とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part3-2

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第3章 あくまでグッズのため


 やはりどうにも上条とこの距離で、しかも手を繋いでいるなんて状況だと自分の言動がおかしい。
 幸いにも上条は料理と格闘中で気付いていないようであった。
 一人で赤面していてもしょうがないので美琴も割り箸を手に取り食べ始めるが、こんな状況で美味いのか不味いのかなんて
分かるわけもなかった。仕方がないので箸を休め、元の話に戻る。

美琴「で、さっきの話。アンタは聞きたい?」

 一応念を押してみる。
 上条は一瞬、美琴にとって話すのは辛いんじゃないかと思い躊躇うが、先ほどのやりとりを思いだしてそれを振り払う。

上条「まぁ知りたいですな。いつ頃だって?」
美琴「六月中頃。私が夜、繁華街を歩いてる時に、ナンパに会ったのよ」
上条「…………………へ?」

 まさか、それが俺?と上条は絶句する。
 夜の繁華街で、常盤台の中学生をナンパ。今の自分からは考えられない。それほどの違いがあるのか、と。

美琴「10人くらいの馬鹿な不良に」
上条「…………び、びびった」
美琴「私がナンパされたことが?」
上条「違う違う。俺がナンパしたのかと思って」
美琴「…………ふーん。アンタが私をナンパするってそんな驚くようなことなんだ。ふーん」
上条「ん?した方が良かったのか?」
美琴「し、知らないわよそんなの!勝手にすればいいじゃない馬鹿!!」
上条「わけ分からんキレ方すんな。しかしそいつらつくづく馬鹿だな。よりによってお前に絡むなんて」
美琴「そうね。でも、それより馬鹿な奴が、私を助けようとかアホなこと考えて割って入ってきたのよ」
上条「うーわ、真性の馬鹿ですな。放っといても解決するというのに」
美琴「それがアンタ」
上条「……………………………と、とてもナイスなガイですね。10人くらいの不良に掛かっていくなんて惚れちゃいそう」
美琴「不良を倒したのは私だけどね」
上条「か、かっこ悪すぎる。上条さんったら本気で落ち込むぞ」
美琴「それ以前に掛かっていくも何も、アンタは『知り合いのフリして自然にこの場から連れ出す作戦』とか何とか言って
    誤魔化そうとしただけよ。アレはどう考えても無理あったわ」
上条「……………………………ま、まぁ、10人相手ならそうするしかねぇからな」
美琴「その作戦を私がぶち壊して」
上条「…………」
美琴「不良に絡まれたアンタは、何か不良を説得し始めたわ。私をガキだのガサツだの反抗期だの罵って」
上条「ははは。大正解………痛っつ!」

 美琴は上条の足を踏みつけた。
 能力は使わないと言ったが、攻撃しないとは言っていない。

美琴「そんでアンタもろとも焼いてやったんだけど、アンタにだけ効かなかったのよ!ムカついたからそれから随分追い回して
    やったわ」
上条「なんだ、やっぱガキでガサツで反抗期なんじゃ………っと」

 再び足を踏もうとするのを上条は避ける。
 避けられて美琴は表情をムッとさせて、プイっとそっぽを向く。

美琴「ま、ちょっと嬉しかったけどね」

 そしてボソっと呟く。

上条「へ?」
美琴「はいはいおしまーい。それが『~出会い編~』よ。他に何か聞きたいことは?」
上条「う、うーん。聞いて良かったような悪かったような……あ、そうそう、俺がお前を打ち負かしたって言ってたけど、どんな
    感じだったんだ?」
美琴「………………悔しいからあんま言いたくないんだけど」
上条「なら別にいいよ」
美琴「話さないなんて言ってないでしょ!……私の攻撃、本気の一撃も打ち消されて、私がアンタにビビって勝手に負けを認めた
    だけよ」
上条「ほ、本気の一撃って何だよ……雷でも落したのか?」
美琴「そうよ。でっかい奴ね」
上条「……………俺に?」
美琴「アンタに」
上条「……………お、俺よく生きてたな。つかお前それ殺人未遂じゃん」
美琴「びっくりね」
上条「少しは悪びれろよ」

 まぁ今に始まったことじゃないか、と上条は時系列を無視して独りごちながら、再び料理に手を付ける。

上条(しかしそんな一撃を食らわした奴と、今こうして恋人同士のような状況になってるというのはどういうことなんだ)

 と少し考えるも、上条的には『昨日の敵が今日の友』となるのは日常茶飯事であったため、まぁそんなこともあるかと適当に
結論づけてしまった。
 一方、美琴はぼけーっと行儀悪く箸をねぶりながら上条の行動を見つめる。

上条「御坂」
美琴「ふぇ、何?」
上条「そこのパスタみたいなの食いたいんですけど」
美琴「……ああ、はいはい」

 先割れスプーンでパスタは無理である。
 美琴は口から箸を抜き、パスタをそれに絡める。

上条「つか何でパスタがあってフォークが無いんだよ。後で店員に言うか」
美琴「まぁ食べたかったら私が食べさせてあげるわよ。はい」
上条「あん。お、いけるなこれ」
美琴「ほんと?私も食べ…………」
美琴(これ、私の箸じゃん!私ってばまたボケボケなことを………)

 再び赤面して顔が熱くなる。
 しかし薄暗いせいもあって上条は気付かない。

美琴(つか、こいつはもうちょっと間接キスにリアクション取っても良いんじゃないの?)

 だんだん自分だけオロオロしている状況に腹が立ってくる。
 そして上条も動揺させてやるという、妙な対抗心に駆られる。

美琴(負けないわよー!)

 意を決してパスタを口に運ぶ。

美琴「……………」

 味なんて分からない。
 その代わりに顔から火が出そうだ。

上条「な、旨いだろそれ」
美琴「そそそそ、そうね。他には何食べたい?」
上条「え、いや取れるものは自分で取るって」
美琴「遠慮してんじゃないわよ。手がふさがってるのは私のせいなんだから」
上条「………んじゃぁ……それ」
美琴「………はい」
上条「んー、ちょっと味薄すぎだな」

 自分でも食べてみる。
 どっちみち味はよく分からない。
 その代わりに目は回った。
 そんなことを数回繰り返した結果、美琴自身が満身創痍に陥る。

美琴(な、何なのこいつ。鈍感にも、程が、あるでしょ……)

 心の中でどうにか叫んで、上条をトロンとした目で見つめる(本人は睨んでるつもり)

美琴(………ん、あれ?)

 薄暗くて今までよく分からなかったのだが、よくよく見ると上条の顔が赤い。
 試しにパスタを少しだけ箸に絡め、上条の口へ無言で持って行く。

上条「み、御坂?俺はそろそろもういいって。なんつか、その……ケーキもあるんだろ?腹いっぱいになってもアレだしさ」

 上条は目を逸らしそわそわしている。

美琴「んじゃー私が食べるわ。あん」

 そこでチラッと上条を見ると、うわーそれお前そんな舐めちゃうのうわー、とでも言いたそうな間抜け面をしている。
 それを見て美琴は心の中でガッツポーズする。

美琴(やった。ついに勝ったわ、ざまーみやがれっつのこの鈍感野ろ……………あれ?)

 ちょっと待てよと考える、上条が鈍感なのは確かだが、それでもどこかからかは気付いていたらしい。
 それなのに自分は一膳の箸をさも当然の如く使い回していた。
 それが上条からはどう見えただろうか。
 『アンタとの唾液交換くらいどうってことないわよ』などと思われなかっただろうか。
 そこまで考えて突然焦り出す。

美琴「あの、あのさ!違うの、あの、その、勘違い勘違い!!」

 急に狭いソファの上で美琴が意味不明なことを言いながら暴れ出す。声は裏返っている。
 今まで蓄積された上条成分のおかげで美琴の頭はもはや真っ白だった。

上条「おまっ、いきなりなんだ!割り箸振り回すなあぶねぇ!!」

 突然目の前でぶんぶん箸を振り回されたため、慌てて上条は左手で美琴の右手首を掴む。

美琴「えっっ!!??」

 能力を封じられた状態で、両手の自由を奪われるという状態に美琴はさらに混乱する。
 力では上条に勝てるわけがない。

上条「ん?つかお前、顔真っ赤じゃねぇか」
美琴「う、うん」

 思わず甘えた声で肯定してしまう。

美琴(えっと、うんと。こいつが『唾液交換くらいどうってことない』って思ってて、『私が顔真っ赤』と分かってるなら……)

 そして恐ろしく変な方向に勘違いした美琴は、そっと目を閉じる。
 緊張して体が少し震えた。

上条(へ?は??あれ???ちょっと待ってこれどういう状況ですか………いや、慌てるな、上条さんは知っている。俺はこんな
    おあつらえられた状況で素直にホイホイ間違うほど今まで柔な経験してねえんだぜ!!)

 ここで勘違いによりキスなんかして、また雷を落されるような事態になるのはごめんである。

上条(落ち着け。落ち着いて考えろ上条当麻。まず、御坂は顔が赤い。これは間接キスの影響かもしれないが、よく見てみろ、
    御坂は震えてるじゃねえか。具合が悪いのかもしれない。そして、俺はさっき顔が赤いことを指摘して、そしたらその後
    御坂が目を閉じたんだ。ここから導き出される答えは何だ!?)

 ハッ!!と気がつき上条は生唾を飲む。
 いくら上条が鈍感だと言っても一応健康な男子である。アレを気軽にするなんて出来ない。
 しかし美琴が本当に具合が悪いなら放っておくことも出来ない。
 意を決して上条は美琴に顔を近づける。
 美琴は僅かな気配でそれを察して、息を止めた。瞼に力が入る。

上条(ち、近い………)

 顔に掛かる髪の毛が一本一本数えられるくらいまで近づく。
 美琴の顔から発せられる熱が感じ取れる。
 そして…………………おでことおでこがくっつけられた。

上条「えっと………………ね、熱は無いみたいだぞー。多分」

 ふとした何かの間違いで口と口が触れるのではないかという僅かな距離で話し掛けられ、美琴は意識が飛びそうになり、思わず
前のめりに倒れる。
 頭が上条の肩に落ちた。

上条「うわ、御坂?やっぱ具合悪いのか?」
美琴「………………………………う、うん」

 色んなことが頭の中を巡って、美琴にはそう応じるのが精一杯だった。


―――5分後


上条「落ち着いたか?」
美琴「…………うん。大丈夫」

 美琴は上条が体の上に掛けたコートに顔を埋めて、上条の方を見ずに言った。
 落ち着くにしたがって、さっきまでの自分の行動を振り返って憂鬱になる。正直そこから逃げ出したいくらいだった。
 そんな状態のなか、再びノックがされる。

店員「しつれーしまーす。ケーキお持ちしましたー」
上条「あ、はい」

 店員が入ってくると、美琴は未だ恋人繋ぎ状態の左手をサッとコートの中に隠した。
 上条の右手が美琴の太ももに触れて、上条は内心ドキッとする。

店員「あ、こちらもお先にお渡ししますね」

 若い女性店員は小さめのホールケーキを置くと、ついでトレイから透明な袋に入ったカエルのフィギュアを上条と美琴の前に
置いて出て行った。

美琴「来たっ!」

 それを見て美琴が突然元気になる。
 実はクリスマス仕様の限定フィギュアというのは知っていたが、実際にどういうものか見るのは美琴も初めてだった。
 手が片方塞がってるので、右手で自分の前に置かれた物を見る。

美琴「ふむふむ。限定物にしてはクオリティ高いわね。可愛い!」

 手に取ったのはピョン子がサンタクロースの格好をしているフィギュアだった。
 出来は良かったが、左に妙な凸凹が付いている。
 もしやと思い、上条の方に置かれたものを見ると、サンタクロースの格好をしたケロヨンの右側にも似たような凸凹が
付いていた。

上条「それ、繋がるのか?」

 どうやらその通りらしい。

美琴「ちょっと手伝って」

 手が塞がっているので、美琴の右手と上条の左手でそれらをくっつけてみと、見事に一つのフィギュアが完成する。

美琴(なんだか、ケロヨンとピョン子が恋人っぽく見えるわね)

 男女ペア限定とは書いていなかったが、その実このプレゼント企画は結局ほとんど恋人向けであったのだ。
 美琴は再び外して、ピョン子の方だけをポケットに仕舞う。

美琴「そっち、アンタにあげるわ」
上条「ん?これって両方無いと意味ねぇんじゃねぇの?」
美琴「良いから。今日付き合ってくれたことのお礼よん。こんなレア物、そうそう手に入らないんだから」
上条「つか、俺にはカエル趣味ねぇし……」
美琴「細かいこと言ってんじゃないわよ。私が良いんだから良いの」
上条(……いや、それだと今日の目的がよく分からなくならないか?)
美琴「あ、でも無くしたら殴るからよろしく」
上条「……………何だよそれ」

 上条はその理不尽な発言に脱力したが、面倒なのでとりあえず携帯にでも付けておけば無くさないかな、とか考えつつ
ポケットに仕舞う。

上条「さて、ケーキ食うか。切るぞ?いやその前に味見」
美琴「あ、ずるっ!私も」

 二人は上に付いていた生クリームを指ですくい舐める。

上条「!?」
美琴「!?」

 二人仲良く絶句。

上条「な………何だこれ、美味すぎるだろ。俺こんなケーキ食ったことねぇ!!何この滑らかな舌触り!?」
美琴「何これ、学舎の園にあるケーキ屋さんより美味しいじゃないのよ。何なのよこの絶妙な甘さ!何なのよこのファミレス!?」

 二人してぎゃーとひとしきり叫んだ後、妙な静寂が二人の間に流れた。

上条「と、とりあえず切り分けるぞ」

 上条がナイフを左手に持ち、小さいホールケーキを半分に切ろうとする。
 しかし左手なためか、それとも欲望が顔を出したのか、ナイフは正確に真ん中を捉えず少し右へずれる。

美琴「ちょっと!アンタそりゃ無いでしょう!」

 あまりのケーキの美味しさのせいか、臆面もなく叫ぶ。
 幸いケーキはまだほとんど切られていなかった。

上条「ご、誤解だ誤解!手元が滑ったんだ!」
美琴「いい、私が切る!」
上条「ちょ、ちょっと待て、やっぱずれてないか?」
美琴「どこがよ」
上条「ちょっと貸せ」
美琴「嫌よ」

 仕方がないので上条はナイフを持ったままの美琴の右手を掴んでギリギリと右へ押す。

上条「こうだろ?」
美琴「こうよ!」
上条「ならこうだ!」
美琴「もうちょっとこうよ!」
上条「まぁ、それだな。よし、切るぞ。いいか?まっすぐ切るぞ」
美琴「ちょ、ちょっと待って!!」
上条「あん?」

 ナイフが1cmくらい沈んだところで、初めて美琴は冷静になった。

美琴(ちょっと待ちなさい。え?何これ何?これってアレでしょ?アレよね!?…………結婚式の)

 自分でも馬鹿なことを考えているなと思うが、意識してしまうともう止まらない。
 緊張して手が震える。

上条「おい御坂!そんな緊張するな。大丈夫だ、ケーキは逃げない。最悪切り分けた後で比べればいいことだ、な?」
美琴「う……」

 上条に相づちを打とうとして、上条との距離が物凄く近いことに気付きさらに参ってしまう。
 自分の心臓がバクバク言うのが聞こえ、震えは更に大きくなる。

上条(チィィッ!背に腹は代えられない)

 などと妙なテンションで心の中で叫びつつ、右手を美琴の左手から一瞬離し、美琴の肩に回す。
 それに美琴はビクッと震え、さらにカチコチになる。

上条「御坂、落ち着け、深呼吸だ。深呼吸。はい一緒に、ひっひっふー!!」

 上条も相当ハイになっているためか、意味の分からないことを口走る。

美琴(ちょ、お願い。やめて、息が掛かる。もう、死んじゃうぅぅ)
上条「ええいもうどうにでもなれクソ!」

 むしろ震えが大きくなった美琴を見て、上条はほとんどやけくそ気味に美琴の右手ごとナイフを押し込み、ケーキを両断した。

上条「ふう。完璧に真っ二つだ。意義無いよな御坂」

 美琴は喋らず思い切り縦に首を振る。
 上条が右手を肩から離すと、すかさず手を左手で握り直す。正直今幻想殺しが無ければ上条どころか店がやばい気がする。
 二人は座り直すとケーキを食べ始める。上条は左手だったが、ケーキくらいは食べることができた。
 両者それぞれ色々混乱したものの、そのケーキの美味しさはそれらを帳消しにするくらいの出来映えだった。
 これがデフォルトのメニューなら定期的に通いたいと思える程である。

美琴「はぁ、御馳走様」
上条「御馳走様。これ単品でねえかな。追加注文したい」
美琴「クリスマス限定って書いてるし無理だと思うわ……ってアンタ、口の横に生クリーム付いてる」
上条「ん、どこだ?」

 どれだけむしゃぶりついたのか、上条の口の脇には結構な量の生クリームがベッタリ付いていた。
 本人はどこに付いてるか分かっていないようである。見当外れな場所を左手でペタペタ触っている。

美琴「馬鹿ね、ここよっ」

 美琴は笑いながらそれを人差し指で拭う。
 人差し指に生クリームが付いた。

美琴「えっと………………………」

 上条と顔を見合わせる。

美琴(この後どうすれば良いんだろう?)

 美琴は考え出す。
 案一、どこかに拭う。

美琴(そんなもったいないこと出来ない!気が狂うほどに美味しいのに!!)

 案二、自分でペロリと舐める。

美琴(んな恋人のテンプレみたいな行為できるか馬鹿!!)

 案三、上条に舐めさせる。

美琴(……………………………………一番あり得ないわ)
上条「おい、どうした?固まっちまって、それどうすんだ?」
美琴「う、うっさいわね!考え中………っつか考えるまでもないわ」

 そう言って美琴は脇にあったコートのポケットから小指と親指でハンカチを取り出す。

上条「お、おい!ちょっと待て、それをどうする気だ!?馬鹿な真似はやめなさい!!」

 慌てて叫んで美琴の右腕を掴む。

美琴「な、何すんのよ。他にどうしろって言うのよ!」
上条「どうするって…………………な、舐めたい」
美琴「ちょ、ちょっとアンタ、目が血走ってるわよ?」

 上条はもはやそのケーキの虜であった。はぁはぁと息を荒げ、美琴の人差し指の先に付いたクリームをジーッと見つめている。
 今にも食いついてきそうで美琴はややたじろぐ。

上条「嫌なのは分かるが、お願いします。舐めさせて……下さい」
美琴「な、何馬鹿なこと言ってるのよ」
上条「……………………………ダメ?」
美琴「ッ!!??………………だ……………駄目、よ」

 上条の渾身のお願いにやや折れそうになるが、すんでの所で耐える。

上条「はぁ。そうかぁ、不幸だなぁ」
美琴「ッッ!!!???………………わ、分かったわよ。勝手にしなさいよもう」

 さすがにこれは今日の趣旨的に諦めざるを得ない。
 美琴はそう言うと指を突き出しそっぽを向く。

上条「さすが美琴センセー。も、物わかりが良いぜ。はぁ…はぁ………で、ではいただきます」

 そう言って美琴の人差し指をパクリとほおばる。

美琴(うわ、生暖かっ………舌が変な感じ!)

 チュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパチュパ。

美琴「ちょっ、いつまで舐めてるのよ。や、やめっ……あっ……ば、馬鹿……」

 1ミリグラムも残すまいという程に細部まで綺麗に舐めとられる。
 肉と爪の間をペロペロしたり、指の横腹をツーと舐められたりして、美琴は初めての感覚に動揺する。

美琴「い、いい加減離せ馬鹿ー!!」
上条「ああああ。まだ味がー」
美琴「残ってないっつのこの変態!!」
上条「ぐぁ!」

 美琴は思いっきり指を引いて、その手で上条の頭に強烈なチョップをする。
 結構効いたようで、上条は頭を抱えてうずくまってしまった。
 かと思った次の瞬間にガバッと起き上がる。

上条「う!!な、何か悪い夢を見ていた気がする」
美琴「アンタ、あれだけやっておいてその言い草ってどうなのよ」

 美琴はハンカチで指を拭きながらジト目で睨む。
 さすがに今回は舐めない。舐めたら意識が飛びかねない。

上条「こ、怖ぇーこのケーキ。美味すぎて頭が馬鹿になったかと思った」
美琴「アンタ元から馬鹿でしょ。ま、まぁケーキについては同意するわ」

 もしや学園都市で開発された何かヤバイ物が入っているのでは?と思わせるほどの美味しさであった。
 中毒になってもマズイのでもう食べない方が良いかもしれない、と二人は思った。
 そうこうしてる内に店員が来て、決められた時間が過ぎそうであることを告げられる。
 普段は時間制ではないが、クリスマスは特別仕様であった。
 二人は退出の準備をしようとしたが、問題は繋いだままの手である。
 来た時と同じ鐵は踏みたくない。

上条「さて、どうしたもんですかね」
美琴「ちょっと待ってて」

 美琴はそう言うとソファに深く腰掛け、目を半分閉じて動かなくなった。
 言われたとおり待ってると、2分ほどして目を開き、あっけなく手を離した。

美琴「前に学校で禅を習ったのよ」

 そう言うと立ち上がって伸びをする。

上条(何故それを最初にやらないんだ???)

 甚だ疑問だったが、今更そこを責めてもどうにもならないと思い、すっかり美琴の手の感触が染みついてしまった右手を
ワキワキと解すことにした。

美琴「あ、そう言えば、アンタお金大丈夫なの?何なら私が奢ろうか?」
上条「いやいいよ、さすがに自分の分は自分で払う。最近食費が浮いたからちょっとくらいは大丈夫だ。ほんとは俺が全部奢って
    やるーって言いたいところだけど」
美琴「私の都合で来たんだからそれは遠慮するわ」

 そう言うと思った。という顔をして上条も立ち上がる。

美琴「んで」
上条「あん?」
美琴「次どこ行く?あ、帰るとか言ったら殴るから」
上条「…………………先に言うなよ」

 二人は店を後にする。



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