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逆転☆裁判Ⅵ

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匿名ユーザー

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「ヤバイ、寝過ごした~っ」
厳粛なはずの裁判所の廊下に響き渡る私のどたばたとした足音。
昨日は深夜まで証拠に関する聞き込みをして、それからお風呂へ入って、
ちょっと仮眠をとろうとベッドで横になったのがまずかった。
気がつけば開廷二時間前。裁判所までの移動時間を考えるとまったく余裕などなかった。
まっすぐな廊下を駆け抜ける。法廷まであと少し……
「すみません、弁護側、ただいま到着しました!!」
バターンという扉の音は静かな法廷内に響き渡り、全員の視線がこっちを向く。
こんなときはどうすりゃいいんだろうね……
裁判長が厳粛に口を開く。
「法廷内ではお静かに。あと、何か臭いですよ」
あはははは、それは私の右手のビニール袋の中身に対して言ってくれ。


「弁護側……その物体は一体何者なのですか?」
物体とまで言われたか。
まあ、この腐った臭いを放つ強烈な物体をなんと表現していいのか分からないのは当然だけれども、
「これは、チキンカレーです」
と、私は堂々と言い放った。
法廷内にざわめきが広がる。いや、私だってこれがチキンカレーだと言い張るのは心苦しいんだけれども。
やけに太い水筒のような形をしたこれは、汁物などを暖かいまま運ぶ入れ物だ。
とうぜん、保温下では中身は素晴らしい具合に発酵し、すさまじい臭いをあげている。
「それで、こ、これが本件とどのような係わり合いがあるのか説明してください」
「これは事件当日、被告の乗っていた車両から発見された遺失物です。こちらに鉄道会社側の説明書類もあります」
クリアファイルから取り出した書類は、わざわざ駅長に頼んで書いてもらった証明書類だ。
発見された場所、日時についての詳細な情報を、これを見つけ出した駅員の話から聞き出して書いてある。
発見された日付は事件当日、そして発見された列車は白石くんの乗っていた列車の折り返しだ。
一部の隙もない証拠書類。疑えるものなら疑ってみて。
もっとも、この書類と引き換えに小神さんのサインが数枚飛んだんだけれども。
「事件当日、白石被告は当日ロケで会う予定だった小神あきらさんにチキンカレーを渡す予定でした。
 事件のドサクサの中、車内に置き忘れられたのがこのチキンカレーです」
「なるほど、それでこのチキンカレー……だった物体が彼のものであった証拠はあるのかね」
この入れ物の取っ手の部分を指差す。
「ここを見てください」
プラスチックでできたそこに、ナイフか何かで掘られたM.Sのイニシャル。
「このイニシャルは白石みのる本人のものである事を示しており……」
「異議あり!!」
法廷にこなたの声が響き渡る。
「このイニシャルだけでは白石みのる本人のものとは断定できません」
「検察官の言うとおりですが、弁護側は何か反証は?」
ふふ、そう来ると思った。でも、こちら側にはしっかりと見方が用意してある。
「裁判長。この件に関しまして証人がいますのて、ここにお連れしてもよろしいでしょうか?」
裁判長が頷く。係員に連れられてきたのはラジオや番組のスタッフ、そして……
「あ、あきら様?」
白石くんが素っ頓狂な声を上げる。そりゃ、久々の再会が裁判所だったなんてね。
しかも、いままで顔も見せようとしなかった小神さんが、証人席に座るなんて。
「小神あきらです。芸能関係の仕事をしています。その入れ物は撮影中にも何度も見かけましたし、
 撮影中のスナップにも何枚か写りこんでいます。イニシャルの傷の形からそれは白石みのる氏のものとして間違いないと思います」
後に続くスタッフも、異口同音で白石くんのものだと言っていた。
「ナイフでアルファベットを掘るのは簡単な事ではありません。ましてやまったく同じ形に掘れることはまずありません。
 この特徴的な字の形から、白石みのる本人のものと認めて間違いないのではないでしょうか?」
デジタルカメラの写真をプリントアウトしたものを取り出す。
ブログ用に携帯のカメラで取ったもの。画像が荒いけれども、これと同じ特徴的なイニシャルを映し出していた。
「なるほど、これなら本人のものと断定して間違いないですね。検察側は?」
「この件に関しては認めましょう。しかし、これが本件にどのように関係するというのですか?」
そう、それが今回最大の注目点だ。
「この入れ物と、そして写真を見比べてください。どちらも紐をつける部分が壊れています。
 つまり、これは肩にかけて使用する事ができません。取っ手を掴んで持ち運ぶしかありません。つまり……」
そう、白石くんの無実を証明できるとしたら、この一点のみ。
「白石くんは左手にこの入れ物を持っていた。つまり、左手は空いておらず、痴漢する事は不可能だったのです」
法廷内にざわめきが広まる。
この裁判始まって以来の、最大の、最高の弁護側の反撃。
「い、意義あり!!」
すぐに検察側からの意義が出る。
「被告人が必ずしもこれを手に持っていたとは限りません。床において犯行を行った可能性も……」
「意義あり、犯行当時の乗車率はかなりのものだったと調書にあります。
 床に置いていたらもみくちゃになり、手の届かないところまでいってしまう危険性があります。
 また、人にもまれるうちにフタが開いてしまう可能性もあります。被告人はそこまでのリスクを犯すでしょうか」
「しかし……」
検察側と弁護側の激しい意見の応酬。
ゴング寸前のボクシングのような、嵐のごときラッシュ。
お互い、一歩もひく事はできない。
白石くんの無実を晴らすためにも、私は一歩もひく事はできない!!


「……以上、弁護人の最終陳述を終わります」
ついに言い切った……
幾度もの意見の応酬を繰り広げ、ついに最終陳述を終えた。
立っているのもやっとでイスにへたり込む。
途中、休憩を挟みつつも何時間も討論。
あの位置でチキンカレーの入れ物を保持したまま痴漢ができるかという話だった。
混雑率、あの入れ物の形状、白石くんと被害者の位置、それぞれを総合すると白石くんが痴漢するのはほぼ不可能だ。
検察側も必死に手が触れられる方法を示そうとしていたものの、あの容器を持ちつつ痴漢するのは至難の技だ。
裁判の流れはこっちに傾いていると思う。
ただ、過去の判例を見ても痴漢冤罪は無罪になる確率が非常に低い。
少しでも犯罪を犯した可能性があれば罰せられる。疑わしきは罰せずのはずなのに……
今回、裁判長を完全に説得できたのか……不安はずっと心に残る。
「最後に被告人。何か言いたい事はありますかね」
そして、最後の被告人陳述。
裁判によっては被告人が罪に対する反省を述べて、情状酌量を狙ったりするのだけれど、
今回は完全にこちらは容疑を否認している。
特に新しい意見もなければ、新しい証拠も出ない。
適当な意見を述べればおしまいなのに、
白石くんは目を閉じ、大きく深呼吸をしてから喋り始めた。
「私はいろんな人に支えられているのに気づきました」
白石くんの最終陳述は、少し予想外の始まり方だった。
「かがみさん。あなたにはゴミの中から僕のジャーを探し出してもらって本当にありがとうございました。
 あなたがいなければ、私の心はずっと前に折れていました。
 わざわざ僕の弁護のために来てくださったあきら様、スタッフのみなさん。
 忙しいのに僕のためにここまで来てくださって、本当にありがとうございます
 そして、先ほど話を聞きましたが、ここに来れなかった、証拠探しに協力してくれたファンの皆さんにも感謝しています。
 何人もの人たちに支えられて、やっと僕は立っていられるんだなと実感しました」
白石くんは証人の人たちに向かって深々と頭を下げる。
それは、決してスマートな最終陳述ではなかったけれど、
「いままで僕を支えてくださった人たちのためにも、僕は絶対諦めません。自分は無実であると、主張します」
彼なりの、心のこもった最終陳述だった。
裁判長は目を閉じ、深く頷いた。
「よく分かりました。それでは休憩を挟みまして、午後、判決を下します」
裁判長の閉廷の言葉。
イスにもたれかかったまま、上を見上げて目を閉じる。
やるだけのことはやった。後は結果を待つだけ。


「かがみさん、本当にありがとうございます」
休憩時間の間、被告人室へ顔を出した私を見てすぐに、白石くんは頭を下げる。
「そんな、私は自分の仕事をしただけだし、それにまだ裁判は終わってないのよ」
まあ、後は結果を待つだけ。じたばたあがいても仕方がない。
人智尽くして天命を待つってところだ。
「そうそう、私がわざわざ出張ってきたんだから、これで有罪とかいったら容赦しないわよ」
ドアの方からの声。そこにいたのは小神さん。
「あ、あきら様~」
白石くんが涙を流しながら小神さんの元に駆け寄り……蹴っ飛ばされた。
おおう、見事な回し蹴りだ。
「ったく、気軽に駆け寄ってくるんじゃないわよ。捨てられた子犬のような目をして」
「だ、だって、あきら様に見捨てられたんじゃないかと心配で……」
あれだけ小神さんにいびられ、蹴っ飛ばされたりなのに、それでも白石くんは小神さんについていく。
ある意味、お似合いの二人だ。
「でも、これで有罪になったら承知しないんだからね。
 大体、あんたがさっさとカレーの事を思い出していればこんな事にならなかったのよ」
「あ、えっと……それは……」
あ、白石くんが困っている。
まあ、事件が起こったときは混乱しているし、忘れちゃうのも仕方ないといえば仕方ないけれど。
「まったく、アンタがいなくなったら……」
「え、な、なんすか?」
「う~、このバカ白石。アンタのためにまだ席を空けている番組もあるんだからってこと。
 これ以上の休暇は許さないってこと。じゃんじゃん仕事を入れるから覚悟しとく事ね」
「は、はいっ、この白石みのる、一生あきら様についていきます」
ううっ、この二人、見てて羨ましくなるほど仲がいいな。
それと、おーい、白石くん。遠まわしに告白している事に気づいているかい?
あとは判決を待つのみ。私たちにできることは、ただ白石くんの無罪を祈る事だけ……




「それでは、かんぱーい!!」
たくさんのグラスの音。
キンキンに冷えたビールをぐぅぅっと喉に流し込む。
くぅぅっ、この瞬間がたまらない。
「お姉ちゃん、オヤジくさいよ……」
つかさが呆れたような顔で笑っている。
周りには高校時代の懐かしい顔ぶれ。
その真ん中で笑っているのは、晴れて無罪放免となった白石くん。
「でも、よかったね~。白石くん。無罪になって」
「そうそう、私も頑張ったかいがあったわ」
つかさが新しいビールを注いでくれる。
ここはつかさの働いている小さなレストランだ。
調理学校を出たつかさは今ここで働いている。
将来自分の店を持つために頑張っている。
「かがみさん、つかささん。お久しぶりです」
「おーっす、みゆき。お久しぶり~」
みゆきも、今は小児科医として働いている。
近所の子供たちに優しい先生として評判のみゆき先生だったけれども、いまだに歯医者は怖いらしい。
そして、あと一人は……
「こなちゃん、遅いね」
そう、私はまだ、こなたのことをこの二人に話していない。
白石くんにも黙ってもらっている。
私たちが裁判で争った相手が、一体誰だったという事を……
「どうせあいつの事だから、遅れてくるんじゃない?」
そう口では言いつつも、内心ではすごくどきどきしている。
本当に来て欲しい相手、それはこなただったから。
みゆきとつかさが他の人たちの所へ行ってしまった後も、私は窓の外ボーっと眺めている。
まだ、こなたは来ない。
ま、うすうすそんな感じはしたんだけれどもね、と自分に言い聞かせる。
あんな事のあった後じゃ、こなただってきっと……
「うん?」
窓の外に目を凝らす。
建物の影から伸びる、青い、飛び出した毛。
ぴょいんぴょいんと動く毛は、そろそろと根元まで出てきて、またぴょいんっと元に戻ってしまう。
まったく、あいつったら……
以前と顔に笑みが出てくる。しっかりしているようで、こんなところは抜けてるんだから。
「あれ?お姉ちゃん、どこ行くの?」
つかさの声を背中に受けて、店を出る。
「ちょっと、こなたを迎えに行ってくるから」ってね。


こなたは羨ましそうに店を眺めている。
高校時代の友人たちが、楽しそうに騒いでいる店。
自分の手には届かないおもちゃを、それでも諦めきれない眼差しで眺める子供のように、こなたは立っていた。
後ろから足音を殺して忍び寄り……
「こ~なた」
「ひゃぅっ!! か、かがみ!! どうしてそこに?」
どうしてそこにって、店の裏口から出て、ずーっと遠回りしてきただけなんだけれどね。
こなたはしゅんとした表情になる。
気に病まないわけがない。私は、裁判で争った相手なんだから。
「あのさ、かがみ……って、ふ、ふひゃい~」
そんなこなたのほっぺたを掴んで、うにーっと伸ばしてやる。
餅のようによく伸びるほっぺた。
うーにうーに、ほれ、笑え~
「痛いよ、かがみ。急になにすんの!!」
そうやって怒るこなたは、さっきよりもずっと、高校時代に近くなった気がする。
「ほら、こなた」
こなたは差し出された手を見て、戸惑う。
「だ、だって、私あんなに酷い事したんだよ? 無理やり白石くんを犯罪者にしようと。だから……」
「あんたは悪くない」
私の言葉に、驚いたように視線を上げるこなた。
「あんたはあんたの正義を貫いただけ。お互い全力を尽くして、それで法の下の平等を作る。それが裁判でしょ」
法学部で、ロースクールで、そして弁護士としての下積み生活の中で、懸命に学び取ってきたもの。
お互いに被害者を、被告人を信じてそのために精一杯の議論を交わす。そこが法廷。
先輩弁護士にしばかれながらも、現場を積み重ねていった中でその事を学んでいった。
暗記に頼ってばっかのこなたは気づかなかっただろうけれど。
「それにね、まだ未解決の事件、残ってるでしょ?」
「え、何……」
「あんたが襲われた事件。まだ時効にはなっていないでしょ? あんたがその気なら、
 私は全力でそいつを追い詰める。クラスのみんなだって、協力してくれる」
一人の力は、きっと弱い。
けれども、みんなで協力すれば困難だって乗り越えられる。
私だって、こなたの力になる事ができる。
法の下で正義を貫く。それが弁護士なんだから。
「かがみ……」
こなたの目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「さぁ、行くわよ。みんなが待ってるんだから」
「うん」
こなたは私の手を取る。
二人は歩きはじめた。みんなが待っている場所へ。


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コメント:
  • かがみんは処女? -- 名無しさん (2009-04-17 00:42:39)
  • なんだ、作者はただの最高神か -- 名無しさん (2009-02-22 14:30:01)
  • 是非こなた編を -- 名無しさん (2009-02-12 22:40:56)



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