077見えない壁
「……。」
声が聞こえる。零影の声だ。ああでも夢か。だって今いるはずがない。
クロウさんのところで色々大変なことがあった零影は、ラプスさんに連れられて行ってしまい、長く顔を見ていない。どうしたのかな。どうしてるのかな。帰ってくるのかな。帰ってこないかも。
ああ 帰ってこないなら それは「帰ってこない」じゃないな。だってここは零影の家ではなくなるから。一人で起きることにまた慣れないとな。明日も自分で起きないとな。でも眠い。起きれるだろうか。でも診察の日だから起きないと。
「……、……。」
まだ声が聞こえる。ああ、夢の中だと帰ってきてるのか。そうだ、夢の中でしか「おかえり」ってもう言えないかもしれないから、言っておかないと。ついでに零影はいつでもどこでも真面目だから、夢の中の零影に「起こして」って頼んでおけば、夢の中から起こしてくれるかも。
「ぜろかげだー おかえりなさいー あしたしんさつだから おこしてー・・・。」
あれ?なんかとまどってる?そうか夢の中で現実の物事頼むのは流石に零影が真面目でも無理か。できそうなのに。でも頼んでおいたらうまくいくかもしれないし。うん。
「あれ?」
零影なんだか柔らかい。ラプスさんやクロウさんにいたずらされたんだろうか。
「・・・・・・きぐるみ?」
きぐるみ着せられたのか。ラプスさんもやるなあ。ラプスさんだもんなあ。あ・・・だめだ・・・ノンレム睡眠に入る・・・レム睡眠さようならー・・・
零影きぐるみあったかいなあ。・・・あれ?心臓の音がする。夢だからいいのか。心臓の音は安心する。
「響 ただいま。」
おかえりなさい。
夢の中だけでも 零影がいるから 心臓の音は安心するから 零影の心臓だから きっとさっきより大丈夫だ。
「・・・き、ひびき!」
んー・・・・・・ねむい。
「起きろ、診察日だろう、もう時間だ。」
零影の声がする。あれ・・・?零影?生?帰ってきてたのかな?じゃあ昨日のは本物?
なんかいつもより揺する手が柔らかい。きぐるみも現実だったのかな?なんだろう、脱げないように呪いでもかかってるんだろうか。流石ラプスさん。ああそれより起きなきゃ。
起きなきゃ。
「おはよー・・・おかえりなさ い?」
おろ?
なんか がいじんさんが いるよー?
かみがぎんいろでながいよー? めがあおいよー? はだがしろときいろのあいだくらいだよー?
「響?」
おりょ?
なんか がいじんさんから ぜろかげのこえがするよー?
わたしをゆすっておこしてたのも このひとだよー?
「・・・・・・・・・・・・。」
あ、こまったかおされた。
うん、このおたおたぐあい、まちがえてまんどーらふんだときのぜろかげとおなじだー。
えーとー えーとー えーとーーーーーーーーーーーーーーーー。
うん、なんかびみょーにこんらんしてるよ わたしー。
「す、すまない、これには理由が・・・。」
こんらんしてるからもっかいねるねー。
「却下。」
あ、零影だ。
零影が理由を説明してくれた。
ほえー。
零影は人間だったしい。
知らなかった。今まで心臓の音なんかしなかったから。ラプスさんが言ったとおり精霊なんだと思ってた。
零影は人間に戻れるようになったらしい。
へえ。じゃあ、食べ物とかも食べれるようになるんだね。楽しいことが増えるね。
零影は人間だ。
あ。
そうか、零影は帰ってきたけど
零影の心臓の音は安心したけど
人間だってことは
またいなくなるってことだ。
「響?」
「ん?……じゃあこれから零影は、自分の「人」生がんばらないとねー。」
そうかあ。
だいじょうぶ。私は壊れないから。
だから 君は幸せに なればいい。
最終更新:2011年01月18日 00:37