「ごほっ、ごほっ」
咳をしても一人。そんな俳句があったっけ。国語の授業で習った気がする。
咳をしたときに、孤独を実感する。確かに、私もそういうことが何度もあった。でも、
いま私は一人じゃない。この家にはお父さんもお母さんもゆいお姉ちゃんもいるから。
「はぁ」
なんで私の身体はこんなにも弱いんだろう。今日も一日中、このベッドで寝ていた
だけだった。六月はじめじめしてて、いつもより寝汗をかいた私の布団は、いつもより
ちょっと居心地が悪い。
もう夜、いつもなら寝る時間だけど、昼間から寝ていたせいでまだそれほど眠くない。
布団をはいで、冷えすぎないくらいに少しだけ身体を涼めてみる。そのまま目をつぶって
雨の音に聞き入っていると、いい感じに眠気が訪れてきてくれた。
また布団をかぶって眠ろうとすると、またちょっと暑くなって寝苦しい。帯に短したすきに
長し。なんかうまくいかない。
「はぁ」
眠れない理由がそれだけじゃないことはわかってる。私の体調と、この天気。
私の身体が弱いのはいつものこと。雨が降るのは梅雨時だから悪くない。
それでも、よりによってこんな日になることないのに。
でも、それって私が悪いんだよね、きっと。
「ごめんね、お姉ちゃん……」
せっかく明日は……明日は、お姉ちゃんの結婚式の日なのに。
咳をしても一人。そんな俳句があったっけ。国語の授業で習った気がする。
咳をしたときに、孤独を実感する。確かに、私もそういうことが何度もあった。でも、
いま私は一人じゃない。この家にはお父さんもお母さんもゆいお姉ちゃんもいるから。
「はぁ」
なんで私の身体はこんなにも弱いんだろう。今日も一日中、このベッドで寝ていた
だけだった。六月はじめじめしてて、いつもより寝汗をかいた私の布団は、いつもより
ちょっと居心地が悪い。
もう夜、いつもなら寝る時間だけど、昼間から寝ていたせいでまだそれほど眠くない。
布団をはいで、冷えすぎないくらいに少しだけ身体を涼めてみる。そのまま目をつぶって
雨の音に聞き入っていると、いい感じに眠気が訪れてきてくれた。
また布団をかぶって眠ろうとすると、またちょっと暑くなって寝苦しい。帯に短したすきに
長し。なんかうまくいかない。
「はぁ」
眠れない理由がそれだけじゃないことはわかってる。私の体調と、この天気。
私の身体が弱いのはいつものこと。雨が降るのは梅雨時だから悪くない。
それでも、よりによってこんな日になることないのに。
でも、それって私が悪いんだよね、きっと。
「ごめんね、お姉ちゃん……」
せっかく明日は……明日は、お姉ちゃんの結婚式の日なのに。
「ゆたか、起きてるー?」
そっとドアが開いて、入ってきたのはゆいお姉ちゃんだった。今は眼鏡をしてないけど。
「お姉ちゃん……だめだよ、風邪がうつっちゃう」
でもお姉ちゃんはそんなことを全然気にしてないみたい。
「大丈夫大丈夫、お姉さんは元気の子だからね」
よくわからないけど、お姉ちゃんなら確かに大丈夫なんだろう。
「でも万が一にも風邪ひいちゃダメなんだよ、お姉ちゃんは」
「じゃあ風邪ひかないように早く寝よっか」
「え?」
言うが早いか、お姉ちゃんはいきなり私の布団に入ってきた。私のベッドに二人入る
のはちょっと狭くて、嫌でも密着しなくちゃいけなくなる。
「お姉ちゃん……?」
「大丈夫。明日には晴れてるしゆたかの体調も治ってるよ」
私の考えてること、わかってたんだ。
「お姉さんにまかせなさいっ」
「うん……」
お姉ちゃんになら。お姉ちゃんにまかせれば、きっとなんとかなる。
いつだってお姉ちゃんは私を助けてくれたんだから。
私が転べば手をとって立ち上がらせてくれた。
私が泣けば泣き止むまでそばにいてくれた。
私がいじめられたら必ず助けてくれた。
私が一緒にいて欲しいって言えば……
一緒にいて欲しいって言っても……
もう、お姉ちゃんは……
「ゆたか……ごめんね」
私、まだ何も言ってないよ。
「一緒にいてあげられなくて、ごめんね」
謝ることじゃないよ。お姉ちゃんはお嫁さんになるんだから。
「きよたかさんと一緒になるって決めたんだ」
そうだよ。お姉ちゃんは幸せにならなきゃ。
「悪いお姉ちゃんでごめんね」
「そんなことないよ。すっごく素敵なお姉ちゃんだよ」
私の言いたいことは、やっと私の口から出てくれた。
お姉ちゃんの指が、私の目尻の横をなぞった。その指はちょっとだけ濡れていた。
たぶん、それが私の本音。お姉ちゃんにはわかっちゃうんだ。
「ゆたかはわがまま言わない子だからね。それで私も甘えちゃってたんだ」
「そんな……」
「いくらゆたかにお願いされても結婚の取りやめなんてできないからね。せめて今日は
ゆたかと一緒にいさせてほしいなーって」
「いいの……?」
「ゆたかのためじゃなくて、私がゆたかと一緒にいたいんだよ」
「うん、ありがとう……」
結婚前の最後の夜を、私といたいって思ってくれる。お姉ちゃんも、私のことを
好きでいてくれてるんだ。
「ゆたかはいい子だね」
頭をなでなでしてもらって、それは嬉しいんだけど……。
「私はいい子じゃないよ……」
お姉ちゃんが幸せになろうっていうのに、私はそのことを……。
あ、また涙が……。
「そっか、そうだね」
急に頭を引き寄せられて、胸に抱きかかえられた。お姉ちゃんの胸、おっきいなぁ。
「ゆたか、何でもいいから本音を言ってみて」
お姉ちゃんの胸に埋もれたまま、お姉ちゃんに聞こえるかどうかわからないくらい
小さくつぶやく。
「お姉ちゃんとずっと一緒にいたかった」
「お姉ちゃんは私のものでいてほしかった」
「お姉ちゃんがいなくなったら寂しいよ」
お姉ちゃんの胸は、いますごく濡れているはずだった。
「でも、お姉ちゃんに幸せになってほしいのはほんとだよ」
「ありがと、ゆたか」
しっかり聞こえてたみたい。
「でも、私はいなくなるわけじゃないよ。これからもゆたかのお姉ちゃんだからね」
「うん……」
「ときどきここにも来るよ」
「うん」
「飲み代は私がおごっちゃうよ」
「それはちょっと……」
「ゆたかのものってわけにはいかないけど」
胸から離された。代わりに、お姉ちゃんの顔が近づいてきて……。
ちゅっ
「お、お姉ちゃん」
自分でも真っ赤になってるのがわかる。すごいドキドキしてる。
「ありゃ……もしかして初めてだった?」
「初めてだよっ! 私にそんな相手がいないことくらいわかるでしょ」
「え、お姉さんやっちゃったカナー」
軽い、軽いよお姉ちゃん!
「あ、その、なんかごめん」
「いいよ。一回だけでもしてもらえて嬉しかった」
これが嘘じゃない、本当に心の底から思ってることだって、伝わってるといいな。
きっとわかってもらえてるよね。お姉ちゃんなんだから。
「だから……やっぱりお姉ちゃんとられて悔しいな」
「いつか、ゆたかにも素敵な人が現れるよ」
「そうかな……」
「そうだよ」
お姉ちゃんが言ってるんだから、きっと本当なんだろう。
「私もゆたかには幸せになってもらいたいな。ゆたかみたいな良い子が幸せになれる
ようにお姉さんお仕事がんばっちゃうよー」
「うん」
やっぱりお姉ちゃんだ。お姉ちゃんが手を広げてくれたから、私はすがるように
抱きついた。
素敵な人っていうのがいつ現れるかわからないから、お姉ちゃんに甘えさせてもらおう。
今日くらいは、いいよね。
「ゆたか、おやすみ」
私はいつ泣き止んだのだろう。もうわからない。いろいろすっきりしたせいか、
眠気はすぐに訪れた。でも、眠る前にこれだけは言っておかなくっちゃ。
そっとドアが開いて、入ってきたのはゆいお姉ちゃんだった。今は眼鏡をしてないけど。
「お姉ちゃん……だめだよ、風邪がうつっちゃう」
でもお姉ちゃんはそんなことを全然気にしてないみたい。
「大丈夫大丈夫、お姉さんは元気の子だからね」
よくわからないけど、お姉ちゃんなら確かに大丈夫なんだろう。
「でも万が一にも風邪ひいちゃダメなんだよ、お姉ちゃんは」
「じゃあ風邪ひかないように早く寝よっか」
「え?」
言うが早いか、お姉ちゃんはいきなり私の布団に入ってきた。私のベッドに二人入る
のはちょっと狭くて、嫌でも密着しなくちゃいけなくなる。
「お姉ちゃん……?」
「大丈夫。明日には晴れてるしゆたかの体調も治ってるよ」
私の考えてること、わかってたんだ。
「お姉さんにまかせなさいっ」
「うん……」
お姉ちゃんになら。お姉ちゃんにまかせれば、きっとなんとかなる。
いつだってお姉ちゃんは私を助けてくれたんだから。
私が転べば手をとって立ち上がらせてくれた。
私が泣けば泣き止むまでそばにいてくれた。
私がいじめられたら必ず助けてくれた。
私が一緒にいて欲しいって言えば……
一緒にいて欲しいって言っても……
もう、お姉ちゃんは……
「ゆたか……ごめんね」
私、まだ何も言ってないよ。
「一緒にいてあげられなくて、ごめんね」
謝ることじゃないよ。お姉ちゃんはお嫁さんになるんだから。
「きよたかさんと一緒になるって決めたんだ」
そうだよ。お姉ちゃんは幸せにならなきゃ。
「悪いお姉ちゃんでごめんね」
「そんなことないよ。すっごく素敵なお姉ちゃんだよ」
私の言いたいことは、やっと私の口から出てくれた。
お姉ちゃんの指が、私の目尻の横をなぞった。その指はちょっとだけ濡れていた。
たぶん、それが私の本音。お姉ちゃんにはわかっちゃうんだ。
「ゆたかはわがまま言わない子だからね。それで私も甘えちゃってたんだ」
「そんな……」
「いくらゆたかにお願いされても結婚の取りやめなんてできないからね。せめて今日は
ゆたかと一緒にいさせてほしいなーって」
「いいの……?」
「ゆたかのためじゃなくて、私がゆたかと一緒にいたいんだよ」
「うん、ありがとう……」
結婚前の最後の夜を、私といたいって思ってくれる。お姉ちゃんも、私のことを
好きでいてくれてるんだ。
「ゆたかはいい子だね」
頭をなでなでしてもらって、それは嬉しいんだけど……。
「私はいい子じゃないよ……」
お姉ちゃんが幸せになろうっていうのに、私はそのことを……。
あ、また涙が……。
「そっか、そうだね」
急に頭を引き寄せられて、胸に抱きかかえられた。お姉ちゃんの胸、おっきいなぁ。
「ゆたか、何でもいいから本音を言ってみて」
お姉ちゃんの胸に埋もれたまま、お姉ちゃんに聞こえるかどうかわからないくらい
小さくつぶやく。
「お姉ちゃんとずっと一緒にいたかった」
「お姉ちゃんは私のものでいてほしかった」
「お姉ちゃんがいなくなったら寂しいよ」
お姉ちゃんの胸は、いますごく濡れているはずだった。
「でも、お姉ちゃんに幸せになってほしいのはほんとだよ」
「ありがと、ゆたか」
しっかり聞こえてたみたい。
「でも、私はいなくなるわけじゃないよ。これからもゆたかのお姉ちゃんだからね」
「うん……」
「ときどきここにも来るよ」
「うん」
「飲み代は私がおごっちゃうよ」
「それはちょっと……」
「ゆたかのものってわけにはいかないけど」
胸から離された。代わりに、お姉ちゃんの顔が近づいてきて……。
ちゅっ
「お、お姉ちゃん」
自分でも真っ赤になってるのがわかる。すごいドキドキしてる。
「ありゃ……もしかして初めてだった?」
「初めてだよっ! 私にそんな相手がいないことくらいわかるでしょ」
「え、お姉さんやっちゃったカナー」
軽い、軽いよお姉ちゃん!
「あ、その、なんかごめん」
「いいよ。一回だけでもしてもらえて嬉しかった」
これが嘘じゃない、本当に心の底から思ってることだって、伝わってるといいな。
きっとわかってもらえてるよね。お姉ちゃんなんだから。
「だから……やっぱりお姉ちゃんとられて悔しいな」
「いつか、ゆたかにも素敵な人が現れるよ」
「そうかな……」
「そうだよ」
お姉ちゃんが言ってるんだから、きっと本当なんだろう。
「私もゆたかには幸せになってもらいたいな。ゆたかみたいな良い子が幸せになれる
ようにお姉さんお仕事がんばっちゃうよー」
「うん」
やっぱりお姉ちゃんだ。お姉ちゃんが手を広げてくれたから、私はすがるように
抱きついた。
素敵な人っていうのがいつ現れるかわからないから、お姉ちゃんに甘えさせてもらおう。
今日くらいは、いいよね。
「ゆたか、おやすみ」
私はいつ泣き止んだのだろう。もうわからない。いろいろすっきりしたせいか、
眠気はすぐに訪れた。でも、眠る前にこれだけは言っておかなくっちゃ。
「お姉ちゃん、大好きだよ……幸せになってね」
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- そしてゆたかは高校入試の日、未来の伴侶と運命の出会いをするのであった☆ -- 名無しさん (2011-04-13 00:10:36)