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人として袖が触れている 間奏

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  • 間奏


「お姉ちゃん」
 ……頭の奥から、声が響く。
 この拍子が抜けそうな声は……つかさか。
 やめてよ、今疲れてるんだから。
 深夜に帝様の邸から大脱走よ? 筋肉痛ものよ!
「お姉ちゃんっってば! もうお昼だよっ!」
「……へ?」
 体がそれに反応して、飛び起きる。
 お昼っ?
 そんなっ、女房が寝過ごすなんて許されないのにっ!
 ああこなたの髪梳かなきゃ!
 ああ、じゃない! 今は内大臣の家だから、そう宴!
 宴の準備のために寝殿も掃除して、ええと食事のようは他の人にっ!
「もぅ、日曜だからってお昼まで寝てちゃ駄目だよっ」
 そんなオメーもパジャマじゃねーか!
 早く着替えて掃除を……。
 ……。
 あれ?
 パジャマ?
「ご飯もう出来てるから行こっ、皆待ってるよっ」
「え……う、うん」
 あれ?
 あれ?
 私が今寝てるのは……ベッドだ。
 平安時代に、そんなこ洒落たものがあったっけ?
 それに私の視界に広がるのは、古臭い寝殿造りなんかじゃない。
 見慣れた天井、本棚、机……。
 ここは私の……部屋?
「今起きたのかい、かがみ」
 居間にはもう、家族が居た。
 穏やかなお父さんの声が耳に届き、ここが自分の知ってる場所だと実感させる。
「うん、ちょっと……疲れてたみたい」
「そうか、よく休めたかい?」
「お、お父さん私には怒ったのにー!」
「あっはっは、つかさはいつもじゃないか」
 お父さんが呑気に笑う。
 それにつられて、私や姉さんたちも一緒に。
 つかさは一人むくれてるけど。
 いつもの光景。
 いつもの笑い声。
 いつもの……家族。
「はい、ご飯よー」
 母さんが皿をそれぞれ分けていく。
 この鼻をつくスパイスの香りは……カレー。
「えー、お母さんまたカレー?」
「いいじゃない、一晩寝かせたから美味しいわよー」
「もう三日は寝かせてるよそれ!」
 家族は皆愚痴をもらしながらカレーに手をつける。
 そっか、昨日もその前も確か……カレーだったんだっけ。
「ほらかがみ、早く食べないと冷えちゃうわよ」
「う……うん」
 私もそれに、恐る恐る手をつける。
 でも、口に含んで分かった。
 味なんて……しやしない。
 それを確認するのと同時に、世界が止まった。
 もう誰も動かない。
 ……そうだ、これは夢。
 まだ私は、何もやりとげていない。
 ああ、夢だと気がつかなければこの時間を堪能出来たのに。
 止まった世界は次第に色褪せ……消えていく。
 自分の目が覚めようとしているのが分かり……少し、悲しい。
 少し、なはずがないか……頬を伝う涙が、その証拠。
 ねぇ、お父さん、お母さん。それにつかさに、お姉ちゃんたちも……。
 私……絶対、帰って来るからね。
 そしたら一緒に、カレーを食べよう。
 一緒に愚痴をこぼそう。
 そして、何だかんだで全部平らげよう。
 ……約束、だよ?


(続)













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