響一日目(月曜日)

一日目(月曜)

その日三日月が住まう海底神殿の、知ってて無事な人などわずかしかいない扉の前で立っている人がいた。
「あ―……開かない……」神殿の敷地内を移動する時同様石を確認した後、再度ドアノブを捻るがやはり扉は開かない。
「やっぱり怒ってるのかあー」
と、響は溜め息をついた。
普段は気付けば神殿のホールに着いているのに今日は入口で立ち往生してしまう。
先日三日月を珍しく怒らせたのだ。自分の無意識はそんな三日月の感情を受けて、普段入れる場所に押し入ることを拒否する。小さい頃、まだ能力が調節できない時期はよくこれで苦労した。例えば室内の100人の内1人にでも激しく入室を拒否されたら体が動かなくなる、という事がしばしばあった。
今は他人のそんな心は『聞こえない』ようになっているはずなのだが…
「親しい他『人』増えたなあー。」
「その言葉の意味が理解不能だ。」
「あ、零影ー。」
「何をしている?もう遅い。」

背後に突然現れた半同居人(しかし現在外見金属製)に驚くことなく答える
「入れなくなったー。」
「三日月に閉め出されたのか?」
右手にクナイを数本出しながら零影が訊く。無表情なはずの機械の顔だというのに扉に向ける視線には剣呑なものが宿った。それを見て響が苦笑する。
「違うって。三日月さんは何もしてないよー。んーと、扉はいつもと同じ状態なんだけど、私の感覚が入ることをできなくしてるー。」
「開くようになる方法は?」
「え?えーと……三日月さんの機嫌が直ったら開けられると思うー。」
「なら今日はもう戻れ。明日も仕事はあるだろう。三日月も数日したら平素に戻るだろうに今ここで待つ必要性はない。」
「んー、でも、も少しー。」
「帰るぞ。」
「少しだけだからー。」
「帰れ。」
「日付変わる前にはー。」
「…………。」
「だ、大丈夫だってー。」
「……また迎えに来る。」
「はーい。」
いかにも不承不承という雰囲気で零影が折れ、姿を消す。響は立ったままも疲れるのでぺたん、と扉の前に座った。

こうして響のアマノイワト状態が始まったのである。
「相手は太陽じゃなくて月だけどねえ」



最終更新:2010年07月04日 16:36