偸盗/藪の中◆F0cKheEiqE
「にノ参」、道祖神前。
道祖神の傍らに、でん、と置かれた大きな石に座って握り飯を食べている三人組がいる。
一人は年のころ三十程の武家姿の男で、柿色の小袖に濃紺の伊賀袴、腰間には打刀一振り、
髪は茶筅髷、右目を血が微かに滲む白い布で覆った、野性的な剽悍な顔立ちの偉丈夫である。
二人目は、縁の青い灰色の小袖に、藍色の袴、腰間には木刀、
ざんぎり頭に眼鏡の、些か地味で情けない風貌の少年である。
そして三人目は…
「なあ…」
握り飯を頬張りながら、三人目の男、
トゥスクルが皇、ハクオロの侍大将、
オボロは、
傍らの隻眼の偉丈夫、
柳生十兵衛に言った。
「ん、何だ?」
「飯の時ぐらい…コレを取っても構わんか?」
「んー…」
十兵衛は、自身も頬張っていた握り飯より一先ず口を離すと、
「だめだな」
「!…なんでだ!?」
「何処で誰が見てるか解らんからな…また狐狸の類と勘違いされたくはあるまい」
「むう…」
三人目の男、オボロの容姿は、
年のころは二人目、
志村新八とさして変わらないが、
顔立ちは対照的に、若々しさと男らしさと荒々しさが同居した二枚目である。
腹掛けを思わせるピッチリとした焦げ茶色の着物に、
唐人の穿く様な独特の袴に、革の靴を履いている。
髪は蓬髪であり、本来は、その獣に似た独特の耳が人目を引くのであるが…
「でも…それほど変じゃありませんよ!意外と違和感無いというか」
「そ、そうか?」
「ええ、忍者みたいって言うか…」
その耳は柳色の頬被りで覆われて見る事は出来ない。
元は十兵衛の着ていた袖なし羽織だった物を、適当に折って、
頭と耳を覆い、鼻の下で結んだ「鼠小僧」スタイルの頬被りだ。
…素直に頭巾の様に顎の下に結び目を作る形にすればいい物を、
何故こんな盗人の様な恰好にしたかと言うと、
最初は頭巾形式にしたのだが、服装の地味な色も手伝ってドン百姓にしか見えず、
余りに恰好が悪いという理由で、現在の様な形に落ち着いたのだが…
なまじオボロが美丈夫なだけにその有り様はかなり間抜けだ。
「忍者…というより、盗人に見えるな」
「な、何だとキサマッ!?」
「十兵衛さん!アナタ、何煽ってるんですか!?僕が折角フォローしてあげてたのに!?」
「新八!?オマエ…“ふぉろー”と言う言葉は知らんが意味は解ったぞ!」
「いや、その、あの…」
オボロは怒るがあながち間違ってもいまい。
故あっての事とは言え、実際に山賊まがいの事をしていた時期が、彼にはあるのだから。
さて、意外に和気藹々としている三人組であるが、
出会った当初はむしろ緊迫した状態であった。
ここで、少し時間を巻き戻して振り返ってみる事にする。
◆
道伝いに、城下へと向けて南下していた十兵衛・新八一行であったが、
ふと、十兵衛が道の傍らの藪に目を遣ったかと思えば、
「見えてるぞ、出て来たらどうだ?」
と、人気の無い厚く茂る藪にそう声を掛けたのである。
新八もつられて藪を見るが、藪はどこまでも藪である。
彼には人の気配は見えない。
「あのー…誰もいないように見えるんですけど…」
「んー…まあ、気配の消し方は及第に達しておるし、君では気が付けぬのも無理はないかな」
しかし周知の如く、家光に勘気を被って以来、
都合一二年以上に渡って諸国を隠密行脚した十兵衛相手に、
それが伊賀甲賀根来の上級の忍者でも無い限り、
他人が彼から気配を隠し通す様な事は殆ど不可能である。
「で、出て来るのか、出て来ないのか」
十兵衛が藪に向かってそう言って、しばし間をおけば、
ガサガサと藪の葉を鳴らして、一人の男がすごすごと出て来た訳である。
それがオボロであった。
腰帯に付いた腰掛け風の装飾の布を破いて、
奥村五百子に斬られた左手を撒いて即席の包帯とし、
取り得ず応急処置を果たしたオボロであったが、
五百子、毛野との遭遇を避ける様に、周囲を警戒しながら山林を抜け、
何とか無事に街道に出る事が出来ていた。
しかし先ほどの五百子の予期せぬ襲撃もあって、
トウカの様な信頼できる相手以外との接触を避けたいオボロは、
街道の脇に群生する藪伝いに、人の集まる可能性の高い城下へと向かう事にしたのである。
その途中で、十兵衛一行と遭遇したと言う訳だ。
「あれ…天人の方ですか?」
「むう…変わった耳だな。天竺人か?」
オボロの獣の様な耳を見た二人の反応は…意外と静かな物であった。
志村新八は「天人(宇宙人)」の存在に慣れ親しんでいる。
彼の同居人の「神楽」の様に人型の天人もいるにはいるが大半は、
半人半獣であったり、人型ですら無い異形であったりする上に、
彼のファーストキスがパンデモニウムさんであったりするから、
いまさら獣耳程度で驚きはしない。
一方、十兵衛は沢庵禅師の様な教養人を知人に持ち、
彼自身が後にしたためる数々の兵法書の内容から察せられるように漢籍にも暗く無い。
彼の時代の中国の地理書には非実在の「手長足長」の類の畸形の種族に関する記載も多く、
(この点に関しては、同時代のヨーロッパの地理書も同様である)
そういう畸形人間の国が明の南方西方には生活しているという「迷信」は、
少なくとも十兵衛の時代ではまだ充分に「事実」足り得ていた。
初見は驚いた物の、隠密時代に対決を強いられた忍法・妖術の類が発する、
独特なある種の妖気を感じなかった事もあって、十兵衛は、オボロを「手長足長」の類の、
遠国の「異人」である、と判断していた。
ちなみに「天竺人」、オボロを呼称したのは、
何も彼を印度人と思った訳ではなく、その周辺の人間、程度の意味でった。
この御前試合で初遭遇した人間に嵌められた(と、オボロは考えている)事もあって、
十兵衛、新八に対する警戒を解かなかったオボロであったが、
新八の危険感の無い地味で情けない容姿・性格、怪侠・十兵衛の気さくさもあって、
多少のすったもんだも有りながら、何とか打ち解けて情報交換・同行するに至った訳である。
何故同行することになったかと言えば、
数多の人斬りが蠢くこの戦場では、徒党を組む事は、
数を恃みに人斬りを避けさせる有効な手段であることは、三人共通の認識であり、
またオボロの当座の行動方針はトウカを探し出す事であるが、
ならば人の集まる可能性の高い城下にまずは共に向かうと言うのは、
自然な発想であると言えるだろう。
かくして奇妙な三人連れの珍道中が始まった訳だが、
その途中でまずは腹ごしらえ、といった話になり、
冒頭に話が戻る。
◆
「しかし、コレは本当に必要なのか…?」
「言った通り、貴様を狐狸妖魔の類と勘違いする輩もおろう。我慢せぇ」
前述のオボロの頬被りは十兵衛の考案である。
五百子がオボロに斬りかかった理由にアタリを付けて、
余計な誤解を避けるべく、オボロの耳を隠す事にしたのだ。
(腕は立つようだが、心は未熟。新八を預けるには流石に危ういか)
十兵衛は、オボロの業前を見抜いていたが、
心の未熟さも見抜いたようで、しばしは三人で徒党を組む事を当座の方針とした。
(しかし、天竺からはるばる連れて来られて親父殿の酔狂に付きあわされるとは、不憫な…)
オボロより彼の主君、ハクオロの話を聞いた時、
十兵衛の頭に最初に浮かんだのは暹羅(シャム)の山田長政の話だ。
そのハクオロと言う男、恐らくは山田長政の様に野心を乗せて天竺へと渡ったのか、
あるいは古の素戔男尊(スサノオ)の様に流された先で王となったのか、
要するにそういう類の和人・明人の誰かであったのだろう。
(事が済んだ後は、帰れるように手配でもしてやるかな…)
親父殿とその輩(ともがら)を倒してなお、自分が生きていたならば、
彼の故国に帰れるよう、親父のしでかした事に、息子としてケリを付ける為にも、
尽力してやらねばならぬ、と十兵衛は思う。
(又十郎に跡目を押しつけて、俺も天竺に行くのもいいかも知れんなぁ…)
そんな事を飯を頬張りながら十兵衛は思った。
(地球を知らない天人のひとなんだろうなぁ…)
一方、志村新八は、オボロは天人であり、
地球の存在を知らない辺境の惑星(地球も辺境の惑星だが)の出身者であると勘違いしていた。
実際は、新八の住む地球と違う時間の流れを辿った遥か未来の地球こそオボロの故郷なのだが、
こればっかりはオボロ本人すらつゆ知らぬ事である。
(ハクオロさん、って人は、坂本さんみたいな商人の誰かなんだろうか…)
新八がハクオロの話を聞いて思い出したのは、
宇宙をまたに駆ける商人、坂本“辰馬”である。
ひょっとするとそのハクオロと言う男は、
何らかの理由でオボロの星に漂着した地球人なのかも知れない。
(まあ、他の星の天人なのかもしれないけど…)
案外、ハクオロと言う男の正体は、
どこぞに流れ着いて土着しているという某「マダオ」だったりして、
などと、愚にもつかない事を考えて、彼はクスリと笑った。
(…一息は付けそうだ)
頬被りの姿のまま、オボロは飯を頬張った。
なんだ、まともな人間もいるではないか、と彼は一先ず安心した。
実は些細な誤解がもとのスレ違いでしか無いのだが、
十兵衛に、自分の様な耳の者は、却ってこの地では珍しく、
故に化け物か何かと勘違いされて斬りかけられたのだ、
と諭されたものの、依然、オボロは五百子、毛野を疑っていた。
それは五百子が見せた不気味な太刀筋に対する無意識の警戒が故であった。
(あの二人と違って、こちらの二人は信用できそうだ)
白と黒と並ぶ事で相引き立つ。
五百子一行への疑惑は、十兵衛一行への信頼を強める結果となっていた。
(トウカ…待っておれよ)
腕の立つ味方も手に入れた。
後は、トウカを見つけるのみである。
そう思って、オボロは静かに気炎を上げるのだった。
【にノ参 道祖神前/一日目/早朝】
【柳生十兵衛@史実】
【状態】健康、潰れた右目に掠り傷
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:柳生宗矩を斬る
一:城下町に行く
二:信頼できる人物に新八の護衛を依頼する
三:不憫よのぉ…
【備考】
※オボロを天竺人だと思っています。
※五百子、毛野が危険人物との情報を入手しましたが、
少し疑問に思っています。
【志村新八@銀魂】
【状態】健康、決意
【装備】木刀(少なくとも銀時のものではない)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:銀時や土方、沖田達と合流し、ここから脱出する
一:銀時を見つけて主催者を殺さなくていい解決法を考えてもらう
二:十兵衛と自分の知っている柳生家の関係が気になる
三:「不射之射」か…
四:天人まで?
【備考】※土方、沖田を共に銀魂世界の二人と勘違いしています
※人別帖はすべては目を通していません
※主催の黒幕に天人が絡んでいるのではないか、と推測しています
※五百子、毛野が危険人物との情報を入手しましたが、
疑問に思っています。
【オボロ@うたわれるもの】
【状態】:左手に刀傷(治療済み)、煤、埃などの汚れ、顔を覆うホッカムリ
【装備】:打刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:男(宗矩)たちを討って、ハクオロの元に帰る。試合には乗らない
一:城下町に行く。
二:五百子、毛野を警戒。
三:トウカを探し出す。
四:刀をもう一本入手したい。
五:頬被りスタイルに不満
※ゲーム版からの参戦。
※クンネカムン戦・クーヤとの対決の直後からの参戦です。
※会場が未知の異国で、ハクオロの過去と関係があるのではと考えています。
さて、十兵衛一行が道祖神傍で飯を食っていた頃、
彼らが今いる場所で邂逅を果たした足利将軍一行は、
特に蹉跌も無く、無事、城下町の入り口に到達していた。
「これは…」
「うむ…」
二人は感じていた。
城下に渦巻く、妖気、殺気、剣気、狂気に。
しかし…
「征くか」
「ああ」
破邪顕正の剣士二人は、
まだ薄暗い城下の町へと足を踏み出した。
―――悪霊と妖術師の嗤う無明の藪の中へ、二人の運命やいかに。
【ほノ参 城下町入り口/一日目/早朝】
【
犬塚信乃@八犬伝】
【状態】顔、手足に掠り傷
【装備】小篠@八犬伝
【所持品】支給品一式、こんにゃく
【思考】基本:村雨を取り戻し、主催者を倒す。
一:義輝を守る。
二:毛野を探し合流。
三:小篠、桐一文字の太刀、『孝』の珠も探す。
四:義輝と卜伝、信綱が立ち合う局面になれば見届け人になる。
【備考】※義輝と互いの情報を交換しましたが半信半疑です。ただ、義輝が将軍だった事を信じ始めています。
※果心居士、松永久秀、柳生一族について知りました。
※人別帖に自分の名前が二つある事は確認していますが、犬塚信乃が二人いる事は想定していません。
※玉梓は今回の事件とは無関係と考えています。
信乃の名前が二つある事は確認していますが、犬塚信乃が二人いる事は想定していません。
【
足利義輝@史実】
【状態】打撲数ヶ所
【装備】木刀
【所持品】支給品一式
【思考】基本:主催者を討つ。死合には乗らず、人も殺さない。
一:正午に城で新撰組の長と会見する。
二:卜伝、信綱と立ち合う。また、他に腕が立ち、死合に乗っていない剣士と会えば立ち合う。
三:上記の剣士には松永弾正打倒の協力を促す。
四:信乃の人、物探しを手伝う。
【備考】※黒幕については未来の人間説、松永久秀や果心居士説の間で揺れ動いています。
※信乃と互いの情報を交換しましたが半信半疑です。信乃に対しては好感を持っています。
※人別帖に信乃の名前が二つある事は確認していますが、犬塚信乃が二人いる事は想定していません。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2010年12月02日 20:53