彼女が水着に着替えたら
御坂美琴はかれこれ二時間ほど悩んでいた。
(うーん。アイツに『死ぬほど後悔させてやる』って啖呵切ったのは良いけど、水着どうしようかなぁ。黒子達と一緒に泳ぎに行く時に着るのはこっちのワンピースで良いとして……)
ここは第七学区の洋服店『セブンスミスト』。
その売場の一角にある水着コーナーで、御坂美琴はうーんうーんうーんと唸り続けている。
今日は常盤台中学『学外』学生寮で年に一度催される公開行事『盛夏祭』の片付けも一段落した、夏休みのとある一日。
後輩の白井黒子やその友人の初春飾利、佐天涙子と数日後にプールへ泳ぎに行く約束をしていたので、美琴はここを訪れて水着を選ぶべく一人悪戦苦闘していた。
その後にも『彼氏』上条当麻とプールに行く約束が控えている。
美琴はそれぞれ別の水着にしようと、まず一枚目に薄いピンクの生地に花模様をあしらったワンピースを選び、さて上条と出かける分はどうしようと考えたところで悩んでしまった。
美琴が一人でここにやって来たのにはれっきとした理由がある。
同室の白井が例によって『今年はどれにしましょうかしらね』と露出の限界を超えた、むしろ肌色しか存在しないバカ水着オンパレードのカタログを読んでいたので、美琴が衝撃のあまりけたたましく叫びながら逃げ出してしまったからだ。
白井に露出の少ない水着が似合わないとはいえ、いくら何でもあれはひどすぎる。しかも白井達とプールに行けばエロ水着着用済みの白井に狙い撃ちされるのは美琴なのだ。
精神衛生の観点から考えても、無理をしてでも白井をヌーディストビーチへ叩き込んで露出の巻き戻しを計るべきだったかしらと思うと美琴は頭が痛くなる。
痛いと言えば、去年の九月に広域社会見学で行った学芸都市で美琴は手痛い目にあった。
パンフレットを良く読んでいなかったせいで美琴が持って行った水着は常盤台中学能力測定用指定水泳着(という名のスクール水着)だったし、向こうで出会った憧れの映画監督ビバリー=シースルーはLカップのばいんばいん少女だったし、アトラクションに見せかけた学芸都市とトビウオたちの戦闘に巻き込まれて、広域社会見学は当初の予定を繰り上げて帰国する羽目になった。
上条が言うように、美琴の広域社会見学の行き先は確かに本場のリゾートだった。けれどその後がひどかった。学校行事とはいえ楽しい海の思い出がもう何が何やら、というのが美琴の感想だ。
美琴はあれでもないこれでもないと水着を物色しながら、
(ううむ、ワンピースを一枚選んだんだから、やっぱもう一枚はビキニかなぁ。でも『ビキニは目線が上下に分かれますけどワンピースは身体のラインが出ますから細い方しか似合わないんですよ』って言うしなぁ。どうしようかしら)
美琴のように『スレンダー』や『シャープ』と主題をぼかして評される体型の場合、水着はビキニ、というかツーピースよりもワンピースの方が映える。もっとえげつなく言ってしまえば、ワンピースは上から下まで両サイドのラインで体型を強調するが、ツーピースは体の部品(パーツ)にメリハリがないと着こなすのはなかなか至難の業なのだ。
部品に自信がないならないで、ツーピースでもフリルの付いたチューブトップを選びあえて胸元を隠すという手段もあるが、あれがこれでそれでつい周囲と自分を比較してしまう美琴としては、成長の証をここらで確認しておきたい。
(いっそ胸パッドを使って……いやいや、泳いでる最中にアイツの前でポロリとかしたら二度と立ち直れないし……こっちのワイヤー入りで寄せて上げるのにチャレンジすっかな。それともここは二枚目もワンピースで……ノンノン! 絶対あの馬鹿は私がワンピースを選ぶと思ってるはず!! アイツを見返すためにもビキニは絶対外せない!! ……いやいやいや、ここは思い切って裏をかいて……)
美琴は頭の中であーでもないこーでもないと算段を立てつつ、いくつもの水着がハンガーごと引っかけられたパイプ状のディスプレイから二、三枚まとめて取り出すと、鏡の前で制服の上から軽く当ててみるがどれもピンと来ない。
(でも……アイツ私のこと泣かせてやるって言ってたけど……何されるんだろ?……っつーかアイツは私に何をするつもりなのよーっ!? いや、どうせ意図なんて何もない、アイツ自身が『清いお付き合い』って力説してんだからそれはない! ……でも夏は男を変えるし……少しはこっちから強く押した方が良いのかなぁ。つか、何で私がこんな心配しなきゃならないのよ)
美琴の観点から見ると、心の距離こそ少し近くなったものの、美琴と上条は恋人同士と言うにはロマンチックな雰囲気と言うものが足りない。
良く言えば大事にされている、悪く言えば子供扱いされているのが美琴にとっては何となく歯痒い。何しろ、ようやく上条が自分から美琴と手をつなぐようになって、そこから(美琴からすると)満足な進展がほとんどないのだ。
美琴が先日こっそり買った雑誌の中に『彼氏への甘え方九パターン』という特集があった。内容としてはニコッと笑いながら彼の腕にしがみつく、頭を彼氏の肩にもたれかける、『早く会いたい』とメールする、『ずっと一緒にいて』などの甘い言葉を放つなどの手法が上げられていた。
だが。
いくつかは恥ずかしさを堪えてやってみたものの、
『……お前どっか具合悪いの? 何か変なものでも食ったのか? ほれ胃薬』
見事なまでに上条から肩すかしを食らった。
一事が万事こんな調子なので、やっと恋人同士になったというのに気分は相変わらず片思いのままだ。いくら何でもこれはあんまりだと美琴は思う。とらえどころのない上条を完全に捕まえておくことは無理でも、常にその背中に指がかかるくらいの距離でいたい。
公式に上条と外へ出るチャンスは年末年始の帰省くらいしかないので、いつもと違う環境で使える数少ないアピールの機会は十二分に生かしたい。
という訳で、上条を死ぬほど後悔させるのは別としても、美琴は水着選びについ熱が入ってしまう。
(うーん。アイツに『死ぬほど後悔させてやる』って啖呵切ったのは良いけど、水着どうしようかなぁ。黒子達と一緒に泳ぎに行く時に着るのはこっちのワンピースで良いとして……)
ここは第七学区の洋服店『セブンスミスト』。
その売場の一角にある水着コーナーで、御坂美琴はうーんうーんうーんと唸り続けている。
今日は常盤台中学『学外』学生寮で年に一度催される公開行事『盛夏祭』の片付けも一段落した、夏休みのとある一日。
後輩の白井黒子やその友人の初春飾利、佐天涙子と数日後にプールへ泳ぎに行く約束をしていたので、美琴はここを訪れて水着を選ぶべく一人悪戦苦闘していた。
その後にも『彼氏』上条当麻とプールに行く約束が控えている。
美琴はそれぞれ別の水着にしようと、まず一枚目に薄いピンクの生地に花模様をあしらったワンピースを選び、さて上条と出かける分はどうしようと考えたところで悩んでしまった。
美琴が一人でここにやって来たのにはれっきとした理由がある。
同室の白井が例によって『今年はどれにしましょうかしらね』と露出の限界を超えた、むしろ肌色しか存在しないバカ水着オンパレードのカタログを読んでいたので、美琴が衝撃のあまりけたたましく叫びながら逃げ出してしまったからだ。
白井に露出の少ない水着が似合わないとはいえ、いくら何でもあれはひどすぎる。しかも白井達とプールに行けばエロ水着着用済みの白井に狙い撃ちされるのは美琴なのだ。
精神衛生の観点から考えても、無理をしてでも白井をヌーディストビーチへ叩き込んで露出の巻き戻しを計るべきだったかしらと思うと美琴は頭が痛くなる。
痛いと言えば、去年の九月に広域社会見学で行った学芸都市で美琴は手痛い目にあった。
パンフレットを良く読んでいなかったせいで美琴が持って行った水着は常盤台中学能力測定用指定水泳着(という名のスクール水着)だったし、向こうで出会った憧れの映画監督ビバリー=シースルーはLカップのばいんばいん少女だったし、アトラクションに見せかけた学芸都市とトビウオたちの戦闘に巻き込まれて、広域社会見学は当初の予定を繰り上げて帰国する羽目になった。
上条が言うように、美琴の広域社会見学の行き先は確かに本場のリゾートだった。けれどその後がひどかった。学校行事とはいえ楽しい海の思い出がもう何が何やら、というのが美琴の感想だ。
美琴はあれでもないこれでもないと水着を物色しながら、
(ううむ、ワンピースを一枚選んだんだから、やっぱもう一枚はビキニかなぁ。でも『ビキニは目線が上下に分かれますけどワンピースは身体のラインが出ますから細い方しか似合わないんですよ』って言うしなぁ。どうしようかしら)
美琴のように『スレンダー』や『シャープ』と主題をぼかして評される体型の場合、水着はビキニ、というかツーピースよりもワンピースの方が映える。もっとえげつなく言ってしまえば、ワンピースは上から下まで両サイドのラインで体型を強調するが、ツーピースは体の部品(パーツ)にメリハリがないと着こなすのはなかなか至難の業なのだ。
部品に自信がないならないで、ツーピースでもフリルの付いたチューブトップを選びあえて胸元を隠すという手段もあるが、あれがこれでそれでつい周囲と自分を比較してしまう美琴としては、成長の証をここらで確認しておきたい。
(いっそ胸パッドを使って……いやいや、泳いでる最中にアイツの前でポロリとかしたら二度と立ち直れないし……こっちのワイヤー入りで寄せて上げるのにチャレンジすっかな。それともここは二枚目もワンピースで……ノンノン! 絶対あの馬鹿は私がワンピースを選ぶと思ってるはず!! アイツを見返すためにもビキニは絶対外せない!! ……いやいやいや、ここは思い切って裏をかいて……)
美琴は頭の中であーでもないこーでもないと算段を立てつつ、いくつもの水着がハンガーごと引っかけられたパイプ状のディスプレイから二、三枚まとめて取り出すと、鏡の前で制服の上から軽く当ててみるがどれもピンと来ない。
(でも……アイツ私のこと泣かせてやるって言ってたけど……何されるんだろ?……っつーかアイツは私に何をするつもりなのよーっ!? いや、どうせ意図なんて何もない、アイツ自身が『清いお付き合い』って力説してんだからそれはない! ……でも夏は男を変えるし……少しはこっちから強く押した方が良いのかなぁ。つか、何で私がこんな心配しなきゃならないのよ)
美琴の観点から見ると、心の距離こそ少し近くなったものの、美琴と上条は恋人同士と言うにはロマンチックな雰囲気と言うものが足りない。
良く言えば大事にされている、悪く言えば子供扱いされているのが美琴にとっては何となく歯痒い。何しろ、ようやく上条が自分から美琴と手をつなぐようになって、そこから(美琴からすると)満足な進展がほとんどないのだ。
美琴が先日こっそり買った雑誌の中に『彼氏への甘え方九パターン』という特集があった。内容としてはニコッと笑いながら彼の腕にしがみつく、頭を彼氏の肩にもたれかける、『早く会いたい』とメールする、『ずっと一緒にいて』などの甘い言葉を放つなどの手法が上げられていた。
だが。
いくつかは恥ずかしさを堪えてやってみたものの、
『……お前どっか具合悪いの? 何か変なものでも食ったのか? ほれ胃薬』
見事なまでに上条から肩すかしを食らった。
一事が万事こんな調子なので、やっと恋人同士になったというのに気分は相変わらず片思いのままだ。いくら何でもこれはあんまりだと美琴は思う。とらえどころのない上条を完全に捕まえておくことは無理でも、常にその背中に指がかかるくらいの距離でいたい。
公式に上条と外へ出るチャンスは年末年始の帰省くらいしかないので、いつもと違う環境で使える数少ないアピールの機会は十二分に生かしたい。
という訳で、上条を死ぬほど後悔させるのは別としても、美琴は水着選びについ熱が入ってしまう。
何をどう押すのかはひとまず脇に置いて、手にした水着が今ひとつイメージに合わず、美琴はそれらをまとめてディスプレイに戻すと、売場の壁に取り付けられた大きな鏡の前でため息をつく。
ううんどうしようかなと鏡の中の自分と一人にらめっこを続ける美琴の背後に、長い黒髪を揺らした少女の姿が映り込んだ。
「御坂さーん、こんにちはー。御坂さんも水着選びに来たんですか?」
美琴に声をかけた黒髪少女の名前は佐天涙子。
彼女は美琴のルームメイトにして風紀委員、白井黒子の同僚である初春飾利を通して知り合った、美琴が気兼ねなく話せる友人の一人である。
佐天は常盤台中学の生徒ではないので夏休み中は当然私服で出歩いている。
美琴は涼しげな佐天の服装を少しだけうらやましいと思いつつ、
「うん、そうなんだ。もうすぐプールに行くからそろそろビシッと決めておこうかと思ってね」
二人はプール楽しみだねー、今年は白井さんの水着大丈夫ですかね風紀委員呼んできましょうか、いやいやあの子風紀委員だからなどと、しばしの間女の子同士の他愛もない会話に興じる。
ふと、佐天は美琴の右手に訝しげな視線を向けると、
「あれ? 御坂さん、すでに水着を決めてるみたいですけど、そのすっごくかわいいワンピースの他にも買うんですか? ……さっすがお嬢様、一着にとどまらないところがすごいですね。複数買っといて、その日の気分で選ぶって奴ですか?」
「えっと……お嬢様は関係ないんだけど。……アイツ、って言うか彼と、その……プール行く事になったんで、そっちの水着も選んでおこうかなと思ってさ」
美琴は『彼』と口にしたところで照れくさくなって気恥ずかしげにあははと笑う。
佐天はポン、と手を叩いて納得したように、
「ああ……でこちゅー彼氏さん用の水着を探してるんですね?」
「ぶっ!?」
ででで、でこちゅーって、と呟く美琴。
「あれ? でこちゅーって知りませんか? おでこにキスだから、おでこにちゅー。だから『でこちゅー』なんですよ」
詳細な用語解説をしてくれる親切な佐天だった。
「ところで御坂さん。あたし達二人しかいないんで今のうちに聞いておきたいんですけど……」
何かを思い詰めた表情からえい、聞いてしまえと切り出す佐天の言葉に、
「どうしたの、改まって? 私で答えられる事だったら……」
「……あたし達より一足先に大人の階段登っちゃったんですか?」
「ぶふぅっ!? ちょ、おと、大人の階段って何の事?」
わたわたと両手を振って慌てる美琴の姿を見て、佐天はこれはまずいことを口にしたなとばかりに頭をポリポリとかいた。
ごめんなさい、と言って慌てて頭を下げながら、
「いやー、すいません。あたし物知らなくって。今の言い方じゃちょっと下品でしたよね? ……じゃあ改めて」
佐天はふぅ、と息を吐くとひどく真剣な眼差しを美琴に向けて、
告げる。
ううんどうしようかなと鏡の中の自分と一人にらめっこを続ける美琴の背後に、長い黒髪を揺らした少女の姿が映り込んだ。
「御坂さーん、こんにちはー。御坂さんも水着選びに来たんですか?」
美琴に声をかけた黒髪少女の名前は佐天涙子。
彼女は美琴のルームメイトにして風紀委員、白井黒子の同僚である初春飾利を通して知り合った、美琴が気兼ねなく話せる友人の一人である。
佐天は常盤台中学の生徒ではないので夏休み中は当然私服で出歩いている。
美琴は涼しげな佐天の服装を少しだけうらやましいと思いつつ、
「うん、そうなんだ。もうすぐプールに行くからそろそろビシッと決めておこうかと思ってね」
二人はプール楽しみだねー、今年は白井さんの水着大丈夫ですかね風紀委員呼んできましょうか、いやいやあの子風紀委員だからなどと、しばしの間女の子同士の他愛もない会話に興じる。
ふと、佐天は美琴の右手に訝しげな視線を向けると、
「あれ? 御坂さん、すでに水着を決めてるみたいですけど、そのすっごくかわいいワンピースの他にも買うんですか? ……さっすがお嬢様、一着にとどまらないところがすごいですね。複数買っといて、その日の気分で選ぶって奴ですか?」
「えっと……お嬢様は関係ないんだけど。……アイツ、って言うか彼と、その……プール行く事になったんで、そっちの水着も選んでおこうかなと思ってさ」
美琴は『彼』と口にしたところで照れくさくなって気恥ずかしげにあははと笑う。
佐天はポン、と手を叩いて納得したように、
「ああ……でこちゅー彼氏さん用の水着を探してるんですね?」
「ぶっ!?」
ででで、でこちゅーって、と呟く美琴。
「あれ? でこちゅーって知りませんか? おでこにキスだから、おでこにちゅー。だから『でこちゅー』なんですよ」
詳細な用語解説をしてくれる親切な佐天だった。
「ところで御坂さん。あたし達二人しかいないんで今のうちに聞いておきたいんですけど……」
何かを思い詰めた表情からえい、聞いてしまえと切り出す佐天の言葉に、
「どうしたの、改まって? 私で答えられる事だったら……」
「……あたし達より一足先に大人の階段登っちゃったんですか?」
「ぶふぅっ!? ちょ、おと、大人の階段って何の事?」
わたわたと両手を振って慌てる美琴の姿を見て、佐天はこれはまずいことを口にしたなとばかりに頭をポリポリとかいた。
ごめんなさい、と言って慌てて頭を下げながら、
「いやー、すいません。あたし物知らなくって。今の言い方じゃちょっと下品でしたよね? ……じゃあ改めて」
佐天はふぅ、と息を吐くとひどく真剣な眼差しを美琴に向けて、
告げる。
「御坂さん。………………でこちゅー彼氏さんともうヤっちゃいました?」
「全然改まってないわよそれ! しかも余計下品じゃない!! つか、でこちゅーはもう良いから脇に置いといて!!!」
美琴は魂のツッコミを放つと小さくため息をついて、
「大体、その……私達、キス、も…………まだだし」
「あれ? でもあたし達が御坂さんと彼氏さんの姿を見たのが……あれからえーっとひーふーみー……」
それは見たんじゃなくて防犯カメラの履歴を初春さんがハッキングしたんじゃないと美琴は心の中で再びツッコむ。
佐天は指を折って過ぎた月日を数えてみせると小首を傾げて、
「……それって遅くないですか? もしかして彼氏さんが奥手とか?」
「いや、奥手とかじゃなくて。……アイツ、私が中学生の間は節度ある交際をしましょうとか言ってんのよね。まぁ、うちの学校のこともあるし気を遣ってくれてありがたいとは思うけどさ」
どこかのツンツン頭に向かって馬鹿間抜けこの意気地なしと心の中で悪態を吐く美琴。
佐天はふむふむと何事かを思案した後、
「だったら御坂さん、ここは大胆にイメージチェンジしましょう! 常盤台のお嬢様という殻を脱ぎ捨てて一匹の雌豹になるんです!! 夏は女を変えるんですよ!!」
すでに常盤台のお嬢様という殻をいろんな意味でぶち壊している美琴としては、うわーその譬えって微妙だなと思っていると、
「御坂さんのお色気で彼氏さんを悩殺しちゃいましょう誘惑しちゃいましょうメロメロにしちゃいましょう! んで、そのまま夏の熱気と彼氏さんに身を任せるんです!! そして夜明けのコーヒーですよ!! くーっ、御坂さんたらおっとなー!!」
「いっ、いやあのね佐天さん、私はそんな身を任せるとか何もそこまで考えてなくてね? 私の話聞いてる? その前にメロメロって死語じゃない? 夜明けのコーヒーっていつの時代の話??」
待って待って大きな声で変な事を言わないでとジタバタ慌てる美琴に、
「御坂さんのためなら不肖佐天涙子、一肌脱がせていただきます! ……水着選び、迷ってるなら本気でお手伝いしますけど?」
佐天は『全て分かっているから何も言うな』と熱血友情マンガっぽく美琴の両肩をガシッと掴み、キラキラキラァッ!! と黒い瞳を輝かせて何度も大きく頷く。
ここで美琴は考える。
美琴の好みは初春が選ぶような花柄ファンシー系だが、それでは上条に笑われるであろう事は目に見えている。白井が着たがるバカ水着エロ水着未来水着は断固勘弁願いたいし、去年水着のモデルで一緒になった婚后光子のセクシーアンドエキゾチック路線は美琴には理解できない。思い切って大人っぽさを強調したいが風紀委員活動に参加する固法美偉には過去に趣味を笑われているので相談しづらい。つかあの人巨乳だし。
となると、美琴の知り合いかつこう言った事を相談できそうな人間で、消去法で残るのは目の前にいる成長過程少女ただ一人。
「……御坂さん、今なにか失礼な事を考えませんでした?」
「いっ、いえ別に? そ、そそそ、それじゃ佐天さん……お願いしても良いかしら?」
「オッケー、大船に乗ったつもりでどーんとあたしに任せちゃって下さい! ……おっとっと。その前に御坂さん、スリーサイズは?」
佐天の無邪気な問いに美琴は逡巡する。
美琴は佐天の姿を頭のてっぺんから爪先まで何度も何度も確認する。おそらく佐天とだいたい同じくらいではないかと思うのだが、年下とサイズが一緒というのも何だか癪に障る。
美琴は周囲に聞かれないよう耳打ちでスリーサイズを佐天に伝えると、
「………………………………………………ウェストは御坂さんの勝ちかぁ」
小声でむむむと唸る佐天。
つまり何か私は他の二つ特に胸の大きさは佐天さんに負けたのか、とがっくりうなだれる貧乳少女。
最強無敵を誇る常盤台中学のエースにだって敵わない相手は存在する。
美琴は魂のツッコミを放つと小さくため息をついて、
「大体、その……私達、キス、も…………まだだし」
「あれ? でもあたし達が御坂さんと彼氏さんの姿を見たのが……あれからえーっとひーふーみー……」
それは見たんじゃなくて防犯カメラの履歴を初春さんがハッキングしたんじゃないと美琴は心の中で再びツッコむ。
佐天は指を折って過ぎた月日を数えてみせると小首を傾げて、
「……それって遅くないですか? もしかして彼氏さんが奥手とか?」
「いや、奥手とかじゃなくて。……アイツ、私が中学生の間は節度ある交際をしましょうとか言ってんのよね。まぁ、うちの学校のこともあるし気を遣ってくれてありがたいとは思うけどさ」
どこかのツンツン頭に向かって馬鹿間抜けこの意気地なしと心の中で悪態を吐く美琴。
佐天はふむふむと何事かを思案した後、
「だったら御坂さん、ここは大胆にイメージチェンジしましょう! 常盤台のお嬢様という殻を脱ぎ捨てて一匹の雌豹になるんです!! 夏は女を変えるんですよ!!」
すでに常盤台のお嬢様という殻をいろんな意味でぶち壊している美琴としては、うわーその譬えって微妙だなと思っていると、
「御坂さんのお色気で彼氏さんを悩殺しちゃいましょう誘惑しちゃいましょうメロメロにしちゃいましょう! んで、そのまま夏の熱気と彼氏さんに身を任せるんです!! そして夜明けのコーヒーですよ!! くーっ、御坂さんたらおっとなー!!」
「いっ、いやあのね佐天さん、私はそんな身を任せるとか何もそこまで考えてなくてね? 私の話聞いてる? その前にメロメロって死語じゃない? 夜明けのコーヒーっていつの時代の話??」
待って待って大きな声で変な事を言わないでとジタバタ慌てる美琴に、
「御坂さんのためなら不肖佐天涙子、一肌脱がせていただきます! ……水着選び、迷ってるなら本気でお手伝いしますけど?」
佐天は『全て分かっているから何も言うな』と熱血友情マンガっぽく美琴の両肩をガシッと掴み、キラキラキラァッ!! と黒い瞳を輝かせて何度も大きく頷く。
ここで美琴は考える。
美琴の好みは初春が選ぶような花柄ファンシー系だが、それでは上条に笑われるであろう事は目に見えている。白井が着たがるバカ水着エロ水着未来水着は断固勘弁願いたいし、去年水着のモデルで一緒になった婚后光子のセクシーアンドエキゾチック路線は美琴には理解できない。思い切って大人っぽさを強調したいが風紀委員活動に参加する固法美偉には過去に趣味を笑われているので相談しづらい。つかあの人巨乳だし。
となると、美琴の知り合いかつこう言った事を相談できそうな人間で、消去法で残るのは目の前にいる成長過程少女ただ一人。
「……御坂さん、今なにか失礼な事を考えませんでした?」
「いっ、いえ別に? そ、そそそ、それじゃ佐天さん……お願いしても良いかしら?」
「オッケー、大船に乗ったつもりでどーんとあたしに任せちゃって下さい! ……おっとっと。その前に御坂さん、スリーサイズは?」
佐天の無邪気な問いに美琴は逡巡する。
美琴は佐天の姿を頭のてっぺんから爪先まで何度も何度も確認する。おそらく佐天とだいたい同じくらいではないかと思うのだが、年下とサイズが一緒というのも何だか癪に障る。
美琴は周囲に聞かれないよう耳打ちでスリーサイズを佐天に伝えると、
「………………………………………………ウェストは御坂さんの勝ちかぁ」
小声でむむむと唸る佐天。
つまり何か私は他の二つ特に胸の大きさは佐天さんに負けたのか、とがっくりうなだれる貧乳少女。
最強無敵を誇る常盤台中学のエースにだって敵わない相手は存在する。
「……そうですねー、一枚はワンピースを選んじゃってますからもう一枚はビキニの方が良いですよね?」
「何が何でも、って訳じゃないけど。まぁちょっとはアイツが驚いてくれればいいかなって」
ひとまずあたしが見立ててみますんで御坂さんは感想を下さい、と佐天が一枚の水着を手に取り、
「御坂さん御坂さん、これなんかどうですか? 彼氏さん、ちょっとどころかかなり驚きますよ?」
「あれ? それって普通のワンピース…………………………じゃなくて」
美琴も佐天もどこかで見た事のあるその白いワンピースは
「じゃーん! 試作品から大幅に改良を重ね、ついに出ました正式モデル! 老若男女どころか鳥獣魚虫まで問答無用で発情させるセックスアピール水着です!! 改良版では両生類の求愛行動も取り入れました!! しかも今回のモデルでは効果の有効範囲が設定できるんですよ。何と最小半径五メートル、最大一〇メートルの間で一メートル単位で設定可能なんです!! どうです、これってお得じゃないですか?」
深夜の通販番組みたいな説明をつけてじゃじゃーんと手にした水着を美琴に見せる佐天。
何でそんなもんがここで売ってるんだと顎が外れそうなくらい唖然とする美琴。
このセックスアピール水着なる物体は、白井黒子によって学芸都市で披露されたいわく付きの一品だ。
一見老若男女対応可能なガッカリ水着(ワンピース)だが、仕込まれたスイッチを入れる事で人間の五感に訴え装着者をやたらセクシーに見せるという迷惑きわまりない効果が仕込まれている。しかも、この水着はやっかいな事に身につけた人間が一番被害を喰らいやすい。
よって、
「範囲が指定されたってヤバい事には変わりないでしょ! 周囲をあのピンクモンスーンに巻き込んでどうすんのよ!? しかも爆心地のダメージはそのままだしこんなの着たら私が黒子級の危ない人に早変わり??」
「だったら、こっちの画期的新素材による『貼る水着』なんてどうです? 肌にぴったりと貼り付けるだけなんで、お子様からお年寄りまでサイズ不問の全年齢対応可能! 自分で好きなデザインにカットして使えるから、これならビキニもワンピースも思いのままですよ! いっそこれを彼氏さんに渡して『あなた好みに染めて』なんて言ってカットしてもらうってのはどうですか?」
「何なのよその日曜大工風味!? つかアイツが工作下手くそだったらその場でアウトな造形の一丁あがりじゃん!?」
「……何々? 説明書きによると水着に施された粘着剤の有効時間は一〇時間、と。特殊な薬品で洗えば再利用可能だそうですよ」
「へぇ……っつー事は一度貼り付けたら一〇時間は脱げないって話かしら?」
「それはそれでいいんじゃないですか? 『一人じゃはがせないから手伝って』ってお願いして、彼氏さんとシーツの海で泳いじゃうのもアリだと思いますけど」
「……お願い。何でもかんでもエロ方向に話を持って行かないで! 常盤台中学の生徒が全員黒子並の変態って訳じゃないんだから!!」
ノリノリで無駄に破壊力抜群の水着ラッシュを繰り出す佐天と、やっぱり人選を誤ったかしらと両手で頭を抱えて水着売場の一角にうずくまる美琴。
「でも、これくらいしないと彼氏さんに御坂さんの気持ちが伝わらないんじゃないですかね? 歳の差はこの際忘れて、ここは御坂さんがリードするくらいのつもりで行かないと進展しないんじゃないですか?」
「う……ッ、そっ、それは……でも……」
佐天は『私はどちらかというとリードしてほしいけどアイツ相手だったら私がやっぱり……』という美琴の本音っぽいごにょごにょした呟きを聞き流し、
「そうそう、御坂さんは肌が白いから黒一色のシンプルなビキニって映えると思うんですよね。と言う事で、これとかちょうどサイズもぴったりじゃないですか?」
「あー、これなら割と普通で……えっ、I!? Iってどうやって固定すんのよこれ!?」
「じゃあこっちのジュエリービキニなんてどうですか? 学芸都市で知り合いに着せたんですけど結構評判良かったんですよ。ほらほらこの細い紐のところにビーズがキラキラしてるし布地もラメ仕様でギラギラしててプールサイドの熱い視線を釘付け! トップはきわどいところしか隠さないから下乳は常にフルオープン状態、波に触れようものならあっという間に全部外れちゃうんでポロリのハプニングを演出したいあなたにお勧めの一品です!!」
ドッバァアアアアアン!! と言う謎の効果音をバックに背負い、ジュエリービキニも霞みそうなほどのまぶしい笑顔で通販番組の司会者みたいに立て板に水の説明を続ける佐天。
ちなみに着せられた知り合いというのはアステカの魔術師ショチトルで、佐天の嫌がらせによってこれを着せられた彼女は羞恥と怒りのあまり自分よりやや露出の少ない佐天の水着を奪おうとしているので評判が良いというのは何かの誤解かも知れない。
こんなのを着たらおっぱいキャラとしての地位は確立されるかもしれないがそれっていろいろマズいんじゃないのかとおでこに手を当てる美琴の前で佐天は何気なく一着の水着を手に取って、
「んー……こっちの水着だといくら何でも地味だしなぁ……って、御坂さん?」
「……………………………………………………これが良い」
「何が何でも、って訳じゃないけど。まぁちょっとはアイツが驚いてくれればいいかなって」
ひとまずあたしが見立ててみますんで御坂さんは感想を下さい、と佐天が一枚の水着を手に取り、
「御坂さん御坂さん、これなんかどうですか? 彼氏さん、ちょっとどころかかなり驚きますよ?」
「あれ? それって普通のワンピース…………………………じゃなくて」
美琴も佐天もどこかで見た事のあるその白いワンピースは
「じゃーん! 試作品から大幅に改良を重ね、ついに出ました正式モデル! 老若男女どころか鳥獣魚虫まで問答無用で発情させるセックスアピール水着です!! 改良版では両生類の求愛行動も取り入れました!! しかも今回のモデルでは効果の有効範囲が設定できるんですよ。何と最小半径五メートル、最大一〇メートルの間で一メートル単位で設定可能なんです!! どうです、これってお得じゃないですか?」
深夜の通販番組みたいな説明をつけてじゃじゃーんと手にした水着を美琴に見せる佐天。
何でそんなもんがここで売ってるんだと顎が外れそうなくらい唖然とする美琴。
このセックスアピール水着なる物体は、白井黒子によって学芸都市で披露されたいわく付きの一品だ。
一見老若男女対応可能なガッカリ水着(ワンピース)だが、仕込まれたスイッチを入れる事で人間の五感に訴え装着者をやたらセクシーに見せるという迷惑きわまりない効果が仕込まれている。しかも、この水着はやっかいな事に身につけた人間が一番被害を喰らいやすい。
よって、
「範囲が指定されたってヤバい事には変わりないでしょ! 周囲をあのピンクモンスーンに巻き込んでどうすんのよ!? しかも爆心地のダメージはそのままだしこんなの着たら私が黒子級の危ない人に早変わり??」
「だったら、こっちの画期的新素材による『貼る水着』なんてどうです? 肌にぴったりと貼り付けるだけなんで、お子様からお年寄りまでサイズ不問の全年齢対応可能! 自分で好きなデザインにカットして使えるから、これならビキニもワンピースも思いのままですよ! いっそこれを彼氏さんに渡して『あなた好みに染めて』なんて言ってカットしてもらうってのはどうですか?」
「何なのよその日曜大工風味!? つかアイツが工作下手くそだったらその場でアウトな造形の一丁あがりじゃん!?」
「……何々? 説明書きによると水着に施された粘着剤の有効時間は一〇時間、と。特殊な薬品で洗えば再利用可能だそうですよ」
「へぇ……っつー事は一度貼り付けたら一〇時間は脱げないって話かしら?」
「それはそれでいいんじゃないですか? 『一人じゃはがせないから手伝って』ってお願いして、彼氏さんとシーツの海で泳いじゃうのもアリだと思いますけど」
「……お願い。何でもかんでもエロ方向に話を持って行かないで! 常盤台中学の生徒が全員黒子並の変態って訳じゃないんだから!!」
ノリノリで無駄に破壊力抜群の水着ラッシュを繰り出す佐天と、やっぱり人選を誤ったかしらと両手で頭を抱えて水着売場の一角にうずくまる美琴。
「でも、これくらいしないと彼氏さんに御坂さんの気持ちが伝わらないんじゃないですかね? 歳の差はこの際忘れて、ここは御坂さんがリードするくらいのつもりで行かないと進展しないんじゃないですか?」
「う……ッ、そっ、それは……でも……」
佐天は『私はどちらかというとリードしてほしいけどアイツ相手だったら私がやっぱり……』という美琴の本音っぽいごにょごにょした呟きを聞き流し、
「そうそう、御坂さんは肌が白いから黒一色のシンプルなビキニって映えると思うんですよね。と言う事で、これとかちょうどサイズもぴったりじゃないですか?」
「あー、これなら割と普通で……えっ、I!? Iってどうやって固定すんのよこれ!?」
「じゃあこっちのジュエリービキニなんてどうですか? 学芸都市で知り合いに着せたんですけど結構評判良かったんですよ。ほらほらこの細い紐のところにビーズがキラキラしてるし布地もラメ仕様でギラギラしててプールサイドの熱い視線を釘付け! トップはきわどいところしか隠さないから下乳は常にフルオープン状態、波に触れようものならあっという間に全部外れちゃうんでポロリのハプニングを演出したいあなたにお勧めの一品です!!」
ドッバァアアアアアン!! と言う謎の効果音をバックに背負い、ジュエリービキニも霞みそうなほどのまぶしい笑顔で通販番組の司会者みたいに立て板に水の説明を続ける佐天。
ちなみに着せられた知り合いというのはアステカの魔術師ショチトルで、佐天の嫌がらせによってこれを着せられた彼女は羞恥と怒りのあまり自分よりやや露出の少ない佐天の水着を奪おうとしているので評判が良いというのは何かの誤解かも知れない。
こんなのを着たらおっぱいキャラとしての地位は確立されるかもしれないがそれっていろいろマズいんじゃないのかとおでこに手を当てる美琴の前で佐天は何気なく一着の水着を手に取って、
「んー……こっちの水着だといくら何でも地味だしなぁ……って、御坂さん?」
「……………………………………………………これが良い」