街角の小さな出来事~通りすがりの義理と人情物語~◆C1mr6cZSoU



坂田銀時と剣桃太郎。
この両名は適当な民家を見つけては中の物を物色している。
もっとも家捜しをしているのは桃で、銀時は桃から借りた名簿に目を通していると言う方が正しいのだろう。

「ふう、見つからないな」
「まあ、刀なんて簡単に見つかるもんじゃねーししょうがねーだろ。それに俺たちはご都合主義得意のジャンプ住民
なんだから平気だろ。ピンチとなったら『隠された力が解放された』とかのノリで切り抜けられるもんだ」
「ジャンプ?銀さんは本当に面白い事を言うな」
「おいおい。俺はマジだぜ。だがよ。あの爺さんの言葉信用出来たもんじゃねーぞ」
「なんでだ?」
「だってよ。名前が誤字だらけだぜ。近藤勇や土方歳三や沖田総司とか中途半端に書き間違えてやがる。それに伊東甲子太郎て
死んだ奴まで居るぜ。そりゃジャンプ的には死んだ奴が生き返るのはお約束だからいいけどさ。自分が捕まえといて名前間違えるとか
あの爺さんはあまり信用出来ないぜ」
「名前を間違えか。確かに誤字が多いのは酷いな」

桃と銀時は色々としゃべりながら歩く。
桃は銀時と違い武器は持っていないのだが、それを心許なく感じるような弱い心は一切持ってはいない。

(何とかするしかないな。それに剣が無くても戦えないわけじゃない)

既にある種の覚悟は決めている。
元より剣術以外の格闘術にも充分な心得があるので、それは不可能ではない。
それに剣を使わずに戦った経験も一度や二度ではない。
そしてその覚悟を決めたと同時、往来の闇の奥から一人の男の影が見えた。

「あっ、誰だあいつ?……つかなんか物騒な長い刀持ってるんですけど」

銀時は闇にまみれよく姿の見えない男に向かい小走りで近寄る。
だがそれと同時、眼前の男は沈黙のまま銀時を見るや否や、襲い掛かる。

「って、うおおおおぉぉぉっ!!」

まだ距離は充分にあったのが幸いし、すぐさま逆走し銀時は桃の方へ戻る。

「なんだありゃ?いきなり襲い掛かってきたぞ。フツー名乗るだろ。侍ってさ。アレなに?暗殺者ですか?ええぇっ!!」
「いや、男の勝負に言葉を交わす必要は無いという彼なりの礼儀なのだろう。男と男の勝負を前に馴れ合いなど無用。
そういった考えであれば一方的に向こうを非礼ともいえない」
「そうか。ありゃ痴呆が始まっててもおかしくないジジイだぞ」
「いや、歳で考えては駄目だ。年齢を無視したような強者は少なくは無い」

銀時の桃は異なった見解を持つ。
だが、その二人の会話など邪魔するかのように、無言で暗殺者のごとく迅速なる虎眼の襲撃が始まる。

「来たか」
「おいおい、空気よもーぜ」

桃と銀時は左右に別れる。
だが、虎眼は瞬時に標的を銀時に定める。
武士としての本能が、剣を持たぬ桃でなく木刀を持つ銀時を敵と認識したのである。

「げっ!俺かよって、ちょっ!」

虎眼は瞬く間に距離を詰め柄をずらし流れの一撃を繰り出す。
本来なら間合いのギリギリ一歩外からの攻撃。
故に達人であれば回避行動を怠り、流れの直撃を許してしまう。

「うおおっ!アブねっ」

だがそれを銀時は大きく後ろに跳んで避ける。
決して流れを読んだわけではない。もし桃であれば間合いを正確に読みきり、それ故に首を撥ねられていたかもしれない。
だが銀時は間合いなど読んだりはしない。
ただ単純に攻撃を仕掛けたから大きく後ろへ避ける。
そのあまりにシンプルな動作は皮肉にも間合いを操る虎眼流奥義の骨子となる流れを無効化したのである。

「…………」
「おいおいジジイ。いい加減に止めろよ。死ぬかと思ったじゃねーか」

無言の虎眼に銀時の怒りの言葉が降り注ぐ。
しかし虎眼は既にそれが耳に届いたりはしない。
再び銀時に向かい神速の域に迫る鋭い攻撃を繰り出す。

「マジかよっ!話ぐらい聞けって、おいっ!!」

銀時はその攻撃を避ける。
虎眼が持つ刀の長さを考えても、銀時は分の悪さを考え反撃の意思を捨て攻撃の回避に専念する。
故に銀時は虎眼との距離を一向に詰めようとせず、繰り出すたびに間合いが変化する流れは有効にならない。

一方の桃はそれをただ見ていた。
幾度も繰り返される虎眼と銀時の攻撃と回避。
桃はそれをただ見ているだけだった。
横槍を入れる気にならなかったというのが正しいのかもしれない。

「銀さんも凄いじゃないか。あの攻撃を全て避けるなんてな」

その銀時の技量には桃も思わず感心してしまうほどであった。
しかしそれも遂に終わりが来る。

(疲れてきたな。このジジイはいつになったら諦めるんだ?ああ、糖分が取りてー)

銀時がそんなよそ事をうっかり考えてしまった時だ。
その隙を見逃さず、虎眼はいつもより更に一歩深く踏み込み柄尻の更にギリギリまで伸ばし、右手指が六本ある
虎眼ならではの必殺の奥義、流れ星が炸裂する。

「んなっ!?」

刀は銀時の額を正確に捉えている。
銀時は思いっきり後ろへと跳んで虎眼の追撃可能距離の更に外まで距離を話して着地する。
その銀時は地面に顔を向けたまま上げようとしない。
虎眼と桃の視線はその銀時に注がれている。

グラッ

不意に銀時の体がよろめく。

「まさか………銀さんっ!?」

桃は銀時が斬られたのかと思い、思わず声を掛ける。
だが、銀時は次の瞬間顔を上げた。

「けっ。遅いぜ爺さん。あんな攻撃止まって見えるぜ」

完全に読みきった。もうあんな攻撃目を閉じても避けられるぜ!的な事を言おうとした銀時の額からは
紅い鮮血が滴っていた。

「銀さんっ!額から血が!?」
「あ?これは……血じゃないよ。そう…………トマトケチャップだよ。何?俺が避けられなかったとでも言いたいの」
「いや、それは明らかに斬られて………」
「うっせーな。斬られてないって斬られた本人がいってんだから斬られてないんだよ!」
「………まあそんなに元気なら大丈夫だな」

銀時に対し桃は思わず心配そうな言葉をかけたが、銀時のその反応から致命傷ではない事を確認し、思わず安堵の言葉が出た。
しかし銀時の腹の虫は収まっていない。

「なんだよ。自己完結してんじゃねーよ。あっ、なんだこのやり取り前にもやったぞ。ってお前もなんか言えやコラ!!」

銀時は怒りの矛先を虎眼へと向ける。
だが虎眼は答えない。
もし虎眼がもう少し若ければ

『我が秘剣流れ星を完全に避けるとは、お主中々にやりおるな』

と空気を読んで避けきったことになったかもしれない。
しかし今の虎眼にはそのような空気を読んだりすることはありえない話だった。

「ああ、まあいいや。もう相手にすんのもめんどくせー。さっさと逃げると………」
「先生っ!」

銀時がノンビリ逃げる算段を練っていると背後から声が聞こえる。
やたらとまじめそうな声である。

「先生っ!……ご無事でしたか」

銀時の背後から現れたのは先ほどまで銀時を襲っていた男の弟子にして義理の息子の筋にあたる藤木源之助である。
源之助は虎眼へと近づき、そしてその途中で銀時は源之助の背中に向けて話しかける。

「おいおい、お前の師匠か?なら頼むよ、さっさと引き取ってくれ。こっちはいきなり襲われて額まで切られたんだぞ。
あと慰謝料もついでに払えな。まあここはとりあえず十万ぐらいで手を打つから」
「……………」
「はあ、おいおい何それ。かっこつけてバックレるの?それでいいの?お前知ってるよ。昔ならではの侍だろ。
いいのかな?師匠の不始末弟子の不始末って言わない?言わないならいいけどさ。後でお前の流派の悪い噂を
たっぷり流してやるからさ。それが嫌なら金払えな。持ってないならとりあえず手持ちだけでも……」
「………………五月蝿い。それを実行すればそなたの命は無いと思え」」

源之助は銀時を低い声で威圧すると虎眼へと近づく。

「先生。源之助にてございます」

源之助は虎眼に深々と頭を下げる。
だがその源之助に対し、虎眼が取った行動は意外すぎた。

「なっ!?」

虎眼は源之助に対しても、一切の躊躇無く一撃を繰り出したのだ。
それは仕置きとは程遠い、殺意の篭った一撃である。
だが源之助は咄嗟に腰を降ろしてしゃがむように横薙ぎの一撃を回避し、そのまま間合いの外まで離れる。

「先生?」

源之助は驚いた。
一切の言葉も無く、自らの首を刈ろうとした虎眼に驚きと困惑が交じり合い、上手く言葉に出ない。

「おいおい。お前の師匠さん弟子にも容赦なく斬りかかってるよ。あれだよ。もう言葉通じないんだ。頭がアレなんだよ」
「いや………それはありえぬが………」

源之助は銀時の言葉に反論するが、それ以上考えられなかった。
そこでようやく桃が二人に近寄り、話に入る。

「どうやらこの危険な状況が重なり、混乱してしまっている可能性が高い。この場合一度意識を奪ってから、覚醒
させれば元に戻る可能性が高い」
「先生が混乱?しかし……先生に限って……」
「その誰に限ってとか皆言う事なんだよ。ところで先生先生ってあいつ何様だ?」
「岩本虎眼という名で虎眼流を作った偉大な方だ」
「へえ、宗家ってことか。相当儲かるんだろ。なら……」
「金銭に関しては俺の知る所ではない」
「ちっ、そうかよ」

源之助は銀時のペースに巻き込まれないように、それ以上銀時の相手をしないように目を背ける。
しかし、源之助も気付いてはいない。
そのような態度を取る事自体、既に銀時のペースにはまってしまっている事に。
そして銀時と源之助のやり取りをよそ目に見ながら桃は考えを巡らしている。

(あの男の間合いは長い。そしてこちらは銀さんの木刀が一本にこの源之助という男の武器も刀が一本に脇差が一本。
仮にどちらか一本を俺が借りたとして、三人がかりでもあの長い間合いをもぐりこんで意識を奪うのは難しいぜ。
やはり確実に意識を奪うには………あれしかないか)
「作戦がある。源之助さんはあの虎眼という男を引き付けてくれ。銀さんは俺が合図をしたら木刀で殴りかかり
気絶させてほしい。その為の隙は俺が作る」
「なっ!?先生の意識を木刀でっ!?」
「このまま放置したら仮の俺たちが逃げたとしても誰かに殺される。もしお前が一人で何とかしようにも、あの男も
お前を殺そうとしている以上、守り通すのは不可能だ。いずれにしてもここで気絶させるしかない」
「…………しかしこの男を信頼出来るか?誤って先生を殺めれば俺は……」

桃の提案を渋々受け入れながらも源之助は銀時に半信半疑の視線を向ける。

「ああっ、大丈夫だろ。隙を作ってくれんなら、その隙に木刀で力いっぱい殴れば気ぐらい失うだろ。だいじょーぶだって。
まあ手加減は苦手だけど、木刀ぐらいじゃしなねーし」
「………」

銀時の頼りない返事に源之助は強い不安を覚える。
しかし、自分が虎眼を気絶させる事など出来るはずも無く、最初から源之助には拒否権は無かった。
ただ、信じるだけだ。

「………銀時」
「見つめなくてもわーてるよ」」
「俺は少し用意が必要だから、数分だけ頼むぜ!」

源之助の強い視線での念押しに銀時は飄々と返し、桃はすぐに民家へと消えた。
源之助は桃を見届けてから虎眼へと向き直る。

「先生…………御免!」

源之助は虎眼に一言だけ謝り、相対する。虎眼は源之助にも一切の特別な反応を示さずに切りかかる。
しかし、虎眼の太刀筋は幾度も見ているために単純に避けるだけなら決して難しい事ではない。
最初から源之助には虎眼に太刀を浴びせる意思は一切無く、時間を稼ぐだけなのでなお更だ。

そして一方。
桃は民家の中で一つの包丁と木の板を見つけ、木の板を細かく削っている。

「人の命を弄ぶ技。二度と使う気など無かったが………今回だけはやむおえない」

桃は一つの礫を即席で作る。
本来は銀の礫が必要なのであるが、すぐに作るのも困難な状況では木で代用するしかなかった。

(握力を奪うだけなら………難しくは無い)

桃は包丁で細かく削り落としていく。
慎重な作業が必要であるのだが、余り時間は使えない。
しかし外では血の臭いはしてこない。
源之助は時間稼ぎをしてくれているのだろう。
それを信じ、迅速に礫を作っていく。
そして約十分。
ようやく一つの礫を作り出した。

(出来たぜ!急がないとな!!)

桃は完成した礫を手に取り素早く民家を飛び出す。
外では虎眼の神速に近い流れ星の攻撃とそれを避け続ける源之助の姿があった。

「……よくやってくれた源之助さん。後は俺に任せろ」

桃は狙いを定め、虎眼の右腕ひじに向けて狙いを定めた礫の一撃を放つ。
翔穹操弾。
相手の筋肉や腱の結成を刺激し、意のままに操る奥義である。
そしてその礫は狙いと寸分違わぬ位置に吸い込まれるように命中する。
それと同時、源之助を襲っていた虎眼の右手の野太刀はまるで握力が無くなったかのように地へと落ちる。

「今だ銀さん!!」
「ああっいくぜっ!!」

桃の掛け声と同時、銀時は全速力で走り出し、虎眼に殴りかかる。

「おりゃああああっっっ!!!!」

銀時は大きく振りかぶって虎眼の頭部を木刀で殴りつける。
本来なら虎眼でも直撃は避けられるはずの一撃だが、不意に右手の握力が喪失したことによる隙を付かれては
急所を外す事すら叶わず、直撃を許してしまう。

「がっ!」

その一言のうめき声と共に、虎眼は気を失い大の字になって地面へと倒れ伏す。
そしてそれを確認するや否や、源之助は走って虎眼の元へと駆け出す。

「先生っ!大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫だろ。数時間で目が覚めると思うぜ」
「ああ、殴った際の音も骨が折れるような音は無かった。致命傷ではないはずだ」

銀時と桃も虎眼に近寄り様子を見る。
桃はすぐに虎眼の右腕をとり、木の礫を取り出す。

「これで問題はない」
「すまない………先生を助けてくれた事。心から礼をさせてもらう」」
「そうだぜ。俺様がいなけりゃとっくにこのジジイ殺されてたぜ。まあ俺に感謝」
「桃といったな。………感謝する」

源之助は銀時を無視し、桃に礼を述べる。
いつも無口である源之助であるが、虎眼を助けてもらった礼は彼なりに精一杯の態度で示している。
だが桃は特に気にした様子も無く、地面に落ちていた刀を手に取る。

「ところでこの刀、貰っていくが構わないな」
『コク!』

源之助は無言の頷きで返す。

「……ああもういいや。じゃあ俺は行くわ。疲れたし、せっかく城が近くにあるからそこで休むわ」
「なら俺も一緒に行くか。もうすぐ夜が明けるから城の上から町の様子を見てみたい」
「ではここでお別れだ」
「ああ、じゃあな」

源之助は虎眼を抱きかかえると、桃と銀時から背を向ける。

「お姫様抱っこみたいだな。美少女なら絵的にいいんだが、ジジイじゃな」
「……おかしな表現は止めろ………じゃあな銀時さん。あんたも一応は礼をいう」
「ああ、あと一応言っとくぞ」
「?」
「何かお前の左腕に引っかかるもんがあるんだ。まあ気のせいと思うけどな。一応気をつけとけ。
間違ってチョン斬られたら洒落になんねーからな」
「……ああ。心に留めておく。ではっ」

銀時のあくまでも気のせいな発言を聞いてから源之助は師である虎眼を抱え直すと走り出す。
源之助の背中はドンドン小さくなっていく。
それを見届けつつ、銀時と桃も城へと歩きだした。

【ほノ肆/城手前/一日目/早朝(黎明直後)】

【剣桃太郎@魁!!男塾】
【状態】健康
【装備】備前長船「物干竿」@史実
【道具】支給品一式 ハリセン
【思考】基本:主催者が気に入らないので、積極的に戦うことはしない。
1:銀時に同行する。
2:向こうからしかけてくる相手には容赦しない。
3:赤石のことはあまり気にしない。
※七牙冥界闘終了直後からの参戦です。

【坂田銀時@銀魂】
【状態】健康 額に浅い切り傷
【装備】木刀
【道具】支給品一式(紙類全て無し)
【思考】基本:さっさと帰りたい。
1:とりあえず城に行って休む
2:新八を探し出す。
※参戦時期は吉原編終了以降
※沖田や近藤など銀魂メンバーと良く似た名前の人物を宗矩の誤字と考えています。


【ほノ肆 城下往来/一日目/早朝(黎明直後)】

【藤木源之助@シグルイ】
【状態】健康 虎眼を抱えている
【装備】打刀@史実、脇差@史実
【所持品】支給品一式
【思考】:虎眼を守り抜く
一:とりあえず人の少ない場所へ向かう。
二:左腕?一応気をつけるか。
【備考】
※人別帖を見ていません

【岩本虎眼@シグルイ】
【状態】気絶 源之助に抱えられている。
【装備】無し
【所持品】支給品一式
【思考】:宗矩を斬る
一:宗矩を斬る
二:???
【備考】
※人別帖を見ていません。
※気を失いました。覚醒後の状態が魔人、正気、曖昧のどれかは不明です。


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人の名前聞いて笑うとか失礼だ 剣桃太郎 義士達に更なる試練を
人の名前聞いて笑うとか失礼だ 坂田銀時 義士達に更なる試練を
天狗ト猛虎、月夜ノ辻二相食ム事 岩本虎眼 霊珠に導かれて
探す人々 藤木源之助 霊珠に導かれて

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最終更新:2010年07月23日 02:29