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秋空ふたり

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「なあ柊。ちょっといいか?」
 放課後。隣の教室に行こうとしていたかがみの背中を、みさおが呼び止めた。
「何?」
「えーと……その……」
 みさおは人差し指で頬を掻きながら、何か言い辛そうな様子だった。
「……あのさ、今日なんだけど、一緒に帰らないか?」
「別にいいけど、何で? 峰岸は?」
「あやのは今日は……用事があって」
「ふーん。一人で帰るのが寂しいの?」
「そ、そんなんじゃねえってば!」
 かがみが軽くからかうと、みさおは顔を赤くして反論した。
「分かった分かった。そんじゃ帰ろうか」
 B組の方に顔だけ出して、今日はみさおと帰ることをつかさ達に告げ、かがみはみさおと二人で校舎を出た。
「そういえば日下部、部活は?」
「もう十月だぜ? 三年生は夏で引退だよ」
「あ、そっか」
 季節は秋。残暑は過ぎ去り、木々の葉も黄色く色づいている。日が落ちるのも早くなってきた。見上げれば、淡い色をした秋空に、広く鰯雲が浮いている。
 アスファルトの落ち葉が、一歩あるくたびに乾いた音を立てた。
「秋って、何かこう……あれだよなぁ」
「あれじゃ分かんないわよ」
「分かるだろ何となく。こう、心の中が物足りないっていうか……夏に比べるとテンションが下がるっていうかさ」
「へぇ……日下部も結構、感傷的なとこあるんだ」
「わ、悪いかよ?」
「ああ、ごめん。悪気じゃないから」
「ったく……あやのも柊も、私を何だと思ってるんだよ……」
 みさおはふくれっ面になってブツクサ呟く。
「……日下部、峰岸と喧嘩でもした?」
「うんにゃ。いつも通りだよ」
「それにしては何か様子が変だけど?」
「……変かなぁ?」
「うん。変」
「そっか。変か……」
 みさおは顔を俯かせ、しばらく黙って道を歩き続ける。かがみもその横顔を見ながら黙って歩いている。
「柊」
 不意にみさおが足を止めた。
「急で悪いんだけど、ちょっと、聞きたいことがあるっていうか、相談事というか……」
「つまり話がしたいんでしょう? いいわよ。喫茶店でも入る?」
「いや……出来ればあんま人のいない所で」
 人のあまりいない所、といってもすぐにここと思い当たる場所は無い。仕方なく公園の、人気の少ない場所のベンチに二人並んで腰掛けることにした。
「ホイ、柊。あったかいのでよかったよな?」
「うん。サンキュ」
 かがみはみさおから缶の紅茶を受け取った。素手で持ち続けるには少し熱く、しばらく両手で転がす。
「それで、何の話?」
「うん……」
 みさおは缶ジュースを握ったまま、話をどう切り出そうか考えている様子だ。
「あのさ、柊。変なこと聞くけど……」
 数秒の間を置いて、みさおは一つ深呼吸した。
「柊って好きな人いるか?」
「はい?」
 目が点になるかがみ。まさかみさおからそっち方面の話とは、想定の範囲外もいい所だった。
「好きな人って、男子で?」
「うん」
 頷くみさおの表情に、冗談の気配は一切無い。真面目に聞いていた。ならばかがみは真面目に答えなくてはいけない。
「えっと、私は……今はそういう人いないけど」
「そっか……」
 心なしか、みさおはホッとしたように見えた。
「でも何でそんなこと聞くの?」
「うん……あやのに彼氏がいるのは知ってるよな」
「らしいわね」
「あやのはああいう性格だから、自分から惚気話なんてしたがらないだろ。だからその手の話をする時は、いつも私から聞き出してんだけど――」
「いや、無理に聞くなよ。プライベートな話だろ」
「別に無理矢理聞き出すとかはしてないから。……今日の昼もそういう話を聞いてたんだよ。どこでデートしたとか、どういう映画を見たとか、それぐらいのことだけどな」
 みさおは缶ジュースのプルタブを開け、一口飲む。少し寒かったのか「私もあったかいのにすりゃよかった」と小さく呟いていた。
「あやのからそういう話聞くときは、いつも野次馬根性で聞いてるけど……何となく……何となくだぜ? ちょっと羨ましいって思う気持ちもあったんだよ」
「ふむ……」
「でさ、今日の話の合間にちょっと言ってみたんだよ。私も彼氏作ろうかな、って」
「……それで、峰岸の反応は?」
「ものすげー驚かれた」
「だろうな」
「柊までそんなこと言うのかよ……」
 がっくり肩を落とすみさお。かがみが慌ててフォローする。
「ああいや、そういうんじゃなくて、今まであんたがそういう話することなかったでしょ?」
「そりゃそうだけどさ……私って、そんなに色恋の話が似合わないかな?」
「うーん……」
 かがみは腕組みをして考え込む。
 みさおは割と社交的なタイプだが、男勝りなキャラが災いしてか、確かにそういう浮いた話とは縁が薄い。正直に言えばその通り、似合わないかもしれない。
「似合わないっていうより、何かこう、普段のイメージとは合わないっていうか……」
「……それ、似合わないって意味だろ」
 遠回しな表現を試みたが失敗した。みさおは大きなため息をつく。
「ひょっとして日下部……自分のそういうとこ、気にしてた?」
「少し」
 と言うのは強がりだろう。小さな男の子みたいに分かり易い性格のみさおだが、それでも年頃の女の子なのだから。
「しょうがないとは思うけどな。昔はよく男と間違えられてたし」
「日下部の子供時代か……」
 腕白小僧を絵に描いたような姿が容易に想像できてしまう。
「柊はどう思う?」
「どうって?」
「私のそういう、男っぽい部分っていうか……」
 不安げに尋ねるその様子は、全く普段のみさおらしくなく、悄然としている。
「……どう思うも何も無いわよ。あんたらしくない」
「え?」
「そういう性質を含めて、日下部の自分らしさってもんなんだから。月並みな台詞だけど、日下部には日下部の良いところがあるんだから、そんなの気に病む必要なんて無いわよ」
「……ほんとーに月並みな台詞だな」
「わ、悪かったわね。……それから、日下部にだってちゃんと女の子として魅力的な部分はあるし、きっと需要はあるわよ」
「需要?」
「あ……」
 うっかりこなたみたいな表現をしてしまった。
「えっと……つまり、ありのままの日下部を好きになってくれる人がきっといるって話よ」
「そうかな?」
「そうよ。私が保証するわ」
「安請け合いだな」
「勝手でしょ」
 かがみは笑みを浮かべてそう言う。みさおもそれを見て、ようやくいつものように、八重歯を見せて笑った。
「……そうだな。悩んでもどうしようもないよな。私は私なんだから」
「そうそう。無理に変わろうとしたってろくなことにならないんだから」
「その台詞、何か実感籠もってるな。覚えがあんのか?」
「な、無いわよ別に! ただの一般論」
「ほんとかよー?」
「本当だってば!」
「ま、そういうことにしとくか。柊のお陰で、何か楽になったし」
「調子良いんだから……」
 かがみは苦笑して、薄暗くなってきた空を見上げる。遠くからカラスの鳴き声が響いていた。
「そういえば……」
 ふと思い出したように、かがみが視線をみさおに向けた。
「日下部には好きな人っているの?」
 人に聞いたのだから、聞かれても文句は言えまい。そう思い、かがみは問い掛けてみた。
「それは……」
「?」
 てっきりすぐ否定すると思いきや、言い淀むみさおに、かがみは「まさか?」と耳をそばだてる。
「うーん……」
「いるの? それとも誰か気になってるとか?」
「そうじゃなくて、その……」
 みさおは照れくさそうに頭を掻きながら、言った。
「そもそも人を好きになるってどんな感じなんだ?」
 かがみの肩がガクッと落ちる。
「ヲイヲイ……そんな段階かよ」
「し、仕方ないだろー! 分かんないものは分かんないんだから!」
「分かったから落ち着け」
「で、どうなんだよ? 好きになるってどういうのなんだ?」
「え、それは、その……」
 かがみだって同じ様に彼氏無しの身なのだから、具体的には分かりようがない。
「うーん……例えば、その人と一緒にいたい、もっと仲良くしたい、って強く思うようなものじゃない?」
「そういうもんなのか」
「ほとんど想像だけどね」
「ふーむ……」
 しばし腕組みして考え込んだみさおは、
「……あ」
 何か考えついたか、ポンと手を打った。
「それなら一人いるかも」
「えっ! マジで!?」
 驚いたのはかがみだ。思わず身を乗り出す。みさおはその鼻先に、ちょんと指を突きつけた。
「お前だよ、柊」
「へ……?」
 予想外の言葉に、かがみは目を白黒させる。
「出来ればもっと仲良くしたいと思ってる」
「そ、そういうのは好きとは違うでしょうが!」
「そうなのか?」
「そうなの! そもそも私もあんたも女だろうが」
「そういえばそうだな」
「やれやれ……」
 ため息をついて、かがみは飲みさしの紅茶を飲む。秋風に吹かれたせいか、だいぶ冷めていた。
「そろそろ行くか。暗くなるし」
「そうね」
 二人揃って空き缶をゴミ箱に放り、公園を後にする。
「なあ、柊」
「何?」
「実は今日、あやのデートなんだよ」
「へえ。用事ってそれか」
「あやのは途中まで一緒に帰ろうって言ってたけど、馬に蹴られて死にたくないからな」
「でもやっぱり寂しかったわけ?」
「ちょっとだけな」
「あら、素直ね」
「悪いかよ?」
「ううん。そっちの方が日下部らしい」
「褒められてないよな、それ」
「そうでもないわよ」
「そうか?」
「そうよ」
 見上げれば、いつの間にか夕暮れの時間だ。傾いた日が茜色に輝き、東の空からはぼんやり夕闇が立ち上っている。
「今日はありがとな、柊」
「どういたしまして」
「……あーあ。やっぱ秋って嫌だな。すぐ日が暮れてくるし」
「今からそんなんじゃ冬はどうすんのよ」
「冬とかもう、寒さのせいでそんなの気にしてられないじゃん」
「なんだそりゃ」
 黄昏れ時、二人は他愛もない話をしながら歩いていく。空には一番星が瞬いていた。


おわり




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  • うーん、今回二人にフラグは立たなかったかー。ちょっと残念 -- 名無しさん (2011-04-13 20:45:33)
  • みさお可愛いよ(つ´∀`)つ -- 名無しさん (2010-01-23 01:14:33)
  • 淡々と会話が流れていくのが
    心地いいですね -- 無垢無垢 (2008-12-17 03:48:08)
  • こういうほのぼの系、みさおらしくて好きです!! -- 名無しさん (2008-11-04 23:18:05)
  • たしかし↓ -- 名無しさん (2008-03-26 18:24:27)
  • みさおが自然で可愛すぎる -- 名無しさん (2008-02-07 22:04:30)

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