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彼女は遷移状態で恋をする-かがみside-(8)

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  • 彼女は遷移状態で恋をする かがみSide(8)


「も、う……平気か?」
 自分でも情けないくらいに、高音が口から飛び出た。
 それに負けないくらいの轟音が、心臓から聞こえてくる。
 何をしたんだ? と、自分に問いかける。
 どうしてこんな事になったんだ? と、自分を苛める。
 だがいくら言葉を繰り返しても、事実は変わらない。
 俺の腕の中には……こなたが、居る。
「うん」
 声が、体を通して俺に響いた。
 鼓動が跳ねる。
 耳鳴りが動悸と混ざって、立っているのがやっとだった。
 ようやくこなたが俺からゆっくりと離れる。
 体に残った温もりが名残惜しいのは、きっと気の所為だ。
 ああ、気の所為だ。
 そう……気の、所為。
「ごめんね」
 こなたの声が耳を通り過ぎる。
 それだけで、心臓が爆発しそうだ。
 やばい、顔が焼けそうだ。
 うう、だからなんで焼けそうなんだよ!
「あ、謝るようなことじゃないだろ」
 そうだよ、むしろ怒れよ。
 男に抱きしめられたんだ……訴えられたら金とれるってレベルじゃねーぞ!
「行こっか、皆待たせちゃってるね」
 こなたが背を向ける。
 なんだろう、そしたらだ。
 少しだけ……寂しかった。
「こなた」
 気が付けば、呼び止めていた。
 顔が熱を持った。
 その理由は分からない。
 ……。
 分からない、のか?
「どうかした? かがみ」
 こなたが振り向き、俺を見上げる。
 視線が交わって、口が勝手に言葉を紡いだ。
 それは、俺の言葉じゃない。
 みゆきやつかさが俺を小突いて突きつけた言葉。
 その喉に引っかかっていた言葉が、勝手に口から出て行った。
 理由はやっぱり……分からなかった。
「浴衣、似合ってるな」
「えっ……」
 こなたが眼を丸くする。
 それと一緒に、俺の思考が停止した。
 言葉を反芻する。
 脳がゆっくりと痺れていく。
 ……ん?
「あ、いやっ!」
 顔が火を噴き、慌てる。
 い、今俺は何を言った?
 似合ってる?
 浴衣が?
 なんだそりゃ!
 何で今、んな事言う必要があんだよ!
「ほ、ほらえと。ま、だ……言ってなかった、だろ?」
 そんな事理由になるわけがない。
 顔が熱を持っていくのが自分でも分かっていた。
 それを見られたくなくて、こなたを追い越す。
「いや、まぁ……それだけ」
 その言葉はきっと、こなたに言ったわけじゃなかったんだと思う。
 俺が、俺に言ったんだ。
 そう、それだけだ。
 言えなかった言葉を、伝えただけ。
 ……それだけ。
 そう……それだけ、だ、



 なんであんな事をしたんだろう。
 その質問を、ずっと頭の中で反芻する。
 偶然……そう、所謂偶然だ。
 偶然俺が、こなたを見て。
 こなたが……泣いてて。
 そう、そこまでは偶然? だったはずだ。
 問題は、その後だ。
 ……なんでだ?
 何で俺は、抱き締めたんだ?
 泣いてた……から?
 ……偶然?
「お兄ちゃんどうかしたの?」
「?」
 声に気が付き、顔をあげた。
 それで、歩いていた足を止める。
「いや、何でもない……」
 つかさが心配そうに俺を見る。
 あと、その隣りのもう一人……みゆきもな。
 バスがかち合うと、こういうことも稀にある。
 月曜日の朝だってのに、憎らしい笑顔を見せてくれるよこいつは。
 多分このまま、飛ぶんだろ? いつもの皮肉が……。
「風邪ですか? 気をつけてくださいね」
「……」
 なんだ、今の悪寒は。
 今の展開なら確実に、
「風邪ですか? 夏風邪も災難ですね、相手を選べないなんて」って流れだっただろ。
 さらに気まで遣いやがった……今更路線変更する気か! 手遅れです!!!
「あっ、あれこなちゃんじゃない?」
 正門に入ったところで、つかさが足を止めた。
 それと同時に、特徴的なアホ毛が俺の目に入った。
 ……そしたら、だ。
「おーい、こなちゃーん」
「あっ、おはよー皆ー」
 その青い塊が振り返るのと同時に……なんだろうな。
 妙に心拍数というか……なんだこれ。
 な、何で動揺してんだ俺は。
「おはようございます」
「おはよー」
 二人が揃って挨拶する。
 ……そりゃ、俺もするべきだろ。
「お、おっす」
 声が裏返った。
 理由は……やっぱり分からん!
「あれ、かがみ眼にクマ出来てるよ? あ、遅くまでアニメでも見てたんでしょ」
「見ねーよお前じゃあるまいし」
「昨日のあれは良かったよねー、まさかのテコ入れで鼻血だばだば」
「ええ、実にだばだばでした」
「人の話を聞け!」
 こなたは何と言うか……普通だった。
 ああ、そりゃそうだよな。
 分かってるよ、俺が意識しすぎてるだけってことは。
 俺も、普通でいい。
 昨日のあれはあくまで偶然……それで、終わりだ。
「っと、じゃあまたな」
 教室の前で、三人と別れる。
 いつも俺だけ違うんだよな……べ、別に寂しくなんかないんだからな!
「かがみ」
「?」
 その足を、こなたが止めた。
 声が耳から入って、妙に脳を刺激した。
「また後でねっ」
 こなたが小さく手を振る。
 その顔が、笑顔で。
 何故か……そう、何故か。
 理由が分からない。
 だが何故か妙に……心臓の音が、跳ねた。


「おはよう、柊君」
「ん、ああ……よっす」
 教室に入ると、峰岸が声をかけてきた。
 いつもの席についてその挨拶に答える。
 二回ほど深呼吸をしたおかげで、心音は収まってくれた。
 ……なんだったんだ、ありゃ。
「よぅ、くさか……べ?」
「……」
 その隣りにも挨拶。
 ……のはずだったんだが、どうにも様子がおかしい。
 というかどうみてもこれは……睨んでるよな、俺のこと。
「どうした日下部、何か悪いもんでも食べたか?」
「……別にぃ」
 そっぽを向かれた。
 な、なんでこんな不機嫌なんだ?
 ああなるほど分かったあの日……ぶげらぁっ! 峰岸からハイキックが飛んだ……白でしたウソデスゴメンナサイ。
 頼むから心の中まで読まないでくれ、え? 顔に書いてある?
「んじゃまたな、あやの」
 結局不機嫌なまま、日下部は席に戻っていった。
 って結局俺には挨拶なしかよ!
「な、なぁ……日下部、なんか怒ってなかったか?」
「……」
 うわ、「そりゃあアンタ」って顔されてる!
「柊君ってさ……結構、天然だよね」
「て、天然?」
 なんだそりゃ、弟と間違えてないか?
 確かにあいつはドがつく程天然だが……ああ、あと変態メガネもたまに。
「柊君、昨日勝手に泉ちゃんとどっか行ったでしょ」
「あっ、んああ。だったっけか」
 と、峰岸の所為でまた昨日の光景を思い出す。
 う……雑念が混じってる。
「あのまま、帰って来なかったし」
「し、仕方ないだろ。人が一杯だったんだから」
 結局あの後、峰岸たちと合流する事はなかった。
 というか出来なかったってのが正しいな。
 一応河原まで戻ったのはいいが、その後が駄目だった。
 目標もないのに待ち合わせなんてするもんじゃないと思い知らされたよ。
 そのまま時間切れ、女性陣は仲良く門限を迎えたわけだ。
 はぁ、せっかくの花火大会も終わってみればグダグダだったな。
 ああなるほど、それで日下部怒ってるわけか!
「……」
 あ、あれ? 「こーのやろーぅ」って顔されてる!!
 ってか怖い! 玄人の殺気が漏れてる!
「柊君、お昼休みじっくりお話しようね」
「……はい」


 そんな訳で、今は昼休みの飯の時間。
 こなたに一応飯に誘われたわけだが、先約があるって断ってしまった。
 ……なんか、顔も合わせにくいし。
 いやいや、先約があったからだってうん。
 なのに、だ。
「……」
 わざわざ人が友人との食事を断って一緒に昼ご飯だというのに、この空気の悪さ。
 日下部は俺の目なんか見やしないし、峰岸は相変わらずの笑う般若。
 うう、弁当の味が分からん。
 ええい、いいよやってやろうじゃないか。
 ここであれ、謝るべきだろ!
「あ、あのさ日下部っ」
「……何だよ」
 うおお、いきなり厳しい一言!
 ま、負けるな俺。頑張れ俺!
「き、昨日は悪かったな。俺の所為でえと、色々……」
「別に」
 また一蹴されてるし!
 くぅ……そりゃ怒るよな。
 せっかくの花火大会が俺捜索で時間切れじゃあ……。
 って峰岸さん何故睨むんでしょうかごめんなさいゴメンナサイ。
 い、いや俺負けるな俺。
 さっきから弱気なのがいけないんだ、男なら強気で行け強気で!
「こ、今度なんか飯でも奢るからさ。そんなもんでいいだろっ」
「……っ」
 そしたら、なんか日下部の表情が変わった。
 峰岸も……ってあれ? ミネギシサンそれは鈍器デスヨ?
「……もういい」
 そのまま席を立つ日下部。
 ん? あ、あれ? なんか空気がよけい悪くなってるんだが。
「ひ、柊君っ。追いかけてっ」
「おっ俺が?」
 こういうのは普通幼馴染が行くもんだろ?
 俺なんかが行っても何の役にも……。
「……イイカラ、ハヤク」
「はい!」
 凄くいい返事が出ました。
 うん、今のは確実に阿修羅王が見えた。
 そんな訳で急いで日下部を追う。
 そして追いつき、手を握って「ちょっと待てよ!」……とでも言えると思っただろ? 俺もだ。
 お生憎様、陸上部に叶うわけもない。
 くぅ……大体速すぎるんだ、日下部は。
 大体怒ってる理由も分かんないままだし。
 何か言ったっけか……最近失言が多いな俺。
『昨日は悪かった』
 うん、変なところはないな。
『今度なんか奢るから』
 うん、普通普通。
 何処も怒る要素はないじゃないか。
 ったく、やっぱりあの日じゃ……。
『そんなもんでいいだろ』
 ……ん? 峰岸の踵落としが脳に決まった気分。
 そんなもんで……いいのか?
「おい……ま、てよっ」
 思い描いてた台詞が、息の切れた口から漏れた。
 くぅ、もっと想像ではかっこよかったんだがな。
 急いで階段を上がったんだ、そりゃ息も切れるよ。
 ようやく追いついた日下部の手を、掴んだ……が、跳ね除けられた。
 それでも、足は止めてくれた。
「……かったな」
「へっ?」
 息を整えてるうちに、声が聞こえた。
 その声が聞こえたあとに、睨まれた。
 ようやく日下部と、顔を見合わせた気がする。
「そんなもんで、悪かったな!」
 その目が少し、潤んでた。
 ……。
 ああそっか、そういう事か。
 分かった、今なんとなく理解できた。
 そんなものだなんて……俺が決める事じゃない。
 日下部はきっと、楽しみだったんだろうな。
 ……花火が。
「えと、日下部」
「……んだよ」
 俺に背中を見せながら、日下部が不機嫌そうに返事をする。
 自分の涙に気が付いたのか、袖で無理矢理顔を擦っていた。
「さっきは……悪かった、今度また改めて誘う、から」
 上手く言葉が回らなかった。
 一応誘ってるわけだから、そりゃあ照れるさ。
 でも、俺の失言の所為なのは確かだ。
 だからとりあえず精一杯、謝る事しか今は出来なかった。
「今日」
「?」
 だから、思わず声が漏れた。
 突然日下部から聞こえた声に、目が丸くなる。
「今日だったら……許す」
「きょ、今日? そ、それは突然過ぎないか?」
 だって放課後って事だろ? どっか寄ってる時間なんてあったっけか。
 それに今日は確か用事が……ああ、でも今日だったら許してくれるわけか。
 くぅ、仕方ない……よな。
 ああそうだ、仕方ないんだからな。
「わ、分かったよ。じゃあ今日、放課後な」
「……」
 そう言って、俺は渋々折れた。
 そのまま日下部は何も言わずに、俺の横を抜けて教室に戻っていった。
 ……これは、許してくれたと受け取っていいものか。
 そんなわけで放課後は、結局日下部に付き合うことに。
 財布に余裕はないわけじゃないが……日下部に峰岸か、二人分のカラオケ代を奢るぐらいならあるさ。
 まぁ、今回は俺が悪いから仕方ないのか。
 丁度俺も、色々モヤモヤしてたところだ……カラオケで発散でもしよう。


 ……ああ、そうだ。
『連絡』しないと、いけないな。
 しかし今は急いで上がった階段の所為で足が痙攣してる。
 ……まぁ、放課後でいいか。























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  • かがみ… 続きに期待。 -- 名無しさん (2008-10-02 00:42:23)
  • つ、続き気になりますw -- 名無しさん (2008-09-10 22:41:13)
  • 続きが気になるぅぅ -- 名無しさん (2008-08-13 13:28:11)
  • かがみがヘタレ過ぎ。 -- 名無しさん (2008-07-01 22:32:11)

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