結果ではない。そこにいたるまでの過程が大切なのだ。
そういったことはよく聞く。確かにそういうことって多いと私も思う。努力することが大切なのであって、結果は二の次。それも大切なことだ。
でも私はそれに反対。
残るのは結果だけだ。どれほど努力したとしても、評価は結果のみで決まる。
勝てば官軍負ければ賊軍といった大仰なものではないにしろ、私は世の中結果が全てだと思う。
そういったことはよく聞く。確かにそういうことって多いと私も思う。努力することが大切なのであって、結果は二の次。それも大切なことだ。
でも私はそれに反対。
残るのは結果だけだ。どれほど努力したとしても、評価は結果のみで決まる。
勝てば官軍負ければ賊軍といった大仰なものではないにしろ、私は世の中結果が全てだと思う。
――2月19日、午前6時30分。
目覚ましのなる数分前には目が覚めて、寝ぼけ眼のまま立ち上がり部屋の電気を付けた。つまり、遅刻をしていないということであり、もしそんな状況であればお母さんが起こしてくれると思うから、そういったことには気にしていない。
つかさやこなたが言う「『目覚まし鳴ったの?』って思うことない?」というのは、経験がないとは言わないけれど、めったにないことだ。
45分にセットしておいた目覚ましを、その役割を果たす前に停止ボタンを押す。
私服に着替えて一階のリビングに向かうと、ほのかにコーヒーの香りがした。お母さんは私を見かけると「あら、早いのね」と言った後、おはようと挨拶をするので、私もそれに続く。
食パンでいい? という質問に肯定で答えて私は椅子に座り込み、ぼんやりとしていた。まだ頭が覚醒していないらしい。みっともない大きなあくびをして、テレビを付けているうちに、苺ジャムの缶とこんがりと黄金色に焼けたパンが置かれた。
「何時に家にでるの?」
「7時30分」
「そう。頑張ってね」
「うん」
お母さんは私に微笑みかける。私は曖昧な笑いを返しながら、気を紛らわすかのようにコーヒーを口に運んだ。
扉がきぃと申し訳なさそうに開く音がするので、私とお母さんが音がした方向に顔を向けると、お父さんが顔をぽりぽりと掻きながら立っていた。
「あらあなた。おはよう」
私もそれに続く。
お父さんは寝具のままだった、
「うん。おはよう」
「パンでいいですか? ご飯、たいていなくて」
「うん、お願い」
そういいながらお父さんは私の対面の椅子に座る。私はお父さんが腰掛けるまでの所作を無意識に見ていたが、はっと我に返り、食事に戻った。
「……」
お父さんは、何も言わない。数分後お父さんの前にお皿がおかれて、お母さんもその隣に座る。
なんだかぎこちない感じだが、つかさがいないことを除けば平時と大して変わらない光景だった。普段はもう少し会話が弾むものだが、それも頭数が一人足りないことを考えれば妥当なところだと思う。
つかさは、多分まだ寝ていると思う。自由登校に入っており、学校に行く必要はない。それでも惰性というか、どうしてだかわからないが、特に何もないときはつかさも含めて学校にいっていた私だけど、それも二人して登校できる日に限った。
お姉ちゃん、明日何時に起きるの? と私に聞いていたから、もしかしたら私の出発に合わせて起きてくれるのかと思ったけど、どうも体が言うことを聞かなかったらしい。それも仕方ないと思う。やめておけばいいのに昨日まで3日連続で入試があり、やっと安心して眠れる一日なのだ。
1月にセンター試験を受けた後、2月から多くの私立大学の入試が始まる。よく言われることであり、また私の経験からしてもそうなのだが、3日連続で受けると本当に疲弊感があるものだ。通常の模試や定期テストならばいざ知らず、入試というものは特別な雰囲気をまとっている。
私のように東京のちらばっている各大学にはるばる受験しに出かけるわけではないから、通学に所要する時間を考えても、私と比べれば楽なのだろうけど、元来つかさののんびりした性格と、朝夕の通勤ラッシュに呑まれればだれだっていつも以上に睡眠だってとりたくなるものだろう。
だから、今日はゆっくりと休んでいてね、と私は思うのだ。
「何時に終わるの?」
お父さんが主語を省いて聞いてくる。私は「3時半くらいかな」と答えると、そうかと一言言った後、おもむろに立ち上がり、薬箱の上からホッカイロを取り出した。
「冷えるといけないから」
とはにかみながら言うので、私は素直に受け取る。テレビから流れるアナウンサーの音声が雑音となって響いている。
何を言っているのかよくわからなかったけれど、「今日は午後から雪になるでしょう」といっているようだった。関東一帯に雪のマークが出ている。
「あら、今日は雪が降るのね」
「そうみたいだね。今年初めてじゃないかな」
「ええ、そうね」
――雪。雪か。折りたたみ傘を鞄に入れたほうがいいかもしれない。
前日に準備していたものを思い出す。受験票、筆記用具――鉛筆、消しゴム――、財布、定期券。それに世界史のノート。使い古した単語帳。うん、全部入っていると思う。折りたたみ傘を鞄に追加するときに確認しよう。
「受験票は持った?」
「つかさじゃないんだから、大丈夫よ」
なんて言ってみる。お父さんは苦笑気味に、
「あの時はかがみのおかげで助かったよ。かがみが一緒に駅までいってくれなかったら、と思うとぞっとするね」
「別に、たいしたことじゃないけど」
そんなことを言っていると、室温とともに空気までもが暖かくなった気がした。緊張が解れたのもそうだし、非日常めいた私にとっての2月19日という日付を日常のものに変わっていく、そんな感覚があった。
目覚ましのなる数分前には目が覚めて、寝ぼけ眼のまま立ち上がり部屋の電気を付けた。つまり、遅刻をしていないということであり、もしそんな状況であればお母さんが起こしてくれると思うから、そういったことには気にしていない。
つかさやこなたが言う「『目覚まし鳴ったの?』って思うことない?」というのは、経験がないとは言わないけれど、めったにないことだ。
45分にセットしておいた目覚ましを、その役割を果たす前に停止ボタンを押す。
私服に着替えて一階のリビングに向かうと、ほのかにコーヒーの香りがした。お母さんは私を見かけると「あら、早いのね」と言った後、おはようと挨拶をするので、私もそれに続く。
食パンでいい? という質問に肯定で答えて私は椅子に座り込み、ぼんやりとしていた。まだ頭が覚醒していないらしい。みっともない大きなあくびをして、テレビを付けているうちに、苺ジャムの缶とこんがりと黄金色に焼けたパンが置かれた。
「何時に家にでるの?」
「7時30分」
「そう。頑張ってね」
「うん」
お母さんは私に微笑みかける。私は曖昧な笑いを返しながら、気を紛らわすかのようにコーヒーを口に運んだ。
扉がきぃと申し訳なさそうに開く音がするので、私とお母さんが音がした方向に顔を向けると、お父さんが顔をぽりぽりと掻きながら立っていた。
「あらあなた。おはよう」
私もそれに続く。
お父さんは寝具のままだった、
「うん。おはよう」
「パンでいいですか? ご飯、たいていなくて」
「うん、お願い」
そういいながらお父さんは私の対面の椅子に座る。私はお父さんが腰掛けるまでの所作を無意識に見ていたが、はっと我に返り、食事に戻った。
「……」
お父さんは、何も言わない。数分後お父さんの前にお皿がおかれて、お母さんもその隣に座る。
なんだかぎこちない感じだが、つかさがいないことを除けば平時と大して変わらない光景だった。普段はもう少し会話が弾むものだが、それも頭数が一人足りないことを考えれば妥当なところだと思う。
つかさは、多分まだ寝ていると思う。自由登校に入っており、学校に行く必要はない。それでも惰性というか、どうしてだかわからないが、特に何もないときはつかさも含めて学校にいっていた私だけど、それも二人して登校できる日に限った。
お姉ちゃん、明日何時に起きるの? と私に聞いていたから、もしかしたら私の出発に合わせて起きてくれるのかと思ったけど、どうも体が言うことを聞かなかったらしい。それも仕方ないと思う。やめておけばいいのに昨日まで3日連続で入試があり、やっと安心して眠れる一日なのだ。
1月にセンター試験を受けた後、2月から多くの私立大学の入試が始まる。よく言われることであり、また私の経験からしてもそうなのだが、3日連続で受けると本当に疲弊感があるものだ。通常の模試や定期テストならばいざ知らず、入試というものは特別な雰囲気をまとっている。
私のように東京のちらばっている各大学にはるばる受験しに出かけるわけではないから、通学に所要する時間を考えても、私と比べれば楽なのだろうけど、元来つかさののんびりした性格と、朝夕の通勤ラッシュに呑まれればだれだっていつも以上に睡眠だってとりたくなるものだろう。
だから、今日はゆっくりと休んでいてね、と私は思うのだ。
「何時に終わるの?」
お父さんが主語を省いて聞いてくる。私は「3時半くらいかな」と答えると、そうかと一言言った後、おもむろに立ち上がり、薬箱の上からホッカイロを取り出した。
「冷えるといけないから」
とはにかみながら言うので、私は素直に受け取る。テレビから流れるアナウンサーの音声が雑音となって響いている。
何を言っているのかよくわからなかったけれど、「今日は午後から雪になるでしょう」といっているようだった。関東一帯に雪のマークが出ている。
「あら、今日は雪が降るのね」
「そうみたいだね。今年初めてじゃないかな」
「ええ、そうね」
――雪。雪か。折りたたみ傘を鞄に入れたほうがいいかもしれない。
前日に準備していたものを思い出す。受験票、筆記用具――鉛筆、消しゴム――、財布、定期券。それに世界史のノート。使い古した単語帳。うん、全部入っていると思う。折りたたみ傘を鞄に追加するときに確認しよう。
「受験票は持った?」
「つかさじゃないんだから、大丈夫よ」
なんて言ってみる。お父さんは苦笑気味に、
「あの時はかがみのおかげで助かったよ。かがみが一緒に駅までいってくれなかったら、と思うとぞっとするね」
「別に、たいしたことじゃないけど」
そんなことを言っていると、室温とともに空気までもが暖かくなった気がした。緊張が解れたのもそうだし、非日常めいた私にとっての2月19日という日付を日常のものに変わっていく、そんな感覚があった。
あの時とのことというのは、つかさの入試初日のことだ。おそらく家族なら全員心配したことを、期待通りにつかさはした。つまり、受験票を忘れた。
朝食のときにも言って、大丈夫だよと屈託のない笑顔を見せていたので、お父さんもお母さんも安心しきっていたが、私はやっぱり心配だった。この子のドジっ子は筋金入りだったし、こういったことは用心してもしすぎることはない。私が監督していたこともあり、この時間にでれば集合時刻30分前くらいには着くだろうという時間に家を出、鷹宮駅に着いた。
そこで念のためもう一度問いただし、鞄の中を捜せさせると案の定、というわけだ。
走って家に戻ろうとするつかさを、ゆっくり歩いても間に合うからと制し、二人して家に踵を返す。こういったところで無駄に体力を消費するべきではないと思ったし、念のため次の電車が何時につくかも携帯電話で調べておいたから、プラス20分ならば余裕のはずだったからだ。
朝食のときにも言って、大丈夫だよと屈託のない笑顔を見せていたので、お父さんもお母さんも安心しきっていたが、私はやっぱり心配だった。この子のドジっ子は筋金入りだったし、こういったことは用心してもしすぎることはない。私が監督していたこともあり、この時間にでれば集合時刻30分前くらいには着くだろうという時間に家を出、鷹宮駅に着いた。
そこで念のためもう一度問いただし、鞄の中を捜せさせると案の定、というわけだ。
走って家に戻ろうとするつかさを、ゆっくり歩いても間に合うからと制し、二人して家に踵を返す。こういったところで無駄に体力を消費するべきではないと思ったし、念のため次の電車が何時につくかも携帯電話で調べておいたから、プラス20分ならば余裕のはずだったからだ。
「じゃあそろそろ行かないと」
「ん……そうか」
「頑張ってらっしゃい」
励ましの言葉に力ない笑顔で答えた後、玄関近くにある我が家の特有の黒電話に一瞥をやる。
「まあ、見てなさい。あんたにも絶対仕事をしてもらうんだからね」
特に意味のない行動だ。
「ん……そうか」
「頑張ってらっしゃい」
励ましの言葉に力ない笑顔で答えた後、玄関近くにある我が家の特有の黒電話に一瞥をやる。
「まあ、見てなさい。あんたにも絶対仕事をしてもらうんだからね」
特に意味のない行動だ。
扉を開けると、北風が吹き付けてきてとても寒い。晒された太ももに容赦なく吹き付ける。
ブルブルと携帯が震えるので、歩きながら携帯を開くと、
ブルブルと携帯が震えるので、歩きながら携帯を開くと、
date:2/19.7.30
message from こなた
re:がんばってくれたまへー
「やふーかがみ。今日だっけ? かがみんのことだから寝坊なんてしていないとは思うけど、頑張ってね。私のほうは受験も終わったし、今年の冬には某ギャルゲーからの格闘ゲームが出ているじゃん? F○TEね。凛がかがみんみたいで以下省略。相手がいなくてねー。かがみはいくら誘っても『あんたは……』と呆れるだけで取り合ってくれないし。
まあ昨日からスーパー徹夜タイムだったからさ、寝るね。お休み。夢の中でなら、合格を祈ってあげるよ♪」
message from こなた
re:がんばってくれたまへー
「やふーかがみ。今日だっけ? かがみんのことだから寝坊なんてしていないとは思うけど、頑張ってね。私のほうは受験も終わったし、今年の冬には某ギャルゲーからの格闘ゲームが出ているじゃん? F○TEね。凛がかがみんみたいで以下省略。相手がいなくてねー。かがみはいくら誘っても『あんたは……』と呆れるだけで取り合ってくれないし。
まあ昨日からスーパー徹夜タイムだったからさ、寝るね。お休み。夢の中でなら、合格を祈ってあげるよ♪」
「こいつは……」
メールの台詞のように苦笑気味にため息をつく。変わらないというか、こなたらしい。
そういえばこなたの結果はまだ聞いていない気がする。結果がでたのかもわからないけど(私自身、日々に忙殺されていたから、そこまで頭を働かせる余裕はなかった)この調子なら手ごたえはあるのだろう。
そう思うと、ふっと笑顔になる。不思議と親友の合格は、自分のことみたいに嬉しいものだ。
メールの台詞のように苦笑気味にため息をつく。変わらないというか、こなたらしい。
そういえばこなたの結果はまだ聞いていない気がする。結果がでたのかもわからないけど(私自身、日々に忙殺されていたから、そこまで頭を働かせる余裕はなかった)この調子なら手ごたえはあるのだろう。
そう思うと、ふっと笑顔になる。不思議と親友の合格は、自分のことみたいに嬉しいものだ。
商店街を通り、駅へ向かい、列車が通常通りに運行していることに一安心する。
改札を抜けて駅へのプラットフォームに降りたところで私は携帯を取り出し電源を切った。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
電車の到着を告げるアナウンスが流れ、見慣れた電車が停止し、ドアが開く。それに乗り込んだとき、私は「よし」と小さく呟いた。
ポケットに突っ込んだホッカイロがじんわりと私を温めていた。
改札を抜けて駅へのプラットフォームに降りたところで私は携帯を取り出し電源を切った。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
電車の到着を告げるアナウンスが流れ、見慣れた電車が停止し、ドアが開く。それに乗り込んだとき、私は「よし」と小さく呟いた。
ポケットに突っ込んだホッカイロがじんわりと私を温めていた。
☆
「それでまあ、どうなのよ」
「そりゃまたざっくらばんだな」
……この日、教室に向かい鞄を置いて、そのままB組にくとこなたは、さっそく私に問いかける。
私の代わりにつかさが、
「今日発表がでるんだよー、私ドキドキしちゃって……」
「別につかさのじゃないじゃん」
「でもこなちゃん、お姉ちゃんのだよ? やっぱり気になるよ」
「そりゃあ私だって? 嫁の一大事とあれば!」
「誰が嫁か!」
「そりゃまたざっくらばんだな」
……この日、教室に向かい鞄を置いて、そのままB組にくとこなたは、さっそく私に問いかける。
私の代わりにつかさが、
「今日発表がでるんだよー、私ドキドキしちゃって……」
「別につかさのじゃないじゃん」
「でもこなちゃん、お姉ちゃんのだよ? やっぱり気になるよ」
「そりゃあ私だって? 嫁の一大事とあれば!」
「誰が嫁か!」
2月29日。いわずと知れた、あの日である。こんな日に合格発表日を設定しなくてもいいのにと思うが、ともかく今日が私の第一志望の発表日なのである。
つかさの発表は一足早く3日前にあった。結果は、その日の夕食が今年最大の豪華な食事になったことを告げておけば十分だろう。その主賓であるつかさが、主な食事当番だったというのはちょっとおかしな話だけど。
こなたは思ったとおり合格していたらしく、久しぶりに(といっても2週間とかそこいらだけど)あったときもしれっとしていた。こなたの家でもパーティーが行われたらしい。娘を溺愛している父親に陽気な警察官の従姉妹――想像に難くない。
……結局私はゆたかちゃんの「無病息災」の本当の意味、願いを伝えることはしなかったけど、ゆたかちゃんの思いが叶ったようで嬉しい限りだ。
本当、感謝しておきなさいよ。
あの子は本当にいい子なんだから。
つかさの発表は一足早く3日前にあった。結果は、その日の夕食が今年最大の豪華な食事になったことを告げておけば十分だろう。その主賓であるつかさが、主な食事当番だったというのはちょっとおかしな話だけど。
こなたは思ったとおり合格していたらしく、久しぶりに(といっても2週間とかそこいらだけど)あったときもしれっとしていた。こなたの家でもパーティーが行われたらしい。娘を溺愛している父親に陽気な警察官の従姉妹――想像に難くない。
……結局私はゆたかちゃんの「無病息災」の本当の意味、願いを伝えることはしなかったけど、ゆたかちゃんの思いが叶ったようで嬉しい限りだ。
本当、感謝しておきなさいよ。
あの子は本当にいい子なんだから。
「大丈夫ですよ、きっと。かがみさんならきっと受かっていると思います」
「あー、うん、ありがと。でもみゆきもまだなんでしょ? どうなの?」
「私のほうはちょっと心配かもしれませんね……」
「なに謙遜しているのよ。みゆきが落ちるなんてこなたがオタクをやめるくらいありえないことだわ。鯨が魚でないのとを同じくらい」
ちらりとこなたをあほ毛にに視線を落としながら言う。
「ちょっ、それ例え悪すぎ!」
すぐさまこなたの抗議が入る。
つかさは後半の例えがよくわからなかったのか、はてなマークを浮かべていた。
みゆきが「A whale is no more a fish than a horse is」を前提にした諧謔ですねと、つかさに講釈していたが、肝心のつかさはあまりわかっていないようだった。
そういえば社学で出ていたわね……なんて私はあっという間に過ぎ去った受験生活、もうあまり見たくない赤本に思いを巡らした。
「いつだっけ?」
私がそんな二人にかまわず聞くと、3月ですと返ってきた。
「そっか。終わったら皆で遊びにいこっか」
「あーいいねーそれ。じゃああきばで――」
「ディ○ニーなんてどう? ちょっと定番だけど、私たち皆でいったことはなかったわよね?」
「あれー私の提案は華麗にスルーですかー?」
それもいいけどまた今度でいいじゃない、と一蹴する。しぶしぶながらこなたも従い、私たちは各々知っている知識を総動員して乗る乗り物についての侃々諤々、口角泡を飛ばす議論に更けた。
最後にみゆきがパンフレットを持ってきますねといい、私もクラスに戻る。
卒業式まではまだ数日あり、自由登校期間中に学校に来る酔狂な輩はそう多くない。一年二年の活気と比べると、本当に静かなものだった。
よくわからないが私の周りにはそういう酔狂な奴ばかりだ。嬉しそうに合格を語ってぺたぺたひっついてくる奴とか、その保護者役の奴とか。
まったく。
「あー、うん、ありがと。でもみゆきもまだなんでしょ? どうなの?」
「私のほうはちょっと心配かもしれませんね……」
「なに謙遜しているのよ。みゆきが落ちるなんてこなたがオタクをやめるくらいありえないことだわ。鯨が魚でないのとを同じくらい」
ちらりとこなたをあほ毛にに視線を落としながら言う。
「ちょっ、それ例え悪すぎ!」
すぐさまこなたの抗議が入る。
つかさは後半の例えがよくわからなかったのか、はてなマークを浮かべていた。
みゆきが「A whale is no more a fish than a horse is」を前提にした諧謔ですねと、つかさに講釈していたが、肝心のつかさはあまりわかっていないようだった。
そういえば社学で出ていたわね……なんて私はあっという間に過ぎ去った受験生活、もうあまり見たくない赤本に思いを巡らした。
「いつだっけ?」
私がそんな二人にかまわず聞くと、3月ですと返ってきた。
「そっか。終わったら皆で遊びにいこっか」
「あーいいねーそれ。じゃああきばで――」
「ディ○ニーなんてどう? ちょっと定番だけど、私たち皆でいったことはなかったわよね?」
「あれー私の提案は華麗にスルーですかー?」
それもいいけどまた今度でいいじゃない、と一蹴する。しぶしぶながらこなたも従い、私たちは各々知っている知識を総動員して乗る乗り物についての侃々諤々、口角泡を飛ばす議論に更けた。
最後にみゆきがパンフレットを持ってきますねといい、私もクラスに戻る。
卒業式まではまだ数日あり、自由登校期間中に学校に来る酔狂な輩はそう多くない。一年二年の活気と比べると、本当に静かなものだった。
よくわからないが私の周りにはそういう酔狂な奴ばかりだ。嬉しそうに合格を語ってぺたぺたひっついてくる奴とか、その保護者役の奴とか。
まったく。
午後になり、数学の先生に記述の解答の添削を受けているみゆきにエールを送り、私たちは下校する。
その帰り道、
「しかしかがみからメールこなかったら落ちてるってことだよね? なんという焦らし……」
「不吉なことを言うな」
「大丈夫だよこなちゃん。こなちゃんの祈りはきっと伝わっているよ」
「祈り?」
耳慣れない言葉に聞き返す。
「うん、入試日……だったかな? こなちゃん、8時くらいに家に来てね、初詣――というのカナ?――にきたんだよ。それで何しにきたの聞いてみると、『いやまあ、困ったときの神頼みというか、かがみ頼みというか……いやなんでもない。忘れて、今のは。まあ私ぃも、こんなことぐらいからしかできないからさ』っていいながら、『かがみが実力を発揮できますように……まあかがみだからまじめにやれば受かるだろうし常識的に考えて』って」
「ばっつかさ! 言わないでっていったのに」
はあ……やっぱりつかさはつかさか、と肩を落とす。
うっかり漏らしたつかさが「はぅ……ごめん」と胸の前で合掌した。
「あんた……私のために?」
「まあかがみが落ちると後味悪いしね。大して意味のない行為だと思うけど、やらないよりかはさ」
「そっか……あ、ありがとね」
「まあつかさほど熱心じゃないじゃないけど。ぶっちゃけつかさがあれだけやってれば私、無意味ですか?って感じだったし」
といいながらあの日のことを再現する。今度はつかさが呆然と「はう、それも秘密」という番だった。
ふと気づく。
てゆーか、つかさ、起きていたんだ。
……無理しちゃって。
その帰り道、
「しかしかがみからメールこなかったら落ちてるってことだよね? なんという焦らし……」
「不吉なことを言うな」
「大丈夫だよこなちゃん。こなちゃんの祈りはきっと伝わっているよ」
「祈り?」
耳慣れない言葉に聞き返す。
「うん、入試日……だったかな? こなちゃん、8時くらいに家に来てね、初詣――というのカナ?――にきたんだよ。それで何しにきたの聞いてみると、『いやまあ、困ったときの神頼みというか、かがみ頼みというか……いやなんでもない。忘れて、今のは。まあ私ぃも、こんなことぐらいからしかできないからさ』っていいながら、『かがみが実力を発揮できますように……まあかがみだからまじめにやれば受かるだろうし常識的に考えて』って」
「ばっつかさ! 言わないでっていったのに」
はあ……やっぱりつかさはつかさか、と肩を落とす。
うっかり漏らしたつかさが「はぅ……ごめん」と胸の前で合掌した。
「あんた……私のために?」
「まあかがみが落ちると後味悪いしね。大して意味のない行為だと思うけど、やらないよりかはさ」
「そっか……あ、ありがとね」
「まあつかさほど熱心じゃないじゃないけど。ぶっちゃけつかさがあれだけやってれば私、無意味ですか?って感じだったし」
といいながらあの日のことを再現する。今度はつかさが呆然と「はう、それも秘密」という番だった。
ふと気づく。
てゆーか、つかさ、起きていたんだ。
……無理しちゃって。
☆
今時の私立大学は電話で合否を知ることができる。東京大学の合格発表日はテレビなどでもよく取り沙汰になっている。その発表方法である伝統的な掲示板に依る大学も多いが、現地に赴かなくても特定電話番号をダイアルし、受験番号と生年月日を入力することでその場でわかるのだ。
大学によってはインターネットで知ることも可能である。
私の大学でもインターネット、携帯電話の発表と同時に大学内の掲示板に張り出される。
今頃は、私の受験した大学の掲示板の前では大騒ぎになっているのだろうか。一緒に受験した人みんな、受かってほしいと思う。だけど、受験は落としあいだ。
私が受かれば誰かが落ちる。逆もしかり。恨みっこ無しの真剣勝負だ。
私学として有名なw大学だと10倍を超える学部を珍しくない。私が第一志望にする学校はそこまでではないけど、勝利の美酒に酔える人は、6、7人に一人だけなのだ。
今時の私立大学は電話で合否を知ることができる。東京大学の合格発表日はテレビなどでもよく取り沙汰になっている。その発表方法である伝統的な掲示板に依る大学も多いが、現地に赴かなくても特定電話番号をダイアルし、受験番号と生年月日を入力することでその場でわかるのだ。
大学によってはインターネットで知ることも可能である。
私の大学でもインターネット、携帯電話の発表と同時に大学内の掲示板に張り出される。
今頃は、私の受験した大学の掲示板の前では大騒ぎになっているのだろうか。一緒に受験した人みんな、受かってほしいと思う。だけど、受験は落としあいだ。
私が受かれば誰かが落ちる。逆もしかり。恨みっこ無しの真剣勝負だ。
私学として有名なw大学だと10倍を超える学部を珍しくない。私が第一志望にする学校はそこまでではないけど、勝利の美酒に酔える人は、6、7人に一人だけなのだ。
携帯電話による発表は、味気ないといえば味気ない。
みゆきは国立を受けるといったから、その時にでも雰囲気を味わわせてもらおう。
1時から開始。家に帰ったときは、もう2時を回る時間帯だった。
だから、私はいつでもその結果を知ることができた。
高まる心臓の音を抑えて、じれったい黒電話をのダイアルを何度もまわすことによって。
逃げることもできる。明日までに入学手続き書類が送られてこなければ――。
やめよう。ネガティブになるのは。しばらく玄関で立ち尽くした後、受話器を取る。
すぐにガチャリと置いた。
まずは着替えよう。話はそれから――。
みゆきは国立を受けるといったから、その時にでも雰囲気を味わわせてもらおう。
1時から開始。家に帰ったときは、もう2時を回る時間帯だった。
だから、私はいつでもその結果を知ることができた。
高まる心臓の音を抑えて、じれったい黒電話をのダイアルを何度もまわすことによって。
逃げることもできる。明日までに入学手続き書類が送られてこなければ――。
やめよう。ネガティブになるのは。しばらく玄関で立ち尽くした後、受話器を取る。
すぐにガチャリと置いた。
まずは着替えよう。話はそれから――。
ブルブルブルブル。
携帯の着信音。予想だにしなかったことで、びくっと私は震えた。すぐに状況を理解し、「まったく、驚かさないでよ」と軽口を叩きながら携帯を開くと、メールがきていた。
携帯の着信音。予想だにしなかったことで、びくっと私は震えた。すぐに状況を理解し、「まったく、驚かさないでよ」と軽口を叩きながら携帯を開くと、メールがきていた。
date:2/29.14.17
message from こなた
re:お米!
「電話で調べたんだけど、かがみおめー!」
message from こなた
re:お米!
「電話で調べたんだけど、かがみおめー!」
「え?」
信じられず、もう一度ディスプレイを覗き込んでみる。どういう意味だろう? ”おめでとう”? ……それは、どういう意味だ? 合格という言葉があるわけではない。
冷静に考えろ。この場でこの意味といったら、ひとつしかないはずだ。
踵を返す。再び鞄から受験票を取り出す。受験番号は暗唱できると思う。心の中で想起した数字と、受験票に書かれている数字が正しいことを確認する。
じれったい。今日ほど家の電話がどこの家庭にもあるタイプだったら、と思ったことはない。携帯電話という選択肢を考えるほど心に余裕はなかった。
「こちらは受験案内です。合格番号の参照を希望される方は1を――」
信じられず、もう一度ディスプレイを覗き込んでみる。どういう意味だろう? ”おめでとう”? ……それは、どういう意味だ? 合格という言葉があるわけではない。
冷静に考えろ。この場でこの意味といったら、ひとつしかないはずだ。
踵を返す。再び鞄から受験票を取り出す。受験番号は暗唱できると思う。心の中で想起した数字と、受験票に書かれている数字が正しいことを確認する。
じれったい。今日ほど家の電話がどこの家庭にもあるタイプだったら、と思ったことはない。携帯電話という選択肢を考えるほど心に余裕はなかった。
「こちらは受験案内です。合格番号の参照を希望される方は1を――」
――確かに、告げていた。
黒電話はパルス式を採用しているせいか、結局黒電話には役割を果たしてもらうことはできなかった。
どうすればいいのか狼狽したが、携帯電話の存在を思い出し、受験票片手に取り出した。
学部学科コードを入力した後、参照番号(どこの大学も自分の誕生日だ)である0707の最後の7を押そうとして躊躇逡巡する。
これまでの入試から、この後深呼吸をする間など与えてくれないことを知っている。心構えをする前に、私の運命を決めてしまうのだ。
黒電話はパルス式を採用しているせいか、結局黒電話には役割を果たしてもらうことはできなかった。
どうすればいいのか狼狽したが、携帯電話の存在を思い出し、受験票片手に取り出した。
学部学科コードを入力した後、参照番号(どこの大学も自分の誕生日だ)である0707の最後の7を押そうとして躊躇逡巡する。
これまでの入試から、この後深呼吸をする間など与えてくれないことを知っている。心構えをする前に、私の運命を決めてしまうのだ。
そうして、告げた言葉。無機質な機械音が、むしろ諧謔を弄していた。
私は階段を一段飛ばしで駆け上がり、つかさの部屋に赴いた。ノックをして、つかさの「どうぞ」という声を聞くのも待ち遠しい。入るなり私は第一声を発する。
「つかさ、受かったよ! 私、受かった!」
私は階段を一段飛ばしで駆け上がり、つかさの部屋に赴いた。ノックをして、つかさの「どうぞ」という声を聞くのも待ち遠しい。入るなり私は第一声を発する。
「つかさ、受かったよ! 私、受かった!」
その日のことは、あまり覚えていない。
3日前と同じくらいの豪勢な食事に、「体重、死なないで」と日本語として怪しい言葉を吐きつつもせっせと口に運ぶ。お父さんはシャンパンを何本も用意していたらしく、私やつかさにまでそれを注ぐ。
「今日だけだよ」
と笑いながら。ただし、私たちは一杯飲んだだけで、後はほとんど姉さんやお母さん達のお腹に納まったから、ほとんど酔うということはなかった。
賑やかに談笑する家族に、感涙のせいか咽び泣くつかさ。
ちなみに、その後だ。気づいたことがあった。ごく少量のアルコールが、夢見たいな現実において私を冷静にさせる安定剤代わりになったらしい。
……私は、こなたに受験番号なんて教えていない。
3日前と同じくらいの豪勢な食事に、「体重、死なないで」と日本語として怪しい言葉を吐きつつもせっせと口に運ぶ。お父さんはシャンパンを何本も用意していたらしく、私やつかさにまでそれを注ぐ。
「今日だけだよ」
と笑いながら。ただし、私たちは一杯飲んだだけで、後はほとんど姉さんやお母さん達のお腹に納まったから、ほとんど酔うということはなかった。
賑やかに談笑する家族に、感涙のせいか咽び泣くつかさ。
ちなみに、その後だ。気づいたことがあった。ごく少量のアルコールが、夢見たいな現実において私を冷静にさせる安定剤代わりになったらしい。
……私は、こなたに受験番号なんて教えていない。
夕飯を食べ終え、自宅に放置した携帯を開くとまたメールが来ていた。誰からかは予想するまでもない。メールは2件。みゆきとこなたから。
みゆきの丁寧な祝福メールに「ありがとう」という趣旨のメールを返信し、こなたのを見た。
みゆきの丁寧な祝福メールに「ありがとう」という趣旨のメールを返信し、こなたのを見た。
date:2/29 18:14
messege from こなた
re:(=ω=.)
「いや~よかったよかった。あれで落ちてたら私どうなるかとさ。あーかがみ、実はさ、私見ていないんだ。てゆーか受験番号聞いていないからわからかったよ。てへ☆
まあかがみのことだから理由を知りたいだろうから、こうしてメールを送ったのだよ。あ○まんが大王だと『落ちた』というネタだったから私は『受かった』というネタにしようと。ただそれだけです。
ごめんなさい><』
messege from こなた
re:(=ω=.)
「いや~よかったよかった。あれで落ちてたら私どうなるかとさ。あーかがみ、実はさ、私見ていないんだ。てゆーか受験番号聞いていないからわからかったよ。てへ☆
まあかがみのことだから理由を知りたいだろうから、こうしてメールを送ったのだよ。あ○まんが大王だと『落ちた』というネタだったから私は『受かった』というネタにしようと。ただそれだけです。
ごめんなさい><』
……。
ひとつ言える事は。と前置きをし、私は苦笑しながらメールの文面を作成し、送信した。
「まったく、あんたって奴わね……遊園地にいったときは、覚えていなさいよ?」
ひとつ言える事は。と前置きをし、私は苦笑しながらメールの文面を作成し、送信した。
「まったく、あんたって奴わね……遊園地にいったときは、覚えていなさいよ?」
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- >名無しさん
ご指摘ありがとうございます。該当箇所、誤字訂正いたしますね。
>名無しさん
元ネタにもなっているあずまんが大王の英語版の台詞を元にしています。(I'm on there!)
一応名詞用法もあるみたいなので、翻訳者が名詞として英訳したのかもしれないです。
-- 42-519 (2009-03-05 02:31:58) - じれったい。今日ほど家の電話がどこの『過程』にもあるようなものであったらな
誤字が残っています、他の作者の本文は触らない事にしてますので作者さんか管理者の方訂正願います -- 名無しさん (2009-03-05 01:01:58) - you are thereじゃないのかな
-- 名無しさん (2009-03-04 23:15:16) - ↓禿同 -- 名無しさん (2008-11-25 07:39:31)
- いゃぁ...
こういうの好きです。
文面が丁寧で絵が浮かびます
(=ω=.) -- 名無しさん (2008-11-24 18:28:22)