とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

15章-1

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匿名ユーザー

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15章 帰省2日目 二つの心


1/3 16:05 雪


 御坂美琴は素早く跳躍する。
 乙姫までの距離は約十五メートル。その距離を一足飛びに詰めた。もちろん筋力による跳躍ではなく磁力で身体を引っ張り上げた結果であるが、それでも強い重力を伴って美琴の視界は揺れる。

乙姫「ふぁえぇっ? なななななに??」

 ズザザッッ、とローファーでブレーキを掛けつつ、素っ頓狂な声を上げる乙姫の体を両腕で思い切り抱いて、大きく息を吸った。今度は二十メートルほど後ろへ跳ぶ。もちろんその間視線は前方の『異質』へと注ぎ続けていた。

美琴(まずは乙姫ちゃんの安全を……ッ)

 数瞬辺りを見回すが、良策は思い浮かばない。結局一番安全なのは美琴の傍であった。このまま離すわけにはいかない。
 美琴は乙姫の体をぎゅっと抱きしめたまま眼前の『異質』を見据える。

美琴(三体……か?)

 それは学校の教科書でみた駆動鎧とは異なる、奇妙なフォルムをしていた。
 二本脚の物体は一言で表せば人間の骸骨だった。しかし黒を基調にした手足には光沢があり、手足の先端は鋭利に尖っているので、人によっては巨大な昆虫に見えるかもしれない。特に関節は人間のものから大きく逸脱していた。脚や腰は一般女性と同じくらいしかなく、大きさは二メートルを軽く超えるものの、一体その中にどう人間が収まっているか、本当に駆動鎧と言っていいのかすら怪しい存在である。
 そして特徴的なのは頭の後ろから生えた脊椎のような尻尾。束ねた長い髪にも見えるそれが、駆動鎧一体に付き二三本から、多いものでは五本生えている。白井でなくともアレが弱点だろうと当たりを付けるだろうが、あまりにも分かり易すぎるので不気味でもあった。

美琴「私に……何か用?」

 御坂美琴は一応まだ学園都市の人間である。普通に考えれば駆動鎧に襲われるいわれはない。といっても、もちろんそれは建前の話だが。

美琴(本当の狙いは私? それともアイツ?)

 それが真意だった。
 上条当麻。彼は確かに強い。
 単純なパラメータでは表せない何かを持っている。
 だが、それでも駆動鎧のような『普通の』兵器というのは上条当麻にとって弱点なのだ。
 右腕一本で異能に立ち向かい、世界の構造を塗り替えようとする巨悪を討ち滅ぼす力も持っている一方で、そこらの一般人が放つ銃弾一発でも死んでしまう。そういうジョーカー的な存在が上条当麻だ。
 だから美琴は駆動鎧の標的を知りたかった。

 御坂美琴が標的なら幸運≪ラッキー≫。たとえ逃げても駆動鎧は追ってくるだろう。
 上条当麻が標的なら不運≪アンラッキー≫。この場合美琴が全駆動鎧を駆逐するため追うことになる。

 もちろんのこと、美琴は差し違えても獲物を討ち滅ぼすだなんて今は思っていない。
 それは上条を悲しませるのだ。
 正直、美琴は上条があそこまで思い詰めていると思っていなかった。上条自身が幸せになれるなら、彼は喜んでくれると思った。でも、それは違ったらしい。
 もし上条が美琴の幸せを一番に考えているなら――――

美琴(私はあの馬鹿げたほどのお人好しのために、世界一幸せになる覚悟をしなければならないのかしらね……)

 複数の作り物の視線が美琴を捉える。
 観覧車と緑地を挟んだ石畳の広場。
 遊園地に似つかわしいツインテールルックの中学生と、世界の最先端を行く異形がそこで睨み合う。
 硬直状態が十秒を超え、あまりに緊迫した空気を感じ取って、乙姫は視えない状況に萎縮し美琴の腕の中で堅くなった。

乙姫「ひっ!?」





 その沈黙を破ったのは美琴でも駆動鎧でもなかった。
 突然遠くからけたたましいラッパ音が鳴る。
 チラホラと居た観客が一瞬身を竦めて音がした方を見やると、タイミングを合わせたかのように花火が打ち上がった。
 どうやらパレードの始まりの合図らしい。
 アトラクションがパレードに終了タイミングを合わせているらしく、広場は瞬く間に人でごった返した。
 ちっ、と小さく舌打ちをする美琴。
 これだけの人数を守り切ることなんて、いくら超能力者≪レベル5≫と言えど厳しい。
 猛獣よりも何をするか分からない相手が三体も居るのに、目の前を横切る親子連れはお面やら風船、猫耳なんかを身に纏い、一様に笑顔だった。その幸福な様は美琴を苛つかせる。

美琴(いや、むしろ好都合かしら)

 学園都市の力がいくら強いとは言え、外との関係を悪化させるのは都合が悪い。
 最重要事項としている能力開発を受けられるのはあくまで子供たちだけなのだ。今でさえ学園都市への反発は強く、子供たちを取り戻そうという動きがあるのに、あからさまな問題を起こせばこれまで通りの研究は進まないだろう。
 体面は取り繕わなければならない。
 美琴はチャンスとばかりに乙姫に囁く。

美琴「乙姫ちゃんいい? 今のうちにこの人混みにまぎれて――――」

 と、その言葉が途切れた。
 一つの真っ黒で昆虫みたいな駆動鎧が前に出て、ニヤリと確かに笑ったのだ。
 手に持っているのはただの短い警棒のようなもの。
 それを持つ腕を緩慢な動きで水平に持ち上げ、

美琴「……ッッ!!」

 ゾクッと、言いようのない不安が込み上げる。
 直感ではなく、直観。
 ソレが右手に持っていた棒の先から横一線に、四十メートル以上はある『直線』を美琴の目が捉えた。
 一見すると細い針金のようなそれは、先端に行くほど水が滴っている。
 水流の剣。それもレイピアのようなもの。学園都市の一般能力者にならそう見えるかもしれない。そして、もしその程度なら美琴の電撃で散らすことができるだろう。
 だが、美琴の直観は別のところにあった。
 空間移動≪テレポート≫能力。多重能力者。白井が言っていたことを思い出す。美琴はそれなりに空間移動≪テレポート≫の性質について明るかった。つまり――――
 思考がそこで途切れた。
 どこかの少女の頭に載っていたお面が一陣の風に飛ばされる。そしてそのお面は『直線』に軽く触れると、一切の抵抗も無く真っ二つになり、風にそよぎ続けた。

美琴「――――ッ」

 声を出すのも惜しいと思える刹那、通行人の合間を縫うようにしてとてつもない閃光と轟音が走った。緻密に制御された10億ボルトを超える電撃の槍が、人間の知覚を超える速さで飛ぶ。

美琴「!?」

 だが雷鳴は駆動鎧の左手に掻き消えた。
 上条と同じ能力かと一瞬思いかけたが違う。単純に何か能力を使ったのだろう。
 つまり、あの駆動鎧は少なくとも美琴の電撃に『耐える』程度の力を持っているということになる。いや、今はそんなことよりも――――

美琴(何か……何とかして止めないとッッ!!)

 二秒に満たない猶予が永遠に感じる。
 雷鳴を知覚し、今にもざわつこうかとする観客の動きがスローモーションに見える。

麻琴「あ、おねーちゃんだ」
美琴「……」

 その中に、今最も聞きたくない部類に入る声があった。
 美琴から遠く、駆動鎧に近い位置で、さっき会ったばかりの小さな女の子が、母親に手を引かれながらこちらに手を振ろうとしていた。

美琴(何で、ここにいるのよ!!)

 駆動鎧の腕が再び動き出す。
 目の前に居る百人以上の胴体を目がけ、『直線』が飛んでくる。
 一秒先の絶望が、美琴の脳裏にはっきり映し出された。

美琴「っっっああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」




 ズンッ!!!!
 地面から大きな地鳴りがした直後、とっさに屈んだ美琴と乙姫の頭上を『直線』が横切った。
 美琴は即座に前方を確認する。
 百人以上の人間は全員がばらばらと倒れていた。ただし『五体満足で死なずに』だ。
 倒れた原因は単純かつ異常。美琴の周囲の広場は、ほぼ全体が八十センチほど地盤沈下していたのだ。
 美琴の頬に幾筋かの汗が流れる。
 数瞬で地下の金属の位置を割り出し、バランス良く下方向に移動させる。それが美琴のやったことだった。
 説明するのは簡単だが、実際のところ机上の空論レベルのとんでもない手段であった。上手くいったのはたまたまに近い。もう一度やれと言われてもできないだろう。
 ほっとしたのもつかの間、ガギン!! と、直後後方で耳をつんざくような金属の擦れる音がする。

美琴「……はぁッ!? っざけんじゃ無いわよ!!」

 美琴のレーダーは後ろの状況を鮮明に伝えていた。
 さっきまで乗っていた観覧車のメインとなる五本の太い柱。それが横一線に切断されたらしい。『らしい』、というのはその切断線があまりに細く、レーダーでは確認できなかったからだ。
 その切断面はやや斜めらしく、観覧車は横滑りを起こし、徐々に地面に向け加速しようとする。

乙姫「ひあっっっ!!?」

 胸の中からそれを見て息をのむ乙姫は、直後さらに絶句する。

乙姫「あれ、止まっ……た?」
美琴「…………くはッッ」

 ぐにゃりと、まるで巨人が指で摘まむように中空に静止した観覧車。
 斜めとはいえ、数千トンの巨大建造物を一人の中学生が支えているだなんて、その場に居た誰一人思いもしないだろう。
 ただ当人だけはそのことにかまっていられる余裕も無かった。観覧車をその奥の広場に軟着陸させるため少しずつ降下させつつ、思考は次へと移る。

美琴(やっぱり、空間移動剣≪テレポートソード≫!?)

 美琴はようやく確信に至る。
 何メートルもある柱を抵抗無く切れる刃なんて、美琴にだって作り出せない。
 だが、美琴は最も『切れ味の鋭い能力』を知っていた。
 白井黒子。
 彼女が放つテレポートは、存在そのものに干渉する。紙のような面を転移すればダイヤモンドだって切れるのだ。
 あとは『絶えず何かを転送し続ける』という行為をし続ければ、世界で最も切れ味の良い剣の完成である。今あの駆動鎧は水流系と空間転移系の二種の混合能力を使っているのだろう。

美琴(……理屈では分かるけど、悪趣味すぎるでしょーが!)

 その行為はもちろん非効率極まりない。
 何故そんなものを作ったのかと言えば、おそらく『ただ作りたかったから』に違いないだろう。学園都市と外部との軋轢なんて関係ない。純粋に楽しんでいるに違いなかった。
 その思考を察したのか、駆動鎧達がゲタゲタゲタと奇っ怪な音を鳴らしつつ笑い出す。

美琴「アガッッ!?」

 直後、美琴の脳に備え付けていた防御障壁に負荷が掛かり、頭に殴られたような衝撃が走る。
 美琴にはこの感覚に覚えがあった。
 食蜂操祈。
 彼女の精神系攻撃を受けたときと同じ衝撃だ。

美琴(……いや。あの馬鹿女の方に比べたらまだましか)

 突然の地面陥没と観覧車の支柱切断で混乱を極めた観客達が散り散りに逃げ出す中、美琴は前だけ見据えて乙姫に囁く。

美琴「今のうちに、皆と一緒に逃げて」
乙姫「で、でも……」
美琴「いいから!!」
乙姫「ッ」

 乙姫は、そっと美琴の顔を窺い見て、危うく声を上げそうになった。
 こんな窮した状況だというのに、美琴は薄く笑みを浮かべていたのだ。
 そう、これは、

美琴(……これは、幸運≪ラッキー≫)





 美琴は確かに狙われている。
 つまり今のところ上条に害が及ぶことは無い。
 でたらめな基準だが、強固なパーソナルリアリティを持つ彼女はそう納得する。

乙姫「……わかった。無茶したらダメだからね」

 何も見えずとも、確かに悟った乙姫が念を押した。

美琴「うん。ありがと」

 素直に聞いてくれた乙姫の頭を軽く撫でてやったあと、すぐに彼女の温もりが懐から抜けていく。
 奇っ怪な出来事が立て続けに起きたおかげで、混乱はもう少しで遊園地全体に伝染するところだった。

美琴「ふん、まあ見えない不安に振り回されて終焉を迎えるよりなら、明確な敵となって前に立ちはだかられた方がよっぽど分かり易いわよね」

 人の疎らになった広場で誰に言うでもなく美琴は呟く。
 駆動鎧が今度ははっきりと剣の構えを取ると、再び先端から直線を放出し始めた。

美琴「させるか!!」

 先程よりも速く、前方の敵を破壊するため美琴の体が宙を舞った。


 ◆




 上条は実家から少し離れた場所でタクシーを降りるとできるだけ足音を鳴らさないようにして走った。
 強さを増し始めた雪は容赦なくその視界を阻むが、そんなものを気にしている余裕は無い。先程電話で聞いた文津の焦った声が上条を急かした。
 実家から一区画離れた場所まで来ると、家に出る路地の中で一番細い道を選び進む。
 文津の電話番号を知らないので、詳細を聞くことはできない。そして尋ねる余裕も無い。そんなこんなで、敵が何者かさえ分からない状況なので慎重にならざるを得ないのだ。
 路地を抜ける一歩手前で上条は家の様子をのぞき見る。

当麻「え?」

 そこには学園都市を一人で攻略するような特A級の魔術師が居るわけでもなく、物理現象を蹂躙するベクトル使いが居るわけでもなかった。
 ただ、ごく普通の、三十人から四十人程度の人間がたむろしているだけだった。老若男女。主婦に見えるものからサラリーマン風の男まで幅広いが、とにかく普通の人間だ。
 なのに、だからこそ、奇抜な状況にある程度慣れている上条が、押し殺すようにして声を上げた。

当麻「なんだ……これ」

 実家は散々だった。
 ガラスというガラスは割られ、扉は外され、壁には荒々しい文字で罵倒が書き連ねられていた。
 一体誰がそんなことをしたのか。という疑問は沸かなかった。たむろしている普通と言って差し支えない人々が、だけれども鉈や木刀、バタフライナイフにハンマーやバットなど、普通とは言えない類いの物を持っていたからだ。
 更にその様相は、完全に普通から逸脱している。
 上条の耳に絶叫が奔流となって襲いかかる。

 上条当麻を探せ!!
 上条当麻を探せ!!
 忌み子を探せ!!
 呪われた悪魔の子を探せ!!
 引きずり出して殺せ!!
 惨たらしく殺せ!!
 はらわたを裂いて殺せ!!
 俺たちと同じ苦しみを味合わせろ!!
 私たち以上の痛みを与えてやれ!!

 若者が、年寄りが、男が、女が、幾重にもなった憎悪の言葉をこだまさせる。

当麻「……あ、れ?」

 上条当麻。その、神をも消し去る力を持った男は、だけどそのちっぽけな叫びに尻餅をついた。

当麻「な……んで」

 自分でも何が起こったのか分からない。ただ何か異変が起きていた。
 ヘドロのようなどす黒い何かが腹の底からせり上がってくる。
 今にも吐きそうだ。
 全身が小刻みに震え、鼓動が早まり、焦燥感に体を掻き毟りたくなる。

当麻「やめ……やめろ……ッッ」

 いつしか耳をふさいでいた。
 それでも呪詛が頭の中で反響する。今聞いている音が、外から来るものか内から湧き出た記憶なのか分からない。
 こんなのはいつもの上条ではなかった。
 死と隣り合わせであっても、どんな逆境でも、信念を貫くために恐怖やストレスを握りつぶしてきた。握りつぶすことのできる希有なヒーローだった。
 なのに、今は何をするためここに来たのかが思い出せない。何故ここに居なければならないのかが分からない。
 思考は加速するのに、考えがまとまらない。信念が消失している。

当麻(……あれ、こんなこと前にも)

 頭の中をシェイクされたような酷い気分の中で、どこか冷静な部分が分析する。
 強烈なデジャヴとしかいえないその感覚が、徐々に上条を支配した。

当麻「俺……じゃない。僕の……せいじゃない。だって……だって僕は何もしてない!!」

 自分でも不可解な台詞を吐き出す。
 混乱はピークを極めた。

??「いねぇぞ!!」
??「じゃあ燃やしちまえ!!」
当麻「ッ!?」 

 誰かの怒声に上条は一瞬我に返る。
 いつのまにか数人の手にはたいまつや火炎瓶が握られていた。
 おおよそ平時には手にしない道具なせいか、呆気にとられていた上条には作り物に見えた。

 ――――ひょっとしたらまだ家の中に誰か居るかもしれない

当麻「あっ」





 ようやくそれに気づいた上条が、叫びそうになって、だけどそれを飲み込んだ。
 彼らに気づかれたくなかった。正面から対峙したら、自分が壊れてしまう気がした。

当麻「……めろ……やめろ」

 ゴーストのように纏わり付く何者かの意識が、今の上条と激しく衝突する。
 気づかれたくない――――でも行かなきゃならない。
 何で僕ばかりこんな目に――――怖いけど、踏み出さなきゃならない。
 何で、何で行くんだよ――――だって……、だってあそこには美琴との思い出も残ってるんだ!!


 ――――もう二度と作れない思い出が


当麻「やめろっつってんだろ!!」

 たいまつは一瞬手前でとまり、そして上条を照らした。
 朱い光が陰影を強め、まるで彼らは鬼に見えた。

??「殺せ―!!!」

 次の瞬間、彼らは本物の鬼になった。
 上条はわけも分からず逃げ出す。
 大丈夫、これで引きつけられると信じて。

当麻「ああああー」

 長らく、数年レベルで忘れていたかのような恐怖が、地獄の底より沸き出でる。
 腕を掴まれそうになり、服を掴まれ、女性を殴り、ふりほどき、ひき殺そうとする車を避け、狭い路地へ逃げ込んだ。
 声にならない声を上げているせいでいつまで経っても撒けないんだと気づいたのは相当後になってからだった。

当麻「…………」

 狭い路地に身をかがめ、ガタガタ震える上条。
 そこにはヒーローの面影はない。
 今思うと鬼は徐々に増えていっていた気がした。
 パトカーの音すら、自分を探しているように聞こえた。
 何が起きているのかもこれからどうなるのかも分からない。

当麻「美琴……」

 別れを告げた相手の名を呟く
 それだけで何かが救われた気がした

当麻「馬鹿野郎……」

 今は猛烈に彼女に会いたかった。抱きしめたかった。
 全力で自分の存在を認めてくれる彼女。
 しかし同時に「今の上条」は否定する。
 自分は彼らにどんな仕打ちをしたのか。どんな仕打ちをしたら人を鬼に変えられるのか。想像なんてしたくない。
 美琴をあんな風にさせてはいけないと思った。
 美琴があんな風になってほしくないと願った。
 それは、本当に不幸なことだと思うから。

 上条はしんしんと積もりゆく雪を横目に眺めつつ、自分の体を掻き抱くようにして目を閉じた。








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