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彷徨う心

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「はい、こなちゃん」

 私は作ってきたお弁当をこなちゃんに差し出した。

「え? 私の……?」
こなちゃんは受け取りつつも、驚きの表情を見せる。
「うん、こなちゃんの為に作ってきたんだよ」
「ありがと。なんかギャルゲーに出てくる幼馴染みたいでいいね」
 こなちゃんはいつもの顔に戻って言った。
「幼馴染って他にどんなことするの?」
「うーん、そうだなー朝起こしてくれるのはデフォかなぁ」

 こういう話をするこなちゃんはとても楽しそう。いきいきしてるっていうのかな。
 そんなこなちゃんを見てると私も楽しい。

「じゃあ明日から毎日起こしてあげる」
「人に起こしてもらってる分際で何言ってんのよ」
 お姉ちゃんは手の甲でコツンを私の頭を叩いた。
「はぅ……こなちゃん起こす為ならちゃんと起きるよ~」
 私は頭をさすりながら抗議する。
「どうだか……今だってつかさのせいで遅れそうなんだけど?」
 お姉ちゃんは哀れんだ目で私を見ていた。
「そっそれは、お弁当作るのに時間がかかったからだよっ」
「それを見越して起きないのが悪い」
「むぅ……」
 反論できない自分が悔しい。



 私達には私達で決めたルールがある。

 私はこなちゃんに振り向いてもらえるように頑張る。
 お姉ちゃんは、こなちゃんがそれでも自分を好きなら付き合うと決めた。

 こなちゃんはそれを知らない。

 期限はクリスマス。その日は後3ヶ月というところまで迫っていた。



   ―彷徨う心―



「それにしても、私もつかさも懲りないよね~。あっこれおいしい」
 昼休み、こなちゃんは私が作ったお弁当を食べながら呟いた。
「うん、だって片想いは自分がやめなきゃ終わりがないもん」
 あきらめたらそこで試合終了。こなちゃんがよく言う言葉だ。

「確かにねー」

 こなちゃんは私の気持ちを否定しなかった。受け入れられたわけじゃないけれど、それだけで私は嬉しか
った。
 それにこなちゃんは少し優しくなった。同情かもしれない、だけど私はそれでも嬉しかったんだ。
 もしかしたら、本当に振り向かせる事ができるんじゃないかって、少しでも希望を持つ事ができるから。

「ここだけまだ夏みたいですね」

 ゆきちゃんの言葉に、一瞬私とこなちゃんのお箸が止まる。
 こなちゃんは私の気持ちを知っているし、それでもがんばると決めてから普通にこんな話もするようにな
っていたけれど、良く考えたら普通じゃないよね……。今更恥ずかしくなって私は何も答えられなかった。

「みゆきさんがそういう冷やかすような事言うのいがーい」
「冷やかすというのは、相手を困らせたり恥ずかしがらせる事を言うことをいうので、この場合当てはまり
ませんね」
 ゆきちゃんは頬に手をあてると、ニコっと笑って言い退ける。
「私は大丈夫だけど、つかさが顔赤いよー?」
 こなちゃんはニヤリと笑った。
「え!? あっあぅ……」
「すっすいません、つかささん。仲がいいということを言いたかっただけでして、恥ずかしがらせるつもり
はなかったんですけれど……」
「あはは、それにしてもみゆきさんの頭の中ってあらゆる辞書が揃ってそうだよねー。あっみゆきさん『萌
え』って何かわかる?」
「『萌え』ですか? 確か……」
「頭の辞書にあるんだ……」
 こなちゃんは小さく呟く。
「2004年の流行語大賞にノミネートされた言葉ですよね。一般的に架空のキャラに対する愛情というの
をどこかで読んだ気がします」
「さすが……」
「こなちゃんも答えられなかったもんね」
「そうなんですか?」
 こなちゃんは胸に手を当てると、
「『萌え』は心で感じるものなのだよ、実際定義や語源も未だに曖昧なとこあるし」
「へぇ~、じゃあ、こなちゃんは私で萌える?」
「つかさは、そういう普通言いにくいことを言ったり、自覚してないところが萌えポイントかな~」
「え!? 私そんな変なこと言った?」
「いや~つかさはそのままでいいと思うよ~うん。ボ――癒しキャラは必要だからねぇ」
「たしかに、つかささんと居ると癒されるってわかる気がします」
「みゆきさんも、人のこと言えないんだけどね~」
「え? 私ですか?」
「二人そろって自覚してないところが天然で萌え~」
 こなちゃんは万歳をしてそのまま仰け反った。


「へぇ~ツンデレツンデレ言ってくるくせに、何でもいいんだぁ?」
「あ……」
 お姉ちゃんはいつの間にかこなちゃんの後ろに居て、仰け反ったこなちゃんを見下ろしていた。
「やぁ、かがみ、元気そだねー……」
「おかげさまで」
 お姉ちゃんは皮肉で返す。
「ったくあんた達は教室でなんていう会話してるのよ、しかもみゆきまで」
「すみません」
 この前はそんな会話をお姉ちゃんもしてたような……。

 お姉ちゃんは横の席から引っ張ってきた椅子に座りお弁当を広げると、こなちゃんに向かって意地悪に微
笑んだ。

「で、つかさに萌えたんだ?」
「え? いや……その……、デレも嫌いじゃないっていうか、その…………これなんてエロゲ? 初めてへ
たれ主人公の気持ちが少しわかったよ……」
 こなちゃんはたじたじとなってはいたが、お姉ちゃんが来るとやっぱり嬉しそう、きっと自然と頬が緩ん
でる。当たり前のことなのに、それを見るたびに現実を突きつけらて、泣きそうになる。

「あんたって、そういうゲームやってるから、こういうときの対処の仕方心得てると思ってたけど?」
「二次元と三次元は別物っていうのかなー。二次元だと当たり前すぎて耐性ついちゃうのかも」
「そういうもんかしらね、私にはよくわかんないわ」
「あ、でもツンデレも好きだよ?」
「それは私を怒らせようとしてるわけ?」
「そういうわけじゃないんだけど、でも最近かがみはツンが少し取れた気がする」
「はぁ?」
「ツンデレには変わりないんだけど、なんていうのかなー萌えってむずかしぃ」
 こなちゃんは頭を抱えた。
「いや、そんな真剣に悩まなくてもいいから……」

 こなちゃんが言っている事が私にはなんとなくわかったんだ。
 きっとそれはお姉ちゃんの心の変化。
 表面的な優しさじゃないけれど、お姉ちゃんはこなちゃんに対して前より優しくなった。
 こなちゃんは気づいていないかもしれないけど、こなちゃんが私に対して優しくなったことと、お姉ちゃ
んのそれは違うんだよ。

 でも、私はそれを喜べない。
 良いことのはずなのに。私が望んだはずのことなのに。

 素直に喜べないのは、私の心の狭さなのかな……。

「つかささん?」
「え? なぁに? ゆきちゃん」
「いえ、私の気のせいだったようですお気になさらず」

 ゆきちゃんは何事も無かったかのように微笑んだ。
 どうしたんだろう?



 私が食べ終えたお弁当を片付けようとすると、
「今日のお弁当もおいしそうでしたね」
 ゆきちゃんはそれ見て言った。
「えへへ、がんばっちゃった」
「よかったら今度作り方教えていただけますか?」
「うん! いいよ。今度レシピももってくるよー」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
「かがみもつかさに教えてもらえば上手くなるんじゃないのー?」
「大きなお世話よ! つかさが上手いから相対的に下手に見えるだけよっ」
「かがみとみゆきさんが勉強できるから、私とつかさが相対的に勉強できなく見えるのと同じだね」
 なるほど、そうだったんだ。
「何を都合の良い事言ってんのよ、それにあんたの場合できないっていうよりやらないだけでしょうが」
「やってもその先に何もないと燃えないんだよねぇ、エンディングCGとかさ」
「またゲームかよ……って―もうこんな時間、そろそろ教室戻るわ」
 お姉ちゃんはお弁当を片付け立ち上がり椅子を戻そうとして、何かを思い出したようにポンを手をついた。
「あっそうそう今日、峰岸達と寄り道して帰るから先に帰ってて」
「うん、わかったー」
 椅子を直し終えると、お姉ちゃんは教室から出て行った。その姿が見えなくなると、
「なんかさ~子供みたいだけど、仲いい友達が他の子と遊びに行ったりすると嫉妬しちゃうよねぇ」
 こなちゃんは机に顔をのせたまま、口を尖らせた。

 いつの間にかそういうこと思わなくなっていくけど、きっとこなちゃんのその気持ちは子供の時のそれと
は違うよ。それがお姉ちゃんじゃなかったら、きっとそうは思わないんじゃないかな……。

「みゆきさんってそういう嫉妬とかしなさそうだよね」
「そうですね。あまりそういうことを思ったことないかもしれないですね」
「つかさはすごい嫉妬しそう」
 こなちゃんはニヤリと笑った。
「えっ! 私ってそんなイメージ!?」
 こなちゃんはゆきちゃんと顔を見合わせる。
「だって、ねぇ?」
 ゆきちゃんは答える代わりにニコりと笑った。

 え? え? 私ってそんな風に思われてたの?

「でも、そういうところかわいいと思いますよ」
 ゆきちゃんまで肯定!?
「褒められてる気がしないよぅ~」
「やーつかさはそのままでいいって」

その時、先生が教室に入ってきた。
「席つきや~授業はじめるでー」
私達は慌てて雑談を中断し、ゆきちゃんは慌てて自分の席へと戻っていき、私も椅子を前に向けた。



 私とこなちゃんとゆきちゃん。クラス水入らず? こんな言葉ないか。

 三人での帰り道。やっぱりお姉ちゃんがいないと少し物足りない。きっとそれは二人も感じている事で、
こなちゃんはいつもより口数が少ない。

「かがみ達どこいったんだろうねー」

 でも、その少ない言葉数でさえもお姉ちゃんのこと。

「カラオケとかかなぁ? お姉ちゃん久々に行きたいとか言ってたし」
「じゃあ私達とでもいいじゃん」
「峰岸さん達もお姉ちゃんの友達だから」
 私は苦笑しつつフォローしてみる。こなちゃんの気持ちもわからないわけじゃないんだけどね。

「それはそうだけどさー」
 こなちゃんはほっぺたをプクーと膨らませた。
「ふふ、寂しいんですよね、かがみさんがいないと」
 ゆきちゃんはこなちゃんを見て微笑みながら言った。
「寂しいっていうか、なんか物足りないんだよつっこみがいないとさー」

 それって寂しいってことだと思う……。

「そういやつかさは向こうのクラスに行ったりしないよね」
「え……?」
「かがみはよくうちのクラス来るじゃん。それってつかさと双子だからでしょ」
「うーん、そういえばそうだね」
「じゃあ、つかさがかがみのクラス行ってもいいわけだよね」
「確かにそうだけど、なんとなく自分のクラス以外の教室に入るのって躊躇ったりしない?」
「なんとなくわかるかも。高学年の廊下歩いたりするのと同じ感じだよね、立ち入っちゃいけない、敵の領
地みたいな」
「たしかに少し威圧感を受けますね」

「でもかがみって、私達のクラスのみんなとも結構話してるし、馴染んでるよね」
「お姉ちゃんは昔から人付き合いが上手だから」
「世渡り上手ってやつかー、悪く言えば八方美人だけど」
「でも、かがみさんは言う事はハッキリいいますし、八方美人とは少し違うような気もしますが」
 ゆきちゃんはいつもながら穏やかな口調で言った。私もそう思う。お姉ちゃんは思ったことはハッキリ言
う。そういうところが昔から羨ましかった。
 それに、お姉ちゃんが私のクラスに来るようになったのは、私が人見知りするのを心配して来てくれてい
たんだと思うから……。
「そういうところもあるねー。今までかがみみたいなタイプと友達になったことなかったから、初めは結構
新鮮に思ったし」
「私もそうかもしれません、でもそんなところもかがみさんのいいところですよね」
 ゆきちゃんの答えに対してだったのかわからなかったけれど、こなちゃんは少し笑いを漏らして、
「みゆきさんとつかさみたいなタイプも初めてだったけどねー」
 と付け加えた。

「結局私達みんな変わり者ってこと?」
「そうなるね」
「私って変わり者だったんですか?」
「普通なんてつまらないからそのほうがいいって。私は漫画に出てくるような個性的な友達に囲まれて幸せ」
 語尾にハートマークがつきそうな声でこなちゃんは言った。
「個性的って、そう言われるとなんだか褒められているように聞こえるから不思議だね」
「もちろん褒め言葉だよー」
「ふふふ、光栄ですね」
 ゆきちゃんは素直に喜んでいた。


 ゆきちゃんとわかれた後の車内。
 私とこなちゃんは運よく開いてる席を見つけ、久々に座って乗る事ができた。
「ラッキーだったね」
「いつも混んでるもんねー」

 隣にこなちゃんが居て、それだけで嬉しい気持ちが溢れてくる。こんな時間がずっと続けばいいのに。
 止まってしまってもいい。ずっとこのままなら他になにもいらないのに。

「うあっすごい人」
 しかし、そんな状況も一駅限定で、次の駅に停車すると、扉の向こうには大量に人が並んでいた。

 やっぱり混むんだね……。

 電車が進むにつれて車内が混み出して私は少しこなちゃんの方へ体を動かした。

 その時、隣り合った手が軽く触れた。

 そっと触れた手に自分の手を重ねる。

 でもこなちゃんはその手を振り払わなかった。

 同情かもしれない。でもそれでもいいんだ。
 お姉ちゃんを好きでも、それでもいいんだ。

 だって、それでも私はこなちゃんが好きなんだもん。

 でも……やっぱりどこか寂しい。そう思ってしまうのは私のわがままかな……。





『まもなく東武動物公園です。お降りの方は――』

 そんな時間も無情に終わりを告げるアナウンスが流れる。

 私はその手を自分のカバンに戻した。

 こなちゃんが何も言わずに先に立ち上がり、続けて私も立ち上がる。

 こなちゃんの背中がなんだか遠く感じた。


 なんとなく、話すきっかけが見つけられず、二人して並んで駅の広告を意味もなく見つめていた。
 しばらくすると、ホームの先に、減速して近づいてくる電車の姿が見えた。
 表示を見ると、私が乗る方の電車。

 私は乗ってから振り返る。

「ありがとう。こなちゃん」
 言い切ると同時にドアが閉まった。

 ドア越しに見えたこなちゃんは、少し驚いた表情のあとにコクンと頷いた。
 そしてそのまま視界から消えてしまった。


 私はこなちゃんを困らせている。

 笑っていて欲しいのに困らせている。 

 それはわかっているのに……。



 私はどこへ向かっているんだろう……。




第三章「想いを乗せて」へ続く。












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