kairakunoza @ ウィキ

逆転☆裁判Ⅴ

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「自分で探すのはいいけどねぇ……」
埼玉県内の某廃棄物処理場。
小神さんに話を聞いた翌日、裁判の前日。
普通の人はめったに立ち寄らないところに、私はいた。
田園地帯にある、高いフェンスに囲まれた場所。
山のように積み上げられた廃棄物の山。
ぐうっ、とこみ上げてくる吐き気を何とか嚥下する。
「実は焼却炉の調子が悪くてさ、しばらく野積みしてたんだが、処分されてなくてよかったよ」
そう、それが幸運だった。
白石くんが小神さんに渡す予定だったものの正体は分かった。
でも、捕まったときに持っていなかったという事は、列車内のどこかで落としているはず。
鉄道の遺失物は五日間の保存期間を置いて処分する。
でも、弁当なんかは腐敗する危険性があるので、速やかに処分してしまうケースが多いらしい。
あきらさんの話を聞いた翌朝一番に鉄道会社に問い合わせてみたものの、すでに処分されてしまった後。
ダメもとでゴミ処理を受け持っている会社に問い合わせてみたところ、
たまたま燃焼炉の故障で処理が間に合わず、野積みになっていたところで間にあったらしい。
白石くんの落し物、事件の重要参考品。それがこのどこかにあるはずなのだが……
「でも、本当にここから探すのかい?それを。お嬢ちゃんみたいな女の子には無理だと思うんだが……」
「お嬢ちゃんじゃないです……」
虚勢を張り、恐ろしい臭いの吹き出す魔窟に足を踏み入れる。
このどこかに、きっとあるはずだ。
この裁判の結果を左右する、重要な参考品が。


……とはいっても、その実際はかなりキツかった。
ゴミの山の中からそれらしきものを引っ張り出し、一つ一つチェックする。
中には結構紛らわしいものもあり、手にとってみないと分からないものもある。
もちろん、そこからは腐汁がしたたり……
「うひゃぁ!!」
私の服にかかったりするわけだ。
「ううっ、これ、結構お気に入りだったのに……」
さすがにここまで酷いとは思ってもみなかった。
今度やる時はジャージとゴム手袋は必須だね……二度とやりたくないけれど。
生ゴミの山は果てしなく多い。高校の運動場ぐらいもの広さに、いくつもゴミの山ができている。
廃棄された日、捨てた駅から考えてだいたいの位置は分かったけれども、それでもこの量は多すぎる。
ここから、一個の参考品を見つけられることができるのかな……
「うわっ、臭っ、何これ……」
入口の方から声がする。
うるさい、臭いのは充分分かってるから、いちいち口に出さなくてもいいって!!
でも、入口から聞こえてきた声は、どこかで聞き覚えのある声……
「じゃじゃーん、みんなのアイドル、小神あきら、参上です♪」
「小神さん!!」
入口のところでポーズを決めて立っている小神さん。
しかし、その服装はジャージにゴム手袋と非常に奇妙な格好だ。
そして、その後ろには、ずらっと並んだ男の人たち。
その男たちも似たり寄ったりな完全装備で身を固めている。
「助けに来たよ、かがみさん」
「こ、小神さん。後ろにいる人たちは……」
「私と白石くんのファン♪ 私が困っているってメールしたら、みんなすぐ集まってくれたの。ねーっ」
「「「ねーっ」」」
後ろでハモる奇妙な男たち、キモい、キモすぎる。
小神さんの後ろに並ぶのは、言っちゃ悪いがよくアキバで見かけるような典型的なオタクさんたちであった。
平日真昼間にこんなとこに来ているのは、仕事を休むほどの情熱なのか、単にニートなのか。
小神さんが一枚の紙を取り出す。それはスタジオでの撮影風景の写真の一部を、さらに引き伸ばしたもの。
そこに写っているのは、あきらさんの言っていたもの、私の探している参考品……
「みんな、お願い。これが見つからないと白石お兄さんが捕まっちゃってあきら困っちゃうの。みんな、頑張って探してくれる?」
「「「おーっ!!」」」
男たちは生ゴミの中にいっせいに突入し、漁り始める。
ひっくり返されるゴミの山。私一人でやっていたのがバカらしくなるぐらい手際よく進む。
「ほら、アンタも手伝いなさい?」
「は? へ、ええ……」
あっけにとられて呆然としていた。
そうだ、私もぼうっとしているわけにもいかない。
あきらさんが目の前に積まれたゴミの山と格闘を始める。
いつもだったら、こんな汚れ仕事など絶対やりたがらないはずのあきらさんが。
いつになく真剣な目つきで、絶対見逃さないぞという気迫が伝わってくる目で。
「な、何笑ってるのよ」
「いや、小神さんって、白石さんのこと好きなんだなって」
あっという間に小神さんの顔が真っ赤に染まる。
「な、そ、そういうわけじゃないんだから。あんなやつでも急に抜けられると困るっていうか、その……」
もじもじとしている小神さんはかわいらしい。
こなたの言っていたツンデレの意味が、少しだけ分かったような気がする。
「ほ、ほら、時間ないんだから、さっさと探す!!」
「はいっ♪」
相変わらずゴミの山は臭かったけれど、でも、さっきよりもずっと楽な気分で作業ができたのは、間違いない。


薄暗い部屋の中。私は椅子へともたれかかる。
まさか、かがみと法廷で戦う事になるとはね。
さいたま地方検察庁の一室。ずらりと並べられた証拠書類の真ん中に、私、泉こなたはいた。
単独で行動するしかない弁護士と比べ、検察はその組織力で圧倒的な証拠をそろえることができる。
そこが弁護士と検察の圧倒的な違い。
その組織力はずいぶんと役に立つ。いままでに私は何人もの痴漢犯罪を扱ってきた。
自分の思い通りに動いてくれる下っ端がいるかどうかで、これだけの差が出てくるとはね。
徹底的に犯罪の跡を調べ上げ、一分の隙も残さず相手を刑務所送りにする。
本当は死刑にでもしてやりたいぐらい。でも、それは司法が許してくれない。
それならせめて、一ヶ月でも長い懲役を相手に叩きつける。
それが、私みたいな被害者を、ひとりでも減らす事になるはずなのだから。
「……」
書類の山の中から一枚を取り出す。
被害者となった女子高生に関するデータ。
いままでに何度も痴漢の被害を提出し、何人もの男性を捕まえている。
ただ、そのデータには不審な点もいくつかある。
起訴猶予のものも含めた痴漢被害の数は異常なほど。月に一度以上被害にあっている。
次に、学校での素行。学校での素行もあまりよくなく、問題児として扱われているらしい。
そして、今までの痴漢被害の履歴。その供述のあいまいさ、矛盾の多さ。
事件で混乱していたため、と処理されているものが多いが、この量は……
「……」
首を振る。書類を破り捨て、ゴミ箱に放り込む。
こんな資料は要らない。私に必要なのは、あいつを有罪にする資料だけ。
でも、私の心にちくちくと刺さる、小さなトゲ。
「かがみ……」
高校生の頃と同じ、まっすぐな目と心を持ったかがみ。
私とは違って、心から被告の事を信じて私と戦うかがみ。
今までずっと、一人でも多くの人を刑務所に送り込むのが仕事だと思っていたのに、
「分からないよ、かがみ……」
呟きは誰にも聞かれずに、コンクリートの部屋の中で跳ね返って消えた。






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