- 3章
家族が全員集合した夕飯の席で、つかさはいつになく興奮気味にあいつ……つまり、泉こなたのファーストインプレッションを語りだした。
「面白い子とお友だちになったんだよぉ!」
あんまり背は高くない。
けれど、運動神経は凄まじく良い。
それほど勉強は得意ではない。
だけど、アニメやゲームにとてつもなく詳しい。
ボーッとしているようでいて、細かい気配りもできる。
それは今まで出会ったことのない個性。
そんな相手と同じクラスになって、しかも友誼を結ぶこともできて、とても嬉しい。
つかさは、浮かれ気味にそう言った。
「そうか。高校生活の初日から友人に恵まれるとは、ラッキーだったな」
お父さんに頭を撫でられ、嬉しそうに頷くつかさ。
私は意外だった。
「引っ込み思案のあんたが、こんなに早く友だちを作るなんてね」
「うん。なんかね、向こうから話しかけてきてくれたんだ」
「ふーん。なんて言って?」
「えっと……このリボンがすっごく似合ってて、『モエモエ』だって」
「はぁ?」
どこの国の言葉だ、それは。
「も、え……?」
「うん。私も初めて聞いたんだけど、世界で最高の誉め言葉なんだって。最近の流行語なんだって」
つかさは照れくさそうにお気に入りのリボンを撫でた。
「だから、そりゃどこの世界の流行なんだっつーの。意味わかんないよ」
「ん……詳しくは、分かんないけど……」
「アレじゃない? からかわれただけ、とか」
「ち、違うよっ! こなちゃんは、そんな意地悪な子じゃないよっ!」
「あんたって、見るからに天然だしねー。いじって遊ぶにはもってこいだって思われたんじゃない?」
「お姉ちゃんっ!」
「ごめんごめん、冗談だって」
そうやって軽い冗談に過剰反応するあたりが、天然の天然たる由縁なんだけどなぁ。
ま、そういうことは思うだけで口にしないのが吉。
「お姉ちゃんも、一度こなちゃんに会ってみればいいんだよ。そうすりゃ、私の言ったことがウソじゃないって分かるから」
おやおや、今日のつかさはテンションがおかしいな。
さっきまで瞳をキラキラさせていたと思ったら、今度は激怒モードに移行ですか。
そんなにキッツく睨まなくても……って、私の身から出た錆なんだけどね。
「別にいいよ。つかさを疑ってるわけじゃないし」
「ダメ! 自分の目と耳で確かめてほしいんだもん」
「いいってば今さら。そんなことしなくて、あいつのことはすでにイヤんなるぐらい詳しく知ってるし」
「え?」
つかさが目を丸くする。
「オタクだよねー。趣味のために他の全てを犠牲にしてるって言うか。それに、すっごくだらしないの。宿題ぐらい、たまには自力で解いてほしいものよ。あ、あとチョココロネが大好物なんだよねー。ランチはいつもコロネなの。よく虫歯にならないもんだ」
父さんと母さんとお姉ちゃんズ、つまりつかさ以外の家族も驚きの表情で私を見つめる。
……あれ?
「な、何よ。私、何かヘンなこと言った?」
「お、お姉ちゃん……」
「だから、その怖れに満ちた視線は何なんだよ!」
「こなちゃんと、いつ会ったの?」
「いつも何も、毎日に決まってるじゃない」
「私たち、今日はじめて陵桜に通ったんだけど……」
「あ」
言われてみれば、そうだ。会ったことのない人間の特徴を、つまびらかに挙げることなんて……普通は不可能だ。
私の発言は矛盾に塗れている。
こういう時、あいつなら絶対こう言うだろうなあ。
有名裁判ゲームの主人公みたいに、こう、ビシッと人差し指をつきつけながら、
「異議ありっ!」
「おわっ!」
全く想像通りの声とモーションで、男物の背広を着たこなたが私を指弾する。
「あ、あ、あんた、いつの間に……」
慌てて周囲を見渡すが、私の家族は皆いつのまにかどこかに消えてしまっていた。
この食卓を囲んでいるのは、私とこいつの2人だけだ。
「何事にも潮時はあるというもの」
うお、今度はシルクハットにタキシード?
いきなり英国紳士に返信するなよ、心臓に悪い。
「夢を見ていた本人が矛盾に気付き、目覚ましも鳴り出す直前。今朝の夢は終了しました。お楽しみは次の晩に」
「何を言ってるの?」
「じゃ、そーゆーことで……まったねー!」
「うっ?」
ちゅんちゅんジリリリちゅんジリリ。
雀の声とベルの音が混ざり合い、ノイズの奔流となって私の耳を撃つ。
「面白い子とお友だちになったんだよぉ!」
あんまり背は高くない。
けれど、運動神経は凄まじく良い。
それほど勉強は得意ではない。
だけど、アニメやゲームにとてつもなく詳しい。
ボーッとしているようでいて、細かい気配りもできる。
それは今まで出会ったことのない個性。
そんな相手と同じクラスになって、しかも友誼を結ぶこともできて、とても嬉しい。
つかさは、浮かれ気味にそう言った。
「そうか。高校生活の初日から友人に恵まれるとは、ラッキーだったな」
お父さんに頭を撫でられ、嬉しそうに頷くつかさ。
私は意外だった。
「引っ込み思案のあんたが、こんなに早く友だちを作るなんてね」
「うん。なんかね、向こうから話しかけてきてくれたんだ」
「ふーん。なんて言って?」
「えっと……このリボンがすっごく似合ってて、『モエモエ』だって」
「はぁ?」
どこの国の言葉だ、それは。
「も、え……?」
「うん。私も初めて聞いたんだけど、世界で最高の誉め言葉なんだって。最近の流行語なんだって」
つかさは照れくさそうにお気に入りのリボンを撫でた。
「だから、そりゃどこの世界の流行なんだっつーの。意味わかんないよ」
「ん……詳しくは、分かんないけど……」
「アレじゃない? からかわれただけ、とか」
「ち、違うよっ! こなちゃんは、そんな意地悪な子じゃないよっ!」
「あんたって、見るからに天然だしねー。いじって遊ぶにはもってこいだって思われたんじゃない?」
「お姉ちゃんっ!」
「ごめんごめん、冗談だって」
そうやって軽い冗談に過剰反応するあたりが、天然の天然たる由縁なんだけどなぁ。
ま、そういうことは思うだけで口にしないのが吉。
「お姉ちゃんも、一度こなちゃんに会ってみればいいんだよ。そうすりゃ、私の言ったことがウソじゃないって分かるから」
おやおや、今日のつかさはテンションがおかしいな。
さっきまで瞳をキラキラさせていたと思ったら、今度は激怒モードに移行ですか。
そんなにキッツく睨まなくても……って、私の身から出た錆なんだけどね。
「別にいいよ。つかさを疑ってるわけじゃないし」
「ダメ! 自分の目と耳で確かめてほしいんだもん」
「いいってば今さら。そんなことしなくて、あいつのことはすでにイヤんなるぐらい詳しく知ってるし」
「え?」
つかさが目を丸くする。
「オタクだよねー。趣味のために他の全てを犠牲にしてるって言うか。それに、すっごくだらしないの。宿題ぐらい、たまには自力で解いてほしいものよ。あ、あとチョココロネが大好物なんだよねー。ランチはいつもコロネなの。よく虫歯にならないもんだ」
父さんと母さんとお姉ちゃんズ、つまりつかさ以外の家族も驚きの表情で私を見つめる。
……あれ?
「な、何よ。私、何かヘンなこと言った?」
「お、お姉ちゃん……」
「だから、その怖れに満ちた視線は何なんだよ!」
「こなちゃんと、いつ会ったの?」
「いつも何も、毎日に決まってるじゃない」
「私たち、今日はじめて陵桜に通ったんだけど……」
「あ」
言われてみれば、そうだ。会ったことのない人間の特徴を、つまびらかに挙げることなんて……普通は不可能だ。
私の発言は矛盾に塗れている。
こういう時、あいつなら絶対こう言うだろうなあ。
有名裁判ゲームの主人公みたいに、こう、ビシッと人差し指をつきつけながら、
「異議ありっ!」
「おわっ!」
全く想像通りの声とモーションで、男物の背広を着たこなたが私を指弾する。
「あ、あ、あんた、いつの間に……」
慌てて周囲を見渡すが、私の家族は皆いつのまにかどこかに消えてしまっていた。
この食卓を囲んでいるのは、私とこいつの2人だけだ。
「何事にも潮時はあるというもの」
うお、今度はシルクハットにタキシード?
いきなり英国紳士に返信するなよ、心臓に悪い。
「夢を見ていた本人が矛盾に気付き、目覚ましも鳴り出す直前。今朝の夢は終了しました。お楽しみは次の晩に」
「何を言ってるの?」
「じゃ、そーゆーことで……まったねー!」
「うっ?」
ちゅんちゅんジリリリちゅんジリリ。
雀の声とベルの音が混ざり合い、ノイズの奔流となって私の耳を撃つ。
「……とまあ、そんなろくでもない夢を見たのよ」
「ほうほう。それはまさに、フロ……」
「イト先生も大爆笑だっぜ!って、言いたいのかな?」
「うっ、先読みされたーっ? それとも超反応カウンターかっ! 小足見てから昇竜よゆうでした、ってやつ?」
「ごめん。そっちは何のネタだか全然……」
「今年の闘劇じゃ、ウメいまいちパッとしなかったねー。ヌキのチュンは完璧に仕上がってたのにさあ。いやー、あの強パン千烈は今思い出してもガクブルもんだよー!」
「……頼むから日本語を喋れ」
相変わらず、こなたは話が通じないのもお構い無しに謎の語彙を撒き散らしまくっている。
私とつかさは、顔を見合わせて苦笑するしかない。
これが、私たちの日常だ。
いつも通りの、朝の通学路。
「ほうほう。それはまさに、フロ……」
「イト先生も大爆笑だっぜ!って、言いたいのかな?」
「うっ、先読みされたーっ? それとも超反応カウンターかっ! 小足見てから昇竜よゆうでした、ってやつ?」
「ごめん。そっちは何のネタだか全然……」
「今年の闘劇じゃ、ウメいまいちパッとしなかったねー。ヌキのチュンは完璧に仕上がってたのにさあ。いやー、あの強パン千烈は今思い出してもガクブルもんだよー!」
「……頼むから日本語を喋れ」
相変わらず、こなたは話が通じないのもお構い無しに謎の語彙を撒き散らしまくっている。
私とつかさは、顔を見合わせて苦笑するしかない。
これが、私たちの日常だ。
いつも通りの、朝の通学路。
そう……こなたの様子は、昨日以前と比べて全く変わっていなかった。
半日とちょっと前、私たちが歩いているこの道の上で苦々しい事件が起こったことなど忘れ去ってしまったかのように、こなたは今朝も朗らかだった。
もちろん、本当に忘れているとは思えない。
むしろその逆で、昨日のことをひどく気にしているからこそ、こうやってあえてマイペースを貫いているに違いないのだ。
半日とちょっと前、私たちが歩いているこの道の上で苦々しい事件が起こったことなど忘れ去ってしまったかのように、こなたは今朝も朗らかだった。
もちろん、本当に忘れているとは思えない。
むしろその逆で、昨日のことをひどく気にしているからこそ、こうやってあえてマイペースを貫いているに違いないのだ。
(私は、なーんも気にしてない! だから、かがみもクヨクヨするなっ!)
ハイスクールライフ初体験の日、つかさが不気味なまでにはしゃいでいた気持ちも今なら理解できる。
こいつは本当に面白くて……そして、根の優しいやつだ。
まあ、こいつとの付き合いを改めて思い返してみると、なぜかイラッとさせられた記憶ばかりが浮かんでしまうんだけど……
それでも、もしこなたが何がしかの容疑をかけられ法廷に立つことになったなら、いかに旗色が悪かろうと!私は絶対に弁護側へまわるだろう。
なぜなら、こなたは人を意図的に傷つけるような真似だけは死んでも仕出かさないタイプだからだ。
人間と人間が付き合う上で最低限必要なマナーを、このチビはきちんと遵守している。
ワガママな性格ではあるけど、叶えてやることが不可能な無理難題は決してふっかけない。
失礼スレスレのブラックユーモアを好んで口にするけど、無思慮で耳障りな罵詈雑言は常に慎んでいる。
つまり、こなたイコール他人の感情を慮ることができる「良い子」なのだ。
だから今ここで私が苦しそうな顔を見せれば、多分こいつはそれ以上に苦しむ。
こいつは本当に面白くて……そして、根の優しいやつだ。
まあ、こいつとの付き合いを改めて思い返してみると、なぜかイラッとさせられた記憶ばかりが浮かんでしまうんだけど……
それでも、もしこなたが何がしかの容疑をかけられ法廷に立つことになったなら、いかに旗色が悪かろうと!私は絶対に弁護側へまわるだろう。
なぜなら、こなたは人を意図的に傷つけるような真似だけは死んでも仕出かさないタイプだからだ。
人間と人間が付き合う上で最低限必要なマナーを、このチビはきちんと遵守している。
ワガママな性格ではあるけど、叶えてやることが不可能な無理難題は決してふっかけない。
失礼スレスレのブラックユーモアを好んで口にするけど、無思慮で耳障りな罵詈雑言は常に慎んでいる。
つまり、こなたイコール他人の感情を慮ることができる「良い子」なのだ。
だから今ここで私が苦しそうな顔を見せれば、多分こいつはそれ以上に苦しむ。
「おーす! おはよう諸君!」
今日の空が曇っていて薄暗いのは、太陽がこの悠然と輝く笑顔を見て「か、勝てねぇ!」と怖れをなし雲の上に隠れてしまったからではあるまいか?
……とまあ、そんなメルヘンな疑惑がナチュラルに湧いてきてしまうぐらい、こなたのあいさつは元気が良かった。
あまりにも陽のエネルギーに満ちあふれていたものだから……昨日のことをどう謝ろうか一晩中頭を悩まし、そしていざ顔を合わせた今の瞬間になってもまだ結論が出せず絶望していた自分が、ものすごーくバカみたいに思えて仕方がなかった。
うん、せっかく珍しくこいつが私たちに気を遣ってくれてるんだ。
それを無駄にするわけにはいかない。
私は負けじと頬の筋肉を緩め、パアアッと擬音が鳴るぐらいの勢いで微笑み返した。
その途端、十数時間前から続いていた息苦しさはぴったりと止み、代わって穏やかな日常の空気が私の肺をゆっくりと暖め始めた。
……とまあ、そんなメルヘンな疑惑がナチュラルに湧いてきてしまうぐらい、こなたのあいさつは元気が良かった。
あまりにも陽のエネルギーに満ちあふれていたものだから……昨日のことをどう謝ろうか一晩中頭を悩まし、そしていざ顔を合わせた今の瞬間になってもまだ結論が出せず絶望していた自分が、ものすごーくバカみたいに思えて仕方がなかった。
うん、せっかく珍しくこいつが私たちに気を遣ってくれてるんだ。
それを無駄にするわけにはいかない。
私は負けじと頬の筋肉を緩め、パアアッと擬音が鳴るぐらいの勢いで微笑み返した。
その途端、十数時間前から続いていた息苦しさはぴったりと止み、代わって穏やかな日常の空気が私の肺をゆっくりと暖め始めた。
勝手の知れた呼吸に身を任せていると、時間の経つのが早く感じられる。
気が付けば私たちはもう校門をくぐっており、さらに昇降口までも過ぎていた。
「でねでねでね、そっからの小川の逆襲がまた凄かったんだよー! 絶妙なタイミングで空中投げをしかけて、分身をバババー! コンボをドドドーン!」
「いやだから、言葉だけじゃどう凄かったのかいまいち伝わってこないんだってば」
「なんだよー、かがみも少しはギルティかじってただろー! ならば理屈じゃなくソウルで汲み取れるはずだっ!」
「いやいやいや、全国大会に出場するほど魂かけてないから」
結局、こなたはあれからずっとマシンガン暗号トークを乱射し続けていた。
これだからスイッチ入っちゃったオタクは怖い、いいかげんウンザリしてきたこっちの都合などお構いなしだ。
ったく……ついさっき、人付き合いのマナーがどーたらこーたらって誉めてやったばかりだってのによぉ(心の中でだけ、だけどね)!
「むむ。百聞は一見にしかず、だなぁ。達人の動きってのは、実際に見てみればそりゃもう激しく感動できるんだけどねぇ」
その言葉に反応し、つかさが久しぶりに発言する。
「うん、私も鉄人の包丁さばきには憧れちゃうもん」
「ねー! 全盛期のキャサ夫はマジでヤバかった!」
「道場さんって、ハモの骨抜きとか本当に上手なんだよぉ!」
傍から聞くと全くかみ合ってない会話だが、当人たちにとっては何か相通じるものがあるらしく、どちらもやけに声が弾んでいる。
こういう時、平均的模範的一般人である私のような人種は、蚊帳の外でツッコミのタイミングを待つのが礼儀だ。
「あーあ、あのぐらいカッコよくお料理できたらなぁ……」
「なぁに。こういうのは練習あるのみだよ、つかさ」
「そ……そうか。そうだね、がんばらないと!」
「私もせめて鳳翼を全ブロして最大反撃ぐらいの芸当はできるよう、今後も精進を重ね……」
「おいおいおい!」
ツッコミポイント到来。
蚊帳を破り話題の中へ。
「調理師希望のつかさはまだしも、あんたはゲームなんかやってる場合じゃないだろ!」
「……うん、そのことなんだけどね」
気が付けば私たちはもう校門をくぐっており、さらに昇降口までも過ぎていた。
「でねでねでね、そっからの小川の逆襲がまた凄かったんだよー! 絶妙なタイミングで空中投げをしかけて、分身をバババー! コンボをドドドーン!」
「いやだから、言葉だけじゃどう凄かったのかいまいち伝わってこないんだってば」
「なんだよー、かがみも少しはギルティかじってただろー! ならば理屈じゃなくソウルで汲み取れるはずだっ!」
「いやいやいや、全国大会に出場するほど魂かけてないから」
結局、こなたはあれからずっとマシンガン暗号トークを乱射し続けていた。
これだからスイッチ入っちゃったオタクは怖い、いいかげんウンザリしてきたこっちの都合などお構いなしだ。
ったく……ついさっき、人付き合いのマナーがどーたらこーたらって誉めてやったばかりだってのによぉ(心の中でだけ、だけどね)!
「むむ。百聞は一見にしかず、だなぁ。達人の動きってのは、実際に見てみればそりゃもう激しく感動できるんだけどねぇ」
その言葉に反応し、つかさが久しぶりに発言する。
「うん、私も鉄人の包丁さばきには憧れちゃうもん」
「ねー! 全盛期のキャサ夫はマジでヤバかった!」
「道場さんって、ハモの骨抜きとか本当に上手なんだよぉ!」
傍から聞くと全くかみ合ってない会話だが、当人たちにとっては何か相通じるものがあるらしく、どちらもやけに声が弾んでいる。
こういう時、平均的模範的一般人である私のような人種は、蚊帳の外でツッコミのタイミングを待つのが礼儀だ。
「あーあ、あのぐらいカッコよくお料理できたらなぁ……」
「なぁに。こういうのは練習あるのみだよ、つかさ」
「そ……そうか。そうだね、がんばらないと!」
「私もせめて鳳翼を全ブロして最大反撃ぐらいの芸当はできるよう、今後も精進を重ね……」
「おいおいおい!」
ツッコミポイント到来。
蚊帳を破り話題の中へ。
「調理師希望のつかさはまだしも、あんたはゲームなんかやってる場合じゃないだろ!」
「……うん、そのことなんだけどね」
フッと、こなたが身にまとっていた雰囲気が一変した。
「な……」
私は身構えた。
たるんでいた面構えが突然真剣なものに変わるなんて、予想外もいいところだ。
また、不謹慎で自堕落な発言で私を呆れさせてくれるものだとばかり思ってたのに。
「私、どうしても入りたい大学ができちゃってさ」
「へ、へぇ……どこよ」
我ながら白々しい。
そのことは、すでにつかさから聞いている。
「まだ秘密。受験が終わったら教えてあげるヨ」
秘密にしておいて、後から私を驚かせるつもりだったんでしょ?
悪戯好きのあんたらしいよ、ほんと……
「だけど、どーも今の学力じゃ合格は難しいみたいで」
放課後、職員室で黒井先生に進路相談をもちかけていたところを、別の用事で来ていたつかさに偶然目撃されちゃったんだよね。
「もう本番まで時間がないけど、それでもできるだけの努力はしなくちゃなー……なんて思ったりしてさ」
あんたはつかさに口止めしたけど、つかさは私にバラしてしまった。
こなちゃんだって、進路のことはちゃんと考えてるんだよ!
分かってあげてお姉ちゃん。
……そう、つかさは言っていた。
「ふうん。あんたにしては殊勝な心がけじゃん」
「心がけだけじゃ、勝てない。本当に必要なのは、覚悟」
「覚悟?」
「かがみのおかげで、その覚悟がやっと固まったよ。ありがとう」
私たちの歩みは、とうとうB組の前に差し掛かった。
一時の別れは、目の前だ。
「あと、これも……もういっかいだけ言わせて」
真っ直ぐな視線だった。
長い付き合いの中で初めて見せる表情だった。
「かがみには、今までいっぱい迷惑かけた。謝る。ごめん」
「そんなっ……こっちこそ」
深々と頭を下げるこなたを前に、私はテンパるしかなかった。
ズルいよね、普段はおちゃらけているくせにここ一番じゃ外さないやつって!
「なんか、カッとなっちゃって」
「あそこは怒ってオッケーなところだって」
「でも、私、暴力を……あっ!」
そうだ。
真っ先に聞かなきゃいけないことがあったのに、こなたのペースに巻き込まれているうちにすっかり忘れてしまっていた。
「正直に言って。あんたのケータイ壊れ……」
「チャラにしてくれない?」
「え」
「私がこれまで迷惑をかけてきたことに対する慰謝料を、かがみは請求しない。その代わり、私もケータイの修理代を払えなんてケチなことは言わない。それで、どう?」
そんなことをシレッと言ってのけるこなたの顔つきは、すでに通常通りの緊張感を欠いたものに戻っていた。
……そうか、これもあんたなりの気遣いの一環ってことか。
「はんっ、バカ言わないでよね」
心の中で感謝しながら、意地悪く応えてやる。
「今まで宿題写させてきた分を金銭に換算したら、田園調布に家が建つっての」
「そりゃまた、ずいぶんと古い例えデスネ。かがみ、年いくつだよ」
「うるさいっ! とにかく、ちょっとやそっとの交換条件じゃ釣り合いが取れないわ」
「なんと! マジで札束積めとおっしゃいマスカ?」
「お金なんかいらないっ! その代わり……」
「その代わり?」
「今度のセンター試験、あたしが見ても恥ずかしくない点数をとってよね」
そう提案した時にこいつが浮かべた、異様に粘っこい笑顔を私は一生忘れることがないだろう。
「くっくく……なんと……なんというツンデレ……」
顔が急激に高潮していくのが分かる。
待て待て逆上するな私、ここで照れたらますますキモオタの思うツボだ。
「へ、返事は?」
「イエッサー!」
なおも気色悪くムフムフ言いながら、こなたは形ばかりの敬礼をした。
それから、ぽかんと口を開けて成り行きを見守っていたつかさの手を引いて、さっさとB組の中に引っ込もうとする。
よし。
私たちの関係は、今日も絶好調みたい……
(あ)
……また忘れるところだった。
もうひとつだけ、確かめておかないと。
「ほんじゃかがみん、またお昼に」
「ねえ、こなた」
「あい?」
「あんたが、志望校を決めた理由って」
「おいおい、せっかちさんは色んな意味で嫌われるヨ? そいつも後のお楽しみってことでいーじゃん」
「理由そのものは教えてくれなくてもいい。でも、その理由はあんたにとってそれほど重要なことなの?」
「んん?」
「適当に決めたわけじゃないんでしょ?」
「とーぜん! どうしても行かなきゃいけない理由があるから、行くんだ」
そのガッツポーズを、私はどう受け止めればいいのか。
こなたの人生において優先すべき対象に選ばれたことは、すごく嬉しい、の、だけど……
私は身構えた。
たるんでいた面構えが突然真剣なものに変わるなんて、予想外もいいところだ。
また、不謹慎で自堕落な発言で私を呆れさせてくれるものだとばかり思ってたのに。
「私、どうしても入りたい大学ができちゃってさ」
「へ、へぇ……どこよ」
我ながら白々しい。
そのことは、すでにつかさから聞いている。
「まだ秘密。受験が終わったら教えてあげるヨ」
秘密にしておいて、後から私を驚かせるつもりだったんでしょ?
悪戯好きのあんたらしいよ、ほんと……
「だけど、どーも今の学力じゃ合格は難しいみたいで」
放課後、職員室で黒井先生に進路相談をもちかけていたところを、別の用事で来ていたつかさに偶然目撃されちゃったんだよね。
「もう本番まで時間がないけど、それでもできるだけの努力はしなくちゃなー……なんて思ったりしてさ」
あんたはつかさに口止めしたけど、つかさは私にバラしてしまった。
こなちゃんだって、進路のことはちゃんと考えてるんだよ!
分かってあげてお姉ちゃん。
……そう、つかさは言っていた。
「ふうん。あんたにしては殊勝な心がけじゃん」
「心がけだけじゃ、勝てない。本当に必要なのは、覚悟」
「覚悟?」
「かがみのおかげで、その覚悟がやっと固まったよ。ありがとう」
私たちの歩みは、とうとうB組の前に差し掛かった。
一時の別れは、目の前だ。
「あと、これも……もういっかいだけ言わせて」
真っ直ぐな視線だった。
長い付き合いの中で初めて見せる表情だった。
「かがみには、今までいっぱい迷惑かけた。謝る。ごめん」
「そんなっ……こっちこそ」
深々と頭を下げるこなたを前に、私はテンパるしかなかった。
ズルいよね、普段はおちゃらけているくせにここ一番じゃ外さないやつって!
「なんか、カッとなっちゃって」
「あそこは怒ってオッケーなところだって」
「でも、私、暴力を……あっ!」
そうだ。
真っ先に聞かなきゃいけないことがあったのに、こなたのペースに巻き込まれているうちにすっかり忘れてしまっていた。
「正直に言って。あんたのケータイ壊れ……」
「チャラにしてくれない?」
「え」
「私がこれまで迷惑をかけてきたことに対する慰謝料を、かがみは請求しない。その代わり、私もケータイの修理代を払えなんてケチなことは言わない。それで、どう?」
そんなことをシレッと言ってのけるこなたの顔つきは、すでに通常通りの緊張感を欠いたものに戻っていた。
……そうか、これもあんたなりの気遣いの一環ってことか。
「はんっ、バカ言わないでよね」
心の中で感謝しながら、意地悪く応えてやる。
「今まで宿題写させてきた分を金銭に換算したら、田園調布に家が建つっての」
「そりゃまた、ずいぶんと古い例えデスネ。かがみ、年いくつだよ」
「うるさいっ! とにかく、ちょっとやそっとの交換条件じゃ釣り合いが取れないわ」
「なんと! マジで札束積めとおっしゃいマスカ?」
「お金なんかいらないっ! その代わり……」
「その代わり?」
「今度のセンター試験、あたしが見ても恥ずかしくない点数をとってよね」
そう提案した時にこいつが浮かべた、異様に粘っこい笑顔を私は一生忘れることがないだろう。
「くっくく……なんと……なんというツンデレ……」
顔が急激に高潮していくのが分かる。
待て待て逆上するな私、ここで照れたらますますキモオタの思うツボだ。
「へ、返事は?」
「イエッサー!」
なおも気色悪くムフムフ言いながら、こなたは形ばかりの敬礼をした。
それから、ぽかんと口を開けて成り行きを見守っていたつかさの手を引いて、さっさとB組の中に引っ込もうとする。
よし。
私たちの関係は、今日も絶好調みたい……
(あ)
……また忘れるところだった。
もうひとつだけ、確かめておかないと。
「ほんじゃかがみん、またお昼に」
「ねえ、こなた」
「あい?」
「あんたが、志望校を決めた理由って」
「おいおい、せっかちさんは色んな意味で嫌われるヨ? そいつも後のお楽しみってことでいーじゃん」
「理由そのものは教えてくれなくてもいい。でも、その理由はあんたにとってそれほど重要なことなの?」
「んん?」
「適当に決めたわけじゃないんでしょ?」
「とーぜん! どうしても行かなきゃいけない理由があるから、行くんだ」
そのガッツポーズを、私はどう受け止めればいいのか。
こなたの人生において優先すべき対象に選ばれたことは、すごく嬉しい、の、だけど……
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- HAPPY ENDの兆し…。でも まさか、続編まだ無いのか? -- 名無しさん (2011-04-18 07:24:26)
- この後何があってかがみの胸を握りつぶしたいんだよ・・・! -- 名無しさん (2009-05-23 20:20:11)
- 続編希望します!ww
いいわ、これwww -- taihoo (2008-10-08 14:25:12) - お願いします、どうか!ど~か!!続きを!!! -- kk (2008-06-22 23:21:47)
- つ、続きが(ry -- 名無しさん (2008-05-22 01:11:00)
- 続きが非常に気になってるぜ!
続きを書いてください -- 名無し (2008-05-21 21:35:34) - 続き気になり続けています。 -- 名無しさん (2008-04-24 18:49:19)
- 俺も続きが気になるぜ… -- 名無しさん (2007-12-26 12:53:18)
- 続き気になる>< -- 名無しさん (2007-11-01 00:23:26)