とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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わかってくれるのかな


 桜の時期が過ぎ、緑が盛りを迎える季節。
 御坂美琴は、中学3年生に進級した。
 まもなく連休間近のとある週末の夜、完全下校時間も過ぎ、街は春の闇に包まれかけている。
 街灯の明かりに照らされた道を、美琴は息を切らせて走っていた。
 学園都市第三位にして『超電磁砲』の通り名を持つ彼女は、常盤台中学の代表として、極めて多忙な毎日を送っていた。
 そんな始業式以来の忙しさもやっと一段落して、明日は久しぶりに何の予定もない。
 寮の門限を過ぎている中、ルームメイトの黒子のおかげで、今日も無事にこっそり抜け出せた。
 彼女にはいつも迷惑をかけているが、それでも黒子は、お姉様のお役に立てればそれだけで充分すの、と協力を惜しまない。
 こんな自分のために、一生懸命に尽くしてくれる黒子には、ホントに感謝してもしきれない。
 また何かの機会にお礼をしなくちゃね、と彼女は走りながら思う。
 さすがに息が切れ、喉が渇いたので、途中いつもの公園に、一息つこうとやってきた。
 ここを抜ければ、アイツの部屋まであと少し。
 でもそこで見たのは、自販機と街灯の明かりに照らされて、ベンチに座っていたのはツンツン頭のアイツだった。

 私が会いたい、世界で一番大好きな人。
 私の全てを壊して、何もかも攫っていった愛しい少年。
 その姿を目にした途端、私は足がすくんでしまってた。
 こんな時間に、アンタはここで何をしてるの?
 春休みの間、始業式までほとんど毎日、アンタと一緒にいたのに、ちょっと会えなかっただけで、私はこんなに胸が苦しいのに。
 会いたくて、会いたくて、泣きたくなるほどに胸が苦しいのに。
 こんなときに電話をすると、声を聞いただけで私は苦しくて倒れそうになる。
 いつもはメールで済ますのだけど、こうして会えない時が続いてしまうと、どうしても会いたい気持ちが抑えられない。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな。
 いつか、わかってくれるのかな。
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな。

 ロシアでアンタを失った時、私の心は死んじゃった。
 私の前から、アンタが消えていくのは耐えられなかった。
 まるで形見のように残されたゲコ太ストラップを握って、私は泣くしかなかったの。
 そんな時、黒子だけは、そんな打ちのめされた私の横で、寄り添って私を支えてくれた。
 アイツが私にとっての全てだったってことが、黒子にもわかっちゃったみたい。
 そんな黒子は、あの殿方が戻っていらしたら、私はお姉様に協力を惜しみませんの、と言ってくれた。
 黒子にまで、そんなことを言わせたアイツは、やっぱり私の特別な人。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな。
 いつか、わかってくれるのかな。
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな。

 アイツがロシアから帰ってきた時、私は何も言えなかった。
 嬉しくて、だけど恥ずかしくて、でもやっぱり本当に嬉しくて、思わずアイツに電撃を放ってしまったの。
 そんなアイツは、右手で私の電撃を受け止めて、「御坂、ただいま」って言ってくれた。
 その言葉を聞いた途端、私の心は生き返ったの。
 私の中に閉じ込めておいた何もかもが溢れ出して、私はアイツにしがみついて、泣くしかなかったの。
 泣いて泣いて泣いて、それでも最後に、やっと笑って「おかえり」と言えた。
 その時は、素直に言えた。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな?
 いつか、わかってくれるのかな?
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな?

 アイツはロシアで携帯をなくしたらしい。
 素直に言うのはやっぱり恥ずかしくて、今回も罰ゲームってことで、もう一度ペア契約させちゃった。
 ゲコ太キャンペーンは終わっていたけど、ロシアで拾ったゲコ太ストラップをもう一度つけたの。
 これはアンタと私を繋げる大切なものだから、今度は絶対外れたりしないよう、神様にお願いしながら。
 今度のツーショットは、お願いしたら、アイツは優しく抱きしめてくれた。
 画面に写った、アイツの笑顔が眩しかった。
 恥ずかしかったけれど、お店の人に頼んで、その写真を待ち受けにしてもらったの。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな?
 いつか、わかってくれるのかな?
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな?

 それから毎日のように、公園でアイツを待ってた。
 メールで誘ったこともあるし、偶然を装って、自販機の前で待ち伏せたことだってある。
 だってアイツの顔を見ないと不安になるんだもの。
 今でもアイツが倒れる夢を見て、夜中に飛び起きることだってある。
 だからいろんな理由をつけて、少しでもアイツと一緒にいたかった。
 セールに付き合って、課題を片付けるのを手伝ってあげるのも実はそう。
 私はアイツの笑った顔を見て、安心したかったんだ。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな?
 いつか、わかってくれるのかな?
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな?

 実は前から気になってたことがあったの。
 いつもアイツの横にいる、白い修道服の銀髪シスター、インデックス。
 とうまは必ず帰ってくるって言っちゃって、私なんかよりずっとずっとアイツのことを信じてるみたい。
 アンタはあの子のなんなの?って聞いてみたいけど、やっぱり怖くて聞けない。
 でもやっぱりあの子に負けたくなくて、ある日勇気を出して聞いてみた。
 アイツは記憶喪失でわからないとは言ったけれど、恋人とかそういうのではなかったみたいで安心した。
 アイツは、インデックスの保護者みたいなもんで、まぁ娘とか妹みたいなもんかなって言ってた。
 だけど一緒に住んでるって、聞いた時は、本当に胸が痛かった。
 どうせアイツのことだから、また1人でなにか抱え込んでるに違いないって思ってる。
 でもアイツを思う気持ちは変わらなくて、アイツの助けになるのなら、私に出来ることをしようって思ったの。
 アイツがあの子を大切に思うのと同じように、私もアイツが大切だから。
 その気持ちだけは誰にも負けたくないから、私がアイツの支えになれたらいいなって。

「私はアンタの力になりたいの」って言っちゃった。

 そうしたら、アイツ、スーパーの特売に付き合ってくれだって……。
 どうやらあの子の食欲は大変なようで、いつも食事には困ってるみたい。
 どうせアイツは誰にも頼ろうとしないから、食材持って、アイツの部屋へ私から押しかけてやるって決めた。

「どうせたいしたもの食べてないんでしょ。育ち盛りに影響するからご飯作りに来てやったわよ」

 そう言って、アイツが唖然としている間に、手際よく料理を仕上げて、どうぞ召し上がれってね。
 美味しそうにパクついてる2人には、ちょっと意外だったみたい。
 ま、常盤台のお嬢様舐めんなってとこかしら。
 インデックスに「ごっはん♪ごっはん♪みことのごはんは、おいしいね」って言われたら、また作ってあげたくなるもの。
 アイツだって、満更でもなかったみたい。
 なら今度は土御門舞夏誘って、お隣の舞夏のお兄さん共々ご馳走してあげようかって言ったら、2人とも大喜びしてくれた。
 それから舞夏と相談して、週末に2人でアイツの部屋へ押しかけた。
 アイツなんて、こんなご馳走今まで食べたことないぞ、なんて言ってくれちゃって。
 舞夏のお兄さんから、「花嫁修業は完璧だにゃー」なんて言われちゃった。
 舞夏からも、「みさかみさかー。これで攻略は完璧だぞー」なんて言われて、思わず顔が赤くなっちゃった。
 アイツ、毎日でもいいなんて呟いてたから、私も出来る限り、ご飯を作りに行こうって決めた。
 アイツは無理するなって言ってくれるけど、アイツのためにしてあげたくて行くんだもの。
 無理なわけないじゃない。
 それにお昼も大変なようだから、私はアイツのお弁当を作ってあげることにした。
 寮生活だから、毎日は無理だったけど、それでも出来る限り作ってあげた。
 やっぱり恥ずかしかったから、高校生活に備えての練習よって誤魔化しちゃった。
 俺でよければ、いくらでも協力するからなって言ってたけれど、それでもアイツは喜んでくれた。
 アイツが喜んでくれれば、私も嬉しい。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな?
 いつか、わかってくれるのかな?
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな?


 クリスマスにデートに誘いたかったけど、先約があったみたい。
 ちょっと、というか、かなりショックだったけれど、アイツはモテるから仕方が無いのかもしれない。
 私がもっと素直でいられれば、誰かにとられることもなかったのかなって落ち込んじゃった。
 そうしたら、アイツの方から、

「俺、知り合いからクリスマスミサに誘われてるんだ。なんならお前も一緒に来るか?」

 なんて誘ってくれた。
 アイツから誘ってくれたのは嬉しかったけれど、誰に誘われたのか、ものすごく気になってちょっとイライラしちゃってた。
 教会に着いたら、神裂ってポニーテールでセクシーな格好した巨乳のお姉さんと、前に会った五和ってやっぱり胸の大きな女の子に、私のこと親友だって紹介してた。
 アンタはそんなに巨乳が好きなのかあああって、後で思わずアイツをぶん殴っちゃった。
 そんなことするから、いつまでたっても私はアイツの特別になれないんだなって落ち込んじゃった。
 でもアイツはそんな私に、大切な友達って言ってくれた。
 ただの友達じゃなくて、大切なって……言ってくれた。
 それだけで、その言葉だけで、私は素直にごめんなさいって言えたの。
 そんな私に、アイツは俺が悪かったんだし、気にすんなよと言ってくれる。
 そんな優しいアイツは、やっぱり私の特別な人なんだって、気付かされちゃった。
 だから帰り道には、素直にアイツの腕にしがみつくことが出来た。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな?
 いつか、わかってくれるのかな?
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな?

 年末に実家へ帰ってたら、なぜだか両親がニヤニヤしてた。
 すぐご近所に、仲の良い知り合いの家族がいて、そこの家の子も学園都市にいるらしい。
 その時は特に気にも留めずに、家の近くを散歩してたら、ばったりアイツに出くわしちゃった。
 アイツの実家もウチの近所にあるって……それもしかして……って思ってたら……。
 元旦の挨拶に行くって言われて、振袖を着せられて、連れて行かれたのは、やっぱりアイツの実家だった。
 お母さんに、ここ、美琴ちゃんの好きな人の実家よって言われて、恥ずかしくって真っ赤になったのを、しっかりアイツに見られちゃった。
 だからアイツには、初詣のお神酒を飲んだからって誤魔化しちゃった。
 両親達から、馴れ初めを聞かれたけれど、私はアイツの記憶喪失のことを知られないようにしてたから、何を言ったかほとんど覚えてない。
 だけど後でアイツに、本当に助かったよ、ありがとうと言われて、アイツの役に立てて、私は本当に嬉しかった。
 だからアイツに、

「あ、あ、アンタの役に立てたのなら、わ、私は本望よ」

 って言っちゃった。キャッ♪
 でもアイツは、私の顔が赤いのを、酔っ払ってると思ったらしくて、まだ酔いは醒めないのかって言いやがったから、思わずぶん殴っちゃった♪
 酔ってるから仕方ないわよねって言ってやったわよ。フン♪
 でも私の振袖姿を見たアイツの顔も赤かったのを、私は見逃してない。
 せいぜい後で思い出して、ドキドキすればいいのよ。
 私なんて、いつもアンタにドキドキさせられてるんだから。
 そんな私の気持ち、アンタはわかってくれるのかな……。
 いつか、わかってくれるのかな……。
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、わかってくれるのかな……。


 バレンタインデーに、私は初めて手作りチョコを作ったの。
 もちろん大好きなアイツと、いつも迷惑かけてる黒子の分。
 黒子のおかげで、私はアイツと時間を気にせず会えるのだから。
 アイツは、お正月以来、私と会うたび顔を赤らめてるのがわかる。
 やっぱりドキドキしてくれてるのかな。
 私のことを、少しは意識するようになったのかな。
 いつもの公園で会ったアイツは、その上なぜかボロボロになってた。
 学校で、本命チョコが欲しいと口走ったら、クラスメイトにボコボコにされたらしい。
 不幸だっていつもの口癖をつぶやいてたから、私はつい、

「私はアンタと一緒なら不幸にならない……」って呟いちゃった。

 まずいと思って、急いでアイツにチョコを渡してやったの。
 アイツ、これ手作りかって聞いてきたけど、内緒って言ってやった。
 やっぱ義理チョコかとも聞かれたけれど、それも内緒って言ってやった。キャッ♪
 でも……本当はそんなの、恥ずかしくて言えるわけ無いじゃない。
 本命チョコだって言えるわけ……無いじゃない。
 言いたかったけど……。
 アイツ、ホワイトデーのお返し、何がいい?って聞いてきたから私、「アンタのくれるものなら何でもいいわよ」って言っちゃった。
 やっぱりもっと素直になるべきなんだろな……。
 そんな私の気持ち、だから、わかってもらえないのかな?
 だから、わかってもらえないのかな?
 御坂美琴は、上条当麻が好きだってこと、やっぱりわかってもらえないのかな……。

 待ちに待ったホワイトデー。
 アイツに会う前から、ドキドキしちゃって、大変だったの。
 アイツからは、ネックレスをプレゼントされた。
 私、つい妹のしてたネックレスを思い出しちゃって、

「どうせアンタのことだから、姉妹で同じものをって考えたんでしょ……」

 って言っちゃった。
 そうしたらアイツ、怒ったのか、ちょっとビクッてしてた。
 だから私、あわてて誤魔化しちゃった。

「アンタのくれるものなら何でもいいって言ったのはこっちだし、ありがたくもらっておくわ」

 私、最低だ。
 そのネックレスは、見ただけで妹のとは、出来が違うのがわかった。
 アイツ、多分アルバイトでもして、私のために買ってくれたのだろうな。
 そんな最低な私に、アイツは言うの。

「あまりお金なくて、常盤台のお嬢様がお気に召す様なもの買えなくてさ、ごめんな」

 そんな申し訳なさそうな顔、させてしまったのは私なのに。
 そんな自分が恥ずかしくて涙が出てきちゃった。
 そうしたらアイツ、「体調悪いのか」って聞いて、いきなりおでこをくっつけてきた。
 私、そのまま意識が飛んじゃった……。
 気が付いたら私、公園のベンチでアイツに膝枕されてた。
 アイツの優しい目が、私を見つめてた。
 そんな瞳に見つめられたら、私……。
 気が付けば、アイツの上着が、私の体にかけられてた。
 アイツの底抜けな優しさが、私の心にじんわりと染みてくる。

――あのね……

――アンタが傷ついたとき、私は癒してあげられるのかな……

 私はそうアイツに言いそうになって、あわててその言葉を呑み込んだ。
 アイツにそんな顔をさせたのは……他でもない私だ。
 私に、そんなこと言える資格なんて……あるわけ……ないよね。
 それでもアイツ、体調悪いのなら、無理すんなよって言ってくれる。
 私、そんな辛そうな顔してたのかな。
 私だって、アイツにはこんな顔、見せたくないって思う。
 アイツも、辛そうな顔するんだもの。
 突然腕をとられて、肩を抱き寄せられて、私の思考はストップした。
 私を、寮まで送ってくれるって言ってくれてるの。
 恥ずかしくってふらふらしちゃうけど……今はこのままでいたい。
 ぎゅっと肩を抱かれて、触れたところから、アイツの温かさが伝わってくる。
 そっと、アイツの肩に頭を寄せると、アイツの息吹が私まで伝わってきそう。
 寮に着いたら、他の寮生に、アイツ、私の彼氏と勘違いされてたみたい。
 でも否定しなかったよね。
 でもそれって……少し期待しちゃっていいのかな。
 その後黒子があわてて飛んできたわ。
 後で聞いたら、私が倒れたと勘違いしたらしいのね。
 騒ぎになる前に、私は黒子のテレポートで部屋へ戻ったの。


 その日から、アイツにもらったネックレスは、私の大切で、特別な宝物。
 ずっと毎日、肌身離さず着けていたの。
 シャワーを浴びる時だって外してない。
 これを着けてると、アイツがいつも傍にいてくれるような気がするの。
 しばらくして、アイツに会ったときに言われたわ。

「白井から聞いたんだけどさ、あのネックレス、ずっとつけてくれてるんだってな。
頑張って選んだ甲斐があったな。
御坂に喜んでもらえたなら、俺も嬉しいよ」

 その時、私、恥ずかしくって、素直になれなかった。
 つい、いつもの照れ隠しで、アイツに言ってしまった。

「アンタへの借りを忘れないためよ…」

 ホントに私、最低だ。
 その時のアイツの顔が、苦痛に歪んだのは、私のせいだ。
 なのにアイツは……アイツは……いつも優しいの。

「そんなつもりなんて無くてさ、俺はお前に喜んでほしいと思ったんだけどさ、もしかしてお前にいやな思いをさせていたのなら、俺のせいだ、謝るよ。
ごめんな、御坂……」

――そんなこと言われたら……言われたら……私……どうしたらいいのよぉ……ばかぁ……

 胸をぎゅっと締め付けられて、目の前が滲んで、気が付いたらアイツの胸に飛び込んで泣いていた。

「違うの……違うの……私が言いたい事はそうじゃないの……
私、アンタを傷つけたのに……アンタはなんで……そんなに優しいの……
私のせいなのに……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 それだけ言うのが精一杯で、ポロポロ零れる涙が止まらなくて。
 でもアイツはこんな私を、そっと抱き締めてくれた。
 ここが私の居場所だったら、私はもう何もいらない。
 私はやっぱり、アイツのほかに、何もいらない。
 私はやっと気が付いたの。
 これが、私の、本当に欲しかったものだって。

「ごめんな。泣かせるつもりはなかったんだけど、なにか俺の言い方が気に障ったのなら許して欲しい。
俺はお前に笑って欲しいんだけど、泣かせるようなことをしてしまった最低な人間だ。
どうしたら許してもらえるか分からないけど、俺がお前には相応しくないようなら、もう会わないほうがいいのかな」

 違う!
 私が欲しいものはアンタのそんな辛そうな顔じゃない。
 私が欲しいのは、優しいアンタの……、当麻の笑顔なのよ。
 私と一緒にいる時の、最高の笑顔なのよ。
 涙は今も止まらないけど、当麻のために素直になろうと決めた。
 当麻のために、笑顔になろうと決めた。

「会わない方がいいなんて、そんなこと言わないで。
私はアンタと一緒なら不幸にならない……。
アンタは……、当麻は……私と居ていいの、ううん、私と居て欲しい。
私は……当麻と一緒ならそれでいいの」

 私の気持ち、わかってもらえなくてもいい。
 御坂美琴は上条当麻が大好きだから、私は当麻に笑って欲しい。
 当麻の笑顔、それが私の欲しかったもの。
 だから私は、当麻の笑顔のために、出来ることをしよう。
 こんなにも当麻が大好きだから、私は笑顔になれるのよ。
 だから、ね。
 そんなに辛そうな顔、しないで。
 お願いだから。

「それよりそんな顔色だけど大丈夫?どっか気分悪い?」

 その言葉で、当麻の顔がホッとしたように柔らかくなった。
 よかった……。
 そして……。

「ありがとうな、美琴……」

――え……今……なんて……。

 その言葉と、当麻の笑顔に、私の心は打ち抜かれちゃった。
 当麻の優しい笑顔に、私は全てを奪われちゃった。
 やっぱり御坂美琴は、上条当麻が大好き。
 本当に……大好き。


 学年末の、当麻の課題ラッシュは、彼にとっては大変だったけど、私には本当に楽しい日々が過ごせたの。
 朝から晩まで、一日ずっと当麻のそばにいられるなんて、私には夢のような日々。
 もちろんインデックスも一緒だし、課題をこなすのが目的なんだけど、違うのは私が素直にいられること。
 ドキドキはするけれど、彼の笑顔が見られるならって思ったら、何も気負いもなくなった。
 もっと早くにこうすることが出来たら、私……。
 課題に取り組む、当麻の真剣な面持ちを見てると、やっぱり胸がきゅんとする。
 当麻に聞こえないように、好き……って呟いてみたりしたの。
 勉強漬けの当麻を置いて、インデックスと当麻の話をしながら晩御飯の買出しに出かけたり、疲れて、うたた寝する当麻のほっぺを、インデックスと二人して、ぷにぷにしてみたのも楽しかった。
 でもインデックスが出かけてる時に、昼寝中の当麻に、そっと寄り添ってみたのは秘密……。
 眠ってる当麻の唇に、指でそっと触れてみたのは秘密……。
 その指で、自分の唇をそっと……のは、一生の秘密……。
 誰も知らない私だけの秘密……。
 だからこんな平穏な毎日が、ずっと続いて欲しかった。
 でも……、当麻はしょっちゅう外の世界へ行ってしまう。
 そして帰ってきたときには大けがで入院してたり、心配なことばかり。
 でもね、今なら私、大丈夫だって言える。

――当麻は、必ず私のところへ帰ってくるって。

――当麻がきっと、それを望んでいるからって。

 当麻はわかってくれるのかな。
 いつか、わかってくれるのかな。
 御坂美琴は、上条当麻が大好きだってこと、わかってくれるのかな。
 御坂美琴は、上条当麻を信じて待ち続けるってことを、わかってくれるのかな。


 ベンチに座ってたアイツは、なにやらブツブツ言ってたけど、いきなり立ち上がって叫びだしたわ。

「俺は、御坂美琴が、好きなんだ!」

 え!?

「俺は、御坂美琴が、好きなんだ!」

 なんて!?

「俺は、御坂美琴が、大好きなんだ!」

 でもやっと……。

「俺は、御坂美琴が、大好きなんだ!」

 嬉しい……。

「俺はああ、御坂美琴がああ、大好きだあああ!」

 だけどやっぱり……。

「俺はああああ御坂美琴があああああ大好きだあああああ!!!!」

――そんな大声で言われたら、恥ずかしいじゃないのよ!!

 私は久しぶりに、アイツに向かって、電撃を放った。

「アンタはあああ、そんな大声でえええ、なにこっぱずかしいこと言ってるのよおおおお!!!!」

「へ、御坂さん……、今の……聞いて……」

 あの馬鹿野郎は、こっちに向いて、間抜けな顔をしてた。
 アンタのおかげで、私がどんな思いでいたか、わかってんのかしら。

「こんのおおお鈍感野郎おおおがあああ!!!!」

 だから今、思い知らせてやるんだから!!

「御坂美琴はあああ、上条当麻があああ、大好きなのよおおおお!!!!」

 どうだ、わかったか!!

「アンタねぇ、新学期始まって、人がてんてこ舞いの時に、夜の公園でなにを叫んでるのよ」

「あのですね、上条さんは、御坂さんに会えなくてですね、ちょっと寂しくてですね、それがなぜだかわからなくてですね……」

 当麻が笑顔になった。
 私が今まで見たことのない笑顔になった。
 私の全てが、当麻のものになったんだと思えたの。
 だから私は、当麻の胸に、思いっきり飛び込んでいったの。
 ね、当麻はわかってくれたんだよね?
 今、わかってくれたんだよね?
 御坂美琴は、上条当麻が大好きだってこと、わかってくれたんだよね?

「ね、当麻は、わかったんだよね?」

「ああ、やっとわかったよ、美琴」


  ~ Fin ~


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