乗り換えた糖武日洸線が思いの外空いていて座席に座る事ができたため、こなたはようやく人心地つくことができた。
秋葉腹の聖夜は他とは決定的に違った趣があるとはいえ、街を包むこの日独特の空気に変わりはなかった。
秋葉腹の聖夜は他とは決定的に違った趣があるとはいえ、街を包むこの日独特の空気に変わりはなかった。
ジングルベル ジングルベル
メリークリスマス メリークリスマス
メリークリスマス メリークリスマス
今日の佳き日を祝う呪文に満ちた街は、ややもすると息苦しい。キリスト教的ではないと喝破した(出来たかどうかは別問題として)クリスマスだが、まるで別の宗教の祈りの言葉のようである。これを「日本教」と呼んだ人もいたが、それもなんだかいまいちピンとこない。
ジングルベル ジングルベル
メリークリスマス メリークリスマス……
メリークリスマス メリークリスマス……
……日本を席捲したこの呪文も、さすがに電車の中にまでは進出しておらず、クリスマスを感じさせるものは吊広告と時折車窓から見えるデコレートされた民家くらいなものであり、そこに雪はない。
年に三回も雪が降れば、「今年はやけに降るな」と訝る土地柄である。関東平野も北寄りとなれば、1月から2月に南岸沿いに雪を降らせる台湾気団の影響も限定的で、三国峠が健在なおかげでシベリアの元粉雪(日本海を渡る際にぼた雪になる)もあまり降らない。
だから思うのだ。ホワイトクリスマスとは、自分の隣が空白という意味ではなかろうか、と。
そのホワイトクリスマスな男たちを前にしての歌のステージ。赤服で訥々と、雪を思わせる声でクリスマス・ソングを奏でる長門店員のバックで、温厚なつかささえ辟易とさせたテンションが炸裂した。それでも乱れることなく歌い終えた長門店員と共に一礼した時、客の誰かの呟きが耳に入ってきた。
年に三回も雪が降れば、「今年はやけに降るな」と訝る土地柄である。関東平野も北寄りとなれば、1月から2月に南岸沿いに雪を降らせる台湾気団の影響も限定的で、三国峠が健在なおかげでシベリアの元粉雪(日本海を渡る際にぼた雪になる)もあまり降らない。
だから思うのだ。ホワイトクリスマスとは、自分の隣が空白という意味ではなかろうか、と。
そのホワイトクリスマスな男たちを前にしての歌のステージ。赤服で訥々と、雪を思わせる声でクリスマス・ソングを奏でる長門店員のバックで、温厚なつかささえ辟易とさせたテンションが炸裂した。それでも乱れることなく歌い終えた長門店員と共に一礼した時、客の誰かの呟きが耳に入ってきた。
聖夜のイカれたお姫様……。
……この疲労感は虚脱感にも恍惚感にも似て、神と向き合うにはちょうど良いと思う。
帰ったらそうじろうに渡すつもりのプレゼントを押し退け、鞄から辞書のような装丁の本を取り出し、膝の上で開く。表紙、扉、目次を飛ばし、幕を開けた始まりの物語に身を投じる。原作を読んで、神と向き合う。
帰ったらそうじろうに渡すつもりのプレゼントを押し退け、鞄から辞書のような装丁の本を取り出し、膝の上で開く。表紙、扉、目次を飛ばし、幕を開けた始まりの物語に身を投じる。原作を読んで、神と向き合う。
……奇跡は聖夜の起きるのだろうか?
……それとも、聖夜が奇跡を起こすのだろうか?
不意に、こなたの横の空白が埋まった。
座席の隣の場所に他の乗客が座っただけなのであるが、その人の様子がおかしい。他にも空きはあるのにわざわざこなたの横に座り、その青年は何やらしきりに、隣に座った小さな女の子を気にしているようだった。
……あるいはそれとも?
「ア、アノ……」
半分期待し、半分警戒しながらページをめくろうとした時、果たせるかな。隣の青年が、たどたどしくも声にかけてきたのだ。
「はい……?」
その青年は髪こそ黒いが、日本人よりも深い彫りというか、奥行きがあるというか、あるいは鼻が長いともいうべき顔……がそこにあった。
「ソレ……」
青年はこなたが膝に広げていた本を指差し、もどかしげに問う。
「Bible……デスカ?」
気になったのは聖書の方だったようである。
ベタな展開である。こなたの頭に、ゴライアストリバネアゲハ(世界最大の蝶)でも止まっていれば、さぞかし前代未聞だったろうに……。
こなたは答える。
「原作です」
「ゲン……サク?」
青年はなおも聞きたそうにしていたが、やがて下車駅についてしまったようで、名残惜しげに降りていった。入れ替わりに、妙に既視感のある浅黒い肌の三人組が乗り込んできた。確証はないが、一日五回メッカの方向に祈りを捧げていたら、さぞ絵になりそうな感じの三人組である。
既視感の正体はすぐに判明した。この三人組、「ひ●っこりひょ●たん島」のオッサン、タクサン、ケッサンにそっくりだったのだ。たしか金を貯めて世界旅行を夢見ていた三人組である。……その最中なのだろうか?
「ぷぷ……」
吹き出しそうになる顔を聖書で隠す。
こなたは大して長くもない乗車時間中に聖書世界に戻る事ができたのだが、三人組もどうやらこなたを気にしているようだった。
……それとも、聖夜が奇跡を起こすのだろうか?
不意に、こなたの横の空白が埋まった。
座席の隣の場所に他の乗客が座っただけなのであるが、その人の様子がおかしい。他にも空きはあるのにわざわざこなたの横に座り、その青年は何やらしきりに、隣に座った小さな女の子を気にしているようだった。
……あるいはそれとも?
「ア、アノ……」
半分期待し、半分警戒しながらページをめくろうとした時、果たせるかな。隣の青年が、たどたどしくも声にかけてきたのだ。
「はい……?」
その青年は髪こそ黒いが、日本人よりも深い彫りというか、奥行きがあるというか、あるいは鼻が長いともいうべき顔……がそこにあった。
「ソレ……」
青年はこなたが膝に広げていた本を指差し、もどかしげに問う。
「Bible……デスカ?」
気になったのは聖書の方だったようである。
ベタな展開である。こなたの頭に、ゴライアストリバネアゲハ(世界最大の蝶)でも止まっていれば、さぞかし前代未聞だったろうに……。
こなたは答える。
「原作です」
「ゲン……サク?」
青年はなおも聞きたそうにしていたが、やがて下車駅についてしまったようで、名残惜しげに降りていった。入れ替わりに、妙に既視感のある浅黒い肌の三人組が乗り込んできた。確証はないが、一日五回メッカの方向に祈りを捧げていたら、さぞ絵になりそうな感じの三人組である。
既視感の正体はすぐに判明した。この三人組、「ひ●っこりひょ●たん島」のオッサン、タクサン、ケッサンにそっくりだったのだ。たしか金を貯めて世界旅行を夢見ていた三人組である。……その最中なのだろうか?
「ぷぷ……」
吹き出しそうになる顔を聖書で隠す。
こなたは大して長くもない乗車時間中に聖書世界に戻る事ができたのだが、三人組もどうやらこなたを気にしているようだった。
聖夜。
こなたは神の言葉と共に在った。
こなたは神の言葉と共に在った。
……のだが。
つづく