はよくは判らないが
脳内再生および脳内妄想が機能しなくなってしまった。
「だ、ダメだ。お母さんだけはどーにも…」
一度、脳内思考をリセットして違うことを考えてみる。
「…わたしもいつかは好きな人が出来て、そして、お母さんみたいにお母さんになるのかな…」
ちょっと想像してみる。
「んん~……お母さんか…わたしが、お母さんになる……」
軽く妄想してみたが、すぐに脳内より妄想不可の答えが帰ってきた。
「…はぁ~~、ダメ、全然ダメ。そーれこそ想像もつかないよ」
はぁ~っとため息をつく。
「こっそり覗きにでも…あぁ~だめだめ、何考えてんだわたしは。それは、だめだってば。
ん~やっぱり、やってるのかな?…だよね、そら、ま、当然か………ん?」
向うから腕組みしながら歩いてくるのが見えた。
そのまま、二人に吸い寄せられるように近づいていく。
「もう上がっていいの?まだまだ時間はあるよ?」
とりあえずは当たり障りの無いことを聞いてみる。
「いやーこれ以上入ってるとのぼせちまうよ」
そうじろうが団扇でパタパタ扇ぎながら答える。
確かに二人とも結構赤く、軽くゆでだ状態に見える。
「確かに二人とも結構赤いね」
ほんとに湯船に浸かり過ぎで赤くのぼせてるだけなのか、どうなのか…気になる所である。
「はははは、だろ?ちょ~~~っとばかし、昔話に花が咲いちまってな。20年近く溜まってたから、話すこといっぱい
あってな。そしたら時間があっという間に過ぎちまってな、湯当たり寸前になっちまった」
そういえば、そうじろうが答えるばかりでかなたの声が聞こえない。
目線をそうじろうからかなたへと降ろして良く観察してみる。
なんとも言えない満ち足りた表情で、そうじろうを見上げながらその腕に抱きついている。
(う~む、こりゃ、ま、あれですな。黒ですな。やってますな)
「ふぅ~~~ん」
にや~っと目を細めて疑いのまなこで二人を見つめる。
「あははは……ん?なんだ?どうした?」
ニマニマとしつつ
「ほんとは激しく運動しすぎて?」
ほぼ確信したこなたが、からかい気味に探りをいれる。
「いやいや~そんなには激しく運動はして無…ってこら!こなた!」
思わず答えてしまい、苦笑いのそうじろう。
「へへへ、いやいや別にいいじゃん。夫婦なんだしさ」
なんとはなしに嬉しげなこなた。
苦笑いで誤摩化すそうじろう。
そして、恥ずかしげにうつむいてしまうかなた。
三者三様な反応を示す。
「ちょうどなんか飲みに行く所だったんだよ。居間で待っててよ、なんか冷たいもの持ってくから」
そのまま台所の方へと消えて行く。
投げっ放しのまま放置されてしまった二人。
「…はは…さて、いこうか」
「はい、おまち~」
こなたがコップをテーブルの上に置いて麦茶を注いで行く。
「お父さんはビールの方が良かった?」
なんとはなしに聞いてみる。
「あ~いやいや、麦茶で十分さ」
と言いつつ一気に飲み干す。
「くはぁ~、おかわり!!」
トンッとコップを置く。
こなたが空になったコップに麦茶を再度注ぐ。
「あ~はいはい。しかし速いね。1杯飲むのに1秒かかってないんじゃない?」
「んぐんぐ…………ふぅ~~……まぁ~喉カラカラだったしな」
2杯目も速攻で飲み干し、コップを目の前に置く。
「どんだけ喉乾いてたんだか……あ~はいはいっと」
コップに再び麦茶が注がれて行く。
「ふふふっ、親子って言うよりもまるで夫婦みたいね」
二人のやり取りを見ていたかなたが可笑しそうに言う。
「んむ~~そうかな?」
困惑した表情のこなた。
「ええ」
笑顔で答えるかなた。
「おぅぅ……そんなん言われたのは初めてだね…」
こなたにとってはあまりうれしくはないような感じである。
「いや~お父さんは嬉しかったりするぞ?こなたも、もっと喜べ~」
「ちょっっっお父さん。何を言うかな?わたしは娘だよ?」
「娘が嫁!いいじゃないか。愛しの娘が嫁だなんて…嗚呼想像しただけで…イイ!!最高じゃないか!!」
ちょっと違う世界にトリップしてしまったのか暴走しだす。
そんなそうじろうが可笑しくてたまらないかなたが、笑いを噛み殺しながらちょっと突っ込みをいれてみる。
「あらあら、そう君ってば。ちょっとこなたに嫉妬しちゃったりして」
かなたの声に、異世界から即座に現実世界へと引き戻される。
「あ!いや、ち、違うぞ?かなたは別格というか、当然、俺の嫁はかなた只一人な訳だが、
そうじゃなくて、そうじゃなくてだな、この……なんていうか、その、だな……あの、その、えと……」
しどろもどろにメロメロに溶けて行くそうじろう。
「まったくも~~、どんな想像をしていたんだか…おバカさんなんだから」
あたふたと焦っているそうじろうとは対照的に楽しそうに笑っているかなた。
(夫婦みたい…か。でも、二人の夫婦そのものに比べたら、全然だと思うんだけどねぇ~
しかし、お母さん楽しそうだなぁ~お父さんの弄り方が上手いというか扱い心得てるというか)
見てて飽きない二人のやり取りを微笑ましく見守っているうちに、
あぁ~こういうのもいいなぁと、なんとはなしに思ってしまう。
「お母さん?」
「ん~?なぁに?」
「んん~~なんて言うか…お母さん見てると、お母さんみたいになるのもいいかなぁ~ってさ…
わたしも、いつか、お母さんみたいなお母さんになれるのかな?」
「ど、どうしたの?突然にそんなこと聞いてきたりして」
「あ~ん~…その、なんて言うかさ、お母さん達見ててさ、なんかね、いつか自分もそうなりたいなってね。
でも自分がお母さん達みたいにしてるとこ全然イメージ湧かなくて」
こまったこまった、とばかりに麦茶片手に額に手をあてる。
まるで、ビール片手に悩み事を吐き出す酔っぱらいかのように。
「んも~どこのおやぢですか!!……て、まぁ、こなたなら大丈夫ね、家事も問題なく出来てるし、
オタクではあるけれど人としてダメなことはダメって教えて上げることが出来るちゃんとしたお母さんになれるわ。
お母さんが保証しちゃう」
笑顔で答える。
まるで天使のような笑顔で。
その笑顔から、理由はわからないが、ものすごい安心感を与えられる。
今は想像すらつかないけど、きっと……
そんな気にさせてくれる不思議な笑顔の力に、こなたの顔も自然と緩んで行く。
そうじろうが胸を張って
「はははは…そうだな、かなたの言う通りだな。お父さんも人としての道は踏み外さないようにしっかり育てて
来たつもりだし、実際、しっかり育ってるしな」
歯がキラーンと意味も無く光りそうな感じで、爽やかな笑顔でサムズアップをする。
「ん、んん~、そ、そう?なんか照れるな…ま、お父さんは人として、なーにか間違えてる所があるような気が…
っていうか、思いっきり踏み外してるときがあるとは思うけど、それも良い反面教師だしね」
「そうね、身近にダメの典型がいるから、こういう風になってはいけませんって判り易いものね」
「そうそう」
ふたりが意気投合して、うむうむと頷き合う。
「あっ、ちょっ、まっ……ふたりして、きっついなぁ~~……。確かに否定はできんが
ちょっとはフォローもしてくれても良いんでないかい?」
予想通りというか、お約束の答えにわかっちゃいるが、やはり凹み気味になる。
「否定できないんだ」
追い討ちをかけるかのように突っ込みが入る。
「ま、まぁな。お父さんこんなんだけどそれは自覚してるさ、世間様からズレてることぐらいな」
ふぅ~とため息一つ。微妙に切なげな表情にも見えなくもない。
「嘘ついちゃいけないとかさ、人様に迷惑かけちゃいけないとかさ、いいところもいっぱいあるんだけどね」
なんとはなしにフォローっぽいのがこなたより入る。
「ははは、最低限、人としてやってはイケナイこととかはさ、ちゃんと守らんとな」
「お父さんにそんな事言われてもなぁ~…いまいち説得力がないというか…お父さんの場合、ほんと、微妙…
いや、なんていうかさ、古風というかお堅いというか妙にしっかりしてる部分もあるし、甘やかすだけじゃなくて
しっかり叱れる、そんな良いお父さんなんだけどさ……ねぇ、お母さん」
猫口のまま、やれやれという目でかなたに向き直す。
「あらあら、褒めてるのかけなしてるのか、それじゃわからないわね」
クスリと微笑む。
「そんなそう君でも…って語弊があるけれど、ちゃんといいお父さん出来てる…ううん、出来てるって言い方、
変よね。もともとそう君はちゃんと出来る人なのよ。ただ、普段があんなだから、ぼやけて見えないだけ。
誤解を受け易い人なのよね」
微笑みながらこなたに優しい目線を送る。
「ちょっと話がずれちゃったけど、今はイメージとかが見えなくても気にしなくていいと思うの。
こなたはこなたのまんまで…今のままで。難しいことなんて何も考えなくても大丈夫よ。
ちゃんとお母さんになれるから。お母さんだって、こなた位の時に自分がお母さんになるなんて想像できなかったわ。
……そう君のお嫁さんになるのかなぁ~くらいで、そんなに深くなんて考えてもいなかったのよ?
家事だって、今のこなたほど出来なかったし。まぁ、なんていうのかしら、人間、なるようにしかならない訳だから、
なっちゃった時に考えればいいんじゃないかしら?なぁーんて言ったら、ちょっと無責任かしらね?
でも、さっきも言ったけど、こなたならきっと大丈夫。素敵なお母さんになれるわよ。
だって、わたしの娘なんですもの。わたしが出来ることはこなたにも出来るわ」
笑顔のまま、ペロッと舌を出してみせる。
「お母さんにそう言われるとなんか納得できちゃうから、お母さんは不思議だよね」
えへへへっと笑顔を返す。
なんてことは無い雑談をしつつ、時間が過ぎて行く。
だんだんと時計の針が24時に近づいてくる。
そうじろうがおもむろに立ち上がりる。
「ちょっと…二人ともこっちに来てくれないか?」
そうじろうが二人を呼ぶ。
「ん~お父さん、どしたの?確かにもうすぐ時間だけどさ」
「なぁに?そう君?」
二人が、言われるがままにそうじろうの隣りへとやってくる。
かなたとこなたの後ろから二人の間に入り、二人の肩に腕を回し自分の方へ抱き寄せる。
「かなた……こんな俺と一緒になってくれてありがとうな…
そして、こなたもありがとな…こんなお父さんと居てくれて…」
大まじめな表情で語る。
「ちょっ、どうしたの?お父さん。らしくないよ?」
困惑したこなたがそうじろうを見つめる。
「まぁな。らしくないかもな。でも、こうやって親子3人揃うなんてこの先あるのかどうか…
いや…先ず無いって考えるのが妥当だろうしな…だから、今のうちに俺の素直な想いを伝えたかったんだ」
微妙に目が潤んでいるように見えた。
「お父さん……」
言葉に詰まるこなた。
いろいろと言いたいことがあるのだが、言葉として出てこない。
「……ありがとうだなんて……わたしこそありがとうだよ…お父さん…」
どうにかして紡いだ言葉。
もっと伝えたいことが、想いがあるのだが、どうにも言葉にならない。
この想いはいつかきっと伝えるからと、もどかしさを心にしまって。
「そう君…わたしも…わたしからもありがとう…わたしを選んでくれて。
わたしの良い所も悪い所も、全て認めてくれて包み込んでくれた…そう君と出会えてよかった…
いろいろあったけど、わたし、幸せだった…そして、今でも幸せ。
それに…今日は、こなたの思い出として残る事もできた…短いようで長い2日間だったけど…あっという間ね」
「ああ…あっと言う間だったな。時間がこんなにも短く感じるとはな」
そうじろうがかなたを見つめる。
「そだね…ホントにあっと言う間だったよね。でもね、今日のことは絶対に忘れないからさ。
だからさ、また、来てよね。別に幽霊状態で実体化出来なくても構わないからさ」
こなたもかなたを見つめる。
「二人の思い出の中で生き続けてきてたから、今回みたいな事が起きたのかな?ってわたしは思うの。
もうじき、もとの幽霊に戻って、そして意識も消えて行く…そして次に意識が戻るのはいつかさえわからない。
そもそも、意識が戻った所で実体化出来る保証もない…次に逢えるのは何時になることやら…
それでも、わたしは忘れない…静かに見守ってる。そして、待ち続ける…必ず巡り合う時を信じて。
…逢いたいって想い続けてれば、きっとまた逢えるから…」
二人を微笑みつつ見つめる。
「そろそろ時間…かしら…ね」
そうじろうとこなたから、かなたが一歩、二歩と前にでる。
バサッ!!
翼が羽ばたくような、そんな音が聞こえた。
かなたの背中から背丈ほどもある大きな白い翼が伸びていた。
静かに大きく広がっていく翼。
かなたが振り返る。
と同時に、かなたが徐々に浮き上がり、少しづつその身体が透けて行く。
「お母さん!!お別れは寂しいけど、でも、もう泣かないよ。昨日、今日とさんざん泣いたからね。
それに涙で別れると、なんか、もう逢えなくなるような感じがするしね。だから、笑顔でお別れ!!」
かなたに向け親指を立ててサムズアップする。
「……………」
かなたが何かを言っているのが、口元を見てて判るのだが
なにを言っているのか、こなたには声が届かなくなってしまったようだ。
それでも笑顔で手を振っているのだけははっきりと判る。
こなたも負けじとはち切れんばかりの笑顔でブンブンと手を振る。
バサバサバサバサッ!!
翼が大きく羽ばたく。
その大きな翼でかなた自身を覆い隠すように羽ばたき、白い羽が辺りに舞う。
「さ よ う な ら !! ま た ね !!」
声として聞こえた訳じゃなく、頭に、そう直接響いたような気がした。
「うん!!またね!!!!」
大きな声で返事をする。
かなたの姿が完全に視界から消えて無くなった。
上空をひらひらと舞いながら落ちてくる白い羽達を残して。
その内の一つがこなたの前にひらりひらりとやってきた。
ほぼ無意識に、はしっと掴む。
その他の羽も、ひらひら舞い落ちながらこなたの目の前を次々と通過して行く。
膝辺りまで落ちてきた羽がすーっと薄くなり消えて行く。
そして、大量に舞っていた白い羽は全て消えて無くなってしまった。
こなたが手にした羽を除いて。
じーっと羽を見つめる。
(お母さん………か………)
羽を持つ手に、不意に水滴が落ちてくる。
(ん?……あ…れ…?……いつの間に?)
すーーっといつの間にやら滲み出していた涙が静かに流れ落ちてきていた。
それ以上流れ落ちてこないように静かに上を見上げる。
見上げた先に見えるのは先程かなたが消えて行った天井付近。
(もう泣かないって決めたのに……なんで…どうして…そんなに悲しいとか寂しいか…思ってないのに…)
そのまま、ぼーーっと天井を見上げる。
(…違うな…悲しくない寂しくないって思い込んでるだけ、悲しいことを…寂しいことを認めたくなかった、
認めないようにしてた、認めたら何かが壊れそうで…昨日、お母さんにどうしようもないこと言っちゃった
ように、きっとお父さんを困らしちゃうから……だから…多分…無意識にそうやって…封じ込めてたんだろうな…)
「こなた…んん~~…その…どうした?」
ふいに後ろから声がかかる。
「ん~~~いや…別に…」
振り向かずに上を向いたまま答える。
「…そか……」
「ねぇ、お父さん…」
「ん~~?」
「お別れって、悲しいね……こんなにも悲しくて、寂しくて、辛いことだったんだね…」
「…ああ…だな…」
「もう泣かないって決めてたのにお母さんがいなくなっちゃったら、やっぱり涙がでちゃったよ」
「……そか……」
会話が途絶える。
数分程度なはずが随分長くにも感じられる。
「…なぁ…こなた…悲しい時には泣いてもイイと思うぞ?」
そうじろうがぽつりとつぶやく。
「……んん…大丈夫」
つぶやき返す。
「…………あのね…お父さん…お母さんに逢って気がついたんだけどね…お母さん居なくて寂しくないって
前に言ってたけど…やっぱ、寂しかったのかなぁ~って…別にお父さんがどうとかって訳じゃないんだけどさ…」
相変わらず、振り返らずに上を見上げたまま答える。
「…ほんとは、お母さんに逢いたかった、居なくて寂しかった…でも、そんなことお父さんに言ったって
どうにもならないし、そんなこと言って困らせたくなかった…なんかそんなこと言うとお父さんに嫌われそうで
怖かったのかなって…だから、居なくても寂しくなんか無いって自分に言い聞かせて、そう思い込んでたんだと
思う。自分にうそ付いてて、それをいつの間にか本当のこととしてたんだなって」
見上げることをやめ、振り返る。
涙がこぼれているが吹っ切れたような笑顔をみせる。
「…やっぱり、片親で無理させてたんだな…すまなかったな…」
「ううん、お父さんが謝ることなんてないよ。むしろ、いままでありがと。お父さんのおかげで寂しさに
気がつかなかったっていうかまぎれてたというか…寂しくなかったってのはうそだけどホントでもあるんだよ?」
そうじろうがこなたの傍らへと行き頭をわしゃっとひと撫でする。
「ははは、そうか、ありがとな」
キリッとした普段は見せないまじめな笑顔を見せる。
初めて見たかもしれないその表情に、素直にカッコいいと思ってしまった。
(もしかして、お母さんにはこういうとこも見せてたのかな?確かにカッコいいかもね)
「ふふん…お父さん…普段はロリコンでスケベでオタクなダメ人間なくせに…カッコいい顔しちゃって」
あたまの後ろで腕を組み、まだ涙の乾いていない顔で照れ隠しに突っ込みを入れる。
「なにおぅ~こいつぅ~」
あっという間にいつもの間の抜けた顔に戻り、こなたの頭をぴんっと軽く指でつっつく。
「へへ♪」
涙を拭い、はなさきを指でぐしぐしとする。
「さて、来週にはゆーちゃんも戻ってくるし、後片付けでもしますか!!写真も整理しないとね」
いつもの元気な姿に戻ったのを見て一安心するそうじろう。
(来てくれてありがとな。そして、またねって言ってたよな……かなた…またな!!)
懐に忍ばせた白い羽を握りしめつつ、かなたが昇って行った天井付近を見つめる。
(ええ…また逢いましょう)
かなたの返事が聞こえた。
気のせいではなく、そうじろうの頭に直接響いたような、そんな感じであった。
天井付近を見つめながら目をつむる。
まぶたに、笑顔で手を振るかなたがいる。
単なる幻なのか、まだそこに居るのかは判らないが、手を振っている映像が流れている。
(ああ、また逢おうな。それまで待ってるぜ!!)
目を開け、現実世界に戻ってくる。
「さぁ~てと、こなた、お父さんも手伝うぞ」
~終~
懐に忍ばせた白い羽を握りしめつつ、かなたが昇って行った天井付近を見つめる。
(ええ…また逢いましょう)
かなたの返事が聞こえた。
気のせいではなく、そうじろうの頭に直接響いたような、そんな感じであった。
天井付近を見つめながら目をつむる。
まぶたに、笑顔で手を振るかなたがいる。
単なる幻なのか、まだそこに居るのかは判らないが、手を振っている映像が流れている。
(ああ、また逢おうな。それまで待ってるぜ!!)
目を開け、現実世界に戻ってくる。
「さぁ~てと、こなた、お父さんも手伝うぞ」
~終~
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- 本当に良い作品を有り難うございます!
-- チャムチロ (2012-10-06 08:32:02) - 涙が
-- 名無しさん (2011-07-18 10:09:53) - 不覚にも涙が滲んでしまった。
GJです。 -- 名無しさん (2010-04-18 04:23:02) - 感動しました
出来れば もう少し続いて欲しかったです
でも 本当に良い話でした
ありがとう御座います -- ラグ (2009-01-15 05:09:59) - ほんわか系のお話サンクス。
優しい話に癒されます。
エロなしでも十分いい話でした。
-- 名無しさん (2008-07-04 02:13:50) - あ~…ついにこのシリーズも終わったのか…
結構好きなシリーズだったんだよな~…
作者様、良かったらまた何か作ってください! -- 名無しさん (2008-06-30 22:12:00)