一方その頃(時間経過)その3
地球軍
ノギ艦隊出撃
火星鎮定軍地球艦隊、旗艦。
ノギは、帽子を被って夢を見ている。
ライオンの夢を見ていたのであった。
ノギは、帽子を被って夢を見ている。
ライオンの夢を見ていたのであった。
傍らに座って発令する艦長が、
気遣うように口を開いた。
気遣うように口を開いた。
艦長/
ノギ提督、御命令を。
ノギ提督、御命令を。
ノギ少将/
…んー、うむ、すまんな。
艦隊出撃。
…んー、うむ、すまんな。
艦隊出撃。
艦長/
ノギ艦隊出撃!
ノギ艦隊出撃!
一斉に大小の艦が抜錯する。
古風な時計を見ながら艦長は口を開いた。
艦長/
見事なタイムですな。
訓練予算が不足しているなかで、
よくぞここままで。(原文ママ)
見事なタイムですな。
訓練予算が不足しているなかで、
よくぞここままで。(原文ママ)
ノギ少将/
いい艦長を揃えただけだ。
組織は、頭で決まるんだよ。
いい艦長を揃えただけだ。
組織は、頭で決まるんだよ。
艦長/
なるほど。
確かに提督は優秀でいらっしゃる。
お休みになられますか。
なるほど。
確かに提督は優秀でいらっしゃる。
お休みになられますか。
艦長/
出撃まで物資をかき集めるのでお疲れだと
愚考しますが。
出撃まで物資をかき集めるのでお疲れだと
愚考しますが。
ノギ少将/
疲れていたわけじゃない。
懐かしかっただけさ。
疲れていたわけじゃない。
懐かしかっただけさ。
眉だけを動かしてうながす艦長に、
ノギは独り言のように言った。
ノギは独り言のように言った。
ノギ少将/
私の母は、火星に移民していてね。
私の母は、火星に移民していてね。
艦長/
心配ですな。
心配ですな。
ノギ少将/
…さあな。
…さあな。
ノギは帽子を被り直した。
ノギ少将/
さあ、それでは火星独立軍の腕前、
見せてもらおうか。
全艦、進路0ー0ー0。
さあ、それでは火星独立軍の腕前、
見せてもらおうか。
全艦、進路0ー0ー0。
艦長/
はっ。
訓練の総仕上げだ! 一斉転蛇!(原文ママ。正確には「転舵」)
はっ。
訓練の総仕上げだ! 一斉転蛇!(原文ママ。正確には「転舵」)
ノギの分析 敵への同情
火星鎮定軍地球艦隊、旗艦。
ノギ 私室。
ノギ 私室。
ノギは、個室でBALLSが映し出す
母の写真を見ている。
母の写真を見ている。
ノックの音に、写真を隠した。
部下/
接敵に成功しました。
…反乱軍の尻尾、捕まえましたな。
接敵に成功しました。
…反乱軍の尻尾、捕まえましたな。
ノギ少将/
火星独立軍だ。
彼らとて、戦いたいから
戦っているわけではない。
火星独立軍だ。
彼らとて、戦いたいから
戦っているわけではない。
ノギ少将/
戦うしかないから、戦っているだけだ。
戦うしかないから、戦っているだけだ。
ノギ少将/
反乱を起しているのではない、
パンをくれと叫んでいるだけだ…。
反乱を起しているのではない、
パンをくれと叫んでいるだけだ…。
ノギ少将/
…それよりいいのかね。
艦長がこんなところで油を売っていても。
…それよりいいのかね。
艦長がこんなところで油を売っていても。
部下/
戦いの前に、提督の顔を拝んでおいた方が
御利益があると思いまして。
戦いの前に、提督の顔を拝んでおいた方が
御利益があると思いまして。
ノギ少将/
ふん。
君も冗談を言うのかね。
ふん。
君も冗談を言うのかね。
部下/
自分の出身は木星ですが。
ギャグ以外の物資はいつも足りませんでした。
自分の出身は木星ですが。
ギャグ以外の物資はいつも足りませんでした。
ノギ少将/
ああ、まったく火星と同じというわけだ。
多くの将兵にとってもそうだろう。
ああ、まったく火星と同じというわけだ。
多くの将兵にとってもそうだろう。
ノギ少将/
明日は我が身か、だよ。
最低接触戦争の時、火星の兵は優秀だった。
それが今は反乱軍だ。
明日は我が身か、だよ。
最低接触戦争の時、火星の兵は優秀だった。
それが今は反乱軍だ。
部下/
どうしても士気は高くなりませんな。
どうしても士気は高くなりませんな。
ノギ少将/
当然だ。
火星は何故反乱を起したのか。
当然だ。
火星は何故反乱を起したのか。
ノギ少将/
復員する3億近くの兵に、仕事も、パンも、軍も、
地球も渡せなかった。
復員する3億近くの兵に、仕事も、パンも、軍も、
地球も渡せなかった。
ノギ少将/
そのうちの半分は、銃の撃ち方と敬礼の仕方しか
しらん若造どもだ。
そして今から戦争以外を覚えるには、不景気すぎる。
そのうちの半分は、銃の撃ち方と敬礼の仕方しか
しらん若造どもだ。
そして今から戦争以外を覚えるには、不景気すぎる。
部下/
…ここだけの話、もう一度宇宙人に
攻めてもらいたいですな。
…ここだけの話、もう一度宇宙人に
攻めてもらいたいですな。
部下/
そうすれば、もう一度我々は火星人とも
うまくやっていけると思いますが。
そうすれば、もう一度我々は火星人とも
うまくやっていけると思いますが。
ノギ少将/
…そう考える者も、一人ではないだろうな。
…そう考える者も、一人ではないだろうな。
ノギの個人的事情
火星鎮定軍地球艦隊、旗艦。
都市船オリンポスに寄港中。
都市船オリンポスに寄港中。
艦長/
提督、上陸をされるのですか?
提督、上陸をされるのですか?
ノギ少将/
一度くらい敵の、いや火星の都市を見てみるのも
いいと思ってな。
一度くらい敵の、いや火星の都市を見てみるのも
いいと思ってな。
ノギ少将/
困っているようなら、
少しは物資を分ける事も出来るだろうし、
火星政府に勧告も出来るだろう。
困っているようなら、
少しは物資を分ける事も出来るだろうし、
火星政府に勧告も出来るだろう。
艦長/
母君をお探しになるので。
母君をお探しになるので。
ノギ少将/
私の事なんか忘れているさ。
そういう人だ……。
私の事なんか忘れているさ。
そういう人だ……。
ノギ少将/
しかし、本物の海で戦うのもいいが、
やはり宇宙が懐かしいな、艦長。
しかし、本物の海で戦うのもいいが、
やはり宇宙が懐かしいな、艦長。
艦長/
宇宙でネーバルの嬢ちゃん達と
光子魚雷の撃ち合いをしていた方が、
我々の分でしたな。
宇宙でネーバルの嬢ちゃん達と
光子魚雷の撃ち合いをしていた方が、
我々の分でしたな。
ノギ少将/
帰りたいものだ。
帰りたいものだ。
艦長/
まったくです。
まったくです。
ノギ少将/
さて、準備良しだ。
私はいくよ。
さて、準備良しだ。
私はいくよ。
艦長/
お気をつけて。
最近は街中にも反乱軍のシンパがいると
聞いています。
お気をつけて。
最近は街中にも反乱軍のシンパがいると
聞いています。
ノギ少将/
ありがとう。
死ぬなら宇宙で死ぬよ。
ありがとう。
死ぬなら宇宙で死ぬよ。
ノギ少将/
気のいい部下や、
大勢のBALLSにかこまれてな。
気のいい部下や、
大勢のBALLSにかこまれてな。
艦長/
自分もご一緒したいところです。
自分もご一緒したいところです。
ノギとスミスの関係
火星鎮定軍司令部、廊下。
威風堂々と歩くノギに、
スミスが小走りでついてくる。
スミスが小走りでついてくる。
スミス/
おはようございます。
ノギ少将。
おはようございます。
ノギ少将。
ノギ少将/
おはよう、スミス少佐。
元気そうで残念だ。
おはよう、スミス少佐。
元気そうで残念だ。
スミス/
元部下に、
ひどいことを言うじゃありませんか。
元部下に、
ひどいことを言うじゃありませんか。
ノギ少将/
俺は、貴様のやり方が好かん。
俺は、貴様のやり方が好かん。
スミス/
…サン将軍は、少将のそういう態度を
余りお好きでないようで。
…サン将軍は、少将のそういう態度を
余りお好きでないようで。
ノギ少将/
…そうか。
…そうか。
ノギが歩き去った後、スミスはつぶやいた。
スミス/
ふん。
俺より少しばかり殺しがうまいからって…。
ふん。
俺より少しばかり殺しがうまいからって…。
ホン・サンにゴマをするスミス
火星鎮定軍司令部、廊下。
廊下を歩くホン・サンと副官は、
期せずして同時に顔をあげた。
物陰から男が現れたのである。
期せずして同時に顔をあげた。
物陰から男が現れたのである。
スミス/
ああ! サン将軍!
ああ! サン将軍!
ホン・サン/
スミス少佐か。
スミス少佐か。
スミス/
はい。
このたびは遠征軍の指揮官就任、
おめでとうございます。
はい。
このたびは遠征軍の指揮官就任、
おめでとうございます。
ホン・サン/
世辞はいい。
私は貴官の腕を買ったのだ。
世辞はいい。
私は貴官の腕を買ったのだ。
スミス/
はっ、それはもうわかっております。
はっ、それはもうわかっております。
スミス/
反乱軍の犬どもに、
あの手この手で誰が主人かを
叩き込んでやります。
反乱軍の犬どもに、
あの手この手で誰が主人かを
叩き込んでやります。
ホン・サン/
期待している。
期待している。
すれ違うホン・サン。
スミスは、深々と頭を下げる。
スミスは、深々と頭を下げる。
副官が口を開いた。
副官/
よろしいのですか、
あのような小物を重用して。
よろしいのですか、
あのような小物を重用して。
ホン・サン/
小物だからいいのだ。
思う通りに踊ってくれる。
小物だからいいのだ。
思う通りに踊ってくれる。
副官/
…それで、踊らせたつもりが
足をすくわれなければ良いのですが。
…それで、踊らせたつもりが
足をすくわれなければ良いのですが。
ホン・サン/
そんな知恵もまわらんさ。
しかし、汚れ仕事を喜んでやる
貴重な人材ではある。
そんな知恵もまわらんさ。
しかし、汚れ仕事を喜んでやる
貴重な人材ではある。
ホン・サン/
ノギは気持ちのいい男だ。
だが、ノギのような男だけで、
戦争が出来るわけではない。
ノギは気持ちのいい男だ。
だが、ノギのような男だけで、
戦争が出来るわけではない。
スミスの姦計1 同族殺し
アンナ・グレースは
サインをしながら口を開いた。
サインをしながら口を開いた。
アンナ・グレース/
これで、この署名で火星コーストガードは
戦力強化されることになりますね。
これで、この署名で火星コーストガードは
戦力強化されることになりますね。
スミス/
その通りです。レディ・グレース。
戦力をうまく使って反乱軍を
叩き潰してください。
その通りです。レディ・グレース。
戦力をうまく使って反乱軍を
叩き潰してください。
アンナ・グレース/
…ありがとうございます。
…ありがとうございます。
スミス/
いえいえ。
そうだ、今夜お食事でも。
もちろん、お嫌なら結構ですが。
いえいえ。
そうだ、今夜お食事でも。
もちろん、お嫌なら結構ですが。
アンナ・グレース/
グレースは、スミスの凶悪そうな顔を見た後
下を見た。
グレースは、スミスの凶悪そうな顔を見た後
下を見た。
アンナ・グレース/
わかりました。
お付き合いします。
わかりました。
お付き合いします。
スミス/
ええ、ありがとうございます。
常々あなたの美しさについては軍でも
噂になっていましてな。
ええ、ありがとうございます。
常々あなたの美しさについては軍でも
噂になっていましてな。
アンナ・グレース/
…失礼、まだ公務が残っておりますから。
…失礼、まだ公務が残っておりますから。
スミス/
ああ、それでは後で。
ああ、それでは後で。
グレースが去った後、スミスは口の端を笑わせた。
スミス/
ふん、バカ女が。
火星の犬は色香を売るしか能がないと見える。
ふん、バカ女が。
火星の犬は色香を売るしか能がないと見える。
スミス/
戦力が強化される、だと!
火星人を助けるために、何故他の星が
苦労せねばならんのだ。
戦力が強化される、だと!
火星人を助けるために、何故他の星が
苦労せねばならんのだ。
スミス/
自分達で殺しあえば、被害は少なくなる、
それだけだ!
自分達で殺しあえば、被害は少なくなる、
それだけだ!
スミス/
………。
………。
スミス/
まあ、いい。
どんなことにも喜びはある。
そう、次はどうやって反乱軍をいじめてやろう。
まあ、いい。
どんなことにも喜びはある。
そう、次はどうやって反乱軍をいじめてやろう。
スミスの姦計2 虐殺
火星軍鎮定軍司令部の一室。
スミス/
偉そうに後ろ手で手を組み、
窓の付近を行き来するスミス。
ノックして入ってくる部下。
偉そうに後ろ手で手を組み、
窓の付近を行き来するスミス。
ノックして入ってくる部下。
スミス/
出来たかね。
出来たかね。
部下/
特定居住地に、反乱軍のシンパと思われる
民衆を追い込みました。
あとは、どうやって選別するかですが。
特定居住地に、反乱軍のシンパと思われる
民衆を追い込みました。
あとは、どうやって選別するかですが。
スミス/
選別する必要はない。
同じ火星人だ。
全部焼いてしまえ。
選別する必要はない。
同じ火星人だ。
全部焼いてしまえ。
部下/
は? いや、しかし。
は? いや、しかし。
スミス/
命令が聞こえてないのかね!
命令が聞こえてないのかね!
部下/
失礼いたしました!
特定居住地に火をつけるよう伝令します!
失礼いたしました!
特定居住地に火をつけるよう伝令します!
スミス/
ああ、財産の没収は各自の判断でしても
いいと伝えたまえ。
どんなことにも喜びがなければいけない。
ああ、財産の没収は各自の判断でしても
いいと伝えたまえ。
どんなことにも喜びがなければいけない。
部下/
はっ…。
それと、その火星政府から抗議が
きておりますが。
はっ…。
それと、その火星政府から抗議が
きておりますが。
スミス/
無視しろ。
我が軍の人的被害には替えられん。
無視しろ。
我が軍の人的被害には替えられん。
部下/
わかりました。
わかりました。
スミス出撃
火星鎮定軍地球艦隊、旗艦。
スミスは、口の端を動かしながら
提督席に座った。
提督席に座った。
スミス/
私はここまできたぞ。
私はここまできた!
私はここまできたぞ。
私はここまできた!
隣の艦長が、帽子を被り直しながら口を開いた。
艦長/
で、少佐提督どの、
どこまで出前に行けばよろしいのか?
で、少佐提督どの、
どこまで出前に行けばよろしいのか?
スミス/
黙れ、艦長のくせに口がすぎるぞ!
黙れ、艦長のくせに口がすぎるぞ!
艦長/
はあ。
はあ。
スミス/
全軍抜錨!
反乱軍を潰せ!
全軍抜錨!
反乱軍を潰せ!
艦長/
なるほど。
で、反乱軍はどこで?
なるほど。
で、反乱軍はどこで?
スミス/
それぐらい、自分で考えろ!
それぐらい、自分で考えろ!
スミスの最後
火星鎮定軍司令部 司令官室。
偉そうに司令官席に座るホン・サンの前に
ぼろぼろのスミスが立っている。
ぼろぼろのスミスが立っている。
ホン・サン/
見事な敗北だな。
見事な敗北だな。
スミス/
…次こそは犬どもを狩り、
火星の海をやつらの血で赤く
染め上げてみせます…。
…次こそは犬どもを狩り、
火星の海をやつらの血で赤く
染め上げてみせます…。
ホン・サン/
もう貴官の言い訳と戯れ言は聞き飽きた。
あとは軍法会議で言い訳をしろ。
もう貴官の言い訳と戯れ言は聞き飽きた。
あとは軍法会議で言い訳をしろ。
スミス/
そ、そんな!
私は、今までサン将軍のために
粉骨砕身一生懸命…。
そ、そんな!
私は、今までサン将軍のために
粉骨砕身一生懸命…。
ホン・サン/
黙れ!
黙れ!
スミス/
ヒィ!
ヒィ!
ホン・サン/
貴官のような人間を使ったせいで、
多くの将兵が死んだ。
これは私の責任だ。
貴官のような人間を使ったせいで、
多くの将兵が死んだ。
これは私の責任だ。
ホン・サン/
だが、私はここで軍籍を外れる
わけにもいかん。
だが、私はここで軍籍を外れる
わけにもいかん。
ホン・サン/
私の代わりに責任を取って最後の役に立て、
スミス。
私の代わりに責任を取って最後の役に立て、
スミス。
スミス/
…そんな、私には妻と子が。
…そんな、私には妻と子が。
ホン・サン/
お前の事などとっくに忘れて、
今頃よろしくやってるだろうよ。
お前の事などとっくに忘れて、
今頃よろしくやってるだろうよ。
ホン・サン/
自分の家のことも良くわかってないと見える。
連れて行け!
自分の家のことも良くわかってないと見える。
連れて行け!
スミス/
将軍。
将軍。
ホン・サン/
…ふん。
…ふん。
ホン・サン出撃
火星鎮定軍地球艦隊、旗艦。
ホン・サン/
宇宙と比べて、揺れるな。
宇宙と比べて、揺れるな。
艦長/
そうですか?
そうですか?
ホン・サン/
いや、久しぶりの艦隊勤務だから
かもしれん。
いや、久しぶりの艦隊勤務だから
かもしれん。
艦長/
すぐに慣れますよ。
それでは提督、御命令を。
すぐに慣れますよ。
それでは提督、御命令を。
ホン・サン/
艦隊出撃。
艦隊出撃。
艦長/
サン艦隊出撃!
サン艦隊出撃!
一斉に大小の艦が抜錨する。
ホン・サン/
いいな。
いよいよ戦争している気になってきたな、
…おい。
いいな。
いよいよ戦争している気になってきたな、
…おい。
艦長/
そうですな。
そうですな。
ホン・サン/
一つ、ネーバルウィッチをひねるように、
火星の反乱軍とやらを光子魚雷で
吹き飛ばしてやるか。
一つ、ネーバルウィッチをひねるように、
火星の反乱軍とやらを光子魚雷で
吹き飛ばしてやるか。
艦長/
ここではただの魚雷ですよ。
ここではただの魚雷ですよ。
ホン・サンの最後
オリンポス宇宙港。
ホン・サンは、脱出便に乗り込もうと
小走りになっていた。
小走りになっていた。
副官/
将軍!
将軍!
ホン・サン/
一時的に火星を離れるだけだ。負けたわけではない。
私はさらなる戦力を引き連れて……うっ。
一時的に火星を離れるだけだ。負けたわけではない。
私はさらなる戦力を引き連れて……うっ。
スミス/
将軍!!
将軍!!
物陰から現れた薄汚れたスミスが、
よろけながらホン・サンに壊れた笑顔を送った。
拳銃を向ける。
よろけながらホン・サンに壊れた笑顔を送った。
拳銃を向ける。
スミス/
この日をまっておりましたよ。
サン将軍。
この日をまっておりましたよ。
サン将軍。
ホン・サン/
お前は…。
お前は…。
スミス/
スミスです。
あなたにお仕えしたトシロー・スミスです!
今日はお礼にね!
スミスです。
あなたにお仕えしたトシロー・スミスです!
今日はお礼にね!
スミスは何度も引き鉄を引いた。
ホン・サン/
……馬鹿…め。
……馬鹿…め。
崩れ落ちるホン・サンの声を心地よく
聞いたスミスは、直後に副官に胸を撃ちぬかれた。
それでも、笑ったままだった。
聞いたスミスは、直後に副官に胸を撃ちぬかれた。
それでも、笑ったままだった。
ホン・サンのクーデター
ー地球ー太陽系連合評議会 議事堂。
兵士達が続々と議事堂に突入し、
庭には装甲車が止まっている
兵士達の敬礼の中、査察するサン将軍。
庭には装甲車が止まっている
兵士達の敬礼の中、査察するサン将軍。
副官が敬礼する。
副官/
クーデターは成功です。
ホン・サン将軍。
クーデターは成功です。
ホン・サン将軍。
ホン・サン/
うむ。
うむ。
副官/
大統領の拘束にも成功しました。
議員のほとんども、現在自宅軟禁中です。
大統領の拘束にも成功しました。
議員のほとんども、現在自宅軟禁中です。
副官/
4、5名ほど射殺し、10名ほどが
地下に潜伏した模様ですが、
すぐに逮捕出来る予定です。
4、5名ほど射殺し、10名ほどが
地下に潜伏した模様ですが、
すぐに逮捕出来る予定です。
ホン・サン/
予定通りか。
ここからが大事だな。
予定通りか。
ここからが大事だな。
ホン・サン/
新政権の正しさを証明するためにも、
火星の反乱を叩き潰さねばならん。
新政権の正しさを証明するためにも、
火星の反乱を叩き潰さねばならん。
副官/
はっ。
はっ。
ホン・サン/
今夜の政見放送に
暫定政府首班として私が出る。
演説の後、私自ら火星に降りる。
今夜の政見放送に
暫定政府首班として私が出る。
演説の後、私自ら火星に降りる。
副官/
(最初から人材不足だな…。
信用出来る部下が、この人には少なすぎる。)
(最初から人材不足だな…。
信用出来る部下が、この人には少なすぎる。)
ホン・サン/
どうした。
どうした。
副官/
いえ、承知いたしました。
いえ、承知いたしました。
ホン・サン/
急がねばならん。
急がねばならん。
ホン・サン/
光国が本格的に介入してくる前に、
太陽系の自立を守るために
火星の反乱を制圧せねばならん。
光国が本格的に介入してくる前に、
太陽系の自立を守るために
火星の反乱を制圧せねばならん。
スミス登場
敵艦から、一つの救命用ボートが
飛び出した。
飛び出した。
ほうほうの体で逃げ帰るスミス。
スミス/
おのれ…おのれ、
おのれ馬鹿にしよって反乱軍め!
おのれ…おのれ、
おのれ馬鹿にしよって反乱軍め!
スミス/
俺を笑うか、火星人め!
きっと見ていろよ。
俺を笑うか、火星人め!
きっと見ていろよ。
スミス/
必ずお前たちを殺してやる!
イィ、ィー!
必ずお前たちを殺してやる!
イィ、ィー!
スミスは、そう叫ぶと気が済むまで
奇声をあげた。
奇声をあげた。