提灯のうすぼんやりした明かりの列が、鷲宮の駅前から真っ直ぐ伸びている。
沿道には露店が立ち並び、威勢のいいかけ声や食べ物の匂いで充満していた。
その道を浴衣を着た、背の低い二人の少女が歩いていた。
仲良く手を繋いで歩く二人は仲の良い姉妹のようにも見える。
「お姉ちゃんすごいね、私こんなに人が多いと思わなかったよ」
ゆたかは落ち着き無く首を左右に動かしながら言った。
「ここ歴史あるからねー。人多いけど体調悪かったらすぐ言うんだよ」
素直に頷いたゆたかを、こなたはより近くに引き寄せた。
一緒に住み始めてそろそろ四ヶ月、自然と姉のような振る舞いが身に付いてきていた。
川に突き当たると橋を渡らずに、二人はそのまま川沿いを左に進んだ。
少し先に見える、赤く塗られたもう一つの橋のたもとに三人の少女がいた。
その内のショートカットの一人が、いち早くこちらに気付いて手を挙げた。
「小早川さん……それと泉先輩、こんばんは」
「オゥ、ベリーキュートですネ、ユタカ!」
「わあ……ちょっと犯罪的かも」
ゆたかはパッとこなたの手を離して、三人の輪の中に入っていった。
友達といるゆたかは本当に楽しそうで、こなたは頬が無意識に緩むのを感じた。
「じゃあね、ゆーちゃん。待ち合わせの時間になったらまたここで」
「ウェイトプリーズ、コナタ!」
立ち去ろうとしたこなたの背中に、パティが声を掛けた。
振り返ると、パティとひよりの目が怪しく輝いていた。
「コナタ、ぜひこの神社の双子巫女を紹介してクダサイ!」
「あのー、私もちょっと見たいです……」
いつも通り無駄に熱いパティの後ろで、ひよりも手を合わせて小さく頭を下げてい
る。
パティを交えて軽く話したことはあったが、まだひよりとはそれ程親しくはない。
しかし殊勝な態度の裏に隠しきれない欲望が渦巻いているのが、こなたには良くわ
かった。
「私だって見たいんだけどさ、かがみとつかさはお正月くらいしか巫女服は着ない
んだよ。まあ一緒にいるから、見かけたら声かけてよ」
途端に二人の顔が落胆の色に染まる。
「この世には神もホトケもないデスネ……」
「しょうがないねパティ、次はお正月に来よう……」
オタク率の高さに、少々ゆたかの将来が心配になったこなただった。
沿道には露店が立ち並び、威勢のいいかけ声や食べ物の匂いで充満していた。
その道を浴衣を着た、背の低い二人の少女が歩いていた。
仲良く手を繋いで歩く二人は仲の良い姉妹のようにも見える。
「お姉ちゃんすごいね、私こんなに人が多いと思わなかったよ」
ゆたかは落ち着き無く首を左右に動かしながら言った。
「ここ歴史あるからねー。人多いけど体調悪かったらすぐ言うんだよ」
素直に頷いたゆたかを、こなたはより近くに引き寄せた。
一緒に住み始めてそろそろ四ヶ月、自然と姉のような振る舞いが身に付いてきていた。
川に突き当たると橋を渡らずに、二人はそのまま川沿いを左に進んだ。
少し先に見える、赤く塗られたもう一つの橋のたもとに三人の少女がいた。
その内のショートカットの一人が、いち早くこちらに気付いて手を挙げた。
「小早川さん……それと泉先輩、こんばんは」
「オゥ、ベリーキュートですネ、ユタカ!」
「わあ……ちょっと犯罪的かも」
ゆたかはパッとこなたの手を離して、三人の輪の中に入っていった。
友達といるゆたかは本当に楽しそうで、こなたは頬が無意識に緩むのを感じた。
「じゃあね、ゆーちゃん。待ち合わせの時間になったらまたここで」
「ウェイトプリーズ、コナタ!」
立ち去ろうとしたこなたの背中に、パティが声を掛けた。
振り返ると、パティとひよりの目が怪しく輝いていた。
「コナタ、ぜひこの神社の双子巫女を紹介してクダサイ!」
「あのー、私もちょっと見たいです……」
いつも通り無駄に熱いパティの後ろで、ひよりも手を合わせて小さく頭を下げてい
る。
パティを交えて軽く話したことはあったが、まだひよりとはそれ程親しくはない。
しかし殊勝な態度の裏に隠しきれない欲望が渦巻いているのが、こなたには良くわ
かった。
「私だって見たいんだけどさ、かがみとつかさはお正月くらいしか巫女服は着ない
んだよ。まあ一緒にいるから、見かけたら声かけてよ」
途端に二人の顔が落胆の色に染まる。
「この世には神もホトケもないデスネ……」
「しょうがないねパティ、次はお正月に来よう……」
オタク率の高さに、少々ゆたかの将来が心配になったこなただった。
姉妹は鳥居の脇にある茶屋の椅子に腰掛けて、お茶を飲んでいた。
かがみは去年と同じ浴衣だったが、何故かつかさは巫女服を着ている。
「おーっすこなたぁ」
「あーこなちゃん、いらっしゃい」
「おいーす、ねえつかさ、その格好どしたの?」
「うーん、なんか急にやる気がでちゃったの。あ、でも休憩の時間合わせてもらったか
ら1時間くらいは一緒に遊べるんだー」
妹ののんびりした口ぶりに、かがみは軽いため息をついた。
「つかさったら、三日前くらいになっていきなりやるって言い出したのよ。
全く何考えてるのやら……みゆきは今だって勉強してるんだぞ」
つかさは鼻の頭をかいて、気まずそうに笑った。
「みゆきさんは残念だけどさ、今は勉強のことは忘れて楽しもうよ。
つかさも仕事があるんだし早くいこっ!」
こなたはお説教の気配を感じて、慌ててかがみの手を引いた。
「ったく二人とも仕方ないんだから……」
かがみはまだ言い足りなかったが、手にこなたの体温を感じるとそんな気も失せた。
こなたに急かされるままに立ち上がると、飲んでいたコップを持って店の奥に入っていく。
「おばあちゃーん、ありがとね!コップここ置いておくからー!」
建物の中から響くかがみの声に続いて、おばあちゃんらしき人の返事が聞こえた。
こなたが訝しげな顔をしてつかさに訪ねる。
「おばあちゃん?」
「ここの店主さんのことだよ。お父さんが子供の頃からずっとここで商売してるんだー」
へえ、そうなんだ。つかさの説明にこなたはただそれだけ答えた。
かがみは去年と同じ浴衣だったが、何故かつかさは巫女服を着ている。
「おーっすこなたぁ」
「あーこなちゃん、いらっしゃい」
「おいーす、ねえつかさ、その格好どしたの?」
「うーん、なんか急にやる気がでちゃったの。あ、でも休憩の時間合わせてもらったか
ら1時間くらいは一緒に遊べるんだー」
妹ののんびりした口ぶりに、かがみは軽いため息をついた。
「つかさったら、三日前くらいになっていきなりやるって言い出したのよ。
全く何考えてるのやら……みゆきは今だって勉強してるんだぞ」
つかさは鼻の頭をかいて、気まずそうに笑った。
「みゆきさんは残念だけどさ、今は勉強のことは忘れて楽しもうよ。
つかさも仕事があるんだし早くいこっ!」
こなたはお説教の気配を感じて、慌ててかがみの手を引いた。
「ったく二人とも仕方ないんだから……」
かがみはまだ言い足りなかったが、手にこなたの体温を感じるとそんな気も失せた。
こなたに急かされるままに立ち上がると、飲んでいたコップを持って店の奥に入っていく。
「おばあちゃーん、ありがとね!コップここ置いておくからー!」
建物の中から響くかがみの声に続いて、おばあちゃんらしき人の返事が聞こえた。
こなたが訝しげな顔をしてつかさに訪ねる。
「おばあちゃん?」
「ここの店主さんのことだよ。お父さんが子供の頃からずっとここで商売してるんだー」
へえ、そうなんだ。つかさの説明にこなたはただそれだけ答えた。
かがみが戻ってくると三人は店を出て歩き出した。
まだ夕食をとっていなかった三人は、まずたこ焼きの屋台に目を付けた。
一人一つづつ買って食べながら歩く。
「このたこ小さいなぁ」
「なんで割に合わないと解ってるのについつい買っちゃうんだろうね?」
「しょうがないでしょー。たかが祭の屋台なんだから、あんまりけちつけるなよ」
かがみのつれない返事に、こなたが下を向いて何やら思案している。
「な、なによ。私なんか悪いこといった?」
「あ、思い出した!ほらー、海の家覚えてない?あの時も私達似たような話したよね」
「したねー!そうそうあの時もお姉ちゃん冷たい反応したんだよね」
「悪かったわね。どーせ私はノリ悪いですよー」
かがみは少しすねて見せたが、顔は笑っていた。
一年前の海の家、かがみはなぜか不機嫌だった。
砂だらけの椅子、ソースのきつい焼きそば、何がその原因だったのか、もう本人に
は思い出せなかった。
そんな話をしながら屋台を冷やかしていた三人に、後ろから声が掛けられた。
「よお、お前ら勉強もせんと余裕やな~!」
声の主は3年B組の担任ななこだった。
缶ビールを片手に、茶のタンクトップ一枚というラフな格好をしている。
「おぉ先生、いやぁこれは戦士の休息ってやつですよ」
こなたの言い訳に、ななこは軽く頭を叩く真似をした。
「ま、最近はあんまインしてないみたいやし、信じたるわ。そういや今日は高良はおらんのか?」
「みゆきは外で別に夏期講習受けてるから忙しいんですよ。私達も残念なんですけどね」
敬語を崩さずにかがみが答えた。
「あいつは医学部志望やから仕方ないな。そういやさっき、成実さんに会ったわ。
いやーあの人もまだ一人なんやなぁ」
一年越しの誤解に、三人は吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「せ、先生やっぱり今年も一人なんですか?」
つかさは控えめな態度で失礼な質問した。
「柊ぃ、お前喧嘩売っとるのか?マジメに言うとこれも半分は仕事や。お前ら以外
にも結構うちの生徒が来とるからな……なあ、ところでさっきからお前ら何笑って
るんや?」
ななこは不思議そうな顔をしていたがそのうちに、あんま羽目をはずすなよ、とだ
け忠告して雑踏の中に消えていった。
まだ夕食をとっていなかった三人は、まずたこ焼きの屋台に目を付けた。
一人一つづつ買って食べながら歩く。
「このたこ小さいなぁ」
「なんで割に合わないと解ってるのについつい買っちゃうんだろうね?」
「しょうがないでしょー。たかが祭の屋台なんだから、あんまりけちつけるなよ」
かがみのつれない返事に、こなたが下を向いて何やら思案している。
「な、なによ。私なんか悪いこといった?」
「あ、思い出した!ほらー、海の家覚えてない?あの時も私達似たような話したよね」
「したねー!そうそうあの時もお姉ちゃん冷たい反応したんだよね」
「悪かったわね。どーせ私はノリ悪いですよー」
かがみは少しすねて見せたが、顔は笑っていた。
一年前の海の家、かがみはなぜか不機嫌だった。
砂だらけの椅子、ソースのきつい焼きそば、何がその原因だったのか、もう本人に
は思い出せなかった。
そんな話をしながら屋台を冷やかしていた三人に、後ろから声が掛けられた。
「よお、お前ら勉強もせんと余裕やな~!」
声の主は3年B組の担任ななこだった。
缶ビールを片手に、茶のタンクトップ一枚というラフな格好をしている。
「おぉ先生、いやぁこれは戦士の休息ってやつですよ」
こなたの言い訳に、ななこは軽く頭を叩く真似をした。
「ま、最近はあんまインしてないみたいやし、信じたるわ。そういや今日は高良はおらんのか?」
「みゆきは外で別に夏期講習受けてるから忙しいんですよ。私達も残念なんですけどね」
敬語を崩さずにかがみが答えた。
「あいつは医学部志望やから仕方ないな。そういやさっき、成実さんに会ったわ。
いやーあの人もまだ一人なんやなぁ」
一年越しの誤解に、三人は吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「せ、先生やっぱり今年も一人なんですか?」
つかさは控えめな態度で失礼な質問した。
「柊ぃ、お前喧嘩売っとるのか?マジメに言うとこれも半分は仕事や。お前ら以外
にも結構うちの生徒が来とるからな……なあ、ところでさっきからお前ら何笑って
るんや?」
ななこは不思議そうな顔をしていたがそのうちに、あんま羽目をはずすなよ、とだ
け忠告して雑踏の中に消えていった。
後ろ姿が見えなくなると、三人はお腹を抱えて笑い出した。
「あはは、先生まだゆい姉さんが独身だと思ってるんだね!」
「もう、いい加減あんた教えてあげなさいよー」
「……でもこのままのほうがちょっと面白いかも」
三人は道の真ん中で、あたり構わず笑い続けた。
道行く人々の少し迷惑そうな視線も、テンションの上がった女の子には通じない。
ひとしきり発作が収まると、つかさはふっと腕時計を確認した。
「私そろそろ交代の時間だから行くね。」
つかさはちょっと名残おしそうに言う。
「社務所まで私も一緒に行くわ。商店街のみんなに顔見せとかないといけないし」
かがみは手の平を上に向けてため息をついた。
「あはは、先生まだゆい姉さんが独身だと思ってるんだね!」
「もう、いい加減あんた教えてあげなさいよー」
「……でもこのままのほうがちょっと面白いかも」
三人は道の真ん中で、あたり構わず笑い続けた。
道行く人々の少し迷惑そうな視線も、テンションの上がった女の子には通じない。
ひとしきり発作が収まると、つかさはふっと腕時計を確認した。
「私そろそろ交代の時間だから行くね。」
つかさはちょっと名残おしそうに言う。
「社務所まで私も一緒に行くわ。商店街のみんなに顔見せとかないといけないし」
かがみは手の平を上に向けてため息をついた。
社務所の前には特設のテントが設けられ、地域の人々が酒を酌み交わしていた。
かがみとつかさが彼らに挨拶して回るのを、こなたは少し離れて眺めた。
鷲宮神社の末娘はみんなに可愛がられているようだった。
二人もそれに応じて精一杯に愛想を振りまいている。
頭の薄い中年の男がかがみにお猪口を差し出した。
かがみはしきりに遠慮したがしつこい勧めに折れて、お猪口を受け取るとくっと一息で飲み干した。
威勢の良い飲みっぷりに酔っぱらい達の拍手喝采が巻き起こる。
そうしてようやくかがみは解放された。
「お疲れ様だったね、かがみ」
「ま、いつものことよ。本当困っちゃうわね」
なんとなく釈然としない気持ちのこなたに対して、かがみは屈託がなかった。
「ねえ、つかさも行っちゃったしちょっと家来こない?もう見るところもないでしょ」
かがみは暗に、二人きりになろうとこなたを誘った。
「そうだね、もうお店は充分見たし……いこっか」
こなたは小さく頷いた。
かがみとつかさが彼らに挨拶して回るのを、こなたは少し離れて眺めた。
鷲宮神社の末娘はみんなに可愛がられているようだった。
二人もそれに応じて精一杯に愛想を振りまいている。
頭の薄い中年の男がかがみにお猪口を差し出した。
かがみはしきりに遠慮したがしつこい勧めに折れて、お猪口を受け取るとくっと一息で飲み干した。
威勢の良い飲みっぷりに酔っぱらい達の拍手喝采が巻き起こる。
そうしてようやくかがみは解放された。
「お疲れ様だったね、かがみ」
「ま、いつものことよ。本当困っちゃうわね」
なんとなく釈然としない気持ちのこなたに対して、かがみは屈託がなかった。
「ねえ、つかさも行っちゃったしちょっと家来こない?もう見るところもないでしょ」
かがみは暗に、二人きりになろうとこなたを誘った。
「そうだね、もうお店は充分見たし……いこっか」
こなたは小さく頷いた。
二人は柊家に続く暗い林の中に入っていった。
他の家族はまだ仕事中らしく、家には明かりが付いていなかった。
二人は縁側に足を投げ出して座った。
「祭の音は聞こえなくなったけど、こっちは蝉がうるさいね」
「木が多いからね、小さい頃はここでよくお姉ちゃんに遊んでもらったっけ」
幼い日々を懐かしむかがみの表情は柔らかい。
「なんだかお祭りの夜ってノスタルジックな気分になるよね」
「そうね、毎年殆ど変わらないから、時間の感覚がずれちゃうんじゃないかな。
先生なんて去年と同じ服着てたしね。ま、それは私達も一緒だけどさ」
「だけど今年はみゆきさんもいないし、つかさも仕事じゃん。
ふぅ……やっぱり医学部って大変なのかなぁ」
かがみはこなたの他人事のような口調に呆れた。
「当たり前じゃない、偏差値70とかそんなレベルよ。
大体あんたはどうなのよ?ちゃんとやってるの?」
こなたはまたかがみの説教を招いてしまった、迂闊な自分を呪った。
「それなりにはやってるよ。そんな上は目指さないけど、やっぱ東京の大学に行き
たいし」
そう言って、こなたは中堅私大の名前を幾つか挙げた。
意外と現実的なこなたの目標に、かがみは拍子抜けしたようだった。
「まあ確かにそこらが妥当な線よね……あぁ~あ、どうせなら私と同じ所を目指す
とか言って欲しかったな」
こなたは苦笑いして首を振った。かがみの志望校は私大トップクラスだ。
三年の間に積み重なった差はいかんともし難い。そしてこなたは浪人して勉強でき
るような性格でもなかった。
「行けたらいいけどちょっと無理。まあいいじゃん、大学は違っても家はこっちな
んだし、会おうと思えばすぐ会えるよ」
「……ごめん、私は多分東京で一人暮らしになると思う」
かがみは一呼吸おいて、静かに呟いた。
予想外の話に驚いてこなたはかがみの顔をまじまじと見つめる。
「なんで?別に全然通えない距離じゃないじゃん。どうしてわざわざ?」
ああ、寂しいときの顔だ。こなたの下がった目尻を見て、かがみは冷静にそう判断した。
「大学だけなら確かにそうね。でも私は弁護士になりたいから、それの予備校とか
に通うことを考えたらこっちじゃ不便なのよ」
「そうなんだ……」
もっと早く、こんな関係になる前に言っておけばよかったとかがみは後悔した。
最近ただでさえこなたのことが頭から離れないのに、こんな顔を見せられたらこっ
ちまでどうにかなってしまいそうだ。
今日だって本当は誘わないつもりでいたのに、つい電話を手にとってしまった。
「ねえ、あんたは東京に出てこれないの?なんか下品な話だけど、あんたのおじさ
ん結構稼いでそうだし、奨学金取るとか、バイトすれば大丈夫なんじゃないの?
それこそ……ルームシェアとかって手もあるし」
「ルームシェアか。リアルでエロゲっぽいね、毎日イチャつけるじゃん。
でもやっぱ無理かな。お金の問題じゃないし……二年待ってくれれば出来ると思う
んだけど」
二人の表情は、目まぐるしく浮き沈みした。
「二年って何なのよ。おじさんが許してくれないとかか?」
「ちょっと落ち着いてよかがみ、顔が怖いよ」
いつの間にか喧嘩腰になっていたのを指摘され、かがみは恥ずかしそうに咳払いをした。
「ごめん、でも本当に何なのよ?気になるじゃん?」
「うーん……やっぱ今日は言わないでおく、ちょっとかがみ酔ってるみたいだし」
「酔ってなんか……んっ」
反論しようとしたかがみの唇が塞がれた。さらにこなたの舌が口内に差し入れられる。
初めて感じる息苦しさに、互いを抱きしめる腕に力が入る。
「もうその話はおしまい。折角二人きりなんだよ」
こなたが上目遣いでかがみに迫る。
「野外で、浴衣でイベントシーンってか?」
「何それ?」
「あんたが言ったんじゃない、覚えてないの?あんた去年のお祭りでロマンスがな
いって愚痴ってたじゃん。射的のお兄さん狙ったりもしてたし」
「それ言ったらかがみだって海でナンパされたがってたしー」
そうだっけ?二人は口々にそう言って笑い合った。
身体をぴったり寄せて、再び二人の唇が触れあう。
かがみはこなたの胸に手を当てて、やさしく指を動かした。こなたの顔が切なげに歪む。
「んっ……何だかもどかしいね」
「私が着付けできればいいんだけどね……あっ、もうがっつくなよ……」
こなたがかがみの首元に顔を埋めて、舌を使った。
鼻先で香るこなたの髪が、かがみの情欲をくすぐる。
「今度ホテル行こうよ。家はどっちもなかなか空かないだろうし」
「いいけど、ここら辺のは嫌だな。結構私は顔知られてるし……」
「……わかってるよ、かがみ。なんなら1泊して東京観光でもしよっか。きっと楽しいよ」
「ったくあんたは受験生の自覚が……んぅ、そこくすぐったいってば」
「大好きだよ、かがみ……」
薄い浴衣がどうにか二人の理性を留めていたが、それも限界に近かった。
もう脱がしてしまおうか、二人がそれぞれにそう考えた時、こなたの携帯が振動した。
「やばっ!ごめん、私ゆーちゃんと待ち合わせしてたんだ。もう帰らなきゃ」
かがみは不服そうだったが、自分でも時計を確認すると慌てて乱れた襟元を直した。
そろそろ一仕事終えた誰かが帰ってきてもおかしくない時間だった。
他の家族はまだ仕事中らしく、家には明かりが付いていなかった。
二人は縁側に足を投げ出して座った。
「祭の音は聞こえなくなったけど、こっちは蝉がうるさいね」
「木が多いからね、小さい頃はここでよくお姉ちゃんに遊んでもらったっけ」
幼い日々を懐かしむかがみの表情は柔らかい。
「なんだかお祭りの夜ってノスタルジックな気分になるよね」
「そうね、毎年殆ど変わらないから、時間の感覚がずれちゃうんじゃないかな。
先生なんて去年と同じ服着てたしね。ま、それは私達も一緒だけどさ」
「だけど今年はみゆきさんもいないし、つかさも仕事じゃん。
ふぅ……やっぱり医学部って大変なのかなぁ」
かがみはこなたの他人事のような口調に呆れた。
「当たり前じゃない、偏差値70とかそんなレベルよ。
大体あんたはどうなのよ?ちゃんとやってるの?」
こなたはまたかがみの説教を招いてしまった、迂闊な自分を呪った。
「それなりにはやってるよ。そんな上は目指さないけど、やっぱ東京の大学に行き
たいし」
そう言って、こなたは中堅私大の名前を幾つか挙げた。
意外と現実的なこなたの目標に、かがみは拍子抜けしたようだった。
「まあ確かにそこらが妥当な線よね……あぁ~あ、どうせなら私と同じ所を目指す
とか言って欲しかったな」
こなたは苦笑いして首を振った。かがみの志望校は私大トップクラスだ。
三年の間に積み重なった差はいかんともし難い。そしてこなたは浪人して勉強でき
るような性格でもなかった。
「行けたらいいけどちょっと無理。まあいいじゃん、大学は違っても家はこっちな
んだし、会おうと思えばすぐ会えるよ」
「……ごめん、私は多分東京で一人暮らしになると思う」
かがみは一呼吸おいて、静かに呟いた。
予想外の話に驚いてこなたはかがみの顔をまじまじと見つめる。
「なんで?別に全然通えない距離じゃないじゃん。どうしてわざわざ?」
ああ、寂しいときの顔だ。こなたの下がった目尻を見て、かがみは冷静にそう判断した。
「大学だけなら確かにそうね。でも私は弁護士になりたいから、それの予備校とか
に通うことを考えたらこっちじゃ不便なのよ」
「そうなんだ……」
もっと早く、こんな関係になる前に言っておけばよかったとかがみは後悔した。
最近ただでさえこなたのことが頭から離れないのに、こんな顔を見せられたらこっ
ちまでどうにかなってしまいそうだ。
今日だって本当は誘わないつもりでいたのに、つい電話を手にとってしまった。
「ねえ、あんたは東京に出てこれないの?なんか下品な話だけど、あんたのおじさ
ん結構稼いでそうだし、奨学金取るとか、バイトすれば大丈夫なんじゃないの?
それこそ……ルームシェアとかって手もあるし」
「ルームシェアか。リアルでエロゲっぽいね、毎日イチャつけるじゃん。
でもやっぱ無理かな。お金の問題じゃないし……二年待ってくれれば出来ると思う
んだけど」
二人の表情は、目まぐるしく浮き沈みした。
「二年って何なのよ。おじさんが許してくれないとかか?」
「ちょっと落ち着いてよかがみ、顔が怖いよ」
いつの間にか喧嘩腰になっていたのを指摘され、かがみは恥ずかしそうに咳払いをした。
「ごめん、でも本当に何なのよ?気になるじゃん?」
「うーん……やっぱ今日は言わないでおく、ちょっとかがみ酔ってるみたいだし」
「酔ってなんか……んっ」
反論しようとしたかがみの唇が塞がれた。さらにこなたの舌が口内に差し入れられる。
初めて感じる息苦しさに、互いを抱きしめる腕に力が入る。
「もうその話はおしまい。折角二人きりなんだよ」
こなたが上目遣いでかがみに迫る。
「野外で、浴衣でイベントシーンってか?」
「何それ?」
「あんたが言ったんじゃない、覚えてないの?あんた去年のお祭りでロマンスがな
いって愚痴ってたじゃん。射的のお兄さん狙ったりもしてたし」
「それ言ったらかがみだって海でナンパされたがってたしー」
そうだっけ?二人は口々にそう言って笑い合った。
身体をぴったり寄せて、再び二人の唇が触れあう。
かがみはこなたの胸に手を当てて、やさしく指を動かした。こなたの顔が切なげに歪む。
「んっ……何だかもどかしいね」
「私が着付けできればいいんだけどね……あっ、もうがっつくなよ……」
こなたがかがみの首元に顔を埋めて、舌を使った。
鼻先で香るこなたの髪が、かがみの情欲をくすぐる。
「今度ホテル行こうよ。家はどっちもなかなか空かないだろうし」
「いいけど、ここら辺のは嫌だな。結構私は顔知られてるし……」
「……わかってるよ、かがみ。なんなら1泊して東京観光でもしよっか。きっと楽しいよ」
「ったくあんたは受験生の自覚が……んぅ、そこくすぐったいってば」
「大好きだよ、かがみ……」
薄い浴衣がどうにか二人の理性を留めていたが、それも限界に近かった。
もう脱がしてしまおうか、二人がそれぞれにそう考えた時、こなたの携帯が振動した。
「やばっ!ごめん、私ゆーちゃんと待ち合わせしてたんだ。もう帰らなきゃ」
かがみは不服そうだったが、自分でも時計を確認すると慌てて乱れた襟元を直した。
そろそろ一仕事終えた誰かが帰ってきてもおかしくない時間だった。
二人が手を繋いで境内に戻ると、立ち並んでいた屋台はもう半分くらい撤収していた。
そこかしこのゴミ箱から漂う生ゴミの匂いが、夢の終わりを告げている。
待ち合わせ場所の橋の手前で二人は別れた。
向う岸には一年生四人が、おしゃべりに興じている。
そこにこなたは、いかにもすまなそう顔しながら走り込んでいった。
「あいつ、一年に混じっても全然違和感ないな」
かがみは口に手を当てて苦笑した。
特にゆたかとじゃれついている姿は、それぞれ高三と高一とはとても思えない。
しかしそれがかえって先ほどのしどけない姿を、鮮明に印象づけた。
「物足りなかったよね……こなた」
火照った身体を、一人抱きしめながらかがみは家路についた。
そこかしこのゴミ箱から漂う生ゴミの匂いが、夢の終わりを告げている。
待ち合わせ場所の橋の手前で二人は別れた。
向う岸には一年生四人が、おしゃべりに興じている。
そこにこなたは、いかにもすまなそう顔しながら走り込んでいった。
「あいつ、一年に混じっても全然違和感ないな」
かがみは口に手を当てて苦笑した。
特にゆたかとじゃれついている姿は、それぞれ高三と高一とはとても思えない。
しかしそれがかえって先ほどのしどけない姿を、鮮明に印象づけた。
「物足りなかったよね……こなた」
火照った身体を、一人抱きしめながらかがみは家路についた。
田んぼの中を通る農道を、こなたとゆたかが歩いていた。
稲穂をかすかに揺らす風が、汗ばんだ身体に心地良い。
「それでね、田村さんとパティさんがなんか巫女さんの写真一杯取ってたの。
あの人、多分お姉ちゃんの友達だったと思うんだけど……」
こなたにはつかさが戸惑いながら、いいように撮影されている図が容易に想像できた。
「できるな、あの二人は……ふふ、ゆーちゃん面白い友達が出来て良かったね」
「うん!ちょっと変わってるけど、好きな事には一生懸命ですごいんだよ。
私はそういうのないから、ちょっと羨ましいな」
どうしても、自分を引き合いに出して貶めてしまう癖がみなみにはあった。
こういう時こなたは、かける言葉に惑ってしまう。
こなたはゆたかが小脇に抱えている、猫のぬいぐるみに目を付けた。
「そういえば、それどうしたの?なんかの景品だよね」
「あ、これね、岩崎さんが射的で取ってくれたんだ」
ゆたかはまるで恋人からのプレゼントであるかのように、うっとりとぬいぐるみの頭を撫でた。
「すごいじゃん。いやぁ、やっぱりみなみちゃんはゆーちゃんの王子様だね」
「もうっ、お姉ちゃんからかわないでよ」
ゆたかが照れ隠しにこなたの背中を叩いた。
なんだかんだ言って、まんざらでもなさそうな所が可愛い。
もう、みなみちゃんに任せちゃえば?ふとそんな考えがこなたの脳裏をよぎる。
クラスメートのみなみの方がきっとうまくやれる。叔父との二人暮らしはきついか
もしれないが、実姉のゆいだってしょっちゅう遊びに来る。
自分がここに留まらなきゃいけない理由なんて、実はないんじゃないか?
こなたがそんな欲求に捕らわれているとも知らず、ゆたかが再び口を開いた。
「でもね時々怖くなるんだ。岩崎さんはいつか、私に呆れてどっか行っちゃうんじ
ゃないかって。本当、どうして私なんかのことを気に掛けてくれるんだろうね?
あっ……お姉ちゃん、この事岩崎さんに言っちゃだめだよ」。
幻の枷が地面を擦る音がした。
ゆたかの諦念によって鍵をかけられた、特別な枷。
「大丈夫だよ、みなみちゃんはゆーちゃんが好きで一緒にいるんだから」
こなたにはみなみの気持ちが良く解った。
彼女もまた、慣れない枷の重みを愛おしく感じてしまうのだろう。
「そうかな……えへへ、そうだといいな」
どうしてそんな些細な望みを、星を見るような目で語るのか。
「だからそうなんだってば、お姉ちゃんが保証するよ」
こなたはゆたかを、もっと欲張りで勝手な子にしてやろうと誓った。
ゆたかのため、そして自分のために。
稲穂をかすかに揺らす風が、汗ばんだ身体に心地良い。
「それでね、田村さんとパティさんがなんか巫女さんの写真一杯取ってたの。
あの人、多分お姉ちゃんの友達だったと思うんだけど……」
こなたにはつかさが戸惑いながら、いいように撮影されている図が容易に想像できた。
「できるな、あの二人は……ふふ、ゆーちゃん面白い友達が出来て良かったね」
「うん!ちょっと変わってるけど、好きな事には一生懸命ですごいんだよ。
私はそういうのないから、ちょっと羨ましいな」
どうしても、自分を引き合いに出して貶めてしまう癖がみなみにはあった。
こういう時こなたは、かける言葉に惑ってしまう。
こなたはゆたかが小脇に抱えている、猫のぬいぐるみに目を付けた。
「そういえば、それどうしたの?なんかの景品だよね」
「あ、これね、岩崎さんが射的で取ってくれたんだ」
ゆたかはまるで恋人からのプレゼントであるかのように、うっとりとぬいぐるみの頭を撫でた。
「すごいじゃん。いやぁ、やっぱりみなみちゃんはゆーちゃんの王子様だね」
「もうっ、お姉ちゃんからかわないでよ」
ゆたかが照れ隠しにこなたの背中を叩いた。
なんだかんだ言って、まんざらでもなさそうな所が可愛い。
もう、みなみちゃんに任せちゃえば?ふとそんな考えがこなたの脳裏をよぎる。
クラスメートのみなみの方がきっとうまくやれる。叔父との二人暮らしはきついか
もしれないが、実姉のゆいだってしょっちゅう遊びに来る。
自分がここに留まらなきゃいけない理由なんて、実はないんじゃないか?
こなたがそんな欲求に捕らわれているとも知らず、ゆたかが再び口を開いた。
「でもね時々怖くなるんだ。岩崎さんはいつか、私に呆れてどっか行っちゃうんじ
ゃないかって。本当、どうして私なんかのことを気に掛けてくれるんだろうね?
あっ……お姉ちゃん、この事岩崎さんに言っちゃだめだよ」。
幻の枷が地面を擦る音がした。
ゆたかの諦念によって鍵をかけられた、特別な枷。
「大丈夫だよ、みなみちゃんはゆーちゃんが好きで一緒にいるんだから」
こなたにはみなみの気持ちが良く解った。
彼女もまた、慣れない枷の重みを愛おしく感じてしまうのだろう。
「そうかな……えへへ、そうだといいな」
どうしてそんな些細な望みを、星を見るような目で語るのか。
「だからそうなんだってば、お姉ちゃんが保証するよ」
こなたはゆたかを、もっと欲張りで勝手な子にしてやろうと誓った。
ゆたかのため、そして自分のために。
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- >貶めてしまう癖がみなみにはあった
ここはゆたかの誤植かと。細かいですが、良作ゆえ惜しいので。 -- 名無しさん (2008-12-02 18:59:11) - ほんと続きが読みたいです -- 名無しさん (2008-12-01 21:13:16)
- ちょっと思ったんですけど、前回の話が初デート、初キスでしたよね?
それから今回までの話の間に、2人の仲はそれ以上になったんですか?
なんか、縁側でじゃれあってる2人の感じが「初体験済み」みたいな
感じがしたんですけど・・。 -- 名無しさん (2007-10-28 04:58:14) - 「2年待って」
の意味はちゃんと作中に書いてあるんだぜ
最後の方のこなた視点を読むといい
ヒント:ゆたか -- 名無しさん (2007-10-03 21:59:14) - ちょw「2年待って」の理由が気になるw続編希望! -- 名無しさん (2007-10-03 21:53:36)
- 真に勝手ながら、気になった部分(改行・名前)を修正させていただきました。
気に入ってる作品なので。 -- 名無しさん (2007-10-02 17:38:12) - すごく面白かったです!
手が空いたら、ぜひぜひ続編を!お願いします!! -- 名無しさん (2007-10-02 16:56:32) - 下の方に続いて、改行が一行飛んでて読みにくい場所が気になりました。
雰囲気はたいへん好みなのでこの後の展開も期待してます。 -- 名無しさん (2007-10-02 04:07:35) - 地の文で、「ゆたか」と書くべきところを誤って「みなみ」と書いているところが、何箇所かあるような。
読んでてちょっと混乱した。 -- 名無しさん (2007-10-02 03:07:38)