おかしな世界中継点と他世界の住人 上

空は青いのか白いのか黒いのか。
地は土なのか岩なのか草なのか。
果てはあるのか限りなく広がり。
そもそもどんな形の世界なのかも分からない世界の交差点。

「週末の部屋」「甲01」「集会所」
名も未だに定まらぬこの場所は今日も混沌(カオス)だった。


「こんばんはー……」
びくびくと警戒心むき出しで現れた青い子猪。
いわゆる瓜坊と呼ばれるそれはAB天と呼ばれる列記とした歴とした人の姿をした青年なのだが、何故か蒼と言う奇抜な色彩の瓜坊としてこの場を訪れていた。

《……えっと、この生物何?》
キョトンと表情を表すことの難しい獣面を器用に魅せる赤い狐。
彼女は焔花。火を司る狐であり、詳細は不明だ。
だが故に声を大にしてツッコミたい。自分の姿を見て言えと。

「うりー!!」
一瞬の戸惑い無く蒼い瓜坊に抱きついた少女。
彼女は名城。現在この場に集まるメンバーの中でも成長が目覚しい人物の一人だ。
可愛いものに眼が無い彼女はかき抱いた瓜坊がAB天であることもお構いなしに、ほお擦りし抱きしめAB天がわたわたと慌てるほどにかいぐりしている。

一匹の子猪を中心に騒ぐ女性二人(?)だったが、もう一人この場には瓜坊を物欲しそうに眺める人影があった。( ・ω・)
コロリと可愛らしい少女だが、彼女もやはり普通の少女ではない。中身は年齢不詳、永遠のちびっこである響と呼ばれる女性である。
メンバーの中では穏健派常識人として知られる彼女だが、ことモフモフとした物には眼が無く。かく言うAB天のあの惨状になる原因の一端は確実に彼女が担いでいるのだろう。

 一風などと生温い表現ではすまない。
暴風並に変わった存在の集まりだが、ここではまだ落ち着いている方だ。
この場に集まる者たちは皆火薬。そこに在るだけなら特に危険も無いが、一度火種が爆ぜると大爆発を興す集まりだ。
火種を持ち込むのは皆平等に何かあった時だけなのだが、何事にも例外はある。


「こんです~」
 そんな折に黒い少年が新たに現れ。

《火炎放射》
「ふぎゃぁああああああああああああああ!?」

焔花の見事な出会い頭の不意打ちで火達磨にされた。
真っ黒な少年が真っ赤に染まり、余裕があるのか無いのか叫びを上げながら地面を転げまわる。

「来て早々になんなんですかぁ!?」
《あら、反応鈍った?》
早々に鎮火させ絶叫を放つも、普通に流されむしろ避けられなかった事を不思議そうに問われる少年。
彼の名は三日月。この場のヒエラルキー最下層に位置し、何もしてないのに周囲に面白おかしく炎上させられる不遇な少年だ。
燃え上がらされた彼の炎は周囲に飛び火し、混沌や闘争に満ちた爆発を起こす事も少なくない。例外の1人である。

「三日月さんは美月さんが神殿に来たから手放したしなあー、天さんもいぢりすぎたから零影に釘さされたし……」
焦げ臭さを振りまきながらキーキーと騒ぐ三日月を見てポツリと声を零す少女姿の響、拗ねるように焔花に抱きつくが当の焔花は話の内容を掴んだらしく若干呆れ気味だ。
どうやら三日月もAB天と同じく獣にされた被害者の一人らしい。っが、彼の自称他称許婚である女性に見つかり解放したと言うことらしい。
しかしながら、三日月の許婚であると周囲に公言して憚らない女性の前で。獣の姿とは言え今のAB天が名城に抱きつかれているような様を見られたとすれば、ただで事が終わるはずも無く。

「あの後僕が酷い目にあったの分かってます?」
それに即座に答える三日月は良く見ると火傷以外に絆創膏などもあちこちに張られていた。
しかし焦げつつも既に怒りを感じない彼は切り替えの早い少年である。

「美月さんが私と三日月さんとで誤解して怒らないようにするのでいっぱいでしたっ」
「響さん響さん、それは被害の拡大が防げても根本的な解決にはなってないんですよ?」
「むしろ(いつも通りの被害で済んだことに)褒めろー」
「素直に賞賛できないのは何でなんでしょうね!?」
「いやあ…普段の美月さんによる三日月さんの疲れは…なんというか…私が止めれる代物では…」

どうやら許婚の名前は美月と言うらしい。
彼女と三日月の一方的なイザコザは日常的なものらしく、助けを求める三日月に対して響はどうしようもないと言う雰囲気を漂わせ困り気味だ。

「何であんな性格というか行動に出るようになっちゃったんでしょう………………」
遠い眼をしてみせる三日月。彼女は一体どんなことを彼にしているのやら。

「三日月さんは贅沢ですねぇ。美月さんて美人さんなんでしょ?勿体ないなぁ」
「三日月は幸せものですねー」
AB天を変わらず抱きしめながらも、やれやれと首をふって見せる名城の声は少し呆れている。
それに追従する蒼瓜坊の声。喋る蒼瓜坊、異様だが何か可愛らしい絵図だった。

「ほーら、瓜坊の大好きなドングリですよー」
「もがもが」
っが、三日月はその可愛らしさも通じなかったらしい。
眼の笑わない笑顔でAB天の口元に一杯の団栗を押し付けだした。

だが、そのような行動にでると当然名城の眼前に立つ事になり。

「ウリを苛めるな!」
「ふぎぃっ!?」

蒼瓜坊を猫可愛がりしている名城の怒りに触れ、強烈なヘッドバッドを顔面に受けることに相成った。
痛そうに顔面を押さえること数秒、立ち直った三日月は今度は名城に非難気に声を向ける。

「その美人さんに、誤解に告ぐ誤解と曲解で何度も殺されても同じこと言えるんでしょうか…………」
「うん?誤解で殺されかけるなんて普通でしょ?自分、ウォリク(の料理)やソノギ(のお仕置き)のせいで何回も死にかけてますよ? 」
「実際に死んでるんですってば!!」
《あんたは甦るから問題ないでしょ》

殺し殺され、なんとも奇妙な
仲間らしい名城を殺そうとしているウォリクやソノギと言う人物も、好いている人を殺す美月と言う少女もどうかとは思うが。
何度も殺されているくせに非常識にも生きている三日月もかなり異常だ。そして死にかける目に何度も在っているくせに平然としている名城を含め。
それを当然のように受け入れている、ここのメンバーもおかしいのだろう。

「痛いものは痛いのですよ!!文字通り死ぬほどに!!何度言わせるんですか!?」
「愛があるだけましですよ。うん」
「いや、それなら名城さんも同じようなものなんじゃ……」
「はい?んな訳ないですよ。ソノギはともかくウォリクのあれは嫌がらせ以上の何物でもないですから」
「ウォリクさん…………」

愛のある死や殺し。
混沌とした会話はここの日常である。

 そこで唐突に、名城の腕から抜け出していた蒼瓜坊ことAB天が跳ねた。
軽やかに肉体を躍動させ中を飛び、口に咥えていた何かの付け耳らしきものを三日月の頭にかぶせる。

「はっ!?」
「ミカヅキノワグマだー」
「……最近獣の姿にも慣れてきちゃいましたねぇ」

直後軽い白煙と共に三日月の姿が熊へと変わる。
どうやらAB天や三日月が獣にされるさいに使われる道具らしい、原理は当然不明だ。
三日月が熊に変わった瞬間、響の背負っていたリュックから植物の根に顔のついたような生物が現れ慰めるように肩をたたき戻っていく。

彼(?)は恢と名付けられたマンドラゴラの一種アルラウネ。
本来なら三日月と契約を結んだ幻獣なのだが、最近は響の元に居ることも多い。
その証拠に熊の顔ながらなんとも言えない表情を三日月は恢へと向け、溜息をついている。

 一歩間違えばイジメとも取られるこの仕打ち。
この場では日常だが、決して気持ちの良いものでもない。
しかし今回に限って言えば、AB天の悪戯は良い方向に働いたと言えよう。


――――ギシリッ

軋るような不快音。
世界を渡る際に時たま響く界の異音と共に、メンバーの眼前に黒い穴が開く。
避けた空間から窮屈そうに幅の広い肩を狭め出てきたのは、如何にも怪しげな黒スーツに黒いサングラスと言う黒尽くめ。

 その男の登場に、各々が示した反応は様々だった。
軽く挨拶を投げかけるもの。
珍しげに相手を見上げるもの。
特に反応を示すことも無くボーっとしているもの。
不思議そうに見つめる一人と一匹。
普通の熊になり切ったかのように四つんばいで歩き始めるもの。

男はゆったりと、その巨体に見合わないスムーズな動きで辺りを見回し軽く頭を下げ礼を向ける。

「こんばんは……こちらに三日月さまがいらっしゃられませんでしたか?」

今日の火種を持ち込んだのは、どうやら三日月のようだ。





最終更新:2010年10月17日 23:18