(無題)5
(無題)4 | の続編です。 |
~行間とあらすじ~
20XX年、世界は核の炎に包まれた!
海は枯れ、地は裂け……
というのは冗談で。
青髪&土御門ペアにそそのかされて御坂さんをデートに誘う上条さん、
上条さんにデートに誘われてデレデレしまくりな御坂さん、
とりまきの友人達は、パフェを食べたり、変態行為に走ったり、プロレスラーに変身したりと大忙し!
果たして御坂さんは無事デートへと辿り着けるのか!?
雪崩式ノーザンライトボムを浴びた上条さんは立ち上がれるのか!?
そして夜の学園都市を駆け抜ける白い影の正体とは!?
一体どうなってしまうのか!?
「いったいぜんたいとうまはどこにいるんだよ!もう我慢の限界かも!」
俺は敗北を喫した。
パワー、テクニック、パフォーマンス、どれをとっても超一級品。
青髪は強かった、強過ぎた。
とどめの雪崩式ノーザンライトボムを浴び、俺はなす術もなくマット、いや、アスファルトに沈んだ。
「だいじょうぶ?あ、たんこぶになってる……」
ぺしゃんこに踏み潰されたカエルのようにアスファルトに倒れ伏せていると、
御坂が駆け寄ってくれ、いたわるように頭を撫でてくれた。
しかも、なんとなんと膝枕のおまけつきである。
俺は、爆発物処理班のように、恐る恐る御坂の太ももに頭部を委ねた。
瞬間、
(こ、これはっ……!なんという柔らかさっ!肌触り!甘美な香りっ!御坂……柔軟剤使ったのか!?)
一見すると肉感の少ない細身の太ももだが、その質感は上質な羽毛布団を思わせる柔らかさだった。
頭部を包み込む優しさは、先程の戦いで受けたダメージをじわじわと融解していく。
(ああ……しばらくこのままでいよう……)
どぎどぎまぎまぎしながらも、しばし御坂の膝枕を堪能する。
一方の御坂はと言うと、友人に囃し立てられて、
『うがー!』
と謎の雄叫びをあげながら、座ったままヘドバンしまくっていた。
しかしその振動ですら、今では揺さぶられるゆりかごを思わせる心地よさだ。
その時である。
「……ナニがドウなったらコレがソウなるん?なぁカミやん。ボクにも教えてくれへん?」
またしてもマントルデスボイスが轟き、只ならぬ殺気を感じた。
御坂の電撃とタメを張れる程の緊張と衝撃が全身を駆け抜け、反射的に飛び起きる。
油が切れたロボットのようにぎちぎちとギコチナク振り向き、恐怖におののきながら答えた。
「……な、なんのことでせう?」
「……第2ラウンド、いこか?」
「まーた女の子誑かしてるかと思うたら、今度は御坂さんとイチャコライチャコラしやがって!」
「ごはッ!てめ、ネックハンギングツリーはマジで洒落になんねえって!ってか別にイチャコラしてねぇし!」
「やかましい!あんたら誰がどう見たかて恋人同士やろがい!」
再び始まった当麻VS友人のデスマッチは、果ての見えない泥仕合といった様相を呈していた。
この醜く愚かな戦いに、私はただただ嘆息を漏らすことしか出来ないでいた。
ここまで続くと正直勝手にやってろって感じだが、話題の中心が私なのだから仕様がないし、たちが悪い。
まあ、別にいちゃいちゃしていたつもりは無いし、こんな往来でいちゃいちゃするつもりも無い、出来るハズも無い。
いっそのこと開き直って、
「好きな人といちゃいちゃして何が悪い!」
と、大声で宣言してやろうかとも思ったが、そんなことをする位なら、
旧式のスク水姿を着用して、三回回ってワンと鳴いた方がよっぽどマシってもんだ。
私にとっては当麻と会話を交わすのですらやっとなのに、告白するなど夢のまた夢。
もしそんな展開になろうものなら、私の顔面はヤスール火山の様に火を噴いて大爆発してしまうだろう。
(でも、ま、いつかは……ね。)
心の中で呟く。
今は羞恥と恐怖の闇に支配されている心も、いつかは闇が晴れ、決心もつくだろう。
そして、来るべきものは放っておいてもいつか来る。
来た時にどーんと受けて立てばそれでいいんだ。
私は、来るべき決戦についての決意を胸に秘め、姿勢を正して前を見据えた。
しかし、私が決意を新たにして僅か5秒後。
当麻は、私の胸に秘めた決意や希望を無慈悲に抉りとる、あまりにも残酷な一言を放った。
「だから別に御坂のことなんて好きでもねえし!挨拶代わりに殺されかける方の身にもなってみろって!マジでありえねぇから!」
友人に押さえつけられた当麻は、唸る様な声で言い放った。
それは場を逃れる為の苦しい遁辞なのかもしれない。
しかし、恐らく今の言葉が当麻の本心なのだろう。
その事実がどれだけ私を苦しめ、そして傷つけるかを、当麻は知る由もない。
私は、当麻の言葉を頭の中で何度も反芻する。
『別に御坂のことなんて好きでもない』
『挨拶代わりに殺されかける方の身にもなってみろ』
『マジでありえねぇ』
こころが、音を立ててひび割れ、崩れていく。
今まで私が築き上げてきた、
『築き上げてきたと思っていた』
ものは、脆くも瓦解していた。
呼応するように、無自覚に瞳から涙がこぼれ落ち、呼吸が、拍動が、脳内が、精神が、かき乱される。
(いや……やめて!)
『現実』を認めようとしない私のこころは、必死に抗おうとする。
しかし、それを許さない【現実】が、私のこころに容赦なく牙を剥く。
『別に御坂のことなんて好きでもない』
(私は……当麻を、アナタを愛している!)
【アナタはそう思っていても、アナタはそうは思われていないのよ】
『挨拶代わりに殺されかける方の身にもなってみろ』
(ゴメン。そんなつもりじゃ……当麻の前だとどうしても恥ずかしくて……)
【『恥ずかしかったから』で殺人未遂って、ほんっと迷惑な話よね】
『マジでありえねぇ』
(お願い……そんなこと、言わないで!)
【今までの蛮行のツケよ。因果応報、自業自得、身から出た錆ってとこかしら】
切れ味の悪いナイフで、全身の肉を削がれたかのような痛みが走る。
辛かった。
悲しかった。
そして、なによりも怖かった。
もう、これ以上傷つきたくなかった。
私は【現実】に目を背け、その場を逃げ出した。
学園都市内にひっそりと存在する公園。
人工物に溢れたこの学園都市内において、この公園は正に緑のオアシスと言うべき貴重な存在だ。
ヒマを持て余した放課後の学生達を中心に、憩いの場として重宝されており、
それを見越した移動販売業者の威勢の良い掛け声も相まって、非常に活気溢れた場所になる。
しかし、それは日中に限った話。
夜の公園は、僅かな電灯の明かりと木々のざわめきだけが辺りを支配する、静謐かつ不気味な世界と化す。
人が訪れることは殆どなく、訪れるのはスキルアウトか、余程の偏屈者か、はたまた盛りのついたカップルか。
とにかく、まともな人間が正当な理由なく訪れることはほぼあり得ない。
そんな不気味な公園の真ん中に、ぼんやりと浮かぶ白い影。
白い影は宛ら自分の生存を顕示するかのように、時折もぞもぞと珍妙な動きを見せる。
白い影は人間であることを証明するかのように、ブツブツと何かうわ言を発している。
「……………………おなか…………とうま……どこ?」
『ラブストーリーは突然に』やって来るらしいが、失恋も突然にやって来るらしい。
『涙も枯れ果てた』という手垢に塗れた表現の通り、私にはもう涙を流す気力すら残されていなかった。
悲しみに打ちひしがれながら、まるでゾンビのような足取りでふらふらと街を彷徨い歩いた。
どれくらいの時間歩いたのか、どれくらいの距離を歩いたのか、まったく見当もつかなかった。
気付いた時には私はいつもの公園のベンチにぽつねんと座わり、
茫然自失のまま、ぼんやりと街灯の明かりを見つめていた。
「どうしてこうなっちゃったのかな……」
ぽつりと独り言を漏らす。
回答は返って来ず、木々のざわめきと遠くを走る車の走行音だけが無機質にこだまするだけだった。
そして、回答が返って来なくても、
『どうしてこうなったのか』
という原因は明らかだった。
当麻に振られた原因は、ただ一言
『私が素直になれなかったから』
に尽きる。
私は怖かった。
自分のこころを曝け出すことが、
当麻にその感情を拒絶されるのが、
何よりも、当麻との関係が壊れるのが。
私の中の尊大な自尊心は、感情が露呈するのを拒み、
私の中の臆病な羞恥心は、当麻からの拒絶を恐れた。
結果、慕情の高まりに反比例し、口を衝いて出るのは耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言ばかりだった。
普通の人なら、とっくの昔に愛想を付かされているような振る舞いにも、
当麻はため息をつきながら付き合ってくれていたのだ。
そして、私は当麻のその優しさに安寧していたのだ。
勇気を振り絞って当麻に想いを告げようともせず、
かといって、ぬるま湯に浸ったようなこの関係に終止符を打とうともせず。
あるがままに『現状維持』だけを求め続けた。
まるで小学生の夏休みの宿題のように、
「明日があるさ」
を念仏のように唱え続けながら。
この現状は、自堕落なモラトリアムがもたらした結果だ。
誰のせいでもない、誰のせいにも出来ない、私の恐れ、甘え、驕りが生み出した結果だ。
これを自業自得と言わずして何と言おうか。
枯れ果てたと思った涙が、再び溢れ出した。
『ぎゅうううううううううううううううううううううううっ!』
…
…
…
ホルスタインの首根っこを思いっきり雑巾しぼりしたかのような爆音が轟いた。
あまりの衝撃に、出かかった涙が亀の首のように一瞬で引っ込んでしまった。
思わず立ち上がり、ミーアキャットのような仕草で辺りを見渡すと、
10メートル程先にぼんやりと白く輝く物体が横たわっているのを認めた。
「あんた、何やってんの?」
「……たんぱつ………おなか…………………」
異音の正体は、白い修道服を身に纏った少女だった。
科学と魔術が交差する時、何が起きるのだろう?