寄せては返す、一定のリズムで繰り返す音。
お母さんのお腹にいたときのような、安心感。
ゆっくりと間延びした、私のものではない息遣い。
私を一人じゃないと安心させてくれる、穏やかな息。
ちらちらと視界に掠める白い光。
ゆっくりと目を開ける……
お母さんのお腹にいたときのような、安心感。
ゆっくりと間延びした、私のものではない息遣い。
私を一人じゃないと安心させてくれる、穏やかな息。
ちらちらと視界に掠める白い光。
ゆっくりと目を開ける……
視界に広がったのは、染みの広がった木の天井。
風を受けてゆっくりとはためく白いレースカーテン。
家の天井ほど見慣れたものじゃないけれど、何度も見かけた天井。
「そっか、私……」
ぼんやりとした記憶の中を辿る。
最後の記憶はたしか、お昼休みが終わって移動教室へ向かうとき。
今朝からちょっと体調の悪かった私。
階段を登りおえ、ふっと窓からの日差しに気づいたところで記憶が途切れている。
こうやって急に体調が悪くなって保健室に運び込まれるのも何度目になるだろう。
外では別のクラスが体育をやっている音が聞こえる。
楽しそうな歓声、陸上のピストルの音。私が体験する事のできない世界に、ちょっと嫉妬する。
そうだ、今、何時だろう。
また貧血が再発しないよう、ゆっくりと体を起こす。
くらっときた眩暈を額に指を当ててこらえ、時計に焦点を当てる。
時間は六限目の真っ最中。
このままじゃ二つも授業サボっちゃうな、とため息をつく。
病弱で、ただですら出席の危うい私。
少しでも授業に出ておかなきゃ、とベッドから降り、彼に気づいた。
風を受けてゆっくりとはためく白いレースカーテン。
家の天井ほど見慣れたものじゃないけれど、何度も見かけた天井。
「そっか、私……」
ぼんやりとした記憶の中を辿る。
最後の記憶はたしか、お昼休みが終わって移動教室へ向かうとき。
今朝からちょっと体調の悪かった私。
階段を登りおえ、ふっと窓からの日差しに気づいたところで記憶が途切れている。
こうやって急に体調が悪くなって保健室に運び込まれるのも何度目になるだろう。
外では別のクラスが体育をやっている音が聞こえる。
楽しそうな歓声、陸上のピストルの音。私が体験する事のできない世界に、ちょっと嫉妬する。
そうだ、今、何時だろう。
また貧血が再発しないよう、ゆっくりと体を起こす。
くらっときた眩暈を額に指を当ててこらえ、時計に焦点を当てる。
時間は六限目の真っ最中。
このままじゃ二つも授業サボっちゃうな、とため息をつく。
病弱で、ただですら出席の危うい私。
少しでも授業に出ておかなきゃ、とベッドから降り、彼に気づいた。
ベッド脇の椅子に座り、温かくなり始めた春の日差しを浴びて、彼は眠っている。
いつも自分勝手で、天真爛漫に笑っている彼。
そんな彼の、子供っぽい、あどけない寝顔。
「そう君……」
彼の肩を揺する。
気持ちよさそうに眠っているのを起こすのは忍びないけれど、
「そう君、授業始まっているよ。起きないと怒られちゃうよ」
そう君の体がびくっと震える。私は思わず彼の肩から手を離す。
彼はびしっと直立不動で立ち上がり、
「ね、寝てません!! ちゃんと聞いてました!!」
……
ごめん、耐えられない……
私はお腹を抱えて笑い出す。
「あ、あれ? かなた、ここって……」
「もうっ、そう君。おかしすぎ……」
そう君は辺りをきょろきょろと見回して、やっと事態が飲み込めたみたい。
私も笑いすぎて乱れた呼吸を整える。
「そう君ったら、何で私と一緒になって寝てるの?」
「いや、せっかく授業サボれるいい機会だったから……」
そういえば、今やっている現国の授業、そう君は大嫌いだっけ。
毎回小説を読むとすごく突飛な解釈をするそう君と現国の先生は、結構仲が悪いみたい。
型破りな考え方をするそう君の読み方、私は嫌いじゃないんだけれど。
「ほら、ちゃんと授業出ないと単位もらえないよ」
時計を指差す。まだ授業が始まって十分ぐらい。
これなら、まだ途中からの授業に入れる。
でも、そんな私の言葉をよそに、そう君はベッドの下から鞄を取り出した。私の分まで。
「ほら、保健の先生に書置きも残したし、さっさと帰ろうぜ」
「ち、ちょっと待ってよ、そう君。まだ授業が……」
机の上に残されたメモ書きにはそう君らしい特徴的な字で『かなた&そうじろう、病気のため早退します』と書いてある。
保健の先生は結構適当な人みたいだから、これでいいかもしれないけれど……
「で、でも、まだ授業中だよ。ちゃんと出ないと……」
そう君の手が、私の手をぎゅっと握る。
ちょっとごわごわする、そう君の大きな手。
小さい頃から、いつも私の手を引っ張っていった手。
「そういえば、今日新作映画の公開日だったよな。せっかくだし見ていこうぜ」
そう君の楽しそうな笑顔。
この笑顔を見せられると、どうしても彼を許してしまう。
「はぁ、そうやって私を共犯にするわけね」
ため息をつく振りをするけれど、こうやってそう君に引っ張られるのも嫌いじゃない。
私は歩いていく。そう君の手の平の感触を確かめながら。
いつも自分勝手で、天真爛漫に笑っている彼。
そんな彼の、子供っぽい、あどけない寝顔。
「そう君……」
彼の肩を揺する。
気持ちよさそうに眠っているのを起こすのは忍びないけれど、
「そう君、授業始まっているよ。起きないと怒られちゃうよ」
そう君の体がびくっと震える。私は思わず彼の肩から手を離す。
彼はびしっと直立不動で立ち上がり、
「ね、寝てません!! ちゃんと聞いてました!!」
……
ごめん、耐えられない……
私はお腹を抱えて笑い出す。
「あ、あれ? かなた、ここって……」
「もうっ、そう君。おかしすぎ……」
そう君は辺りをきょろきょろと見回して、やっと事態が飲み込めたみたい。
私も笑いすぎて乱れた呼吸を整える。
「そう君ったら、何で私と一緒になって寝てるの?」
「いや、せっかく授業サボれるいい機会だったから……」
そういえば、今やっている現国の授業、そう君は大嫌いだっけ。
毎回小説を読むとすごく突飛な解釈をするそう君と現国の先生は、結構仲が悪いみたい。
型破りな考え方をするそう君の読み方、私は嫌いじゃないんだけれど。
「ほら、ちゃんと授業出ないと単位もらえないよ」
時計を指差す。まだ授業が始まって十分ぐらい。
これなら、まだ途中からの授業に入れる。
でも、そんな私の言葉をよそに、そう君はベッドの下から鞄を取り出した。私の分まで。
「ほら、保健の先生に書置きも残したし、さっさと帰ろうぜ」
「ち、ちょっと待ってよ、そう君。まだ授業が……」
机の上に残されたメモ書きにはそう君らしい特徴的な字で『かなた&そうじろう、病気のため早退します』と書いてある。
保健の先生は結構適当な人みたいだから、これでいいかもしれないけれど……
「で、でも、まだ授業中だよ。ちゃんと出ないと……」
そう君の手が、私の手をぎゅっと握る。
ちょっとごわごわする、そう君の大きな手。
小さい頃から、いつも私の手を引っ張っていった手。
「そういえば、今日新作映画の公開日だったよな。せっかくだし見ていこうぜ」
そう君の楽しそうな笑顔。
この笑顔を見せられると、どうしても彼を許してしまう。
「はぁ、そうやって私を共犯にするわけね」
ため息をつく振りをするけれど、こうやってそう君に引っ張られるのも嫌いじゃない。
私は歩いていく。そう君の手の平の感触を確かめながら。