とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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匿名ユーザー

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学園都市――。


美琴「喉乾いたわね……」

美琴は、とある食堂に入る――。
食堂、と言っても実際は内装が洋風の洒落た店内だ。メニューも、女の子向けばかりの軽食が揃っており、学園都市の女子学生たちに人気だった。

美琴「黒子も初春さんもジャッジメントの仕事だし、佐天さんは学校で補習。暇なのは私だけか……」

美琴はカウンターに向かい、レモンティーとサンドイッチを注文する。グラスの乗ったお盆を受け取ると、彼女は窓際の席に座った。

美琴「何よみんなして。暗い顔しちゃって…」

見渡した所、店内にはある程度女子学生たちが来客していたが、みな、あまり明るい顔をしているとも言えず、どちらかと言うと暗い表情を浮かべて会話をしていた。

美琴「以前4人で来たときは、店内は黄色い声で溢れかえってたって言うのに…。本当に今時の女子学生っ?って思うほどテンション暗いわね……。まあ、仕方ないけど…」
美琴「長居したってつまんないわね。帰ろうっと」

席を立ち上がり、グラスをカウンターに返そうとしたところ、美琴は誰かと衝突した。
相手が持っていたお盆が床に落ちる。

美琴「あ、ごめんなさい!」
女の子「大丈夫大丈夫。もう食べ終わったところだから」
美琴「そう、でも手伝うわ」

美琴は床に落ちた紙くずを拾い、ゴミ箱に捨てる。

女の子「ありがとう。いい人ね。みんなが疑心暗鬼になってる今では、ちょっとした気遣いが胸に響くわ」
美琴「どういたしまして」

ニコッと笑顔を見せる美琴。女の子も笑顔で返した。

女の子「あ」
美琴「どうしたの?」
女の子「席にケータイ忘れちゃったわ」
美琴「そう。じゃあ、私はもう帰るから」
女の子「うん、またね。元気でね」
美琴「貴女もね」

女の子は忘れた携帯電話を取りに行くため、席に戻って行った。
美琴はそれを見届けると、食堂を後にした。

美琴「さてと、どこ行こうかな…」




ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!





――直後、激しい音が爆ぜ、突風が美琴を襲った。
視界が揺れに揺れ、身体が浮遊するような感覚を味わった美琴は、誰かの叫び声が自分の耳を突き抜けてくる中、鈍い音と共にアスファルトの地面に叩き付けられた。

美琴「ぐっ……!!」

何が起きたのかも理解出来ず、耳に霞がかかったような状況で、美琴は何とか身体を動かしてみる。
どうやら五体満足であることは確かなようだ。ところどころ、肌から出血してはいたが。

美琴「い……たい……」
美琴「あ………」

口中に血の味を噛み締めながら美琴がゆっくりと目を開けると、そこには数分前とは全く異なる光景が映っていた。

美琴「何よこれ…」

急いで辺りに視線を巡らせてみる。
煙が周囲を覆い、良く分からない臭いが鼻をつんざく。
明瞭とも言いがたい光景の中に浮かび上がってきたのは、血を出した何人もの人々とその血を浴びた地面だった。

「痛い痛い」
「いてぇぇ……チクショウ…」
「誰か助けて……」

幾つもの悲痛な呻き声を聞き、何とか身体が動くことを確かめた美琴は、側にあったポールに手を預け、よろよろと立ち上がった。

美琴「…………………」

つい2分前まで美琴がいた食堂の入り口からは黒い煙が吹き出ており、店内の状況は壊滅的と言えた。

美琴「………店が……無くなってる……」

阿鼻叫喚の地獄の中、美琴は茫然とその光景を眺めていた――。



ジャッジメント第177支部――。

美琴「っ…」
黒子「我慢して下さいましお姉さま。かすり傷で済んだのが不幸中の幸いでしたわ」

哀しそうな表情を見せる黒子に腕を見せ、美琴は応急処置を受ける。

初春「……御坂さんが無事で、本当に良かったです…グスッ」
美琴「泣かないでよ初春さん…。私はもう大丈夫だから、ね…」
初春「はい……」

支部には、黒子と初春がおり、美琴負傷の報を聞くと、佐天も馳せ参じて来た。

佐天「あ、御坂さん、ニュースやってますよ!」
美琴「え?」

4人は部屋に備え付けられたテレビに目を向ける。

『今日午後4時13分頃、喫茶店『ファニーランド』で発生した爆発事件についての続報です。
アンチスキルによると、現場は学区内に住む能力者たちの女子学生たちの憩いの場所となっており、死者はいなかったものの、負傷者は少なくとも10人は越す模様です。
現場で採取された形跡から見るに、アンチスキルはこの爆発は意図的に起こされたものとして捜査を進めており、同部隊隊長は、この件について『能力者たちが多数集まる「ファニーランド」を狙った爆発テロとして、警戒レベルを上げると……』

佐天「…また、テロですね」
黒子「今回も能力者が狙われてますの……」
初春「これで、今月に入って5件目…。しかも被害者の中には無能力者もいることから、無差別テロであるのは明らか…。もう嫌です、こんなの……」

佐天と黒子と初春が、元気の無い声で話す。

美琴「やっぱり…本気で今、学園都市ってやばい状況にあるのね…。こんなんじゃ、うかうか外出も出来ないわ……」

美琴は握り締めた手を見つめた。

美琴「……………………」

そして彼女は、先程自分が巻き込まれた爆発現場の様子を思い出す。

美琴「(私……あの時、何も出来なかった……。大勢の人たちが苦しみ、死にそうだったのに……)」

彼女は悔しそうに顔を歪める。

美琴「(何がレベル5よ……何が『超電磁砲(レールガン)』よ。傷ついた人も助けられない超能力者に何の意味があるの!?)」

美琴の葛藤に気付いていないのか、黒子たち3人は会話を続ける。

黒子「ネット上では、『学園都市崩壊のXデーはもう間近』などとも噂されてますの…」
初春「何で……こんなことに……私たちはただ、普通に生活してただけなのに……」
黒子「学園都市の外では、私たちを『普通』ではない、『化け物』と称している方々や団体が増え始めてますの。彼らによれば、私たちは脅威であり、排除すべき対象とのことですわ」
佐天「確か、『神に背く者には鉄槌を』って言って、色んな国の色んな秘密結社の工作員が学園都市に潜り込んでる、って噂も聞きます。もしかしたら、一連の爆発事件はその人たちによるものなんじゃ…」
黒子「可能性は充分有り得ますわね。どちらにしろ、我々『風紀委員(ジャッジメント)』や『警備員(アンチスキル)』が全力で対策を行っているので、すぐに事態は沈静化しますわ」
美琴「なら、いいけどね……」
黒子佐天初春「…………………」

美琴の言葉を機に、4人は一斉に黙りこくった。

初春「ところで、固法先輩遅いですね……。確かお昼頃から、アンチスキルとの合同捜査に向かっていたはずですけど…」
黒子「そう言えばそうですわね。連絡もありませんし……」

Prrrrrrrrrrr.....

その時、支部の電話が唐突に鳴り始めた。



佐天「あ、電話だ」
黒子「固法先輩ですわきっと。どれどれ」

ガチャッ

黒子「はい、もしもし。こちらジャッジメント第177支部の白井と申し……」
黒子「………えっ!?」
黒子「…そ、それは本当ですの??」

突然、黒子の表情が一変した。

美琴佐天初春「???」

黒子「………そんな…」
黒子「………何で…」

幽霊でも見たような口調で、黒子は言葉を搾り出す。

美琴「何? どうしたの黒子?」

初春「白井さん?」

佐天「何かあったんですか?」

美琴たちが心配して声を掛ける。

黒子「分かりましたわ……。これから向かいますの…」

トーンを低くし、黒子は震える手で電話を切った。

美琴「ちょっと黒子? 何があったのか言いなさいよ」

顔面が蒼白になった黒子の顔を見、美琴は異常な空気を察知する。
そして、黒子は静かに、一言だけ呟いた。

黒子「……固法先輩が……」

美琴「?」





黒子「…死にましたの……」





美琴佐天初春「……………え?」

衝撃的な事実が、4人を襲った。
そして、彼女たちはこの時知る由もなかった。これが、地獄の日々の始まりを告げる合図だったことに――。

第7学区・とある病院――。

美琴「先生!」
カエル医者「やあ君たちか」
黒子「固法先輩は? どこですの!?」
初春「死んだなんて嘘ですよね!?」
佐天「だってニュースじゃ死者はいないって…」

懇願するような表情を浮かべ、美琴たちは固法の検死を担当したカエル顔の医者に詰め寄っていた。

カエル医者「残念ながら……あのニュースの報道後に息を……」

カエル顔の医者がまるで自分の身内が死んだように静かに答える。

黒子佐天初春「そんな……!!」
初春「…先輩……固法先輩………やだぁ……グスッ…ヒグッ…」
佐天「初春、大丈夫…?」
初春「だって……何で……急に…」
初春「わあああああああああああああああああああん」

耐え切れなくなったのか、初春が泣き始めた。

佐天「初春……グスッ…泣いちゃ、駄目だよ……グスッ」

佐天も初春に影響されたのか声に嗚咽が混じる。

黒子「……どうして…こんなことに…」
カエル医者「……………」
美琴「先生…」
蛙医者「ん?」
美琴「ならせめて……固法先輩の遺体と……会わせてください…」
黒子「お姉さま…」
美琴「最後に、最後だけでも……今までお世話になったお礼を言っておきたいんです……」

美琴はカエル顔の医者を見据えて頼み込む。

黒子「そうですわ……。私も同じです。先生、お願いしますわ」
佐天「あたしからもお願いします!」
佐天「ね、初春も、そうでしょ?」
初春「ヒグッ……ヒグヒグッ…はい…グスッ…お願い…じまず…」

4人は目に涙を浮かべてカエル医者に懇願する。
無言でそれを見ていたカエル医者だったが、やがて彼は口を開いた。

カエル医者「……それは無理なんだよ……」
美琴黒子佐天初春「何で!!??」

カエル顔の医者の言葉に美琴たちは抗議にも似た声を上げた。

カエル医者「僕としても会わせてあげたいんだがね?」
美琴「じゃあ、どうして!!」
カエル医者「“物理的に”、不可能なんだよ…」
黒子「物理的?」

一言聞いただけでは、カエル顔の医者が何を言っているのか分からなかった。
彼も美琴たちの表情を見てそれを汲み取ったのか、ゆっくりと言葉を付け足した。

カエル医者「ああ……何故なら彼女は…」


カエル医者「爆死したからね」





美琴黒子佐天初春「え………」

美琴たちの脳内が真っ白になった。



ジャッジメント第177支部――。

初春「グスッ…ヒグッ…ヒッグヒッグ…」
美琴「……………」
黒子「……………」
佐天「……………」

静寂な室内に、初春の嗚咽だけがこだまする。
黒子は手にした固法の遺品である歪んだ眼鏡を見つめていた。

佐天「……まさか、固法先輩も爆発現場にいたなんて…」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

カエル医者「固法くんは、あの爆発に巻き込まれて死んだんだ」
美琴「そんな……!!」
カエル顔の医者は美琴たちから視線を外し、事の顛末を打ち明けた。
カエル医者「たまたま、テログループの手掛かりを求めてあの喫茶店にいたとの話みたいでね?」
美琴「じゃあ…私と同時刻に店内にいたんだ」
カエル医者「その可能性が高いね?」
美琴「………………何で…」

言葉を失くす美琴。それを横目で窺い、黒子が訊ねた。

黒子「では、固法先輩の遺体は……」
カエル医者「無い…と言えば、嘘になるね?」
黒子「え?」
カエル医者「正確にはある。だが、“ある”だけだ」
佐天「先生、それってどう言う……」

初めは、カエル顔の医者の使う日本語がおかしいのかと思った。
だが、次に彼が発した言葉を聞き、美琴たちは衝撃を受けた。



カエル医者「君たちが見るもんじゃない」



美琴黒子佐天初春「!!!!!!!???????」
カエル医者「これは現場に残ってた彼女のものだ。君たちが持っておくんだ。いいね?」

そう言ってカエル顔の医者は懐からある物を取り出し、黒子に渡した。

黒子「これは……固法先輩の眼鏡…」
初春「固法先輩……」ガクッ

急に、初春がその場に崩れ落ちた。

佐天「初春! どうしたの!? 初春!!」

佐天が初春の身体をゆする。

カエル医者「ショックで気絶したようだね? ちょっと病院のベッドを借りるといい」
黒子「……ではお言葉に甘えさせてもらいますわ」
佐天「……じゃ、あたしが運びます。よいしょ……」

佐天が初春をおぶる。
美琴はその光景を見て、口中に一言呟いていた。

美琴「(固法……先輩……)」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

美琴「私が……あの時、店内の固法先輩に気付いていれば、あるいは…」

悔しそうに、美琴が話す。

黒子「お姉さま、もう過ぎたことです。今更仮定の話をしても仕方がありませんわ」
佐天「白井さん……」
美琴「黒子…過ぎたことだなんてよく言えるわね」
黒子「私だって…グズッ……本当は…ヒグッ…どうしようも…グスッ」

黒子の言葉に嗚咽が混じり始めた。

御坂「黒子……」
佐天「やめてよ白井さんまで…。みんなして、泣かないでよ…。初春もさあ、いい加減泣き止んで……」
初春「だって…グスッ…だってだって…ヒグッ」
佐天「何言ってるの初春……グスッ…あれ?…何でだろ……あたしまで…グスッ」

部屋に3人分の嗚咽が響く。

美琴「何よ、佐天さんまで……」
佐天「そういう御坂さんだって……グジュッ」
美琴「え?あれ? …何でだろ?」

美琴は自分の目元に触れた。小さな水滴が指についた。

美琴「う……う……」
黒子「おねえ……さま…まで…グスッ…」
佐天「……みんな…ヒグッ…泣き虫…なんですね…グスッ」
初春「……御坂…さん…グスッ」

美琴黒子佐天初春「わああああああああああああああああああああん」

限界だった。彼女たちも所詮は普通の女子中学生でしかなく、感情を制御する能力までは持ち合わせていなかったのだ。
顔を見合い、4人は互いを慰めるように寄り添って泣きじゃくっていた。



翌日・ジャッジメント第177支部――。

初春「……………」ウツラウツラ

部屋の一角にあるスチールデスク。そこで初春は、電源が点いたままのパソコンを前にして座っていた。
頭がリズムを刻むように上下に揺れる。

初春「はっ!」
初春「……ダメダメ」ブンブン

目下、初春は眠気と格闘していた。

初春「……………」ウツラウツラ

ピトッ

初春「ひゃう!」

初春の目が大きく開かれる。どうやら冷たい何かを頬っぺたに押し付けられたようだった。

初春「あ、佐天さん…」
佐天「大丈夫? ちょっと休んだら?」

初春が顔を向けると、缶コーヒーを持った佐天がそこに立っていた。
佐天は初春に缶コーヒーを渡す。

初春「ありがとうございます。でも、今は休んでる暇は無いですから……」

ゴクゴクと初春は行儀よく缶をあおる。

佐天「そうだよね……」
佐天「白井さんは大丈夫?」

佐天は後ろに顔を向けた。黒子がデスクに座りパソコンのキーボートを叩いていた。

黒子「当たり前です。徹夜など、ジャッジメントにとって日常茶飯事ですわ」
黒子「しかし眠いことも確か……ふぁーぁ…」
佐天「白井さんも缶コーヒー、飲みます?」
黒子「ではお言葉に甘えて」
佐天「はい」

黒子に缶コーヒーを渡す佐天。

佐天「無理は駄目ですよ」
黒子「ありがとうございます」
佐天「それで、どうです? 何か新しいこと見つかりました?」
黒子「見つかるも何も……所詮はジャッジメントに回ってくる情報なんて限られてますの」
黒子「一連のテロ騒動に関する重要情報はアンチスキルの方で一元化して管理されてますし、私たちが触れられる情報は僅か」
黒子「一応、管轄区内として、昨日の『ファニーランド』での捜査は我々に任されてる部分は大きいですが」
佐天「で、テログループの尻尾とか掴めました?」
黒子「ダメですわ。せいぜい分かるのは爆発現場で怪我を負った学生たちの直前の行動や友人関係のみ。しかし、やはり彼女たちから犯人の足跡を辿るのは無理ですわね」
佐天「そっかー。じゃあ初春は?」

初春「zzzzz......」
佐天「あらら、寝ちゃってる」
黒子「初春も徹夜でしたからね」
佐天「みんな頑張ってるんですね」
黒子「…殉職した固法先輩を殺した犯人を見つけるまでは、絶対諦めませんの。それは恐らく初春も同じはず」
佐天「悔しいですよね……」
黒子「ええ、とても……」

一時、静寂が漂った。

『新しい情報が入ってきました』

その時、テレビからニュースを報せるアナウンサーの声が聞こてきえた。

佐天黒子「!!」

『第7学区の学生2名が行方不明となった事件について、捜査を進めていたアンチスキルは事件発生から4日後の今日、更なる情報を求めて学生2名の顔写真を公開しました。2日前の朝、『友達が帰らない』という通報を受け、アンチスキルが捜査を開始していましたが……』

佐天「今度は誘拐事件ですか…っていうか、最近誘拐事件もかなりの頻度で増えてますよね……」
佐天「何かもう学園都市、世紀末状態じゃないですか……」

黒子「上から小耳に挟んだ話ですが、現在、学園都市には各国の工作員だけでなく、特殊部隊、秘密結社、新興宗教団体などが紛れ込んでまるで戦国時代の様相を示しているそうです。噂では、『内戦勃発』も間近だとか…」
佐天「あたしたちは、どうなるんでしょうか?…正直、恐くて仕方ありません」
黒子「大丈夫ですわ。学園都市がそう易々と崩壊することは有り得ません。所詮、他国の工作員だろうが、軍隊だろうが、こちらには能力者が五万といるのですから」
佐天「……なら、いいんですけど」



とある公園――。

美琴「………まただ。またあいつが来ない」

自動販売機の側のベンチに腰掛け、缶ジュースを飲む美琴。

美琴「ここ1週間、あいつの顔全然見ないわね。もしかして避けられてんのかしら?」

美琴は空を仰ぎ見、溜息を吐き出す。

美琴「いい天気ねー。こうしてると、平和なんだけどねー」

顔を正面に戻し、続きを飲もうとした美琴の目にある人物の姿が映った。

美琴「あれは……!!」




インデックス「………とうま……」トボトボ

公園の一角を、彼女は暗い表情のまま歩いていた。頭の中に10万3000冊の魔導書を記憶するイギリス清教会の修道女――インデックスだった。

美琴「ちょっとあんた!!」

と、突然インデックスは声を掛けられた。

インデックス「え?」
インデックス「うわ、短髪!」

急に美琴が現れたためか、お化けを目撃したように驚くインデックス。

美琴「うわ、って何ようわって」
インデックス「………」ダッ

何故かインデックスが、慌てたように逃げ出そうとする。

美琴「あ、こら逃げるな!」

ガシッ

咄嗟に、インデックスの腕を掴む美琴。

インデックス「は、離すんだよ短髪」

ニャ~

インデックスの胸の中の三毛猫、スフィンクスが鳴いた。

美琴「ちょっとあんたに聞きたいことがあるのよ」
インデックス「知らないんだよ知らないんだよ。とうまは何も関わってないんだよ」
美琴「はあ?」
インデックス「はっ!」

しまった、と言うように口を両手で塞ぐインデックス。

美琴「あんた、あいつ…上条当麻がどこにいるか知らない? 近頃見かけないんだけど」
インデックス「私は何も答えちゃいけないんだよ」
美琴「何言ってんの?」

必死に何やら弁解するインデックスに対し、美琴は怪訝な顔をする。

ニャ~

インデックス「わっ、駄目だよスフィンクス。黙ってるんだよ!」

ニャ~

インデックス「じゃ、じゃあ私はこれで行くから!」
美琴「え、ちょっと待ちなさいよ」
インデックス「短髪も気をつけるんだよ」
美琴「え?」

それだけ残すと、インデックスは走り去っていった。

美琴「あ、逃げた……」
美琴「もう、逃げ足速いわね…」

美琴は呆然と彼女の姿を見送る。



夕方・裏通り――。

泡浮「随分遅くなってしまいましたわね」
湾内「早く寮へ戻りませんと」

夕日が落ち始めた頃、常盤台中学に通う2人のお嬢さま――泡浮と湾内は寮への帰路に着いていた。

泡浮「にしても、本当に学園都市はどうなってしまうのかしら?」
湾内「恐いですわね」

不安を口にする彼女たち。

ズッズウウウウウウウン!!!!!

その時、遠くの方から何かが爆発する音が聞こえてきた。

湾内「今のは……」
泡浮「とても遠くに感じられましたが、またしてもどこかで事件かテロが起こったのでは……」

2人は顔を見合わせると無言になる。

湾内「………………」
泡浮「………………」
湾内「…急ぎましょう」
泡浮「ええ」

小走りになる2人。そう広くもない道を彼女たちは2人して駆ける。
辺りに人はおらず、先程の爆発もあってか、彼女たちの焦燥感は増しつつあった。

泡浮湾内「!!??」

急に立ち止まる2人。

泡浮「…あ、あれは…?」
湾内「……何でしょう? 嫌な予感がします。迂回した方が良さそうでは?」

2人の視線の先に、夕日を背にして立っている1人の男がいる。
ポケットに手を突っ込んだその男の顔は逆光になっていて判然としないが、どうやら湾内と泡浮の2人をじっくり見つめているように見えた。

泡浮湾内「……………」ゾクッ

2人の脳裏に、最近頻発中の行方不明事件が蘇る。
視線をゆっくりと交わした2人は踵を返し、急いで別の路地へ逃げ込んだ。

泡浮「ハァハァハァ……」
湾内「ハァハァハァ……」
泡浮湾内「!!!!!」

また立ち止まる2人。
彼女たちが恐怖の視線を注いだその先には、先程とはまた別だが1人の男が立っていた。
その男の背後の空は既に暗くなっていて、顔は判然としない。

泡浮湾内「………っ」

寄り添った2人が来た道を引き返そうと後ろを振り向いたとき、彼女たちの目の前に、また男が1人立っていた。

泡浮湾内「!!!!」

恐らくは、先程の通りで待ち伏せしていた男だ。

泡浮「いや……」
湾内「た、助けてください……」

泡浮と湾内は弱々しく言葉を搾り出す。
しかし、2人の男たちは彼女たちを挟み撃ちにするように徐々に距離を縮めてくる。

泡浮「通報……しますわよ!」

携帯電話を取り出す泡浮。
後ろから迫ってきた男が泡浮の携帯電話を奪おうと触れた。

泡浮「やめて!!」

咄嗟に泡浮は手を引っ込める。

湾内「来ないで……」

男たちとの距離は既に半径2メートル以内。
泡浮と湾内は前から迫ってきた男に視線を向けた。

男の口元が、不気味に歪んだ――。







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