ある休日のこと。柊家を尋ねたこなたは呼び鈴を押したが、しばらく待っても反応が無かった。遊びに行くことは昨日のうちに伝えてあったから、留守というはずはない。
そう思い、もう一度呼び鈴を押そうとした瞬間、インターホンを通じてかがみの声が聞こえてきた。
『悪いこなた。今、手が放せないから勝手に上がってきて』
「りょーかい。おじゃましまーす」
そういうわけでこなたは勝手に上がらせて貰う。
居間に入ったこなたは、その場の光景を目にした途端、手に持っていた紙袋を落とした。
「か……かがみ、その子は……」
かがみは、0歳児と思われる赤ん坊を抱いていたのだ。
「あ、こなた。この子はね――」
「どうして……」
「?」
こなたは顔を俯かせ、わなわなと全身を震わせている。やがてガバッと顔を上げた。
「どうして何も言ってくれなかったんだ!?」
「は?」
「僕が認知しないとでも思ったのか!? 君一人で背負い込むなんて――」
「どういう設定の小芝居始めてんだよ!? あんたと私の子とか生物学的にありえねーだろ!」
「こうしちゃいられない。すぐに役所へ行って書類を用意してくる!」
「してくるなーっ!!」
そう思い、もう一度呼び鈴を押そうとした瞬間、インターホンを通じてかがみの声が聞こえてきた。
『悪いこなた。今、手が放せないから勝手に上がってきて』
「りょーかい。おじゃましまーす」
そういうわけでこなたは勝手に上がらせて貰う。
居間に入ったこなたは、その場の光景を目にした途端、手に持っていた紙袋を落とした。
「か……かがみ、その子は……」
かがみは、0歳児と思われる赤ん坊を抱いていたのだ。
「あ、こなた。この子はね――」
「どうして……」
「?」
こなたは顔を俯かせ、わなわなと全身を震わせている。やがてガバッと顔を上げた。
「どうして何も言ってくれなかったんだ!?」
「は?」
「僕が認知しないとでも思ったのか!? 君一人で背負い込むなんて――」
「どういう設定の小芝居始めてんだよ!? あんたと私の子とか生物学的にありえねーだろ!」
「こうしちゃいられない。すぐに役所へ行って書類を用意してくる!」
「してくるなーっ!!」
「お隣さんの?」
「そうよ。旦那さんが交通事故に遭ってね。命に別状は無いみたいなんだけど、色々大変で……今日一日だけ預かるよう頼まれたのよ」
「何だそういうことだったのか」
かがみに抱っこされた赤ん坊は、父親に訪れた災難も知らず、無邪気に笑っている。
黒目がちの無垢な瞳。ふわふわした髪の毛。つるつるの肌。見ていて自然に頬が緩んでしまう可愛らしさだ。
「てっきりあの夜の過ちがホニャラララかと思ったよ」
プニプニと赤ん坊の頬を軽く指で突きながら、こなたが冗談の続きを呟く。
「あんたとの過ちなんぞ一ミクロンも存在せんわ。……こんな日に限って私とつかさ以外留守でね。お母さんに電話しといたから、なるべく早く帰ってきてくれると思うけど」
「ふむふむ……かがみとつかさは半日ベビーシッターを任されたわけだ」
「そういうこと。こなたも手伝ってよ」
「うん、いいよ。頑張ろうね、かがみお父さん」
「私が父親役かよ!?」
「そりゃあ、こっちが母親役なら必然的に」
「何の必然だよ!?」
と、かがみがいつもの調子でこなたに突っ込みを入れた途端、赤ん坊がぐずりだした。
「ああっ……よしよし、良い子だから泣かないでねー」
慌ててあやすかがみ。
「かがみ、少しは突っ込みの勢いを押さえないと」
「分かってるならそっちも突っ込みたくなるようなこと言うな」
「ところでつかさは?」
「台所でミルク作ってるわ。一応、粉ミルクとか使い捨ておむつとか必要な物はこの子と一緒に渡されてたから」
そうこう話すうちに、ほ乳瓶にミルクを詰めたつかさがやってきた。
「あ、こなちゃんいらっしゃい。ごめんね、急にこんなことになってて」
「いやいや、これはこれで楽しいよ。一緒に子守りを頑張ろうじゃないか第二夫人」
「だいに?」
「さりげなく自分が第一夫人かよ、ずうずうしい……って、あくまで私が父親か! いやそれ以前に第一夫人、第二夫人とか日本の憲法に反して……ああもう何から突っ込めばいいんだか」
「今日ぐらい激しい突っ込みはお休みしたら? 赤ちゃんもいるんだし」
「それもそうね……つかさ、この子にミルクあげて」
「うん、わかった」
かがみから赤ん坊を受け取ったつかさは、ほ乳瓶を何度か振って温度を確認してから、乳首の部分を赤ん坊の口に持っていく。
「そういえばかがみ。この子、男の子? 女の子?」
「女の子よ」
「ふーん……」
お腹が空いていたのか、赤ん坊は一心にほ乳瓶を吸っている。その様子を見てこなたが一言。
「母乳はあげないの?」
「あげねーよ。そもそも出ないし」
「まあ、そうだよね。でもさ……」
こなたはふと言葉を止め、しばし考え込む。
「……みゆきさんって出そうじゃない?」
「……いや確かに出てもおかしくない気がしてしまうけどさ」
(みゆきさんの母乳プレイか……今度ひよりんに提案してみよう)
「また何かろくでもないこと考えてるな」
「お姉ちゃん、ミルク終わったよー」
「あ、はいはい。ちゃんとゲップした?」
「うん」
「で、次は?」
勢い込んでこなたが身を乗り出す。
「別に強いてすることはないわよ。ちゃんと見ててあげることぐらいね」
「何だ。結構暇なんだね」
「言うほど楽じゃないわよ。いつ泣き出すか分かったもんじゃ――」
「ふぇ……」
「げ」
言ってる傍からまたぐずりだしだ。
「お姉ちゃん、これはおむつかも」
「わ、分かったわ!」
つかさの素早い判断に従ってかがみがおむつの準備する。
「おお、何という姉妹連携プレイ……」
「感心してる暇があったらこなたも動く! ウェットティッシュとか用意して」
「ラジャー!」
その後こなたとかがみは、赤ん坊のお尻を拭くのに難儀したり、おむつの付け方がよく分からなかったり、とにかく散々手間取った。
まあ結局最後には、それらまとめて全部つかさがこなしてしまったのだが。
「どうやら育児スキルに関して、我々とつかさの間にはテレビのジャイアンと映画版ジャイアンぐらいの差があったようだね、かがみん……」
「いや、のび太と出来杉君ぐらいの差だろ……」
「ふ、二人ともそんなに落ち込まなくても」
フォローしようとするつかさの腕に抱かれて、赤ん坊はすやすやと眠っていた。
「何て言うか、こういうのは技術以前に人徳なのかな。お母さんっぽさっていうか」
「確かに、この中じゃ一番つかさが母性的よね」
「えーと、そうなのかな? 良く分かんないけど……」
ともかくミルクもおむつも済み、これでしばらくはゆっくりできる。
と思ったその時。
「ふ……ふぇぇぇ……」
不意に目を覚ました赤ん坊が、一気に泣き声を上げ始めた。
「ええっ? ど、どうしたんだろ。よしよし、泣かないでね~」
つかさが必死になってあやすも、赤ん坊は一向に泣き止む様子を見せない。こなたやかがみも頑張ってイナイナイ・バーとか定番をやってみるが、全く効果がない。
「ご飯もトイレも済ましてるのに、一体どうして……?」
「冷静に考え込んでる場合かこなた! どうにかしないと――」
「ただいまー」
「あ……」
救いの声が玄関の方から聞こえた。かがみ、つかさの母、柊みきだ。
「ごめんね遅くなって。あらあら、こんなに泣いて……」
居間にやってきたみきは、すぐにつかさから赤ん坊を受け取る。
「よしよし……」
小さな声で囁きながら、優しく抱っこした体を揺する。たったそれだけで、頑固に泣き続けていた赤ん坊が次第に静かになっていき、とうとう穏やかに寝息を立ててしまった。
「「「おお~」」」
素晴らしい手際というか光景に、三人が感嘆の声を上げた。
「こなたちゃん、手伝ってくれてたのね。どうもありがとう」
「いえいえ、大したこともできず」
「かがみもつかさもお疲れ様」
「うん」
「それじゃあ、後は私が見てるから。こなたちゃん、ゆっくりしていってね」
「そうよ。旦那さんが交通事故に遭ってね。命に別状は無いみたいなんだけど、色々大変で……今日一日だけ預かるよう頼まれたのよ」
「何だそういうことだったのか」
かがみに抱っこされた赤ん坊は、父親に訪れた災難も知らず、無邪気に笑っている。
黒目がちの無垢な瞳。ふわふわした髪の毛。つるつるの肌。見ていて自然に頬が緩んでしまう可愛らしさだ。
「てっきりあの夜の過ちがホニャラララかと思ったよ」
プニプニと赤ん坊の頬を軽く指で突きながら、こなたが冗談の続きを呟く。
「あんたとの過ちなんぞ一ミクロンも存在せんわ。……こんな日に限って私とつかさ以外留守でね。お母さんに電話しといたから、なるべく早く帰ってきてくれると思うけど」
「ふむふむ……かがみとつかさは半日ベビーシッターを任されたわけだ」
「そういうこと。こなたも手伝ってよ」
「うん、いいよ。頑張ろうね、かがみお父さん」
「私が父親役かよ!?」
「そりゃあ、こっちが母親役なら必然的に」
「何の必然だよ!?」
と、かがみがいつもの調子でこなたに突っ込みを入れた途端、赤ん坊がぐずりだした。
「ああっ……よしよし、良い子だから泣かないでねー」
慌ててあやすかがみ。
「かがみ、少しは突っ込みの勢いを押さえないと」
「分かってるならそっちも突っ込みたくなるようなこと言うな」
「ところでつかさは?」
「台所でミルク作ってるわ。一応、粉ミルクとか使い捨ておむつとか必要な物はこの子と一緒に渡されてたから」
そうこう話すうちに、ほ乳瓶にミルクを詰めたつかさがやってきた。
「あ、こなちゃんいらっしゃい。ごめんね、急にこんなことになってて」
「いやいや、これはこれで楽しいよ。一緒に子守りを頑張ろうじゃないか第二夫人」
「だいに?」
「さりげなく自分が第一夫人かよ、ずうずうしい……って、あくまで私が父親か! いやそれ以前に第一夫人、第二夫人とか日本の憲法に反して……ああもう何から突っ込めばいいんだか」
「今日ぐらい激しい突っ込みはお休みしたら? 赤ちゃんもいるんだし」
「それもそうね……つかさ、この子にミルクあげて」
「うん、わかった」
かがみから赤ん坊を受け取ったつかさは、ほ乳瓶を何度か振って温度を確認してから、乳首の部分を赤ん坊の口に持っていく。
「そういえばかがみ。この子、男の子? 女の子?」
「女の子よ」
「ふーん……」
お腹が空いていたのか、赤ん坊は一心にほ乳瓶を吸っている。その様子を見てこなたが一言。
「母乳はあげないの?」
「あげねーよ。そもそも出ないし」
「まあ、そうだよね。でもさ……」
こなたはふと言葉を止め、しばし考え込む。
「……みゆきさんって出そうじゃない?」
「……いや確かに出てもおかしくない気がしてしまうけどさ」
(みゆきさんの母乳プレイか……今度ひよりんに提案してみよう)
「また何かろくでもないこと考えてるな」
「お姉ちゃん、ミルク終わったよー」
「あ、はいはい。ちゃんとゲップした?」
「うん」
「で、次は?」
勢い込んでこなたが身を乗り出す。
「別に強いてすることはないわよ。ちゃんと見ててあげることぐらいね」
「何だ。結構暇なんだね」
「言うほど楽じゃないわよ。いつ泣き出すか分かったもんじゃ――」
「ふぇ……」
「げ」
言ってる傍からまたぐずりだしだ。
「お姉ちゃん、これはおむつかも」
「わ、分かったわ!」
つかさの素早い判断に従ってかがみがおむつの準備する。
「おお、何という姉妹連携プレイ……」
「感心してる暇があったらこなたも動く! ウェットティッシュとか用意して」
「ラジャー!」
その後こなたとかがみは、赤ん坊のお尻を拭くのに難儀したり、おむつの付け方がよく分からなかったり、とにかく散々手間取った。
まあ結局最後には、それらまとめて全部つかさがこなしてしまったのだが。
「どうやら育児スキルに関して、我々とつかさの間にはテレビのジャイアンと映画版ジャイアンぐらいの差があったようだね、かがみん……」
「いや、のび太と出来杉君ぐらいの差だろ……」
「ふ、二人ともそんなに落ち込まなくても」
フォローしようとするつかさの腕に抱かれて、赤ん坊はすやすやと眠っていた。
「何て言うか、こういうのは技術以前に人徳なのかな。お母さんっぽさっていうか」
「確かに、この中じゃ一番つかさが母性的よね」
「えーと、そうなのかな? 良く分かんないけど……」
ともかくミルクもおむつも済み、これでしばらくはゆっくりできる。
と思ったその時。
「ふ……ふぇぇぇ……」
不意に目を覚ました赤ん坊が、一気に泣き声を上げ始めた。
「ええっ? ど、どうしたんだろ。よしよし、泣かないでね~」
つかさが必死になってあやすも、赤ん坊は一向に泣き止む様子を見せない。こなたやかがみも頑張ってイナイナイ・バーとか定番をやってみるが、全く効果がない。
「ご飯もトイレも済ましてるのに、一体どうして……?」
「冷静に考え込んでる場合かこなた! どうにかしないと――」
「ただいまー」
「あ……」
救いの声が玄関の方から聞こえた。かがみ、つかさの母、柊みきだ。
「ごめんね遅くなって。あらあら、こんなに泣いて……」
居間にやってきたみきは、すぐにつかさから赤ん坊を受け取る。
「よしよし……」
小さな声で囁きながら、優しく抱っこした体を揺する。たったそれだけで、頑固に泣き続けていた赤ん坊が次第に静かになっていき、とうとう穏やかに寝息を立ててしまった。
「「「おお~」」」
素晴らしい手際というか光景に、三人が感嘆の声を上げた。
「こなたちゃん、手伝ってくれてたのね。どうもありがとう」
「いえいえ、大したこともできず」
「かがみもつかさもお疲れ様」
「うん」
「それじゃあ、後は私が見てるから。こなたちゃん、ゆっくりしていってね」
「あの、お母さん、ちょっと聞いていい?」
「ん? どうしたのつかさ」
「何でお母さんが抱っこしたらすぐ泣き止んだの?」
つかさの疑問はかがみ、こなたにとっても同じだった。特別なことを何一つせず、みきはあれだけぐずっていた赤ん坊を泣き止ませてしまったのだから。
「私達、ミルクもあげたばかりだし、おむつも替えたばかりで、その子が何で泣いてるか分からなかったんだけど……」
「うーん……きっと、お母さんが恋しかったんじゃないかしら?」
シンプルながら、今のみきが口にするとこれ以上ない説得力のある回答だった。三人ともなるほどと頷いてしまう。
「やはり四人の赤ちゃんを捌いてきた経験者は格が違いますねぇ」
「うふふ、まあね。特にかがみとつかさは手間のかかる子だったわ」
「ほほう、出来ればその辺について詳しく聞かせて頂きたく……」
「ちょ、ちょっとこなた!」
かがみが止めようとするが、みきとこなたはもうその場に腰を据えて昔話をする体勢になっていた。
「ん? どうしたのつかさ」
「何でお母さんが抱っこしたらすぐ泣き止んだの?」
つかさの疑問はかがみ、こなたにとっても同じだった。特別なことを何一つせず、みきはあれだけぐずっていた赤ん坊を泣き止ませてしまったのだから。
「私達、ミルクもあげたばかりだし、おむつも替えたばかりで、その子が何で泣いてるか分からなかったんだけど……」
「うーん……きっと、お母さんが恋しかったんじゃないかしら?」
シンプルながら、今のみきが口にするとこれ以上ない説得力のある回答だった。三人ともなるほどと頷いてしまう。
「やはり四人の赤ちゃんを捌いてきた経験者は格が違いますねぇ」
「うふふ、まあね。特にかがみとつかさは手間のかかる子だったわ」
「ほほう、出来ればその辺について詳しく聞かせて頂きたく……」
「ちょ、ちょっとこなた!」
かがみが止めようとするが、みきとこなたはもうその場に腰を据えて昔話をする体勢になっていた。
「今でこそかがみはしっかりお姉さんをやってるけど、赤ちゃんの頃はかがみの方がずっとたくさん泣いてたのよ」
「お、お母さん、そんなこと――」
「だってホントのことだもの。つかさにばかり構ってると、ヤキモチ焼いてすぐ泣きだすのよ」
「へぇ~……根っこの部分は今も変わってないかも」
「んなわけあるかーっ!」
赤面しながら、大本の話には突っ込まず(突っ込めず)こなたがボソリと呟いた一言に全力で突っ込むかがみだった。
「それからつかさね。すごく腕白な赤ちゃんで、いつも何をするか分からなかったのよ」
「そ、そうだったの……?」
「ハイハイが出来るようになってからはもう片時も目を離せなくて……うっかりしてたら、縁側から一人で外に出ようとしたこともあったわ」
「危なっ……それはある意味、つかさの天然ぶりの原点かも」
「それからね――」
みきはかがみとつかさの赤ん坊時代のお話を色々懐かしげに話していく。こなたにとっては非常に面白かったが、かがみとつかさにとっては非常に恥ずかしかった。
「お、お母さん、そんなこと――」
「だってホントのことだもの。つかさにばかり構ってると、ヤキモチ焼いてすぐ泣きだすのよ」
「へぇ~……根っこの部分は今も変わってないかも」
「んなわけあるかーっ!」
赤面しながら、大本の話には突っ込まず(突っ込めず)こなたがボソリと呟いた一言に全力で突っ込むかがみだった。
「それからつかさね。すごく腕白な赤ちゃんで、いつも何をするか分からなかったのよ」
「そ、そうだったの……?」
「ハイハイが出来るようになってからはもう片時も目を離せなくて……うっかりしてたら、縁側から一人で外に出ようとしたこともあったわ」
「危なっ……それはある意味、つかさの天然ぶりの原点かも」
「それからね――」
みきはかがみとつかさの赤ん坊時代のお話を色々懐かしげに話していく。こなたにとっては非常に面白かったが、かがみとつかさにとっては非常に恥ずかしかった。
「いやぁ、色々興味深いお話をどうもありがとうございました」
「どういたしまして」
「うう……こっちは全然ありがたくないわよ」
「自分が赤ちゃんの時の話って、何かすごく恥ずかしいよ……」
「二人とも。物心づく前の自分の思い出っていうのは、こういう機会でもないと聞けないものなのよ」
「それは分かるけどさ……」
揃って深々とため息をつくかがみとつかさだった。
「そういえばこなたの赤ん坊の頃って――」
どうだったのよ、言いかけて、かがみはハッと口を噤む。こなたのお母さんはこなたがまだ物心づく前に故人になっていたからだ。
しかしこなたは特に気にした様子もなかった。
「あー、そういえば私はそういう話全然聞いたことないなー」
「こなたちゃんのお母さんは、確か――」
「はい。私がまだ小さい頃に死んじゃってます」
「そう……それじゃあ、お父さんに聞かないといけないわね」
「……聞いた方がいいんでしょうか?」
「思い出は大切なものよ。それに、いつまでも聞けることじゃないからね」
みきの言葉は、しみじみとした響きを持ってこなたの胸に落ちた。
「うーん……それじゃあ、ちょっとお父さんに聞いてみよっかな」
「あ、聞いたらちゃんと私達にも教えなさいよ」
「う……何かこうなるとかがみ達には聞かせたくないような……」
「こなちゃん、それはずるいよー」
「そうよ。フェアじゃないわよ」
「わかったよぅ。それじゃあ今度かがみ達がうちに遊びに来た時に、お父さんに聞いてみよ」
渋々頷いたこなたは、苦々しいような気恥ずかしいような、複雑な表情だった。
その時、
「ぅ……ふぇぇぇ……」
みきの腕に抱かれていた赤ん坊が、またぐずりだした。
「よしよし……」
優しく赤ん坊をあやすみきの横顔を見ながら、こなたはふと、覚えてはいないはずの母の声を耳にした気がした。
「どういたしまして」
「うう……こっちは全然ありがたくないわよ」
「自分が赤ちゃんの時の話って、何かすごく恥ずかしいよ……」
「二人とも。物心づく前の自分の思い出っていうのは、こういう機会でもないと聞けないものなのよ」
「それは分かるけどさ……」
揃って深々とため息をつくかがみとつかさだった。
「そういえばこなたの赤ん坊の頃って――」
どうだったのよ、言いかけて、かがみはハッと口を噤む。こなたのお母さんはこなたがまだ物心づく前に故人になっていたからだ。
しかしこなたは特に気にした様子もなかった。
「あー、そういえば私はそういう話全然聞いたことないなー」
「こなたちゃんのお母さんは、確か――」
「はい。私がまだ小さい頃に死んじゃってます」
「そう……それじゃあ、お父さんに聞かないといけないわね」
「……聞いた方がいいんでしょうか?」
「思い出は大切なものよ。それに、いつまでも聞けることじゃないからね」
みきの言葉は、しみじみとした響きを持ってこなたの胸に落ちた。
「うーん……それじゃあ、ちょっとお父さんに聞いてみよっかな」
「あ、聞いたらちゃんと私達にも教えなさいよ」
「う……何かこうなるとかがみ達には聞かせたくないような……」
「こなちゃん、それはずるいよー」
「そうよ。フェアじゃないわよ」
「わかったよぅ。それじゃあ今度かがみ達がうちに遊びに来た時に、お父さんに聞いてみよ」
渋々頷いたこなたは、苦々しいような気恥ずかしいような、複雑な表情だった。
その時、
「ぅ……ふぇぇぇ……」
みきの腕に抱かれていた赤ん坊が、またぐずりだした。
「よしよし……」
優しく赤ん坊をあやすみきの横顔を見ながら、こなたはふと、覚えてはいないはずの母の声を耳にした気がした。
おわり