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彼方なる神酒

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学校が冬休みに入って数日が経ったある日
我が家にはこなたちゃんが遊びに来ていた。
かがみ曰く、今日は泊まっていくみたい。
ゲームでもしているのかしら?
扉の向こうからは賑やかな声が響いてくる。
私は娘達の仲の良さに笑みをこぼしつつ、
お盆を手に扉を開け、声をかけた。

「ふふふ……楽しそうね?お菓子とジュース、
 持ってきたわよ?」
「ありがと、お母さん」
「お母さん、言ってくれたら取りにいったのにぃ」

かがみとつかさにそれぞれジュースを手渡し、
お菓子の載ったお盆を床に置く。

それにしても、かがみの部屋…
随分漫画やゲームが増えたわねぇ…
最近は夜中にもアニメを見たりしてるみたいだし…
誰の影響かしら?

「はい、こなたちゃん」
「……どもです」

そして最後にこなたちゃんにジュースを渡す。
でも…どこか様子が変だ。
彼女は私と目を合わせようとせず、返事もどこか素気ない。

そういえば――と今までのことを思い出してみる。
こなたちゃんが家に来るのは珍しくないけれど、
私とは挨拶程度しか会話していないような気がする。
避けられているのだろうか?とも思うのだけど、
私にはその理由に心当たりがない。
そう思い始めると無性に話してみたくなるもので。

「今から夕ご飯作るんだけど…
 こなたちゃん、手伝ってくれないかしら?」
「え!?で、でも…」
「折角の機会なんだしいいじゃない、こなた?
 あんたにも柊家の味覚えてもらわないといけないんだし」

渋るこなたちゃんをかがみが説得…
してくれてるのはいいんだけど、
何か言い方が気になるのはお母さんだけかしら?


かがみ達にはお遣いにいってもらい、
私達は台所で二人並んで夕食の準備に取りかかる。
かがみやつかさに聞いてはいたけれど、
こうして横で見ると料理し慣れているのがよく分かる。
……かがみにも見習ってほしいわね。

私は調理をしながら、こなたちゃんに色々話しかけてみた。
彼女は一応答えてはくれるけれど、
やはりどこか距離を置かれているように感じる。

ならばこれならどうだろうか、と
私は冷蔵庫を開けて昨日作った肉じゃがを取り出す。
エサで釣る、というわけではないけれど、
話のきっかけぐらいにはなるかもしれない。
そう思って、温めたそれを彼女に食べてもらうことにした。

「どうかしら?こなたちゃん…
 ……こなたちゃん?」

何故かこなたちゃんの返答がない。
私は気になって彼女の顔を覗き込んだ。

「こなたちゃん…?…泣いて…るの?」
「う…あ…これ、は…」

そこには涙で崩れたこなたちゃんの顔。
何度も目元を拭ってはいるけれど、
彼女の涙はなかなか止まってくれない。
私が声をかけようとすると、
こなたちゃんは慌てて台所から逃げ出してしまった。

何がいけなかったのかしら…?
その理由はまだ分からなかったけれど、
今はそれを考えている場合じゃない。
私はこなたちゃんを追いかけて、階段を上った。


私が2階に上ると、
丁度彼女はかがみの部屋に駆け込んでいるところだった。
それを追って私も部屋に入ると、
彼女は目元を赤くしたまま、部屋の隅でしゃがみこんでいる。
そんな状態で酷かとも思ったのだけれど、
これだけは聞いておかなくてはいけない。
私はこなたちゃんの正面に向き合って座り、
さっきのことを尋ねる。

「どうしたの?こなたちゃん…
 私、何かいけないことしちゃったかしら?」

彼女はふるふると首を横に振ってそれに答える。
どういうことかしら?

「……さっきの肉じゃが…あんなの、今まで食べたことなかった…
 分かっちゃったんだ…あれが『お母さんの料理』なんだって…
 私が…絶対に味わうことのできない味なんだ、って…!」
「え…?」

また少し涙ぐみながら、こなたちゃんは言葉を搾り出す。

「私…お母さんいないから…
 お母さんの料理…食べたこと、ない…
 料理、頑張って上手くなったけど…
 でも…私がお母さんの味を真似することは…
 もう絶対に、できない…
 それなのにかがみやつかさは…
 いつもお母さんの料理食べられるんだ、
 って思ったら…私…ッ…!」

それで…泣いてしまったのね…
知らなかったとは言え、
悪いことしてしまったかしら…

「こなたちゃん…私のこと避けていたのは…
 もしかして…?」
「ごめんなさい…ごめん…なさい…!
 私…私、悪い子、なんだよぉ…
 かがみやつかさがお母さんのこと話すたびに…
 私と…比べちゃって…
 そんなこと思っちゃいけないって分かってるのに…
 みんなに嫉妬して…
 だからもしおばさんとお話したら…
 私、酷いこと言っちゃいそうで…怖くて…」

こなたちゃんの心の奥の暗い感情。
誰にも言えない…
おそらくはお父さんすら聞いていないだろうそれを、
私だけに話している。

「こなたちゃん…
 私には月並みなことしか言えないけれど…
 たとえ死んでしまっても…
 お母さんはきっといつもあなたを見守ってくれているわよ?
 だからそんなに…」

そんな彼女を何とか慰めようとするけれど、
娘達があまり相談してくることがなかったせいか、
どうにも上手く言葉が出てこない。

「本当に…そうなのかな…」
「え?」

私が言葉に詰まったところで、
こなたちゃんが俯きながらつぶやく。

「本当はお母さん…
 私のこと恨んでるんじゃないのかな…」
「……どうして…そんな風に思うの?」

母が娘を恨む…?
そんなこと…あるんだろうか。
自分も娘を持つ身として、
私にはどうにも信じがたかった。

「だって私…私…ッ!…


 お母さんを…殺しちゃったから…!」

「!!?」

こなたちゃんが、お母さんを…殺した…?
その発言は余りにも衝撃的すぎて。
私は何も言葉を発することができないでいた。

「お母さん…体弱くって…
 私産んだせいで…もっと体調崩して…
 それで…お母さん…
 命縮めちゃった、から…!」

そんな私をよそに、
こなたちゃんはヒステリー気味に叫ぶ。

「私産まなかったら…
 きっとお母さんもっと長生きできてたよ…!
 もしかしたら今だってお父さんと一緒に
 笑い合えてたかもしれないのに…!
 私なんか…私なんか産まれなければよかったんだ!」
「!」

その言葉に、さっきまでは置物のようだった体が反応する。
そして考える間もなく、無意識に手が振り上げられて…

パシン、と乾いた音…
その音がして初めて、私がこなたちゃんを叩いたのだと気付く。

「そんなこと…言うものじゃないわ」
「お、おば…さん?」
「お母さんがどんな思いで…
 あなたを産んだと思ってるの…?」

驚いたように私を見るこなたちゃん。
私はその目をまっすぐに見すえて、彼女を諭す。

「命を縮めると分かっていても、
 あなたを産みたかった…
 それ以上の理由が必要かしら?
 もちろん亡くなる時は辛かったでしょう…
 でもそれはお父さんと別れてしまうことだけじゃない…
 あなたを育ててあげられないこと、
 あなたの成長を見届けられないこと、
 あなたと一緒にいられないこと…
 それが一番の心残りじゃないかしら…?
 でも…それでもお母さんは絶対に…
 『あなたを産んでよかった』と思っているわ。
 だから…あなたがそんなことを言ってはダメ」

さっきとは違う。
すらすらと言葉が浮かぶ。
私はこなたちゃんのお母さんに会ったことはない。
でも、何故か今の私には自信を持って言い切れた。
まるで自分にこなたちゃんのお母さんが乗り移ったかのように。

「それにねこなたちゃん…?
 あなたは…お母さんの生きた証なのよ?」
「生きた…証?」
「そう…私はね…
 人というのは誰もが生きた証を残すために頑張っているんだと思う。
 もしこなたちゃんがいなければ、
 お母さんはお父さんの記憶の中だけの存在になってしまう…
 そしてそれも、いつかは消えてしまうことになる…
 それはとても悲しいことよ?
 たとえあなたが覚えていなくても…
 あなたが生きて、幸せに暮らし続ける限り、
 お母さんがこの世にいた証は消えない」

彼女のお母さんの気持ち。
そして私の気持ち。
こなたちゃんに幸せになってほしい…
その想いは同じだと信じて、私は言葉を繋ぐ。

「だからあなたも…生きた証を残しなさい、
 こなたちゃん?」
「私も…子供産め、ってこと?」

少し困ったような顔で、こなたちゃんが聞いてくる。
子供を産む自分が想像できないのかしら?

「生きた証っていうのは、
 何も子供を産むことだけじゃないのよ?
 人によっては名声かもしれないし、
 あるいは財産かもしれない。
 あなたがあなたなりの生きた証を残す…
 それがお母さんの想いに応える方法じゃないかしら?」

彼女に伝えたいことは全て言った。
こなたちゃんは俯きながら、また涙をこぼす。
でも、それはもうさっきのような自棄なものじゃない。

「…お母さん…お母さんは…私のこと…
 ごめんなさい…おかあ、さん…」
「こなたちゃん…」

泣きながら何度も謝る彼女の体を、
ぎゅっと抱きしめてあげる。
それをすることの叶わなかった、彼女のお母さんの分まで。
そのままぼんやりと外を眺める。
白いワンピースを着た女性が微笑んでいる―
そんな風に見えたのは、私の見間違いだったのだろうか。


10分ほど経っただろうか。
ようやく腕の中でこなたちゃんが泣き止む。

「おばさんにお願いがあるんだけど」

落ち着いたこなたちゃんの第一声はそれだった。
何かしら?

「おばさんのこと…
 おかーさんって呼んでもいい、かな?」
「え!?」

い、いきなり何を言い出すのこなたちゃん…!?
冗談かとも思ったけれど、こなたちゃんの目は真剣だ。

「で、でもこなたちゃんのお母さんに悪いわよ、そんなの…」
「あーそれなら大丈夫デスよ」

な、何が…?

「かがみんのお母さんなら私の『お義母さん』にもなるわけだし!」

その微妙なニュアンスの違い。
それが何を意味するか―

「こ、こな、た…ちゃん?あ、あなた…ま、まさか…」
「エヘヘ…」

混乱しながら尋ねる私が見た彼女の笑顔は、
何よりも事実を雄弁に語るもので。

「う、嘘でしょぉぉぉぉぉ!?」

次の瞬間、私の絶叫が柊家に響いていた。





Epilogue



その日の夕刻。
柊家全員と、こなたが食卓を囲む。
和やかな時間。
だが。
その静寂をぶち壊すかのような、
戦慄の一言がこなたの口から放たれる。



「おかーさん、おかわりー!」
『ぶふぅっ!!!!』
「ふふふ…はい、こなたちゃん」

当たり前のように応対するみきと、
イマイチ分かってないつかさを除く全員が一斉に噴いた。

(ど、どういうこと!?お母さんがこなたちゃんのお母さんででも私達のお母さんのはずでお母さんとこなたちゃんのお母さんが同じああ一体どうなって)

パニクる長女。

(まさかお母さん…浮気!
 いやーお父さん結構冴えないからなー…
 いつかはやっちゃうんじゃないかと常々)

何気に失礼なことを考える次女。

(まさか先を越された…!?
 くっ、かくなる上は何としてでも
 おじさんに私達の仲を認めさせないと…!)

妙な決意を固める三女。

(うんうん、あるよねー、
 私も中学生の時先生を『お母さん』って呼んじゃって~)

勝手に勘違いして納得する四女。

(俺も年かな、耳が遠くなってきた…
 うん、聞き間違いだ、聞き間違い…)

現時逃避する父。

(ふふっ、こなたちゃんったら可愛いわね…
 最近ウチの子甘えてくれないし…
 やっぱりお母さんってこうよねっ)

そして笑顔の母。


かくして晩餐は何やら気まずい雰囲気のまま進行し、
空気を読まないこなたはその後48回「おかーさん」と発言、
その度に周りの空気をさらに混沌とさせていくのであった。

なお、この翌日柊かがみは

「私はこなたと添い遂げる!」

…と宣言、そうじろうを18時間37分に渡り石化させるという事件を起こすのであるが、
それはまた別の話である。




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  • かがみの(別の話)を是非とも
    見たいです! -- チャムチロ (2012-08-28 21:10:53)
  • こういう百合を待っていました。周囲のリアクションって大事な要素ですね -- 名無しさん (2011-04-14 00:51:05)
  • いいです -- 名無しさん (2008-12-09 10:50:37)
  • オチのおちゃらけがあるから、前半のシリアス部分が活きて見えるのは俺だけ?
    GJな作品ごちそうさまでした -- にゃあ (2008-09-29 19:57:27)
  • みき母さんが素敵……なのですが、オチで苦笑い。ご馳走様でした。 -- 名無しさん (2008-09-28 18:11:02)
  • かがみ、グ○カスタムと戦ってるかのような発言w -- 名無しさん (2008-07-05 00:04:34)
  • 取り敢えず、一番おかしいのはかがみだと思うんだよね。

    だが、それがいい! -- 名無しさん (2008-06-11 02:47:10)
  • 父親、取りあえずファイト
    -- jio (2008-06-11 00:08:37)
  • ↓そんなことは無い…はず -- 名無しさん (2008-05-28 00:52:49)
  • 確かにさえない父親ですからねー... -- jio (2008-05-28 00:11:28)
  • この話、絵本にしたら売れるんじゃね?
    -- みみなし (2008-05-06 22:22:46)
  • 父現実逃避www -- 名無しさん (2008-05-06 20:50:30)
  • 18時間37分wwwwwwww -- ハルヒ@ (2008-05-06 07:18:38)
  • 超絶GJ!!!!かがみんの最後の台詞がなんか標語みたいで笑ったwww -- 名無しさん (2007-09-18 13:08:57)
  • スレの方でただおやみきの心境について意見を頂いたので、
    エピローグを若干改訂致しました。


    …さらにカオス化が進んだような気がします。
    -- 3-115 (2007-07-31 17:58:48)
  • 前半のシリアスな空気が台無しwww -- 名無しさん (2007-07-27 11:50:37)

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