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なかよしプリンセス

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だれでも歓迎! 編集
「はろー、かがみん、つかさ。いやー、暑いね」
「こなちゃん、いらっしゃーい」
「待ってたわよ。さ、あがって」
「ういうい、おじゃましまーす」

 梅雨もそろそろ明けようかという初夏の、ある昼下がり。7月7日、柊 かがみ・つかさの誕生日の事。
 2人の誕生パーティを開きながら宿題を写させてもらおうと (決して宿題が第一目的ではない) 、泉 こなたは柊家にやってきた。
 課題や小物などの入った手提げ鞄と紙袋を手に、少し額に汗を浮かべながら、玄関に足を踏み入れる。
 靴を脱いでフローリングの床に上がると、こなたは小さな包みを2つ鞄から取り出して2人に手渡した。

「今日は2人に渡すものがあるんだ。はい、これ。誕生日おめでとー」
「ありがとう、こなちゃん。ここであけてもいい?」
「いいよん。感想きかせてね」
「もらっといてこう言うのもなんだけど、あんたの趣味に合わせて選んだんじゃないでしょうね」

 さっそく、こなたからもらったプレゼントの包みを開いていく2人。なんのかんのと言いながら、かがみも嬉しそうだ。
 ピンク色の可愛らしい小さな袋を丁寧に広げる。こなたはその様子をにこにこしながら見ていた。

「わーっ、かわいい! これ、ブローチ?」
「そだよ。今日のつかさの服の色にも合いそうだね。つけてみたら?」
「いいの? じゃ、つけてみるね」

 つかさにプレゼントされたのは、羽根を広げたトンボのブローチだった。
 手のひらにちょうど収まるサイズで、デフォルメされた目が可愛い。透き通った水色が、オレンジのワンピースによく映える。
 にっこりとした顔で2人に向き直り、胸のブローチを見せる。つかさは気に入ってくれたようだ。

「これ、大事にするね」
「そう言ってもらえると、選んだ私も嬉しいよ」
「ほほう、あんたはその嬉しさを、このプレゼントでも得ようとしてたのね」

 かがみが多少ひきつった顔をしながら目の高さまで上げた、それは――ハンマーだった。
 打ち出の小槌みたく派手な装飾がある訳でもなく、木を型どおりに削っただけの質素なつくり。つかさのブローチより、ひと回り大きい程度。
 叩く部分には、黒々と [1t] の文字が焼き印で書かれていた。まごう事なき、1tハンマー。   ・・ゼロが2つ足りないのは、小ささ故か。

「・・こなた、これ何?」
「暴漢も撃退できるしトラップも何のそのの万能ハンマー! 今日からキミもメシスタントだ!」
「さっぱり分からん」
「んー、かがみならぴったりだと思ったんだけどなー」
「どういう意味よ! あんたはこのハンマーの最初の犠牲者だ!」

 そういうとかがみは、ハンマーの柄の部分を持って、こなたの額をポコッと叩いた。なぜか、つかさも叩かれた。
 なんで~? といった表情でぽかんとしているつかさに、少し不満げに膨れるかがみ、そのノリGJ! と言わんばかりににやっとするこなた。
 ―顔を見合わせて3人が笑いあう。かがみがこれを気に入ったかどうかは分からないが、楽しんでくれているので結果オーライだろう。


「とりあえず、向こうの部屋に行きましょう。いつまでも玄関先で立ち話もなんだしね」
「あーっと、プレゼントはこれだけではないのだよ。もうひとつあるんだ、特大のが」

 こなたはそう言うと、持っていた紙袋から何かを取り出した。
 ・・割と大きめで、どことなく懐かしさのただよう1冊の本。見た目は、少し小さい子向けの絵本といったところか。
 表紙には、小さなお姫様が、2人仲良く正面を向いて笑っている可愛い絵が描かれていた。

「こなちゃん、この本は何?」
「これが、もうひとつのプレゼント。ゆーちゃんからの、手作りプレゼントだよ」

 ゆーちゃんというのは、こなたの従妹で今年から陵桜学園高校に通っている女の子、小早川 ゆたかの事だ。
 かがみとつかさの誕生日プレゼントにと、絵本を描いてくれたのである。

「これ、ゆたかちゃんが作ったの!? すごい、よく出来てるわね」
「絵もとっても可愛いね。この本、私たちに?」
「当たり前じゃん、2人の誕生日なんだから。私にすら読ませてくれなかった超レアものだよ」
「ゆたかちゃん、どうもありがとう。   うふふ、こなたのプレゼントより、よっぽど嬉しいかも」
「お、お姉ちゃん、それはちょっとひどい・・」
「冗談よ。先に居間に行ってて、ジュース取ってくるから。折角だから、3人で読みましょ。こなたも、読んでいないって言ってる事だし」

 そう言うと、かがみは台所に向かっていった。こなたはつかさに案内されて居間へ。他の家族は、朝から留守らしい。
 部屋の戸を開けると、扇風機の涼しい風。少し火照った体に、なんともいえない爽快感が溢れる。
 適当にその辺に腰かけ、本をテーブルの上に置く。すぐにかがみが、お盆にジュースとコップを乗せて部屋に入ってきた。

「お待たせ。つかさ、スポンジ生地、見てなくても平気?」
「時間は合わせてあるし、少し弱めに温度も設定してるから大丈夫だよ」
「なになに、何か作ってるの?」
「つかさと2人でケーキをね。今生地を焼いてるから、あとはクリームとトッピングをあしらって完成。食べていって」
「かがみんお手製ケーキ・・イベントアイテムゲット!」
「イベントゆーな。焼きあがるまで15分くらいだったから、この本を読みながら待てばいいんじゃない?」
「うん、たぶん丁度いい時間だと思うよ」
「では、ゆーちゃんの力作、初披露でござい」

 扇風機の羽根の回る音だけが部屋に響く。かがみの持ってきたジュースは、早くも水滴を垂らし始めている。
 3人は肩を並べて座り、本の表紙に揃って手をかけた。


☆☆


 ―とおい国につたわる、ずっとむかしのお話。



 名前も分からないほどの小さなおしろに、とても小さなふたりのおひめさまがいました。
 かがみひめと、つかさひめ。ふたりはすごくなかよしで、どこに行くにも、何をするにも、いつもいっしょでした。

 どんなときでも明るく元気な、かがみひめ。だれにでもやさしい、つかさひめ。
 おしろの人たちからもかわいがられており、ふたりはまい日たのしくくらしていました。


 よくはれた、あついなつの日。ふたりは、中にわで花をつんでいました。
 きいろの花に白いろの花。たくさんつんで花かざりにするようです。手にもっているかごには、もういっぱい入っていました。

「おねえちゃーん、こんなにとれたよー」
「ほんとだ、たくさんつんだね! もうちょっとつんだら、お休みしよう」
「うん! もっともっととってくるからね」

 そう言いながら、つかさひめはばしょをかえて花つみをはじめました。かがみひめは、そのようすをわらいながらながめています。
 ・・しゃがんだかっこうで、少しずつうしろに下がりながら花をつんでいるつかさひめ。足もとがちょっとあぶないかも。

 かがみひめは、 「つかさー、そうやって歩くとあぶないわよー」 と声をかけながら、つかさひめの方に歩いていきます。
 その声をきいて、 「だいじょうぶだよー」 とふりむくつかさひめ。でも、そのひょうしに足がもつれて・・

「あぶない!」

 かがみひめがあわてて手をのばしました。その手をきゅっとつかむつかさひめ。
 おかげで、ころばずにすみました。もしころんでいたら、きっとけがをしていたでしょう。

「おねえちゃん、ありがとー。ねえ、見て見て。こんなにたくさん―」
「ばか! あぶないでしょ!」

 大きな声をあげて、かがみひめはおこりました。でもつかさひめは、どうしておこられたのかが分かりません。

「きちんと立って、しっかりまわりを見ながら歩かないと、あぶないでしょ?」
「あ、あたし・・おねえちゃんがよろこぶから、いっぱいお花、とったんだよ・・」
「でも、あぶないことはダメ!」
「   ―ぇちゃんと、い、しょに、つくり・・かっ―」

 下をむいたまま、だんだん声がかすれていくつかさひめ。それを見て、かがみひめは、ちょっとおこりすぎたとおもいました。

「つかさ、ごめんね? でも、つかさがけがをしたらかわいそうだから、あたしは・・」
「すぐにおこるおねえちゃんなんか大きらい、大きらいだもん! うわああああああん!」

 もっていたかごをおとしたまま、おしろの中になきながら入っていくつかさひめ。
 足もとにちらばってしまった花を見つめたまま、かがみひめはずっとそのばしょに立っていました。



 つぎの日、ふたりはきのうまでのふたりではありませんでした。
 あさごはんをたべるときも、ちがう方をむいたまま。おえかきをするときも、となりどうしではありません。
 まい日のようにやっていたお人形さんあそびも、やめてしまいました。

 かがみひめも、さいしょはつかさひめに声をかけたりしていました。
 でも、つかさひめははなしをきこうともしません。とうとう、かがみひめも口をきこうとはしなくなりました。

「今日は、きのうのご本のつづきをよむから、つかさはだめだからね」
「おねえちゃんも、あたしのつみ木であそんじゃだめだからね」
『ふーんだ!』

 かおを合わせずにおひるごはんをたべたあとのこと。
 とうとうふたりは、あそぶときもじぶんたちのへやから出てこなくなってしまいました。
 ほっぺたをふくらませたまま、ふたりはへやに入っていきます。とびらが、パタンととじるおとがしました。


~かがみひめのおへや~

 本だなから、いっさつの本をえらんだかがみひめ。今日は、この本をよむことにしたようです。

(あたしはわるくないもん。つかさがかってにころびそうになっただけだもん・・)

 だまって、ひとりきりのへやで本をひらきます。1ページ、また1ページと、少しずつよんでいくかがみひめ。
 でも、はんぶんくらいまでよんだところで、かがみひめは手を止めてしまいました。

 ・・つかさひめの字で、 「ここから つづき」 と大きくかかれたしおり。まえにいっしょによんだときに、さしこまれたものです。

(【つづきがたのしみだね。いっしょによもうね】)
(つかさ・・)

 かがみひめは、ゆっくりと本をとじます。いっしょによもうとやくそくをしたのに、ひとりで先をよんではいけないとおもったのでしょう。

(あたしは、いけないおねえちゃんだな・・いもうとにけがをさせそうになって、おこっちゃって、やくそくもやぶりそうになっちゃった・・)


~つかさひめのおへや~

 ひろいへやで、つみ木を出してならべるつかさひめ。今日は、大きなおしろをつくるようです。

(おねえちゃんになんか、見せないもん。あたしだけのおしろ、つくるもん)

 四かくと三かくのかたちのつみ木をたくさんならべて、その上におなじくらいたくさんのながいつみ木をおいていきます。
 ひとつひとつかさねていって、もう少しでできあがるところまできたとき、つかさひめはこまってしまいました。

 やねにのせるつみ木がありません。下の方でつかってしまったようです。これではおしろはできあがりません。

(【ここはね、このながいのと四かくいのをいっしょにおくの。ほら、これがちがうところにつかえるでしょ】)
(おねえちゃん・・)

 つかさひめは、手にもっていたつみ木をおきます。かがみひめといっしょにつくらないと、このおしろはずっとこのままです。

(おねえちゃんは、何でもあたしにおしえてくれるのに。大きらいなんて言っちゃった・・)



 さっきとじたふたつのとびらが、いっしょにひらきます。しょんぼりしているかがみひめと、なきそうなかおのつかさひめ。

「つかさ、あの、その・・きのうは大きな声でおこったりして、ごめんね。たくさんお花、つんでくれたのにね」
「あ、えーと・・あたしも、おねえちゃん、ごめんなさい。大きらいなんて言って、ごめんなさい」

 ふたりのことばは、いっしょにしゃべったせいでかさなってしまいました。でも、ちゃんときこえていました。

「あたしは、気にしてないよ。・・それに、あたしがよばなかったら、つかさがころぶこともなかったかもしれないもん」
「ううん、あたしもだよ。あたしがあぶないことしなかったら、おねえちゃんはおこったりしなかったのに」

 また、いっしょにしゃべってしまいました。   ・・ふたりのかおは、もうわらっていました。

「つかさ、またお花つみにいこうか。いっしょにお花かざり、つくるんだったもんね」
「うん!」


 ―きのうのケンカも、すぐになかなおり。
 ふたりのちいさなおひめさまは、ずっとなかよく、いっしょにくらしました。   おしまい。

           ~お誕生日、おめでとうございます。  いつまでも、仲の良いおふたりでいてください。     小早川 ゆたか


☆☆


 ・・運ばれてきたジュースは、それぞれのコップに注がれてすぐに飲み干され、もう元の入れ物には残っていない。
 3人はひと言ずつじっくりと読み、たっぷりと時間をかけながらページをめくり、物語の余韻に浸りながら本を閉じた。

「―いいお話ね。ゆたかちゃん、ありがとう・・」
「すごく、よかったよ・・ぐずっ、ふえぇ」
「こっちのつかさも絵本のつかさも、泣き虫ね」
「だって~」

 つかさは途中からずっと目を潤ませていたみたいだ。かがみは笑いながら、こっそりと目じりを拭い、もう一度本の表紙に目を通した。
 大きな城の前で、こっちを見て笑っている2人。この小さなお姫様に自分たちを重ね合わせながら、かがみはゆっくりと本を紙袋にしまった。

最高のプレゼントだったわ。ゆたかちゃんにお礼言っておいてね、こな―」
「わたしはどこにいるんですかぁ~・・・・」
「ああ・・そういえばあんたは最後まで出てきませんでしたね」
「ゆーちゃん、2人が主役って言ってもお姉ちゃんくらいは出してよ~」
「くさらない、くさらない。ケーキ食べて元気出しな」

 オーブンからはいい香りがただよってくる。読み終わると同時に焼きあがったようだ。
 つかさはごしごしと目をこすり、ミトンをはめながらオーブンを開けに行った。  ・・こなたはようやく諦めたらしい。

「よし、気を取り直して私も手伝いますか。かがみんを放っておいたらケーキぐちゃぐちゃになりそう」
「失礼ね! つかさと一緒にやるんだし、あとはクリームを塗って果物を乗せるだけよ」
「そこはあれだよ、テーブルも顔もクリームまみれにして悪戦苦闘する新人パティシエ! 鼻の頭につけたホイップが萌えるねー」
「・・それはあんたがバイト先でやってやれ」
「お姉ちゃん、こなちゃん、手伝ってー」
『はいよー』


 カーテンの隙間から、外の熱気が差し込む。まだまだ日は高く、室温は真夏のそれといっても何ら違和感が無いほど。
 そんな中、冷房もつけずにあーでもないこーでもないと押し問答をする3人。むしろ、彼女たちによるイチゴの位置についての議論の方が暑い。
 梅雨も吹き飛ばしてしまいそうな、からっと晴れた土曜日の昼下がり。     ―夏は、すぐそこ。




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  • 冷房点けないとホイップ溶けちゃうよ~ -- 名無しさん (2011-04-13 02:28:23)
  • GJすぎる!! -- 名無しさん (2011-04-04 21:02:43)
  • これ・・・いい。すごくいい。ほのぼのの極致! -- 名無しさん (2011-03-15 23:28:05)

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