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想いを乗せて

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 彷徨う心の続き



 「今度の土日、みんなでどこか旅行に行かない?」

 お姉ちゃんのそんな一言から始まった。


 十一月某日。

 紅葉も時期を過ぎ、寂しげに映る街並み。人々の心も服の露出と共に閉じていくような気さえする。
 春と秋は似てるような気がするのに、秋が何故か終わっていくような悲しさを感じさせる。
 そんな涼しいのを通りこし、少し肌寒く感じてきた頃だった。

 日常を非日常に変える。それは案外容易なことなのかもしれない。

 その場にいた全員が、特に断る理由も見つけられず、とはいっても断ろうと思っていたメンバーはいない
と思うけれど、全員が二つ返事で行くと答えのだった。

 「今月はテストとかもないし、たいした行事もないしね」なんておねえちゃんは言っていたけど、本当の
理由がなんなのかこの時の私にはわからなかった。


 そして今、私達は新幹線の中にいた。


   ―想いを乗せて―



「わぁ~このへんはまだ紅葉が綺麗だね~」
 窓から見える景色は、鮮やかな紅葉の色で埋め尽くされていた。
「結構地域によってずれがあるのね~」
「本当に綺麗ですね~」

「それとこれとあれください」

 私達三人が秋の景色を楽しんでいる中、こなちゃんは車内販売のお姉さんを引きとめ、お菓子を大量に買
っていた。

「あんたそんなに買ってどうするのよ……」
「いやーなんか限定ってみるとつい」
 限定という言葉に釣られてしまうのは日本人の宿命なのかな。
「ほらほらみんなも食べなよ。かがみの好きなポッキーの緑茶ミルク味もあるよ」

「へぇ~そんなのあるんだ。じゃあ一本もらう」
「どぞどぞ」
 こなちゃんに差し出されたそれを三人で一本づつ貰い食べる。
「あっおいしいわねこれ」
「ほんとだ緑茶の味がちゃんとするね」
 ほのかな緑茶の味と濃厚なミルクが絶妙に絡み合っていた。
「限定商品って結構まずいの多いけどこれはいけるねー」
「おいしいですね」
 全員に好評だったようだ。緑茶のお菓子も結構良いかもしれない。今度何かに使ってみようかな。

 こんな風においしいものを食べるとみんな笑顔になる。私はそれが好きだった。

 私が料理をするようになったのは料理自体が好きなんだけど、結局はそれも同じ理由で、こうやって人を
笑顔にできるから。私は面白いことも言えないし、話が上手な方でもない。でも、私が作ったものをみんな
がおいしいと笑顔で言ってくれる。私でも人を笑顔に出来るんだと、自信をもてた。
 その中でも特にお菓子は、途端にみんなを笑顔にする。だから一番好きだったりするんだ。


 みんなが笑ってる。お姉ちゃんもゆきちゃんもこなちゃんも。

 私達はもうすぐ卒業する。こんな風に笑い会える日も、もう数えられるくらいしかないなのかもしれない。

 ――あ。

 そうか、そうだったんだ。何故この時期にお姉ちゃんが旅行なんて言い出したのか、今わかった。

 来月、クリスマスが来たら、きっと私達の関係は少なからず変わってしまう。それは私自身が望んだこと
であり、招いた事だけど、きっと今みたいな気持ちで卒業旅行には行けない。だから今、お姉ちゃんはこの
旅行を計画したんだ。

 四人でただ笑いあえる今だからこそなんだ。


「あ、そろそろ名古屋だねー。名古屋限定お菓子は何かな~」
「また買うのかよ!」
「だって名古屋限定だよ! 味噌カツポッキーとかはあったとしてもまずそうだけどね」
「味が想像できないや」
 味噌の甘さとチョコの甘さは合わないような……。
「チョコって考えるからダメなのかもね、棒に味噌カツ塗ってあるなら食べれそうじゃない?」
「いや、そしたらもうそれポッキーじゃないわよ」
「あ、そっか」

 結局こなちゃんは、名古屋でも大量にお菓子を買い漁っていた。残念ながら味噌カツポッキーはなかった
らしい。
 大阪についたころにはもうみんなのお腹はいっぱいになっていた。


「もう……大阪でたこやきとか食べようと思ったのに食べられないじゃない!」
「あれーお菓子は別腹じゃなかったー?」
 こなちゃんはにんまり顔でお姉ちゃんをからかう。
「私にだって限度ってもんがあるわよ!」
「夜にお好み焼きでも食べようよ。ね、お姉ちゃん」
「……うん」
「じゃあ時間ももったいないし、急いでUSJへ!」
 こなちゃんは元気に飛び上がった。


  * * *


 さすがに土曜日なだけあって、園内は人、人、人だった。

「うわーすごい人だね」
「土曜日だし、今の時期って修学旅行も多いのよねー」
「そういえば制服の子が多いね」
 見渡した限りでも制服を着た子が多く見受けられた。
「どれから乗る!?」
 こなちゃんは子供のように、はしゃいでいた。
「あんたは何から乗りたいのよ」
「初めてだからどれが面白いのかわかんないし、とりあえず手前から行こう!」
 こなちゃんは一人スキップでどんどん歩いていく。
 私達三人はこなちゃんに続いて歩き出した。

 こなちゃんはしばらくして振り返って、手を大きく振ると「こっちだよー」と叫んだ。

「あの恥ずかしい奴どうにかしてくれ……」
「あはは……」
 乾いた笑を漏らす私達にはお構いなしに、こなちゃんは再度叫んでいた。

 いくつかの乗り物に乗った後、こなちゃんがフラフラーと何かのお店に入っていった。それに続けて着い
て行くと、そこはフェイスペインティングの店だった。
「ね、これやろうよ!」
 こなちゃんの目は輝いている。
「嫌よ!」お姉ちゃんは即答。
「えー。やろーよー」
 こなちゃんは子供のように駄々をこねる。
「やりたかったらあんただけやりなさいよ」
つかさとみゆきさんも嫌?」
「私もちょっと……。すみません」
 ゆきちゃんは本当に申し訳なさそうだ。
 ちょっと抵抗はあるけど、私は嫌というわけでもなかったし「いいよ」と答え、結局私とこなちゃんだけ
がやる事になった。

 ペイントが終了し、私達はお姉ちゃんとゆきちゃんにお披露目する。

「ぷ……ふははははははは」
 お姉ちゃんはお腹を抱え涙を流すほど笑った。
 そんな笑わなくても……。心なしかゆきちゃんも笑いを堪えてるような……。

 しかし、こなちゃんは臆することなく、
「スパイダーマン!」
 ポーズをとっていた。

 その日は一日遊びまわった。全部の乗り物にのって、パレードをみて、サメに食べられる写真を撮ったり
なんかして、全部が胸の中に残っていく。
 今から写真を現像するのが楽しみでしょうがない。


  * * *


 そして夜は予定通りお好み焼き。
「こっちって本当にもんじゃがメニューにないんだねぇ」
 こなちゃんはメニューを眺めながら呟いた。
「そういえばそうね。まぁこっちにきてまで食べたいとは思わないけど」
「それにしても、まだなのかな……」

 目の前に並べられたお好み焼きにもう既に十分以上お預けを食らっている。

「でも、焼くのは店員にまかせろって張り紙あるし……」
「生殺しだよぅ……」

 結局食べれたのは二十分ほどたった頃だった……。
 でも待たされたせいか、みんなで食べたせいか、今まで食べたどんなお好み焼きよりもおいしいと思えた。

 料理のおいしさで人を笑顔にできるけど、それにはきっと限界がある。どんなにおいしいものでも、大切
な人たちと一緒に食べないと本当の意味で笑顔にはできないんだ。家のご飯が一番おいしく感じるのはきっ
とそういうことなんだと思う。

 私はこの大切な人たちと食べたご飯を噛み締めるように味わった。



  * * *



「ジャンケン、ポン」

 一斉に出された四本の手。
 グー、グー、グー、パー。

「やたー! 私いっちばん! んで窓側~」
 こなちゃんはベッドの上で飛び跳ねる。

「これも一応ゲームだからか……」
 いきなりこなちゃんの一人勝ち。

 私達はホテルに着き、お風呂の順番とベッドの場所をジャンケンで決める事にしたのだ。

 次に勝ったゆきちゃんは申し訳なさそうに謝っていた。

 そして残ったのが私とお姉ちゃん。

 何で二人が残ったかというと、二回戦もチョキ、チョキ、グー。と私とお姉ちゃんが同じ手を出したに他
ならない。

 そして、「ジャンケン、ポン」と出された七回戦目。
 また パー、パー。

「さすが双子~。いいシンクロ率してるね~」
 こなちゃんはニンマリとして楽しそう。

「シンクロ率言うな! ってかつかさぁ! 同じ手ばっかだすなー!」
「えぇっ私のせいなのっ」
 同じ手を出してるのは同じなのに、なんで私が怒られるんだろ……。理不尽だよぅ。
「もう二人一緒に入ればー? とにかく私は入ってくるよー」
 こなちゃんは着替えを持ってバスルームへと歩いていった。

 それから何戦かやった。しかし決着がつくことは無かった……。
「私、次パー出すから」
「えっ」
「もう勝ち負けとかどうでもいいから終わらせたい」
「それって勝たせてくれるって事?」
「そういうこと。まぁ私が違う手出すかも知れないけどねー」
 お姉ちゃんは白い歯を見せた。
「それって終わんないんじゃ……。」

「いくよ! ジャンケン、ポン!」
「うわっ」
 急な掛け声に、思わずチョキを出した。

 パーとチョキ。

「勝っちゃった……。ありがとうお姉ちゃん」

「いいわよ、私を信じたからでしょ」
「え……?」
「私がパー出すって言った事信じたからでしょ」
 確かにそうだけど、そこまで考えていたわけでもないんだけど。
「そうかもしれないけど……、でもありがとう」
「はいはい」


「ふーさっぱりしたー」
 こなちゃんがあがり、続けてゆきちゃんが入る。
 バスルームから出てきて髪を拭くこなちゃんの仕草を見てふと思った。
「そういえば、私以外みんな髪長いから乾かすのとか大変そうだよね」
「あーそういえばそうね、私やみゆきはともかくとして、こなたって結構そういうことめんどくさがりそう
だから、短くしそうなのに」
「私がやるコスプレのキャラって長髪が多いんだよねー、やっぱカツラじゃ表現できないリアリティってい
うのかなー? そのために髪は伸ばしといて損ないんだよ」
「結局そういう理由か、相変わらずそういうことの為には努力するんだな……」
「かがみはそのままでもコスプレみたいだけど」
 こなちゃんはボソっと呟く。
「なんか言ったか!」
「ほわぁ~」
 聞こえてたみたい。

 こうやってふざけあう事って、できる人にとってはきっとなんでもないことなんだろうけど、私は羨まし
く思うんだ。
 でも、それはやろうとしてこなかったからなのかな。
 私にもこんな風に、こなちゃんとふざけあうことができるんだろうか。

 ドアの開く音が現実に引き戻す。

「お先に頂きました」

「あっじゃあ私入って来るね」


 お風呂からあがると、こなちゃんは遊び疲れたのか既に寝息を立てていた。
「こなちゃん寝ちゃったんだ」
「さっきまで起きてたんですけどね」
 ゆきちゃんはこなちゃんの寝顔を見ながら優しく微笑んだ。
「じゃ、次は私入ってくるわね」
 お姉ちゃんがバスルームへ行き、私は窓際へいって外を見渡した。さすがに中心部のホテルなだけあって、
周囲はビルが沢山あり、そこから漏れる光が綺麗に交錯していた。
「イルミネーションが綺麗だねー、こういうのみると都会って感じするね」
「そうですね、埼玉も都会な方ですけど」
 右手に先ほどまで居たUSJが見えた。
「今日楽しかったね」
「ええ。かがみさんに感謝しないといけませんね」
「うん、そだね」

 ゆきちゃんも私の隣にならんで、外を見渡した。

 ガラスに私とゆきちゃんが映る。

 私はそのガラスに映ったゆきちゃんに向かって、
「ゆきちゃん……ごめんね」
 ずっと言いたかった言葉を言った。
「なにが……ですか?」
 ゆきちゃんは本当に何かわからないといった様子で頭にハテナマークを浮かべる。
「私のせいで、ゆきちゃんには気まずい思いとかさせちゃってると思うから……」
 その言葉で意図することをわかってくれたようで、
「そんなことないですよ。でも、もしそうだとしても、それは友達だからだと私は思ってますよ?」
 ガラスに映ったゆきちゃんは微笑んだ。 

「ゆきちゃん……」
「私にとってつかささんも泉さんも大切なお友達ですから、無責任にがんばれとは言えませんけど、でも、
みんなにとって後悔しない未来であればいいなと思っています。私のわがままでしょうか」
「ううん、ありがとうゆきちゃん」

 私は精一杯の笑顔で、ガラス越しのゆきちゃんに微笑んで見せた。

 私は幸せ者だと思う。こんなにいい友達をもてて。

「がんばれ」という言葉よりもゆきちゃんの言葉はずっとずっと私に勇気をくれた。


「ふぅ~、ん、何見てんの?」
 バスルームから出てきたお姉ちゃんは、バスタオルで髪を拭きながら窓際へと歩いてくる。
「夜景が綺麗だなって。ね、ゆきちゃん」
「ええ」
「都会って感じねー。たまにはこういうの見るのも良いわね」
「うん、私今日のことずっと忘れないよ」
「私も忘れません」
「私だって忘れないわよ。約一名寝てらっしゃる方がいますけどねー」

 三人の視線は同時にこなちゃんに向けられる。

「泉さん走り回ってましたから、疲れてしまったんでしょうね」
「こうやって夜にみんなでしゃべるのも旅行の醍醐味なのにね」
 呆れたように口ではそういいながらも、こなちゃんを見るお姉ちゃんの瞳は、今まで見たどんな瞳よりも
優しくみえた。

「とは言っても、明日も早く起きて色々まわりたいし、私達もそろそろ寝るかー」
「そうだね、明日はたこ焼き食べたいな」
「そうですね、大阪に来たからには食べて帰らないといけませんよね」

 三人で顔を見合わせて微笑んで、私達はそれぞれのベットでその日を終えた。

 次の日も大阪周辺をいろいろと見て回り、帰りの新幹線はみんな疲れて寝てしまっていた。

 あっというまに過ぎた一泊二日の旅行。
 たった二日間だったけれど、その非日常は私の胸に沢山のものを残してくれた。

 お姉ちゃんの一言がなければただの日でしかなかった日が特別な日に変わった。


 私にも何か変えることができるのかな……?

 そんなことを考えながら、四人で撮った写真を写真立てに入れた。
 その写真の中で私達はとてもいい笑顔で笑っていた。




第四章「冷たい風と暖かい手」へ続く。













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