kairakunoza @ ウィキ

いつまでも、この場所で

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だれでも歓迎! 編集
「久しぶりに、皆でカラオケ行かない?」
いつもの四人で歩く、いつもの帰り道。
珍しいことに、遊びの提案をしたのはかがみだった。
「たまには息抜きも必要でしょ。で、どうかな?」
「うん、いいよ! 行こう行こう」
「勉強ばかりだとストレスも溜まりますしね」
笑顔で同意する、つかさとみゆき
「あー、ごめん。今日は私パス」
そう言って、ぽりぽりと頬をかいたのはこなただった。
こと遊びに関しては誰よりも情熱を燃やすこの少女にしては、少し意外な返答。
「何よ、バイトでもあんの?」
ちょっと不満そうに、尋ねるかがみ。
「いや、そうじゃないんだけど……」
こなたはどことなく照れたような表情を浮かべながら、言った。
「……実は今日、ウチのお父さんとお母さんの結婚二十周年記念日なんだよね。
 だから、お祝いの準備とかしないといけなくて……」
「え、そうだったの」
予想していなかった答えに、かがみは少し驚いた。
「それはそれは……おめでとうございます」
「おめでとー、こなちゃん」
「えへへ……ありがとう」
祝福の言葉を贈る二人に、笑顔で礼を返すこなた。
「まあ、そういうことなら仕方ないわね」
「いやー、悪いねかがみ。せっかくのフラグを……」
「は、はあ!? あ、あんたはまたワケのわかんないことを……」
「違うよかがみ、そこは『べ、別にあんたと行きたかったわけじゃないんだからね!』って言わなきゃ」
「……はいはい」
相変わらずのこなたのボケに、溜め息で返すかがみ。もはや阿吽の呼吸に近い。

「でもすごいねー、二十年もの間、お互いを愛し合えるなんて。ちょっと憧れちゃう」
少しうっとりしたような表情でつかさが言う。
「そうですね。そのような相手に巡り合えること自体、まさに奇跡と言えますね」
おおらかな口調で同意するみゆき。
「私達も、いつかはそういう相手に出会えるのかな……」
どことなく遠い目をしているかがみ。
「ま、こんな話をしているうちはなさそうだけどネ」
そして、こんな空気をぶっ壊すのは決まってこなたである。
「あんたねー、もうちょっと場の空気ってもんを……」
「まあまあ、かがみならきっといつかそのうち多分素敵な人に出会えるよ」
「……あんた、遠まわしに馬鹿にしてるでしょ」
「してないしてない」

――そんな、いつもと何も変わらない、いつも通りの帰り道だった。
結局、カラオケはまた四人で行ける日に、ということになり、この日はそのまま解散となった。


「ただいまーっ」
家に着いたこなたは、いつもより三割増しの大声を張り上げた。
「あら、お帰りなさい。早かったのね」
エプロンで手を拭きながら、とたとたとかなたが出迎える。
「そりゃあね。今日はトクベツな日だもん」
「もう、こなたは大げさなんだから」
なぜか誇らしげに言うこなたに、かなたは思わず苦笑する。
「さあて、私も早く手伝わなきゃ。ゆい姉さんはもう来てる?」
「さっき、もうすぐ着くって電話があったわ」
「おーけーおーけー、いよいよ役者が揃ってきたね。さあ早く着替えてこようっと」
とててて、とこなたは階段を駆け上っていった。
そんな娘の背中を、かなたは微笑ましそうに見つめていた。

その後、手伝いにやって来たゆいに、学校から帰ったゆたかも加わって、泉家の台所は一気ににぎやかになった。
「お父さん、いつ頃帰って来るかな?」
じゃがいもの皮を剥いていた手を止めて、こなたはかなたに尋ねた。
かなたはうーんと人差し指を口に当て、時計を見ながら答えた。
「担当さんとの打ち合わせって言ってたから、七時くらいには帰れるんじゃないかしら」
「よーし、じゃあそれまでには完成させて、お父さんをびっくりさせないとね」
腕まくりをして、こなたは再び作業に取り掛かった。
その瞳はどこまでも爛々と輝いていた。

かくして、時計の針が七時を示す頃には、豪華絢爛な料理の数々が食卓を彩っていた。
「ふぅ~、なかなか頑張ったねぇ」
額の汗を拭いながら、満足げなゆい。
「おじさん、早く帰って来ないかなぁ」
そわそわしながら、時計と料理を交互に見ているゆたか。
そんな二人とは対照的に、こなたは心なしかぼんやりとした表情で、一人、椅子に腰掛けていた。
「どうしたの? こなた」
そんなこなたの様子を見て、かなたが少し心配そうに声を掛ける。
「ん……なんか、不思議な感じがして」
「不思議な感じ?」
「うん。なんていうか……こういう日をこうやって皆でお祝いできるのって、実はすごいことなんじゃないかな、とか考えちゃったり」
いつになく、しんみりした声で言うこなた。
「こなた……」
かなたはそっと、こなたの頭に手を置いた。
「お母さん?」
「そうね……そうかもしれないわね」
「…………」
「私とそう君の結婚記念日を、こうしてこなたや、ゆいちゃん、ゆたかちゃんが祝ってくれて……
 それは実は、奇跡みたいなことなのかもしれないわね」
かなたは、どこまでも優しい目をしていた。
「……二人とも、急にどしたの? しんみりしちゃって」
なんとなく別の世界にワープしそうな親子二人に、ゆいが声を掛ける。
「ん……何でもないよ、ゆい姉さん」
「ええ、何でもないわよ、ゆいちゃん」
瓜二つな笑顔で返す、こなたとかなた。
「んー、まあ、それならいいんだけど」
なんとなく引っかかりは感じるものの、幸せそうな二人の表情を見ていると、ゆいもそれ以上追求しようという気にはならなかった。


「そだ! ゆい姉さん!」
そんなしんみりムードを取っ払うかのように、こなたが声を上げた。
「ん? どったの?」
「アレ、買って来てくれた?」
「ああ、アレね! もちよもち!」
ぐっと親指を立てるゆい。
「「?」」
キョトンとしているのはかなたとゆたかだ。
「こなた、ゆいちゃん。何なの? アレ、って」
なんとなく嫌な予感を抱きながら、尋ねるかなた。
「「ふっふっふっ……」」
こなたとゆいの目が怪しく光った。

「ただいま~」
そうじろうは家の扉を開くと、いつもより気持ち大きめの声を出した。
「…………」
しかし、返ってきたのは沈黙。
「あれ?」
訝しげに思いながら、廊下を歩く。
「聞えなかったのかな?」
独り言を呟きながら、そうじろうがリビングのドアを開くと……

パーン!パーン!パーン!パーン!

耳をつんざくような四連続の破裂音に、思わずそうじろうは目を瞑った。
「お父さん、お母さん、結婚二十周年おめでとう!」
続いて、これまたそうじろうの鼓膜を震わす大きな声が響く。
そうじろうがゆっくりと目を開くと、笑顔を称えた四人の姿が目に入った。
「???」
そうじろうは、何がなんだかわからない、といった表情をしている。
ふと、そうじろうは、何かが頭に乗っていることに気付いた。
手に取ってみると、それは色とりどりの紙テープだった。
そして目の前には、悪戯に成功した子供のような表情を浮かべている、こなた。
その手に握られている物を見て、そうじろうはようやく、自分を襲った現象が何だったのかを理解した。
「まったく……心臓が止まるかと思ったじゃないか」
「えへへ、ごめんごめん」
「でも……ありがとうな、こなた」
「……ん」
そうじろうの感謝の言葉に、こなたはちょっと照れくさそうな笑みを浮かべた。
「いやいや、ホント~におめでとうございます」
「これからも、ずっとずっと、夫婦仲良く過ごして下さいね」
こなた同様、クラッカーを手に持ち、とびっきりの笑顔で祝福の言葉を贈るゆい、ゆたか。
「ああ、ありがとう。ゆいちゃん。ゆーちゃん」
……そして。
「お、おめでとう……そう君」
少し恥ずかしげに、頬を赤く染めて言う、かなた。
例に漏れず、その小さな手にも、やはり祝いの小道具が握られていた。
「かなた……何も、お前までやることないんじゃないか?」
「だ、だって……こなたやゆいちゃんがどうしても、って言うんだもの」
バツの悪そうな顔をして、もじもじとしているかなた。
そうじろうはふっと溜め息を一つつくと、その小さな体を抱きしめた。
「あ、ちょ、そう君……」
「……おめでとう、かなた」
「……うん」
すっぽりとそうじろうの腕の中に収まってしまったかなたを、こなた達は微笑ましく見つめていた。


……その後の晩餐は、いつになくにぎやかなものとなった。
笑いの絶えない、幸せに満ち溢れた食卓。
そうじろうとかなたにとってはもちろん、こなた、ゆい、ゆたかにとっても、最高の結婚記念日となった。
しかし、時間はいついかなる時も平等に流れるもので、楽しい宴も夜の十一時を回ったあたりでお開きとなった。
明日も仕事のゆいは名残惜しそうに帰宅し、ゆたかは宿題があるからと自分の部屋へと戻っていった。
そんなわけで、今テーブルについているのは泉家の親子三人だけとなっている。
だがそれでも、楽しげな雰囲気に変わりはなかった。
「でさー、かがみがね……」
「あらあら」
「ははは、かがみちゃんらしいな」
楽しそうに話すこなたに、笑顔で相槌を打つかなたとそうじろう。
温かな空気が、その場を包んでいた。

「……おっと、そろそろ風呂が沸いた頃だな。どうだ、たまには親子三人水入らずで――」
にこやかに言いかけたそうじろうだったが、刹那、かなたの氷の如き視線に射抜かれ、思わず言葉尻を飲み込んだ。
「じょ、冗談だよ、かなた……」
「……まったく、こなたはもう年頃の女の子なんですからね。そういう冗談は慎んでください」
「わかってますって……あ、じゃあ俺と二人で入るのはいいのか? かなた」
「なっ!」
そうじろうの発言に、ボッと茹蛸のように赤くなるかなた。
「も、もう! いいから、早く入ってきてください!」
「はは、それじゃあお先に……」
なかば急き立てられるように、そうじろうは風呂場へと去って行った。
「もう……ほんと、いくつになっても変わらないんだから」
「………」
まだ顔を赤くしているかなたを、こなたがにんまりとした表情で眺めていた。
「な、何? こなた」
「ん~? 別に~?」
にやにやとしているこなたを見て、かなたはますます赤くなった。
「あ、あんまり親をからかうんじゃありません」
「だってかわいいんだもん、お母さん」
「か、かわ……」
「あ、そうだ。食器洗わないと」
また沸騰しそうになったかなたを尻目に、こなたはすっくと立ち上がった。

台所の前に立ち、蛇口をひねる。
涼しげな水の音が、部屋に響いた。
「……ねえ、お母さん」
「な、何?」
まだ何か言うつもりなのかと、身構えるかなた。
しかしかなたの意に反して、こなたはいつになく真剣な声で尋ねた。
「お母さんはさ、なんでお父さんを選んだの?」
「えっ……」
「…………」
蛇口から出る水の音と、スポンジで食器を擦る音だけが、無機質に響く。
「な、なんでって……そうねぇ」
おほん、と軽く咳払いしてから、かなたは言った。
「……あの人が、唯一絶対の自信を持っているところを、私に見せてくれたから……かな」
「絶対の自信? 何それ?」
「ん~……それはまた今度」
「えぇ~。何それ、ずるい~」
「だ、だって……恥ずかしいんですもの」
食器を洗っているこなたからは、かなたの様子をうかがい知ることはできなかった。
だが、きっと幸せそうな顔をしているんだろうなと、こなたは思った。


それからしばらくの間、こなたは背中越しにかなたとお喋りをした。
どんなに他愛のない話でも、かなたは一生懸命耳を傾け、相槌を打ってくれた。
それはこなたにとって、何より嬉しいことだった。
そして、何より楽しいことだった。


……でも、なんだろう?

この気持ちは。
楽しいはずなのに、どこかで大きくなっていく、この気持ちは……

まるで、気付いてはいけない何かに、気付きかけているような……

……いや、違う。

これでいい。
これでいいんだ。

母と。
父と。
従姉妹たちと。
親友たちと。

皆で過ごすこの日常に、嘘があるはずなど……ないのだから。


自分の中で膨らんでいく、とりとめのない、もやもやとした感情を消し去るように、こなたは饒舌に喋り続けた。
かなたは変わらず、楽しそうにこなたの話を聞いていた。

……それからほどなくして、こなたの話が一段落した時だった。

「……ねえ、こなた」
「…ん?」
「……お母さん、そろそろ……」
「――」

その時、食器を洗っていたこなたの手が止まった。

「……ごめんね……ほんとはもっと…」
「…………」
「こなたと、一緒に……」
「…………」

蛇口から流れる水の音だけが、冷たく響いていた。

「あ! そういえばお父さん! お風呂長くない?」
不意に、大きな声でこなたは言った。
いつの間にか、その顔からは笑みが消えていた。
「うん、長い! 長いよこれ絶対! 私、ちょっと様子を……」
「…こなた」
優しく、それでいて少し強めの、かなたの声。


「…………」
「ごめんね、こなた…」
心から申し訳なさそうに言う、かなた。

「……やだ」
だがこなたの口から出たのは、拒絶の意思表示。

「……こなた……」
「やだ」
「…………」
取り付く島もない、といった感じのこなたの口調に、かなたは困惑気味の表情を浮かべる。

「……ごめんね」
「やだぁ!」
こなたは手に持っていたスポンジをシンクに叩きつけると、勢いよく振り返った。
と、同時に驚いた。
かなたが、いつの間にか自分の真後ろに立っていたのだ。
かなたは、透き通るような優しい目で、こなたを見つめていた。
「……やだ、よぅ……」
こなたはぎゅっと、かなたに抱きついた。
こなたの瞳から、大粒の涙が零れる。
「……大きくなったわね。こなた」
かなたもそっと、こなたの体を抱きしめる。
「……お母さんが小さいんだよ……」
「ふふ……そうね」
かなたはいとおしそうに、こなたの頭をゆっくり撫でた。
でも、こなたの涙は止まらない。
「なんで……なんでなの……?」
「…………」
「私だって、もっとずっと、一緒に……」
「ごめんね……こなた」
かなたは両手をこなたの背に回し、ぎゅっと抱きしめる。
強く、しかし優しく……抱きしめる。

「ありがとう」

その言葉と共に、背中にあった感触が薄らいでいく。
こなたがはっと顔を上げると、にじんだ視界に母の顔が映った。

「おかあ……さん……」

最後に見た母の顔は、全てを包み込むような……柔らかな笑顔だった。




……涙を拭い、ゆっくりと目を開く。

そこにはもう、何もなかった。

暫くの間、こなたは呆然と立ち尽くしていたが、ドアの開く音で我に返った。
「ふぅ~、いい湯だった~」
タオルを首に巻きながら、ほくほくと湯気を立ち上らせてそうじろうがリビングに入ってきた。
「ん? どうした? こなた」
「ん……何でもない」
こなたは再び洗い場に向き直ると、スポンジを手に取り、少し水でしめらせた。
「……ねえ、お父さん」
「ん?」
食器を洗いながら、こなたは尋ねた。

「お母さんのこと、今でも愛してる?」

蛇口から流れる水の音。
スポンジで食器を擦る音。

そしてこなたの耳に届く、たった一つの言葉。


「もちろん」







――ねえ、お母さん。


お母さんの居場所は、ここにあるから。

ずっとずっと、ここにあるから。

だから、またいつか……。


ね、お母さん。




fin.













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  • かなたネタを使うとは卑怯者め!!
    …泣いちゃったじゃないか -- 名無しさん (2011-04-28 18:58:14)
  • あぁ、切なくも優しい。
    GJヽ(;▽;)ノ -- ユウ (2010-04-13 01:57:28)
  • 作者様、スイマセン!! 
    多数作品が保管されてる『保管庫』において、何故今まであなたの作品に出逢えてなかったのでしょう。
    もう一回読み返して泣いてきます。GJ!!! -- kk (2010-02-14 22:59:16)
  • 泣ける・・・ -- 名無しさん (2010-02-14 19:22:33)
  • すばらしい……GJ!!! -- コメント職人U (2010-02-13 23:38:40)
  • ↓無意味な争いwwww -- 名無しさん (2010-02-13 23:23:48)
  • 一言言わせてもらいます。
    泣きました。

    ってことだろ。 -- 名無しさん (2008-10-12 23:44:39)
  • 二言になってますね

    一言、「泣きました」
    ↑    ↑
    一言目  二言目 -- 名無しさん (2008-09-24 20:31:22)
  • 一言、「泣きました」 -- 名無しさん (2008-09-05 13:05:04)

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