032 生まれ変わるなら
ああ、またあの夢だ。
夢でない 夢を見る。
溶けていく溶けていく。本来小さい点である自分の体の枠が曖昧になり世界に拡散していく。
それと連動してズームアウトするように、それまで見えていない視野で周囲が見えてくる。
世界が自分の感覚と接続され、そこに大きな「自分」ができる。
まるで隣人の様子を見るように、付近の世界が見え
まるで他の国のニュースを見るように 遠い世界の情報が入ってくる
さらに自分の感覚は溶けて溶けて溶けて溶けて
世界に混ざり世界が私の心を飲み込み世界が私の意思を曖昧にし平坦にし
「私」というものがそうして消えていく
でもそれは嫌ではなくどこまでも穏やかで。
夢の中で夢を見るように このまま霞んでいってもいいかと思ってしまう。
こうして 消えてしまえば 楽になるだろう
こうして 溶け込んで次の私になったら この重荷はなくなるだろう
ああ でもだめだ 弾かれる。
世界という膜から、私という小さい膜が弾き出されて
世界という球体から 私という小さい球体が別に形成され
先ほどとは逆の経路をたどり感覚が「私」のものに戻っていく。
切り離される寸前の 意志持たぬ世界の心が 優しく冷たく突き放す
もっと ちらばってから おいで
もっと とかしこんでから おいで
でないと ぜんぶが こわれてしまうから
でないと ぜんぶを こわしてしまうから
もっと かくさんさせてから おいで
もっと あいしてから おいで
おいで。 だから。 おいき。
世界は 優しくて 冷たくて 意地悪で 愛情に満ちている。
ああ うん しってるよ だいじなものが ここにはたくさんある。
いってきます。 いつか。 ただいまをいうから。
「響」
よばれた。おきなくちゃ。
そうして 目を覚ます。
最終更新:2011年01月18日 00:36