学舎の園脱出作戦 4
(なに・・・・・・これ)
上条と別れた美琴が見たのは、道端に倒れている数人の警備員だ。
出血はしているものの、軽傷であり気絶しているだけのようだ。
警備員の他にも電磁波で確認が出来る気配も1つだけ。それは明らかに美琴からは目視できない位置にいる。
「いるんでしょ?目的は知らないけど、出てきなさい」
「アッチャー、バレチャッタカー」
明らかな棒読みのセリフをはきながら出てきたのは上条と同じくらいで、何処にでもいそうなカジュアルな格好の金髪の少女だった。その手には何もなかったが、洋服の中にナイフや針などを隠しているのが能力でわかる。
「マ、バレるのもわかってたしー。超電磁砲が私の目の前に現れてくれたんだから、暇つぶしの犠牲になった彼らもうかばれるでしょ」
「ふざけてんの?」
睨む美琴を少女は鼻で笑う。
「なーに怒ってんのさ。笑ったほうがいいってー」
少女のニヤケ顔に美琴は更にイラつく。
右足を前にだし構え、ポケットの中のコインを掴む。
「人生最後の表情は、笑ってたほうがいいでしょ?」
少女は懐のナイフを投げる。それは1本から5本に分裂するが、美琴は電撃を纏わせた手で弾く。
「これも『講習』の通りね。じゃあこれは?!!」
今度投げたのは石でできたナイフだ。
磁力を操作することを読まれているのだろう。
ナイフを避けようとするもナイフが頬を切り裂き、傷口から血が垂れる。
「ちゃんと避けなよ。綺麗な顔が台無しだよ?」
「いちいち癇に触るわね!!」
腕を伸ばし電撃を出す。
少女がポーチから木の札を取り出し放り投げると、電撃は木の札へ、まるで避雷針の役割がしたかのようにそれていった。
「っ!だったら!!」
美琴がポケットから取り出しのは美琴がよく行くゲームセンターのコイン。
それを構え、彼女が『超電磁砲』と呼ばれる由来が放たれた。
だが、
だが!
だが!!
「さっきのでわかんないかなー。対策はできてんの」
直接狙ったわけではない。
けれども超電磁砲の衝撃さえ気にしない様子で、少女はその場所に立っていた。
(一体どうなってんだよ!?)
学舎の園から脱出出来たかと思えば今度は駆動鎧の集団だ、
上条の右手は魔術や超能力。異能の力にしか通用しない。
科学に対して特別な知識があるわけでもない。
美琴や一方通行の様に他者を圧倒する力もない。
辺りに奴らに対抗できる武器もない。
勝ち目など、何一つ無い。
だから彼に出来ることはただ一つ。
(逃げる!!)
幸いシェルターをひっくり返すショットガン等の射撃武器はなく、武装と言えば物を掴む為に付けられたであろう3つのアームだけだ。
路地裏に逃げ込めばあの巨体も入れまい。
走る。ただ走る。
ただの時間稼ぎだが、あのまま殺されるよりはましだ。
(っ、やばい!)
息も絶え絶えで着いたのは突き当たり。
後ろからは足音がする。
曲がり角から出てきたのは30代後半と思われる男性だ。
ヘッドマイクと拳銃を身に付け、無精髭を生やしたその男は兵士というよりも、日本のどこにでもいそうなサラリーマンに見えた。
「諦めろ。だが仕事とは言え子供を殺すのは忍びないな・・・・・・そうだな、手を組まないか?」
「・・・・・・は?」
「その右手だけじゃない。学園都市の能力開発を受けたってだけでもこっちには欲しい人材なんだよ。素直に言うことを聞いてくれれば人間らしくいさせてやるように上に掛け合ってやる」
今の話やあの駆動鎧から察するに、学園都市の元外部協力企業だろうか。
命は大事だ。
だが、そんな事で妥協することなど上条には出来ない。
「嫌だと言ったら?」
「ここで死んでもらう」
男は拳銃を上条へ向ける。
もう無理だと諦めたその時、男は突然慌てだした。
男のヘッドマイクのスピーカーから音が微かに漏れている。
『た、隊長、助け――!!』
『何なんだよこの化け物!!』
先ほどの駆動鎧からか。
スピーカーから漏れる轟音はものの十数秒で無くなった。
そして悪魔の声がスピーカーから聞こえた。
『よォクソ野郎。覚悟は出来てンだろォなァ?。居場所は分かってんだ。今の内に神様にでもお祈りしとけ』
「くっ!!」
「いいのかなー?上条当麻はほっといて」
「どういうことよ」
「こうして君が私に気を取られてる間にー。あっちもパワードナントカってのが向かってるハズなんだよなー」
駆動鎧。上層部か、外部の元協力企業が絡んでいるのか。
あの馬鹿の能力は今だにわからない。けれども機械が相手ではあの馬鹿に勝ち目はない。
一刻も早く駆けつけなければいけないが、電撃は弾かれる。磁力を使って逃げようと思えど、相手はどんな隠し球を持っているかわからない。
もう一度、美琴はコインを取り出す。
「今度は、当てるわよ。大人しく私を行かせなさい」
「だから対策は出来てんの。やりたきゃやれば?」
「っ!このぉー!!」
再び超電磁砲を放つ。しかし目の前の敵を直接狙うことは出来なかった。
「こんな時でも殺そうと出来ないなんて、甘いよ」
少女はやはり、その場から一歩も動いていなかった。
「ま、だからってこっちが手加減する理由にはなんないけどね!」
少女は再びポーチからナイフを取り出し、美琴目掛けて投げつけた。
美琴は電撃で弾こうとするが、電撃が美琴の意としない、少女がナイフと連続で投げた木の札へと向かう。
磁力で自分を操作しても間に合わない。
だが、ナイフが美琴の心臓に突き刺さる前に、ナイフは謎の光に晒され、奇妙な印が刻まれ、刃と柄と留め金と、綺麗に分解され、地に落ちた。
「御坂さん。確かに貴女は甘いです」
突然、少女から美琴を庇う様に、その声の主は現れた。
振り返った声の主は好青年と呼べる端正な顔で、その顔に似合うスーツを着ていた。
見覚えるのあるその少年は振り返り、優しく美琴に微笑みながら言った。
「ですが自分は、それが御坂さんの魅力だと思いますよ」