kairakunoza @ ウィキ

ああ、素晴らしきお泊り会 11時まで

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『スピードッ!!』

声と、トランプを場に出すとき床にたたき付ける音が重なる。
その後はお互い無言でトランプを猛スピードで出し合うだけ。
数秒カードの応酬が続いて、ようやく私は最後の一枚であるハートのエースをクローバーのキングの上にたたき付けた。
そして『終わり』を示すため両手を上げる。
その私の動作とほぼ一緒にかがみもスペードのジャックをダイヤのクイーンの上にたたき付けて両手を上げた。

「……また引き分けね」
「えぇー!!これでスピード対決0勝0敗13引き分けだよ!?やっぱり格ゲーで勝負しようよー……」
「だからそれだと私が勝つ確率がなくなるでしょ」
「ダメだよー、かがみ。勝ち負けにこだわってたら楽しめないよ?」
「じゃあこなた負けてよ」
「絶対ヤダ」

むぅ、とお互い唸る。意地の張り合いと傍から見れば言えるかもしれない。
でもとあるCM風に言えば『絶対に負けられない戦いがそこにはある』のだ。……このCMがある時期は嫌いだけど。
そもそも、トランプをするようになった理由は、長くなるけど4時間前からのさまざまな事情と空回りの勢いにある。

 -------------

かがみは受身になると弱いと言うことが分かった時、妙な空気になった。
よーく考えれば、ここでちょっとからかえばよかったかなって思ったりもするけど、エロゲなんかで蓄えた知識があっても中々実行にうつせない。
この空気を打破することしか考えられなくて、私は夕食を作り始めた。
かがみも手伝うって言ってくれたけど部屋で待ってもらって、作り終わって呼びに行ったら部屋に居たゆーちゃんと話してて驚いた。どうやらかがみが寝るための布団を持ってきてくれたみたい。
前の『いきなりドア開け』をかがみは許してるのか、仲良くなってるみたいだったからよかったけど、かがみがゆーちゃんに耳打ちしてたりしてなんかちょっと気に入らない。
その後ゆーちゃんは「ダメですよ」とか言ってたし、何を言っていたのかは気になってモヤモヤしたけど聞けずに夕食の時間。
私の隣にお父さん、私の前にかがみ、かがみの横にゆーちゃんという席順で座って普通に話していると、お父さんは妙に笑って私とかがみを交互に見ていた。
笑うって言っても……変な意味じゃなくて安堵したような笑みを浮かべてる。
不思議に思いながらもご馳走様をして、かがみに部屋で待っているように言ってから皿を洗っていると急にお父さんが父親らしい顔で話し掛けてきた。

「よかったな、こなた」

なにがどうなってよかったのか。
話の前後が分からなくて、聞き返すために私はいったん水道を止めようとして

「えっと、何が?」
「かがみちゃんと上手くいってるんだろ?」


バビシャ――――――――ッ!!


間違って逆方向にひねった蛇口から盛大に水が溢れた。
慌てて水を止めても飛び散った水で濡れたTシャツは戻らない。
うわ、結構濡れちゃったよ……肌に張り付いて気持ち悪いし、ちょっと冷たい。

「なっ……は、い?」
「いやぁ、ある程度確信はあったけど、今の反応を見る限り大正解みたいだな」

はっはっは、と腕を組んで笑うお父さん。
いや、お父さん。私笑えないから。
恥ずかしいとかそういう次元じゃなくて、もう何が何だか。

「ちょっ、ちょっと待って。いつから分かって……って、いや、あれ?」

かがみと付き合っていることを否定するつもりなんかはないんだけど、親にカミングアウトするっていうのはやっぱり簡単じゃない。
しかも自分からじゃなくて、お父さんのほうからその話を切り出してきたんだから心の準備なんかしてるはずもない。
お父さんを信頼してないわけじゃないけど……そう簡単に言える問題じゃないし。

「ほら、少し前。こなたが帰宅してきて、妙にテンション高いときがあっただろ。機嫌がいいなって聞いたら『欲しいDVDが買えたから』とか言ってたけど」
「あー……」

それは覚えている。と言うより、忘れるはずが無い。
かがみに告白された日の事だ。その時は私はかがみを振って、罪悪感を纏っていたというか落ち着かない気分だった。

「テンションが高いから、私が告白されたって分かったの?」
「あ、そうだったのか? そこまでは分からなかったぞ。二つ違和感はあったんだけどな」

ぐっは。
何かさっきから自分からどんどん自白して言ってる気がする。
お父さんの笑顔がまぶしい。理由は分からないけどまぶしくて、私はスポンジをシャカシャカ握り締めていた。

「……違和感って何?」

頭の中で、変な事を言っていないか確認しながら口にする。
変な事もなにも、これ以上に恥ずかしいことはないはずだけど。

「一つは無理してテンションを上げてるってこと。これはすぐに分かったぞ」
「えっ!?だってそんなの一言も……」
「あのなぁ、何年こなたの父親やってると思ってるんだ?」

自慢するように、誇らしげに胸を張る。
何だか今日はいつも以上にお父さんがお父さんらしく見える。
いつもがああだから余計に、かもしれない。

「もう一つは後々気づいたんだが……いつもは帰宅した後って絶対にかがみちゃんの事を話すのに、その日だけかがみちゃんの事を話さなかったってとこだな」

私が告白された日と同じように、お父さんが古畑みたいなポーズをした。
前より様になって見えるのは何でだろう。その理由は……ちょっと尊敬したからかな。恥ずかしいから言わないけど。

「そんなに私ってかがみのこと話してたっけ?」
「ああ。最近で『かがみ』って単語をこなたの口から聞かなかったのはその日だけだな。だから何かあるとは思ったんだが……今日の二人を見て確信したよ」

今はともかく、昔はかがみのことを恋愛感情では見てない……はず。
認識できてなかっただけで私も好きだったのかな。
分からないし、昔の事はいいんだけど。私が今、かがみのことを好きっていうことは揺るぎないんだし。
これも口には中々出来ないけど。

「……あれ? お父さん、なんとも思わないの?」

ふと、不安というか小さな掴みきれない負の感情が胸に湧く。
今のお父さんの反応を聞いている限り、私が思っていた反応と違うんだけど。

「何がだ? こなたに恋人が出来た事か? そりゃあ寂しい気はするが……青春は一度しかないんだし」
「い、いやいや!! そうじゃなくて……」

思わずスポンジを握った手を振る。
恋人うんぬんの前に、同性って事で何か言われると思っていた。
怒られるって事はあまり考えなかったけど、可能性としてはあるかもって。
そもそも私は女が好きなわけじゃなくて、かがみが好きなんだけど。
恋人は同性ですって聞いて、いくらお父さんでもいい顔はしないだろうと。
お父さんに否定される事はないと思っていたけど、逆に父親だからこそ納得しないんじゃないかとも思っていた。
百合物のアニメとかが流行っているとはいえ、実の娘がそうだったら……と考えると当然別物なのに。
それが、何だかあっさり受け入れてるし。
思わずお父さんから視線をそらして持っている皿を見つめる。
その反応でお父さんは私が何を言いたいのか悟ったのか、ポンと手を打った。

「そりゃ、お父さんだって驚いてるぞ。でも……俺が、父親が願うのは子供の幸せだからな。かなただって、そう思ってるだろ」

私はその後お父さんの顔を見なかった。見れなかった。
認めてくれた事に安堵やら、嬉しさやらいろいろ沸いてきて少し目頭が熱くなっていたから。
今度、肩凝ってるだろうし肩叩きとかしてお父さん孝行とかしてあげたいって思っていたのに。
ぽんっと私の頭に手を乗せて、少し乱暴に撫でながら。




「でも、いくら妊娠しないからって限度を考えないとダメだぞっ」



あなたは最後に色々と最悪だ。



皿洗いを終え、いつか肩叩きをするときはわざと痛くしてやろうなんて思いながら部屋に戻った。
ドアを開けるとかがみは本を読んでいて、目が合った瞬間に私の頭に『親、公認!』なんてテロップがデカデカと流れて
慌ててかがみから視線を逸らした。かがみはかがみでなぜか私から視線を逸らした。
また空気がおかしくなって、咄嗟に私の口から出た言葉は「お風呂の順番どうする?」だった。
やっぱりお客様だからって理由でかがみが先に入ることになった。
一人になった部屋でベッドに横になる。
すでに床にはゆーちゃんが持ってきてくれたのだろう布団が敷かれていた。
かがみやつかさが泊まりに来る時は当然で、いつもの事なんだけど。
さっきのお父さんの言葉が頭の中にエンドレスリピートして、布団を背景にエロゲ的シチュエーションを思いっきり想像してしまった。
……なんと言うか、結構具体的なヴィジュアルで。


どわ―――っ!!!お父さんのバカ――――っ!!!


布団から視線を逸らすために寝返りをうったら盛大に壁に激突した。
あ、痛さのおかげで少し冷静になったかも。
というより変だよ私の脳内! お父さんも、冗談だっていうのは分かるけどTPOをわきまえてよ! 私が言えた義理でもないけどさ!
私だってそういうゲームやってるけど人並みに貞操概念あるって。そんな付き合ってすぐにGOしませんよ。
つーか今日はお父さんもゆーちゃんもいるじゃん。いや、いなかったらするてわけじゃないんだけどね。
キスぐらいしかしてないし。……あれ? キスはしてるんだから、その次となると……


って、だから違ぁぁぁああう!!!


脳内で叫びまくる私。ベッドで横になって丸まりながら頭を抱える私。傍から見たら笑えるだろう。
ああもう自分が何をして、何をしようとしてるのか分からなくなってきた。
よし、寝よ。いったん寝ちゃお。少し寝よう。
目を瞑って意識を落とせば少しは冷静になるはず。
深呼吸して、何も考えないようにする。
意識的か無意識的なのか、かがみの声とか表情が思い出して熱くなる体は無視。
クーラーの温度、下げようかな……


あー、でも何か思考がにぶってきてる気がする。
しこうの輪郭がぼやけて、かんじへんかんすらおっくうに……―――




「こなた?」
「―――ぁ」

何時の間にかマジ寝していたらしい。
目を開けるとかがみが私の肩を軽く叩いているところだった。
中々焦点が合わない目を擦って上体を起こしてベッドに腰掛ける。

「あー……お風呂上がったんだ」

視線を時計に向けると、結構な時間が経過していた。
あれ、かがみってそんなに長湯する方だったっけ?
のぼせないのかな? なんて思ってかがみを見る。
風呂上りだから髪を下ろして、やっぱり長湯で若干のぼせたのか上気している肌。
迂闊と言うか……本当見とれた。

「……どうしたの? まだ寝ぼけてる?」
「えっ!? あ、なんでもない! 私もお風呂入ってくるね!」

寝起きだったのは幸いだったのかもしれない。見とれてるってばれなかったから。
慌ててベッドから飛び上がって風呂場へと向かう。
台所で濡れたままだったTシャツや服を脱ぎ捨てて、普通にお風呂に入った。
いつもと違った所は、夏は暑いからシャワーだけにしようかなって思うときもあるのにそれすら思わず湯船に浸かったぐらい。
そしていつもより長く浸かって体洗ったぐらい。うん、それぐらい。
あと、私の部屋の方からかがみの声で「私はバカかぁぁ!!」って叫び声が聞こえたぐらい。
一体何してるんだろ、かがみってば。



「ただいまー」
「お帰り。早かったわね」

かがみよりはね。でも私のいつもの入浴時間と比べると結構遅いよ。
なんて現実を言う事は無く「そうだね」と返し、またしても本を読んでいるかがみの隣に座った。
そしたら……会話が無い。見つからない。どうしよう。
まだまだ寝るのには早いし、落ち着いていつもみたいにゲームでもしようかと電源を入れる。

「ちょっと途中のゲームがあるから、やってもいい?」
「んー、なら私本読んどくから」

一回でも会話の切り口が見つかったら後はいたって簡単だった。
変に気にしすぎだよね、なんて思いながらタイトル画面からロードを選ぶ。



十数分後、前言撤回。
空気はやっぱり気にしないとだめだよね。

『私、あなたが好きなのっ!』

テレビから聞こえる女性の声。
現在絶賛告白シーンですよ。すっごい気まずいよ。
隣のかがみが本を読まずにこっちを見てるのが丸分かりだし。
それでも次に出てくるだろう選択肢に備えてちゃっかりセーブする私。流石だ。
案の定出てきた選択肢で、告白をOKする。
すると攻略した相手は喜んで……うわ! 急に抱きついてきた。
いつもならテンションあがる所なんだけど今は別。
このゲームのシチュ、今の私達と丸かぶりなんだよね。主人公の部屋で、二人っきりっていうのは。
あー、エロゲじゃなくて良かった。というより、流石に友達が来てる時にエロゲは始めないけどさ。
黙々と(というか、言葉を出せずに)ボタンを押してテキストを進める。
進めていたけど、ボタンを押す指を止めた。

『んっ……!!』

現在絶賛キスシーンですよ。
この頃ギャルゲでもそういうのあるよね。そんな詳しい描写されてないけど、声が入るとやっぱりくるものあるよね。
ここでボタンを押さずにいるわけもいかない。だったら……


ポチッと、右手三本左手三本の指で六つのボタンを押した。
ぶつんと画面が一瞬黒くなり、タイトル画面に戻る。
秘儀・ソフトリセット!
タイトル画面に戻して、何食わぬ顔でカセットを取り出す。

「や、やっぱりかがみも参加できるゲームの方がいいよね! 格ゲーとか!」

本音は「あの空気でギャルゲ続けられないよ!」だけど。

「参加できるゲームって言われても、格ゲーでこなたに勝てるわけないじゃない」

何でかがみはそんなに冷静なのさ。私だけ空回りですか?
でも私の顔をじーっと見てたのは間違いじゃないし……ああもう分かんないや。
とにかく、無言は堪えられないしずっと見られつづけるのも堪えられないし、何かゲームしとかないと! って焦って。

「それじゃあ、勝った方が負けた方に――」

今、私はなにを言おうとしたんだろう。
焦りすぎだ。気にしすぎだ。空回りだって気づいてるのに、走っている気持ちが中々止まらない。

「……今、完璧に勢いで言いそうになったわね。で? 勝者が敗者になんだって?」

何でそんなに強気かな、かがみ。嬉しそうだね、何で?
でも言い出しっぺは私だし、勢いとはいえ言っちゃったんだから。

「勝った方が負けた方に、一つ命令できる!!」

ビシィッ! 人差し指を突きつけて言ってみた。
やちゃったーって感じですって気がヒシヒシとするけど、そこはまぁ『勝てばいい!』んだし。

「いいわよ。勝負の方法は? 言っておくけどテレビゲームじゃ私に勝ち目無いからそれ以外でね」
「えー……」

かがみ、完璧勝つ気でいるんだね……
今更撤回は出来ないから部屋を探して、見つけたのはトランプ。
それなら条件は五分五分だろうってかがみも納得して、種目は手っ取り早く『スピード』になったんだけど。



「んじゃ14試合目……赤と黒どっちがいい?」
「もう一回黒で」

赤と黒に分けたトランプの黒柄をかがみに渡す。
地方によってはルール違うみたいだけど、今私達がやってるのはジョーカーを抜いた普通のスピードだから
端のほうにジョーカーが二枚置いてある。
黒いジョーカーが意地を張っている私達を笑っているようだった。

「……手っ取り早いからってスピードにしたけど、むしろババ抜きの方がよかったんじゃない?」
「今更だよかがみ。というより、何かもう意地でスピードで決着つけたいんだよね」
「まぁ、分かるけど」




さー、あと何回ぐらいで勝負つくのかな?


















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  • (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-02-11 20:39:51)
  • >慌てて水を止めても飛び散っても飛び散った水で
    慌てて水を止めても飛び散った水で に修正しました。 -- 名無しさん (2007-09-03 14:26:35)

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